説明

薄膜発熱体およびその製造方法

【課題】抵抗発熱体は種々の材料ソースあるいは基板加熱などに用いられ、近年あらゆる雰囲気で化学的に安定な発熱体材料が必要とされている。従来、炭化ケイ素、モリブデン、タンタル、タングステンを用いた発熱体が知られているが、薄膜化が困難であり、小さくできない。また形状も、板状、ワイヤー状に限られる場合が多く、熱効率がよい形状が望まれている。
【解決手段】MoSi2の欠点を、RFマグネトロンスパッタリング装置などを用いて、るつぼ等に直接薄膜として堆積させることで改善し、高効率の加熱が可能な薄膜状のMoSi2薄膜発熱体、および、基体にMoSi2薄膜を形成した薄膜発熱器を提供する。薄膜層の劣化を防止するため第1電極と第2電極を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に二珪化モリブデン(MoSi2)を薄膜状に形成してなる薄膜発熱体およびその製造方法に関し、特に発熱部を劣化させることが少ない端子の電極構造を有する薄膜発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
第一の従来技術において、真空蒸着装置やCVD装置などで、抵抗発熱体は種々の材料ソースあるいは基板加熱などに用いられ、近年あらゆる雰囲気で化学的に安定な発熱体材料が必要とされている。従来、炭化ケイ素、モリブデン、タンタル、タングステンを用いた発熱体が知られている。
また、第二の従来技術であるヒータ発熱体は棒状、線状、板状である(例えば、特許文献1参照)。
さらに、第三の従来技術である発熱体として、金属並みの良好な導電性を有する非酸化物セラミックスの一つである二珪化モリブデン(MoSi2)で構成された抵抗発熱体がある。
【特許文献1】特開平8−153568号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、第一の従来技術における発熱体は、薄膜化が困難であり、小さくできない。
【0004】
また、第二の従来技術におけるヒータ発熱体は、被加熱物、加熱用るつぼ(坩堝)等への熱伝達の効率が低く、曲面発熱等が困難である。曲面形状に対応した効率的な加熱が可能な任意の形状の発熱体が望まれている。
【0005】
さらに、二珪化モリブデン(MoSi2)は融点が約2030℃と非常に高く、空気中ではSiC発熱体よりも高温の1800℃程度まで使用可能であるが、常温で脆く高温下で軟化しやすい難点があり、抵抗発熱体としての使用が困難であった。また、高温下で抵抗発熱体に劣化などの影響を及ぼさない端子を設けることも容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のMoSi2の欠点を、RFマグネトロンスパッタリング装置などを用いて、るつぼ等の基体に直接薄膜として堆積させることで改善し、高効率の抵抗加熱を目的としたMoSi2薄膜発熱体であって、発熱部を劣化させることが少ない端子構造を有する薄膜発熱体の提供を可能にする。
具体的には、上記の課題を解決するために、本発明の薄膜発熱体およびその製造方法は、以下のような手段および方法を採用する。
(1)基体、前記基体上に形成した薄膜層、前記薄膜層から所定の距離隔たった部位に形成された第2電極、および、前記薄膜層と前記第1電極を電気的に結合する第1電極を備えた薄膜発熱体。
【0007】
(2)基体、前記基体上に形成した薄膜層、前記薄膜層の一部分と、前記薄膜層に覆われない基体の一部分とを共に覆うように形成された第1電極、および、前記第1電極の前記薄膜層に重ならない領域で、かつ前記薄膜層から所定の距離隔たった部位の上に形成された第2電極を備えた薄膜発熱体。
【0008】
(3)前記第2電極の一部は、前記第1電極の前記薄膜層に重ならない領域で、かつ前記薄膜層から所定の距離以上隔たった部位の上に形成され、かつ、前記第2電極の残部は、前記基体に当接するように形成された(2)記載の薄膜発熱体。
(4)基体、前記基体上に形成した薄膜層、前記基体上に前記薄膜層と隔てて形成した第2電極、および、前記薄膜層の一部分と、前記第2電極の一部分とを共に覆うように形成された第1電極を備えた薄膜発熱体。
【0009】
(5)前記薄膜層は、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドの薄膜、または、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドを主成分とする薄膜より成る(1)から(4)何れか記載の薄膜発熱体。
(6)前記第1電極はモリブデンの薄膜、または、モリブデンを主成分とする薄膜より成る(1)乃至(5)何れか記載の薄膜発熱体。
(7)前記第2電極は膜状である(1)から(6)何れか記載の薄膜発熱体。
(8)前記第2電極は白金薄膜または白金厚膜である(6)記載の薄膜発熱体。
(9)前記第2電極上に端子または引き出し線を設けた(7)または(8)記載の薄膜発熱体。
【0010】
(10)基体、前記基体上に形成した薄膜層、前記薄膜層の一部分を覆うように、または、前記薄膜層の一部分と前記薄膜層に覆われない基体の一部分とを共に覆うように形成された第1電極を備えた薄膜発熱体であって、前記薄膜層は、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドの薄膜、または、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドを主成分とする薄膜より成り、前記第1電極はモリブデンの薄膜、またはモリブデンを主成分とする薄膜より成る薄膜発熱体。
(11)前記第1電極の上に、または、前記第1電極の前記薄膜層に重ならない領域の上にモリブデン、またはモリブデンを主成分とする端子を設けた(10)記載の薄膜発熱体。
(12)前記端子は、引き出し線である(11)記載の薄膜発熱体。
(13)前記薄膜をスパッタリング、真空蒸着、PVC、CVDの何れかにより形成した(1)から(12)いずれか記載の薄膜発熱体。
(14)前記基体は、アルミナ製の基体である(1)から(13)いずれか記載の薄膜発熱体。
