説明

複合めっき膜の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】微粒子がめっき膜中に均一に分散されるとともに、ピンホール、ボイド、及びノジュールの発生が抑制される複合めっき膜の形成方法、並びに、ワイピング耐性、耐インク性、及び吐出安定性に優れたインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】高圧流体と、微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、めっきを施すべき被めっき体を接触させて複合めっき膜を形成する。インクジェット記録ヘッドを製造する場合、ノズルプレート11のインク吐出側とは反対側の面にめっき用保護膜14を形成し、好ましくは、超臨界二酸化炭素と、撥液性微粒子及び界面活性剤を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体にノズルプレートを接触させてインク吐出側の面に複合めっき膜16を形成する。めっき後、ノズルプレートからめっき用保護膜を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合めっき膜の形成方法及びインクジェット記録ヘッドの製造方法に関し、詳細には、超臨界流体等を用いて複合めっき膜を形成する方法及びインクジェット記録ヘッドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに代表されるインクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドのインク吐出口からインク滴を飛翔させて記録媒体上に画像を形成する。インク吐出口を有する面(インク吐出面)は、例えば、金属、セラミックス、シリコン、ガラス、プラスチック等で形成されるが、所定の位置にインク滴を吐出させるために、インク吐出面は撥液性(インクが水性インクであれば撥水性、油性インクであれば撥油性)が必要となる。
【0003】
インク吐出面3の撥液性が不十分な場合や均一でない場合、インクを吐出させたときに、そのインクが吐出口近傍に付着し、図7(A)に示すように不均一なインク溜り5aが生じ易い。そして、再度、インク5を吐出させたときに、図7(B)に示すようにその吐出方向がインク溜り5a側に引っ張られ、正常な吐出方向から外れてしまう。さらに吐出口2の全周がインクの膜で覆われると、スプラッシュ現象(インクの飛び散り)が生じ、さらに吐出口2を覆う液溜まりが大きくなることで、記録ヘッドの液滴吐出が不可能になる場合もある。
【0004】
インク吐出面に、残存インクのほか、記録紙から発生する紙粉や空気中のほこり、ゴミ等が付着した場合に、吐出口2の目詰まり防止や、正常な吐出を行う目的で、一般的なインクジェットプリンターでは、図8に示すようにインク吐出口2を有する面をゴム製のブレード7で拭く操作(ワイピング)が行われる。しかしながら、インク吐出面に撥液性を付与するために設けた表面処理層6の密着性が弱い場合、ワイピングを何度か行うと表面処理層6が剥離し、次第に撥液性が失われてしまう。そして、インクジェット記録ヘッドからインク5を吐出させたときにインク5が吐出口近傍に付着し、インク5の飛翔方向が、インクが付着した側に引っ張られて飛行曲がりが生じてしまう。また、まれに吐出口2の周縁部に紙等の被記録材が擦れると、撥水処理膜が剥がれて機能を果たさなくなるという問題が発生する。
【0005】
このような問題から、一般にインクジェットプリンターヘッドに用いるノズルプレート1は、インク滴を安定に吐出させ、吐出後のノズル孔の周囲への残存インクの付着を防止し、さらに水性あるいは非水性インクに対して化学的に安定であり、耐摩耗性に優れるなどの機械的強度の高いものとすることが要求されている。
このような要求に対して、例えばフッ素樹脂−金属の共析めっきによる撥液膜を設けたインクジェット記録ヘッドが知られている。インク吐出面にテフロン(登録商標)に代表されるフッ素樹脂微粒子を共析させためっき膜を設けることにより、撥液性、機械的強度、及び化学的安定性の向上を図っている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開平7−138763号公報
【特許文献2】特開平7−246707号公報
【特許文献3】特開平11−58746号公報
【特許文献4】特開平11−91090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フッ素樹脂微粒子を共析させためっき膜は、インクジェットプリンターヘッドのノズルプレートに要求されている条件を十分満たすものではない。例えば、ヘッドの組立工程中の洗浄工程において超音波洗浄する場合、めっき表面に露出しているフッ素樹脂微粒子が超音波の衝撃によって脱落したり、あるいはノズルプレートの表面を多数回ワイピングしたときに、最表面のフッ素樹脂微粒子が脱落して撥液性が低下する現象が観察される。また、めっき膜中のフッ素樹脂微粒子の分散状態が均一でないため、めっき膜の劣化に伴い、最表面におけるフッ素樹脂微粒子の存在量が異なり、一定の撥液性が維持できないという問題もある。
【0007】
さらに、めっき反応によって発生する水素に由来したピンホールは、インクやゴミの吸着を引き起こし、また、基板とめっき膜の界面に発生したボイドは密着性の低下を招き、ワイピングによるめっき膜の剥離原因となる。
また、めっき工程の際、めっき膜の表面にはノジュール(こぶ状析出物)がランダムに発生するが、ノジュールが特にインク吐出口の周囲に形成された場合、インク滴の吐出が不安定になり、インク滴の吐出方向が曲がる現象が生じ易い。
【0008】
なお、インクジェット記録ヘッドに限らず、めっき液に特定の機能を付与するための微粒子を混合して被めっき体の表面に複合めっき膜を形成する際、被めっき体が微細構造を有する場合には、めっき膜中に微粒子を均一に分散させることが難しく、めっき膜中の機能性微粒子の偏在や、ピンホール、ボイド、ノジュールの発生は、機能的な問題を引き起こし易いという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであり、微粒子がめっき膜中に均一に分散されるとともに、ピンホール、ボイド、及びノジュールの発生が抑制される複合めっき膜の形成方法、並びに、ワイピング耐性、耐インク性、及び吐出安定性に優れたインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 高圧流体と、微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、めっきを施すべき被めっき体を接触させて複合めっき膜を形成する工程を有することを特徴とする複合めっき膜の形成方法。
