説明

衝撃吸収部材

【課題】7000系アルミニウム合金押出形材からなる衝撃吸収部材が衝突時に潰れ変形する際に、大きい曲げ変形を受けるウエブに割れが発生するのを防止するとともに、衝撃吸収部材のさらなる軽量化を図る。
【解決手段】前記アルミニウム合金押出形材は、2種の異なる7000系アルミニウム合金が押出時に互いに溶着した複合押出形材である。前後のフランジ11,12がMg:0.9%以上1.5%以下を含有する高Mgの7000系アルミニウム合金からなり、上下のウエブ13,14がMg:0.5%以上0.9%未満を含有する低Mgの7000系アルミニウム合金からなり、フランジ11,12がウエブ13,14より高強度で、全体が過時効処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7000系アルミニウム合金押出形材からなる衝撃吸収部材、特にバンパー補強材、サイドメンバー、インパネ補強材、ドアビーム等の自動車用衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用構造部材として、軽量化のため、JISに規定された6000系又は7000系アルミニウム合金の中空押出形材が使用されるようになってきた(例えば特許文献1参照)。しかし、特に7000系アルミニウム合金のような高強度材を、バンパー補強材、サイドメンバー、インパネ補強材、ドアビーム等の衝撃吸収部材の用途に適用すると、衝突時に潰れ変形する場合に、割れが発生しやすい。そのため、断面の肉厚を大きくしたり、7000系の中では比較的低強度の材料を使用したり、過時効処理する(特許文献2,3参照)ことにより、割れを防止する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−225763号公報
【特許文献2】特開2001−140029号公報
【特許文献3】特開平11−264004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、衝突時に断面が潰れ変形する際の割れを防止するため、上記の対策を施すと、衝撃吸収部材の十分な軽量化が図れないという問題がある。
本発明は、従来の7000系アルミニウム合金押出形材からなる衝撃吸収部材の上記問題点に鑑みてなされたもので、衝突時に断面が潰れ変形する際の割れを防止するとともに、衝撃吸収部材のさらなる軽量化を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、外形が略矩形断面のアルミニウム合金押出形材からなる衝撃吸収部材において、前記アルミニウム合金押出形材は2種の異なる7000系アルミニウム合金が押出時に互いに溶着した複合押出形材であり、前記外形を構成する前後のフランジがMg:0.9%以上1.5%以下を含有する高Mgの7000系アルミニウム合金からなり、前記外形を構成する上下のウエブがMg:0.5%以上0.9%未満を含有する低Mgの7000系アルミニウム合金からなり、前記フランジがウエブより高強度で、過時効処理されていることを特徴とする。前記矩形断面の内部に、前記ウエブに略平行な中リブが形成されていてもよい。なお、本発明に係る衝撃吸収部材において、フランジは衝突面及びその反対側に向く面を意味する。
【0006】
7000系アルミニウム合金とはJISに規定された合金系であり、Al−Zn−Mg−(Cu)系展伸材である。7000系アルミニウム合金は熱処理型アルミニウム合金であり、本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材も、プレス焼入後過時効処理されるか、再加熱して溶体化処理後過時効処理される。過時効処理を行うのは、割れ防止のためである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材は、衝突時に断面が潰れ変形する際、特に大きい変形を受けるウエブが低Mgで比較的低強度であり、曲げ性が優れることにより割れの発生が防止でき、一方、ウエブに比べて大きい曲げ変形を受けないフランジが高Mgでより高強度であることにより、押出形材全体として薄肉化及び軽量化が可能となる。なお、衝突時に断面が潰れ変形する際、中リブもウエブと同様に大きい変形を受けるが、中リブは矩形断面に囲まれているため割れても特に支障がなく、また押出形材全体の高強度化のため、フランジと同じ高強度材で形成することが望ましい。
【0008】