(15)前記基体は、BN製またはSBN製の基体である(1)から(14)いずれか記載の薄膜発熱体。
(16)前記基体は、サイアロンまたは窒化珪素製の基体である(1)から(15)いずれか記載の薄膜発熱体。
(17)前記基体は、任意曲面を有する基体である(1)から(16)いずれか記載の薄膜発熱体。
(18)前記基体は、板状である(1)から(17)いずれか記載の薄膜発熱体。
(19)前記基体は、るつぼ形状である(1)から(18)いずれか記載の薄膜発熱体。
(20)前記基体は、棒状である(1)から(19)いずれか記載の薄膜発熱体。
(21)前記基体は、筒状である(1)から(20)いずれか記載の薄膜発熱体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薄膜発熱体によれば、熱伝達効率が高く、昇温速度、降温速度が速く、任意形状の均一面発熱が可能であり、発熱部の劣化が少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の薄膜発熱体は、MoSi2の欠点を、RFマグネトロンスパッタリング装置などを用いて、基体である基板やるつぼ等に直接薄膜として堆積させることにより改善し、高効率の抵抗加熱を可能にしたMoSi2薄膜の薄膜発熱体であって、かつ、薄膜発熱体の劣化をさせることが少ない電極構造、または、端子と電極構造を備えた薄膜発熱体である。MoSi2薄膜を堆積させる基材としては一般的な耐熱材料であるアルミナ、有機ELなどのソース用のるつぼの材料として用いられている窒化硼素BN、SBN、サイアロン、窒化珪素基板などを使用する。さらに、アルミナや窒化珪素、窒化硼素、種々の添加物を添加した窒化珪素、窒化硼素等から作製された基体を使用する。
【0013】
本発明の薄膜発熱体は、基体、前記基体上に形成した薄膜層、前記薄膜層から所定の距離隔たった部位に形成された第2電極、および、前記薄膜層と前記第1電極を電気的に結合する第1電極を備えており、第2電極の材料が薄膜層に浸透するのを第1電極が防止する構造をとる。例えば、本発明の薄膜発熱体は、基体上に形成した薄膜層の端部または端部以外の一部分と、前記薄膜層に覆われない基体の一部分とを覆うように第1電極を形成し、前記第1電極の内、前記薄膜層に重ならない領域の上に第2電極を設けた薄膜発熱体とする。また、第2電極を必要としない構造についても説明する。
以下、本発明の薄膜発熱体の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素が同様の動作を行う場合には、再度の説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
【0014】
図1は、本発明の薄膜発熱体の実施の形態を示す図である。図1(A)は、本発明の薄膜発熱体の平面図、図1(B)は、断面図である。図1において、長方形のアルミナ製の基体である基板10の表面の中央部分に珪化モリブデンMoSi2薄膜層11が設けられる。薄膜層11の左右両端部を覆うように第1電極12が2つ別々に設けられる。第1電極12の一部は、薄膜層11を覆い、残りの部分は、基板10表面に固着している。第1電極12の内、薄膜層11を覆っていない領域の一部を覆うように、第2電極13が2つ設けられる。第2電極13の一部は、第1電極12の一部を覆い、残りの部分は、基板10表面に固着している。2つの第2電極13には、それぞれ引き出し線14が接続される。第1電極12には、モリブデンMoを用いる。第2電極13には、白金Ptを用いる。引き出し線14には、白金線を用いる。引き出し線14は、薄膜層11に電流を供給する端子である。なお、図1(A)、(B)は概念的な構造図であるので、基板10、薄膜層11、第1電極12、第2電極13の各層の厚さや引き出し線14の太さなどは、実際の寸法とは限らない。この点は、以下の各実施の形態における構造図でも同様である。
まず、上記薄膜発熱体を基板10の表面に作製する方法および薄膜発熱体の特性について説明し、その後、端子および電極部分について説明する。
【0015】
珪化モリブデンMoSi2(ナカライテスク(登録商標)社製)の粉末を直径12cmの無酸素銅製の皿状のターゲットホルダーに25MPaで加圧形成して、容量結合型平行平板型マグネトロンスパッタリング装置(アネルバ(登録商標)、SPF-210B)にRF電源(東京ハイパワー(登録商標)、RF-500)を組み合わせたRFマグネトロンスパッタリング装置内に設置し、それと対向する位置にMoSi2薄膜を堆積させるための基板を固定する。基板として、アルミナ基板(純度95.3%、フルウチ化学(登録商標)、厚さ1.0mm)を用いる。スパッタリング条件は放電周波数13.56MHz、放電電力200W、放電ガスとしてAr流量を400ml/min一定とし、放電時の圧力を0.53Paに保つ。基板の温度を700℃、800℃、あるいは基板加熱なしの自然昇温とし、製膜時間を2時間、4時間、または、6時間程度とする。るつぼへの製膜の場合は、るつぼは加熱なしの自然昇温とする。
【0016】
上記のような方法で作製するアルミナ基板上のMoSi2薄膜について、その作製経過と、作製したMoSi2薄膜の性質について説明する。上記スパッタリング条件により、0.9μm/h程度の製膜速度が得られる。基板加熱なしの自然昇温では、基板への薄膜の堆積開始時に予備放電の影響で基板温度は約180℃であり、堆積開始後約1時間で基板温度は約350℃で安定する。基板温度700℃で製膜時間を4あるいは6時間とした場合には、堆積させたMoSi2薄膜には僅かなむらが生じ、表面形状の粒の大きさ等に違いが観測できるが、それ以外の場合では、薄膜の位置による表面状態の差異はほぼ確認できない程度である。製膜時間2時間で基板温度700℃あるいは自然昇温で堆積させた薄膜の直流4探針法による抵抗値は平均0.27〜0.29Ωである。ターゲットのMoSi2の結晶構造は正方晶系(Tetragonal)であり、アルミナ基板上に堆積させたMoSi2薄膜の結晶構造はどのスパッタリング条件でも六方晶系(Hexagonal)となっている。しかし、その配向性は異なり、特に製膜時間を長くすると配向性が変化し、表面形状のむらと関係していると考えられる。
