説明

血栓溶解用カテーテル

血栓溶解用カテーテル装置であって、当該装置において(a)細長い血栓溶解用カテーテルであって、当該カテーテルに置いて複数の独立に制御可能な電気活性高分子アクチュエータであって、当該アクチュエータが受け取った制御シグナルに基づいて前記血栓溶解用カテーテルに屈曲を提供する、アクチュエータを含む、細長い血栓溶解用カテーテルと、(b)複数のアクチュエータに結合し、前記の複数のアクチュエータに制御シグナルを送る制御ユニットと、(c)閉塞を除去する装置と、を含む血栓溶解用カテーテルを開示する。さらに、前記制御装置を用いて前記血栓溶解用カテーテル部分の形状を制御するしながら、前記血栓溶解用カテーテルを患者の動脈を通って閉塞の近隣位置まで前進させることによって、動脈の閉塞を治療する方法を開示する。その後、前記閉塞は前記の閉塞を除去する装置を用いて除去される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願
本特許出願明細書は、2001年10月5日に提出された米国出願第09/971,419号、2002年6月21日に提出された米国出願第10/177, 491号、および2002年6月21日に提出された米国出願第10/176,977号に関連する。
【0002】
発明の属する技術分野
本願発明は血栓溶解用カテーテルに関するものであって、より詳しくは、患者の血管の自然な曲線を反映するように形を調節することができる血栓溶解用のカテーテルに関連する。
【0003】
背景技術
閉塞性脳梗塞(「脳卒中」ともよばれる)は、脳の動脈が閉塞することによって生じる、主要な公衆衛生上の問題である。この閉塞は、たとえば凝血塊または塞栓が脳の小動脈の1つにつまることによって生じ、脳梗塞を引き起こしたり、未治療のまま放置すると死に至ることもある。しかし、充分早期に発見すれば、この閉塞はさまざまな技術によって除去することができる。その技術には、局所または全身用血栓溶解剤(たとえばヘパリン、およびウロキナーゼなど)、ならびに血管形成術、光剥離または高温血栓溶解(たとえばレーザー血栓溶解)および機械的血栓溶解(たとえば流体ジェットによる水力血栓溶解または超音波血栓溶解)などの非化学的技術が含まれる。
【0004】
従来技術の血栓溶解用カテーテルの例10は図1Aに見つけることができる。血栓溶解用カテーテル10は、血管Vなどのうち腔への挿入のための近位部12およびより小さく柔軟性の高い遠位部14を有する。近位部12は2つの内腔部を備え、1つは光ファイバー束30を含有し、もう1つはガイドワイヤ22を含有する。遠位部14は1つの内腔を備える。光ファイバー束30の発光端30Aの近くには、放射線不透過性のマーカ31が認められ、適切な位置への到達を補助する。操作中、ガイドワイヤ22を用いて、カテーテル10の遠位端14Aの位置を、血管Vの凝血塊Cなどの特定の部位の付近に合わせる。一度カテーテル10を体内の望ましい位置に安全に誘導すれば、ガイドワイヤ22を回収してから光透過性の液体(たとえば生理的食塩水)をカテーテル10および凝血塊Cの近隣の血管Vに導入する。その後、レーザーエネルギをファイバー束30の発光端30Aから光透過性液体に発射し、エネルギをカテーテル10の遠位部14を通して凝血塊Cに送達する。カテーテル10の遠位部14に、たとえば内部で光を反射することができる側壁をつけ、光透過性液体をファイバー30Aの発光端から放出されるレーザーエネルギーの導波管として働かせることができる。

カテーテル10の遠位部14から放出されたレーザー光は、凝血塊Cに当たって当該凝血塊を血管Vから除去する。さらなる知見は、その開示の全体が引用により本願明細書に援用される米国特許第6,117, 128号に見つけることができる。
【0005】
残念なことに、局所的な血栓溶解法は現在、上述のような血栓溶解用カテーテルを血管、特に頭頸部の蛇行した血管に通して閉塞部位に導く際に遭遇する困難によって妨げられている。神経血管系の閉塞が関連する場合、時間が最重要であることから、これらの困難は閉塞性脳梗塞の治療における血栓溶解用カテーテルの普及の主要な障害となっている。
【0006】
発明の概要
上述およびその他の従来技術の問題点は、本願発明の新規血栓溶解用カテーテル装置であって、当該装置には(a)複数の独立に制御可能な電気活性高分子アクチュエータであって、当該アクチュエータが受け取った制御シグナルに基づいて前記血栓溶解カテーテルに屈曲を提供する、アクチュエータを含む、細長い血栓溶解用カテーテル部分、(b)前記複数のアクチュエータに結合し、前記複数のアクチュエータに制御シグナルを送る制御ユニット、および(c)閉塞除去装置、
含む装置によって解決される。
【0007】
上述の装置は、患者の動脈から閉塞を除去するのに有用である。典型的には、前記の血栓溶解用カテーテルの部分は、制御ユニットを用いてその形状を制御しながら、患者の動脈内を前進する。閉塞部位に到達したら、前記の閉塞除去装置を用いて前記閉塞を除去する。
【0008】
多くの実施態様において、前記閉塞除去装置にはレーザーおよび導波管が含まれ、当該レーザーおよび導波管が前記血栓溶解用カテーテルの遠位端からレーザー光を効率的に伝達することができる。
【0009】
本願発明の血栓カテーテル装置の制御ユニットには、たとえば、パーソナルコンピュータまたはPDA(携帯情報端末)などのコンピュータを含むことができる。前記制御ユニットは、たとえば多重化電気ケーブルまたはワイヤレスインターフェイスを介すなど、さまざまな手段で前記アクチュエータに連結することができる。
電気活性高分子アクチュエータは、前記血栓溶解用カテーテル部分長の大部分に関して有利に提供される。たとえば、本願発明の血栓溶解用カテーテルの電気活性高分子アクチュエータは、前記血栓溶解用カテーテル部分の長さの5 cm、10 cm、15 cm、20 cm、または25 cm、またはそれ以上を占めるように配置されてよい。
【0010】
前記電気活性高分子アクチュエータは、前記血栓溶解用カテーテル部分に、面内曲線(た
とえばS字曲線)および面外曲線(たとえばらせん形)、ならびにその他のはるかに複雑な曲線などを含む、無限に近い範囲の曲線を提供するように制御することができる。たと
えば、本願発明のある実施態様では、前記電気活性高分子アクチュエータは、前記血栓用カテーテル部分が前進して通る血管の自然な方向性に相補的になるように、血栓溶解用カテーテル部分に方向性を与えるように制御することができる。たとえば、前記血栓溶解用カテーテル部分に、たとえば、頭部動脈または内頚動脈の少なくとも一部分の自然な方向性などの、動脈管の少なくとも一部分の自然な方向性に対応するような面外曲線を提供することができる。
【0011】
ある実施態様では、多数の電気活性高分子アクチュエータを用いて複雑な形状をつくり出す。たとえば、10、25、50、100、250、500、1000、またはそれ以上のアクチュエータ要素を用いることができ、さらにたくさんのアクチュエータ構成要素を用いればより繊細な曲線をつくることもできる。
【0012】