<2> インクを吐出するノズル部が形成されたノズルプレートのインク吐出側とは反対側の面にめっき用保護膜を形成する保護膜形成工程と、
第1の高圧流体と、撥液性微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、前記めっき用保護膜が形成されたノズルプレートを接触させて前記インク吐出側の面に複合めっき膜を形成するめっき工程と、
前記複合めっき膜が形成されたノズルプレートから前記めっき用保護膜を除去する保護膜除去工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<3> 前記撥液性微粒子が、フッ素系樹脂微粒子であることを特徴とする<2>に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<4> 前記めっき液が、界面活性剤を含むことを特徴とする<2>又は<3>に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<5> 前記第1の高圧流体が、二酸化炭素の超臨界流体を含むことを特徴とする<2>〜<4>のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<6> 前記めっき工程を、電気めっき法又は無電解めっき法により行うことを特徴とする<2>〜<5>のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<7> 前記ノズルプレートに対し、前記保護膜形成工程の後、前記めっき工程の前に、第2の高圧流体で脱脂する工程と、酸を含む第3の高圧流体で酸洗及び表面調整をする工程を行うことを特徴とする<2>〜<6>のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<8> 前記ノズルプレートに対し、前記保護膜除去工程の後、乾燥工程を行うことを特徴とする<2>〜<7>のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<9> 前記脱脂工程、前記酸洗及び表面調整工程、前記めっき工程、及び前記乾燥工程の少なくとも1工程の前に、第4の高圧流体による洗浄工程を行うことを特徴とする<8>に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
<10> 前記第2、第3、及び第4の高圧流体が、二酸化炭素、二酸化炭素と界面活性剤との混合流体、二酸化炭素と水と界面活性剤との混合流体、二酸化炭素と水と界面活性剤と酸との混合流体、又は二酸化炭素と水と界面活性剤とアルカリとの混合流体であることを特徴とする<9>に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微粒子がめっき膜中に均一に分散されるとともに、ピンホール、ボイド、及びノジュールの発生が抑制される複合めっき膜の形成方法、並びに、ワイピング耐性、耐インク性、及び吐出安定性に優れたインクジェット記録ヘッドの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しながら本発明について具体的に説明する。なお、図面には、本発明が理解できる程度に各構成部位の形状、大きさ及び配置関係が概略的に示されているにすぎず、これにより本発明が特に限定されるものではない。
【0013】
本発明では、高圧流体と、微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、めっきを施すべき被めっき体を接触させて複合めっき膜を形成する工程を有する。
【0014】
<高圧流体>
本発明における「高圧流体」とは、典型的には、超臨界流体又は亜臨界流体を含む流体を意味する。
図1は純物質の状態図である。図1に見られるように、超臨界流体は、臨界点近傍で、圧力および温度の条件が、P>Pc (臨界圧力)、かつ、T>Tc (臨界温度)である状態の高圧流体である。例えば、二酸化炭素の場合、臨界温度は304.5K、臨界圧力は7.387MPaであり、この臨界温度及び臨界圧力よりも温度及び圧力が共に大きい状態が超臨界流体(超臨界二酸化炭素)となる。
【0015】
一方、亜臨界流体は、臨界点手前近傍の領域にある流体をいい、圧縮液体と圧縮気体の併存状態にある。この領域の流体は、超臨界流体とは区別されるが、密度等の物理的性質は連続的に変化するため物理的な境界は存在せず、このような領域にある亜臨界流体も本発明における高圧流体として使用することができる。なお、このような亜臨界領域及び臨界点近傍の超臨界領域にある流体は高密度液化ガスとも称される。
【0016】
本発明で用いる高圧流体の種類は特に限定されず、使用するめっき液、めっき液に含まれる微粒子の種類等に応じて適切な超臨界流体又は亜臨界流体を選択すればよい。例えば、二酸化炭素、酸素、アルゴン、クリプトン、キセノン、アンモニア、3フッ化メタン、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン、メチルエーテル、クロロホルム、水、エタノール等が挙げられる。これらの中でも、実用的な臨界点、環境適応性、無毒性等の観点から、二酸化炭素の超臨界流体を用いることが好ましい。
【0017】
<めっき液>
めっき液としては、形成すべき複合めっき膜の目的に応じた特性を有する微粒子を含むめっき液、好ましくは、さらに、高圧流体との混合を促す界面活性剤を含むめっき液を用いる。
なお、めっき膜の金属マトリックスとしては特に制限はなく、例えば、ニッケル、銅、銀、亜鉛、錫等の金属又は合金から選ぶことができる。表面硬度及び耐磨耗性に優れることから、好ましくは、ニッケル(Ni)、あるいは、ニケッル−コバルト合金(Ni−Co)、ニッケル−リン合金(Ni−P)、ニッケル−ホウ素合金(Ni−B)等のニッケル合金が選定される。
【0018】
めっき液となる電解質溶液としては、溶媒に対して、一種又は二種以上の金属の塩、有機電解質、リン酸等の酸、アルカリ物質等の各種電解質を溶解させたものが用いられる。
上記溶媒は、極性溶媒であれば特に限定されるものではなく、具体例として、水、エタノール、メタノール等のアルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の直鎖状カーボネート類、あるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。