過時効処理後でも、本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材は、従来のものに比べて全体として高い強度を保つ。これは、従来のアルミニウム合金押出形材の場合、過時効処理して、潰れ変形時に割れの発生が防止できる強度レベルまでウエブを軟化させると、当然押出形材全体が同じ強度レベルに軟化するが、本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材の場合、ウエブを前記強度レベルに軟化させても、高強度材からなるフランジはウエブより高強度に保たれるからである。このため、押出形材の薄肉化及び軽量化が可能となる。
本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材は、例えば自動車のバンパー補強材、サイドメンバー、インパネ補強材、ドアビーム等の衝撃吸収部材に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材を例示する断面図である。
【図2】本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材を例示する断面図である。
【図3】本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材を例示する断面図である。
【図4】本発明に係る複合アルミニウム合金押出形材を製造する複合ビレットの斜視図(a)及び押出ダイスの背面図(b)である。
【図5】実施例の圧壊試験の説明図である。
【図6】実施例(No.1,4)の圧壊試験の荷重−変位のグラフ及びエネルギー吸収量−変位のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るアルミニウム合金押出形材(衝撃吸収部材)に用いられる7000系アルミニウム合金は2種類であり、フランジ側はMg:0.9%以上1.5%以下を含有する7000系アルミニウム合金からなり、ウエブ側はMg:0.5%以上0.9%未満を含有する7000系アルミニウム合金からなる。その他の添加元素としては、7000系アルミニウム合金において一般的な範囲でよいが、望ましい組成として、前記範囲のMg以外に、Zn:4.0〜8.0%、Cu:0.05〜0.5%、Fe:0.1〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Ti:0.01〜0.04%を含み、必要に応じてCr:0.04%以下を含むアルミニウム合金が挙げられる。
【0011】
Mgはこの7000系アルミニウム合金の強度及び曲げ性に対して支配的な元素であり、フランジ側(高Mg)では0.9%以上1.5%以下、ウエブ側(低Mg)では0.5%以上0.9%未満とする。衝突時に大きく曲げ変形するウエブ側は、曲げ性向上による割れの防止を優先してMg含有量を0.9%未満とし、比較的曲げ変形の小さいフランジ側は、強度向上を優先してMg含有量を0.9%以上とする。しかし、ウエブ側でもMg含有量が0.5%未満では強度が不足し、フランジ側でもMg含有量が1.5%を超えると曲げ性が不足し割れが発生するおそれがある。
【0012】
Znは強度を向上させる元素であり、添加量は4.0〜8.0%とする。下限値未満では十分な強度が得られず、上限値を超えると一般耐食性が低下する。Zn含有量は望ましくは6.0〜7.0%とする。
Cuは強度を向上させる元素であり、添加量は0.05〜0.5%とする。下限値未満では十分な強度が得られず、上限値を超えると耐応力腐食割れ性及び一般耐食性が低下する。Cu含有量は望ましくは0.1〜0.3%とする。
Feは強度を向上させる元素であり、添加量は0.1〜0.3%とする。下限値未満では効果が不十分で、上限値を超えると耐食性が低下する。
【0013】
Zr,Tiは結晶粒を微細化して強度を向上させる元素であり、添加量はそれぞれ0.05〜0.3%,0.01〜0.04%とする。下限値未満では効果が不十分で,上限値を超えると粗大な金属間化合物を形成し、曲げ性の低下を招く。Zr含有量は望ましくは0.1〜0.2%とする。
Crは、同じく結晶粒を微細化して強度を向上させる元素であり、必要に応じて0.04%以下添加される。上限値を超えると粗大な金属間化合物を形成し、曲げ性の低下を招く。
不可避不純物のうち、Siは多く含まれると圧壊時に割れが生じ、Mnは多く含まれると粗大な晶出物が生じるため、それぞれ0.15%以下に制限することが望ましい。その他の不可避不純物は個別に0.05%以下、合計で0.15%以下に制限する。
【0014】
図1〜3に、本発明に係るアルミニウム合金押出形材(衝撃吸収部材)の断面構造の例を示す。
