説明

表面検査装置および表面検査方法

【課題】処理負荷、処理時間の増大を抑制し、境界部分の表面欠陥をも取りこぼすことのない検査を可能とすること。
【解決手段】検査対象を有する物体を相対移動させながら撮像した検査対象の撮像画像に基づいて検査対象の表面検査を行う表面検査装置であって、検査対象の撮像画像に設定された検査領域内に更に設定される1〜複数のフィルタ領域のそれぞれに対して所定のフィルタ処理を行い、前回フィルタ処理画像と今回フィルタ処理画像との差分値であるフィルタ処理差分画像に対して、フィルタ領域ごとに画素単位でのしきい値処理を施した二値化画像(表面欠陥候補差分画像)を検査領域全体で統合した二値化画像(表面欠陥候補統合化差分画像)の画素値に前回の処理で得られた表面欠陥画像の画素値を加算することで得た二値化画像(表面欠陥候補統合化画像)を用いて表面欠陥の箇所および個数を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面検査装置および表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像した表面画像を用いて物体表面のキズを検出する手法が開示されている(例えば下記特許文献1)。この特許文献1では、入力画像を重なりをもった矩形領域に分割し、この分割した矩形領域を輝度しきい値で二値化し、二値化した画素のうち所定の画素数を算出し、この画素数が画素数しきい値を超えた場合に当該矩形をキズあり矩形とし、さらに、このキズあり矩形をマスク画像として、通常の二値化画像とのANDをとって、キズのみが検出された二値化画像を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−69887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、入力画像を重なりをもった矩形領域に分割しているのは、矩形の境界部分にキズやへこみなどの表面欠陥があった場合に、その表面欠陥を取りこぼさないようにするためである。しかしながら、入力画像を重なりをもった矩形領域に分割した場合、同一のしきい値判定を行う重複領域が存在し、且つ、この重複領域は分割数の増加に従って2次元的に増大するので、処理量(処理負荷)が増大し、処理時間も増大するという問題がある。
【0005】
また、上記特許文献1の手法では、検査領域を矩形でのみ分割しているので、余分な検査領域が増え、効率的な検査ができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、処理負荷、処理時間の増大を抑制し、境界部分の表面欠陥をも取りこぼすことのない検査を可能とする表面検査装置および表面検査方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、検査対象を有する物体を相対移動させながら撮像した前記検査対象の撮像画像に基づいて、前記検査対象の表面検査を行う表面検査部を備えた表面検査装置であって、前記表面検査部は、前記検査対象の撮像画像に設定された検査領域内に更に設定される1〜複数のフィルタ領域のそれぞれに対して所定のフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、前記フィルタ領域ごとに各画素の画素値と当該フィルタ領域ごとに設定される所定のしきい値との大小関係に基づく当該フィルタ領域ごとの二値化画像を表面欠陥候補画像として生成する表面欠陥候補画像生成部と、前記表面欠陥候補画像を前記検査領域全体で統合した二値化画像を表面欠陥候補統合化画像として生成する表面欠陥候補統合化画像生成部と、前記表面欠陥候補統合化画像に基づいて表面欠陥の箇所および個数を特定するラベリング処理部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、処理負荷、処理時間の増大を来さず、境界部分の表面欠陥をも取りこぼすことのない検査が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態1に係る表面検査装置の構成および表面検査方法の説明図である。
【図2】図2は、図1に示した画像処理部の細部構成を示す図である。
【図3】図3は、図2に示した表面検査部の細部構成を示す図である。
