説明

薄膜製造方法および薄膜製造設備

【課題】高品質のリチウム金属薄膜および無機固体電解質薄膜を製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】リチウム金属薄膜または無機固体電解質薄膜積を製造する方法が提供され、該方法は、薄膜製造工程においてアルカリ金属または無機固体電解質もしくはその原料と接触する雰囲気の露点を−40℃以下とすることを特徴とする。露点が−40℃以下の環境において、薄膜作製のための原料や基材あるいは製造した薄膜を取り扱えば、リチウム金属や硫化物系の無機固体電解質の劣化を効果的に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属を含む薄膜または薄膜積層物を製造する方法および設備に関し、特に、リチウム電池等に使用できるリチウム金属を含む薄膜または薄膜積層物を製造する方法および設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型軽量化が進み、そこに使用される電源としての電池にも小型軽量化の要求が高まっている。リチウム金属を負極に用いた電池は小型軽量化に適しており、注目されている。そこで、少しでも電池のサイズを小さくするためには、リチウム金属の厚さを薄くすることが望ましい。このような要求に対し、リチウム金属からなる薄膜を気相法により基材上に形成し、得られる部材を負極材料として使用することが考えられる。さらに、そのような負極材料のリチウム金属薄膜上に無機固体電解質の薄膜を形成して、リチウム二次電池用負極を製造することも考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、リチウム金属は水や酸素と反応しやすく、また硫化物系の無機固体電解質薄膜およびその原料は水分と反応しやすいため、これらは大気に触れると劣化するという問題がある。上述した薄膜形成においては、これらの材料を劣化させることなく安定に取り扱う必要がある。
【0004】
また、リチウム金属薄膜や硫化物系の無機固体電解質薄膜を作製する成膜装置内壁には、形成した薄膜と同じ材料が多量に付着し得る。成膜装置をメンテナンス等で大気に開放すると、付着したリチウム金属と大気中の水分が反応して危険な水素が発生したり、付着した硫化物と大気中の水分が反応して危険な硫化水素が発生するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、リチウム金属や無機固体電解質を劣化させることなく、高品質の薄膜を製造することのできる方法および設備を提供することにある。
【0006】
さらに、本発明の目的は、リチウム金属薄膜や無機固体電解質薄膜を作製する装置の清掃や部品交換などのメンテナンス作業を、安全に行える設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、露点が−40℃以下の環境において、薄膜作製のための原料や基材あるいは製造した薄膜を取り扱えば、リチウム金属や硫化物系の無機固体電解質の劣化を効果的に防止できることを見出した。さらに本発明者らは、露点が−40℃以下の環境において、リチウム金属薄膜や硫化物系の無機固体電解質薄膜を作製する装置の清掃や部品交換などのメンテナンス作業を安全に行えることを見出した。
【0008】
かくして本発明により、アルカリ金属を含む薄膜および/または無機固体電解質を含む薄膜を製造する方法が提供され、該方法は、薄膜製造工程においてアルカリ金属または無機固体電解質もしくはその原料と接触する雰囲気の露点を−40℃以下とすることを特徴とする。
【0009】
典型的に、本発明による方法において、1.33×10-2Pa(1×10-4Torr)以下の真空を形成し、次いで、形成された真空中にアルカリ金属および/または無機固体電解質もしくはその原料に不活性な純度99.99%以上のガスを導入することにより、−40℃以下の露点を有する雰囲気を形成することができる。
【0010】
典型的に、本発明による方法は、成膜装置と、成膜装置で使用する原料および/もしくは基材ならびに/または成膜装置からの製品を通過させるチャンバーとを使用することができる。成膜工程において、このチャンバー内の雰囲気の露点を−40℃以下とする。本発明において、成膜装置は、典型的に、真空下で成膜を行うものである。そのような成膜装置を使用する場合、成膜後、成膜装置内の真空を破るため、上記チャンバー内の雰囲気を成膜装置に導入することができる。
【0011】
本発明による方法において、アルカリ金属を含む原料、基材および製品の少なくともいずれかは、ブチルゴム製のグローブを介して取り扱うことが好ましい。
【0012】
さらに本発明により、上記の薄膜製造方法を実施するための設備が提供され、該設備は、成膜装置と、露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段とを備える。
