説明

複合体及びその製造方法

【課題】接着剤を用いることなく樹脂とゴムとを直接的かつ強固に接合する。
【解決手段】ラジカル発生剤(有機過酸化物など)で加硫した加硫ゴム部材と、下記式(1)で表される軌道相互作用エネルギー係数Sが0.006以上である水素原子又は硫黄原子を一分子中に少なくとも平均2つ有する熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材とを組合せて、樹脂部材と加硫ゴム部材とが直接接合した複合体を得る。
S=(CHOMO,n2/|Ec−EHOMO,n|+(CLUMO,n2/|Ec−ELUMO,n| (1)
(式中、Ecはジカルの軌道エネルギー(eV)、CHOMO,nは樹脂の基本単位を構成する第n番目の水素原子の最高被占分子軌道(HOMO)の分子軌道係数、EHOMO,nは前記HOMOの軌道エネルギー(eV)、CLUMO,nは前記n番目の水素原子又は硫黄原子の最低空分子軌道(LUMO)の分子軌道係数、ELUMO,nは前記LUMOの軌道エネルギー(eV)を示し、半経験的分子軌道法MOPACPM3により算出された値である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂とゴムとが一体に接合し、かつ機械部品、自動車部品などとして有用な複合体(又は複合部材)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形部とゴム成形部とを複合一体化する方法として、接着剤を用いて樹脂成形体とゴム成形体とを接着する方法が知られている。しかし、接着剤を用いる方法は、工程が複雑で工程管理が煩雑であり、コストが高くなるだけでなく、必ずしも十分な接着性を得られない。
【0003】
一方、樹脂とゴムとが直接接合した複合体が提案されている。例えば、特開昭50−25682号公報(特許文献1)には、ポリホルムアルデヒドやオレフィン重合体などの熱可塑性プラスチック成分と、この熱可塑性プラスチック成分と相溶性の加硫したゴム成分(ポリブタジエン、ニトリルなど)とを摩擦接触させてプラスチック表面を溶融し、プラスチック成分とゴム成分とを接触させたまま凝固させるゴム−プラスチック複合体の製造方法が開示されている。しかし、この方法では、複合体の接合部位の形状が制限され、複雑な形状の熱可塑性樹脂成形体とゴム成形体との複合体を得ることが困難であるだけでなく、複合体の生産性を高めることも困難である。
【0004】
ポリフェニレンエーテル−ゴム複合体に関し、特開昭61−204260号公報(特許文献2)には、スチレン系重合体や添加剤を含んでいてもよいポリフェニレンエーテル系樹脂と、SBR,BR,IR,IIRなどで構成された合成ゴムとを加硫系の存在下に熱処理することにより複合体を製造する方法が開示されている。この文献には、ゴム成分は硫黄加硫可能な二重結合含有ゴムが適していること、加硫活性化剤として硫黄含有化合物を用いることが開示されている。さらに、この文献の比較例(表2)には、ゴム成分として、E−SBRゴム又はBRゴムと過酸化物加硫剤又は硫黄加硫剤系とを含むゴム組成物を用いた例が記載されている。
【0005】
ABS樹脂−ゴム複合体に関し、特開平5−301973号公報(特許文献3)には、ABS樹脂の成形部材と、臨界表面張力が37〜39mN/mのゴム成分を含有する未加硫ゴムシートを積層した後加熱して接着一体化する複合体の製造方法が開示されている。特開平9−124803号公報(特許文献4)には、アクリロニトリル含有熱可塑性樹脂(AS,ABS樹脂など)と、アクリロニトリル含有ゴムとを加熱密着させて複合部材を得ることが提案されている。しかし、これらの方法では、熱可塑性樹脂とゴムとの相溶性を利用して接合しているため、樹脂およびゴムの種類が大きく制限され、実用性がかなり狭くなる。
【0006】
ポリアミド−ゴム複合体に関し、特開平2−150439号公報(特許文献5)、特開平3−133631号公報(特許文献6)、特開平3−138114号公報(特許文献7)には、ポリアミド系樹脂とゴム成分とを加硫系の存在下で加硫することにより複合体を製造する方法において、ゴム成分として、カルボキシル基又は酸無水物基含有ゴムと過酸化物と加硫活性化剤(エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートなど)とアルコキシシラン化合物とを含むゴム成分を用いることが提案されている。これらの文献では、脂肪族ポリアミド系樹脂として主に末端カルボキシル基よりも末端アミノ基の多いポリアミド系樹脂が使用されている。これらの文献に記載の方法では、アミノ基とカルボキシル基又は酸無水物基との反応を利用するため、樹脂及びゴムの種類が大きく制約され、幅広く樹脂/ゴム複合体を得ることが困難である。
【0007】
特開平7−11013号公報(特許文献8)には、ポリアミドと加硫ゴムとが強固に結合した部材の製造において、ポリアミド成形体と、過酸化物加硫剤とシラン化合物とを含むゴムコンパウンドとを接触させて加硫する方法が開示されている。この文献には、ゴムコンパウンドに必要により加硫活性剤などを含有させてもよいことが記載されているとともに、比較例(第2表)には、ポリアミド系樹脂と、過酸化物(perkadox 14/40)とブタンジオールジメタクリレート(BDMA)とを含むEPDMゴムとを接触させて加硫しても、樹脂とゴムとが接着しなかったことが記載されている。そのため、高価なシラン化合物を用いることなく、複合部材を製造することが困難である。
【0008】
特開平8−156188号公報(特許文献9)には、エポキシ基含有樹脂部材と、カルボキシル基又は酸無水物基含有ゴム部材とを密着させて加硫することにより複合部材を得ることが提案されている。しかし、この方法もエポキシ基とカルボキシル基との反応を利用して複合化しているため、樹脂及びゴムの種類が大きく制約され、幅広く複合体を得ることが困難である。
【0009】
ポリエステル−ゴム複合体に関し、硬質成分としての熱可塑性ポリエステルと軟質成分としての加硫ゴムとの複合体の製造において、ゴムと過酸化物加硫剤と二官能又は多官能マレイミドと必要により加硫活性剤とを含むゴム成分を用いること(特開平7−304880号公報(特許文献10))、ゴムと過酸化物加硫剤とシラン化合物と必要により加硫活性剤とを含むゴム成分を用いること(特開平7−166043号公報(特許文献11))が提案されている。さらに、樹脂フィルムとゴムフィルムとの複合フィルムに関し、特開平10−58605号公報(特許文献12)には、基材フィルム(ポリエステルフィルムなど)と、接着性改良剤として多官能性メタクリレートを含むゴムフィルム(シリコーンゴム、エチレンプロピレン系ゴムなど)を積層して加硫処理することにより複合シートを得ることが開示されている。しかし、これらの方法では、ポリエステルとゴムとを高い接着強度で接合して一体化することが困難である。
【0010】
このように、従来の技術では、試行錯誤により接合強度の高い熱可塑性樹脂とゴムとの組み合わせを探求しており、熱可塑性樹脂とゴムとを普遍的に組合せ、かつ強固に接合することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭50−25682号公報
【特許文献2】特開昭61−204260号公報
【特許文献3】特開平5−301973号公報
【特許文献4】特開平9−124803号公報
【特許文献5】特開平2−150439号公報
【特許文献6】特開平3−133631号公報
【特許文献7】特開平3−138114号公報
【特許文献8】特開平7−11013号公報
【特許文献9】特開平8−156188号公報
【特許文献10】特開平7−304880号公報
【特許文献11】特開平7−166043号公報
【特許文献12】特開平10−58605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、接着剤を用いることなく、樹脂とゴムとを幅広い組合せにおいて、直接的かつ強固に接合できる複合体及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、樹脂とゴムとの接着強度に優れた複合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、分子軌道法による特定の軌道相互作用エネルギー係数を有する水素原子又は硫黄原子が、ラジカル発生剤に対して高い活性を有すること、一分子中に複数の活性の高い水素原子又は硫黄原子を有する熱可塑性樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとを組合せて用いると、未加硫ゴムの加硫又は架橋に伴って、樹脂とゴムとの幅広い組合せにおいて普遍的に直接接着できることを見いだし、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の複合体は、未加硫ゴムの加硫により生成した加硫ゴム部材と、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材とが直接接合した複合体であって、ラジカル発生剤で加硫した加硫ゴム部材と、下記式(1)で表される軌道相互作用エネルギー係数Sが0.006以上である水素原子又は硫黄原子を一分子中に少なくとも平均2つ有する熱可塑性樹脂を含む樹脂部材との組合せで構成されている。
【0016】
S=(CHOMO,n2/|Ec−EHOMO,n|+(CLUMO,n2/|Ec−ELUMO,n| (1)
(式中、Ec、CHOMO,n、EHOMO,n、CLUMO,n、ELUMO,nは、いずれも半経験的分子軌道法MOPACPM3により算出された値であって、Ecはラジカル発生剤のラジカルの軌道エネルギー(eV)を示し、CHOMO,nは熱可塑性樹脂の基本単位を構成する第n番目の水素原子又は硫黄原子の最高被占分子軌道(HOMO)の分子軌道係数を示し、EHOMO,nは前記HOMOの軌道エネルギー(eV)を示し、CLUMO,nは前記n番目の水素原子又は硫黄原子の最低空分子軌道(LUMO)の分子軌道係数を示し、ELUMO,nは前記LUMOの軌道エネルギー(eV)を示す)