【0017】
一般にスパッタリングによる製膜をArガス中で行った場合は、薄膜内部の結晶がすべて柱のような形で基板上に林立する、いわゆる柱状構造を持つことが多い。アルミナ基板上に基板温度700℃、製膜時間4時間で堆積させたMoSi2薄膜について、基板を切断し薄膜の断面をSEMで観察したところ、そのような柱状構造が確認できる。
【0018】
アルミナ基板上に堆積させたMoSi2薄膜は、どのスパッタリング条件でもターゲットの正方晶系(Tetragonal)とは異なる六方晶系(Hexagonal)の結晶構造となる。アルミナ基板を用いて作製したMoSi2薄膜発熱体の真空中での発熱特性は、ほぼ安定であり、特にアルミナ基板上のMoSi2薄膜では、発熱後も顕著な変化は確認できない。
【0019】
MoSi2薄膜発熱体の対向する2辺に適当な2つの電極層を設け、2つの電極の間に電流を流した場合のMoSi2薄膜発熱体の特性を調べると、以下のようになる。基板温度700℃あるいは自然昇温で製膜時間を2時間とした場合について、発熱体を空気雰囲気中圧力10-6Torr(10-4Pa)程度の真空において、直流通電で室温付近から約600℃まで繰り返し発熱させたときの昇温時における抵抗−平衡発熱温度特性(R−T特性)を測定すると、温度係数は正であり、最初の数回は特性がばらつくがその後は特性が安定化する。また、基板温度700℃と自然昇温とを比較しても、顕著な特性の差異はない。基板加熱なしの自然昇温で製膜時間2時間としてアルミナ基板上に堆積させたMoSi2薄膜について、真空中で温度を変化させ、粉末X線回折法によるXRDパターンを調べた結果、100℃から1000℃の範囲において、温度によるMoSi2薄膜あるいはアルミナ基板の結晶構造の変化は確認できず、安定した発熱体が形成されている。
次に、アルミナ基板10を用いたMoSi2薄膜発熱体の電極および端子の構造と形成方法について説明する。
【0020】
発熱体の電極としては融点が1770℃と高いPtをペースト焼成法により作製する方法が考えられるが、MoSi2薄膜を堆積させた後にPtペーストを空気中で焼成する手順ではMoSi2のSiが酸化されてしまうおそれがある。そのため、アルミナ基板10上の電極を形成したい領域を覆ってMoSi2薄膜を形成したい部分のみを残すように第1のマスクを施して、MoSi2薄膜を形成する。次に、第1のマスクを除去し、第1電極12を形成したい領域以外の部分に第2のマスクを施す。そのあとで、モリブデンをスパッタ法などにより薄膜状に堆積させる。この結果、図1(B)に示すように、第1電極12は、一部分がMoSi2薄膜上に、残りは基板10上に形成される。次に、第2のマスクを除去し、第2電極13を形成したい場所にペースト状のPtを塗布し焼却して形成する。第2電極13を形成したい領域以外の部分に第3のマスクを施し、そのあとで、Ptをスパッタ法などにより薄膜状に堆積させてもよい。第3のマスクを除去し、第2電極13に端子として白金線などの引き出し線14を白金でハンダ付けまたは溶着する。
【0021】
マスクを塗布することなく薄膜発熱体を作ることもできる。ステンレス板に薄膜層11の形状の穴を開けたものを第1のマスクとする。第1のマスクを基板10の上に配置して、薄膜層11のスパッタを行う。次に、第1電極12の形状の穴をステンレス板に開けた第2のマスクを、薄膜層11を形成済みの基板10の上に配置して、モリブデンをスパッタする。次に、第2電極13の形状の穴をステンレス板に開けた第3のマスクを、薄膜層11と第1電極12を形成済みの基板10の上に配置して、白金Ptをスパッタする。その後、端子として白金線などの引き出し線14を第2電極13上にハンダ付けまたは溶着する。マスクを塗布しないので、マスクの除去処理は不要である。
【0022】
各層の厚さは、概略であるが、薄膜層11は、0.5〜2マイクロメータ、第1電極12のモリブデンスパッタ膜は、0.5〜2マイクロメータ、第2電極13の白金スパッタも同等の厚さ、白金ペーストの場合、10マイクロメータ以上となる。また、第2電極13と薄膜層11とは、第1電極12のモリブデン層により1〜2mm以上隔てられていることが望ましいが、白金Pt成分が珪化モリブデンMoSi2の薄膜層21に到達しない距離であれば、これに限定されない。
【0023】
なお、前記薄膜層11、第1電極12、第2電極13は、スパッタリング以外に、真空蒸着、PVC、CVDの何れかにより形成してもよい。マスクは、各形成方式に対応したものにすることは言うまでもない。端子としては、白金Ptの薄板を帯状にしたものや、白金Ptの板片でもよい。
(実施の形態2)
【0024】
窒化硼素BN材料あるいは窒化硼素、窒化珪素複合のSBN/50材料による基板上にMoSi2薄膜を形成した薄膜発熱体について説明する。基板10には、BN基板(純度99%、フルウチ化学(登録商標)、厚さ1.0mm)および複合系BN基板(BN50%、Si3N450%、E&M(登録商標)、厚さ1.0mm)(以降SBN/50と表記)などを使用し、実施の形態1で説明した装置と同様の装置を使用することによりMoSi2薄膜を堆積し、図1で説明したと同様の構造の薄膜発熱体を作製することができる。第1電極12、第2電極13については、前記実施の形態1と同様でよい。
【0025】
BNあるいはSBN/50基板上に各種条件で堆積させたMoSi2薄膜のXRDパターンによれば、基板温度700℃で製膜時間を4時間とした場合を除き、アルミナ基板上に堆積させた場合と配向性は異なるものの結晶構造は六方晶系(Hexagonal)となる。基板温度700℃で製膜時間を4時間とした場合についてはJCPDSカードに記載のMoSi2とは異なるピークが現れるが、BN基板上に堆積させたMoSi2薄膜の組成は基板温度700℃あるいは800℃いずれの条件でもアルミナ基板上のMoSi2薄膜のそれとほぼ一致する。
【0026】
BNあるいはSBN/50基板上にもスパッタリング条件によりアルミナ基板の場合と同様の六方晶系の結晶構造のMoSi2薄膜が堆積することが確認できた。六方晶のBNあるいはSBN/50基板の代りに、立方方晶窒化硼素の基板10を使用してもよい。