本願発明のある実施態様では、制御ユニットからの制御シグナルは、たとえば、診断用血管造影、超音波診断器、CT(コンピュータ断層撮影)もしくはMR(磁気共鳴)スキャンで作成された画像データ、IVUS(血管内超音波法)データ、または蛍光透視像(多重または断層であってよい)、または前記カテーテル部分内で提供された電磁気センサーなどの医療診断用画像データに基づいて作成される。他の実施態様では、前記制御ユニットからの制御シグナルは、たとえば手動操作装置を用いて作成される。
【0013】
ある実施態様では、前記血栓溶解用カテーテル部分には、主要モジュールおよび複数の後続のモジュールが含まれる。この配置では、後続の各モジュールが前記の主要モジュールによって予め占められていた位置に達すると、前記制御システムおよびアクチュエータが、主要モジュールが特定の位置にあった時の方向性を後続のモジュールに再現させることができる。モジュールの方向性のデータは、たとえば各モジュール内のひずみゲージによって提供することができる。位置のデータは、たとえば深さゲージまたは線形変位モジュールなどの深さ測定装置によって提供することができる。代替的には、位置のデータは、たとえば、診断用血管造影、超音波診断器、CTもしくはMRスキャンで作成された画像データ、IVUSデータ、または蛍光透視像から作成されたデータ、または放射線画像もしくは前記カテーテル部分内の電磁気部分センサーを用いて作成されたデータを含む、上述のような画像データを用いて提供することができる。
【0014】
ある実施態様では、前記アクチュエータの少なくとも一部分は互いに引っ張り合っている。これにより、たとえば、望ましい場合に、前記血栓溶解用カテーテル部分を体内の望ましい位置に達したあとで硬化させることができる。
【0015】
前記電気活性高分子アクチュエータには、典型的には(a)活性化メンバ、(b)カウンター電極、および(c)前記活性化メンバー部分とカウンター電極部分の間に配置された電解質含有
領域が含まれる。ある実施態様では、前記血栓溶解用カテーテル部分には基質層が含まれ、前記活性化メンバ、前記カウンター電極および前記の電解質含有領域は前記基質層の上に配置されるだろう。ある実施態様では、前記基質層は管状に巻かれている。
【0016】
本願発明の電気活性高分子アクチュエータに用いられる電気活性高分子には、ポリアニリン、ポリピロール、ポリスルホンおよびポリアセチレンが含まれる。
【0017】
多くの実施態様では、前記血栓溶解用カテーテル部分にはさらに、編組線管またはレーザー切断管などの金属管状構造要素を具体例とする、1つ以上の構造要素が含まれるだろう。
【0018】
本願発明のある利点は、血栓溶解用カテーテル部分を、前記血栓溶解用カテーテル部分がその長さの大部分に沿って制御されるような形状に提供することができる点である。これにより、前記血栓溶解用カテーテル部分を、神経血管系の到達困難な部位を含む複雑な解剖学的構造を通って効率的に前進させることができ、他の方法では実行できないような血栓溶解手順を実施することができる。
【0019】
さらに、前記電気活性高分子アクチュエータを制御して前記血栓用カテーテル部分が前進して通る血管の3次元の空間曲線に相補的になるように血栓溶解用カテーテルに方向性を与えることによって、周囲の血管にかかる圧力を減少させる。
つまり、これにより、たとえば頭部血管に一般に存在する粉瘤から塞栓を取り除く確率が低くなる。
【0020】
本願発明のこれらおよびその他の実施態様ならびに利点は、以下の詳細な説明および本願発明の特徴を一例として例示する添付の図面から明らかになるだろう。
【0021】
発明の詳細な説明
本願発明は、ここからは、本願発明のいくつかの実施例が示される付属の図面を参照して、より十分に説明されるだろう。しかし、本願発明は様々な形態に具体化されてもよく、本願明細書に記載の実施態様に限定されると解釈されてはならない。
【0022】
本願発明の多くの実施態様では、血栓溶解用カテーテルは電気活性高分子アクチュエータが前記血栓溶解用カテーテル構造と一体化した状態で提供される。
【0023】
電気活性高分子を用いたアクチュエータは、サイズの小ささ、力とゆがみの大きさ、低コストおよび本願発明の血栓溶解用カテーテルとの一体化のしやすさのために、本願発明の実用化に好ましい。
【0024】

【0025】
前記高分子へのまたは前記高分子からのイオンの大量移動によって、特定の導電性高分子に寸法変化が生じることがあることは周知である。たとえば、ある導電性高分子の場合では、鎖の間にイオンが挿入されるために伸長が生じるが、他の場合では鎖間反発が主要な作用である。したがって、イオンの物質内へのおよび物質からの大量移動は前記高分子の伸長または収縮を生じる。
【0026】
現在のところ、25%程度の直線的および立体的な寸法の変化が可能である。寸法変化によるひずみは3 Mpa程度で、平滑筋細胞によってかけられる力をはるかに超えており、非常に小さい半径を有するアクチュエータによってかなりの力をかけることが可能である。本願発明の血栓溶解用カテーテルは、神経血管系の蛇行した小動脈を通って前進させるために適応させた直径の小さい装置(典型的には直径1乃至5mm、より典型的には2乃至3mm
)であるため、これらの特徴は本願発明の血栓溶解用カテーテルの作製に理想的である。
【0027】
米国特許第6,249, 076号から引用した図1Bでは、アクチュエータ10の断面の概略を示す。アクチュエータ10の活性メンバ12は電解質14と結合している表面を有し、軸11を有する。活性メンバ12には、前記活性メンバ12から出るまたはそこに入るイオン流に反応して収縮または拡張する電気活性高分子が含まれる。イオンは電解質14によって供給され、この電解質は、活性メンバ12の表面の少なくとも一部分、および最高でその全体がメンバ12に隣接し、この2つの媒体の間をイオンが流れる。メンバ12および電解質14の相対的な配置には、多くの幾何学的配置が可能である。本願発明のある実施態様によると、メンバ12はフィルム、1本の繊維もしくは繊維の束、または複数のフィルムと繊維の組み合わせが、実質的に軸11に縦方向に沿う方向に張力がかかるように協同して働くように配置されていてよい。この繊維は電解質14の中で束になるかまたは分散していてよい。
【0028】
活性メンバ12には電気活性高分子が含まれる。望ましい張力特性を有する多くの電気活性高分子が当業者に周知である。本願発明のある実施態様によると、活性メンバ12はポリピロールフィルムである。そのようなポリピロールフィルムは、引用により本願明細書に援用されるM. Yamaura et al.,”Enhancement Of Electrical Conductivity Of Polypyrrole Film By Stretching:Counter-Ion Effect, ”Synthetic Metals, Vol.36, pp.209―224 (1988)に記載の方法にしたがった電着によって合成してもよい。ポリピロールに加えて、収縮性または伸長性を示す任意の導電性高分子を本願発明の範囲内で用いてよい。具体例には、ポリアニリン、ポリスルホン、およびポリアセチレンが含まれる。
【0029】