なお、上記組合せは、(1)アミノ基を有する脂肪族ポリアミド系樹脂と、カルボキシル基又は酸無水物基含有未加硫ゴムとの組合せ、(2)脂肪族ポリアミド系樹脂と、シラン化合物を含む未加硫ゴムとの組合せ、(3)エポキシ基含有樹脂と、カルボキシル基又は酸無水物基含有未加硫ゴムとの組合せを含まない。さらに、(4)熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂であるとき、未加硫ゴムは多官能性の加硫活性剤を含み、(5)熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテル系樹脂であるとき、未加硫ゴムは加硫活性剤を含むものとする。
【0017】
前記熱可塑性樹脂としては、種々の樹脂、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが使用できる。ゴムとしては、幅広いゴム、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、ウレタン系ゴムなどが使用できる。ラジカル発生剤には、有機過酸化物、アゾ化合物、硫黄含有有機化合物などが含まれる。前記未加硫ゴム及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方の成分は、加硫活性剤(例えば、一分子中に少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する有機化合物など)を含んでいてもよく、前記熱可塑性樹脂には、加硫助剤(例えば、前記軌道相互作用エネルギー係数Sが0.006以上である水素原子を一分子中に少なくとも2つ有する化合物など)を含有していてもよい。
【0018】
本発明の方法では、前記熱可塑性樹脂とラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとを組み合わせて用い、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材と加硫ゴムで構成されたゴム部材とが接合した複合体を製造する。この方法では、熱可塑性樹脂で構成された樹脂組成物及び樹脂部材のうち一方の成形樹脂材と、この成形樹脂材との接触面においてラジカル発生剤が活性であって、少なくとも未加硫のゴムを含むゴム組成物及びその予備成形体のうち一方の成形ゴム材とを接触させて成形するとともに前記成形ゴム材を加硫又は架橋させ、樹脂部材とゴム部材とが接合した複合体を製造してもよい。なお、前記未加硫ゴム及び前記熱可塑性樹脂から選択された少なくとも一方の成分が、前記加硫活性剤を含んでいてもよく、前記熱可塑性樹脂には、前記加硫助剤を含有していてもよい。
【0019】
また、本発明の方法には、前記成形樹脂材と成形ゴム材との接触面に、前記加硫活性剤(及び前記加硫助剤を含む塗布剤)を介在させて加熱成形し、樹脂部材とゴム部材とが接合した複合体を製造する方法も含まれる。
【0020】
さらには、本発明の方法には、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材と、加硫ゴム部材との接触面に、加硫活性剤(及び前記加硫助剤を含む塗布剤)を介在させて加熱成形し、樹脂部材とゴム部材とが接合した複合体を製造する方法も含まれる。この方法において、前記熱可塑性樹脂で構成された樹脂組成物からの樹脂部材と、ラジカル発生剤および未加硫ゴムで構成された未加硫ゴム組成物からの加硫ゴム部材との組み合わせに限らず、種々の組合せで熱可塑性樹脂と加硫ゴムとを使用できる。さらに、樹脂部材の表面を、この樹脂部材を溶解もしくは膨潤させる溶剤で処理(塗布処理)した後、前記樹脂部材の処理面と未加硫ゴム組成物とを接触させ、加硫ゴム部材と樹脂部材とが接合した複合体を製造してもよい。この方法では、樹脂部材を処理した溶剤を除去した後、樹脂部材の処理面と未加硫ゴム組成物とを接触させても、高い密着性が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、特定の軌道相互作用エネルギー係数を有する水素原子又は硫黄原子を所定の濃度で含む熱可塑性樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとを組み合わせるため、接着剤を用いることなく、幅広い組合せにおいて樹脂とゴムとを直接的かつ強固に接着でき、接着強度の高い複合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[樹脂部材]
樹脂部材を構成する前記熱可塑性樹脂としては、ラジカル発生剤に対して高い活性を示す複数の水素原子(活性水素原子)又は硫黄原子(活性硫黄原子)(以下、これらの水素原子及び硫黄原子を活性原子と称することがある)を有する樹脂を選択することができる。すなわち、熱可塑性樹脂は、ラジカル発生剤の種類に応じて選択でき、例えば、下記式(1)で表される軌道相互作用エネルギー係数Sが一定値(例えば、0.006、好ましくは0.008)以上の活性原子を有する。好ましい活性原子の軌道相互作用エネルギー係数Sは、0.006〜0.06、好ましくは0.007〜0.05(特に0.01〜0.045)程度である。この活性原子の数は、活性原子を有する官能基の結合部位(末端、分岐鎖や主鎖など)に依存し、例えば、熱可塑性樹脂の一分子中、平均2個以上(2〜10000個程度)、好ましくは平均2.5個以上(2.5〜5000個程度)、さらに好ましくは平均3個以上(3〜1000個程度)である。熱可塑性樹脂一分子中の活性原子の数は、通常、2〜100(好ましくは2.5〜50、さらに好ましくは3〜25、特に3〜20)程度である。このような条件を満たす熱可塑性樹脂を選択すると、ゴム成分の加硫に際して、架橋反応がゴム成分と熱可塑性樹脂成分との界面においても進行し、両者が強固に接合される。
【0023】
S=(CHOMO,n2/|Ec−EHOMO,n|+(CLUMO,n2/|Ec−ELUMO,n| (1)
(式中、Ec、CHOMO,n、EHOMO,n、CLUMO,n、ELUMO,nは、いずれも半経験的分子軌道法MOPACPM3により算出された値であって、Ecはラジカル発生剤のラジカルの軌道エネルギー(eV)を示し、CHOMO,nは熱可塑性樹脂の基本単位を構成する第n番目の水素原子又は硫黄原子の最高被占分子軌道(HOMO)の分子軌道係数を示し、EHOMO,nは前記HOMOの軌道エネルギー(eV)を示し、CLUMO,nは前記n番目の水素原子又は硫黄原子の最低空分子軌道(LUMO)の分子軌道係数を示し、ELUMO,nは前記LUMOの軌道エネルギー(eV)を示す)
式(1)のMOPACPM3とは、分子軌道法(MO)の一つである。分子軌道法は分子の電子状態を論ずる近似法のひとつであり、Huckel法などの経験的方法、Huckel法の近似を高めた半経験的方法、厳密に計算のみで分子軌道関数を求める非経験的方法の3つに大別できる。近年、コンピュータの発達に伴ない、半経験的方法および非経験的方法が主な方法になっている。分子軌道法は、分子構造とその化学反応性を関係づける最も有力な方法のひとつである。例えば、日本科学技術文献情報データベース(JOIS)における分子軌道法に関する登録件数は、キーワードを「分子軌道法」として検索した場合、約53000件(期間:1980年〜2000年5月)である。MOPACPM3は、前記半経験的方法の一つであるNDDO(Neglect of Diatomic Differential Overlap)法の核をなす方法である。
【0024】
MOPACPM3は、主として有機化合物の反応について考察する目的で用いられており、多くの文献や書籍[「分子軌道法MOPACガイドブック」(平野恒夫、田辺和俊偏、海文堂、1991年)、「三訂・量子化学入門」(米沢貞次郎他著、化学同人、1983年)、「計算化学ガイドブック」(大澤映二他訳、Tim Clark著、丸善、1985年)]などで解説されている。
【0025】
式(1)での基本単位とは、高分子の末端と、1〜3個程度の繰返単位とで形成したモデル的な分子構造を意味する。すなわち、MOPACPM3で高分子化合物について計算する場合、分子を構成する原子の数が多すぎるため、分子そのものを対象として計算するのが困難である。そのため、高分子の末端と、2〜3個程度の繰り返し単位とで形成した分子構造モデル(基本単位)を対象にして計算を行ってもよい。例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の分子構造(繰返単位)は、一般に、化学式−(CH2-CH2-CH2-CH2-O-C(=O)-C64-C(=O)-O)n−で表されるが、前記式(1)では、基本単位を、便宜的にHO-CH2-CH2-CH2-CH2-O-C(=O)-C64-C(=O)-OHとして計算してもよい。
【0026】
式(1)の軌道相互作用エネルギー係数Sは、反応性指数と称される場合もあり、種々の書籍等に定義され、解説されており、化学反応性を論じる場合に、極めて一般的に用いられるパラメータである。例えば、「入門フロンティア軌道論」(72頁、山辺信一、稲垣都士著、講談社サイエンティフィク、1989年)には、軌道相互作用エネルギー係数Sは、「2つの軌道が相互作用するとき、(a)エネルギー差が小さければ小さいほど、(b)重なりが大きければ大きいほど、相互作用が強くなる」という考え方を表した式であることが記載されている。式(1)は、ノーベル賞を受賞した故福井博士が1954年に発表したsuperdelocalizability(Sr)の考え方に基づいており(「分子軌道法を使うために」、71頁、井本稔、化学同人、1986年参照)、Srの考え方から式(1)と同様な式が、様々な書籍や文献において導出されている。
【0027】
ここで重要なことは、分子軌道法が分子構造とその化学反応性を論じるにあたって既に広く認知された方法であるということである。従って、式(1)で定義される軌道相互作用エネルギー係数S[1/eV]は、単なる概念的な数値ではなく、材料を特定するためのパラメータや物性値(分子量、官能基など)と同様の意味合いを有する数値である。
【0028】
なお、ラジカル発生剤のラジカルの軌道エネルギーEc(eV)は、ラジカルの分子構造に基づいて、MOPACPM3により計算するのが好ましいが、ラジカル発生剤の種類に基づいて、便宜上、所定の値を用いてもよい。例えば、ラジカル発生剤が有機過酸化物ではEc=−8eV、アゾ化合物ではEc=−5eV、硫黄を除く硫黄含有有機化合物ではEc=−6eVとして計算してもよい。
【0029】
