説明

蠕動ポンプ

【課題】ローラヘッドを有する蠕動ポンプを作動させる方法を提供する。
【解決手段】本発明による方法は、本体22と、その本体に取り付けられたシート20にして少なくとも一つの成形流路26を含むシート20とを有するカセット18にローラヘッド14を作動可能に接続する段階、及びローラヘッド14に含まれた複数のローラ16が流路26に接触して該流路26を通る流体の流れを引き起こすようにローラヘッド14を回転させる段階、及びローラ16の位置を連続的に測定する段階、及び流路26を通る流体の流れを止めるようにローラ16を所定の位置に留置する段階にして、ローラの留置位置は連続的に測定されたローラの位置に基づいている、ローラ16を所定の位置に留置する段階、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね蠕動ポンプに関するものであり、より詳しくは眼科用手術機器において使用される蠕動ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大部分の先行技術の蠕動ポンプは、可撓性チューブのある長さを(ときには固定された軌道の間で)回転ローラーヘッドを使って圧縮または圧搾することによって作動する。前記ローラーヘッドが回転するとき、ローラーは、管の部分を締め付けてローラーの間の管内に閉じ込められた流体を回転の方向に押す。蠕動ポンプは、その予測可能で一定の流れの特性の故に医療用途で広く使用されている。しかしながら、この先行技術のシステムは、回転ローラーヘッド周りのポンプチューブ部を手動で連結させることを通常は必要とする。
【0003】
また、回転ローラーヘッドを使用する先行技術の蠕動ポンプは、典型的には不必要な圧力脈動も与える。この問題に対処するためにいくつかの脈動減衰装置が開発されてきた(特許文献1参照)。
【0004】
ベンチュリタイプ吸引ポンプを有する手術装置で使用されるカセットに関して、カセットが効果的な貯槽として機能するために、カセット内の流体のレベル(及び従って空体積)は、カセットが完全に満たされたり空になったりすることがないように制御されなければならない。吸引装置において流体がカセットを満たすと、流体はベンチュリの中へ引き込まれ、これは手術機器における真空レベルに容認できない妨害を与える。吸引装置における空のカセットは、ドレインバッグ内に送り込まれる空気という結果となり、前記空気は前記バッグ内の貴重な貯槽スペースを浪費する。更に、吸引装置におけるカセット内の一定の体積は、手術機器内の真空レベルのより精密な制御を可能にする。
【0005】
更に、カセット内の貯槽の大きさは、カセットの応答時間に影響を及ぼす。より大きな貯槽はより大きな貯蔵容量を提供するが、システムの応答時間を遅くする。より小さな貯槽はシステムの応答時間を短縮するが、十分な貯蔵容量をもたないことがある。このジレンマは二つの内部貯槽を有するカセットによって対処されてきた。そのようなカセットが、特許文献2に記載されている。小さな貯槽が外科手術ハンドピースと直接的な流体連通をする一方で、大きな貯槽が小さな貯槽と真空源との間に配置されている。これは、より短い応答時間とより大きな貯蔵容量を可能にする。しかしながら、小さな貯槽は、それがいっぱいになる前に大きな貯槽の中に周期的に流体を移して空にされなければならない。これは、小さな貯槽への真空ラインが、大きな貯槽へのドレインを開ける前に閉じられなければならないことを要求する。小さな貯槽への真空ラインを閉じることは、手術の手順を小さな貯槽の流体の排出の間に停止させることを必要とする。
【0006】
特許文献3に記載された別のシステムは、吸引真空を提供するためのベンチュリポンプと、大きい貯槽と小さい貯槽との間に分かれて配置された蠕動ポンプとを使用する。蠕動ポンプは、小さい貯槽が満たされたとき流体を小さい貯槽から大きい貯槽へ能動的に送り込むために使用される。そのようなシステムは、小さな貯槽の流体排出の間のシステムの作動の継続を可能にする。
【0007】
別の先行技術のポンプが特許文献4で開示されており、前記特許文献4は、剛性基板に固着された又は機械的に取り付けられたエラストマシートに含まれる成形流路を有する蠕動ポンプを記載している。ポンプヘッドローラは、ポンプモータの回転軸線に対して放射状に取り付けられており、またエラストマ流路を剛性基板に押し付ける。この特許文献4に記載された発明の市販された実施態様は、テキサス州フォートワースのアルコンラボラトリーズインク(Alcon Laboratories, Inc.)からインフィニティビジョンシステム(INFINITI(登録商標) Vision System)として販売されている。この手術コンソールは、流体管理システム又はカセットを使用しており、前記流体管理システム又はカセットでは、エラストマシートは、どんな接着剤も使用することなく剛性基板の中に摩擦嵌合されている。そのような構築手法は非常に信頼度が高いことが分かっているが、この市販のシステムは、主に白内障の手術を意図しており、蠕動ポンプ以外の真空源をもたない。従って、流体システムは、主として負圧又は真空に曝され、主要な真空源としてベンチュリポンプを用いる後眼部の手術における逆流動作の間に遭遇されるような一時的な正の高圧力を受けることはない。正の高圧力は、摩擦嵌合構造技法が用いられる場合、エラストマと基板との界面における破損を引き起こす可能性を有する。
【0008】
【特許文献1】米国特許第4921477号明細書