(実施の形態3)
【0027】
次に、高温強度、破壊靭性、耐熱衝撃性等の優れた機械的特性をもつサイアロンや窒化珪素基板上にMoSi2薄膜発熱体を作製した例について説明する。サイアロンや窒化珪素基板としては、SAN-2(α-Sialon、α-Si3N4、品川ファインセラミックス(登録商標)、厚さ2.0-2.5mm)を用いた。なお、サイアロンの組成は、Si、Al、O、Nからなり、窒化珪素に酸化アルミニウムが添加されたファインセラミックスとして知られている。基板加熱なしの自然昇温あるいは基板温度700℃の条件で堆積できるが、条件はこれに限らない。堆積させた薄膜には剥離などがなく均一である。アルミナ基板の場合と配向性は異なるもののMoSi2薄膜の結晶構造はいずれのスパッタリング条件でも六方晶系(Hexagonal)となっている。ただし、基板温度700℃においては55°付近にJCPDSカードに記載のMoSi2とは異なるピークが現れ、BNあるいはSBN/50基板上に基板温度700℃で製膜時間を4時間とした場合について現れた最も強度の大きいピークと2θ?がほぼ一致した。直流4探針法による抵抗値は自然昇温で平均0.26Ω、700℃で平均0.30Ωであり、同条件でアルミナ基板上に堆積させたMoSi2薄膜と同程度の値を示す。SEMによる表面形状の観察を行った結果、サイアロンや窒化珪素基板の表面形状による影響と考えられる線状の模様が観察され、アルミナ基板の場合のように粒子の集合同士の境界は明確ではない様子である。組成については、アルミナ基板の場合とほぼ同じで理論値であるMo:Si=1:2におおよそ一致する。
なお、第1電極12、第2電極13については、前記実施の形態1と同様でよい。
(実施の形態4)
本発明によれば、上記実施の形態1、2において説明した平板上の基板10だけでなく、曲面を有する基体の上、例えば、るつぼ形状の基体上にMoSi2薄膜を形成した薄膜発熱体を作製できる。
【0028】
図2に、アルミナるつぼを用いたMoSi2薄膜高温発熱体の構造の例を示す。図2(A)において、アルミナ製のるつぼ20の外面上にMoSi2薄膜発熱体となる珪化モリブデンMoSi2薄膜層21を形成する。図2(B)の断面図に示すように、るつぼ20の開口部と底部付近には、薄膜層21の左右両端部を覆うように第1電極22が2つ設けられる。第1電極22の一部は、薄膜層21を覆い、残りの部分は、るつぼ20の表面に固着する。第1電極22の内、薄膜層21を覆っていない部分の一部を覆うように、第2電極23が2つ設けられる。第2電極23の一部は、第1電極22の一部を覆い、残りの部分は、るつぼ20の表面に固着する。第2電極23は、薄膜層21から1〜2mm程度以上離れているように配置する。2つの第2電極23には、それぞれ引き出し線24が接続される。第1電極22には、モリブデンを用いる。第2電極23には、白金Ptを用いる。引き出し線24には、白金線を用いる。引き出し線24は、薄膜層21に電流を供給する端子である。端子としては、白金Ptの薄板を帯状にしたものや、白金Ptの板片でもよい。
【0029】
実施の形態1において説明したマグネトロンスパッタリング装置において、るつぼを回転機構に取り付けて回転させながらMoSi2薄膜を堆積すると、るつぼの周囲に一様にMoSi2薄膜を堆積することが可能になる。るつぼ自体の加熱が困難な場合は、基板加熱なしと同様に自然昇温でもよい。基板加熱なしにおいても、BNあるいはSBN/50いずれもアルミナ基板の場合と同様の六方晶系のMoSi2薄膜が堆積可能である。
【0030】
試作例について説明する。珪化モリブデンMoSi2の粉末(ナカライテスク)を、皿状の無酸素銅製ターゲットホルダーに加圧形成してRFマグネトロンスパッタリング装置(日電バリアン、SPF-210B)の製膜室に、外部からのモータによる回転機構を導入し、片方を閉じた円筒形の構造物(以降アルミナるつぼと表記)にも外側にも均一な厚さの薄膜を堆積させることが可能なように改良し、MoSi2のスパッタリングを行った。るつぼとしては、高純度アルミナ(Al2O3、純度99.5%(SSA-S)、ニッカトー)を用いた。基本的なスパッタリング条件は、放電周波数13.56MHz、放電電力200W、製膜時間1時間半で、Ar流量400ml/min一定としガス圧力0.53Paを保った。
【0031】
また、MoをスパッタするときにはMo円盤(レアメタリック)を皿状の無酸素銅製ターゲットホルダーに固定し、スパッタ条件は製膜時間のみを3時間と変更してアルミナるつぼ上に薄膜の堆積を行った。発熱体は、珪化モリブデンMoSi2、モリブデンMoの順番にスパッタを行い、マスクを用いて図2に示す形に作製した。電極として、Mo薄膜上にPt電極(ノリタケカンパニー、NP-1351A)をロータリーポンプで排気した真空雰囲気中において1000℃で1時間加熱処理し電極を形成し作製した。
【0032】
別に、モリブデンMoと白金Ptの反応性を確認するために珪化モリブデンMoSi2を用いずに、モリブデンMoをアルミナるつぼ上に堆積し発熱体を作製した。電極作製時の高温化でも白金PtのモリブデンMo中への拡散はみられなかったので、白金Ptが珪化モリブデンMoSi2に拡散してシリサイドを形成する恐れはなく、これによりMoの電極層としての効果は十分に期待できる。
【0033】
次に得られた特性について説明する。まず、アルミナるつぼ上に珪化モリブデンMoSi2のみをスパッタした発熱体の抵抗-発熱温度特性(以降R-T特性と表記)を調べた。直流電圧を0.2V/minの割合で上昇させて印加することにより発熱させた場合、10回の発熱でもR-T特性は線形であり、抵抗値は発熱の回数を重ねるごとに減少するもののその減少の幅は狭まっていった。次に、Mo薄膜を第1電極層として用い、アルミナるつぼを50mmの長さに切断した珪化モリブデンMoSi2発熱体を1000℃あるいは1100℃まで繰り返し発熱させたときのR-T特性を調べた。この場合も同様にほぼ線形で良好なR-T特性を示した。また、電力に対する発熱温度の特性は安定で、電圧に対する発熱温度の制御性も良好であった。この発熱体の1000℃または1100℃における発熱の様子の変化を調べるために、合計で24回1000℃を越す発熱を行ったが、発熱部の縮小のような劣化現象は起こらなかった。これにより、モリブデンMoが白金と珪化モリブデンMoSi2の反応を阻止し、電極層としての役割を果たしていることがわかる。