軌道相互作用エネルギー係数Sが一定値(例えば、0.006)以上である水素原子(活性水素原子)としては、ラジカル発生剤が有機過酸化物の場合、アミノ(−NH2)基(例えば、末端アミノ基)、イミノ(−NH−)基(例えば、主鎖又は末端イミノ基、アミド結合の−NH−基など)、メルカプト(−SH)基、メチル(−CH3)基、メチレン(−CH2−)基(電子吸引性基に隣接するメチレン基、すなわち活性メチレン基)、メチリジン(−CH=)基(主鎖又は末端のメチリジン基)などの水素原子が挙げられる。
【0030】
また、軌道相互作用エネルギー係数Sが一定値(例えば、0.006)以上である硫黄原子(活性硫黄原子)としては、ラジカル発生剤が有機過酸化物の場合、チオ基(−S−)、メルカプト(−SH)基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基などのC1−4アルキルチオ基など)、スルフィニル基(−SO−)などの硫黄原子が挙げられる。
【0031】
前記メチル基としては、例えば、アルキレン鎖、シクロアルキレン鎖又は芳香族環に結合するメチル基、酸素原子に結合するメチル基(メトキシ基のメチル基)などが例示できる。メチレン基としては、例えば、(ポリ)オキシメチレン単位、(ポリ)オキシエチレン単位などの(ポリ)オキシアルキレン単位の酸素原子に隣接するメチレン基の他、アミノ基やイミノ基などの窒素原子に隣接するメチレン基などが例示できる。メチリジン基としては、例えば、アミノ基又はイミノ基に隣接するα−位のメチリジン基、例えば、アミノシクロアルキル基のアミノ基に対するα−位のメチリジン基などが例示できる。
【0032】
熱可塑性樹脂は、一分子中に平均で複数(例えば、2個以上)の活性原子を有していればよい。すなわち、熱可塑性樹脂は、一般に、単一分子ではなく、構造や鎖長などがいくらか異なる多数の分子の混合物である。そのため、全ての分子が複数の活性原子を有している必要はなく、予想される主たる複数の基本単位について計算したとき、一分子あたり平均の活性原子の数が2以上であればよい。例えば、繰返単位−(NH-(CH26−NH-C(=O)-(CH24−(C=O))n−を有するポリマー(ポリアミド66)に含まれる活性水素原子の数は、モデル基本単位NH2-(CH26-NH-C(=O)-(CH24−C(=O)-OHに基づいて計算でき、ラジカル発生剤が有機過酸化物のとき、末端NH2基の2つの水素原子が活性水素原子(すなわち、S≧0.006)である。この場合、ポリアミド66について一分子中の活性水素原子の平均数Nは、集合体としてのポリマー(ポリアミド66)の末端NH2基と末端COOH基との比率により下記式(2)に基づいて算出できる。
【0033】
N=2×A (2)
(式中、Aは一分子中の平均の末端NH2基の数を示す)
例えば、末端NH2基/末端COOH基=1/1(モル比)の場合、一分子中の末端NH2基の数A=1個、一分子中の活性水素原子の数N=2個である。また、末端NH2基/末端COOH基=1/2(モル比)の場合、一分子中の末端NH2基の数A=2/3個、一分子中の活性水素原子の数N=4/3個である。
【0034】
なお、熱可塑性樹脂が異なる活性原子数を有する複数の樹脂で構成された混合樹脂である場合、混合樹脂の活性原子数は、各樹脂が有する活性原子数の平均値で表すこともできる。つまり、混合樹脂を構成する各樹脂の基本単位から活性原子数を個別に算出し、各樹脂の重量割合をもとにして活性原子数の平均を算出することにより、混合樹脂の見かけ上の活性原子数を算出できる。例えば、混合樹脂が、前記N=2個のポリアミド66(A)と、前記N=4/3個のポリアミド66(B)とで構成され、(A)/(B)=1/1(重量比)である場合、混合樹脂一分子中の活性原子数は、N=5/3個とみなすことができる。また、混合樹脂が、前記N=2個のポリアミド66(A)と、全末端がカルボキシル基(つまりN=0個)であるポリアミド66(C)とで構成され、(A)/(C)=3/1(重量比)である場合、混合樹脂一分子中の活性原子数は、N=3/2個とみなすことができる。
【0035】
熱可塑性樹脂は、一分子中に複数の活性原子を有する限り特に制限されず、幅広い範囲の樹脂、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂など)、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが含まれる。また、前記複数の活性原子を備えていない樹脂であっても、活性原子を導入することにより、ゴム部材との接合強度の高い熱可塑性樹脂に改質できる。これらの熱可塑性樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。二種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせて用いる場合、樹脂組成物はポリマーアロイなどの複合樹脂組成物を形成してもよい。
【0036】
なお、熱可塑性樹脂の分子量は、特に限定されないが、分子中に複数個の上記活性原子を有するポリマーであっても、その分子量が増大するに従って、樹脂中の活性原子の濃度が相対的に低下し、樹脂とゴム間の架橋速度、密度が低下し、結果として接合に対する活性原子の寄与が低下する場合がある。そのため、樹脂の分子量は低い方が有利である。本発明において、樹脂の分子量は、通常、数平均分子量3000〜400000、好ましくは5000〜100000、より好ましくは5000〜50000であり、例えば、8000〜20000程度である。
【0037】
(1)ポリアミド系樹脂
ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ポリアミド系樹脂、脂環族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂などが挙げられ、通常、脂肪族ポリアミド系樹脂が使用される。脂肪族ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ジアミン成分(テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC4-10アルキレンジアミン)と脂肪族ジカルボン酸成分(アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数4〜20程度のアルキレンジカルボン酸など)との縮合物(例えば、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612など)、ラクタム(ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどの炭素数4〜20程度のラクタムなど)又はアミノカルボン酸(ω−アミノウンデカン酸などの炭素数4〜20程度のアミノカルボン酸など)の単独又は共重合体(例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12など)、これらのポリアミド成分が共重合したコポリアミド(例えば、ポリアミド6/11,ポリアミド6/12,ポリアミド66/11,ポリアミド66/12など)などが挙げられる。
【0038】
脂環族ポリアミド系樹脂としては、前記脂肪族ジアミン成分及び/又は脂肪族ジカルボン酸成分の少なくとも一部として、脂環族ジアミン及び/又は脂環族ジカルボン酸を用いたポリアミドが挙げられる。脂環族ポリアミドには、例えば、前記脂肪族ジカルボン酸成分と脂環族ジアミン成分(シクロへキシルジアミンなどのC5-8シクロアルキルジアミン;ビス(アミノシクロへキシル)メタン、2,2−ビス(アミノシクロへキシル)プロパンなどのビス(アミノシクロへキシル)アルカン類など)との縮合体が含まれる。
【0039】
芳香族ポリアミド系樹脂には、前記脂肪族ジアミン成分及び脂肪族ジカルボン酸成分のうち少なくとも一方の成分が芳香族成分であるポリアミド、例えば、ジアミン成分が芳香族成分であるポリアミド[MXD−6などの芳香族ジアミン(メタキシリレンジアミンなど)と脂肪族ジカルボン酸との縮合体など]、ジカルボン酸成分が芳香族成分であるポリアミド[脂肪族ジアミン(トリメチルヘキサメチレンジアミンなど)と芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸など)との縮合体など]、ジアミン成分及びジカルボン酸成分が芳香族成分であるポリアミド[ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)などの全芳香族ポリアミド(アラミドなど)など]などが含まれる。
【0040】
ポリアミド系樹脂には、さらに、ダイマー酸をジカルボン酸成分とするポリアミド、少量の多官能性ポリアミン及び/又はポリカルボン酸成分を用い、分岐鎖構造を導入したポリアミド、変性ポリアミド(N−アルコキシメチルポリアミドなど)も含まれる。
【0041】
ポリアミド系樹脂において、例えば、末端アミノ基の水素原子や、末端アミノ基に対してα−位の炭素原子に結合する水素原子、アミド結合の−NH−基に隣接する炭素原子に結合する水素原子(メチレン基の水素原子やメチリジン基の水素原子など)、特に末端アミノ基の水素原子が活性水素原子を構成する。
【0042】
ポリアミド系樹脂において、末端NH2基と末端COOH基との割合は、特に限定されず、例えば、末端アミノ基の水素原子とα−炭素位の水素原子とで活性水素原子を構成する場合、末端アミノ基/末端カルボキシル基=10/90〜100/0(モル比)程度、好ましくは20/80〜100/0(モル比)程度、さらに好ましくは25/75〜100/0(モル比)程度の範囲から選択できる。また、末端アミノ基の水素原子だけで活性水素原子を構成する場合、末端アミノ基/末端カルボキシル基=50/50〜100/0(モル比)程度、好ましくは60/40〜100/0(モル比)程度、さらに好ましくは70/30〜100/0(モル比)程度であってもよい。
【0043】
(2)ポリエステル系樹脂