【図4】図4は、初回画像に対する検査領域設定手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、検査対象として取り込まれる取り込み画像に対する処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、撮像画像の一例を模式的に示す図である。
【図7】図7は、検査領域およびフィルタ領域の概念を説明する図である。
【図8】図8は、明暗差のある撮像画像の一例を模式的に示す図である。
【図9】図9は、図8に示す撮像画像の場合のフィルタ領域を説明する図である。
【図10】図10は、図8に例示した撮像画像を処理して得られた表面欠陥候補統合化画像を示す図である。
【図11】図11は、図4および図5のフィルタ処理に適用する2×2フィルタを示す図である。
【図12】図12は、図4および図5のフィルタ処理に適用する3×3フィルタを示す図である。
【図13】図13は、三角形のフィルタ領域の斜辺部分に2×2フィルタを適用した場合の処理の一例を示す図である。
【図14】図14は、三角形のフィルタ領域の斜辺部分に3×3フィルタを適用した場合の処理の一例を示す図である。
【図15】図15は、三角形のフィルタ領域の斜辺部分に3×3フィルタを適用した場合の図14とは異なる処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる表面検査装置および表面検査方法について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る表面検査装置の構成および表面検査方法の説明図である。図1の上部に示すように、実施の形態1に係る表面検査装置10は、画像入力部11、画像処理部12および画像表示部13を備えて構成される。
【0012】
また、図1の下部には、検査対象物体の一例である列車1と、列車1の上部を撮影するカメラ6とが示されている。列車1は、複数の車両を連結することで構成され、図示の車両2の上部には、空調装置3および集電装置4が搭載されている。
【0013】
カメラ6による列車1の撮影は、列車1が、例えば車両検査場に入庫する場合を利用して行う。カメラ6は固定され、カメラ6に向かって移動する列車1(車両2)の上部に開口を向けることで、検査対象としての例えば空調装置3および集電装置4を撮像する。撮像した画像は、画像入力部11に入力される。画像処理部12は、画像入力部11を介して撮像画像を取り込み、後述する画像処理を行う。画像表示部13は、画像処理部12の処理結果を受領して表示し、ユーザから設定情報を画像処理部12に付与するヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)として機能する。
【0014】
なお、図1では、列車1に向かって列車の右上部側から撮像する場合を示しているが、撮像位置は任意である。すなわち、列車1に向かって列車の上部側から撮像してもよいし、列車1に向かって列車の左上部側から撮像しても構わない。
【0015】
また、図1では、カメラ6を固定し、列車1を移動させているが、固定した列車1に対し、カメラ6を移動させて撮像してもよい。つまり、検査対象を有する物体を相対移動させながらカメラ6にて撮像すればよい。また、図1では、1台のカメラしか図示していないが、複数のカメラを備えていてもよい。
【0016】
また、図1では、車両2を照明する照明手段を図示していないが、カメラ6で車両2を撮像する際に、車両2の上部面に照明光を照射してもよい。この場合、例えば、棒状蛍光灯または複数の電球を並べたものなどによって、車両2へのカメラ6による撮像範囲よりも少し広い領域を照明することが好ましい。さらに、カメラ6の背後に、遮光版を配設してもよい。これにより、背景光が車両2の表面に反射して撮像されることがなくなるという効果が得られる。
【0017】
つぎに、実施の形態1に係る表面検査装置の動作について、図1〜図5の各図面を参照して説明する。ここで、図2は、図1に示した画像処理部12の細部構成を示す図であり、画像処理部12は、画像蓄積部14、表面検査部15、伸縮率算出部16および画像修正部17を備えて構成される。また、図3は、図2に示した表面検査部15の細部構成を示す図であり、表面検査部15は、フィルタ処理部41、フィルタ処理差分画像生成部42、表面欠陥候補差分画像生成部43、表面欠陥候補統合化差分画像生成部44、表面欠陥候補統合化画像生成部45、ラベリング処理部46、表面欠陥拡大判定処理部47、表面欠陥画像生成部48および、表面欠陥情報生成部49を備えて構成される。さらに、図4は、初回画像に対する検査領域設定手順を示すフローチャートであり、図5は、検査対象として取り込まれる取り込み画像に対する処理手順を示すフローチャートである。