【0013】
本発明による設備は、成膜装置で使用する原料および/もしくは基材ならびに/または成膜装置からの製品を通過させるチャンバーを備えることが好ましい。露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段は、該チャンバーに接続することができる。
【0014】
該チャンバーを備える設備において、成膜装置を該チャンバー内に設けることができる。一方、該チャンバーは成膜装置に隣接して設けることができ、該チャンバーと成膜装置とを接続することができる。
【0015】
本発明の設備において、成膜装置は、真空下で成膜を行うものとすることができる。真空下で成膜を行う装置と上記チャンバーとを有する設備において、成膜装置とチャンバーとを配管系でつなぐことができる。そのような配管系は、成膜後、チャンバー内の雰囲気を成膜装置に導入して成膜装置内の真空を破るために使用することができる。
【0016】
本発明による設備は、アルカリ金属を含む原料、基材および製品の少なくともいずれかを、取り扱うためのブチルゴム製のグローブを有することが好ましい。そのようなグローブは、上記チャンバーに設けることが好ましい。
【0017】
本発明において、特に、アルカリ金属はリチウム金属である。特に本発明は、リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜の製造に適用できる。また、本発明は、無機固体電解質からなる薄膜の製造に適用できる。さらに、本発明は、リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜と、リチウムの硫化物を含む無機固体電解質からなる薄膜との積層物を製造するため適用できる。特に、本発明は、リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜上に、リチウムの硫化物を含む無機固体電解質からなる薄膜を形成するための方法および設備に適用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リチウム金属や無機固体電解質およびその原料を劣化させることなく、高品質のリチウム金属を含む薄膜および無機固体電解質薄膜を製造することができる。さらに本発明によれば、リチウム金属薄膜や無機固体電解質薄膜を作製する装置の清掃や部品交換などのメンテナンス作業を、安全に行うことができる。特に本発明は、リチウム二次電池用負極の製造に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による設備の概略を示す模式図である。
【図2】図1に示す設備の装置室内に設けられたグローブを示す模式図である。
【図3】図1に示す設備において、装置室と成膜装置とをつなぐ配管系を示す模式図である。
【図4】本発明による他の設備の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によれば、薄膜作製のための原料および基材の成膜装置への搬入あるいは作製した薄膜の成膜装置からの取り出しを、露点−40℃以下の環境でおこなうことができる。また本発明により露点−40℃以下の環境を設定し、当該環境下において、成膜装置の清掃や部品交換などのメンテナンス作業を安全に行うことができる。
【0021】
本発明において−40℃以下の露点は、典型的に、−50℃〜−80℃の露点とすることができ、−70℃以下の露点とすることが好ましい。本発明において、露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段は、典型的に、真空ポンプと、該真空ポンプによって真空にされた室内にアルカリ金属および/または無機固体電解質もしくはその原料に不活性なガスを供給するための手段とを備えることができる。また、不活性なガスを供給するための手段は、不活性なガスを収容するボンベと、該ボンベから真空にされた室内に不活性なガスを供給するための配管系とを備えることができる。また、必要に応じて、露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段は、ガス循環精製装置を備えることが好ましい。上述したような手段により、典型的に、1.33×10-2Pa(1×10-4Torr)以下の真空を形成し、次いで、形成された真空中にアルカリ金属および/または無機固体電解質に不活性な純度99.99%以上のガスを導入することにより、−40℃以下の露点を有する雰囲気を形成することができる。
【0022】
本発明において、アルカリ金属および/または無機固体電解質もしくはその原料に不活性なガスは、典型的に、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、またはそれらの2種以上の混合ガスである。
【0023】