電解質14は、イオンの移動が許容されるものであれば、たとえば、液体、ゲル、または固体であってよい。さらに、前記電解質14が固体の場合、それは典型的には前記活性化メンバ12とともに移動し、典型的には層間剥離されないだろう。前記電解質14がゲルの場合、たとえば、塩ドーパントを含有する寒天またはポリメチルメタクリラート(PMMA)ゲルであってよい。前記電解質が液体の場合、たとえば、リン酸緩衝溶液であってよい。前記電解質は、体内で不注意な漏れが生じた場合に無毒であってよい。
【0030】
カウンター電極18は電解質14と電気的に接触し、メンバー12と電解質14の間の電位差の供給源20を充電するリターンパスを提供する。カウンター電極18は、たとえば別の導電性高分子、導電性高分子ゲル、または線状またはフィルム状であってたとえば電気メッキ、化学析出、またはプリントに用いることができる金もしくは白金などの金属などの任意の導電体であってよい。アクチュエータ10を活性化するために、活性メンバ12およびカウンター電極18に電流を通し、メンバ12に収縮または伸長を誘発する。さらに、前記アクチュエータは、周囲環境から前記電解質を分離するための柔軟性のある表皮を有してもよい。
【0031】
前記アクチュエータは、望まれる配置であって、平面アクチュエータ構造(たとえば平面活性メンバおよびカウンター電極を用いた)、および円筒形アクチュエータ構造(たとえば図1Bに図示される円筒形活性化メンバおよびワイヤコイル状カウンター電極を用いたアクチュエータを参照)などが含まれる配置の、基本的に無限の配列として提供することができる。
【0032】
アクチュエータの作製、そのデザイン構想、およびそれに用いることができる材料および構成要素に関するさらなる知見は、たとえば、引用によりその全体を本願明細書に援用する、マサチューセッツ工科大学に割り当てられた米国特許第6,249, 076号、およびProceedings of the SPIE, Vol. 4329 (2001)表題「Smart Structures and Materials 2001:electroactive polymer and actuator devices 」 (特にMadden et al, ”polypyrrole actuators:modeling and performance, ”at pp.72―83を参照)に見つけることができる。
【0033】
アクチュエータの作製、そのデザイン構想、およびそれに用いることができる材料および構成要素に関するさらなる知見は、たとえば、引用によりその全体を本願明細書に援用する、マサチューセッツ工科大学に割り当てられた米国特許第6,249, 076号、およびProceedings of the SPIE, Vol. 4329 (2001)表題「Smart Structures and Materials 2001:electroactive polymer and actuator devices 」 (特にMadden et al, ”polypyrrole actuators:modeling and performance, ”at pp.72―83を参照)に見つけることができる。
【0034】
本願発明の装置のための二重安全メカニズムの一部として、電力が中断された場合に緩和するタイプのアクチュエータを選択することが有益であると考えられる。
【0035】
アクチュエータは、たとえば、頭頸部から閉塞部位の蛇行している血管を縦走する、カテーテル部分の少なくとも遠位端全域など、本願発明の血栓溶解カテーテルの完全に挿入される長さの大部分を占めている。これは、典型的には、前記血栓溶解用カテーテルの最遠位端約2乃至6cmであって、たとえば前記カテーテルの最遠位端3cmである。前記閉塞の位置によって、前記アクチュエータは、前記血栓溶解用カテーテル部分の完全に挿入された長さの少なくとも5%を占めていてよく、別の場合には少なくとも10%、15%、25%、50%、75%、90%、またさらには100%を占めていてよい。
【0036】
複数のアクチュエータを用いることによって、前記血栓溶解用カテーテル部分には、面内曲線(たとえばS字曲線)および面外曲線(たとえばらせん形)、ならびにその他のはるかに複雑な曲線などを含む、無限に近い範囲の曲線を提供することができる。たとえば、前記血栓溶解用カテーテル部分に、頭部動脈または内頚動脈の自然な方向性などの、動脈管系の少なくとも一部分の自然な方向性に対応するような面外曲線を提供することができる。
【0037】
前記アクチュエータは、本願発明のカテーテル部分内に数多くの様式で配置することができる。たとえば、前記アクチュエータを独立して作製し、その後前記カテーテル部分の構造要素に付けることができる。別の例では、複数のアクチュエータまたはアクチュエータアレイを、前記血栓溶解用カテーテルの構造に固有の、たとえば高分子シートなどの基質シート上に配置することができる。
【0038】
図2は本願発明にしたがった、あるアクチュエータおよび構造要素がとりうる立体配置を図示するが、アクチュエータおよび構造要素の数、ならびにこれら要素の相対的な空間配置は、実施態様によって大きく変化しうることがわかる。描写した特定の実施態様では、一連の4つの構造要素202であって、構造要素202の各対の間にアクチュエータ210が3つ配置されている、一連の4つの構造要素202を図示する。
【0039】
図2に描写した集合体は3本の平行な軸にそって配置されたアクチュエータを有するが、上述の考察に基づく多数のバリエーションが可能である。たとえば、構造要素302の間にあるアクチュエータ310は、図3に示されるように、ねじれ形に配置することができる。
【0040】
一般に、固さと弾性のために、本願発明の血栓溶解用カテーテルは一般に本質的に、応力がかからなくても、実質的には線状構造、またはその他の予め曲げられた形をとるようになっている。その結果、前記カテーテルは、その長さ方向に配置された1つ以上のアクチュエータを単純に収縮させることによって、任意の数の構造に曲げることができる。前記アクチュエータが緩和されると、前記血栓溶解用カテーテルは予め曲げられた形状(たとえばより線形的な構造)をとるだろう。
【0041】
代替的なデザインでは、複数のアクチュエータを、望ましい形状になるように相互に張力がかかる状態に配置することができる。たとえば、一連の中心点を構造要素の間に提供し、少なくとも2つのアクチュエータを相互に張力がかかるように配置することによって、前記カテーテルが望ましい構造に曲がるようにすることができる。したがって、このタイプのシステムのアクチュエータは、ヘビなどの生物の骨格筋の働きと類似した原則に基づいて動く。
【0042】
前記カテーテル部分の構造要素に関して、多数のさらなるバリエーションが可能である。たとえば、図2および3には前記構造要素が一連の閉環として描かれているが、前記構造要素には、ヘビの脊椎構造に類似する開環も含むことができる。さらに、前記環は、望ましい場合にはさまざまな長さの管に置き換えることができる。たとえば、既知の血管、胆管、または食道ステントに類似するように作製された一連の短い管を用いることができる。そのような構造の1つを図4に図示する。図では、アクチュエータ410が一連の短いステント様要素402の間に配置されている。
