説明

薄膜試料分析装置及び薄膜試料分析方法

【課題】膜厚に起因するピークシフトの影響を除去することである。
【解決手段】薄膜試料Wに向かって電子線を照射する電子線照射部と、前記電子線の照射によって薄膜試料Wから発生する光)Lを分光し、検出する光検出部と、前記光検出部からの出力信号を受信して光)Lのスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出するピーク波長算出部41と、膜厚既知の標準試料により得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長である基準ピーク波長との関係を示す基準データを格納する基準データ格納部D1と、前記基準データから前記薄膜試料Wの膜厚に対する基準ピーク波長を算出する基準ピーク波長設定部42と、前記測定ピーク波長及び前記基準ピーク波長をパラメータとして、前記薄膜試料Wの状態を分析する分析部43と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜試料に電子線やレーザ光線等を照射して発生する光を検出し、その光のスペクトルに基づいて前記薄膜試料に作用している応力等を分析する薄膜試料分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の薄膜試料分析装置としては、特許文献1に示すように、電子線を薄膜試料に照射し、そのときに発生するルミネッセンス(発光)のスペクトル変化に基づいて、前記電子線を照射された部位に作用している応力を測定するものが知られている。このような装置は、応力が作用していない状態でのスペクトルを基準とし、その基準スペクトルからの応力印加状態におけるスペクトルの変化量、より具体的には、スペクトルのピーク波長のシフト量に基づいて、電子線照射ポイントに作用している応力値を定量的に算出するものである。また、試料のある程度の面積エリアに作用している応力を測定するには、マッピング測定、すなわち、電子線をそのエリアで走査させ、走査した多数のポイントから得られる各光のスペクトルのピークシフト量にそれぞれ基づいてそのエリアでの応力印加状態を算出するようにしている。
【特許文献1】特開2003−14671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような中で、本願発明者は、薄膜試料の膜厚によって、前記ルミネッセンス等のスペクトルのピーク波長がシフトする(ピーク位置が変化する)ことを見出した。これは、ルミネッセンス同士の干渉によって生じると考えられる。
【0004】
さらに、応力の違いによって生じるピークシフト量よりも、膜厚の違いによって生じるピークシフト量の方が大きく、その結果、応力によるピークシフト量が、膜厚によるピークシフト量に埋もれてしまい、応力を的確に測定することができないことを見出した。
【0005】
そして本発明は、上記発見に基づいて本願発明者の鋭意検討の結果なされたものであり、膜厚に起因するピークシフトの影響を除去すること、また、上記発見に基づく新しい原理を用いた膜厚測定を行うことをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係る薄膜試料分析装置は、薄膜試料に電子線を照射して生じる発光を検出し、その発光のスペクトルのピーク波長に基づいて、前記薄膜試料を分析する薄膜試料分析装置であって、前記薄膜試料に向かって電子線を照射する電子線照射部と、前記電子線の照射によって薄膜試料から発生する発光を分光し、検出する光検出部と、前記光検出部からの出力信号を受信して、前記薄膜試料から発生する発光のスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出するピーク波長算出部と、予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す基準データを格納する基準データ格納部と、前記基準データが示す関係から前記薄膜試料の膜厚における基準ピーク波長を設定する基準ピーク波長設定部と、前記測定ピーク波長及び前記基準ピーク波長をパラメータとして、前記薄膜試料を分析する分析部と、を備えていることを特徴とする。ここで、予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す基準データは、例えば膜厚既知の標準試料を測定して求めたもの、又は理論上計算により求めたものが考えられる。
【0007】
このようなものであれば、膜厚に起因するピークシフトの影響を除去することができ、その結果、薄膜試料中に膜厚の異なる領域がある場合でも、また、膜厚の異なる薄膜試料を測定する場合でも、応力、キャリア濃度、不純物分布、組成分布、バンドギャップ等のエネルギ状態を求める測定を的確に行うことができる。
【0008】
前記分析部の具体的な実施の態様としては、前記分析部が、前記基準ピーク波長から前記測定ピーク波長を差し引いて得られたピークシフト量に基づいて前記薄膜試料を分析することが望ましい。