【特許文献2】米国特許第4758238号明細書
【特許文献3】米国特許第5899674号明細書
【特許文献4】米国特許第6293926号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、一時的な正圧力を受けてカセットが破損する可能性を低減させる、蠕動ポンプの作動方法に対する必要性が存在し続けている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、剛性基板に固着された又は機械的に取り付けられたエラストマシートに含まれる成形流路を有する蠕動ポンプを作動させる方法を提供することによって、先行技術の蠕動ポンプを改良する。ポンプヘッドローラは、ポンプモータの回転軸線に対して放射状に取り付けられるとともに、エラストマ流路を剛性基板に対して押し付ける。逆流の間に、ポンプヘッドは、ローラの少なくとも一つが蠕動ポンプの入力端においてエラストマ流路を締め付けるように位置決めされる。そのような作動は、一時的な高圧力を受けるエラストマシートの量を最小限に抑える。
【0011】
本発明の一つの目的は、成形エラストマ流路を使用する蠕動ポンプを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、放射状に向いたポンプローラーを有する蠕動ポンプを提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、エラストマ流路を剛性基板に対して押し付けるポンプローラーを有する蠕動ポンプを提供することである。
【0014】
本発明の更に別の目的は、ポンプの流路を一時的な正の高圧力から隔絶するようにポンプローラーが留置される蠕動ポンプシステムを提供することである。
【0015】
本発明のこれら及び他の利点及び目的は、詳細な説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1、2、及び3で最良に見られるように、本発明で用いられる蠕動ポンプ10は、ポンプモータ12と、一つ以上のローラ16を含むローラヘッド14と、比較的剛性の本体又は基板22の外側に付着されたエラストマシート20を有するカセット18とを含んでいる。ポンプモータ12は、好適には、ステップモータ又は直流サーボモータである。ローラヘッド14は、モータ12がシャフト24の軸線にほぼ垂直な平面内でローラヘッド14を回転させるように、及びローラ16の縦軸線がシャフト24の軸線に対してほぼ放射状にあるように、モータ12のシャフト24に取り付けられている。モータ12はエンコーダ13を含んでおり、前記エンコーダ13は、シャフト24上に配置されてシャフト24の回転位置情報を提供する。ローラ16の位置はシャフト24に対して固定されているので、シャフト24の回転情報に関する情報はローラ16の位置も突き止める。ポンプモータ12、ローラヘッド14、ローラ16、及びエンコーダ13は通常は、図4で概略的に示される手術コンソール200の中に配置される。手術コンソール200は、エンコーダ13及び制御モータ12からの信号を処理するのに十分なハードウエア及びソフトウエアを収容している。適切なハードウエア及びソフトウエアは本技術分野に知識を有する者にはよく知られており、一つの適切なコンソールは、テキサス州フォートワースのアルコンラボラトリーズインク(Alcon Laboratories, Inc.)から入手可能なアキュラス(ACCURUS(登録商標))手術システムである。
【0017】
シート20は型成形された流路26(以下、成形流路と呼ぶ)を含んでおり、前記成形流路26は概ね平面的であって、(平面内で)アーチ形をしており、及びシャフト24を中心にしたローラ16の半径にほぼ等しい半径を有している。流路26はポート28と30を流体的に接続している。シート20は、シリコンゴム又は熱可塑性エラストマのような適切に可撓性があって容易に成形可能な材料から作られている。シート20は、接着、熱融着、又は機械的なクリンプ加工のような任意の適切な技法によって基板22に取り付け又は結合される。基板22は、好適には、シート20より剛性の例えば剛性の熱可塑性プラスチックのような材料から作られ、また機械加工又は射出成形のような適切な方法によって作られる。カセット18は、通常はコンソール200とは別個に形成されて、本技術分野でよく知られた流体接続及び掛け金機構によってコンソール200と作動可能に連携した状態で保持される。
【0018】
使用の際、ローラヘッド14が回転するときローラ16が流路26を基板22に押し付けるように、カセット18は、ローラヘッド14に極めて近接して保持される。ローラの縦軸線は、ローラ16の流路26への接触が流路26の平面に概ね平行になるように配列されている。そのような配列は、可撓性チューブのある長さをポンプローラヘッドの上で環状に巻きつける必要性を取り除き、従ってポンプ流路26のポンプローラヘッド14に対する装填を単純にする。ローラヘッド14が回転するときローラ16の内側及び外側部分が移動する路程の差を吸収するために、ローラ16は、それらの軸方向長さに沿ってテーパが付けられている。ゼロから流路26の最大断面積まで徐々に変化する内部断面を有する流路移行領域46及び47を設けることによって望まれない圧力脈動を最小限に抑えることができる。これらの領域は、ローラ16と流路26との接触と離間とに伴う吐出量の急激な変化を最小限に抑える。
【0019】