【0034】
次に、アルミナるつぼを30mmに長さに切断しモリブデンMo薄膜を第1電極層として用いた珪化モリブデンMoSi2発熱体を作製した。この発熱体を1200℃まで直流電圧を0.2V/minの割合で上昇させ発熱させたときのR-T特性を図3に示す。12回までの発熱で非常に均一な発熱と線形で良好なR-T特性が得られた。約230Wの電力で発熱温度は1200℃に達した。この発熱体の1200℃における発熱の様子を調べると、12回の発熱後も発熱部の縮小のような劣化現象はみられなかった。以上より、Mo薄膜を白金電極とMoSi2薄膜との間に電極層として用いることで、白金のMoSi2中への浸入を防ぎ、MoSi2薄膜発熱体の発熱特性への影響もないことが確認できた。
【0035】
アルミナ製のるつぼを用いて発熱体の試作をおこなった別の試作例について説明する。アルミナるつぼは純度99.5%である。アルミナ基板の場合と同様に、先にアルミナるつぼ(内径12mm、外径15mm、長さ23mm)の外側にMoSi2薄膜を、回転機構を用いて、るつぼ加熱なしの条件で堆積する。6時間をかけて発熱体の薄膜を製膜した。このようにして作製した発熱体は、薄膜厚がやや厚くて抵抗値が低いため、MoSi2薄膜の発熱部をらせん状に削り適当な抵抗値とする。空気雰囲気中圧力10-6Torr(10-4Pa)程度の真空において、直流通電で約500℃まで繰り返し発熱させたときの昇温時における抵抗−平衡発熱温度特性(R−T特性)を調べたところ、アルミナ基板を用いて作製した発熱体の特性とは高温領域での傾向が異なったが、繰り返し発熱による抵抗値の変動は安定化する傾向を示した。
【0036】
発熱、放熱を50回繰り返した後の電圧−発熱温度、電力−発熱温度の関係を見ると、発熱後はMoSi2薄膜の発熱部の一部に若干の変色が生じるものの、発熱温度は電圧に対してほぼ線形であり、発熱温度の制御性は良好であった。
【0037】
10-9Torr(10-7Pa)程度まで到達可能な超高真空排気装置内で、アルミナるつぼを用いて薄膜発熱体を作製してもよい。MoSi2薄膜発熱体の抵抗値が低すぎる場合は、MoSi2薄膜発熱体の電極層21a、21bに挟まれた発熱部をらせん状に削り適当な抵抗値とすることができる。
【0038】
別のるつぼ形状での薄膜発熱体の作製の例について説明する。アルミナるつぼ(内径11mm、外径13mm、長さ61mm)に、るつぼ加熱なし、製膜時間3時間の条件で、MoSi2薄膜を堆積する。このようにして作製した薄膜発熱体の超高真空排気装置内でのR−T特性および真空容器内の圧力変化の測定を行うと、MoSi2薄膜の発熱は非常に安定で、約190Wの電力で発熱温度は1000℃を達成する。圧力は、最初、脱ガスにより上昇し、その後低下する傾向を示す。
【0039】
この発熱体をその後、直流通電で約1000℃まで繰り返し発熱させたときのR−T特性および真空容器内の圧力変化の測定結果は、900℃程度の高温領域でも抵抗値の低下は見られず、ほぼ線形の特性となる。また、電力に対する発熱温度の特性は非常に安定であり、繰り返し発熱により抵抗値がしだいに低下する傾向となったものの、その変化率は徐々に小さくなっており、安定化が示唆される。
【0040】
以上のように、アルミナるつぼを用いて作製したMoSi2薄膜高温発熱体は、その作製方法により特性が若干異なるが、ほぼ線形のR−T特性を有し、現時点で最高発熱温度が1200℃程度の発熱体を作製できる。
【0041】
実施の形態1において説明したマグネトロンスパッタリング装置において、るつぼに限らず曲面を有する基体に回転機構を取り付けると、基体の周囲に一様にMoSi2薄膜を堆積することが可能になる。基体自体の加熱が困難な場合は、基体加熱なしと同様に自然昇温でもよい。基体加熱なしにおいても、BNあるいはSBN/50を基体として用いた場合、いずれもアルミナ基板の場合と同様の六方晶系のMoSi2薄膜が堆積可能である。
また、サイアロンや窒化珪素製の曲面を有する基体やるつぼ状の基体にMoSi2薄膜を堆積してもよい。
【0042】
このような薄膜層21、第1電極22、第2電極23を形成する手順について説明する。まず、アルミナ基板20上の電極を形成したい領域を円筒状に覆い、MoSi2薄膜を形成したい部分のみを残すように第1のマスクを塗布して、MoSi2薄膜を円筒状に形成する。次に、第1のマスクを除去し、第1電極12を形成したい領域以外の部分に第2のマスクを円筒状に塗布する。そのあとで、モリブデンをスパッタ法などにより薄膜状に堆積させる。この結果、第1電極12は、図1(B)に示すように、一部は、MoSi2薄膜上に、残りは基板10上に形成される。次に、第2のマスクを除去し、第2電極13を形成したい領域にペースト状のPtを円筒状に塗布し焼却して形成する。第2電極13を形成したい場所以外の領域に第3のマスクを円筒状に塗布して、そのあとで、Ptをスパッタ法などにより薄膜状に堆積させてもよい。第3のマスクを除去し、第2電極13に白金線などの引き出し線14をハンダ付けまたは溶着する。
【0043】
マスクを塗布することなく円筒状の薄膜発熱体を作ることもできる。図4(A)に示すように、ステンレス円筒板M1とM2により薄膜層21を形成する予定の領域を残して覆い、スパッタにより薄膜層21を形成する。次に、図4(B)に示すように、3個のステンレス円筒板M3、M4、M5により、第1電極22を形成する予定の領域を残して覆い、モリブデンMoをスパッタして第1電極22を形成する。次に、図4(C)に示すように、3個のステンレス円筒板M6、M7、M8により、第2電極33を形成する予定の領域以外を覆い、白金Ptをスパッタして第2電極23を形成する。その後、白金線などの引き出し線24を端子として第2電極23上に白金のハンダ付けまたは溶着する。マスクを塗布しないので、マスクの除去処理は不要である。
