説明

薄膜の製造方法及び薄膜が形成された基材、電子放出材料及びその製造方法並びに電子放出装置

【課題】カーボンナノファイバーが均一に分散された薄膜の製造方法及び薄膜が形成された基材、電子放出材料及びその製造方法並びに電子放出装置を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程と、炭素繊維複合材料を溶剤中に溶解してカーボンナノファイバーが懸濁した塗布液100を得る工程と、塗布液100を基板60上に塗布して薄膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造方法及び薄膜が形成された基材、電子放出材料及びその製造方法並びに電子放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノファイバーを電磁気用デバイスに応用する研究が行なわれている。
【0003】
例えば、基板上にカーボンナノファイバーを直接生成させて薄膜を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このように基板上にカーボンナノファイバーを直接生成させる方法では、大きさや形状が制限され、製造効率も低く、製造された基板も高価なものとなってしまう。
【0005】
また、例えば、カーボンナノファイバーを含む分散液をスプレー塗布することにより薄膜を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、通常カーボンナノファイバーは凝集した粉体状もしくは束(バンドル)状に製造されるため、分散液に均一に分散せず、製造された薄膜におけるカーボンナノファイバーの分散性を向上させることは困難であった。
【0007】
また、近年、省エネルギー化の要求から薄型テレビなどのディスプレイ(FED)や平面照明装置として、電界を印加することによって電子を放出させる電子放出装置が提案されている。電子放出装置は、低電界における電子放出と、高電流密度と、長寿命と、が要求される。しかしながら、このような電子放出装置の電子放出材料として提案されているカーボンナノファイバーは、低電界で高い電流密度を達成することができるが、電子放出時に破壊されるため、寿命が短かいことがわかった(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−349307号公報
【特許文献2】特開2003−121892号公報
【特許文献3】特開2003−77386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノファイバーが均一に分散された薄膜の製造方法及び薄膜が形成された基材、電子放出材料及びその製造方法並びに電子放出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる薄膜の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程と、
前記炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得る工程と、
前記塗布液を基材上に塗布して薄膜を形成する工程と、
を含む。
【0010】
本発明の薄膜の製造方法によって得られた基材においては、基材上にカーボンナノファイバーが均一に分散された薄膜が形成される。これは、炭素繊維複合材料を得る工程において、エラストマーの不飽和結合または基が、カーボンナノファイバーの活性な部分、特にカーボンナノファイバーの末端のラジカルと結合することにより、カーボンナノファイバーの凝集力を弱め、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができるためである。このように均一にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料を溶剤中に溶解すると、カーボンナノファイバーが懸濁した塗布液が得られる。これは、カーボンナノファイバーとエラストマーとの濡れがよいため、溶剤に沈殿することなく、塗布液中にカーボンナノファイバーが均一に懸濁するためである。この塗布液を基材上に塗布することによって、カーボンナノファイバーが均一に分散された薄膜を基材に形成することができる。
【0011】
本発明にかかる薄膜は、電子スピン共鳴分光装置によって測定された4.5ケルビンにおける炭素の不対電子のシグナルのg値が2.000以上2.002未満とすることができる。金属におけるg値は2.000であるので、このようなg値とすることで本発明にかかる薄膜が金属に近い電気伝導性を有することができる。さらに、本発明にかかる薄膜は、電子スピン共鳴分光装置によって測定された4.5ケルビンにおける炭素の不対電子のシグナルの線幅が300μT以上とすることができる。このような線幅においては、本発明にかかる薄膜はカーボンナノファイバーが均一に分散され、金属のような電気伝導性を有することができる。
【0012】
本発明に用いられるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよいが、ゴム系エラストマーの場合、カーボンナノファイバーの混合し易さから未架橋体が好ましい。本発明に用いられるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒であることが好ましい。また、本発明に用いられるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。
【0013】
本発明の薄膜の製造方法によれば、
前記エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、
(a)ロール間隔が0.5mm以下の薄通しが行われるオープンロール法、
(b)密閉式混練法、
(c)多軸押出し混練法、などを用いて行うことができる。
【0014】
本発明にかかる電子放出材料は、前記薄膜の製造方法によって得られた薄膜からなる。
【0015】
本発明にかかる電子放出材料は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなる。
【0016】
本発明の電子放出材料によれば、カーボンナノファイバーをエラストマーで包み込むことで、長寿命でありながら、低電界における電子放出を可能とすることができる。また、本発明の電子放出材料は、エラストマーをマトリクスとしながら、金属に近い電気伝導性を有するので、電子注入が可能である。さらに、エラストマーをマトリクスとしているため、電子放出材料の形態の自由度が高く、多くの用途に柔軟に対応可能である。
【0017】
本発明にかかる電子放出材料の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程を含む。
【0018】