【0018】
まず、初回画像に対する検査領域設定手順について説明する。図4において、画像処理部12は、カメラ6が撮像した撮像画像を画像入力部11を介して取り込む(ステップS101)。画像入力部11を介して取り込まれた画像は、画像蓄積部14に蓄積される。画像処理部12は、検査対象の画像を画像蓄積部14から読み出し、検査に必要な画像部分を切り出す(ステップS102)。この処理では、検査に必要な部分が完全に含まれるように、撮像画像から例えば矩形領域が切り出される。
【0019】
ステップS103では、検査領域の縦幅/横幅(縦横比および、縮尺率または拡大率)を基準と一致させるための縮尺/拡大処理を実行する。カメラ6に向かう鉄道車両の走行速度は、毎回異なることが予想される。走行速度が異なる場合、撮像画像の縦幅、横幅および縦横比が異なってくるので、初回画像から切り出した部分の検査領域と次回画像から切り出した部分の検査領域とを一致させるため、縦幅、横幅および縦横比を補正する処理を行う。すなわち、この実施の形態では、走行速度が毎回異なることを許容し、例えば切り出し画像内の任意物体における縦幅または横幅を基準とし、この基準に縦幅および横幅、もしくは縦幅および縦横比を一致させる処理を行う手段を画像処理部12に伸縮率算出部16および画像修正部17として具備させる。
【0020】
具体的に説明すると、伸縮率算出部16は、例えば空調装置または集電装置の長さ、幅などを基準長とし、この基準長に基づいて今回の撮像画像における検査対象の伸縮率を算出する。画像修正部17は、伸縮率算出部16が算出した伸縮率に基づいて初回画像および2回目以降の画像に対する画像修正を行う。なお、これら伸縮率算出部および画像修正部の一例については、本出願人による先願である特開2009−174923号公報において、詳細に記述しているので、当該公報を参照されたい。また、当該公報の内容は、本願明細書に取り込まれて本願発明の一部をなすものとする。
【0021】
なお、カメラ6を固定し、列車1を移動させる撮像手法を用いると共に、予め走行速度を規定して撮像する場合であれば、列車1は固定された線路上を規定速度で走行するため、撮像画像の寸法、縦横比は毎回、一定の精度のものが得られる。したがって、このような撮像手法を用いる場合には、伸縮率算出部16および画像修正部17の構成を省略することができ、また、ステップS103の処理も省略可能である。
【0022】
続くステップS104では、ステップS103にて修正された領域に対し、検査領域が設定される。この検査領域は、実際の検査処理が行われる領域であり、画像表示部13を介し、ユーザによって、その領域(範囲)が設定される。
【0023】
ステップS105では、設定された検査領域内に1〜複数のフィルタ領域が設定され、この処理フローを終える。なお、このフィルタ領域は、検査領域が更に細分化された領域であり、検査領域と同様に、画像表示部13を介し、ユーザによって設定される。なお、フィルタ領域の数は、1であっても構わない。この場合、フィルタ領域は、検査領域に一致する。
【0024】
つぎに、検査対象として取り込まれる取り込み画像に対する処理手順について図5を参照して説明する。なお、ステップS205以降の処理については、初回画像についても処理の対象となる。
【0025】
図5において、ステップS201では検査対象物体に対する新たな画像が取り込まれる。ステップS202,S203の処理については、図4のステップS102,103にて説明したとおりである。ステップS203に続くステップS204では、前回画像の読み出し処理が行われる。なお、ここでいう前回画像は、縮尺/拡大処理が施された同一の検査対象における直近の処理画像である。例えば、検査対象がある鉄道車両に搭載されたエアコン装置である場合、同じ鉄道車両に搭載された同一のエアコン装置を検査したときに用いた処理画像のうちの直近のものである。さらに具体例で説明すると、今回の検査が4回目であれば、3回目の検査時に用いた処理画像が、このフローチャートでいうところの前回画像となる。