【0044】
各層の厚さは、概略であるが、薄膜層11は、0.5〜2マイクロメータ、第1電極12のモリブデンスパッタ膜は、0.5〜2マイクロメータ、第2電極13の白金スパッタも同等の厚さ、白金ペーストの場合、10マイクロメータ以上となる。また、第2電極13と薄膜層11とは、第1電極12のモリブデン層により1〜2mm以上隔てられていることが望ましいが、白金Pt成分が珪化モリブデンMoSi2の薄膜層21に到達しない距離であれば、これに限定されない。
なお、前記薄膜層11、第1電極12、第2電極13は、スパッタリング以外に、真空蒸着、PVC、CVDの何れかにより形成してもよい。マスクは、各形成方式に対応したものにすることは言うまでもない。
(実施の形態5)
【0045】
上記実施の形態1、4における説明では、薄膜層11、21の端部に第1電極12、22、第2電極13、23を設ける形態について説明したが、端部以外、例えば薄膜層の面の任意の位置に電極を設けるようにしてもよい。図5に一例を示す。図5は、るつぼ20の筒のほぼ中央の位置で、かつ薄膜層21の端でない位置に引き出し線54を設けたものである。図5(B)の断面図より分るように、薄膜層21を形成する際に、円形状のマスクを施し、珪化モリブデンMoSi2を堆積させない領域を設ける。次に円環状にモリブデンMoによる第1電極52を形成し、中央に円状の白金Ptの電極53を形成する。第2電極53の中央部に白金Ptの引き出し線4を溶着する。引き出し線54を薄膜層21の面上の所定の位置に複数個設けることにより、薄膜層21の面上に所望の電位分布を形成し、一様でない温度分布を形成することが可能になる。
(実施の形態6)
次に、電極や引き出し線の構成の変形例について説明する。
【0046】
上記実施の形態1、4、5における説明では、モリブデンMoによる第1電極12、22、52の上に第2電極13、23、53を設ける形態について説明したが、第2電極13、23、53を先に形成し、第1電極12、22、52を第2電極13、23、53の上に形成してもよい。
【0047】
図6に本実施の形態による電極部の断面図を示す。図6(A)は、薄膜層21の端部に電極を設けた例である。るつぼ20の外側表面上に薄膜層21と第2電極23を隔てて形成する。間隔は、1〜2mm程度あればよいが、これに限定はされない。次に、第1電極22を、その両端が薄膜層21と第2電極23とに重なるように、るつぼ20の上に円筒の帯状に形成する。
【0048】
形成の手順は以下のようにすればよい。まず、円筒状のマスクを用い、白金Ptをスパッタ処理して第2電極23を形成する。白金ペーストを帯状に塗布して焼成してもよい。次に、珪化モリブデンMoSi2をスパッタして薄膜層21を形成する。この際には、薄膜層21が第2電極23に重ならないように、第2電極23をマスクする。その後、薄膜層21と第2電極23の端部に重なるように、モリブデンMoをスパッタして、第1電極22を形成する。この際には、円筒マスクを2個使用する。次に、白金Ptの引き出し線24を取り付ける。
【0049】
図6(B)は、薄膜層21の端部以外の任意の位置に電極と引き出し線を設けた例の断面図と平面図である。一例として、るつぼ20の筒のほぼ中央の位置で、かつ薄膜層21の端でない位置に引き出し線54を設けたものである。図6(B)の断面図より分るように、円形状の第2電極53をるつぼ20の表面に形成する。この際は、ステンレス円筒に丸い穴の開いたマスクを使い、白金Ptをスパッタする。次に、第2電極53より大きめのマスクにより第2電極53を隠蔽して、珪化モリブデンMoSi2の薄膜層21を形成する。珪化モリブデンMoSi2の薄膜は第2電極53から隔たって形成される。次に円環状の第1電極52をモリブデンMo薄膜により形成する。この際には、円形の第2電極53の中央部分と、薄膜層21の内第1電極52を重ねる部分を除く全エリアをマスクする。次に、第2電極53の中央部に引き出し線54を溶着する。
【0050】
図7は、更に別の構造の例であって、第2電極を第1電極の上に形成した実施の形態の断面図である。図7(A)において、白金Ptによる第2電極23をモリブデンMoの第1電極22上であって、薄膜層21に重なっていない部分の上に形成し、第2電極23上に白金Ptの引き出し線24を溶着する。第2電極23は、基体20には当接しない。
【0051】
図7(B)では、薄膜層21の面上に空いている円形の穴を埋めるようにモリブデンMoによる第1電極72を形成し、第1電極72の中央部すなわち薄膜層21が下部にない部分の上に白金Ptによる円形の第2電極73をスパッタまたは白金ペーストの塗布と焼成により形成し、第2電極73に白金Ptの引き出し線を溶着して形成する。薄膜層21と第2電極23、53、73との間隔は、1〜2mm程度離すのが望ましいが、白金Pt成分が珪化モリブデンMoSi2の薄膜層21に到達しない距離であれば、これに限定されない。
(実施の形態7)
【0052】
上記各実施の形態では、第2電極として白金Ptの薄膜、またはペーストによる厚膜を用い、端子として、白金Ptの引き出し線を用いた例について説明した。以下に、端子として白金Pt以外の金属を用いた例について説明する。
【0053】
本実施の形態においては、基体20、基体20上に形成した薄膜層21、薄膜層21の一部分を覆うように、または、前記薄膜層の一部分と前記薄膜層に覆われない基体の一部分とを共に覆うように形成された第1電極22、および、第1電極22の上に、または、第1電極22の薄膜層21に重ならない領域の上に設けられた端子84を備えた薄膜発熱体であって、薄膜層21は、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドの薄膜、または、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドを主成分とする薄膜より成り、第1電極21はモリブデンの薄膜、またはモリブデンを主成分とする薄膜より成り、端子は、モリブデン、またはモリブデンを主成分とする材料である薄膜発熱体とする。