金属の塩としては、めっき膜として析出させる金属、合金、酸化物の種類等を考慮して適宜選択すれば良い。電気化学的に析出させることができる金属としては、Cu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Pt等が挙げられる。
有機電解質としては、ポリアクリル酸等の陰イオン系電解質、ポリエチレンイミン等の陽イオン系電解質が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
めっき液となる電解質溶液には、上記物質の他にも、溶液の安定化等を目的として一種又はそれ以上の物質を含むことができる。具体的には、(1)析出する金属のイオンと錯塩をつくる物質、(2)電解質溶液の導電性をよくするための無関係塩、(3)電解質溶液の安定剤、(4)電解質溶液の緩衝剤、(5)析出金属の物性を変える物質、(6)陰極の溶解を助ける物質、(7)電解質溶液の性質あるいは析出金属の性質を変える物質、(8)二種以上の金属を含む混合溶液の安定剤等を挙げることができる。
【0020】
例えば、無電解めっき法により複合めっき膜を形成する場合、一般的に、金属塩、錯化剤、及び還元剤を含む無電解めっき液を使用する。
無電解めっき液に用いることが可能な金属としては、V、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Cd、B、In、Ti、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi等が挙げられる。
錯化剤としては、コハク酸などのジカルボン酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸、グリシン、EDTAなどのアミノ酢酸等の有機酸、及びそれらのナトリウム塩等が挙げられる。
還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等が挙げられる。
【0021】
<微粒子>
めっき液に含まれる微粒子としては、めっき膜に付与すべき特性に応じて有機又は無機微粒子を選択すればよい。
例えば、耐摩耗性、耐熱性等を付与する場合には、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、酸化タングステン、二酸化チタン、炭化ケイ素などの無機微粒子を用いることができる。
自己潤滑性を付与する場合には、二酸化モリブデン、黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、高分子フッ素化合物などの微粒子を用いることができる。
潤滑性、撥液性等を付与する場合には、フッ化黒鉛、フッ素樹脂などの微粒子を用いることができる。
親水性を付与する場合には、親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの微粒子を用いることができる。
【0022】
なお、めっき液に添加する微粒子の大きさは特に限定されず、被めっき体の用途、めっき膜の目的等に応じて選択すればよいが、粒径が小さすぎると、粒子の凝集が起こり易くなり、反対に大き過ぎるとめっき膜の表面粗さが増大し易くなる。通常は数十nm〜数十μm、より好ましくは0.1μm〜1μm程度の最大径を有する微粒子を用いる。例えば、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の微小な構造体に複合めっき膜を形成する場合には、最大径が数nm〜数百nm程度の微粒子を好適に使用することができる。
また、例えばめっき膜に複数の機能を付与する場合には、必要に応じて二種類以上の微粒子をめっき液に添加してもよい。
【0023】
−フッ素系樹脂微粒子−
例えばインクジェットヘッドノズルプレートのインク吐出面に撥液性を付与する場合には、フッ素樹脂−金属による共析めっき液を用いることが好ましい。共析するフッ素樹脂は、公知のフッ素樹脂を広く利用できる。具体的には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー)、また、ECTFE(エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー)、FVDF(ポリフッ化ビニデリン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチン)、TFE/PDD(テトラフルオロエチレン−パーフルオロジイオキソールコポリマー)などが挙げられる。撥液性の点では、PTFEを用いることが特に好ましい。
【0024】
例えば、PTFEを共析させる無電解めっき液としては、上村工業株式会社より販売されているニムフロン(登録商標)、ニムフロンFRS、ニムフロン−T、奥野製薬工業株式会社より販売されている、トップニコジットTF、トップニコジットFL、トップニコジットAF等を用いることができる。
【0025】
なお、電気めっき液、無電解めっき液に関わらず、超臨界COを用いためっき処理の場合、めっき液中に超臨界COが溶け込み、めっき液のpHが酸性側にシフトするので、酸性領域で浴安定性が高いめっき液を用いることが好ましい。
【0026】
<界面活性剤>
超臨界二酸化炭素のような無極性の高圧流体は、前述のようなめっき液とは非相溶であり、超臨界二酸化炭素と分離してしまう。そこで、界面活性剤を加えることにより、めっき液を乳濁させて均一とし、反応効率を向上させることができる。界面活性剤としては、従来用いられている陰イオン性、非イオン性、陽イオン性、及び両イオン性界面活性剤の中から、少なくとも一種を選択して使用することができる。なお、超臨界水などの極性物質の高圧流体と極性物質のめっき液との組合せでは相溶性があるため、界面活性剤の添加は不要である。
【0027】
陰イオン性界面活性剤としては、石鹸、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、フェニルエーテル硫酸エステル塩、メチルタウリン酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、硫酸化油、リン酸エステル、パーフルオロオレフィンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキル硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル硫酸エステル塩、パーフルオロフェニルエーテル硫酸エステル塩、パーフルオロメチルタウリン酸塩、スルホパーフルオロコハク酸塩、パーフルオロエーテルスルホン酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