本発明の電子放出材料の製造方法によれば、エラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散された炭素繊維複合材料からなる電子放出材料が得られる。また、この製造方法によれば、エラストマーをマトリクスとしながらも金属のような電気伝導性を有すると共に、効率よく電子放出可能な電子放出材料を得ることができる。
【0019】
本発明にかかる電子放出装置は、電子放出材料を含む陰極と、
前記陰極から所定の間隔をあけて配置された陽極と、
を具備し、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することで前記電子放出材料から電子を放出する。
【0020】
本発明にかかる電子放出装置によれば、長寿命でありながら省電力化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態にかかる薄膜の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程と、前記炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得る工程と、前記塗布液を基材上に塗布して薄膜を形成する工程と、を含む。
【0023】
また、本実施の形態にかかる基材は、カーボンナノファイバーが均一に分散された薄膜が形成される。
【0024】
本実施の形態にかかる電子放出材料は、前記薄膜の製造方法によって得られた薄膜からなる。
【0025】
本実施の形態にかかる電子放出材料は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなる。
【0026】
本実施の形態にかかる電子放出材料の製造方法は、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程を含む。
【0027】
本実施の形態にかかる電子放出装置は、前記電子放出材料を含む陰極と、前記陰極から所定の間隔をあけて配置された陽極と、を具備し、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することで前記電子放出材料から電子を放出する。
【0028】
エラストマーは、例えば、カーボンナノファイバーと親和性が高いことの他に、分子長がある程度の長さを有すること、柔軟性を有すること、などの特徴を有することが望ましい。また、エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、できるだけ高い剪断力で混練されることが望ましい。
【0029】
(I)まず、エラストマーについて説明する。
【0030】
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0031】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバー相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0032】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0033】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0034】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかる炭素繊維複合材料は中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0035】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバー、特にその末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0036】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。
【0037】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特にエチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)においてカーボンナノファイバーを分散させにくいことが本願発明者等によって確認されている。
【0038】
(II)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
【0039】
カーボンナノファイバーは平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましく、カーボンナノファイバーはストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
【0040】
カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できる。例えば、後述する電子スピン共鳴(ESR)分光装置によって測定された4.5ケルビンにおける炭素の不対電子のシグナルのg値が2.000以上2.002未満とするためには、マルチウォールカーボンナノファイバーの場合、炭素繊維複合材料100体積%中10〜40体積%の含有量とすることが好ましい。また、シングルウォールカーボンナノファイバーを用いた場合には、4.5ケルビンにおける炭素の不対電子のシグナルのg値を2.000以上2.002未満とするためには、炭素繊維複合材料100体積%中0.2〜40体積%以上の含有量とすることが好ましい。本実施の形態の炭素繊維複合材料は、架橋体エラストマー、未架橋体エラストマーあるいは熱可塑性ポリマーをそのままエラストマー系材料として用いることができる。
【0041】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0042】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0043】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0044】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0045】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0046】
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0047】
電子放出材料に用いられるカーボンナノファイバーとしては、平均直径が100nm未満の単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2層カーボンナノチューブ(DWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)が好ましく、特に、電子放出性能はDWNTが優れている。また、電子放出材料に用いられるカーボンナノファイバーとしては、平均長さが20μm程度が好ましく、炭素繊維複合材料中のカーボンナノファイバーの充填率は0.1〜40体積%が好ましい。