本発明において、アルカリ金属を含む薄膜またはアルカリ金属および無機固体電解質を含む薄膜積層物は、気相成長法によって形成することができ、典型的には、スパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーションおよびイオンプレーティングよりなる群から選ばれたいずれかの方法によって形成することができる。特に本発明において、リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜や無機固体電解質からなる薄膜は、気相成長法によって形成することが好ましく、典型的には、スパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーションおよびイオンプレーティングよりなる群から選ばれたいずれかの方法によって形成することが好ましい。
【0024】
本発明では、成膜装置と、成膜装置で使用する原料および/もしくは基材ならびに/または成膜装置からの製品を通過させるチャンバーとを使用することができる。成膜装置は、薄膜を形成するための基材を収容し、該基材上に所定の方法により必要な薄膜を形成する装置である。典型的に、成膜装置は、スパッタリング装置、真空蒸着装置、レーザアブレーション装置およびイオンプレーティング装置よりなる群から選ばれたいずれかの装置とすることができる。
【0025】
本発明において、チャンバーは、成膜装置を収容する部屋として使用することができる。この場合、チャンバー内雰囲気の露点を−40℃以下にし、薄膜作製のための原料および/または基材を劣化させることなく、チャンバーから成膜装置に移すことができ、さらに、成膜装置からの製品を劣化させることなく、チャンバーに移動させることができる。また、成膜装置を収容する第1のチャンバーに隣接して、第2のチャンバーを設けてもよい。この場合、密閉容器に入れた薄膜作製のための原料および/または基材を第2のチャンバーにおいて密閉容器から取り出し、原料および/または基材を第2のチャンバーから第1のチャンバーに移動させ、第1のチャンバーを介して成膜装置に搬入し、成膜装置において成膜を行うことができる。次いで、作製した薄膜を有する製品を成膜装置から第1のチャンバーに移して、そこで密閉容器に入れ、この密閉容器を第2のチャンバーを介して大気中に取り出すことができる。一方、作製した薄膜を有する製品を成膜装置から第2のチャンバーに移動させ、そこで製品を密閉容器に入れ、密閉容器を第2のチャンバーから大気中に取り出してもよい。第2のチャンバーは、1つでもよいし、2つ以上あってもよい。2つ以上の第2のチャンバーを使用する場合、原料および/または基材を密閉容器から取り出すためのチャンバーと、成膜装置からの製品を扱うチャンバーをそれぞれ設けることができる。
【0026】
本発明において、露点が−40℃以下である雰囲気は、上記成膜装置内に形成することができ、かつ/または、上記チャンバー内に形成することができる。したがって、露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段は、上記成膜装置および/または上記チャンバーに接続することができる。薄膜作製のための原料もしくは基材を受け入れるため、上記チャンバーおよび成膜装置内に、露点が−40℃以下である雰囲気を形成することができる。また、薄膜を有する製品を受け入れるため、上記チャンバー内に露点が−40℃以下である雰囲気を形成することができる。さらに、露点が−40℃以下である雰囲気は、成膜装置の清掃や部品交換などのメンテナンス作業を行うため、成膜装置を収容するチャンバー内に形成することができる。典型的に、露点が−40℃以下である雰囲気は、Heガス、窒素ガス、Neガス、Arガス、Krガス、またはこれらの2種以上の混合ガスによって構成することができる。
【0027】
薄膜を形成する気相法において、バックグラウンドの真空度は、たとえば1.33×10-4Pa(1×10-6Torr)以下とすることができる。高い真空度を使用することにより、リチウム金属の酸化や水分による劣化を防ぐことができる。気相法において薄膜を形成するための雰囲気は、たとえば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、あるいはそれらの2種以上を組合せた混合気体などの、リチウムと反応しない気体からなることが好ましい。特に、リチウム金属の水分による劣化が起こらないよう、該雰囲気を構成する気体の純度は99.99%以上であることが望ましい。
【0028】
本発明は、リチウム金属薄膜やリチウム合金薄膜などのアルカリ金属からなる薄膜の製造に適用することができる。リチウム以外のアルカリ金属には、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等がある。また、本発明は、リチウム金属薄膜やリチウム合金薄膜などのアルカリ金属からなる薄膜上に、無機固体電解質からなる薄膜を形成するため、使用することができる。さらに、本発明は、リチウム等のアルカリ金属を含む上記以外の膜を形成するため使用することができる。