【0054】
図8は、端子としてモリブデンMoの引き出し線を用いた電極部の断面図である。図8(A)において、るつぼ20の円周上に形成された薄膜層21の端部を覆うようにモリブデンMoの薄膜による第1電極22が形成される。この形成方法については、既に説明した方法と同様であるので説明を省く。第1電極22の薄膜層21に重なっていない部分に端子として引き出し線84を溶着する。端子は、薄膜層21に重なっている部分に溶着してもよいが、その場合は、薄膜層21を損傷しないように溶着する必要がある。引き出し線84にはモリブデンMoで作成した線材を使用する。電極や引き出し線に白金Ptを使用しないので、薄膜層21が、白金Ptによりシリサイド化されることがない。また、モリブデンMoは、薄膜層21に浸透しないので、薄膜層21の耐熱性が劣化することがない。
【0055】
図8(B)は、薄膜層21の端部以外の位置に端子を設ける場合の電極構造である。図7(B)の場合と同様に、薄膜層21に空いている円形の穴をふさぐように第1電極82をモリブデンMoの薄膜で形成する。第1電極82の薄膜層21に重なっていない部分に引き出し線84を溶着する。引き出し線84にはモリブデンMoで作成した線材を使用する。薄膜層21に穴がない場所の上に、第1電極82を形成し、その上に端子である引き出し線84を溶着してもよい。この場合も、下の薄膜層21を損傷しないように溶着する必要がある。
(実施の形態8)
【0056】
上記各実施の形態においては、端子として引き出し線14、24、54、84を用いる場合や薄板状の線材を用いる場合について説明したが、端子としては、他の形態でもよい。例えば、線材を取り付けるための穴が開いた白金Pt板やモリブデン板の端子片を引き出し線の代りに溶着してもよい。また、白金Ptの引き出し線を機械的に第2電極上に押し付けるようにしてもよい。モリブデンの端子の場合は、図8において、第1電極22,82の上に機械的に押し付ける。これらに機構としては、電極と基体とを挟む構造や、るつぼの周囲に引き出し線を巻きつけて締め付けたり、別の押さえ金具で締め付けたりする構造を採用することが出来る。
(実施の形態9)
【0057】
上記各実施の形態では、薄膜化する材料として、MoSi2、すなわち、珪化モリブデン(モリブデンシリサイド)を用いているが、MoSi2を主成分とし、他の成分を含有していてもよい。また、MoSi2にさらに白金等を添加してモリブデン白金シリサイドを薄膜の材料として使用してもよい。白金シリサイドは、半導体であって、その抵抗が温度とともに減少する。モリブデンシリサイドMoSi2は、金属的な性質を備え、抵抗が温度とともに増加する。その合金であるモリブデン白金シリサイドは、モリブデンと白金の組成によって金属的、あるいは半導体的、あるいはその中間的な抵抗の温度変化を示す。また電極に白金を用いる場合には、白金がモリブデンシリサイド中に一部拡散する可能性があるが、最初から白金がそれ以上拡散しない組成の薄膜にしておけば、拡散による抵抗値の変化を小さくすることが可能である。
【0058】
薄膜化する材料、あるいは、本発明により薄膜状に作製された薄膜の材質について更に説明する。珪化モリブデンと呼ばれる材料には、少なくとも3種類の異なる組成がある。すなわち、Mo5Si3(融点2090℃)、MoSi2(二珪化モリブデン)(融点1980℃)、Mo3Si(融点2100℃)である。この3種類は代表的なものであり、他にもいろいろな組成のものがある。このうち2珪化モリブデンは空気中1650℃に長時間加熱しても変化しないという性質を持っているためにバルク発熱体として実用化されているが、薄膜化すると空気中では酸化するため、酸素雰囲気以外の環境で薄膜化する必要がある。真空中での使用の場合には他の組成のものもよい特性を示す可能性がある。これは、モリブデンが多原子価元素であることによる。なお、知られているものは、融点が2000℃前後である。上記のように、MoSi2は、通常、二珪化モリブデンと呼ばれる。二珪化モリブデンとされているものにも、そのものには添加物を含まないものの、分析すると酸化アルミニウムを少量含んでいるものもある。二珪化モリブデンが高温で軟化するという欠点を軽減する効果があるものと考えられる。
【0059】
本発明では、上記のような二珪化モリブデンや各種の珪化モリブデン、モリブデン白金シリサイド、および、二珪化モリブデンや各種の珪化モリブデンやモリブデン白金シリサイドを主成分とし、いくつかの添加物を加えた材料を出発材料として、薄膜を作製することにより、本発明の薄膜発熱体を作製する。また、作製された薄膜発熱体の薄膜の組成も、二珪化モリブデンや各種の珪化モリブデン、または、二珪化モリブデンや各種の珪化モリブデンを主成分とし、いくつかの添加物を加えた組成のものとなる。また、電極層の材料が加わった組成となってもよい。
(その他の実施の形態および補足)
【0060】
基体としては、上記、基板状、るつぼ形状に限らず、棒状、筒状などでもよい。薄膜層、第1電極、第2電極、それらを形成するためのマスクの形状は、長方形や円筒形に限らず他の形状でもよい。既に説明したように、端子である引き出し線は、線材以外に細めの薄板状でもよい。また、丸穴の開いた長円形の板状の端子でもよい。
上記実施の形態の説明における、アルミナ、窒化硼素BN、SBN、サイアロンのような窒化珪素(Si3N4)などの基体材料以外に、これらの材料を主成分とし種々の添加物を添加した材料による基体でもよい。
【0061】
上記各実施の形態では、RFマグネトロンスパッタリング装置によりMoSi2薄膜やモリブデン白金シリサイド薄膜の堆積を行ったが、薄膜を作製できる方法であれば、他の方法でもよい。例えば、RFマグネトロンによらない他のスパッタリング、真空蒸着法などのよる、PVCやCVDなどを使用してもよい。また、薄膜を作製できるなら他の薄膜形成方法でもよい。第1電極、第2電極の薄膜を形成する場合も同様である。