【0048】
(III)次に、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程について説明する。
【0049】
本実施の形態では、エラストマーに金属粒子及びカーボンナノファイバーを混合させる工程として、ロール間隔が0.5mm以下の薄通しを行なうオープンロール法を用いた例について述べる。
【0050】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば1.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。
【0051】
まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内にカーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させると、エラストマーとカーボンナノファイバーの混合物が得られる。この混合物をオープンロールから取り出す。さらに、第1のロール10と第2のロール20の間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔に設定し、得られたエラストマーとカーボンナノファイバーの混合物をオープンロールに投入して薄通しを行なう。薄通しの回数は、例えば10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0052】
このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーがエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。
【0053】
また、カーボンナノファイバーの投入に先立って、金属もしくは非金属の粒子をバンク32に投入しておくと、ロールによる剪断力は金属粒子のまわりに乱流状の流動を発生させ、カーボンナノファイバーをエラストマー30にさらに分散させることができる。
【0054】
また、この工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。なお、エラストマーとしてEPDMを用いた場合には、2段階の混練工程を行なうことが望ましく、第1の混練工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、EPDMとカーボンナノファイバーとの混合は、第2の混練工程より50〜100℃低い第1の温度で行なわれる。第1の温度は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の第1の温度である。ロールの第2の温度は、50〜150℃の比較的高い温度に設定することでカーボンナノファイバーの分散性を向上させることができる。
【0055】
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0056】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、既に述べた密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。
【0057】
上述したエラストマーにカーボンナノファイバーを分散させて混合させる工程(混合・分散工程)によって得られた炭素繊維複合材料は、架橋剤によって架橋させて成形するか、もしくは架橋させずに成形することができる。
【0058】
エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
【0059】
図5は、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料を模式的に示す断面図である。前記工程によって得られた本実施の形態の炭素繊維複合材料1は、基材(マトリックス)であるエラストマー30にカーボンナノファイバー40が均一に分散されている。カーボンナノファイバー40の周囲には、エラストマー30の一部が混練中に分子鎖切断され、それによって生成されたフリーラジカルがカーボンナノファイバー40の表面をアタックして吸着したエラストマー30の分子の凝集体と考えられる界面相36が形成される。界面相36は、例えばエラストマーとカーボンブラックとを混練した際にカーボンブラックの周囲に形成されるバウンドラバーに類似するものと考えられる。このような界面相36は、カーボンナノファイバー40を被覆して保護し、また、界面相36同士が連鎖することで界面相36に囲まれてナノメートルサイズに分割されたエラストマーの小さなセル34を形成する。界面相36は、カーボンナノファイバー40を被覆することで電子放出によるカーボンナノファイバー40の破壊を防ぐと考えられ、寿命の改善された電子放出材料を得ることができる。本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、後述する薄膜の形態で電子放出材料として用いることもできるし、用途によって他の形態でも電子放出材料として用いることも可能である。例えば、オープンロール法によって得られたシート状でもよいし、本工程で得られた炭素繊維複合材料を、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法などで複雑な形状としてもよいし、押出成形法、カレンダー加工法などによってシート状、角棒状、丸棒状などの連続形状品として成形してもよい。また、炭素繊維複合材料のエラストマーは、架橋してもよいし、無架橋であってもよい。
【0060】
カーボンナノファイバーは、通常、相互に絡み合って媒体に分散しにくい性質を有するが、本実施の形態の炭素繊維複合材料においては、カーボンナノファイバーがエラストマーに既に分散した状態で存在するので、これを原料として溶剤中に溶解するなどすることでカーボンナノファイバーを媒体に容易に分散させることができる。
【0061】
(IV)次に、炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得る工程について説明する。
【0062】
本実施の形態にかかる塗布液を得る工程は、炭素繊維複合材料と溶剤とを混合させる。本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーとエラストマーとの濡れがよいため、溶剤中に溶解させても沈殿しない。これは、カーボンナノファイバーが、溶解したエラストマー分子に絡まったままの状態で塗布液中に均一に懸濁するためである。しかも、カーボンナノファイバーは、界面相に覆われたまま塗布液中に存在する。