【0029】
リチウム金属薄膜やリチウム合金薄膜などのアルカリ金属を含む薄膜を堆積させる基材には、典型的に、金属、合金、SnO2等の金属酸化物、グラファイトなどの導電性炭素などがある。基材の金属や合金として、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、ニオブ、チタン、タングステン、インジウム、モリブデン、マグネシウム、金、銀、白金、のうちのいずれか、またはこれらの2種類以上の合金、あるいはステンレス鋼を使用することができる。基材の厚さは、たとえば、1μm〜100μmとすることができ、小型化のため、1μm〜20μmとすることができる。そのような基材上に、たとえば、0.1μm以上20μm以下の厚みのリチウム金属あるいはリチウム合金からなる薄膜を形成することができる。リチウム合金の添加元素には、たとえば、In、Ti、Zn、BiおよびSnがある。また、無機固体電解質からなる薄膜を堆積させる基材は、典型的に、金属、合金、金属酸化物および炭素よりなる群から選ばれた材料からなることができる。特に、本発明をリチウム電池用電極の製造に適用する場合、少なくとも表面部分がリチウムまたはリチウム合金からなる基材を使用することが好ましい。リチウム合金の添加元素には、たとえば、In、Ti、Zn、BiおよびSnがある。そのような基材として、たとえば、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、ニオブ、チタン、タングステン、インジウム、モリブデン、マグネシウム、金、銀、白金、それらの2種以上を組合せた合金、およびステンレス鋼よりなる群から選ばれた材料からなる金属材料(典型的には金属箔)上に、リチウムまたはリチウム合金からなる薄膜を形成したものを使用することができる。あるいは、基材として、SnO2等の金属酸化物、またはグラファイトなどの導電性炭素からなる材料上に、リチウムまたはリチウム合金からなる薄膜を形成したものを使用してもよい。上述した基材において、リチウムまたはリチウム合金からなる薄膜の厚みは、たとえば0.1μm以上20μm以下、好ましくは1μm以上10μm以下である。一方、リチウムまたはリチウム合金からなる箔を基材として使用してもよい。基材の厚さは、リチウム電池への適用の観点から、たとえば、1μm〜100μmとすることができ、小型化のため、1μm〜20μmとすることができる。
【0030】
本発明において、無機固体電解質は、イオン伝導性の固体で気相成長法によりその薄膜を形成できるものであれば、任意のものとすることができる。無機固体電解質には、たとえば、硫化物系、酸化物系、窒化物系、およびこれらの混合系である酸窒化物系、酸硫化物系がある。硫化物には、たとえば、Li2S、Li2SとSiS2の化合物、Li2SとGeS2の化合物、およびLi2SとGa23の化合物がある。酸窒化物には、たとえば、Li3PO4-x2x/3、Li4SiO4-x2x/3、Li4GeO4-x2x/3(0<x<4)、Li3BO3-x2x/3(0<x<3)がある。特に本発明は、無機固体電解質として、リチウムを含む化合物、あるいはリチウムを含む硫化物を使用する薄膜の形成に効果的である。
【0031】
典型的に、硫化物系の無機固体電解質は、次のA〜Cに示した成分を含有する。
A:原子百分率で20%以上65%以下のリチウム、
B:リン、ケイ素、ホウ素、ゲルマニウムおよびガリウムよりなる群から選ばれた1種類以上の元素、ならびに
C:イオウ。
【0032】
さらに、上記硫化物系の無機固体電解質は、酸素または窒素の少なくとも一方を含有してもよい。元素Bの含有量は、原子百分率で、典型的に0.1%〜30%である。元素Cの含有量は、原子百分率で、典型的に20%〜60%である。酸素または窒素の一方または両方の含有量は、典型的に0.1%〜10%である。上述した無機固体電解質の原料は、その元素を含む硫化物、リン酸塩等であり、たとえば、LiS2、SiS2、GeS2、Li3PO4等である。
【0033】
本発明により形成される無機固体電解質薄膜の厚みは、典型的に0.01μm以上10μm以下であり、好ましくは0.1μm以上2μm以下である。一般に、無機固体電解質からなる薄膜は非晶質である。
【0034】
本発明は、たとえば、リチウム電池用電極部材、特にリチウム二次電池用負極部材の製造に適用できる。そのような部材の製造において、気相法により基材上にリチウムまたはリチウム合金からなる薄膜を形成した後、得られたリチウム電池用負極部材上に、無機固体電解質からなる薄膜を、適当な方法たとえば気相成長法により形成して、リチウム二次電池用負極を得ることができる。あるいは、リチウムまたはリチウム合金を表面に少なくとも有する基材上に、無機固体電解質からなる薄膜を、適当な方法たとえば気相成長法により形成して、リチウム二次電池用負極を得ることができる。