【0009】
薄膜試料の膜厚を自動的に入力することができるようにするためには、前記薄膜試料の膜厚を測定する膜厚測定部をさらに備えていることが望ましい。
【0010】
また、本発明に係る薄膜試料分析装置は、薄膜試料に向かって電子線を照射する電子線照射部と、前記電子線の照射によって薄膜試料から発生する発光を分光し、検出する光検出部と、前記光検出部からの出力信号を受信して、前記薄膜試料から発生する発光のスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出する測定ピーク波長算出部と、予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す基準データを格納する基準データ格納部と、前記基準データが示す関係から前記測定ピーク波長に対する膜厚を算出する膜厚算出部と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、スペクトルのピーク波長を測定することによって、薄膜試料の膜厚を算出することができるようになる。
【0012】
さらに、本発明の薄膜試料分析方法は、薄膜試料の膜厚情報を取得する膜厚情報取得ステップと、前記薄膜試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出する測定ピーク波長算出ステップと、予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係から、前記測定試料の膜厚における基準ピーク波長を設定する基準ピーク波長設定ステップと、前記測定ピーク波長及び前記基準ピーク波長をパラメータとして、前記薄膜試料を分析する分析ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0013】
膜厚既知の標準試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルのピーク波長を算出し、前記標準試料における膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を作成する関係作成ステップをさらに備えていることが望ましい。
【0014】
また、本発明の薄膜試料分析方法は、薄膜試料に電子線を照射して発生する発光を検出し、その発光のスペクトルのピーク波長に基づいて前記薄膜試料の膜厚を測定することを特徴とする。
【0015】
具体的な薄膜試料の膜厚測定方法としては、薄膜試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルの測定ピーク波長を算出する測定ピーク波長算出ステップと、予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係から、測定ピーク波長における膜厚を算出する膜厚算出ステップと、を備えていることが望ましい。
【0016】
膜厚既知の標準試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルのピーク波長を算出し、前記標準試料における膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を作成する関係作成ステップをさらに備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、膜厚に起因するピークシフトの影響を除去することができ、また、従来にない原理によって膜厚を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<第1実施形態>
【0019】
以下に、本発明に係る薄膜試料分析装置100の第1実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図1は、本実施形態に係る薄膜試料分析装置100の模式的機器構成図であり、図2は情報処理装置4の模式的構造図であり、図3は情報処理装置4の機能ブロック図である。また、図4は標準試料を用いて作成した膜厚波長曲線(関係式)を示す図である。図5は、本実施形態の薄膜試料分析装置100を用いた応力測定手順を示すフローチャートである。
【0020】
<装置構成>
【0021】