【0063】
この工程で用いられる溶剤は、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系やシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系などの溶媒の1種以上を含むものをエラストマーの種類によって適宜選択することができる。溶剤としては、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シンナー(混合溶剤)、エチレングリコール、モノエチルエーテル(別名セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)、オルト−ジクロロベンゼン、クロルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロルエタン(別名二塩化エチレン)、1,2−ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン)、1,1,2,2−テトラクロルエタン(別名四塩化アセチレン)、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロルエチレン(別名パークロルエチレン)、トリクロルエチレン、1,1,1−トリクロルエタン、二硫化炭素、ノルマルヘキサン、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、オルト−ジクロルベンゼン、キシレン(オルト)、キシレン(メタ)、キシレン(パラ)、クレゾール(オルト)、クレゾール(メタ)、クレソール(パラ)、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、1,4−ジオキサン、ジクロルメタン、テトラヒドロフラン、ノルマルヘキサン、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチルブチルケトン、工業ガソリン、コールタールナフサ(ソルベントナフサ)、石油エーテル、石油ナフサ(軽質)、石油ナフサ(重質)、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリットなどの有機溶剤などから適宜エラストマーに合わせて選択することができる。例えば、炭素繊維複合材料のエラストマーが天然ゴム(NR)やスチレン系(SBS)の場合にはトルエン、EPDMの場合にはシクロヘキサンが用いられる。
【0064】
(V)次に、塗布液を基材上に塗布して薄膜を形成する工程について説明する。
【0065】
本実施の形態にかかる塗布液を基材上に塗布して薄膜を形成する工程は、基材上に塗布液を均一の厚さに塗布する方法を採用することができる。そのような塗布する方法としては、スピンコート法、ディッピング法、静電塗装などのスクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法から選ばれる方法によって実施されることが好ましい。さらに、このようにして塗布された塗布液は、減圧恒温炉中で凍結乾燥や熱処理乾燥、あるいは紫外線などによる硬化によって薄膜を形成する。薄膜の膜厚は、薄膜の成形方法によって異なるが、例えば0.5〜10μmが好ましい。
【0066】
本実施の形態では、塗布液を基材上に塗布する工程として、スピンコート法を用いた例について述べる。
【0067】
図2に示すように、基材として例えば円盤状の基板60をモータ80に連結された基板支持台70上に設置した後、基板支持台70に設けられた図示せぬ真空吸着手段により真空吸着して保持し、モーター80により基板支持台70と基板60とを例えば2000rpmで回転させる。そして、回転した基板60上に塗布ノズル90から上記(e)で得られた塗布液100を滴下して基板60の全面に均一に塗布し、減圧恒温槽中で展開液を凍結乾燥し、基板60上に薄膜を形成する。
【0068】
基板60としては、金、銅、アルミニウムなどの金属、シリコンウエハなどの半導体、ガラス、高分子材料などを用いることができる。
【0069】
上記(d)で得られた塗布液には、カーボンナノファイバーが沈殿することなく均一に懸濁しているため、スピンコート法によって基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。
【0070】
(VI)次に、基材に形成された薄膜について説明する。
【0071】
本実施の形態にかかる製造方法で基材に形成された薄膜は、カーボンナノファイバーが均一に分散されている。本実施の形態にかかる薄膜は、電磁気材料や電子放出材料として用いることができる。
【0072】
薄膜におけるカーボンナノファイバーの分散の状態は、薄膜をパルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行うことで判定できる。
【0073】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、薄膜のスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、薄膜は固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、薄膜は柔らかいといえる。
【0074】
薄膜は、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる薄膜の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。なお、架橋体の薄膜におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
【0075】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より大きくなる。
【0076】
以上のことから、本実施の形態にかかる薄膜は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0077】
すなわち、未架橋の薄膜において、110℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、第1のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fn)は0.95以上であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.05未満であることが好ましい。
【0078】
また、本実施の形態にかかる薄膜におけるカーボンナノファイバーの分散の状態は、薄膜を電子スピン共鳴(以下、ESR)分光装置を用いて線幅の測定を行うことで判定することもできる。さらに、ESR分光装置を用いて炭素の不対電子のシグナルのg値を測定することで、本実施の形態にかかる薄膜の電磁気的特性も判定することができる。