【0043】
前記の構造要素はまた、1本の細長い管などの1単位の構造と合わせてもよい。したがって、上述のいくつかの実施態様のに記載のばらばらの環は、たとえばらせん構造の要素に置き換えてもよい。前記アクチュエータは、前記らせんの隣接する巻きの間に配置することができる。この実施態様では、前記らせんの隣接する巻は、たとえば図2および3に描写される一連のばらばらの環と非常に類似した働きをする。
【0044】
図5にステント様のメッシュ構造502が組み込まれている、単位構造の別の例を図示する。図5を参照すると、アクチュエータ501はメッシュ構造502の隣接するメンバの間に配置される。前記メッシュ構造502は、典型的にこの集合体を元の配置(たとえば実質的に線状)に回復させるように働く固有のバイアスまたは記憶を有するように柔軟で弾性がある。さらに、最終的なカテーテル構造では、図示されているメッシュ構造は典型的には内部線と外部カバーを有し、そのいずれかまたは両方が天然に弾性を有してもよく、前記カテーテルをたとえば実質的な線状配置に偏向させている内部線と外部カバーを有する。アクチュエータ502を用いて、必要に応じて構造をこの配置から変形することができる。
【0045】
一般に、本願発明のカテーテル部分の形状は、前記電気活性高分子アクチュエータの固有の位
置依存性の電気的特性から推測することができる。しかし、望ましい場合には、多数のひずみゲ
ージを用いて、前記集合体内のアクチュエータおよび構造要素の配置に関する電子的フィードバックを提供することができる。この電子的フィードバックはまた、生理学的変化、安定性の増大、
エラー修正、およびドリフトの免除などの補正を含む、多数のさらなる利点も提供する。本願発明への使用に好適なひずみゲージには、(a)フィードバック電気的高分子要素であって、そのインピーダンスまたは抵抗が前記装置のひずみ量の関数で変化するフィードバック電気的高分子要と、(b)前記装置のひずみ量の関数で前記装置の抵抗が変化し、その結果ひずみ量が容易に定量化および監視できる、従来のひずみゲージ、が含まれる。そのようなひずみゲージは、ナショナルインストゥルメンツ社(テキサス州オースチン)を含む、多数のさまざまな供給源から市販されており、圧電抵抗性ひずみゲージ(抵抗がひずみに対して非線形に変化する)、および結合金属性ひずみゲージ(典型的に、抵抗がひずみに対して線形に変化する)が含まれる。
【0046】
前記カテーテル部分の形状に関するフィードバック、および前記カテーテル部分と挿入される内腔の関係性も、たとえば診断用血管造影、超音波診断、CTまたはMRスキャン、IVUSデータ、または蛍光透視画像(多重または断層であってよい)から得られる医療診断用画像データを用いて、容易に得ることができる。望ましい場合には、前記カテーテル部分は、たとえば放射線不透過性マーカなどの不透過性マーカを備えて、前記カテーテル部分の形状および位置に関するより正確なフィードバックを提供することもできる。
【0047】
別の例である電磁気位置センサは、前記血栓溶解用カテーテル構造に含まれ、前記血栓溶解用カテーテルの立体形状および位置の電子的測定を、医療診断画像データとは無関係に提供することもできる。そのような電磁気位置センサは、動画および測定技術に置いて用いられており、現在では心臓学および電気生理学で使用され始めている。そのようなシステムの例には、NOGATM心臓学的ナビゲーションシステムおよびCARTOTM電気生理学的ナビゲーションシステムがあり、どちらもバイオセンスウエブスター社(カリフォルニア州ダイアモンドバー)から入手できる。さらに、ボストンサイエンティフィック社(マサチューセッツ州ナティック)からは、RPMリアルタイムポジションマネージメント電気生理学的ナビゲーションシステムを入手できる。
【0048】
上述の実施態様では、前記アクチュエータは前記血栓溶解用カテーテル部分の構造要素に直接連結される。しかし、これは例えば図6Aおよび6Bに図示されるようなケースである必要はない。図6Aは、編組線管およびフレキシブル基質層605からなる構造要素602を図示する。一連のアクチュエータ610(アクチュエータ1つに番号付けされている)を、制御装置から前記アクチュエータ610へ制御シグナルを送るためのコントロールバス(非表示)とともに基質層605にプリントする。
【0049】
それから、前記基質層605を構造要素602のまわりに巻き付け、その端を合わせて(または重ね合わせて)環状基質層を形成し、図6Bに図示される円筒状集合体620を提供する。このデ

ザインでは、前記構造要素602(および多くの場合、前記基質層605)は、集合体620全体が予め曲げられた配置になるように働き、その構造は例えば線状配置であってもよい。アクチュエータ610を用いて、この構造を望ましい程度まで曲げる。
【0050】
ある実施態様、および基質層605が滑らかでないような範囲では、前記血栓溶解カテーテルの前進を容易にするために、滑らかな外側カバー(たとえばヒドロゲルコーティング、シリコーン、またはフッ素樹脂など)を前記集合体に配置することが望ましいこともある。
【0051】
図6A乃至Bの構造要素602以外にも、多数のフレキシブル管状構造要素が知られており、本願発明に用いることができる。たとえば、血管、胆管、または食道ステントを含む多数のフレキシブル管状構造要素がステントの当業に知られている。この管状作製物は典型的には金属であり、(a)1つ以上の編んだ、織った、または組みひも状にした金属繊維を含む管状の目の粗いメッシュの網状構造体、(b)管状の相互に連結した屈折可能なセグメントの網状構造体、(c)1つ以上の金属繊維を含むコイル状またはらせん状構造体(複数のらせんを含む)、および(d)パターンになった管状金属シート(たとえば、レーザー切断管など)などが含まれる。
【0052】
さらに、内部線と外部カバーからなるカテーテルの構造体であって、前記内部線と外部カバーの間に置かれたフレキシブル管状構造要素(たとえば典型的には金属製であって、編組されたまたはらせん状のステンレス鋼ワイヤでつくられた管、または切断ステンレス鋼管)を有する構造体は、たとえば、カテーテル誘導の当業に知られている。そのような構造体は、本願発明の目的を実現するために容易に用いることができる。
【0053】