ポリエステル系樹脂は、脂肪族ポリエステル系樹脂であってもよいが、通常、芳香族ポリエステル系樹脂、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂又は飽和芳香族ポリエステル系樹脂が使用される。芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリC2−4アルキレンテレフタレート;このポリアルキレンテレフタレートに対応するポリC2−4アルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレートなど);1,4−シクロへキシルジメチレンテレフタレート(PCT))などが含まれる。ポリエステル系樹脂は、アルキレンアリレート単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステルであってもよく、共重合成分には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのC2−6アルキレングリコール、ポリオキシC2−4アルキレングリコール、フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが例示できる。さらに、少量のポリオール及び/又はポリカルボン酸を用い、線状ポリエステルに分岐鎖構造を導入してもよい。
【0044】
芳香族ポリエステル系樹脂が前記活性原子を所定の濃度で有しない場合、活性原子を有する変性化合物で変性した変性ポリエステル系樹脂(例えば、アミノ基及びオキシアルキレン基から選択された少なくとも一種を有する芳香族ポリエステル系樹脂)を用いてもよい。活性原子、特に、活性水素原子を有する化合物としては、ポリアミン類(脂肪族ジアミン類、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタンなどの炭素数2〜10程度の直鎖又は分岐鎖状アルキレンジアミンなど;脂環族ジアミン類、例えば、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなど;芳香族ジアミン類、例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなど)、ポリオール類(例えば、(ポリ)オキシエチレングリコール、(ポリ)オキシトリメチレングリコール、(ポリ)オキシプロピレングリコール、(ポリ)オキシテトラメチレングリコールなどの(ポリ)オキシC2−4アルキレングリコール類など)などが例示できる。変性は、例えば、ポリエステル樹脂と変性化合物とを加熱混合し、アミド化、エステル化又はエステル交換反応を利用して行うことができる。ポリエステル系樹脂の変性の程度は、前記化合物中の活性水素原子の量に応じて、ポリエステル系樹脂の官能基(ヒドロキシル基又はカルボキシル基)1モルに対して、例えば、変性化合物0.1〜2モル、好ましくは0.2〜1.5モル、さらに好ましくは0.3〜1モル程度であってもよい。エステル交換反応に用いる場合、(ポリ)オキシC2−4アルキレングリコール類の使用量は、ポリエステル系樹脂100重量部に対して1〜50重量部程度、好ましくは5〜30重量部程度であってもよい。
【0045】
ポリエステル系樹脂では、通常、(ポリ)オキシアルキレン単位の酸素原子に隣接するメチレン基の水素原子が活性水素原子を構成し、変性ポリエステル系樹脂では、通常、末端アミノ基の水素原子や、末端アミノ基に対してα−位の炭素原子に結合する水素原子、アミド結合の−NH−基に隣接する炭素原子に結合する水素原子(メチレン基の水素原子やメチリジン基の水素原子など)、特に末端アミノ基の水素原子が活性水素原子を構成する。
【0046】
(3)ポリ(チオ)エーテル系樹脂
ポリエーテル系樹脂には、ポリオキシアルキレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂(ポリチオエーテル系樹脂)が含まれる。ポリオキシアルキレン系樹脂としては、ポリオキシメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシテトラメチレングリコールなどのポリオキシC1−4アルキレングリコールなどが含まれる。好ましいポリエーテル系樹脂には、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリスルフィド系樹脂が含まれる。
【0047】
(3a)ポリアセタール系樹脂
ポリアセタール系樹脂は、ホモポリマー(ホルムアルデヒドの単独重合体)であってもよく、コポリマー(トリオキサンと、エチレンオキサイド及び/又は1,3−ジオキソランとの共重合体など)であってもよい。また、ポリアセタール系樹脂の末端は封鎖され安定化されていてもよい。ポリアセタール系樹脂では、例えば、オキシメチレン単位の水素原子、末端を封鎖したアルコキシ基(特にメトキシ基)の水素原子、特にオキシメチレン単位の水素原子が活性水素原子を構成する。
【0048】
(3b)ポリフェニレンエーテル系樹脂
ポリフェニレンエーテル系樹脂には、2,6−ジメチルフェニレンオキサイドを主成分とする種々の樹脂、例えば、2,6−ジメチルフェニレンオキサイドとフェノール類との共重合体、スチレン系樹脂をブレンド又はグラフトした変性樹脂などが含まれる。ポリフェニレンエーテル系樹脂では、例えば、ベンゼン環に結合するメチル基の水素原子が活性水素原子を構成する。
【0049】
(3c)ポリスルフィド系樹脂(ポリチオエーテル系樹脂)
ポリスルフィド系樹脂は、ポリマー鎖中にチオ基(−S−)を有する樹脂であれば特に限定されない。このような樹脂としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリジスルフィド樹脂、ポリビフェニレンスルフィド樹脂、ポリケトンスルフィド樹脂、ポリチオエーテルスルホン樹脂などが例示できる。また、ポリスルフィド系樹脂は、ポリ(アミノフェニレンスルフィド)のようにアミノ基などの置換基を有していてもよい。好ましいポリスルフィド系樹脂はポリフェニレンスルフィド樹脂である。ポリスルフィド系樹脂では、主鎖中のチオ基が活性硫黄原子を構成する。例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂について、一分子中の活性硫黄原子の平均数Nは、モデル基本単位Cl-C-S-C-S-C-Clに基づいて計算でき、N=2である。
【0050】
(4)ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(メチルペンテン−1)などのオレフィンの単独又は共重合体、オレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
好ましいポリオレフィン系樹脂には、プロピレン含量が50重量%以上(特に75〜100重量%)のポリプロピレン系樹脂、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体などが含まれる。また、ポリオレフィン系樹脂は結晶性であるのが好ましい。
【0052】
ポリオレフィン系樹脂では、例えば、ポリオレフィンの主鎖を構成するメチレン基の水素原子、前記主鎖から分岐するメチル基の水素原子などが活性水素原子を構成する。
【0053】
(5)ポリウレタン系樹脂
ポリウレタン系樹脂は、ジイソシアネート類とポリオール類と必要により鎖伸長剤との反応により得ることができる。ジイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート類などが例示できる。ジイソシアネート類として、アルキル基(例えば、メチル基)が主鎖又は環に置換した化合物を使用してもよい。
【0054】
ジオール類としては、ポリエステルジオール(アジピン酸などのC4−12脂肪族ジカルボン酸成分、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−12脂肪族ジオール成分、ε−カプロラクトンなどのC4−12ラクトン成分などから得られるポリエステルジオールなど)、ポリエーテルジオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加体など)、ポリエステルエーテルジオール(ジオール成分の一部として上記ポリエーテルジオールを用いたポリエステルジオール)などが利用できる。
【0055】
さらに、鎖伸長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2−10アルキレンジオールの他、ジアミン類も使用できる。ジアミン類としては、脂肪族ジアミン類、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタンなどの炭素数2〜10程度の直鎖又は分岐鎖状アルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミンなどの直鎖又は分岐鎖状ポリアルキレンポリアミンなど;脂環族ジアミン類、例えば、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなど;芳香族ジアミン類、例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどが例示できる。
【0056】
ポリウレタン系樹脂では、例えば、ジイソシアネート類の主鎖又は環に結合するアルキル基の水素原子(特に、ベンジル位の水素原子)、ポリオール類やポリオキシアルキレングリコールのアルキレン基の水素原子、鎖伸長剤のアミノ基の水素原子などが活性水素原子を構成する。
【0057】
(7)熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーには、ポリアミド系エラストマー(ポリアミドを硬質相とし、脂肪族ポリエーテルを軟質相とする共重合体)、ポリエステル系エラストマー(ポリアルキレンアリレートを硬質相とし、脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステルを軟質相とする共重合体)、ポリウレタン系エラストマー(短鎖グリコールのポリウレタンを硬質相とし、脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステルを軟質相とする共重合体、例えば、ポリエステルウレタンエラストマー、ポリエーテルウレタンエラストマーなど)、ポリスチレン系エラストマー(ポリスチレンブロックを硬質相とし、ジエン重合体ブロック又はその水素添加ブロックを軟質相とするブロック共重合体)、ポリオレフィン系エラストマー(ポリスチレン又はポリプロピレンを硬質相とし、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−プロピレン−ジエンゴムを軟質相とするエラストマー、結晶化度の異なる硬質相と軟質相とで構成されたオレフィン系エラストマーなど)、ポリ塩化ビニル系エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマーなどが含まれる。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリエステル系樹脂およびポリウレタン系樹脂の項で述べた(ポリ)オキシC2−4アルキレングリコール類(特にポリオキシエチレングリコール)などが使用でき、脂肪族ポリエステルとしては、ポリウレタン系樹脂の項で述べたポリエステルジオールなどが使用できる。これらの熱可塑性エラストマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0058】