【0079】
ESR分光装置は、不対電子(スピン)にマイクロ波を照射し、その吸収をスペクトルとして観測することができる。
【0080】
ESR分光装置によって測定されるg値とは、不対電子を持つフリーラジカルが一定の強さの磁場のもとで作り出すエネルギー場とマイクロ波を吸収するときの見かけの指標である。g値が大きいほど大きな共鳴エネルギーを吸収することになり、フリーラジカルを特徴づける値である。また、ESR分光装置によって測定される線幅とは、不対電子同士の相互作用を示す指標である。なお、ESR分光装置による炭素の不対電子のシグナルのg値及び線幅の測定は、伝導電子の信号が検出されない温度4.5ケルビン(K)で行なわれる。
【0081】
本実施の形態にかかる薄膜は、電子スピン共鳴分光装置によって測定された4.5ケルビン(K)における炭素の不対電子のシグナルのg値が2.000以上2.002未満であることが好ましい。金属におけるg値は2.000であるので、このような範囲のg値とすることで本発明にかかる薄膜は金属に近い電気伝導性を有していることがわかる。
【0082】
このような薄膜の電気伝導性について、図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4は、薄膜中のカーボンナノファイバーの状態と電気伝導を模式的に示す図である。
【0083】
通常、エラストマー中にカーボンナノファイバーが凝集して存在する場合、図3に示すようなカーボンナノファイバー側面を流れる電気伝導(図3における矢印50)とカーボンナノファイバーの内部を流れる電気伝導(図3における矢印52)があると考えられる。このような状態においては、カーボンナノファイバー側面を流れる電気伝導(図3における矢印50)が主体となるため、ESR分光装置による炭素の不対電子のシグナルのg値は2.0023となる。
【0084】
しかし、本実施の形態にかかる薄膜のようにカーボンナノファイバーが均一に分散されていると、図4に示すようなカーボンナノファイバーの内部を流れる電気伝導(図4における矢印52)が主体となり、またカーボンナノファイバー同士が接触している箇所で電気伝導(図4における矢印53)もあり、全体として金属(g値が2.000)に近い電気伝導性を有することができる。
【0085】
さらに、上述したg値を有する本発明にかかる薄膜は、電子スピン共鳴分光装置によって測定された4.5ケルビン(K)における炭素の不対電子のシグナルの線幅が300μT以上であることが好ましい。このような線幅においては、本発明にかかる薄膜はカーボンナノファイバーが均一に分散され、金属のような電気伝導性を有していることがわかる。
【0086】
さらに、薄膜においては引張強度が大きいことが好ましいが、本発明にかかる薄膜は、原料エラストマーよりも引張強度が向上し、カーボンナノファイバーの含有量を増やすことで引張強度も向上することができる。
【0087】
本実施の形態にかかる薄膜は、しきい値電界が4V/μm以下であって、飽和電流密度が10mA/cm以上の高効率の電子放出材料である。本実施の形態にかかる薄膜によれば、カーボンナノファイバーをエラストマー、特に界面相で包み込むことで、長寿命でありながら、低電界における電子放出を可能とすることができる。また、本実施の形態にかかる電子放出材料は、エラストマーをマトリクスとしながら、金属に近い電気伝導性を有するので、電子注入が可能である。さらに、エラストマーをマトリクスとしているため、電子放出材料の形態の自由度が高く、多くの用途に柔軟に対応可能である。また、薄膜を構成するエラストマーは、架橋してもよいし、無架橋であってもよい。
【0088】
(VII)最後に、電子放出装置について説明する。
図6は、本実施の形態にかかる電子放出装置を用いたフィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)110の構成を示す模式図である。フィールド・エミッション・ディスプレイ110は、前記工程で得られた薄膜(電子放出材料)2が電極基板60上に形成された陰極8と、ゲート電極4を挟んで、陰極2から所定の間隔をあけて対向配置されたガラス基板5と、を例えば真空気密容器中に有している。ガラス基板5の陰極2側には陽極6及び蛍光体7が積層して形成されている。したがって、フィールド・エミッション・ディスプレイ110は、薄膜2を含む陰極8と、陽極6と、陰極8と陽極6との間に配置されたゲート電極4と、を具備する、電子放出装置を含む。
【0089】
陰極8とゲート電極4間へ電圧を印加すると、電子放出材料で形成された薄膜2のゲート電極4側の表面から陽極6へ向かって電子(e)を放出する。陰極8から放出された電子(e)は、陽極6に向かって進行し、蛍光体7に当たることによって生じる発光を利用して像を表示することができる。陰極8の薄膜2の表面は、エッチングなどによって表面処理されることで、突起状の電子放出部としてのエミッタを形成してもよいし、エッチングしなくても表面全体が電子放出材料の薄膜2で形成されているためエミッタとして機能することができる。
【0090】
このような電子放出装置は、薄膜2の全体に分散されたカーボンナノファイバーによって電子放出効率が高く、薄膜2が金属と同等の電気伝導性を有するので電子注入が容易である。また、カーボンナノファイバーは、エラストマー特に界面相に覆われているため、長寿命である。
【0091】
このようにして得られた電子放出材料及び電子放出装置は、フィールド・エミッション・ディスプレイの他、各種用途に用いることができる。例えば、電極基板の表面全体を発光させることで、面発光体(面蛍光体)としてもよいし、あるいは蛍光ランプ、電子顕微鏡、プラズマディスプレイなどの熱陰極動作または冷陰極動作による放電を利用する各種電極として用いることができる。
【0092】
図7〜図12は、本実施の形態にかかる電子放出材料を用いた照明装置の構成を示す縦断面模式図である。
【0093】
図7の平面照明装置200は、前記工程で得られた炭素繊維複合材料(電子放出材料)を電極基板として形成した陰極160と、陰極160から所定の間隔をあけて配置された蛍光色素膜130が陰極160側に形成されたガラス板120と、ガラス板120と陰極160との間隔を決めるスペーサ150と、ガラス板120と陰極160との間に形成されたグリッド(陽極)140と、を具備する。ガラス板120、グリッド140、陰極160は、例えば四角形の平板状であり、グリッド140は打抜きや電鋳などにより形成された複数の微小孔を持つ金属板である。ガラス板120は、透明で、陰極160側の表面にスクリーン印刷などの方法で塗布されている。一定厚さのスペーサ150は、その平板状ガラス板120と陰極160の外周端部に配置され、かつガラス板120と陰極160とで挟み込まれ、ガラス板120と陰極160との間に気密な真空状態の空間180を形成する。また、グリッド140の外周端部は、スペーサ150の中間部分に挟み込まれて固定されている。陰極160とグリッド140間へ電圧を印加すると、電子放出材料で形成された陰極160のグリッド140側の表面からガラス基板120へ向かって電子が放出され、グリッド140の複数の微小孔を通過する。陰極160から放出され、グリッド140の微小孔を通過した電子は、陽極120に向かって進行し、蛍光色素膜130に当たることによって発光し、照明装置となる。陰極160とガラス板120の間の空間は、真空でもよいが、例えばアルゴンガスなどの所定のガスを封入してもよい。また、ガラス板120は、本実施の形態のように透明でもよいが、既存の照明装置と同様に着色されていてもよい。