陰イオン性アニオン界面活性剤の塩のカチオンとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、テトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、電解可能な陽イオンであれば用いることができる。
【0028】
非イオン性界面活性剤としては、C1〜25アルキルフェノール系、C1〜20アルカノール、ポリアルキレングリコール系、アルキロールアミド系、C1〜22脂肪酸エステル系、C1〜22脂肪族アミン、アルキルアミンエチレンオキシド付加体、アリールアルキルフェノール、C1〜25アルキルナフトール、C1〜25アルコキシ化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、スチレン化フェノール、アルキルアミンエチレンオキシド/プロピレンオキシド付加体、アルキルアミンオキサイド、C1〜25アルコキシ化リン酸(塩)、パーフルオロノニルフェノール系、パーフルオロ高級アルコール系、パーフルオロポリアルキレングリコール系、パーフルオロアルキロールアミド系、パーフルオロ脂肪酸エステル系、パーフルオロアルキルアミンエチレンオキシド付加体、パーフルオロアルキルアミンエチレンオキシド/パーフルオロプロピレンオキシド付加体、パーフルオロアルキルアミンオキサイド等を挙げることができるが、これらに限定されるものはない。
【0029】
陽イオン性界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウ
ム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピコリニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、エチレンオキシド付加型アンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、酢酸モノアルキルアンモニウム、イミダゾリニウムベタイン系、アラニン系、アルキルベタイン系、モノパーフルオロアルキルアンモニウムクロライド、ジパーフルオロアルキルアンモニウムクロライド、パーフルオロエチレンオキシド付加型アンモニウムクロライド、パーフルオロアルキルベンジルアンモニウムクロライド、テトラパーフルオロメチルアンモニウムクロライド、トリパーフルオロメチルフェニルアンモニウムクロライド、テトラパーフルオロブチルアンモニウムクロライド、酢酸モノパーフルオロアルキルアンモニウム、パーフルオロアルキルベタイン系等を挙げることができるが、これらに限定されるものはない。
【0030】
両イオン性界面活性剤としては、ベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸等が挙げられ、また、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化又はスルホン酸化付加物等を挙げることができるが、これらに限定されるものはない。
【0031】
<めっき>
上記のようなめっき液と、高圧流体を用いて被めっき体にめっきを施す場合、めっきを施す被めっき体の材質等に応じて電気めっき法又は無電解めっき法を選択し、上記めっき液と高圧流体とを混合攪拌させてめっきを行えばよい。例えば、被めっき体を高圧容器内に入れるとともに、微粒子及び界面活性剤が添加されためっき液と高圧流体とを密閉された高圧容器内で混合して攪拌する。これにより被めっき体は攪拌された混合流体と接触し、表面に複合めっき膜が形成される。
なお、高圧流体と電解質溶液の、浴中での仕込み比は特に限定されるものではなく、電解質溶液の濃度や反応条件等を考慮して適宜設定することができる。しかし、電解質溶液が少な過ぎると反応が進み難くなるため、臨界点以下の高圧流体に対して少なくとも0.01wt%以上の電解質溶液を含むことが好ましい。
また、具体例としては、例えば2.0cmの銅基板全面に無電解Ni−Pめっき膜を1μm程度成膜する場合、50mlのバッチ式高圧反応炉内に30mlの無電解Ni−Pめっき液と、めっき液に対して1.0wt%の界面活性剤を添加し、反応炉内の残りの容量に超臨界二酸化炭素を投入し、攪拌することで、銅基板上にめっき成膜をすることができる。
【0032】
このような方法によれば、超臨界流体又は亜臨界流体が持つ低粘性及び高拡散性によって、被めっき体が微細構造を有する場合でもめっき液が細部に供給されるとともに、めっき液に含まれる微粒子が十分拡散されるため、微粒子が金属マトリックス中に均一に分散された複合めっき膜を形成することができる。そのため、例えばめっき膜が摩耗しても、最表面における微粒子の密度が変化せず、微粒子による特性が一定に保たれることになる。また、微粒子が金属マトリックス中に均一に分散されているため、微粒子が不均一に分散されている複合組織と比べて、機械的強度においても均一性の高いめっき膜となる。
さらに、めっき工程で発生する水素は高圧流体によって効率的に除去されるため、ピンホールやボイドの形成が抑制されるとともに、ノジュールの形成も抑制され、表面が極めて平滑な複合めっき膜が形成される。
【0033】
次に、好適な例として、インクジェット記録ヘッドを製造する場合に、撥液性の複合めっき膜を形成する方法について具体的に説明する。
図2は、本発明によりインクジェット記録ヘッドを製造する際にノズルプレートのインク吐出面に撥液性の複合めっき膜を形成する工程の一例を示している。また、図3は、めっき膜を形成する際の各工程におけるノズルプレートの状態を概略的に示している。
さらに、図4は、めっき工程で用いる超臨界流体装置の構成の一例を概略的に示している。この装置200は、超臨界流体として用いる二酸化炭素を供給する二酸化炭素ボンベ202、超臨界流体とめっき液213を混合攪拌してノズルプレート11にめっきを施す高圧用反応容器210、攪拌装置211付き恒温槽208、めっき液等を回収するトラップ212等を備えている。
【0034】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクを吐出するノズル部12が形成されたノズルプレート11のインク吐出側とは反対側の面にめっき用保護膜14を形成する保護膜形成工程と(図3(A)〜(C))、
第1の高圧流体と、撥液性微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、前記めっき用保護膜14が形成されたノズルプレート11を接触させて前記インク吐出側の面に複合めっき膜16を形成するめっき工程と(図3(E))、
前記複合めっき膜16が形成されたノズルプレート11から前記めっき用保護膜14を除去する保護膜除去工程と(図3(F))、を有する。
【0035】
[めっき用保護膜の形成]