熱可塑性エラストマーがブロック共重合体であるとき、ブロック構造は特に制限されず、トリブロック構造、マルチブロック構造、星形ブロック構造などであってもよい。
【0059】
好ましい熱可塑性エラストマーには、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーが含まれる。
【0060】
熱可塑性エラストマーでは、例えば、軟質相を構成するオキシアルキレン単位の水素原子が活性水素原子を構成してもよい。
【0061】
(8)その他の熱可塑性樹脂(変性樹脂)
本発明は、前記活性原子を所定の濃度で含有する種々の熱可塑性樹脂とゴムとの接合に利用できる。そのため、熱可塑性樹脂が前記活性原子を所定の濃度で含有しない場合には、前記活性原子(又はアミノ基、オキシアルキレン基、メルカプト基など)を導入した変性樹脂として使用すればよい。このような熱可塑性樹脂(活性原子を所定の濃度で有しない樹脂)としては、例えば、ビニル重合系樹脂[(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン;AS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのスチレン共重合体;HIPS,ABS樹脂などのスチレン系グラフト共重合体など)、ハロゲン含有単量体の単独又は共重合体(ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン共重合体など)、ビニル系樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなど)など]、縮合系樹脂[ポリカーボネート(ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂など]が例示できる。
【0062】
前記ビニル重合系樹脂では、例えば、ビニル単量体と(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基又は酸無水物基含有単量体との共重合により、ビニル重合系樹脂にカルボキシル基又は酸無水物基を導入し、必要によりチオニルクロライドと反応させて酸クロライド基を生成させ、アンモニア、モノ置換アミン類(モノアルキルアミン、モノアリールアミンなど)や前記例示のジアミン類と反応させてアミノ基を導入することにより変性樹脂を生成させてもよい。さらに、(ポリ)オキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートや(ポリ)オキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートを前記ビニル単量体と共重合したり、ビニル重合系樹脂にグラフト重合することにより、活性水素原子を導入して変性してもよい。
【0063】
さらに、ビニル重合系樹脂だけでなく縮合系樹脂でも、カルボキシル基又は酸無水物基含有単量体を樹脂にグラフト重合させて、樹脂にカルボキシル基又は酸無水物基を導入し、前記と同様にして、必要によりチオニルクロライドと反応させて酸クロライド基を生成させ、アンモニア、モノ置換アミン類や前記例示のジアミン類と反応させてアミノ基を導入して変性してもよい。
【0064】
(他の成分)
前記樹脂部材は、前記活性原子を所定の濃度で含有する熱可塑性樹脂で構成すればよく、前記熱可塑性樹脂と他の熱可塑性樹脂との樹脂組成物で構成してもよい。他の熱可塑性樹脂には、前記変性樹脂(8)に対応する未変性熱可塑性樹脂、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ハロゲン含有単量体の単独又は共重合体(フッ素樹脂など)、ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル樹脂などが含まれる。
【0065】
活性原子を有する熱可塑性樹脂の割合は、樹脂成分全体に対して、30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%程度である。
【0066】
樹脂部材を形成するための樹脂組成物は、種々の添加剤、例えば、フィラー又は補強剤、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤)、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
【0067】
[ゴム部材]
(ゴム)
ゴム部材は、ラジカル発生剤とゴムとを含有するゴム組成物を成形(加硫)することにより得られる。前記ゴムは、[樹脂部材]の項に示された前記熱可塑性樹脂と反応可能である限り特に制限されず、種々のゴムが使用できる。特に本発明では、熱可塑性樹脂がラジカル発生剤により活性化可能であるため、ゴムとしては、幅広い範囲から選択できる。
【0068】
ゴムとしては、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロロヒドリンゴム(エピクロロヒドリン単独重合体CO、エピクロロヒドリンとエチレンオキサイドとの共重合体ECO、アリルグリシジルエーテルをさらに共重合させた共重合体など)、クロロスルホン化ポリエチレン、プロピレンオキシドゴム(GPO)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EAM)、ポリノルボルネンゴム、及びこれらの変性ゴム(酸変性ゴムなど)などが例示できる。これらのゴムは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのゴムのうち、通常、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、ウレタン系ゴムなどが実用的な観点から広く使用される。
【0069】
ジエン系ゴムには、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、イソブチレンイソプレンゴム(ブチルゴム)(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)などのジエン系単量体の重合体;例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)(NBR)、ニトリルクロロプレンゴム(NCR)、ニトリルイソプレンゴム(NIR)などのアクリロニトリル−ジエン共重合ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR、例えば、スチレンとブタジエンとのランダム共重合体、スチレンブロックとブタジエンブロックとで構成されたSBブロック共重合体など)、スチレンクロロプレンゴム(SCR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)などのスチレン−ジエン共重合ゴムなどが含まれる。ジエン系ゴムには、水添ゴム、例えば、水素添加ニトリルゴム(HNBR)なども含まれる。
【0070】
オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDMなど)、ポリオクテニレンゴムなどが例示できる。
【0071】
アクリル系ゴムには、アクリル酸アルキルエステルを主成分とするゴム、例えば、アクリル酸アルキルエステルと塩素含有架橋性単量体との共重合体ACM、アクリル酸アルキルエステルとアクリロニトリルとの共重合体ANM、アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基及び/又はエポキシ基含有単量体との共重合体、エチレンアクリルゴムなどが例示できる。
【0072】
フッ素ゴムとしては、フッ素含有単量体を用いたゴム、例えば、フッ化ビニリデンとパーフルオロプロペンと必要により四フッ化エチレンとの共重合体FKM、四フッ化エチレンとプロピレンとの共重合体、四フッ化エチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとの共重合体FFKMなどが例示できる。
【0073】
ウレタンゴム(U)としては、例えば、ポリエステル型ウレタンエラストマー、ポリエーテル型ウレタンエラストマーなどが含まれる。
【0074】
変性ゴムとしては、酸変性ゴム、例えば、カルボキシル化スチレンブタジエンゴム(X−SBR)、カルボキシル化ニトリルゴム(X−NBR)、カルボキシル化エチレンプロピレンゴム(X−EP(D)M)などのカルボキシル基又は酸無水物基を有するゴムが含まれる。
【0075】
(ラジカル発生剤)
本発明では、ラジカル発生剤は、前記ゴムを加硫(又は架橋)するだけでなく、前記熱可塑性樹脂に作用して(例えば、熱可塑性樹脂の活性水素原子を引き抜き、ラジカル化などにより活性化して)、熱可塑性樹脂と加硫ゴムとを架橋反応により直接接合させる。ラジカル発生剤としては、前記熱可塑性樹脂やゴムの種類に応じて、種々のラジカル発生剤が使用でき、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物、硫黄を除く硫黄含有有機化合物などから選択できる。なお、硫黄は、イオン的な反応を引き起こし、ラジカルの発生効率がかなり低いだけでなく、発生したラジカルをトラップするため、ラジカル発生剤には含まれない。前記ラジカル発生剤は単独で又は二種以上組合せて使用できる。
【0076】