【0026】
ステップS205では、検査領域に設定されたフィルタ領域ごとに所定のフィルタ処理が実行される。画像処理部12には、予め、フィルタ領域ごとにフィルタの種類やフィルタ係数などが設定されており、表面検査部15のフィルタ処理部41(図3参照)は、ステップS105にて設定されたフィルタ領域に適用すべきフィルタ種類、フィルタ係数などに応ずる所定のフィルタ処理を実行する。なお、フィルタ処理を実行した画像は、フィルタ処理画像として保持される。
【0027】
ステップS206では、前回のフィルタ処理画像と今回のフィルタ処理画像との差分値であるフィルタ処理差分画像が生成される。
【0028】
このステップS206の処理は、検査対象における表面欠陥が、前回よりも拡大していないかどうかの判定を定量的に行うための差分画像を生成する処理である。例えば、各フィルタ処理画像はグレー画像(階調画像)であり、例えば0〜255の輝度値を有しているので、差分値は整数値で表される。なお、この処理は、表面検査部15のフィルタ処理差分画像生成部42(図3参照)によって実行される。
【0029】
ステップS207では、フィルタ処理差分画像に対して、フィルタ領域ごとに画素単位でのしきい値処理が行われる。具体的には、各画素の画素値と、フィルタ領域ごとに設定される所定のしきい値との大小関係が判定され、画素値がしきい値を超えていれば二値のうちの“0”(もしくは“1”)が付与され、画素値がしきい値以下であれば“1”(もしくは“0”)が付与された二値化画像(表面欠陥候補差分画像)が生成される。この処理は、表面検査部15の表面欠陥候補差分画像生成部43(図3参照)によって実行される。なお、しきい値としては、例えば60程度の値(最大値が255の場合)が選ばれる。
【0030】
ステップS208では、表面欠陥候補差分画像を検査領域全体で統合した表面欠陥候補統合化差分画像が生成される。この処理は、表面検査部15の表面欠陥候補統合化差分画像生成部44(図3参照)によって実行される。
【0031】
ステップS209では、前回の処理で生成した表面欠陥画像(後述するステップS213参照)の画素値に今回の処理で生成した表面欠陥候補統合化差分画像の画素値を加算して表面欠陥候補統合化画像を生成する。この処理は、表面検査部15の表面欠陥候補統合化画像生成部45(図3参照)によって実行される。
【0032】
ステップS210では、ステップS209で生成された表面欠陥候補統合化画像を用いて、表面欠陥の箇所と個数を特定するためのラベリング処理が実行される。この処理は、表面検査部15のラベリング処理部46(図3参照)によって実行される。
【0033】
ステップS211では、ラベリングされた表面欠陥に対しての表面欠陥拡大判定処理が実行される。なお、既存の表面欠陥が拡大しているか否かを判定する場合では、例えば前回の表面欠陥画像の大きさ(例えば幅、面積)と、今回の表面欠陥候補統合化差分画像を基に、判定することが可能である。なお、このときの判定基準としては、面積であれば例えば5%、幅であれば例えば3%などの値を用いることができる。例えば、前回の表面欠陥画像に比べて表面欠陥候補画像の面積が5%以上大きくなった場合あるいは、表面欠陥画像のある方向の幅が例えば3%以上大きくなった場合に既存の表面欠陥が広がっていると判定すればよい。なお、この判定処理は、表面検査部15の表面欠陥拡大判定処理部47(図3参照)によって実行される。
【0034】
ステップS212では、今回の処理で生成した表面欠陥候補統合化画像を次回の処理で使用する表面欠陥画像として生成(更新)する処理を行う。この処理は、表面検査部15の表面欠陥画像生成部48(図3参照)によって実行される。
【0035】
最後に、ステップS213では、検査領域内外の表面欠陥数や、新たに生じた表面欠陥数などの情報を含む表面欠陥情報が生成される。この処理は、表面検査部15の表面欠陥情報生成部49によって実行される。表面欠陥情報生成部49は、表面欠陥情報を視認性の高い表示に変換して画像表示部13に表示する。
【0036】
なお、これらステップS201〜S213の処理において生成された各種画像(フィルタ処理画像、フィルタ処理差分画像、表面欠陥候補差分画像、表面欠陥候補統合化差分画像、表面欠陥候補統合化画像、表面欠陥画像)も所定の表示画面に適宜表示可能であることは言うまでもない。これらの画像の表示処理は、画像表示部13によって実行される。