まず、インクを吐出するノズル部12が形成されたノズルプレート11を準備する。ノズルプレート11としては、シリコン、セラミックス、プラスチックなどの樹脂系材料、又は金属製のものが好適に用いられる。
なお、電気めっきによって撥液性共析めっき膜を形成する場合は、めっき対象物(ノズルプレート11)に導電性が必要であるが、ノズルプレート11が導電性のない材料(例えばセラミックス又はプラスチック)からなる場合でも、スパッタや無電解めっきによって、導電性を有するシード層を予め形成することで電気めっきが可能となる。
【0036】
図3(A)に示すように、ノズルプレート11のインク吐出側の面(インク吐出面)に、例えば板状の弾性体13を圧着させる。弾性体13は、後にめっき用保護膜14を形成するための材料(保護膜用材料)がノズルプレート11のインク吐出面に漏れ出ないように圧着し、尚且つ、当該保護膜用材料が硬化して保護膜が形成された後に除去しやすいものを使用する。
弾性体13を構成する材料としては、保護膜用材料と化学反応せず、尚且つ、ノズルプレート11と圧着することができるものであれば特に限定されず、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ドライフィルム等が挙げられる。なお、弾性体13の形状は板状に限定されず、めっき膜を形成するノズルプレート11の形状に応じて選択すればよい。
【0037】
ノズルプレート11に弾性体13を圧着させる方法としては、例えば、ノズルプレート11と弾性体13を、それぞれ別々の金属等の支持板に載置し、ノズルプレート11のインク吐出面と弾性体13とを重ね合わせて押圧する方法が挙げられる。押圧の際、後にノズルプレート11に付与する保護膜用材料が、ノズル部12を通じてインク吐出面側に漏れ出さないように加圧力を調整してノズルプレート11と弾性体13とを圧着させる。
【0038】
次に、ノズルプレート11のインク吐出面以外の部分にめっき膜が形成されることを避けるため、図3(B)に示すように、ノズルプレート11のインク吐出面に弾性体13を圧着した状態でノズル部12内に保護膜用材料を注入(充填)するとともに、弾性体13が圧着されていない側の面を保護膜用材料でコートする。ノズルプレートに保護膜用材料を付与する方法は特に限定されず、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディッピング法等、公知の方法により選択することができる。
コート後、保護膜用材料を硬化させることにより、めっき用保護膜14が形成される。保護膜用材料を硬化させる手段は、使用する保護膜用材料に応じて選択すればよく、通常は、加熱、露光、乾燥等が挙げられる。
【0039】
このような保護膜用材料としては、めっき工程に対して不活性であり、耐酸性及び耐アルカリ性に優れるものが好ましい。具体的には、マスクエース(太陽化工(株)製)に代表されるめっき用マスキング材が挙げられる。
保護膜用材料としてさらに好ましくは、めっき工程等で用いる高圧流体に対して、発泡、膨潤、剥離、溶解等の変化が起こらず、めっき工程に対して不活性であり、尚且つ、めっき後、容易に除去できるものである。例えば、ポリメチルフェニルシラン等を有する感光性液体レジストが挙げられる。ポリメチルフェニルシランは、めっき工程等において用いる超臨界COに溶解し難い一方、めっき工程後は、紫外線照射によってメチルシロキサンとなり、超臨界COに可溶となるレジスト材である。めっき用保護膜14を除去するに際し、超臨界CO等の高圧流体を用いることができれば、従来のようにレジスト除去時に用いる有機溶剤等が不要となり、工程中に発生する廃液量の低減を図ることができる。
【0040】
めっき用保護膜14を形成した後、弾性体13を除去する(図3(C))。前記したようなシリコーンゴム、フッ素ゴム、ドライフィルム等、ノズルプレート11に圧着され、尚且つ、めっき用保護膜14とは反応しない弾性体13を選択すれば、保護膜形成後、ノズルプレート11から弾性体13を容易に剥離することができる。
【0041】
[めっき用前処理]
めっき用保護膜を形成した後、ノズルプレート11に対し、弾性体13を除去した面(インク吐出面)にめっき用前処理を行う。めっき用前処理は、めっき工程において選択するめっき方法(電気めっき法又は無電解めっき法)やノズルプレート11の材質等によって異なるため、適宜選択すればよい。
具体的には、例えば、ノズルプレート11のインク吐出面に対して行う脱脂工程(図2(B))と、酸洗及び表面調整工程(図2(C))が挙げられる。また、洗浄工程を行うことも好ましい。なお、洗浄工程は、めっき用前処理に限らず適宜行うことが好ましく、特に、脱脂工程(図2(B))、酸洗及び表面調整工程(図2(C))、めっき工程(図2(D))、及び乾燥工程(図2(G))の少なくとも1工程の前に行うことが好ましい。
【0042】
また、本発明では、高圧流体をめっき工程で用いることを必須とするが、高圧流体は、脱脂工程、酸洗及び表面調整する工程、めっき工程、乾燥工程、及び洗浄工程のいずれの工程においても好適に用いることができる。特に、めっき用保護膜を形成した後、めっき工程の前に、高圧流体で脱脂する工程と、酸を含む高圧流体で酸洗及び表面調整する工程を行うことが好ましい。
なお、めっき工程で用いる高圧流体(第1の高圧流体)、脱脂工程で用いる高圧流体(第2の高圧流体)、酸を含む高圧流体で酸洗及び表面調整する工程で用いる高圧流体(第3の高圧流体)、洗浄工程で用いる高圧流体(第4の高圧流体)はそれぞれ異なる種類でもよいが、同じ種類、特に超臨界二酸化炭素を用いることが好ましい。例えば、第1の高圧流体としては、超臨界二酸化炭素を用い、第2、第3、及び第4の高圧流体としては、二酸化炭素、二酸化炭素と界面活性剤との混合流体、二酸化炭素と水と界面活性剤との混合流体、二酸化炭素と水と界面活性剤と酸との混合流体、又は二酸化炭素と水と界面活性剤とアルカリとの混合流体を好適に用いることができる。
以下、めっき工程以外においても高圧流体を適宜用いる場合について説明する。
【0043】
−脱脂工程−
ノズルプレート11の表面に付着している油分等を除去するため、脱脂を行う際、従来の脱脂作業のように、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、トリクロロエタン等の溶剤を用いると、環境に対して悪影響を引き起こす恐れがある。
一方、超臨界二酸化炭素等の高圧流体単独、高圧流体+界面活性剤、高圧流体+界面活性剤+水、高圧流体+水、高圧流体+界面活性剤+酸性溶液、高圧流体+界面活性剤+アルカリ性溶液のいずれかを使用すれば、温度及び圧力を上げて超臨界状態ないし亜臨界状態とする過程で、ノズルプレート11のめっき膜を形成する面は、系に生じた流れのため自然に脱脂洗浄される。したがって、本発明では、従来のようなめっき工程前の有機系脱脂剤を用いた脱脂作業を省略することができ、環境保全型のシステムを実現することもできる。