有機過酸化物としては、過酸化ジアシル類(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、4−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなど)、過酸化ジアルキル類(ジ−t−ブチルぺルオキシド、2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルへキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルへキセン−3、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシドなど)、過酸化アルキル類(t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイドなど)、アルキリデンペルオキシド類(エチルメチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなど)、過酸エステル類(過酢酸t−ブチル、過ピバリン酸t−ブチルなど)などが挙げられる。
【0077】
アゾ化合物には、アゾイソブチロニトリルなどが含まれる。硫黄含有有機化合物としては、チウラム類(テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)など)、ジチオカルバミン酸塩類(ジメチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸などのジC1-4アルキルジチオカルバミン酸と、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、セレン又はテルルとの塩など)、チアゾ−ル類(2−メルカプトベンゾチアゾ−ル、2−(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど)などが含まれる。
【0078】
樹脂部材とゴム部材との接合において光照射可能であれば、ラジカル発生剤として光重合開始剤も利用できる。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン又はその誘導体(3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4,4−ジメトキシベンゾフェノンなど)、アルキルフェニルケトン又はその誘導体(アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルホリノフェニル)−ブタノンなど)、アントラキノン又はその誘導体(2−メチルアントラキノンなど)、チオキサントン又はその誘導体(2−クロロチオキサントン、アルキルチオキサントンなど)、ベンゾインエーテル又はその誘導体(ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテルなど)、ホスフィンオキシド又はその誘導体などが例示できる。さらに、ラジカル発生剤には、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなど)も含まれる。
【0079】
これらの化合物のうち好ましいラジカル発生剤は有機過酸化物である。
【0080】
ラジカル発生剤の割合は、未加硫ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜15重量部程度の範囲から選択でき、通常、1〜10重量部程度、好ましくは1〜8重量部(例えば、2〜7重量部)程度である。
【0081】
(加硫活性剤)
本発明では、ラジカル発生剤による接着の効率を高めるため、ラジカル発生剤と共に加硫活性剤(硬化剤などと称する場合もある)を用いてもよい。加硫活性剤は、ゴムの加硫を促進するのみならず、ゴム分子と樹脂分子との架橋を促進し、ゴム部材と樹脂部材の接合をより容易にする。例えば、熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテル系樹脂であるとき、ラジカル発生剤と加硫活性剤とを組み合わせて用いると、樹脂部材と加硫ゴム部材との間で架橋反応が進行し、両者を確実かつ強固に結合できる。なお、加硫活性剤は、ゴムの加硫促進とゴムと樹脂との間の架橋形成に必要な量が存在すればよく、必要以上の添加はゴムの物性の低下を招く場合があるので、適正な添加量は適当に選択できる。
【0082】
前記加硫活性剤としては、炭素−炭素二重結合(重合性不飽和結合)を有する有機化合物〔例えば、ビニル系単量体(ジビニルベンゼンなど)、アリル系単量体(ジアリルフタレート、トリアリルホスフェート、トリアリル(イソ)シアヌレートなど)、(メタ)アクリル系単量体など〕、マレイミド系化合物などが挙げられる。これらの加硫活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫活性剤としては、通常、2以上の複数の重合性不飽和結合を有する多官能性の加硫活性剤が使用される。
【0083】
(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、二官能性(メタ)アクリレート類[エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのC2−10アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリC2−4アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのC2−4アルキレンオキサイド付加体のジ(メタ)アクリレートなど〕、三官能性又は多官能性(メタ)アクリレート類[グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。
【0084】
複数のマレイミド基を有するマレイミド化合物は、ポリアミンと無水マレイン酸との反応により得ることができる。マレイミド系化合物には、例えば、芳香族ビスマレイミド(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド、N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N’−3−メチル−1,4−フェニレンジマレイミド、4,4’−ビス(N,N’−マレイミド)ジフェニルメタン、4,4’−ビス(N,N’−マレイミド)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(N,N’−マレイミド)ジフェニルエーテルなど)、脂肪族ビスマレイミド(N,N’−1,2−エチレンビスマレイミド、N,N’−1,3−プロピレンビスマレイミド、N,N’−1,4−テトラメチレンビスマレイミドなど)などが例示できる。
【0085】
好ましい加硫活性剤は、一分子中に複数(例えば、2〜6個、特に3〜6個程度)の炭素−炭素二重結合(重合性不飽和結合)を有する化合物、例えば、トリアリル(イソ)シアヌレート、二官能乃至多官能性(メタ)アクリレート(特に三官能性又は多官能性(メタ)アクリレート)、芳香族マレイミド化合物などが含まれる。
【0086】
本発明において加硫活性剤の添加は必須ではない。例えば、熱可塑性樹脂を構成する分子の有する活性原子の数や使用するゴム材料の種類によっては、加硫活性剤が存在しなくても両部材の接合は可能である。しかし、多くの場合、ゴム部材と樹脂部材とを確実に接合するため、加硫活性剤を添加する方が有利である。加硫活性剤は、未加硫ゴム(又は未加硫ゴム組成物)及び熱可塑性樹脂(又は樹脂組成物)のうち少なくともいずれか一方の成分に添加すればよく、双方の成分に添加してもよい。加硫活性剤は、通常、未加硫ゴムに添加する場合が多い。加硫活性剤の使用量は、使用する加硫活性剤の種類や、添加する成分の種類(未加硫ゴム及び/又は熱可塑性樹脂)によって異なるが、通常、熱可塑性樹脂とゴムとの接着を促進可能な量、例えば、ゴム及び樹脂から選択された少なくとも一種の成分100重量部に対して、加硫活性剤0.1〜10重量部程度、好ましくは0.1〜5重量部程度、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度の範囲から選択できる。例えば、加硫活性剤が多価アルコールのメタクリル酸エステルである場合、加硫活性剤の添加量は、ゴム及び樹脂から選択された少なくとも一種の成分100重量部に対して0.1〜10重量部程度、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部、実用的には0.1〜1.9重量部(例えば0.5重量部や1.0重量部)である。また、ゴムと樹脂の双方に添加する場合、樹脂に対する添加量は少量であってもよく、樹脂100重量部に対して、加硫活性剤0.1〜7重量部程度、好ましくは0.1〜5重量部程度、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度であってもよい。
【0087】
加硫活性剤は、種類にもよるが、過剰に添加すると、ゴム部材又は樹脂部材の物性に大きな影響を及ぼす場合がある。例えば、ゴム成分への添加にあっては、加硫ゴムの硬度が設計値よりはるかに高くなったり、ゴム部材の長期的な物性値、例えば、耐候性が大幅に低下するなどの障害が発生する。また、樹脂成分への添加にあっては、樹脂部材の形成に伴ってゲルなどが発生し、適切な成形が困難となったり、樹脂部材の機械強度が低下する。さらには、添加された加硫活性剤が樹脂部材から滲出(マイグレート)する場合がある。
【0088】
従って、加硫活性剤の添加は、ゴム成分への添加であっても、樹脂成分への添加であっても、被添加材(ゴム又は樹脂)100重量部に対して10重量部を超えることは好ましくなく、5重量部以上の添加は注意を要し、事前に被添加材への影響を検討する必要がある。被添加材への影響に特段の配慮をすることなく、ゴム部材と樹脂部材との十分な接合強度を得るには、加硫活性剤の添加量は、被添加材がゴムの場合、ゴム100重量部に対して、2重量部以下、例えば、0.1〜1.9重量部(例えば、0.5〜1.9重量部)程度であり、被添加材が樹脂の場合、樹脂100重量部に対して、5重量部以下、例えば、0.1〜5重量部(例えば、3〜5重量部)程度である。
【0089】