【0037】
つぎに、検査領域およびフィルタ領域の概念について、図6〜図10の各図面を参照して説明する。ここで、図6は、撮像画像の一例を模式的に示す図であり、図7は、検査領域およびフィルタ領域の概念を説明する図であり、図8は、明暗差のある撮像画像の一例を模式的に示す図であり、図9は、図8に示す撮像画像の場合のフィルタ領域を説明する図であり、図10は、図8に例示した撮像画像を処理して得られた表面欠陥候補統合化画像を示す図である。
【0038】
図6に示す例では、鉄道車両の上部にある空調装置の撮像イメージを模式的に示している。図示のように、第1の表面欠陥である表面欠陥23、第2の表面欠陥である表面欠陥24および、第3の表面欠陥である表面欠陥25が存在するが、表面欠陥23,24は空調装置上の表面欠陥であり、表面欠陥25は空調装置外の表面欠陥である。
【0039】
図7において、破線部で囲まれた矩形領域21は、撮像画像から切り出した部分を示している。一方、矩形領域21の内側に空調装置の輪郭形状に合わせて設定される実線で示される領域が検査領域22であり、検査領域22の内部に番号を付して区分される領域が、フィルタ領域である。図7では、矩形または三角形で区分される13のフィルタ領域が設定されているが、三角形で区分されているフィルタ領域のうち、No1,3,8,10,11,13のフィルタ領域は、空調装置の輪郭形状および立体形状に合わせて設定されている。
【0040】
図8では、例えば太陽光によって生ずる空調装置表面上の明暗差をハッチングで示している。本実施の形態の表面検査装置のように、立体的な構造物を平面的な画像を用いて検査する装置の場合、図8に示すような明暗差が機器の立体的形状や太陽光の入射角度などによって変化し、表面欠陥を取りこぼしてしまう虞がある。そこで、本実施の形態では、図9に示すように、検査領域内の明暗差がある領域に複数のフィルタ領域を設定している。
【0041】
図9では、図7に示されるフィルタ領域4〜7を変更し、撮像画像上の明暗差に合わせて三角形のフィルタ領域5,6を含むフィルタ領域4〜7を設定している。
【0042】
このようなフィルタ領域を用いた処理を行った場合、明暗差のある領域に跨る表面欠陥が存在していたとしても、明暗差に応じた最適なフィルタ処理を選択できるので、一つの表面欠陥を複数の表面欠陥として誤る可能性を低く抑えることが可能となる。
【0043】
また、図5のフローで示すように、フィルタ領域ごとのしきい値処理(ステップS207)では、表面欠陥であるかの判断は行わず、表面欠陥の連続性を判断するラベリング処理(ステップS210)を行った後の欠陥判定処理(ステップS210)において、表面欠陥であるか否かの判定を行っているので、例えば複数のフィルタ領域に跨る表面欠陥24を複数の表面欠陥として検出してしまう確率を極めて低く抑えることができる。
【0044】
また、本実施の形態の表面検査装置では、空調装置の輪郭形状に合わせて検査領域を設定しているため、検査領域内には含まれない表面欠陥25については検出を行わず、検査領域内にある表面欠陥のみの検出が可能になる(図6および図10参照)。すなわち、本実施の形態の表面検査装置では、検査領域内にある表面欠陥と検査領域外にある表面欠陥とを識別し、検査領域内にある表面欠陥のみを確実に検出することが可能になる。
【0045】
以上説明したように、実施の形態1では、検査対象の撮像画像に設定された検査領域内に更に設定される1〜複数のフィルタ領域のそれぞれに対して所定のフィルタ処理を行い、フィルタ領域ごとに各画素の画素値とフィルタ領域ごとに設定される所定のしきい値との大小関係に基づく二値化画像(表面欠陥候補画像)と、この表面欠陥候補画像を検査領域全体で統合した二値化画像(表面欠陥候補統合化画像)とを生成し、この表面欠陥候補統合化画像に基づいて表面欠陥の箇所および個数を特定することとしたので、検査領域内にある表面欠陥のみを確実に検出することができ、処理負荷、処理時間の増大を抑制し、境界部分の表面欠陥をも取りこぼすことのない検査が可能になる。
【0046】