ただし、本発明は、めっき対象物(ノズルプレート11)に対して従来と同様に予め脱脂洗浄を行うことを排除するものではない。
【0044】
−酸を含む高圧流体で酸洗及び表面調整をする工程−
本発明では、更にめっき膜を形成する面を、酸を含む高圧流体で酸洗及び表面調整をすることが好ましい。このように酸を含む高圧流体を用いた酸洗及び表面調整により、ノズルプレート11の表面に形成されている酸化皮膜を除去し、且つ、表面を粗面化することにより、後に形成するめっき膜の密着性を向上させることができる。特に、めっき工程において無電解めっきを行う場合は、上記のような酸洗い等により、めっき前処理での触媒粒子が付着しやくなる。
【0045】
例えば、界面活性剤を添加した酸洗液と、高圧流体として超臨界状態ないし亜臨界状態の二酸化炭素とを、図4に示したような構成の超臨界流体装置200の高圧用反応容器210内で混合して攪拌し、乳濁化(エマルジョン化)する。この乳濁液がノズルプレート11及び弾性体13を包み込んで、反応種が効率良くノズルプレート11及び弾性体13の表面に供給される。これにより、ノズルプレート11の表面の酸化皮膜を除去するとともに、ノズルプレート11の表面を均一に粗面化することができる。このように酸を含む高圧流体を用いた方法によれば、従来のようにノズルプレート11を酸洗液に浸漬する方法に比べて処理液が少量で足りるため、処理すべき廃液の量を抑えることができる。
【0046】
−洗浄工程−
洗浄工程でも高圧流体を用いることが好ましい。高圧流体を用いて洗浄を行えば、従来の溶剤等の液体洗浄で生じるような廃液処理が不要となる点で好ましい。例えば、図3(D)に示すようなノズルプレート11にめっき用保護膜14を形成した状態のものを、図4に示したような構成を有する装置200の高圧反応容器210内に配置する。そして、容器210内を高圧流体(例えば超臨界二酸化炭素)が発生するような条件(温度及び圧力)に設定して高圧流体を発生させ、高圧流体の高い拡散性と溶解性を利用してノズルプレート11の表面に付着している異物を除去する。また、容器210内を減圧又は降温することにより、高圧流体が急激に気化又は液化するため、ノズルプレート11のインク吐出面に激しい流れで衝突し、効果的に洗浄することができる。このような洗浄工程では、例えば、超臨界二酸化炭素等の高圧流体単独、高圧流体+界面活性剤、高圧流体+水、高圧流体+水+界面活性剤、又は、高圧流体+界面活性剤+酸性溶液若しくはアルカリ性溶液のいずれかを好適に使用することができる。
例えば、超臨界二酸化炭素を用いためっき工程と、脱脂、洗浄等のめっき前処理工程を一貫して行う場合には、めっき前処理工程では、超臨界二酸化炭素、超臨界二酸化炭素+添加剤(界面活性剤等)、超臨界二酸化炭素+界面活性剤+水、超臨界二酸化炭素+界面活性剤+水+酸、又は超臨界二酸化炭素+界面活性剤+水+アルカリを用いることが好ましい。
なお、無極性の超臨界二酸化炭素によって極性物質の異物等を除去する場合、界面活性剤等の添加剤を含む方がより一層の洗浄効果を期待することができる。
また、めっき工程で用いる高圧流体に関しては、めっき液の使用温度制限(例えば無電解Ni−Pめっき液の好ましい温度は80℃〜90℃)、環境適応性、無毒などの観点から、二酸化炭素の超臨界流体の使用が好ましいが、脱脂、酸洗い、表面調整、活性化、及び洗浄に関しては、めっき工程ほど、超臨界流体と乳濁化する液体の使用温度制限はないため、前記したような水、エタノール等、二酸化炭素以外の高圧流体を使用してもよい。
【0047】
上記のように、脱脂工程、酸性溶液を含む高圧流体での酸洗及び表面調整をする工程、及び洗浄工程は、いずれも超臨界二酸化炭素等の高圧流体を用いて行うことができるため、例えば、図4に示したような構成の装置200を用い、超臨界状態ないし亜臨界状態の二酸化炭素を高速に循環させてこれらの工程を連続的に行うことができる。このような方法によれば、例えばめっき槽に脱脂流体ないし洗浄流体を導入するだけの洗浄法のようにカルマン渦を形成することなく、高圧流体は高速かつ円滑に移動し、一定の速度で被めっき体(ノズルプレート11)と接触して脱脂、洗浄等が行われ、高速かつ精密な洗浄作用が得られる。例えば高圧流体がノズルプレート11に沿って平行に移動するようにすれば、移動速度や拡散速度が減速されることなく、高速かつ精密な洗浄作用を維持することができる。
【0048】
−めっき前処理層の形成工程−
無電解めっき法にてノズルプレート11にめっき膜を形成するためには、弾性体を除去した面、すなわち、めっき膜を形成すべきインク吐出面にめっき前処理層を形成する必要がある。これは、例えば以下のようにして行う。
まず、パラジウム系触媒液に、所定の界面活性剤を所要量添加して所定の組成に調製し、この触媒液と高圧流体とを反応容器内で攪拌して乳濁化させる。反応容器内で攪拌された液がノズルプレート11を包み込んで触媒粒子が均一にノズルプレート11に接触する。これにより、ノズルプレート11のインク吐出面には、触媒粒子が付着しためっき前処理層が形成される。また、乳濁化によって効率良く触媒粒子がノズルプレート11に供給されるため、触媒液中に浸漬する従来法に比べて非常に少量でめっき前処理層を形成することができる。
【0049】
一方、導電性を有さない材質で形成されたノズルプレート11に電気めっき法にてめっき膜を形成する場合、めっき膜を形成すべきノズルプレート11のインク吐出面には、めっき前処理層として導電性を有するシード層を形成する必要がある。このような導電性シード層を形成するには、蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、ALD(Atomic Layer Deposition)、高圧流体を用いたCFD(Chemical Fluid Deposition)等のドライプロセス、あるいは、通常の無電解めっきや、後述する高圧流体を用いた無電解めっき等のウェットプロセスを適用することができる。
【0050】
[めっき]
めっき工程は、電気めっき法又は無電解めっき法により行うことができる。以下、高圧流体として超臨界二酸化炭素を用い、無電解めっき法により複合めっき膜を形成する場合について主に説明する。
【0051】
−無電解めっき工程−
無電解めっきとは、めっき膜として析出させたい金属イオンを含む溶液を用いて酸化還元反応によって金属を析出させる液相薄膜形成法をいう。本発明において無電解めっき工程を行う場合、例えば、図4に示したような構成を有する日本分光社製の超臨界流体装置200を用いることができる。