【0035】
また、本発明において、上記成膜装置または上記チャンバーの内壁は、リチウムと反応しないように、スズ、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、亜鉛、イオウ、窒素および炭素のいずれかを主成分として含有しないステンレス鋼または銅合金からなることが好ましい。
【実施例1】
【0036】
実施例1
基材として厚み10μmで100mm×50mmの銅箔上を使用し、この基材上に厚みが10μmのリチウム金属薄膜を真空蒸着法により形成した。ここで基材となる銅箔およびリチウム金属原料の成膜装置への搬入、および作製したリチウム薄膜を有する基材の取り出しは、以下のようにして行った。
【0037】
図1は、当該実施例に使用した設備全体の模式図である。設備10は、成膜装置11をその中に収容する装置室12、装置室12に隣接する第1予備室21および第2予備室22からなる。装置室12内は純度99.99%のアルゴンガスで満たされており、装置室12内の雰囲気の露点は、作業中および成膜中、−55℃〜−60℃であった。装置室12内は、ガス循環精製装置により、絶えず露点−40℃以下になるように管理されている。
【0038】
なお、装置室12の内壁の材質は、リチウムと反応しないように、スズ、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、亜鉛、イオウ、窒素および炭素のいずれかを主成分として含有しないステンレス鋼または銅合金であることが望ましい。典型的に、そのようなステンレス鋼または銅合金は、主要成分として上記元素を含有していないSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼または銅−ニッケル合金である。
【0039】
装置室12内のガス置換をするとき、装置室12をローターリーポンプ、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプ(図示せず)で真空引きする必要があるが、残留ガスに含まれる水分によるリチウムおよび硫化物系無機固体電解質の劣化を防ぐため、その到達真空度は1.33×10-2Pa(1×10-4Torr)以下であることが望ましい。そのような真空度の真空中に純度99.99%以上のアルゴンガスを導入すれば、リチウムおよび硫化物系無機固体電解質を劣化させない露点が−40℃以下の雰囲気が得られる。
【0040】
薄膜形成にあたり、まず、ガラスやプラスチック等の密閉容器中に入れたリチウム金属原料と銅箔基材を、装置室12に隣接した第1予備室21に入れた後、予備室21内を真空(好ましくは1.33×10-2Pa以下の真空)にし、次いで、純度99.99%のアルゴンガスで満たす。第1予備室21にはグローブ(図示せず)が取りつけられており、グローブに手を入れて、第1予備室21内で作業することができる。第1予備室21内で密閉容器を空け、リチウム金属原料および銅箔基材を取り出す。第1予備室21と装置室12との間に設けられた入口扉をあけ、リチウム金属原料および銅箔基材を装置室12内に入れ、扉を閉める。
【0041】
図2に示すように、装置室12にはグローブ13が取りつけられており、グローブ13に手を入れて、作業し、成膜装置11内にリチウム金属原料および銅箔基材をセットする。なお、グローブは、図2では2つしか示されていないが、十分に作業できるように必要に応じて3以上取り付けることができる。グローブは、リチウムと反応しないよう、ブチルゴム製である。
【0042】
リチウム金属原料および銅箔基材がセットされた成膜装置11において、銅箔上にリチウム金属からなる薄膜を真空蒸着法により形成する。成膜装置11の到達真空度は、残留ガス中の水分によるリチウムの劣化を防ぐため、1.33×10-2Pa(1×10-4Torr)、好ましくは1.33×10-6Pa(1×10-8Torr)とされる。
【0043】
成膜後、成膜装置11の真空を破り、リチウム金属薄膜を有する製品を成膜装置11から取り出す。成膜後の成膜装置における真空容器のリークには、アルゴンガスボンベ等から直接ガスを注入しても良いが、図3のように成膜装置11の真空容器(図示せず)と装置室12とを配管系14でつなぎ、装置室12内の気体を成膜装置11に導入して真空を破ることができる。図3に示すような工夫をすることにより、配管からの大気混入の危険が少なくなり、製品の劣化が防げる。
【0044】
成膜終了後、成膜装置11より取り出された製品を、装置室12において、ガラスやプラスチック等の密閉容器に入れる。次に、装置室12と純度99.99%のアルゴンガスで満たされた第2予備室22との間の扉(図示せず)を開けて、製品を収容する密閉容器を第2予備室22へ移し、装置室12と第2予備室22との間の扉を閉じる。第2予備室にもグローブ(図示せず)が取りつけられており、グローブに手を入れて、第2予備室内でも作業ができる。