本実施形態にかかる薄膜試料分析装置100は、測定試料である薄膜試料Wの所定エリアにエネルギ線である電子線EBを走査し、薄膜試料Wの各ポイントから発生する光(ルミネッセンス)Lのスペクトルのピーク波長及び/又はピークシフト量に基づいて前記薄膜試料Wに作用している応力を算出するとともに、そのエリアの応力分布イメージ画像を表示する応力測定装置である。エネルギ線としては、電子線EBの他に、可視レーザ光等の光やX線等が考えられる。そして構造的にいえばこの薄膜試料分析装置100は、図1に示すように、試料台1と、その試料台1に載せた薄膜試料Wに電子線EBを照射する電子線照射装置2と、電子線EBの照射によって薄膜試料Wから発生するルミネッセンス(発光)Lを分光し、検出する光検出部たる検出装置3と、その検出装置3からの出力信号を受信し、前記薄膜試料Wに生じている応力を算出する等の演算処理を行う情報処理装置4とを備えている。なお、本実施形態の薄膜試料Wは、例えばパターン形成されたシリコン基板と、当該シリコン基板上に成膜されたシリコン酸化膜(SiO膜)とからなる。また、シリコン酸化膜(SiO膜)の膜厚は、電子線EBの照射により発生するルミネッセンスLのうち、シリコン基板により反射されたルミネッセンスLが膜外に射出して、直接膜外に射出されるルミネッセンスLと干渉する程度の膜厚である。
【0022】
以下、各部について説明する。
【0023】
試料台1は、X軸及びY軸方向に移動可能なものであり、本実施形態では後述するように試料スペクトルのピーク半値幅を適当な幅にし、前記スペクトルから意味のある情報を得るために、図示しない温度調整機構をさらに設け、この試料台1及び薄膜試料Wを所定温度に保つことができるようにしている。ここで、半値幅が小さく鋭いピークであれば、膜厚によるピーク波長のシフトは判断しにくいため、半値幅は、ピーク波長のシフトが検出できる程度に大きいブロードなピークである必要がある。そのため、前記温度調節機構を設けて半値幅を調整している。
【0024】
電子線照射装置2は、例えば走査型のもので、電子線照射部である電子銃21と、電子銃21から射出された電子線EBを薄膜試料Wの測定部位に収斂させるとともに走査させるコンデンサレンズ、アパーチャ等のレンズ機構からなる電子線走査部22とを備えている。なお本実施形態では前記電子銃21に熱フィラメント電界開放型のものを用いている。
【0025】
検出装置3は、集光部31、分光部32及びセンシング部33を備えたものである。集光部31は、薄膜試料Wから発生するルミネッセンスLを最小限の損失で集め分光部に導くものであり、例えば楕円面鏡311や光ファイバ312等からなる。その一方で楕円面鏡311は、結像倍率が機械的配置条件から決まるため、分光部32とのカップリングがうまくいかない欠点を有する。そこでこれを解消し、なおかつ光軸調整を簡単にするということから前記光ファイバ312を用い、楕円面鏡311で集光したルミネッセンスLを分光部32に転送するようにしている。もちろんその他に放物面鏡を用いたものやレンズを用いたものでも構わないのは言うまでもない。
【0026】
分光部32は、前記集光部31で集光されたルミネッセンスLを単色光に分離するもので、例えばモノクロメータを利用して構成している。
【0027】
センシング部33は、前記分光部32で波長毎に複数に分光された各単色光の強度をそれぞれ測定し、各単色光の強度に応じた値の電流値(又は電圧値)を有する出力信号を出力するものである。本実施形態ではこのセンシング部33をフォトマルチプライヤ(PMT)を用いて構成しているが、測定する波長領域によって使用する機器を変えても構わない。例えば赤外(1μm〜)においては、Ge検出器、Pbs検出器、赤外PMT等を用いることが好ましい。また、光−電子変換効率、ダイナミックレンジ、S/Nに優れているといったことからCCDを利用してもよい。CCDによればスペクトルの一括検出も可能である。
【0028】
情報処理装置4は、構造としては図2に示すように、CPU、メモリ、入出力インタフェース、AD変換器、入力手段等からなる汎用又は専用のコンピュータである。そして、前記メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器が作動することにより、この情報処理装置4が、図3に示すように、ピーク波長算出部41と、基準データ格納部D1、膜厚データ格納部D2、基準ピーク波長設定部42及び分析部である応力算出部43等としての機能を少なくとも発揮する。
【0029】
ピーク波長算出部41は、前記検出装置からの出力信号をA/D変換するAD変換器等を含んで構成されるもので、受信した出力信号をA/D変換し、走査した各測定ポイントで発生するルミネッセンスLのスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出する。そして、この測定ピーク波長を示す測定ピーク波長データを測定したポイントの位置情報と関連付けて、応力算出部43に出力する。
【0030】
基準データ格納部D1は、前記メモリの所定領域に設定されたものであり、膜厚既知の標準試料により得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す基準データを格納する。
【0031】