高圧用反応容器210は温度計222を備えた恒温槽208内に設置され、使用するめっき液に応じて適性温度に設定される。めっきを行う際、高圧流体として使用する物質が超臨界状態又は亜臨界状態になる温度以上に設定することが好ましい。
【0052】
二酸化炭素ボンベ202から排出された二酸化炭素はクーラー204にて冷却され、バルブ224を開放することで、圧力計220を備えた高圧ポンプ206で圧力を制御しながら高圧用反応容器210内に導入される。高圧用反応容器210内の圧力は、背圧調整器218によっても所定の値に制御することができる。また、背圧調整時に排出される二酸化炭素、めっき液、界面活性剤等はトラップ212にて回収される。
【0053】
このような構成の装置200を用いてノズルプレート11に無電解めっきを行う場合、まず、高圧用反応容器210内に、無電解めっき液213、テフロン(登録商標)コートされた攪拌子214、及び無電界めっき用の前処理(図2(B)〜(D))を施したノズルプレート11を入れて密閉する。無電解めっき液213としては、撥液性樹脂−金属による共析無電解めっき液に、親二酸化炭素基(二酸化炭素との親和性部分)と親水性基を有する界面活性剤を所定量添加したものを用いる。なお、界面活性剤の使用量は特に限定されないが、通常は、電解質溶液に対して、0.0001〜30wt%程度とすることが好ましく、特に0.001〜10wt%が好ましい。
【0054】
次いで、高圧ポンプ206によって純度99.99%以上の二酸化炭素215を高圧用反応容器210内に導入する。このとき、図5(A)に示されるように、無電解めっき液213と超臨界二酸化炭素215aはまだ分離した状態にある。
二酸化炭素215を高圧用反応容器210内に導入した後、攪拌装置211を駆動させて攪拌子214を回転させる。このときの反応容器210内の圧力は、二酸化炭素の臨界圧力である7.387MPa以上とし、好ましくは7.387MPa以上40.387MPa以下、より好ましくは10MPa以上20MPa以下の範囲となるように設定する。また、反応温度は、二酸化炭素の臨界温度である304.5K以上とし、好ましくは304.5K以上573.2K以下、より好ましくは304.5K以上473.2K以下の範囲となるように設定する。また、反応時間は、目標とするめっき膜の厚さ等に応じて決めればよく、通常は0.001秒〜数ヶ月程度の時間に適宜設定される。
【0055】
図5(B)に示すように、反応容器210内では、攪拌子214によって、超臨界二酸化炭素215aと、撥液性樹脂微粒子及び界面活性剤を加えた無電解めっき液213とが攪拌され、乳濁化された混合流体217がノズルプレート11を覆った状態となる。すなわち、界面活性剤と撥液性樹脂微粒子を含むめっき液と、高い拡散定数を有する高圧流体とが攪拌により混合して乳濁化されることで浴が均質化され、撥液性樹脂微粒子がめっき液中に均一に分散される。これにより、めっき金属イオン及び撥液性樹脂微粒子がノズルプレート11の表面(インク吐出面)に均一に供給されて共析し、めっき金属マトリックス中に撥液性樹脂が均一に分散された複合めっき膜16が形成される(図3(E))。
【0056】
このような高圧流体を用いた無電解めっきにより、金属と撥液性樹脂との複合組織がめっき膜の厚さ方向及びその垂直方向(面方向)に3次元的に均一に分散されることで、ワイピング後に当該めっき膜が徐々に削れても、最表面には撥液性樹脂が均一に存在し、めっき膜の撥液性が常に一定の状態に維持される。
また、従来の金属マトリックス中に不均一に撥液性樹脂が分散されている複合組織と比べて、金属マトリックス中に撥液性樹脂が均一に分散されることで、機械的強度においても均一なめっき膜となる。
【0057】
さらに、めっき反応では水素が発生するため、通常、めっき膜に水素に起因するピンホールやボイドが発生するが、本発明では、高圧流体、特に水素との相溶性が高い二酸化炭素の高圧流体を用いることで、当該水素を瞬時に除去することができ、ピンホールやボイドの発生を抑制することができる。
【0058】
また、従来の無電解めっきでは、ノズルプレート11に前処理としてパラジウム微粒子を付着させて無電解めっきを行うと、パラジウム微粒子の周りから先にめっき膜が成長し、めっき時間の増加とともに表面粗さが大きくなったり、ノジュールが発生し易いが、本発明に係る高圧流体を用いためっき法では、上記のようなめっき膜の表面粗さやノジュールの形成に影響を与えるめっき前処理工程の影響が低減される。そのため、めっき膜表面の平滑性が向上し、ノジュールの発生も抑制される。
【0059】
所定の反応時間後、攪拌を停止し、反応容器内の圧力を大気圧下まで下げる。このとき、図5(C)に示すように、二酸化炭素215と無電解めっき液213に再び分離する。
次いで、反応容器210内からノズルプレート11を取り出して洗浄する。この洗浄でも、前述の洗浄工程と同様に高圧流体(超臨界二酸化炭素)を用いてノズルプレート11の表面に残存する無電解めっき液を除去することが好ましい。
【0060】
[保護膜の除去]
次いで、アセトン等の有機溶剤や高圧流体を用いてめっき用保護膜14を除去する(図3(F))。例えば、保護膜14としてマスクエース(太陽化工(株)商品名)を用いた場合は、トルエンで除去することが可能である。一方、ポリメチルフェニルシランを含むレジスト材により保護膜14を形成した場合には、紫外線露光により超臨界二酸化炭素に可溶な状態にした後、超臨界二酸化炭素で除去してもよい。このように高圧流体を用いて保護膜を除去することができれば、アセトン等の有機溶剤を使用せず、かつ、廃液処理量が低減される点でより好ましい。
【0061】
[乾燥]
ノズルプレート11から保護膜14を除去した後、必要に応じて洗浄を行い、さらに乾燥させる。このような撥液性めっき膜16を形成した後のめっき膜16の乾燥工程においても、めっき膜表面を超臨界二酸化炭素等の高圧流体により洗浄して乾燥することが好ましい。なお、ノズルプレート11を洗浄及び乾燥した後、保護膜14を除去してもよい。
【0062】
以上のような工程を経て、インク吐出面に撥液性の複合めっき膜16が形成されたノズルプレート11を得ることができる。
このように超臨界流体又は亜臨界流体を用いて複合めっき(電気めっき法又は無電解めっき法)を行うことによって、ノズルプレート11のインク吐出面に形成されためっき膜16は、金属マトリックス中に撥液性樹脂が均一に分散された撥液性の複合めっき膜16となる。金属と撥液性樹脂との複合組織が膜厚方向及びその垂直方向に(3次元的に)均一に分散された複合めっき膜16が形成されることで、ワイピング後に当該めっき膜が削れた後の面でも撥液性樹脂が均一に存在し、めっき膜16の撥液性が一定に維持されることになる。
【0063】