図1は本発明を適用したバンパー補強材の断面構造を示す。この押出形材は、車体に取り付けられたとき略鉛直に配置される前後(衝突面側と車体側)のフランジ1,2と、フランジ1,2に対し垂直な上下ウエブ3,4からなる矩形断面を有する。この断面において、フランジ1,2が高Mgの7000系アルミニウム合金からなり、ウエブ3,4が低Mgの7000系アルミニウム合金からなり、フランジ1,2及びウエブ3,4は押出時に互いに溶着し、断面全体が完全に一体化している。この押出形材は、プレス焼入後過時効処理されるか、再加熱して溶体化処理した後過時効処理される。
【0015】
バンパー補強材は一般に両端に曲げ加工が施されるが、面内曲げが行われる上下ウエブ3,4が成形性に優れる低Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、曲げ加工が比較的容易である。また、前方からの(前側フランジ1への)衝突時にバンパー補強材が潰れ変形するとき、変形の大きい上下ウエブ3,4が曲げ性に優れる低Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、割れの発生が防止でき、前後フランジ1,2が強度の高い高Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、断面全体として高強度で、エネルギ吸収量が多く、薄肉化及び軽量化が可能である。
【0016】
図2は本発明を適用した別のバンパー補強材の断面構造を示す。この押出形材は、車体に取り付けたとき略鉛直に配置される前後(衝突面側と車体側)のフランジ11,12と、フランジ11,12に対し垂直な上下ウエブ13,14からなる略矩形断面の外形を有し、その断面内部にウエブ13,14に平行な中リブ15を有する。この断面において、フランジ11,12及び中リブ15が高Mgの7000系アルミニウム合金からなり、ウエブ13,14が低Mgの7000系アルミニウム合金からなる。フランジ11,12及びウエブ13,14は押出時に互いに溶着し、中リブ15とともに断面が完全に一体化している。この押出材は、プレス焼入後過時効処理されるか、再加熱して溶体化処理した後過時効処理される。
【0017】
このバンパー補強材は、前方からの(前側フランジ1への)衝突時に潰れ変形するとき、変形の大きいウエブ13,14及び中リブ15のうち、両側のウエブ13,14が曲げ性に優れる低Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、外形部分に割れが発生するのが防止でき、フランジ11,12及び中リブ15が強度の高い高Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、断面全体として高強度で、エネルギー吸収量が多く、薄肉化及び軽量化が可能である。なお、中リブ15はフランジ11,12及びウエブ13,14により構成される略矩形の閉断面内にあるため、割れても特に支障がない。
【0018】
図3は本発明を適用した横圧壊型(特開2005−14836号公報参照)のバンパーステイの断面構造を示す。この押出形材は、押出方向を上下方向に向けて車体に取り付けたとき略鉛に配置される前後(衝突面側と車体側)のフランジ21,22と、フランジ21,22に対し垂直なウエブ23,24からなる略矩形断面の外形(フランジ21,22は突出部を有する)を有し、その断面内部にウエブ23,24に平行な中リブ25を有する。この断面において、フランジ21,22及び中リブ25が高Mgの7000系アルミニウム合金からなり、ウエブ23,24が低Mgの7000系アルミニウム合金からなり、フランジ21,22及びウエブ23,24は押出時に互いに溶着し、中リブ25とともに断面が完全に一体化している。この押出材は、プレス焼入後過時効処理されるか、再加熱して溶体化処理した後過時効処理される。
【0019】
このバンパーステイは、例えば前側フランジ21がバンパー補強材の後側フランジ(図1の後側フランジ2参照)に接合され、後側フランジ22をサイドメンバーの先端部に接合される。前方からの衝突時にバンパーステイが圧壊するとき、変形の大きいウエブ23,24及び中リブ25のうち、両側のウエブ23,25が曲げ性に優れる低Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、外形に割れが発生するのが防止でき、フランジ21,22及び中リブ24が強度の高い高Mgの7000系アルミニウム合金からなるので、断面全体として高強度で、薄肉化及び軽量化が可能である。なお、中リブ25はフランジ21,22及びウエブ23,24により構成される略矩形の閉断面内にあるため、割れても特に支障がない。