基準データは、応力が実質的にゼロ、又は試料W内で均一な分布を持つ一定の応力を有し、その膜厚が既知の標準薄膜試料を用いて作成されたものであり、図4に示すように、各膜厚におけるピーク波長の関係(関係式)である膜厚波長曲線を示すものである。薄膜試料Wが一定の応力を有する場合、その応力値は予め一般的な応力測定手段により計測しておく。本実施形態において、基準データは、本実施形態の装置100を用いて予め得られたものである(図3中の点線)。なお、別の装置により得られたものを基準データ格納部D1に格納しても良い。また、基準データは、複数の膜厚領域を有する1つの標準試料を用いて作成しても良いし、異なる膜厚を有する複数の標準試料を用いて作成しても良い。
【0032】
膜厚データ格納部D2は、前記メモリの所定領域に設定されたものであり、測定試料である薄膜試料Wの各ポイントにおける膜厚を示す膜厚データを格納するものである。膜厚データは、予め薄膜試料Wの膜厚を測定したデータを入力手段等により記憶させておくことが考えられる。膜厚測定は本装置内で行っても良いが、他の膜厚測定専用機による測定で得られたデータを入力しても構わない。
【0033】
基準ピーク波長設定部42は、膜厚データ格納部D2から各ポイントにおける膜厚データを取得するとともに、前記基準データ格納部D1から基準データを取得して、基準データの示す膜厚波長曲線(関係式)から薄膜試料Wの測定ポイントの膜厚における基準ピーク波長を設定する。
【0034】
具体的に基準ピーク波長設定部42は、測定ポイントにおける膜厚が例えば約200(nm)であれば、その膜厚における基準ピーク波長を約662.32(nm)と設定する(図4参照)。
【0035】
応力算出部43は、前記測定ピーク波長及び前記基準ピーク波長をパラメータとして、前記薄膜試料WのSiO膜に作用する応力を算出する。より詳細には、応力算出部43は、ピーク波長算出部41から各測定ポイントの測定ピーク波長データを取得するとともに、基準ピーク波長設定部42から前記測定ポイントにおける基準ピーク波長データを取得して、ピークシフト量を算出して、応力を算出する。つまり、応力算出部43は、まず、基準ピーク波長をλrefとし、測定ピーク波長をλmasとすると、Δλstress=λref−λmasにより、応力に起因するピークシフト量Δλstressを算出する。この式により、膜厚に起因するピークシフト量を除去する。そして、応力算出部43は、Δλstress=Πσ(ここで、ΠはPS(Piezo-Spectroscopic)係数と呼ばれ、応力のみに依存して位置に依存しないテンソルである。σは応力である。)により、応力を算出し、その応力算出データをディスプレイ等に出力する。
【0036】
<応力測定手順>
【0037】
次にこのように構成した薄膜試料分析装置100を用いた応力測定手順を図5を参照しつつ説明する。
【0038】
まず、標準試料に電子線EBを照射して、標準試料における膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係式である膜厚波長曲線を作成する(関係作成ステップ:ステップSa1)。このとき、検出装置3から出力信号を受信したピーク波長算出部41は、標準試料の各膜厚におけるピーク波長をその膜厚に対応付けて基準データ格納部D1に出力する。
【0039】
また、薄膜試料Wの膜厚情報を取得する(膜厚情報取得ステップ:ステップSa2)。このとき、膜厚データ格納部D2は、薄膜試料Wの膜厚データを取得する。本実施形態では、予め薄膜試料Wの膜厚を測定したデータを入力手段等により記憶させる。
【0040】
その後、薄膜試料Wに電子線EBを走査しながら照射して、各測定ポイントにおけるルミネッセンスLのスペクトルの測定ピーク波長を算出する(測定ピーク波長算出ステップ:ステップSa3)。このとき、検出装置3から出力信号を受信したピーク波長算出部41は、薄膜試料Wの各測定ポイントにおける測定ピーク波長を算出し、その測定ピーク波長データを応力算出部43に出力する。
【0041】
次に、膜厚波長曲線(関係式)から、薄膜試料Wの膜厚における基準ピーク波長を設定する(基準ピーク波長設定ステップ:ステップSa4)。このとき、基準ピーク波長設定部42は、膜厚データ格納部D2から膜厚データを取得するとともに、前記基準データ格納部D1から基準データを取得して、基準データの示す膜厚波長曲線(関係式)から薄膜試料Wの膜厚における基準ピーク波長を設定し、その基準ピーク波長データを応力算出部43に出力する。
【0042】
次に、基準ピーク波長から前記測定ピーク波長を差し引いて得られたピークシフト量に基づいて前記薄膜試料WのSiO膜に作用する応力を算出する(分析ステップ:ステップSa5)。このとき、応力算出部43は、測定ピーク波長データ及び基準ピーク波長データを取得して、ピークシフト量を計算し、応力を算出して、その応力データをディスプレイに出力する。
【0043】
なお、関係作成ステップと膜厚情報取得ステップとは、逆であっても良い。また、各測定ポイントの照射が終わる毎に、基準ピーク波長を算出し、当該ポイントの応力を算出するようにしても良いし、全ての測定ポイントの照射が終わった後に各ポイントにおける基準ピーク波長を算出し、応力を算出するようにしても良い。
【0044】