【0045】
最後に、リチウム薄膜を有する製品を収容した密閉容器を大気中に取り出す。このようにすれば、大気に触れさせることなく、製品を成膜装置より取り出すことができ、別の場所へ持ち運びすることができる。
【0046】
また、このような設備10では、上述したように装置室12内の露点を−40℃以下にして、装置室12のグローブ13に手を入れて作業することにより、成膜装置11の清掃や部品交換などのメンテナンス作業を、大気に触れさせずに安全に行うことができる。
【0047】
なお、ここでは予備室を2つに分けたが、第1と第2の予備室を1つにすることも可能である。また、−40℃以下の露点の雰囲気を形成するガスには、適宜、ヘリウムガス、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスのうちのいずれか、またはこれらの2種以上の混合ガスを用いることができ、どれを用いても問題はない。さらに、装置室12の大きさを、成膜装置を設置するだけでなく、図4のように人が入れる大きさとしてもよい。このときは、グローブにより作業するのではなく、成膜装置41を収容する装置室42内に人43が入って作業することになる。ただし、人43から発生する水分による装置室42内の雰囲気劣化を防ぐため、人は潜水服あるいは宇宙服のような水分や酸素を通さない装備44を着用する必要がある。また、人43が呼吸するのに必要な酸素は、酸素ボンベ45から供給する。
【0048】
実施例2
厚み10μmで100mm×50mmの銅箔に、厚みが30μmで同じサイズのリチウム金属箔を貼り合わせた。このリチウム金属箔上に、Li2S、SiS2、Li3PO4の原料を用いて、真空蒸着法により、1μm厚さの65Li2S−34.5SiS2−0.5Li3PO4の無機固体電解質からなる薄膜を形成した。この薄膜はX線回折測定により非晶質であることがわかった。
【0049】
原料と基材の搬入方法および薄膜を有する製品の取り出し方法は実施例1と同じである。
【0050】
得られた薄膜を有する製品を負極として、リチウム二次電池を作製し評価した。エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶液を加熱し、それにポリアクリロニトリル(PAN)を高濃度に溶解させたものを冷却して、LiPF6が溶解されたECおよびPCを多量に含有するPANを作製した。このPAN中に、活物質となるLiCoO2粒子、および電子伝導性を付与する炭素粒子を混合し、20μm厚のアルミ箔(正極集電体)上に300μmの厚みで塗布して正極とした。
【0051】
固体電解質薄膜を形成した負極、セパレータ(多孔質ポリマーフィルム)、および正極を、ステンレス製容器中に重ねて設置し、さらにエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶液に電解塩として1モル%のLiPF6を溶解させた有機電解液を滴下して、露点−60℃のアルゴンガス雰囲気下において密封し、リチウム二次電池を作製した。
【0052】
作製した電池の充放電特性を評価した。充電電圧を4.2Vとして、100mA放電により、3.5Vまで電圧が低下するまでの容量は0.5Ah(アンペア時)であった。また、エネルギー密度は、490Wh(ワット時)/l(リットル)であった。さらに同一の条件での100回のサイクル充放電でも安定であった。
【0053】
実施例3
厚み10μmで100mm×50mmの銅箔上に、厚みが10μmのリチウム金属薄膜を真空蒸着法で形成し、さらにその上にLi2S、SiS2、Li3PO4の原料を用いて、真空蒸着法により、1μm厚さの65Li2S−34.5SiS2−0.5Li3PO4の無機固体電解質からなる非晶質薄膜を形成した。
【0054】
原料と基材の搬入方法および薄膜を有する製品の取り出し方法は実施例1と同じである。
【0055】
実施例2と同様に、薄膜を有する製品を負極として、リチウム二次電池を作製し評価した。充電電圧を4.2Vとして、100mA放電により、3.5Vまで電圧が低下するまでの容量は0.5Ah(アンペア時)であった。また、エネルギー密度は、500Wh(ワット時)/l(リットル)であった。さらに同一の条件での100回のサイクル充放電でも安定であった。
【0056】
なお、実施例1〜3では、薄膜作製手法として真空蒸着法を用いたが、スパッタリング法、レーザアブレーション法、イオンプレーテイング法なども用いることができる。また、実施例3では、リチウム金属薄膜と無機固体電解質薄膜を同じ手法で形成したが、異なる手法で形成しても良い。
【符号の説明】
【0057】
10 薄膜製造設備、11 成膜装置、12 装置室、13 グローブ、14 配管系、21 第1予備室、22 第2予備室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含む薄膜および/または無機固体電解質を含む薄膜を製造する方法であって、