【0094】
また、図8の平面照明装置202においては、例えばアルミニウムなどで形成された基板170上に陰極薄膜162を形成している以外は、図7の実施例と同様である。陰極薄膜162は、前記工程で説明した、基板170上に薄く塗布して得られた薄膜162である。
【0095】
図9の平面照明装置204は、図7のグリッドをなくして、陽極124が陰極160側の表面に形成された透明なITOガラス板122を有する以外は、図7の実施例と同様である。ITOガラス板122を用いた場合には、蛍光色素膜130はITOガラス122の陰極160側表面に形成された陽極124の上にスクリーン印刷などの方法で塗布される。つまり、ITOガラス板122を用いた場合には、陽極124はガラス板122の本体と蛍光色素膜130との間に配置することになる。したがって、陽極124と陰極160との間へ電圧を印加すると、電子放出材料である陰極160の表面からITOガラス板122へ向かって電子を放出し、蛍光色素130に当たって発光する。なお、ITOガラス板122の替わりに、透明なガラス板にスクリーン印刷で蛍光色素膜を塗布した上に、真空蒸着法などでアルミニウム薄膜の陽極を形成させてもよい。
【0096】
図10の平面照明装置206は、図6に示したフィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)110と同様の構成であって、図9のITOガラス122と陰極160との間にグリッド140を追加した構成である。このように、平面照明装置200〜206は、薄板状であり、省電力で発光するため、建物の内壁材の一部として施工することも可能である。
【0097】
図11の曲面照明装置208は、ITOガラス板122、グリッド140、陰極162、基板170が部分的に曲面を形成している。このように、電極などを曲面に形成することで照明装置の形状を自由に設計することが可能である。したがって、住宅などにおける照明装置の形状の自由度が高くなる。なお、蛍光色素膜130は、照明装置として多く用いられる白色蛍光色素が好ましいが、必要に応じて他の色の蛍光色素を選択してもよい。
【0098】
図12の管状照明装置210は、横断面円形のいわゆる蛍光灯型の照明装置であって、図11の曲面照明装置208と基本的な構成は同じである。ITOガラス板が管状に形成されたガラス外囲器121は、内周面に陽極124が形成され、その上に蛍光色素膜130が形成されている。ガラス外囲器121の両端は、口金152,152によって密封され、密閉された空間180を真空状態に保持する。管状照明装置210の中心には長細い円柱状の電極棒172が配置され、電極棒172の両端は口金152,152に固定されている。電極棒172の外表面は陰極薄膜162で覆われ、さらに陰極薄膜162から所定の間隔を隔てて管状に配置されたグリッド140が電極棒172を取り囲んでいる。したがって、グリッド140と陰極薄膜162との間へ電圧を印加すると、電子放出材料で形成された陰極薄膜162の表面からグリッド140へ向かって放射状に電子を放出し、グリッド140の微小孔を通過した電子が蛍光色素膜130に当たって管全体が発光する。特に、管状照明装置210は、現行の蛍光灯と同様の形態でありながら、管内部に水銀を含んでおらず、リサイクル性のよい照明装置である。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
(1)サンプルの作製
(a)炭素繊維複合材料の作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1、2に示す所定量(100g)のエラストマーを投入して、ロールに巻き付かせた。
第2の工程:次に、表1、2に示す量(体積%)のカーボンナノファイバー(表1では「MWNT」、表2では「SWNT」と記載する)をエラストマーに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
第3の工程:カーボンナノファイバーを投入し終わったら、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物をロールから取り出した。
第4の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
第5の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
なお、表1〜4における「MWNT」は平均直径13nmのILJIN社製マルチウォールカーボンナノチューブであり、表2、4における「SWNT」は平均直径1nmのILJIN社製シングルウォールカーボンナノチューブであった。表1〜4における「E−SBS」はエポキシ含有量1.7wt%、スチレン含有量40wt%のスチレン−ブタジエンブロック共重合体であった。
また、実施例4のEPDMにおいては、カーボンナノファイバーの分散性を向上させるため、第4の工程におけるロール温度を100℃とし、20分間の混練を行なった。
【0101】
このようにして、実施例1〜10の炭素繊維複合材料を得た。また、比較例1として、カーボンナノファイバーの代わりに平均直径28μmの炭素繊維(表1では「CF」と記載する)を用い、比較例2として、カーボンナノファイバーの代わりに平均粒径28nmのHAFグレードのカーボンブラック(表1では「HAF−CB」と記載する)を用いて炭素繊維複合材料を得た。
【0102】
(b)塗布液の作成
実施例1〜10及び比較例1、2で得られた炭素繊維複合材料1gを溶剤100gに投入し、攪拌して溶解させて塗布液を得た。
溶剤としては、実施例1〜4、6、7〜10及び比較例1、2の天然ゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合体に対してはトルエンを用い、実施例5のEPDMに対してはシクロヘキサンを用いた。
また、比較例3は、炭素繊維複合材料を作ることなく、エラストマー50gを直接トルエン100gに溶解させ、さらにMWNTを添加して攪拌して塗布液を得た。
【0103】
(c)薄膜の作製
スピンコータ上に設置されたガラス基板を2000rpmで回転させ、前述の(b)において得られた実施例1〜10及び比較例1〜3の塗布液をガラス基板上に滴下して、基板上に塗布液を均一に展開させた。