<第1実施形態の効果>
【0045】
このように構成した本実施形態に係る薄膜試料分析装置100によれば、膜厚に起因するピークシフト除去することができ、応力に起因するピークシフト量が、膜厚に起因するピークシフト量に埋もれることがないので、膜厚のピークシフトによる測定誤差を可及的に抑制することができる。その結果、薄膜試料Wにおける応力測定を精度良く行うことができる。
【0046】
<第2実施形態>
【0047】
次に、本発明に係る薄膜試料分析装置100の第2実施形態について説明する。なお、図6は本実施形態の薄膜試料分析装置100の情報処理装置4の機能ブロック図であり、図7は本実施形態の薄膜試料分析装置100を用いた膜厚測定手順を示すフローチャートである。
【0048】
本実施形態の薄膜試料分析装置100は、測定試料である薄膜試料Wの所定エリアにエネルギ線である電子線EBを走査し、薄膜試料Wの各ポイントから発生する光(ルミネッセンス)Lのスペクトルのピーク波長に基づいて薄膜試料Wの膜の厚さを算出する膜厚測定装置である。そして構造的にいえばこの薄膜試料分析装置100は、前記第1実施形態と同様、図1に示すように、試料台1と、その試料台1に載せた薄膜試料Wに電子線である電子線EBを照射する電子線照射装置2と、電子線EBの照射によって薄膜試料Wから発生するルミネッセンスLを分光し、検出する光検出部たる検出装置3と、その検出装置3からの出力信号を受信し、前記薄膜試料Wの膜厚を算出する等の演算処理を行う情報処理装置4とを備えている。本実施形態の薄膜試料Wは、シリコン基板と、当該シリコン基板上に成膜されたシリコン酸化膜(SiO膜)とからなる。
【0049】
しかして本実施形態の薄膜試料分析装置100は、図2に示すように、CPU、メモリ、入出力インタフェース、AD変換器、入力手段等からなる汎用又は専用のコンピュータである。そして、前記メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器が作動することにより、この情報処理装置4が、図3に示すように、ピーク波長算出部41と、基準データ格納部D1、及び分析部である膜厚算出部44等としての機能を少なくとも発揮する。
【0050】
ピーク波長算出部41は、前記検出装置3からの出力信号をA/D変換するAD変換器等を含んで構成されるもので、受信した出力信号をA/D変換し、走査した各測定ポイントで生じるルミネッセンスLのスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出する。そして、この測定ピーク波長を示す測定ピーク波長データを測定したポイントの位置情報と関連付けて、膜厚算出部44に出力する。
【0051】
基準データ格納部D1は、前記メモリの所定領域に設定されたものであり、膜厚既知の標準試料により得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長である基準ピーク波長との関係を示す基準データを格納する。なお基準データは、前記第1実施形態と同様である。
【0052】
膜厚算出部44は、前記基準データの示す膜厚波長曲線(関係式)から前記測定ピーク波長における前記薄膜試料WのSiO膜の膜厚を算出する。より詳細には、膜厚算出部44は、ピーク波長算出部41から各測定ポイントの測定ピーク波長データを取得するとともに、基準データ格納部D1から基準データを取得して、SiO膜の膜厚を算出する。
【0053】
つまり、膜厚算出部44は、測定ピーク波長が例えば約662.15(nm)であれば、基準データの示す膜厚波長曲線から膜厚が約250(nm)であると算出する(図4参照)。そして、膜厚算出部44は、その膜厚データをディスプレイに出力する。ここで、図4から明らかなように、測定ピーク波長が約662.15(nm)のとき、膜厚の候補としては、約170(nm)と約250(nm)との2つが考えられる。薄膜試料Wの膜厚は、ある程度予想可能であり、その膜厚の予想範囲を示す範囲データを予め膜厚算出部44に入力しておくことにより、膜厚算出部44は、膜厚予想範囲(例えば220(nm)〜260(nm))内の値を膜厚と判断する。また、膜厚算出部44に予想範囲データを入力しない場合であれば、膜厚算出部44は、複数の値を算出することになりうるが、膜厚算出部44が算出した複数の値からオペレータ(人)が判断するようにしても良い。
【0054】
<膜厚測定手順>
【0055】
まず、標準試料に電子線EBを照射して、標準試料における膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す膜厚波長曲線(関係式)を作成する(関係式作成ステップ:ステップSb1)。このとき、検出装置3から出力信号を受信したピーク波長算出部41は、標準試料の各膜厚におけるピーク波長をその膜厚に対応付けて基準データ格納部D1に出力する。
【0056】