図6Aおよび6Bを再び参照すると、これらの図に用いられている基質層605は、多数のフレキシブル物質から選択することが可能で、典型的には1つ以上の高分子物質でつくられる。基質層605の作製物に有用な高分子物質には、以下の高分子物質が含まれる。その高分子物質とは、メタロセン触媒したポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリブチレンなどのポリオレフィンならびにその共重合体、ポリスチレンなどのエチレン高分子、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ブタジエン-スチレン共重合体、およびエチレンとアクリル酸またはメタクリル酸の共重合体などのエチレン共重合体、ポリアセタール、塩化ポリビニル(PVC)などのポリエステル、PTFEのようなフッ素重合体、PETのようなポリエステル、ポリエステル-エーテル、ポリスルホン、ナイロン6およびナイロン6,6などのポリアミド、ポリエーテルブロックアミドなどのポリアミドエーテル、ポリエーテル、エラストマーポリウレタンおよびポリウレタン共重合体などのエラストマー、シリコーン、ポリカルボナート、ポリクロロプレン、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、CIS―1、4―ポリイソプレン、エチレンプロピレン三重合体、ならびに上述の物質の任意の混合物およびブロックまたはランダム共重合体であって、これらが本願発明の医療装置を製造するために有用な生体安定性高分子の例である。
【0054】
ある実施態様では、前記基質層は電気プリント回路またはケーブルに用いられるような、ポリ
イミド(たとえばKAPTON)などの硬質高分子からつくられており、適切な柔軟性を与えるために、たとえばレーザーなどを用いた選択的な切断によって緩められる。
【0055】
前記血栓溶解部分のための内部および/または外部カバー物質もまた、望ましい場合には上述の高分子から選択してもよい。
【0056】
図6Aには1枚の基質層605が描かれているが、複数の基質層を用いることもできる。たとえば、もう1つの基質層であって、当該基質層がフィードバック高分子要素などの複数のひずみゲージとともに前記ひずみゲージから制御装置へ情報を送達するための読み取りバスを含有する、もう1つの基質層を備えてもよい。
【0057】
アクチュエータ610を、基質層605に多数の配置で提供することもできる。たとえば、図6Cに、基質層605に配置した1つのアクチュエータ610の断面を示す。上述の通り、前記アクチュエータ610には典型的に、媒介電解質含有層614を有する活性メンバ612およびカウンター電極618が含まれる。
【0058】
また上述の通り、前記活性メンバ612は好ましくはその多くが当業に知られる電気活性高分子を含む。ポリピロール、ポリスルホン、ポリアセチレン、およびポリアニリンが具体的な例である。カウンター電極618は、たとえば別の導電性高分子、導電性高分子ゲル、または、たとえば薄層またはホイル状であって典型的にはフレキシブルな形状の金もしくは白金などの金属などの任意の好適な導電体であってよい。電解質含有層614内の電解質は、上述の通り、たとえば、液体、ゲル、または固体であってよい。
【0059】
前記活性メンバ612は、短絡を防ぐために、カウンター電極618との接触を避けることが有益である。図示した実施態様では、そのような接触は、電解質を絶縁高分子物質のフレキシブルな中空層内に入れることによって防止する。この目的に有益な絶縁高分子には、基質層605に関連して上述した高分子のリスト内にある断絶高分子が含まれる。
具体的な例はPTFEである。
【0060】
トラックワイヤ622aおよび622cを活性化メンバ612およびカウンター電極618にそれぞれ連結し、制御装置(非表示)との電気通信を可能にする。
【0061】
いくつかの理由のために、バリア層620をもうけてもよい。たとえば、前記バリア層620は、電解質含有層614から化学種が逃れるのを防ぐことができる。前記バリア層に適切な物質には、基質層605に関連して上述したものが含まれる。
【0062】
アクチュエータの配置は、図6Cに図示された配置以外にも可能な配置が数多く考えられる。
たとえば、図6Dは基質層605上に配置された8個の活性メンバ612の断面である。前記活性化メンバ612の上には、電解質含有層614、カウンター電極618、およびバリア層620がある。前記バリア層620は、たとえば粘着物質619などを用いて基質層605に密着させる。図6Dの
配置には一般的なカウンター電極618が含まれる。前記活性メンバ612は典型的には、個別の活性化のために、別々のトラックワイヤ(非表示)を取り付ける。
【0063】
別の例では、図6Eは、基質層605上に配置された5個の活性化メンバ612と4個のカウンター電極領域618を含む断面である。
電解質含有層614は活性化メンバ612およびカウンター電極領域618と接触する。バリア層620は、たとえば粘着物質619などを用いて基質層605に密着させる。活性化領域は典型的には、個別の活性化のために、別々のトラックワイヤ(非表示)を取り付ける。前記カウンター電極領域618にはまた、別々のトラックワイヤ(非表示)を取り付けることも可能で、またはこれらの領域が1つのカウンター電極の部分(たとえばデジタル構造)を構成することもできる。
【0064】
望ましい場合には、前記血栓溶解用カテーテル部分の構造要素も基質層上に提供することができる。たとえば、図7は、巻き上げた場合、図4に図示されるものと同様の構造要素を形成する、一連の比較的固い構造要素702がプリントされた、基質層701を図示する。
【0065】
上図に図示したアクチュエータは血栓溶解用カテーテルの軸方向に配向されているが、前記アクチュエータは基本的には制御に望ましい任意の方向に配向させてよい。たとえば、図8A、8B、および8Cは、3つの基質層809であって、各当該基質層がさまざまな方向に配向された一連のアクチュエータ810(各図とも1つのアクチュエータに番号が付けられている)を有する3つの基質層を図示する。これらの基質層を一緒にラミネート加工することによって、円周方向に屈曲および収縮できるような複合構造物(非表示)をつくることができる。
【0066】
望ましい場合には、本願発明の血栓溶解用カテーテルは、使用中に硬化させることができる。前記カテーテルは、本願発明にしたがって、その長さ方向全体またはその長さ方向の一部分だけ(たとえば遠位端)を硬化させることができる。前記血栓溶解用カテーテルの硬さは、数多くの様式に調節することができる。一例として、アクチュエータは、上述の通り(たとえば骨格筋に類似する様式で)、相互に張力がかかるように前記血栓溶解用カテーテルの中に配置することができる。そのような血栓溶解用カテーテルは、相互に張力がかかるようにアクチュエータに対抗するように配置することによって硬化させることができる。
【0067】
本願発明の血栓溶解用カテーテルにある各アクチュエータは個別に制御することができる。これにより、これらの要素を、装置全体の配置に変化を及ぼす目的で制御することが可能になる。たとえば、前記アクチュエータ(および望ましい場合にはひずみゲージ)を、これらの各要素を
制御装置に連結する専用サーキットを用いて、前記装置と直接通信できるように配置してもよい。しかし、各要素が一般的な通信ケーブルによって制御装置と通信できるように、これらの要素を配置するのが、より典型的である。各要素からのシグナルは、デジタルまたはアナログであってよい。必要であれば、デジタル-アナログ、またはアナログ-デジタル転換器を用いて、前記
シグナルを1つのフォーマットから他のフォーマットに変換してもよい。
【0068】