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1の表面検査装置に適用可能なフィルタ処理の詳細について説明する。図11および図12は、図5のフィルタ処理(ステップS205)に適用するフィルタの一例を示す図であり、図11は2×2フィルタを示し、図12は3×3フィルタを示している。まず、図11において、2×2フィルタ26に示したハッチング部分は、それぞれのフィルタにおける着目画素である。すなわち、図11に示す2×2フィルタ26においては、ハッチングで示す左上の画素K1の画素値は、自身を含む画素K1〜K4による4画素の平均値に置換される。同様に、図12に示す3×3フィルタ27においては、ハッチングで示す中央の画素K1の画素値は、自身を含む画素K1〜K9による9画素の平均値に置換される。なお、各画素位置に重み付けの係数が設定されていれば、各係数が乗算された後に平均値が求められる。
【0047】
図13は、三角形のフィルタ領域の斜辺部分に図11に示す2×2フィルタを適用した場合の処理の一例を示す図である。図13において、斜辺28の左下側の領域はフィルタ処理領域であり、斜辺28の右上側の領域はフィルタ処理外領域である。また、一つのマスは一つの画素を表している。
【0048】
ここで、2×2フィルタ29のように、4つの画素の全てがフィルタ処理領域に入っている場合には、全ての画素の情報を用いて所定のフィルタ処理を行う。一方、2×2フィルタ30のように右上の画素がフィルタ処理領域に入っていない場合、フィルタ処理領域に入っている3つの画素の情報を用いて所定のフィルタ処理を行う。
【0049】
図14は、三角形のフィルタ領域の斜辺部分に図12に示す3×3フィルタを適用した場合の処理の一例を示す図である。図14において、斜辺31の右下側の領域はフィルタ処理領域であり、斜辺31の左上側の領域はフィルタ処理外領域である。
【0050】
ここで、3×3フィルタ32のように、9つの画素の全てがフィルタ処理領域に入っている場合には、全ての画素の情報を用いて所定のフィルタ処理を行う。一方、3×3フィルタ33のように左上の3つの画素がフィルタ処理領域に入っていない場合、フィルタ処理領域に入っている残り6つの画素の情報を用いて所定のフィルタ処理を行う。
【0051】
図15は、三角形のフィルタ領域の斜辺部分に図12に示す3×3フィルタを適用した場合の図14とは異なる処理の一例を示す図である。図15において、斜辺34の右下側の領域はフィルタ処理領域であり、斜辺34の左上側の領域はフィルタ処理外領域である。
【0052】
図13で説明する2×2フィルタ29,30や、図14で説明する3×3フィルタ32,33は、それぞれが平滑化フィルタであることを前提としている。平滑化フィルタの場合、少なくとも着目画素以外の係数は同一値であるため、フィルタ処理領域外の画素を処理対象から外しても本実施の形態の効果の方が強く表れ、意図しない結果となることは殆どないと考えられる。
【0053】
一方、3×3フィルタ35が、平滑化フィルタ以外のフィルタ(例えばエッジフィルタ)の場合、2×2フィルタにおける4つの係数、3×3フィルタにおける9つの係数は非対称であるため、図13および図14で説明した手法をそのまま適用すると意図した結果が得られない可能性がある。そこで、平滑化フィルタ以外のフィルタを用いる場合、以下の手法を適用する。
【0054】
図15において、3×3フィルタ35,36が平滑化フィルタであるか否かを判定し、平滑化フィルタの場合には、図14で説明した手法を適用する。一方、3×3フィルタ35,36が平滑化フィルタではない場合、フィルタ処理領域内に含まれる画素数とフィルタ処理領域外の画素数とを比較し、フィルタ処理領域の画素数の方が多い場合には、通常のフィルタ処理を実行する。これとは逆に、フィルタ処理領域の画素数の方が少ない場合には、フィルタ処理そのものを実行しない。
【0055】
上記処理を図15に即して説明すると、3×3フィルタ35の場合、フィルタ処理領域の画素数は6であり、フィルタ処理領域外の画素数は3であるため(フィルタ処理領域の画素数>フィルタ処理領域外の画素数)、3×3フィルタ35の処理を実施する。すなわち、3×3フィルタ35では、9つの画素を用いて本来のフィルタ処理を実施する。3×3フィルタ36の場合、フィルタ処理領域の画素数は3であり、フィルタ処理領域外の画素数は6であるため(フィルタ処理領域の画素数<フィルタ処理領域外の画素数)、3×3フィルタ36の処理は実施しない。すなわち、3×3フィルタ36における3つの画素ではフィルタ処理を実施しない。
【0056】