なお、加硫活性剤をゴムに添加する場合、ラジカル発生剤と加硫活性剤との割合は、例えば、前者/後者=0.3/1〜20/1(例えば、0.5/1〜20/1)(重量比)程度、好ましくは0.4/1〜15/1(例えば、1/1〜15/1)(重量比)程度、さらに好ましくは0.5/1〜10/1(例えば、2/1〜10/1)(重量比)程度であってもよい。
【0090】
なお、後述するように、加硫活性剤は、必ずしもゴム組成物及び/又は樹脂組成物に配合する必要はなく、ゴム部材及び/又は樹脂部材の接合面に塗布してもよい。
【0091】
(加硫助剤)
本発明では、接着の効率を高めるため、さらに加硫助剤を用いてもよい。ゴムや樹脂の種類によっては、加硫助剤を添加することにより、ゴム部材と樹脂部材の接合をより強固にできる。加硫助剤は、未加硫ゴム(又は未加硫ゴム組成物)及び熱可塑性樹脂(又は樹脂組成物)のうち少なくともいずれか一方の成分に添加すればよく、双方の成分に添加してもよい。通常、加硫助剤は、熱可塑性樹脂に添加する場合が多い。
【0092】
加硫助剤は、樹脂やゴムの種類に応じて選択でき、例えば、前記(1)〜(8)の項に記載の熱可塑性樹脂のオリゴマー(例えば、前記ポリアミド系樹脂のオリゴマー、前記ポリエステル系樹脂のオリゴマーなどの数平均分子量100〜1000程度のオリゴマーなど)、ポリアミン類(例えば、前記(2)ポリエステル系樹脂の項に記載のポリアミン類など)、ポリオール類(例えば、前記(2)ポリエステル系樹脂の項に記載のポリオール類など)、多価カルボン酸又はその酸無水物、複数のアルデヒド基を有する化合物、エポキシ化合物、窒素含有樹脂(アミノ樹脂など)、メチロール基又はアルコキシメチル基を有する化合物、ポリイソシアネートなどが例示できる。これらの加硫助剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0093】
好ましい加硫助剤は、前記式(1)で表される活性原子のうち、活性水素原子を一分子中に平均2個以上有する化合物、例えば、前記(1)〜(8)の項に記載の熱可塑性樹脂のオリゴマー(例えば、前記ポリアミド系樹脂のオリゴマー、前記ポリエステル系樹脂のオリゴマーなど)、前記ポリアミン類などが例示できる。
【0094】
加硫助剤の割合は、例えば、ゴム及び/又は樹脂100重量部に対し、0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部程度である。
【0095】
(他の添加剤)
前記ゴム組成物には、必要に応じて、種々の添加剤、例えば、フィラー、可塑剤又は軟化剤、共加硫剤(酸化亜鉛などの金属酸化物など)、老化防止剤(熱老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、粘着付与剤、加工助剤、滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックスなど)、着色剤、発泡剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤などを配合してもよい。
【0096】
前記フィラー(又は補強剤)には、例えば、粉粒状フィラー又は補強剤(マイカ、クレー、タルク、ケイ酸類、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、フェライトなど)、繊維状フィラー又は補強剤(レーヨン、ナイロン、ビニロン、アラミドなどの有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維)などが含まれる。
【0097】
可塑剤としては、ゴム組成物に可塑性を付与可能である限り特に制限されず、慣用の軟化剤(リノール酸、オレイン酸、ひまし油、パーム油などの植物油;パラフィン、プロセスオイル、エキステンダーなどの鉱物油など)、可塑剤(フタル酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステル、硫黄含有可塑剤、ポリエステル系高分子可塑剤など)などが使用できる。
【0098】
フィラーの含有量は、ゴム100重量部に対して、例えば、0〜300重量部程度、好ましくは0〜200重量部程度、さらに好ましくは0〜100重量部程度であってもよい。可塑剤又は軟化剤の含有量は、ゴム100重量部に対して、例えば、0〜200重量部程度、好ましくは0〜150重量部程度、さらに好ましくは0〜120重量部程度であってもよい。また、共加硫剤、老化防止剤、加工剤又は滑剤、着色剤などの含有量は、有効量であればよく、例えば、共加硫剤の含有量は、ゴム100重量部に対して、0〜20重量部程度、好ましくは0.5〜15重量部程度、さらに好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
【0099】
本発明では、活性原子を所定の濃度で含む熱可塑性樹脂とゴムとを組み合わせるので、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材と加硫ゴムで構成されたゴム部材とを幅広い組合せで接合でき、更に必要に応じて加硫活性剤を共存させることにより、その接合をより確実かつ強固にすることができる。そのため、熱可塑性樹脂とゴムとの組合せは特に限定されず、例えば、次のような組合せ(a)〜(h)が例示できる。
【0100】
(a)ポリアミド系樹脂と、ラジカル発生剤を含み、かつカルボキシル基又は酸無水物基で変性されていない未加硫ゴムとの組合せ
(b)ポリアミド系樹脂と、ラジカル発生剤及び二官能以上の多官能性の加硫活性剤(例えば、三官能性又はそれ以上の多官能性加硫活性剤)を含み、かつアルコキシシラン化合物を含まない未加硫ゴムとの組合せ
すなわち、本発明では、ポリアミド系樹脂のアミノ基とゴムのカルボキシル基又は酸無水物基との反応を利用することなく、未加硫ゴムとして未変性ゴム(例えば、カルボキシル基/酸無水物基により変性されていないゴム)が使用できる。そのため、ポリアミド系樹脂(例えば、脂肪族ポリアミド系樹脂)とゴムとの適用範囲を大きく拡大できる。
【0101】
(c)アミノ基及びオキシアルキレン基を有する芳香族ポリエステル系樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(d)ポリアセタール系樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(e)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、ラジカル発生剤及び加硫活性剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(f)ポリスルフィド系樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(g)ポリプロピレン系樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(h)ポリウレタン系樹脂と、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(i)熱可塑性エラストマーと、ラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
このような組合せにおいて、ラジカル発生剤としては有機過酸化物が好ましく、加硫活性剤としては、二官能又は多官能性加硫活性剤(特に三官能性又は多官能性(メタ)アクリレートなど)が好ましい。
【0102】
[複合体の製造方法]
本発明では、前記熱可塑性樹脂とラジカル発生剤を含む未加硫ゴムとを組み合わせて用いることにより、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材と加硫ゴムで構成されたゴム部材とが接合した複合体を製造する。この複合体は、成形樹脂材と成形ゴム材とを接触させて成形するとともに前記成形ゴム材を加硫又は架橋することにより製造できる。
【0103】
なお、前記成形樹脂材は、熱可塑性樹脂で構成された樹脂組成物であってもよく、予め成形された樹脂部材(又は樹脂成形体)などであってもよい。また、前記成形ゴム材は、前記成形樹脂材との接触面においてラジカル発生剤が活性であって、少なくとも未加硫のゴムを含有していれば特に限定されず、未加硫のゴム組成物であってもよく、一部が加硫又は架橋されたゴム予備成形体などであってもよい。
【0104】
すなわち、熱可塑性樹脂で構成された樹脂組成物(好ましくは、少なくとも前記加硫活性剤を含む樹脂組成物)と、未加硫ゴムとラジカル発生剤とで構成された未加硫ゴム組成物(好ましくは、さらに少なくとも前記加硫活性剤を含む未加硫ゴム組成物)とを接触させて成形するとともに前記未加硫ゴム組成物を加硫又は架橋させ、樹脂部材とゴム部材とが接合した複合体を製造してもよい。
【0105】
また、ラジカル発生剤が失活せず活性である限り、樹脂部材(又は樹脂成形体)及びゴム部材(ゴム成形体)のうち少なくとも一方の部材は予め成形されていてもよい。例えば、(1)熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材に未加硫ゴム組成物を接触させ、未加硫ゴム組成物を成形するとともに加硫又は架橋させることにより、複合体を製造してもよく、(2)ゴム組成物が予備加硫又は架橋して成形されたゴム予備成形体に、前記樹脂組成物を接触させ、樹脂組成物を成形することにより複合体を製造してもよく、(3)熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材に、ゴム組成物が加硫又は架橋して成形されたゴム予備成形体を接触させることにより複合体を製造してもよい。なお、前記ゴム予備成形体は、ラジカル発生剤が少なくとも成形樹脂材との接触面において活性であればよく、ラジカル発生剤が残存したゴム予備成形体などであってもよい。
【0106】
より具体的には、本発明の方法には、樹脂組成物と未加硫ゴム組成物とをそれぞれ成形しながら、成形過程で樹脂組成物と未加硫ゴム組成物とを接触又は合流させて、樹脂部材と加硫ゴム部材とを接合又は接着する方法(一段階法)、予め成形された樹脂部材と未加硫ゴム組成物とを接触させ、未加硫ゴム組成物を成形しながら加硫又は架橋させて、樹脂部材と加硫ゴム部材とを接合又は接着する方法(二段階法)、予め成形された樹脂部材と、未加硫ゴム組成物を途中まで成形(一部加硫又は架橋)したゴム予備成形体とを接触させ、ゴム予備成形体をさらに加硫又は架橋させて、樹脂部材と加硫ゴム部材とを接合又は接着する方法(三段階法)などが含まれる。