そして、−70℃の減圧恒温槽中で基板上に展開した塗布液を凍結乾燥させ、ガラス基板上に膜厚5μmの薄膜を形成した。
この薄膜をガラス基板上から剥がし、以下の(2)〜(3)の測定を行なった。
【0104】
(2)パルス法NMRを用いた測定
実施例1〜10及び比較例1〜3の各薄膜について、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は熱劣化を避けるため110℃とした。この測定によって、薄膜の第1スピン−スピン緩和時間(T2n)と、第1のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fn)と、を求めた。測定結果を表1及び表2に示す。
なお、各エラストマー単体における第1スピン−スピン緩和時間(T2n)と第1のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fn)は、表3に示す。
【0105】
(3)引張特性の測定
実施例1〜10及び比較例1〜3の薄膜を用いて1mm厚の試料を作成し、引張強さをJIS K 6521−1993によって測定した。これらの結果を表1、2に示す。
【0106】
(4)ESR分光装置を用いた測定
実施例1〜10及び比較例1〜3の各薄膜について、ESR分光装置を用いて炭素の不対電子のシグナルのg値と線幅(μT:マイクロテスラ)について測定を行なった。この測定は、日本電子(株)「JES−FA」を用いて行なった。試料は、実施例1〜10及び比較例1〜3の各薄膜を約3mgの短冊試料として切り出し、試料管に挿入した。測定条件は、温度4.5K、磁場走引10mT(ミリテスラ)、基準Mn(マンガン)、発振周波数9GHzであった。これらの結果を表1、2に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
表1〜3から、本発明の実施例1〜10によれば、以下のことが確認された。すなわち、カーボンナノファイバーを含む薄膜における110℃でのスピン−スピン緩和時間(T2n/110℃)は、エラストマー単体や比較例3の薄膜の場合に比べて短い。また、カーボンナノファイバーを含む薄膜における成分分率(fn/110℃)は、エラストマー単体や比較例3の薄膜の場合に比べて大きい。これらのことから、実施例にかかる薄膜では、カーボンナノファイバーが良く分散されていることがわかる。
【0111】
また、薄膜の引張特性の結果から、本発明の実施例1〜10によれば、均一に分散されたカーボンナノファイバーを含むことにより、引張強さが向上し、補強効果が得られることが確認された。このことは、実施例1〜10とカーボンナノファイバーの分散が不十分な比較例3とを比較することによりよくわかる。
【0112】
さらに、実施例2〜4のMWNTを用いた薄膜は、ESR特性における炭素の不対電子のシグナルのg値がカーボンナノファイバーの含有量の増加に伴って金属におけるg値である2.000に近づくことがわかった。しかし、実施例1の薄膜は、MWNTの含有量が少ない(0.4体積%)ため、g値は2.0023であった。また、実施例7〜10のSWNTを用いた薄膜は、MWNTよりも少量で同様の傾向が確認された。すなわち、MWNTの薄膜は30体積%の含有量でg値が2.0001となったが、実施例10のSWNTの薄膜はわずか8体積%の含有量でg値が2.0004となった。実施例5,6のようにEPDMやスチレン−ブタジエンブロック共重合体を用いた薄膜でも同様にg値は金属の2.000に近づくことがわかった。比較例3のようにカーボンナノファイバーの分散が不十分な薄膜においては、g値は2.0023であった。
【0113】
また、ESR特性における炭素の不対電子のシグナルの線幅は、実施例2〜10の薄膜においては300μT以上であり、カーボンナノファイバーが均一に分散され、スピン(不対電子)濃度が高いことがわかった。なお、ESR特性における炭素の不対電子のシグナルの線幅は、比較例3のように、カーボンナノファイバーの凝集体における不対電子でも同様の傾向を示すことがあるため、g値が2.000に近いことと合わせてカーボンナノファイバーが分散性を判断した。
【0114】
以上のことから、本発明によれば、一般に分散が非常に難しいカーボンナノファイバーがエラストマーに均一に分散された薄膜が形成されることが明かとなった。カーボンナノファイバーが均一に分散されたことによって、薄膜が金属に近い電気伝導性を得ることがわかった。
【0115】
(実施例11〜19、比較例4、5)
(5)サンプルの作製
(a)炭素繊維複合材料の作製
前記実施例1〜10と同様にして、実施例11〜19の炭素繊維複合材料を得た。また、比較例4として、比較例1と同様に平均粒径27nmのHAFグレードのカーボンブラック(表4では「HAF−CB」と記載する)を用いて炭素繊維複合材料を得た。比較例5として、カーボンナノファイバーを40体積%になるように配合して混練したが、加工できなかった。エラストマー及びカーボンナノファイバーの種類、配合については、表4に示す。なお、表4における「DWNT」は平均直径2nm、平均長さ5μmのダブルウォールカーボンナノチューブであり、実施例1〜10と同じ平均直径を有する「MWNT」及び「SWNT」の平均長さはそれぞれ20μm及び5μmであった。
【0116】
(b)電子放出材料の作製
実施例11〜18及び比較例4で得られた炭素繊維複合材料をロールで圧延後、プレス成形して厚さ1mmのシート形状の電子放出材料サンプルを作製し、銅製の陰極基板上に貼り付けた。また、実施例19の電子放出材料サンプルは、炭素繊維複合材料を5倍量のトルエンに投入し、攪拌して溶解させて塗布液を得て、銅製の基板上にスクリーン印刷法で塗布液を塗布し、乾燥させて、基板上に膜厚0.05mmの薄膜を形成した。実施例14以外の電子放出材料のサンプルは、全て無架橋であった。実施例14の電子放出材料は、(a)の混練において、パーオキサイド2phrを投入し、175℃で20分間プレス架橋した。
【0117】
(6)物性の測定
実施例11〜19及び比較例4の電子放出材料を用いて、引張強さ及び動的貯蔵弾性率(E’)を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0118】
(7)しきい値電界及び飽和電流密度の測定
実施例11〜19及び比較例4の電子放出材料のしきい値及び飽和電流密度を、図9に示した装置で測定した。しきい値の測定は、陽極と陰極の間に徐々に電圧をかけ、電子放出し始める電界(電圧/電極間距離)をしきい値電界とした。飽和電流密度は、陽極と陰極の間に徐々に電圧をかけ、電流密度がほぼ飽和状態になった値を飽和電流密度とした。測定結果を表4に示す。
【0119】
【表4】

【0120】