また、本発明のように高圧流体、特に水素との相溶性が高い二酸化炭素の高圧流体を用いることで、従来のめっき法において問題であったピンホール、ボイド、ノジュール等の発生が低減された極めて平滑な複合めっき膜を形成することができる。特に、高圧流体を用いた無電解めっき法によりめっきを行えば、めっき前処理工程によるめっき膜の表面性状への影響(表面粗さなど)を低減することができる。
また、従来の金属マトリックス中に撥液性樹脂が不均一に分散されている複合組織と比べて、撥液性樹脂が金属マトリックス中に均一に分散されることで、機械的強度においても均一性の高いめっき膜が形成される。
従って、本発明の方法によれば、従来のものよりも、複合めっき膜の密着性、ワイピング耐性、耐インク性、吐出安定性が格段に向上したインクジェット記録ヘッドを製造することができる。
【0064】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
被めっき体はインクジェット記録ヘッドのノズルプレートに限定されず、例えばマイクロデバイス等のめっきにも好適に適用することができる。
また、例えば、電気めっきによりめっき膜を形成する場合には、図6に示すように反応容器210内に、複合めっき膜を構成する金属を含む塩、微粒子、及び界面活性剤を含む水溶液(めっき液)213を入れるとともに、ノズルプレート11を陰極とし、複合めっき膜の金属マトリクスとなる金属又は不溶性の電極(黒鉛など)を陽極216とする。そして、反応容器210内に、高圧流体として例えば超臨界二酸化炭素215aを導入するとともに攪拌子214を回転させて攪拌する。そして、両極を直流電流につないで低電流で電気分解を行うことでノズルプレート11のインク吐出面に、微粒子が均一に分散された複合めっき膜を形成することができる。
【0065】
また、めっき工程に限らず、例えば、めっき前処理工程から乾燥工程まで(図2(B)〜(G))、超臨界二酸化炭素を含む高圧流体を用いて各工程を行うことができるため、例えば、図4に示したような超臨界流体装置200を備えたクローズドシステムによって、廃液処理を低減し、低コストで、複合めっき膜の形成、あるいは、インクジェット記録ヘッドの製造を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】超臨界流体及び亜臨界領域を示す状態図である。
【図2】本発明によりインクジェット記録ヘッドを製造する際に複合めっき膜を形成する工程の一例を示す図である。
【図3】めっきを行う前後の各工程におけるノズルプレートの状態を示す概略図である。
【図4】本発明で用いることができる超臨界流体装置の構成の一例を示す概略図である。
【図5】無電解めっきにおける高圧流体とめっき液の状態を示す概略図である。
【図6】電気めっきにおける高圧流体とめっき液の状態を示す概略図である。
【図7】従来のインクジェット記録ヘッドで生じる現象を示す図である。(A)インク溜りを示す概略図 (B)インクの吐出方向のずれを示す概略図
【図8】インク吐出口のワイピングを示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ノズルプレート
3 吐出面
7 ブレード
11 ノズルプレート
12 ノズル部
13 弾性体
14 めっき用保護膜
16 複合めっき膜
200 超臨界流体装置
202 二酸化炭素ボンベ
204 クーラー
206 高圧ポンプ
208 恒温槽
210 高圧用反応容器
211 攪拌装置
212 トラップ
213 めっき液
214 攪拌子
215a超臨界二酸化炭素
215 二酸化炭素
216 陽極
217 混合流体
218 背圧調整器
220 圧力計
224 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧流体と、微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、めっきを施すべき被めっき体を接触させて複合めっき膜を形成する工程を有することを特徴とする複合めっき膜の形成方法。
【請求項2】
インクを吐出するノズル部が形成されたノズルプレートのインク吐出側とは反対側の面にめっき用保護膜を形成する保護膜形成工程と、
第1の高圧流体と、撥液性微粒子を含むめっき液とを混合して攪拌した混合流体に、前記めっき用保護膜が形成されたノズルプレートを接触させて前記インク吐出側の面に複合めっき膜を形成するめっき工程と、
前記複合めっき膜が形成されたノズルプレートから前記めっき用保護膜を除去する保護膜除去工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記撥液性微粒子が、フッ素系樹脂微粒子であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記めっき液が、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第1の高圧流体が、二酸化炭素の超臨界流体を含むことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記めっき工程を、電気めっき法又は無電解めっき法により行うことを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記ノズルプレートに対し、前記保護膜形成工程の後、前記めっき工程の前に、第2の高圧流体で脱脂する工程と、酸を含む第3の高圧流体で酸洗及び表面調整をする工程を行うことを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記ノズルプレートに対し、前記保護膜除去工程の後、乾燥工程を行うことを特徴とする請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記脱脂工程、前記酸洗及び表面調整工程、前記めっき工程、及び前記乾燥工程の少なくとも1工程の前に、第4の高圧流体による洗浄工程を行うことを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記第2、第3、及び第4の高圧流体が、二酸化炭素、二酸化炭素と界面活性剤との混合流体、二酸化炭素と水と界面活性剤との混合流体、二酸化炭素と水と界面活性剤と酸との混合流体、又は二酸化炭素と水と界面活性剤とアルカリとの混合流体であることを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−293068(P2009−293068A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146112(P2008−146112)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】