次に、薄膜試料Wに電子線を走査しながら照射して、各測定ポイントにおけるルミネッセンスLのスペクトルの測定ピーク波長を算出する(測定ピーク波長算出ステップ:ステップSb2)。このとき、検出装置から出力信号を受信したピーク波長算出部41は、薄膜試料Wの各測定ポイントにおける測定ピーク波長を算出し、その想定ピーク波長データを膜厚算出部44に出力する。
【0057】
その後、膜厚波長曲線及び測定ピーク波長により、前記薄膜試料Wの膜厚を算出する(膜厚算出ステップ:ステップSb3)このとき、膜厚算出部44は、測定ピーク波長データ及び基準データを取得して、膜厚を算出する。なお、応力によるピーク波長のシフトは、膜厚によるピーク波長のシフトよりも小さいと考えられるので、応力によるピーク波長のシフトは無視している。
【0058】
<第2実施形態の効果>
【0059】
このように構成した本実施形態に係る薄膜試料分析装置100によれば、膜厚によってピーク波長がシフトするという発見に基づいて、新しい原理を用いた膜厚測定を行うことができる。
【0060】
<その他の変形実施形態>
【0061】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0062】
解析対象としては、前記のSiO膜に限定されず、ルミネッセンスL等の情報が得られれば、他の絶縁体、半導体でも良い。基板はシリコン基板に限定されず、或いは無くても良い。
【0063】
例えば、前記第1実施形態に関して言うと、図8に示すように、薄膜試料分析装置100が薄膜試料Wの膜厚を測定するエリプソメータ等の膜厚測定部5を備えるものであっても良い。この場合、図8に示すように、膜厚測定部5からの膜厚データを基準ピーク波長設定部42が受信しても良いし、前記実施形態のように一旦膜厚データ格納部D2に記憶させるようにしても良い。また、このとき、膜厚測定部5により、膜厚を測定しながら電子線EBを照射して測定ピーク波長を算出するようにしても良い。
【0064】
また、前記第1実施形態の薄膜試料分析装置100は、薄膜試料Wの膜に作用する応力を測定するものであったが、その他、薄膜試料W中のキャリア濃度、不純物分布、組成分布、バンドギャップ等のその他のエネルギ状態を測定するものであっても良い。
【0065】
さらに、前記第2実施形態に関して言うと、薄膜試料Wの膜厚はある程度予想可能なものであり、膜厚算出部44は、予想膜厚範囲に基づいて複数の値から1つの膜厚を算出するものであったが、例えば薄膜試料Wの膜厚が予想できないような場合、膜厚範囲データが入力されない場合には、次のものであっても良い。
【0066】
つまり、膜厚算出部44が、異なるピーク波長それぞれの膜厚との関係式(膜厚波長曲線)に基づいて複数の値から重複する値を膜厚を算出する。この場合、具体的には、基準データ格納部D1は、標準試料における異なるピーク波長それぞれの膜厚との関係式を示す基準データを格納している。異なるピーク波長それぞれの膜厚との関係式(膜厚波長曲線)は、図9に示すように異なる。
【0067】
また、ピーク波長算出部41は、薄膜試料Wから生じたルミネッセンスLのスペクトルにおいて、2つの異なる測定ピーク波長を算出する。そして、膜厚算出部44は、ピーク波長算出部41が算出した一方の測定ピーク波長と、その測定ピーク波長に対応する膜厚波長曲線とから、膜厚となりうる複数の値を算出する(図9(A)参照)。この図からすると、一方の測定ピーク波長から、d〜dの5つの値が得られる。また、膜厚算出部44は、ピーク波長算出部41が算出した他方の測定ピークと、その測定ピーク波長に対応する膜厚波長曲線とから、膜厚となりうる複数の値を算出する(図9(B)参照)。この図からすると、他方の測定ピーク波長から、d〜dの3つの値が得られる。そして、膜厚算出部44は、それら一方の測定ピーク波長から得られた複数の値(d〜d)と、他方の測定ピーク波長から得られた複数の値(d〜d)とを比較して、重複している値(d=d)を膜厚として算出する。
【0068】
その上、前記実施形態では、基準データは、膜厚既知の標準試料を測定して作成したものであったが、その他、予め理論上の計算により作成したものであっても良い。
【0069】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜試料分析装置を示す模式的構成図。
【図2】同実施形態における情報処理装置の模式的構造図。
【図3】同実施形態における情報処理装置の機能ブロック図。
【図4】標準試料を用いて作成した膜厚/ピーク波長検量線を示す図。
【図5】同実施形態における応力測定手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第2実施形態に係る薄膜試料分析装置の情報処理装置の機能ブロック図。
【図7】同実施形態における膜厚測定手順を示すフローチャート。
【図8】その他の変形実施形態に係る薄膜試料分析装置の情報処理装置の機能ブロック図。
【図9】その他の変形実施形態における膜厚算出方法を示す図。
【符号の説明】
【0071】