上記のようなフィルタ処理によれば、フィルタ本来の機能を損なうことのないフィルタ処理が可能となるので、意図しない結果が得られる確率を低く抑えることができるという効果が得られる。
【0057】
なお、上記の説明では、2×2フィルタおよび3×3フィルタの場合を例示したが、これらに限定されるものではなく、任意のm×nフィルタ(m,nは2以上の整数)に適用可能であることは言うまでもない。
【0058】
以上説明したように、実施の形態2では、フィルタ領域に設定されるフィルタが平滑フィルタの場合と、平滑フィルタ以外の場合とで、フィルタ処理の内容を異ならせるようにしているので、フィルタ本来の機能を損なうことのないフィルタ処理が可能となり、意図しない結果が得られる確率を低く抑えることができる。
【0059】
なお、以上の実施の形態1,2に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。
【0060】
さらに、実施の形態1,2では、鉄道車両への適用を想定した表面検査装置を対象として発明内容の説明を行ったが、適用分野はこれに限られるものではなく、自力で移動することができる物体や、自力では移動できなくても何らかの移動手段にて移動可能な物体であれば、本実施の形態に示す上記手法の適用が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明にかかる表面検査装置は、処理負荷、処理時間の増大を抑制した効率的な検査を可能とする発明として有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 列車
2 車両
3 空調装置
4 集電装置
6 カメラ
10 表面検査装置
11 画像入力部
12 画像処理部
13 画像表示部
14 画像蓄積部
15 表面検査部
16 伸縮率算出部
17 画像修正部
21 矩形領域
22 検査領域
23,24,25 表面欠陥
26,29,30 2×2フィルタ
27,32,33,35,36 3×3フィルタ
28,31,34 斜辺
41 フィルタ処理部
42 フィルタ処理差分画像生成部
43 表面欠陥候補差分画像生成部
44 表面欠陥候補統合化差分画像生成部
45 表面欠陥候補統合化画像生成部
46 ラベリング処理部
47 表面欠陥拡大判定処理部
48 表面欠陥画像生成部
49 表面欠陥情報生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象を有する物体を相対移動させながら撮像した前記検査対象の撮像画像に基づいて前記検査対象の表面検査を行うと共に、前記検査対象上の表面欠陥を表す表面欠陥画像を生成する表面検査部を備えた表面検査装置であって、
前記表面検査部は、
前記検査対象の撮像画像に設定された検査領域内に更に設定される1〜複数のフィルタ領域のそれぞれに対して所定のフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部により、前回の撮像画像を使用して生成された前回フィルタ処理画像と今回の撮像画像を使用して生成された今回フィルタ処理画像との差分値をフィルタ処理差分画像として生成するフィルタ処理差分画像生成部と、
前記フィルタ処理差分画像に対して、前記フィルタ領域ごとに画素単位でのしきい値処理を行うことで生成した二値化画像を表面欠陥候補差分画像として生成する表面欠陥候補差分画像生成部と、
前記表面欠陥候補差分画像を検査領域全体で統合した表面欠陥候補統合化差分画像を生成する表面欠陥候補統合化差分画像生成部と、
前回の処理で得られた前記表面欠陥画像の画素値に今回の処理で得られた表面欠陥候補統合化差分画像の画素値を加算して表面欠陥候補統合化画像を生成する表面欠陥候補統合化画像生成部と、
前記表面欠陥候補統合化画像を用いて表面欠陥の箇所および個数を特定するラベリング処理部と、
今回の処理で生成した表面欠陥候補統合化画像を次回の処理で使用する表面欠陥画像として生成する表面欠陥画像生成部と、
を備えたことを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
前記表面検査部は、前回の処理で得られた前記表面欠陥画像と、今回の処理で得られた表面欠陥候補統合化差分画像とに基づいて既存の表面欠陥が拡大しているか否かを判定する表面欠陥拡大判定処理部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記表面検査部は、