薄膜製造工程において前記アルカリ金属または前記無機固体電解質もしくはその原料と接触する雰囲気の露点を−40℃以下とすることを特徴とする、薄膜製造方法。
【請求項2】
1.33×10-2Pa以下の真空を形成し、次いで、形成された前記真空中に前記アルカリ金属および/または前記無機固体電解質もしくはその原料に不活性な純度99.99%以上のガスを導入することにより、前記−40℃以下の露点を有する雰囲気を形成することを特徴とする、請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
成膜装置と、前記成膜装置で使用する原料および/もしくは基材ならびに/または前記成膜装置からの製品を通過させるチャンバーとを使用し、
前記チャンバー内の雰囲気の露点を−40℃以下とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記成膜装置は、真空下で成膜を行うものであり、
成膜後、前記成膜装置内の真空を破るため、前記チャンバー内の雰囲気を前記成膜装置に導入することを特徴とする、請求項3に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属を含む原料、基材および製品の少なくともいずれかを、ブチルゴム製のグローブを介して取り扱うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜、またはリチウムの硫化物を含む無機固体電解質からなる薄膜を製造する方法であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜、およびリチウムの硫化物を含む無機固体電解質からなる薄膜を製造する方法であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の薄膜製造方法を実施するための設備であって、
成膜装置と、
露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段とを備えることを特徴とする、薄膜製造設備。
【請求項9】
前記成膜装置で使用する原料および/もしくは基材ならびに/または前記成膜装置からの製品を通過させるチャンバーを備え、
前記露点が−40℃以下である雰囲気を形成するための手段は、前記チャンバーと接続されていることを特徴とする、請求項8に記載の薄膜製造設備。
【請求項10】
前記成膜装置は前記チャンバー内に設けられていることを特徴とする、請求項9に記載の薄膜製造設備。
【請求項11】
前記チャンバーは前記成膜装置に隣接して設けられ、
前記チャンバーと前記成膜装置とは接続されていることを特徴とする、請求項9に記載の薄膜製造設備。
【請求項12】
前記成膜装置は、真空下で成膜を行うものであり、
前記成膜装置と前記チャンバーとは配管系でつながれており、
前記配管系は、成膜後、前記チャンバー内の雰囲気を前記成膜装置に導入して前記成膜装置内の真空を破るためものであることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の薄膜製造設備。
【請求項13】
アルカリ金属を含む原料、基材および製品の少なくともいずれかを、取り扱うためのブチルゴム製のグローブが前記チャンバーに設けられていることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の薄膜製造設備。
【請求項14】
リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜、またはリチウムの硫化物を含む無機固体電解質からなる薄膜を製造する設備であることを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の薄膜製造設備。
【請求項15】
リチウム金属またはリチウム合金からなる薄膜、およびリチウムの硫化物を含む無機固体電解質からなる薄膜を製造する設備であることを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の薄膜製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−26707(P2011−26707A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204322(P2010−204322)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【分割の表示】特願2001−12949(P2001−12949)の分割
【原出願日】平成13年1月22日(2001.1.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】