図4で最良に見られるように、カセット18は貯槽100とドレインバッグ110を更に含んでいる。貯槽100は、吸引ライン112を通して手術ハンドピース114に接続されると共に、ポンプ吸入ライン116を通して蠕動ポンプ10に接続されている。真空ライン118が、貯槽100の頂部120の近くで貯槽100に進入しており、またコンソール200内に収容された例えばベンチュリポンプ(非図示)のような真空源に接続されている。真空ライン118に真空が適用されたとき、そのような真空は貯槽100に伝えられ、そのことにより吸引ライン112を介してハンドピース114を通して流体が吸い出される。貯槽100が流体で充分満たされたとき、蠕動ポンプ10は作動されて、ポンプ吸入ライン116及びポート28を通して貯槽100の底部122の流体を抜き出し、過剰な流体をポート30及び吐出ライン124を通してドレインバッグ110の中に排出する。
【0020】
使用中に、真空ライン118に適用される真空の代わりに、一時的な正の高圧力が作用することがある。例えば逆流動作の間に、この正の圧力はポンプ吸入ライン116を通して蠕動ポンプ10に伝えられる。充分な正の圧力が蠕動ポンプ10に伝えられると、シート20は基板22から無理に移動させられ、その結果カセット18の流体的完全性が破壊される。高圧力のスパイクが流路26に侵入するのを回避するために、前記圧力がライン118に作用したとき、コンソール200は、図1及び3に示されるように一つのローラ16が、ポート28の近くの流路26を締め付けて閉じるように、モータ12を指示してローラ16を停止させて留置する。ローラ16の位置は位置センサー13によって正確に予測される。そのような位置でローラ16を留置することは、基本的には締切り弁のように作用して、一時的な圧力のスパイクが流路26に侵入することを防ぐ。
【0021】
この記載は、実例及び解説のためになされたものである。本発明の範囲又は精神から逸脱することなく本明細書に記載された本発明に対して変更を加えることができることは、本技術分野に知識を有する者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、明瞭にするためにモータ及びローラヘッドを除いた、本発明で使用され得る蠕動ポンプの概略平面図である。
【図2】図2は、明瞭にするためにモータ及びローラヘッドを除いた、本発明で使用され得る蠕動ポンプの概略側面図である。
【図3】図3は、本発明で使用され得る蠕動ポンプの、図1の切断線3〜3により得られた横断面図である。
【図4】図4は、本発明で使用され得るカセットの概略図である。
【符号の説明】
【0023】
10 蠕動ポンプ
12 モータ
14 ローラヘッド
16 ローラ
18 カセット
20 シート
22 基板
26 流路
28 ポート
30 ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラヘッドを有する蠕動ポンプを作動させる方法であって、
a)本体と、該本体に取り付けられたシートにして少なくとも一つの成形流路を含むシートとを有するカセットに前記ローラヘッドを作動可能に接続する段階、
b)前記ローラヘッドに含まれた複数のローラが前記流路に接触して該流路を通る流体の流れを引き起こすように前記ローラヘッドを回転させる段階、
c)前記ローラの位置を連続的に測定する段階、及び
d)前記流路を通る流体の流れを止めるように前記ローラを所定の位置に留置する段階にして、前記ローラの前記留置位置は連続的に測定された前記ローラの位置に基づいている、前記ローラを所定の位置に留置する段階、を含む方法。
【請求項2】
前記蠕動ポンプが、流体貯槽とドレインバッグとの間に間隔を空けて配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流体貯槽に一時的な正の高圧力を作用させる段階を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ローラヘッドを有する蠕動ポンプを作動させる方法であって、
a)本体と、該本体に取り付けられたシートにして少なくとも一つの成形流路を含むシートとを有するカセットに前記ローラヘッドを作動可能に接続する段階、
b)前記ローラヘッドに含まれた複数のローラが前記流路に接触して該流路を通る流体の流れを引き起こすように前記ローラヘッドを回転させる段階、
c)前記ローラの位置を連続的に測定する段階、及び
d)前記流路が一時的な高圧力から隔絶されるように前記ローラを所定の位置に留置する段階にして、前記ローラの留置位置が、前記連続的に測定されたローラの位置に基づいている、前記ローラを所定の位置に留置する段階、を含む方法。
【請求項5】
前記蠕動ポンプが流体貯槽とドレインバッグとの間に間隔を空けて配置される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記流体貯槽に一時的な正の高圧力を作用させる段階を更に含む、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−231950(P2007−231950A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48980(P2007−48980)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(500319044)アルコン,インコーポレイティド (87)
【Fターム(参考)】