100・・・薄膜試料分析装置(応力測定装置、膜厚測定装置)
W ・・・薄膜試料
EB ・・・電子線
L ・・・光(ルミネッセンス)
21 ・・・電子線照射部(電子銃)
22 ・・・光検出部(検出装置)
41 ・・・ピーク波長算出部
D1 ・・・基準データ格納部
42 ・・・基準ピーク波長設定部
43 ・・・応力算出部(分析部)
44 ・・・膜厚算出部(分析部)
5 ・・・膜厚測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜試料に電子線を照射して生じる発光を検出し、その発光のスペクトルのピーク波長に基づいて、前記薄膜試料を分析する薄膜試料分析装置であって、
前記薄膜試料に向かって電子線を照射する電子線照射部と、
前記電子線の照射によって薄膜試料から発生する発光を分光し、検出する光検出部と、
前記光検出部からの出力信号を受信して、前記薄膜試料から発生する発光のスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出するピーク波長算出部と、
予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す基準データを格納する基準データ格納部と、
前記基準データが示す関係から前記薄膜試料の膜厚における基準ピーク波長を設定する基準ピーク波長設定部と、
前記測定ピーク波長及び前記基準ピーク波長をパラメータとして、前記薄膜試料を分析する分析部と、を備えている薄膜試料分析装置。
【請求項2】
前記分析部が、前記基準ピーク波長から前記測定ピーク波長を差し引いて得られたピークシフト量に基づいて前記薄膜試料を分析する請求項1記載の薄膜試料分析装置。
【請求項3】
前記薄膜試料の膜厚を測定する膜厚測定部をさらに備えている請求項1又は2記載の薄膜試料分析装置。
【請求項4】
薄膜試料に向かって電子線を照射する電子線照射部と、
前記電子線の照射によって薄膜試料から発生する発光を分光し、検出する光検出部と、
前記光検出部からの出力信号を受信して、前記薄膜試料から発生する発光のスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出する測定ピーク波長算出部と、
予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を示す基準データを格納する基準データ格納部と、
前記基準データが示す関係から前記測定ピーク波長に対する膜厚を算出する膜厚算出部と、を備えている薄膜試料分析装置。
【請求項5】
薄膜試料の膜厚情報を取得する膜厚情報取得ステップと、
前記薄膜試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルのピーク波長である測定ピーク波長を算出する測定ピーク波長算出ステップと、
予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係から、前記測定試料の膜厚における基準ピーク波長を設定する基準ピーク波長設定ステップと、
前記測定ピーク波長及び前記基準ピーク波長をパラメータとして、前記薄膜試料を分析する分析ステップと、を備えている薄膜試料分析方法。
【請求項6】
膜厚既知の標準試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルのピーク波長を算出し、膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を作成する関係作成ステップをさらに備えている請求項5記載の薄膜試料分析方法。
【請求項7】
薄膜試料に電子線を照射して発生する発光を検出し、その光のスペクトルのピーク波長に基づいて前記薄膜試料の膜厚を測定する薄膜試料分析方法。
【請求項8】
薄膜試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルの測定ピーク波長を算出する測定ピーク波長算出ステップと、
予め得られた膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係から、測定ピーク波長における膜厚を算出する膜厚算出ステップと、を備えている請求項7記載の薄膜試料分析方法。
【請求項9】
膜厚既知の標準試料に電子線を照射して発生する発光のスペクトルのピーク波長を算出し、前記標準試料における膜厚とその膜厚におけるピーク波長との関係を作成する関係作成ステップをさらに備えている請求項8記載の薄膜試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−74812(P2009−74812A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241619(P2007−241619)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】