各要素に出入りするシグナルは、多重化によって、一般的なケーブルで便利に制御および送達されてもよい。この目的のために用いられてよい多重化スキームには、周波数分割多重化、波長分割多重化、または時間分割多重化が含まれる。好適な多重化装置および逆多重化装置は、前記ケーブルの各末端において、および各アクチュエータまたはゲージの位置の長さ方向に沿って用いることができる。
【0069】
電子データの保存に関しては、各アクチュエータ(および望ましい場合にはひずみゲージ)には、前記要素の状態に関する情報を保存する電子メモリの中に個別のアドレスが与えられてもよい。この情報は、前記装置の状態を決定するためか、または前記装置またはその要素上で操作する目的でアクセスしてもよい。前記情報が保存されているメモリは、揮発型でも非揮発型であってもよく、前記装置自体の中に存在していてもいいが、典型的には個別の制御およびディスプレイ装置(たとえばラップトップコンピュータなどのパーソナルコンピュータ)の中に存在する。
【0070】
多数のケーブル配置が可能である。たとえば、ケーブルは直接前記アクチュエータに連結することができる。または、前記ケーブルを基質層にプリントしてもよい(たとえば図6Cに図示されるトラックワイヤ622a、622cを参照)。この場合、前記アクチュエータ(および望ましい場合にはひずみゲージ)が配置されている各基質層は、必要な要素がフレキシブル基質にプリントされているフレキシブルプリント回路に類似していてもよい。各層は、それ自体のトラックワイヤおよび通信ケーブル(たとえば上述の制御バスおよび読み取りバス)に提供することができる。代替法として、前記アクチュエータ(および望ましくはひずみゲージ)は、たとえばメッキしたスルーホールまたはバイアス(これらはシートの束をまとめる「リベット」として働くこともできる)によって個別の相互連結層に連結することができる。このようなスルーホールは相互連結層に配置されている一連の導電性トラックワイヤに結びつけることができ、トラックワイヤは、前記装置の長さ方向に走っているケーブル束、フラットケーブル、またはリボンケーブルなどの「脊髄」に連結することができる。
【0071】
ある実施態様では、本願発明の血栓溶解用カテーテルは一連の「偏向モジュール」に分割され、各モジュールには、前記モジュールが制御装置によるインプットに反応して3次元空間におけるさまざまな形状を獲得できるような複数のアクチュエータが含まれる。モジュールの数が多いほど、前記血栓溶解用カテーテル部分の3次元方向性の制御が精細になる。18個のモジュール904およびチップ903(たとえばカテーテルの前進中に外傷を受けるリスクを減らすためのソフトチップ)を有する血栓溶解用カテーテル900の簡略化した概略図を図9に図示する。前記血栓溶解用カテーテルの全体の形状は、各モジュールの偏向を操作することによって確立される。たとえば、図10に図示されるように、前記アクチュエータを活性化して、特定のモジュール1004を第1の位置(実線で表す)から第2の位置(点線で表す)へ偏向させることができる。たとえば、直径の変化または長さの変化など、偏向における自由度を加えることが可能である。
【0072】
使用の際、前記血栓溶解用カテーテルは、典型的には、患者(たとえば脊椎動物であって好ましくはヒトであってよい)の腕または足の動脈に取り付けたバルブ付き導入装置を通り、大動脈を通って望ましい動脈へ前進させる。たとえば、前記カテーテルを、大動脈、総頸動脈、および内頸動脈を通って、中大脳動脈の中の閉塞へ前進させることができる。もちろん、閉塞は基本的には神経血管系のどこでも生じうるものであり、脳大動脈閉塞(たとえば最も頻度の高い中大脳動脈閉塞、ならびに後大脳動脈閉塞、および前大脳動脈閉塞など)、内頸動脈閉塞および脳底動脈閉塞が含まれる。
【0073】
前記血栓溶解用カテーテルがその標的部位に到達すると(たとえば神経血管系の中にある閉塞など)、適切な血栓溶解手順が実施される。たとえば、ヘパリンまたはウロキナーゼなどの血栓溶解物質をカテーテルから送り込むか、または血管形成術、高温血栓溶解法(たとえばレーザー血栓溶解法)、または機械的血栓溶解法(たとえば水圧血栓溶解法または超音波血栓溶解法)などの非化学的手順を用いることができる。ある望ましい技術は、図1Aに関連して上述したようなレーザー血栓溶解法である。
【0074】
ある実施態様では、前記血栓溶解用カテーテルには、前記血栓溶解用カテーテル先端部の電子アクチュエータを制御するために用いられる、操縦システムを提供する。多数のオプションがカテーテルの操縦に利用できる。たとえば、前記血栓溶解用カテーテルには、画像による誘導下で操作する手動の操縦システムを提供することができる。前記制御ユニットによる電気的制御には、たとえばジョイスティックなどを用いた手動操縦インプットを基盤とすることができる。
【0075】
画像による誘導は、多数の技術を用いて行うことができる。たとえば、画像による誘導は、上述のような医療診断用画像データから得ることができる。望ましい場合には、前記カテーテル部分に放射線不透過マーカなどの不透過マーカを提供し、画像の鮮明度を向上させることができる。
【0076】
その他にも画像誘導を提供するために複数の技術を用いることができる。たとえば、前記カテーテル部分を挿入する体内腔部の画像は、医療診断用画像データを用いて得ることができ、その一方で、内腔内のカテーテル部分の画像は、前記カテーテル部分内に上述のような電磁気センサーを提供することによって得ることができる。
【0077】
操縦制御は自動化することもできる。たとえば、医療診断用画像データおよび/または電磁気センサーデータに基づき、エッジ追跡または中心探索アルゴリズムによってアクチュエータを制御し、前記血栓溶解用カテーテルの遠位端を体内腔の中心または中心付近に維持することができる。
【0078】
さらに他の実施態様では、前記血栓溶解用カテーテルは、たとえば、移動方向を示唆するための上述のようなコンピュータアルゴリズムを用いて、熟練した操作者が、コンピュータが出す指示を受諾または拒否することにより半自動的に操縦される。この場合、操作者のプロフィールに基づき、操作者の好みを反映させるようなアルゴリズムをオーダーメードすることが望ましいかもしれない。
【0079】
ある実施態様では、前記血栓溶解用カテーテルシステムには、挿入プロセス中に、前記血栓溶解用カテーテルの長さ方向に沿って電子アクチュエータを制御するために用いられる、変形システムが提供される。多数のオプションが利用可能である。
【0080】
たとえば、本願発明のある実施態様では、前記血栓溶解用カテーテル部分の形状全体を、前記カテーテル部分とそれが挿入される体内腔の関係性を含む、前記カテーテル部分の配置に関する情報に基づいて調節する。たとえば、前記カテーテル部分の空間方向性に関する情報は、前記カテーテル部分内の電磁気センサーによって、または前記血栓溶解用カテーテルの長さ方向に沿ったひずみゲージから得ることができ、その一方で、前記血栓溶解用カテーテルを挿入する体内腔の空間方向性に関する情報は、医療診断用画像データを用いて得ることができる。
【0081】