【0020】
前記断面構造のアルミニウム合金押出形材を製造するには、例えば特開平5−38940号公報又は特開平7−60340号公報に記載された押出方法が適用できる。
特開平5−38940号公報の方法は、強度の異なる(高強度及び低強度の)アルミニウム合金からなる2つの半円状ビレットを組み合わせて1つの円柱状ビレットとし、押出温度に加熱してコンテナに収容し、このとき異なる合金系のアルミニウム合金がそれぞれ異なるエントリーポートに入るようにビレットをコンテナ内にセットし、各エントリーポートから出たメタルを中空押出ダイスに通して押し出す方法である。これを本発明に適用する場合、目的とする押出形材の断面構造に従って、高Mgと低Mgの7000系アルミニウム合金ビレットを適宜組み合わせればよい。
【0021】
一例を図4を参照して説明すると、高Mgと低Mgの7000系アルミニウム合金ビレットを縦方向に4分割し、図4(a)に示すように、各アルミニウム合金につき2個ずつの分割ビレットを、向かい合う箇所に同じアルミニウム合金が位置するように溶接(溶接箇所31)して1つの円柱状の複合ビレット32を製造し、複合ビレット32を加熱してコンテナに収容し、図4(b)に示すように、4個のエントリーポート33をもつ中空押出ダイス34の各エントリーポートに各合金が入るように複合ビレット32を前記コンテナ内にセットし、図1〜図3のいずれかの断面に押し出す。
【0022】
特開平7−60340号公報の方法は、複数個のエントリーポートを有する中空押出ダイスの後部に、各ポート穴に対応する複数個の独立したビレット収容穴を備えたコンテナを配備し、各ビレット収容穴にビレットを収容して押し出す方法である。これを本発明に適用する場合、目的とする押出形材の断面構造に従って、高Mgと低Mgの7000系アルミニウム合金ビレットを各ビレット収容穴に収容すればよい。例えばエントリーポートが4個であれば、図4に示す例と同様に、同材質のものを向かい合う位置に配置すればよい。
【0023】
押出成形により得られた複合アルミニウム合金押出形材は、高Mgと低Mgの2種類の7000系アルミニウム合金が互いに溶着しているが、異なるとはいえ同じ7000系アルミニウム合金であるので、溶着性に問題はない。この複合アルミニウム合金押出形材は、プレス焼き入れ後過時効処理(JISH0001に規定された質別T7)を受けるか、溶体化処理後過時効処理を受ける(同じく質別T7)。7000系アルミニウム合金の時効処理条件としては、高強度を得るため、一般的に120〜150℃×9〜24hrが採用されているが、本発明では、より曲げ性を向上させ、衝突時の割れを防止するため、特許文献2,3に記載されているように、過時効領域で人工時効処理(過時効処理)を行う。
【0024】
なお、過時効処理とは、JISH0001の質別T7の欄、又は特許文献2,3に記載されているように、特別の性質に調整するため、最高強度(耐力)が得られる時効処理条件より高い温度又は/及び長い時間時効処理を行うことである。あるいは、最高強度を得たところでいったん時効処理を停止し、再度加熱して時効処理を行った場合も、過時効処理になる。
過時効処理による強度低下のめどとして、特許文献2に記載されているように、この複合アルミニウム合金押出形材を過時効処理したとき、ウエブの過時効処理後の強度(耐力)が、該ウエブの時効処理して得られる耐力の最高値(概ね130℃×12時間の時効処理条件で得られる)の約0.7〜0.9倍に軟化するように調整する。
より具体的に耐力値で表現すると、自動車用衝撃吸収部材のウエブとして一般的な厚さ2mm以下程度の板厚であれば、該ウエブの過時効処理後の耐力が330N/mm以下になるように、過時効処理条件を選択すればよい。過時効処理によりウエブがこの程度に軟化していると、50%の押し込み(衝撃吸収部材を半分の高さに潰す)でも、ウエブに割れ(貫通割れ)が生じない。望ましくは310N/mm以下である。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
表1のA〜Dに示す7000系アルミニウム合金ビレットを縦方向に4分割し、図4(a),(b)を参照して説明したように、各アルミニウム合金につき2個ずつの分割ビレットを組み合わせて円柱状の複合ビレットを製造し、これを高周波加熱で500℃まで加熱してコンテナに収容し、図2に示すような日型断面(外形40mm×40mm,板厚2mm)に押し出してプレス焼き入れした。