表4から、本発明の実施例11〜19によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例11〜19は、しきい値電界が2.1〜3.9(V/μm)と低く、特に電子放出材料の表面になんら加工を施さなくてもしきい値電界が低いことが確認された。また、実施例11〜19の電子放出材料の飽和電流密度は高く、良好な電子放出特性を有することがわかった。さらに、電子放出材料のしきい値電界及び飽和電流密度は、架橋の有無に関係なく、また、薄膜やシート状などの形状にもあまり影響されないことがわかった。なお、比較例4のサンプルは、電子放出されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態で用いたスピンコータによる塗布液の塗布を模式的に示す図である。
【図3】凝集したカーボンナノファイバーと電気伝導を模式的に示す図である。
【図4】本実施の形態にかかる薄膜中のカーボンナノファイバーの状態と電気伝導を模式的に示す図である。
【図5】本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料(電子放出材料)の一部を拡大して示す模式図である。
【図6】本実施の形態にかかる電子放出装置を用いたフィールド・エミッション・ディスプレイの構成を示す模式図である。
【図7】本実施の形態にかかる平面照明装置の構成を示す模式図である。
【図8】本実施の形態にかかる平面照明装置の構成を示す模式図である。
【図9】本実施の形態にかかる平面照明装置の構成を示す模式図である。
【図10】本実施の形態にかかる平面照明装置の構成を示す模式図である。
【図11】本実施の形態にかかる曲面照明装置の構成を示す模式図である。
【図12】本実施の形態にかかる管状照明装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0122】
1 炭素繊維複合材料
2 薄膜(電子放出材料)
4 ゲート電極
5 ガラス基板
6 陽極
7 蛍光体
8 陰極
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
34 セル
36 界面相
40 カーボンナノファイバー
50 カーボンナノファイバーの側面を流れる電気伝導を示す矢印
52 カーボンナノファイバーの内部を流れる電気伝導を示す矢印
53 カーボンナノファイバー同士の接触箇所を流れる電気伝導を示す矢印
60 基板
70 基板支持台
80 モーター
90 塗布ノズル
100 塗布液
110 フィールド・エミッション・ディスプレイ
120 ガラス板
121 ガラス外囲器
122 ITOガラス板
130 蛍光色素膜
140 グリッド
150 スペーサ
152 口金
160 陰極
162 陰極薄膜
170 基板
172 電極棒
180 真空状態の空間
200〜206 平面照明装置
208 曲面照明装置
210 管状照明装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程と、
前記炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得る工程と、
前記塗布液を基材上に塗布して薄膜を形成する工程と、
を含む、薄膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記エラストマーは、分子量が5000ないし500万である、薄膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつを有する、薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒である、薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料を得る工程は、オープンロール法を用いてロール間隔が0.5mm以下の薄通しが行われる、薄膜の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記オープンロール法は、2本のロールの表面速度比が1.05ないし3.00である、薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料を得る工程は、密閉式混練法によって行われる、薄膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料を得る工程は、多軸押出し混練法によって行われる、薄膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料を得る工程は、0ないし50℃で行われる、薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかにおいて、
前記薄膜を形成する工程は、スピンコート法、ディッピング法、スクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法から選ばれる、薄膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の製造方法によって得られた薄膜が形成された基材。
【請求項14】
請求項13において、
前記薄膜は、電子スピン共鳴分光装置によって測定された4.5ケルビンにおける炭素の不対電子のシグナルのg値が2.000以上2.002未満である、薄膜が形成された基材。
【請求項15】
請求項14において、
前記薄膜は、電子スピン共鳴分光装置によって測定された4.5ケルビンにおける炭素の不対電子のシグナルの線幅が300μT以上である、薄膜が形成された基材。
【請求項16】
請求項1ないし12のいずれかに記載の製造方法によって得られた薄膜からなる電子放出材料。
【請求項17】
エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなる電子放出材料。
【請求項18】
カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するエラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程を含む、電子放出材料の製造方法。
【請求項19】
請求項16または17に記載の電子放出材料を含む陰極と、
前記陰極から所定の間隔をあけて配置された陽極と、
を具備し、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することで前記電子放出材料から電子を放出する、電子放出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−167710(P2006−167710A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307394(P2005−307394)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】