所定の基準長に基づいて、今回の処理で使用する今回撮像画像における検査対象の横幅および縦幅の伸縮率を算出する伸縮率算出部と、
前記伸縮率算出部が算出した伸縮率に基づいて、前記今回撮像画像の縦幅および横幅を修正する画像修正部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、前記画像修正部にて修正された画像を用いてフィルタ処理を実行することを特徴とする請求項2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
前記検査領域は、前記検査対象の輪郭形状に合わせて設定されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面検査装置。
【請求項5】
前記フィルタ領域は、矩形および三角形で区分されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面検査装置。
【請求項6】
前記フィルタ領域に設定されるフィルタが平滑フィルタであるとき、
前記フィルタ処理部は、前記平滑フィルタを三角形で設定されるフィルタ領域に適用する場合には、前記平滑フィルタに含まれる画素が前記検査領域内に含まれるか否かを判定し、当該検査領域内に含まれる画素のみを使用してフィルタ処理を実行することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表面検査装置。
【請求項7】
前記フィルタ領域に設定されるフィルタが平滑フィルタ以外であるとき、
前記フィルタ処理部は、前記平滑フィルタ以外のフィルタを三角形で設定されるフィルタ領域に適用する場合には、前記平滑フィルタに含まれる画素のうち、前記検査領域内に含まれる画素数と、前記検査領域外の画素数とを比較し、当該検査領域の画素数の方が多い場合には通常のフィルタ処理を実行し、当該検査領域の画素数の方が少ない場合には当該フィルタ処理そのものを実行しないことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表面検査装置。
【請求項8】
検査対象を有する物体を相対移動させながら撮像した前記検査対象の撮像画像に基づいて、前記検査対象の表面検査を行う表面検査ステップと、前記検査対象上の表面欠陥を表す表面欠陥画像を生成する表面欠陥画像生成ステップと、を含む表面検査方法であって、
前記検査対象の撮像画像に設定された検査領域内に更に設定される1〜複数のフィルタ領域のそれぞれに対して所定のフィルタ処理を行う第1の処理ステップと、
前記第1の処理ステップにて前回の撮像画像を使用して生成された前回フィルタ処理画像と今回の撮像画像を使用して生成された今回フィルタ処理画像との差分値をフィルタ処理差分画像として生成する第2の処理ステップと、
前記フィルタ処理差分画像に対して、前記フィルタ領域ごとに画素単位でのしきい値処理を行うことで得られる二値化画像を表面欠陥候補差分画像として生成する第3の処理ステップと、
前記表面欠陥候補差分画像を検査領域全体で統合した二値化画像を表面欠陥候補統合化差分画像として生成する第4の処理ステップと、
前回の処理で得られた前記表面欠陥画像の画素値に今回の処理で得られた表面欠陥候補統合化差分画像の画素値を加算することで得られる二値化画像を表面欠陥候補統合化画像として生成する第5の処理ステップと、
前記表面欠陥候補統合化画像を用いて表面欠陥の箇所および個数を特定する第6の処理ステップと、
今回の処理で生成した表面欠陥候補統合化画像を次回の処理で使用する表面欠陥画像として生成する第7の処理ステップと、
を含むことを特徴とする表面検査方法。
【請求項9】
前回の処理で得られた前記表面欠陥画像と、今回の処理で得られた表面欠陥候補統合化差分画像とに基づいて既存の表面欠陥が拡大しているか否かを判定する第8の処理ステップをさらに有することを特徴とする請求項8に記載の表面検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−88161(P2012−88161A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234729(P2010−234729)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】