アルミニウム合金の組み合わせを表2に示す。図2に示すとおり、前後のフランジと上下のウエブは異なる材質からなり、かつフランジと中リブは同じ材質からなり、2種のアルミニウム合金は押出時に互いに溶着し、完全に一体化していた。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
続いて、各押出形材に対し165℃×5時間の人工時効処理(過時効処理(T7材))、及び130℃×12時間の人工時効処理(T5材)を行い、それぞれを供試材として、下記要領で引張試験、曲げ試験及び圧壊試験を行った。結果を表2に示す。
また、表2のNo.1,4について、圧壊試験の荷重−変位のグラフ及びエネルギー吸収量(EA)−変位のグラフを図6に示す。図6において、▲はNo.1の荷重、△はNo.1のエネルギー吸収量、◆はNo.4の荷重、◇はNo.4のエネルギー吸収量を示す。
(引張試験)
T7材のウエブ側及びフランジ側から長さ方向にJIS13号B試験片を採取して引張試験を行い、それぞれの耐力を求めた。
【0029】
(曲げ試験)
T7材及びT5材のウエブ側から長さ方向に採取した試験片を曲げ半径3mmの治具を用い、3点曲げの要領で180゜曲げを行い、曲げ先端部を目視観察し、割れの有無で曲げ性を評価した(割れなし:○,表面亀裂あり:△,貫通割れあり:×)。
(圧壊試験)
図5に示すように、長さ50mmに切断した供試材41をフランジを上下にして定盤42上に置き、上面より剛体43で加圧して横圧壊試験を行った。供試材の変位量(剛体の押し込み量)は押出形材の高さの50%(20mm)とした。ウエブの割れの有無を目視観察し、割れ性を評価した(割れなし:○,表面亀裂あり:△,貫通割れあり:×)。
【0030】
(実施例2)
実施例1と同じアルミニウム合金の組み合わせで、図2に示すような日型断面(外形80mm×100mm,板厚1.5mm)に押し出してプレス焼き入れした。前後のフランジと上下のウエブは異なる材質からなり、かつフランジと中リブは同じ材質からなり、2種のアルミニウム合金は押出時に互いに溶着し、完全に一体化していた。続いて、各押出形材に対し165℃×5時間の人工時効処理(過時効処理(T7材))を行い、これを供試材として、前記要領で圧壊試験を行った。ただし、供試材の変位量(剛体の押し込み量)は40mmとした。結果を同じく表2に示す。
【0031】
表1,2に示すように、40mm×40mm断面のT7材の圧壊割れ性をみると、ウエブのMg含有量が0.9%未満のNo.1〜3が優れ、T5材に比べて大きく改善している。しかし、ウエブのMg含有量が0.9%以上のNo.4は、圧壊割れ性が劣る。T7材、T5材とも曲げ性と圧壊割れ性は同様の傾向を示している。なお、T7材、T5材のいずれも、No.1〜4の全てにおいて、中リブに割れが発生していた。
図6をみると、No.4はNo.1より最大荷重が大きいが、ウエブに割れが生じたため荷重の低下が急激に生じ、トータルのエネルギー吸収量はNo.1に劣る。
80mm×100mm断面のT7処理材の圧壊割れ性も、上記とほぼ同様の傾向を示している。なお、No.1〜4の全てにおいて、中リブに割れが発生していた。
【符号の説明】
【0032】
1,2,11,12,21,22 フランジ
3,4,13,14,23,24 ウエブ
15 中リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形が略矩形断面のアルミニウム合金押出形材からなる自動車の衝撃吸収部材において、前記アルミニウム合金押出形材は2種の異なる7000系アルミニウム合金が押出時に互いに溶着した複合押出形材であり、前記外形を構成する前後のフランジがMg:0.9%以上1.5%以下を含有する7000系アルミニウム合金からなり、前記外形を構成する上下のウエブがMg:0.5%以上0.9%未満を含有する7000系アルミニウム合金からなり、前記フランジの方がウエブより高強度であり、過時効処理されていることを特徴とする自動車の衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金押出形材が、前記ウエブに略平行な中リブを有し、前記中リブは前記フランジと同一のアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1に記載された自動車の衝撃吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−181020(P2010−181020A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27926(P2009−27926)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】