上記各実施の形態における、基体の形状、電極層の位置、形状、端子などは、各図で示したものに限らない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかる薄膜発熱体および薄膜発熱器は、高効率の加熱、発熱を必要とする処理装置、種々の製造装置などの分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の薄膜発熱体の一実施形態の構成図
【図2】本発明の薄膜発熱体の一実施形態の他の構成図
【図3】本発明の薄膜発熱体の加熱特性の図
【図4】本発明の薄膜発熱体の電極構造の他の構成図
【図5】本発明の薄膜発熱体の電極構造の別の構成図
【図6】本発明の薄膜発熱体の電極構造の別の構成図
【図7】本発明の薄膜発熱体の電極構造の別の構成図
【図8】本発明の薄膜発熱体の電極構造の別の構成図
【符号の説明】
【0064】
10 基板
11 MoSi2薄膜層
12 第1電極
13 第2電極
14 引き出し線
20 るつぼ
21 MoSi2薄膜層
22、52、72、82 第1電極
23、53、73 第2電極
24、54、84 引き出し線
M1〜M8 マスク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成した薄膜層と、
前記薄膜層から所定の距離隔たった部位に形成された第2電極と、
前記薄膜層と前記第2電極を電気的に結合する第1電極を具備する薄膜発熱体。
【請求項2】
基体と、
前記基体上に形成した薄膜層と、
前記薄膜層の一部分と、前記薄膜層に覆われない基体の一部分とを共に覆うように形成された第1電極と、
前記第1電極の前記薄膜層に重ならない領域で、かつ前記薄膜層から所定の距離隔たった部位の上に形成された第2電極を具備する薄膜発熱体。
【請求項3】
前記第2電極の一部は、前記第1電極の前記薄膜層に重ならない領域で、かつ前記薄膜層から所定の距離以上隔たった部位の上に形成され、かつ、前記第2電極の残部は、前記基体に当接するように形成された請求項2記載の薄膜発熱体。
【請求項4】
基体と、
前記基体上に形成した薄膜層と、
前記基体上に前記薄膜層と隔てて形成した第2電極と、
前記薄膜層の一部分と前記第2電極の一部分とを共に覆うように形成された第1電極を具備する薄膜発熱体。
【請求項5】
前記薄膜層は、二珪化モリブデンまたは珪化モリブデンまたはモリブデン白金シリサイドの薄膜、または、二珪化モリブデンまたは珪化モリブデンまたはモリブデン白金シリサイドを主成分とする薄膜より成る請求項1から請求項4いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項6】
前記第1電極はモリブデンの薄膜、またはモリブデンを主成分とする薄膜より成る請求項1から請求項5いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項7】
前記第2電極は膜状である請求項1から請求項6いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項8】
前記第2電極は白金薄膜または白金厚膜である請求項7記載の薄膜発熱体。
【請求項9】
前記第2電極上に端子または引き出し線を設けた請求項7または請求項8記載の薄膜発熱体。
【請求項10】
基体と、
前記基体上に形成した薄膜層と、
前記薄膜層の一部分を覆うように、または、前記薄膜層の一部分と前記薄膜層に覆われない基体の一部分とを共に覆うように形成された第1電極を具備する薄膜発熱体であって、
前記薄膜層は、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドの薄膜、または、二珪化モリブデン、珪化モリブデンあるいはモリブデン白金シリサイドを主成分とする薄膜より成り、
前記第1電極はモリブデンの薄膜、またはモリブデンを主成分とする薄膜より成る薄膜発熱体。
【請求項11】
前記第1電極の上に、または、前記第1電極の前記薄膜層に重ならない領域の上にモリブデン、またはモリブデンを主成分とする端子を設けた請求項10記載の薄膜発熱体。
【請求項12】
前記端子は、引き出し線である請求項11記載の薄膜発熱体。
【請求項13】
前記薄膜をスパッタリング、真空蒸着、PVC、CVDの何れかにより形成した請求項1から請求項12いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項14】
前記基体は、アルミナ製の基体である請求項1から請求項13いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項15】
前記基体は、BN製またはSBN製の基体である請求項1から請求項14いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項16】
前記基体は、サイアロンまたは窒化珪素製の基体である請求項1から請求項15いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項17】
前記基体は、任意曲面を有する基体である請求項1から請求項16いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項18】
前記基体は、板状である請求項1から請求項17いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項19】
前記基体は、るつぼ形状である請求項1から請求項18いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項20】
前記基体は、棒状である請求項1から請求項19いずれか記載の薄膜発熱体。
【請求項21】
前記基体は、筒状である請求項1から請求項20いずれか記載の薄膜発熱体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−164595(P2006−164595A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350887(P2004−350887)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】