この情報の組み合わせは制御に用いることができ、前記血栓溶解用カテーテル部分の形状全体に関するフィードバックを提供することができる。
【0082】
たとえば、上述のデータを用いて、前記制御装置に付随するディスプレイ上(たとえばラップトップコンピュータのスクリーン上など)に前記カテーテルおよび目的の血管のバーチャルな画像を作成することができる。この情報に基づいて、操作者は前記血栓溶解用カテーテルの望ましい形状変化を決定し、たとえばマウスを使ってバーチャルなスクリーン上のカテーテル要素を望ましい配置に動かして、その形状変化を前記制御ユニットにインプットすることができる。続いて、前記制御ユニットで前記血栓溶解用カテーテル内のアクチュエータを操縦して、この望ましい配置を実現する。
【0083】
その他の実施態様では、前記血栓溶解用カテーテルを体内腔に前進させると、前記血栓溶解用カテーテルの望ましい形状の3次元像をメモリに記憶させることができ、挿入の深さが増すにつれて情報をさらに加えることができる。
【0084】
たとえば、前記血栓溶解用カテーテル先端部(本願明細書では「リードモジュール」とよぶ)の方向性を、位置の関数としてコンピュータに保存することができ、後続の偏向モジュールのマップとして役立てることができる。
【0085】
位置のデータは、たとえば、血栓溶解用カテーテルの導入部位に配置した深さゲージまたは線形変位変換器から得ることができる。ある具体的な例として、回転を監視できる回転歯車を含有する深さゲージを備え付けてもよい。その他の例として、光学的(たとえばバーコードおよび光源ならびに検出器を用いる)または磁気的(たとえば磁気コードおよびホール効果センサーを用いる)に読み取ることができる深さコードを含有する線形変位変換器を用いて、前記血栓溶解用カテーテルの進み具合を決定することができる。または、上述の通り、前記カテーテル部分の中にある電磁気的位置センサーを配置することによって、位置のデータを得ることができる。位置を決定するために、これらおよび多数のその他の既知の方法が利用できる。
【0086】
前記リードモジュールの方向性に関連するデータは、たとえば操縦ステップからのインプット(たとえばジョイスティックから、またはエッジまたは中心探索コンピュータアルゴリズムからのインプット)、前記リードモジュール内のひずみゲージから、または前記リードモジュール内の電磁気的位置センサー(十分な解像度を得るために十分な数が存在すると仮定する)からのインプットを用いて得ることができる。
【0087】
この位置および方向性の情報を用いて、前記アクチュエータへの電気制御シグナルを位置の関数として計算する。後続のモジュールが前記リードモジュールによって予め占められていた位置に到達すると、この次のモジュール内にあるアクチュエータは、前記リードモジュールが特定の挿入の深さにあった時の方向性をとるように操作される。
【0088】
上述の結果、前記血栓溶解用カテーテルが、移動した内腔の形状を反映した3次元空間の経路を維持する。これは図11A乃至Cに図示され、多数の偏向モジュール1104(1つの番号を付けられている)およびリードモジュール1103、ならびに線形変位変換器1130からなる血栓溶解用カテーテルの簡略化した概略図が含まれる。これらの図は、挿入直後の前記血栓溶解用カテーテル(図11A)、挿入の中間点における前記血栓溶解用カテーテル(図11B)、および完全に挿入された時点での前記血栓溶解用カテーテル(図11C)の方向性を示す。これらの図からわかるように、前記血栓溶解用カテーテルは、前進するにしたがって、特定の挿入の深さにおける方向性を維持する。
【0089】
図12は、本願発明のある実施態様にしたがった、血栓溶解用カテーテル装置の簡略化された概略図である。前記血栓溶解用カテーテル装置には、コンピュータ1254などの制御装置によって制御される多数の電子アクチュエータ(非表示)を含む血栓溶解用カテーテル部分1200が含まれる。電子ケーブル束1250を、前記血栓溶解用カテーテル部分1200と前記コンピュータ1254 内に備えられたドライバを含む電子インターフェイスの間に提供する。
シグナルは、電子インターフェイスにあるドライバーからケーブル束1250を通って前記血栓溶解用カテーテル部分1200内のアクチュエータに送られ、前記血栓溶解用カテーテル部分1200の3次元形状を制御する。望ましい場合には、コンピュータマウスパッドまたは組み込み式もしくは周辺機器のジョイスティックなどの操縦メカニズムを用いて、上述の通り前記血栓溶解用カテーテル部分1200を操縦および制御してもよい。本願発明のある実施態様では、シグナルが前記ひずみゲージから出力され、ケーブル束1250を通って前記コンピュータ1254内の電子インターフェイスに送られる場合、前記血栓溶解用カテーテル部分1200にはひずみゲージが提供される。これらのシグナルはコンピュータ1254で処理され、たとえば(a)前記アクチュエータに安定性、エラー修正、およびドリフトの免除を提供し、および(b)望ましい場合には、生体内における前記血栓溶解用カテーテルのバーチャル画像を提供する。
【0090】
図12の実施態様に代わるワイヤレスの代替物を図13に示す。
図13に図示された血栓溶解用カテーテル装置には、コンピュータ1354などの制御ユニットによって制御される多数の電子的アクチュエータ(非表示)を含む血栓溶解用カテーテル部分1300が含まれる。電源(非表示)およびドライバーを含むワイヤレスインターフェイス(非表示)を、前記血栓溶解用カテーテル部分1300の近位端内に提供する。前記血栓溶解用カテーテル部分1300のワイヤレスインターフェイスは、遠隔のコンピュータ1354内のもう一方のワイヤレスインターフェイスと通信する。
【0091】
図13の前記血栓溶解用カテーテル装置には、図12のケーブル束1250などの電気的なコネクタよりも低コストで信頼性も大きい、ワイヤレスインターフェイスチップセットが、有益に用いられる。低コストのワイヤレスインターフェイスは、現在、数多くの供給源から入手可能で、モトローラ社のBLUETOOTHワイヤレスインターフェイス、およびたとえばシスコ社、アップル社、およびルーセント社などのIEEE 802.1 lb ワイヤレスインターフェイスが含まれる。経済状況によって、複数のワイヤレスインターフェイスを用いて、前記血栓溶解用カテーテルの各モジュールに一つずつ提供することができる。
【0092】
前記血栓溶解用カテーテル部分1300の電源は、典型的には電池である。バッテリ電力を前記血栓溶解用カテーテル部分1300に組み込むことによって、相互接続のコストと複雑さが低減する。基本的には、前記血栓溶解用カテーテル部分のどこにでも1つ以上のバッテリを提供することができ、そのバッテリは前記血栓溶解用カテーテル部分1300の近位端に有益に提供され、たとえば一体化され密封された制御ハンドル1320の形状であってよい。前記電子アクチュエータおよびその他の構成要素のためのドライバを含むワイヤレスインターフェイスの電子機器は、前記血栓溶解用カテーテル部分1300の近位端にも有益に備え付けられる。
【0093】
本願発明の血栓溶解用カテーテル装置のある実施態様を、図14のブロック図様式に表す。示されている血栓溶解用カテーテル装置には、血栓溶解用カテーテル部分1400およびコンピュータ1454が含まれる。前記血栓溶解用カテーテル部分1400はバッテリ1423によって電力を供給される。ワイヤレスインターフェイス1460aおよび1460b(ドライバも含む)を、前記血栓溶解用カテーテル部分1400と前記コンピュータ1454の間に備える。前記血栓溶解用カテーテル
部分1400内のアクチュエータ1410への制御シグナルは、コンピュータ1454からワイヤレスインターフェイス1460a、1460bを通って前記血栓溶解用カテーテル部分1400へ送られる。同時に、データ(たとえばひずみゲージ1416からのデータ)が、前記血栓溶解用カテーテル部分1400から前記ワイヤレスインターフェイス1460a、1460bを通って前記コンピュータ1454へ送られる。
【0094】
典型の通り、前記コンピュータ1454はプロセッサ1462、メモリ1463、およびディスプレイ1464を含有する。望ましい場合には、ひずみゲージのデータはワイヤレスインターフェイス1460a、1460bを通ってソフトウエア1465で処理され、ディスプレイ1464上に前記血栓溶解用カテーテル部分1400のバーチャル画像を提示することができる(代替的な例として、たとえば血管造影またはカテーテル部分の中にある電磁気センサーによってつくり出された画像などの医療診断用画像をディスプレイ1464に提示することもできる)。操作者は、たとえば操縦制御1456を操作することなどによって前記血栓溶解用カテーテル部分1400の配置を変化させ、操作用ソフトウエア1465によって用いられるインプットシグナルを(ひずみゲージ、電磁気センサーなどのその他の任意のインプットシグナルとともに)提供し、制御シグナルを計算することができる。制御シグナルは、ワイヤレスインターフェイス1460bにあるドライバを通って前記血栓溶解用カテーテル部分1400のアクチュエータ1410に送られ、前記血栓溶解用カテーテル部分1400の形状を操縦および制御する。
【0095】
本願発明を、いくつかの例示的な実施態様に関連して説明したが、要素が例示として明らかに指定されていない場合であっても、当業に明らかであろう上述の実施態様のその他の多数のバリエーションが存在する。これらの変更は、本願明細書に付属する特許請求項のみに限定される、本願発明の教唆の範囲内であることは理解される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1A】先行技術の血栓溶解カテーテルの部分的な断面の概略図。
【図1B】本願発明に関連して有用な先行技術の電気活性高分子アクチュエータの部分的な断面の概略図。
【図2−5】本願発明のさまざまな実施態様にしたがった、構造要素の間へのアクチュエータの配置として考えられるいくつかの選択肢を示した概略図。
【図6A−6B】本願発明の実施態様にしたがった、構造要素および関連する構成要素を有する基質層の、組み立て前後の斜視図。
【図6C−6E】本願発明の3つの実施態様にしたがった、さまざまなアクチュエータ配置を図示した概略的な断面図。
【図7】本願発明のある実施態様にしたがった、組み込まれた構造要素を有する基質層の概略的な斜視図。
【図8A−6C】本願発明のさまざまな実施態様にしたがった、基質上のアクチュエータの方向性3つを図示した概略的な平面図。
【図9】本願発明のある実施態様にしたがった、血栓溶解用カテーテルの概略化した斜視図。
【図10】本願発明のある実施態様にしたがった、血栓溶解用カテーテルモジュールの概略化した斜視図。
【図11A−11C】本願発明の血栓溶解用カテーテルの、特定の挿入の深さにおいて方向性を維持する能力を図示した概略的な斜視図。
【図12】本願発明のある実施態様にしたがった、血栓溶解用カテーテル装置の概略化した斜視図。
【図13】本願発明の別の実施態様にしたがった、血栓溶解用カテーテル装置の概略化した斜視図。
【図14】本願発明のある実施態様にしたがった、ブロック図様式の血栓溶解用カテーテル装置。

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
血栓溶解用カテーテル装置であって、当該装置において(a)複数の独立に制御可能な電気活性高分子アクチュエータであって、当該電気活性高分子アクチュエータが受け取った制御シグナルに基づいて前記血栓溶解カテーテル部分に屈曲を提供する、電気活性高分子アクチュエータを含む、細長い血栓溶解用カテーテル部分と、(b)前記複数のアクチュエータに結合し、前記複数のアクチュエータに制御シグナルを送る制御ユニットと、(c)閉塞を除去する装置と、
を含む、血栓溶解用カテーテル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血栓溶解用カテーテル装置であって、当該血栓溶解用カテーテル装置において、前記の閉塞を除去する装置がレーザーと導光部であって、前記レーザーが前記導光部に光学的に連結される、レーザーと導光部を含む、血栓溶解用カテーテル装置。
【請求項3】
請求項1に記載の血栓溶解用カテーテル装置であって、当該血栓溶解用カテーテル装置において、前記の複数の電気活性高分子アクチュエータが、前記血栓溶解用カテーテル部分の軸長の少なくとも2cmに沿って配置される、血栓溶解用カテーテル装置。
【請求項4】
請求項1に記載の血栓溶解用カテーテル装置であって、当該血栓溶解用カテーテル装置において、少なくとも3つの独立に制御可能な電気活性高分子アクチュエータを含む、血栓溶解用カテーテル装置。
【請求項5】
請求項1に記載の血栓溶解用カテーテル装置であって、当該血栓溶解用カテーテル装置において、前記アクチュエータが、前記血栓溶解用カテーテル部分が面外曲線を含む形状を提供するように、前記血栓溶解用カテーテル部分の範囲内に配置される、血栓溶解用カテーテル装置。
【請求項6】
請求項5に記載の血栓溶解用カテーテル装置であって、当該血栓溶解用カテーテル装置において、前記の面外曲線が頭部または脳動脈の少なくとも一部分の自然な方向性に対応する、血栓溶解用カテーテル装置。
【請求項7】
請求項5に記載の血栓溶解用カテーテル装置であって、当該血栓溶解用カテーテル装置において、前記の面外曲線が内頸動脈の少なくとも一部分の自然な方向性に対応する、血栓溶解用カテーテル装置。


【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2006−512940(P2006−512940A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542059(P2004−542059)
【出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2003/031259
【国際公開番号】WO2004/030554
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505307954)ボストン サイエンティフィック リミティッド (9)
【Fターム(参考)】