【0107】
好ましい方法には、一段階法および二段階法(特に、二段階法)が含まれる。一段階法では、例えば、慣用の多色成形機(多色射出成形機、多層押出機など)を利用し、樹脂組成物と未加硫ゴム組成物とをそれぞれ溶融混練しつつ所定形状の成形型に射出又は押出成形し、未加硫ゴムを成形過程又は成形後に加硫又は架橋することにより複合成形体を得ることができる。なお、樹脂組成物と未加硫ゴム組成物との接触界面領域では、樹脂組成物と未加硫ゴム組成物とが混在していてもよい。
【0108】
また、二段階法において、樹脂部材の成形には、慣用の成形機(射出成形機、押出成形機、熱プレス成形機など)が使用でき、ゴム部材の成形には、慣用の成形機(射出成形機、プレス成形機、トランスファ成形機、押出成形機など)が使用できる。例えば、複合体の形状に対応する型(又はキャビティー)に樹脂部材を収容し、この樹脂部材に対して未加硫ゴム組成物を射出又は押出し、未加硫ゴム組成物を加硫又は架橋することにより、加硫ゴム部材と樹脂部材とを接着してもよい。また、複合体が二次元的な拡がりを有する板状又はシート状部材である場合、前記型(又はキャビティー)を用いることなく、樹脂部材に対して板状又はシート状未加硫ゴム組成物を積層し、加硫又は架橋させることにより複合体を製造してもよい。なお、樹脂部材(又は樹脂組成物)と未加硫ゴム組成物とを接触(密着など)させる場合、未加硫ゴム組成物中の揮発性分やガス成分を除去するため、熱プレス成形や射出成形などを利用して、適宜加圧してもよく、減圧雰囲気下で加圧成形してもよい。
【0109】
加硫又は架橋温度は(又はゴム部材と樹脂部材との接合温度)は、例えば、70〜250℃、好ましくは100〜230℃、さらに好ましくは150〜220℃程度の範囲から選択できる。ゴム/樹脂間に作用する圧力は、例えば、0〜350MPa、好ましくは1〜150MPa、さらに好ましくは2〜100MPa程度の範囲から選択できる。
【0110】
なお、複合体の製造において、未加硫シリコーンゴム及び熱可塑性樹脂から選択された少なくとも一方の成分が、加硫活性剤(例えば、前記複数の重合性基を有する重合性化合物など)や加硫助剤(例えば、前記ポリアミン類など)を含有していてもよい。通常、加硫助剤は、熱可塑性樹脂に添加する場合が多い。
【0111】
また、前記のように、加硫活性剤は、通常、未加硫ゴム組成物(又はゴム部材)及び/又は樹脂組成物に配合されるが、本発明の方法には、前記成形樹脂材と前記成形ゴム材との接触面(又は接合面)に、少なくとも前記加硫活性剤(必要によりさらに前記加硫助剤)を介在させて加熱成形し、樹脂部材とゴム部材とが接合した複合体を製造する方法も含まれる。
【0112】
さらに、本発明の方法には、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材と、加硫ゴム部材との接触面(又は接合面)に、少なくとも加硫活性剤(必要によりさらに前記加硫助剤)を介在させて加熱成形し、樹脂部材とゴム部材とを接合し、複合体を製造する方法も含まれる。この方法において、加硫ゴム部材は、必ずしもラジカル発生剤(有機過酸化物など)で加硫又は架橋する必要はなく、硫黄系加硫剤で加硫したゴム部材であってもよい。好ましい方法では、前記熱可塑性樹脂の成形部材と前記未加硫ゴム組成物の成形部材との組合せ、すなわち、前記熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材と、少なくともラジカル発生剤と未加硫ゴムとで構成された未加硫ゴム組成物からの加硫ゴム部材とを組み合わせてもよい。
【0113】
さらに、樹脂部材と加硫ゴム部材との接合面には、塗布などにより、少なくとも加硫活性剤(必要によりさらに前記加硫助剤)を含む塗布剤を介在させればよく、ラジカル発生剤と加硫活性剤(必要によりさらに前記加硫助剤)とで構成されたラジカル活性な塗布剤を介在させてもよい。樹脂部材と加硫ゴム部材との接触面又は接合面での塗布剤の量は、例えば、0.1〜10g/m2程度、好ましくは0.5〜5g/m2程度、特に1〜5g/m2程度であってもよい。
【0114】
前記塗布剤を介在させて樹脂部材と加硫ゴム部材とを加熱(特に加熱加圧)することにより、樹脂部材と加硫ゴム部材とが接合一体化した複合体が得られる。加熱温度及び圧力は、前記加硫又は架橋の温度及び圧力と同様の範囲から選択できる。
【0115】
また、樹脂部材の表面を、この樹脂部材を溶解もしくは膨潤させる溶剤で処理(塗布、浸漬などによる処理)した後、前記樹脂部材の処理面と未加硫ゴム組成物とを接触させることも有効である。溶剤としては、樹脂部材の種類に応じて、炭化水素類(ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素)、アルコール類(イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール、テトラフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールなどのハロアルキルアルコール)、フェノール類(フェノール、クレゾールなど)、有機酸類(ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸など)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エーテル類(ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)やこれらの混合溶剤などから適当に選択できる。
【0116】
例えば、樹脂がポリアミド樹脂の場合、ゴム部材との接触面に、フェノール類(フェノール、クレゾールなど)、有機酸(ギ酸など)、ケトン類(ヘキサフルオロアセトンなど)、アルコール類(ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなど)などを単独で又は通常の有機溶剤と混合して塗布すればよい。また、例えば、樹脂がポリフェニレンエーテル樹脂の場合は、溶剤もしくは膨潤剤として、炭化水素類(トルエンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサフルオロアセトンなど)、エーテル類(テトラヒドロフランなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、アルコール類(ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなど)などが例示できる。
【0117】
なお、前記溶剤で処理した後、洗浄、乾燥などにより溶剤を樹脂部材から除去しても、前記樹脂部材の処理面と未加硫ゴム組成物とを接触させることにより、加硫ゴム部材と樹脂部材とを強固に接合できる。
【実施例】
【0118】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例では、以下の樹脂組成物及びゴム組成物を用いた。
【0119】
[樹脂組成物(A)〜(J)]
樹脂組成物A1〜A6
熱可塑性樹脂としてポリアミド612(ヘキサメチレンジアミンとドデカンジカルボン酸の重縮合物)を用い、下記の樹脂組成物(A1〜A6)を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記基本単位に基づいて行った。
【0120】
NH2-(CH2)6-NH-C(=O)-(CH2)10-C(=O)-OH
樹脂組成物(A1):
ポリアミド612(NH2末端/COOH末端=9/1(モル比))単独
(調製方法):ヘキサメチレンジアミンとドデカンジカルボン酸との塩80重量%水溶液に所定量のヘキサメチレンジアミンを添加し、窒素置換したオートクレーブ中で加圧(17.5kg/cm)下で加熱(220℃)し、窒素ガスと共に系内の水分を4時間要して系外に排出した。その後1時間を要して徐々に昇温(275℃)し水分の残渣を系外に排除した後オートクレーブの内圧を常圧に戻し、冷却後、ポリアミド612を得た。得られたポリマーは分子量(Mn)約20000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=9/1であった。このポリマーを単独で樹脂組成物(A1)とした。
【0121】
樹脂組成物(A2):
ポリアミド612(NH2末端/COOH末端=9/1(モル比)) 50重量%
カーボン短繊維50重量%
(調製方法):樹脂組成物(A1)と同重量のカーボン繊維を2軸押出機で混練し樹脂組成物(A2)とした。
【0122】
樹脂組成物(A3):
ポリアミド612(NH2末端/COOH末端=9/1(モル比)) 12重量%
ソフトフェライト 88重量%
(調製方法):樹脂組成物(A1)100重量部とソフトフェライト733重量部をニーダーを用いて混練し樹脂組成物(A3)とした。
【0123】
樹脂組成物(A4):
ポリアミド612(NH末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):ヘキサメチレンジアミンとドデカンジカルボン酸の塩80重量%水溶液を窒素置換したオートクレーブ中で加圧(17.5Kg/cm)下で加熱(220℃)し、窒素ガスと共に系内の水分を4時間要して系外に排出した。その後1時間を要して徐々に昇温(275℃)し水分の残渣を系外に排除した後オートクレーブの内圧を常圧に戻した。冷却後、ポリアミド612を得た。得られたポリマーは、分子量(Mn)20000〜25000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/1であった。このポリマーを単独で樹脂組成物(A4)とした。
【0124】
樹脂組成物(A5):
ポリアミド612(NH末端/COOH末端=3/7(モル比))単独
(調製方法):樹脂組成物(A1)と次の樹脂組成物(A6)とを1/3の重量比で2軸押出機を用いて混練した。これを樹脂組成物(A5)とし単独で用いた。
【0125】
樹脂組成物(A6):
ポリアミド612(NH末端/COOH末端=1/9(モル比))単独
(調製方法):ヘキサメチレンジアミンとドデカンジカルボン酸の塩80重量%水溶液に所定量のドデカンジカルボン酸を添加し、窒素置換したオートクレーブ中で加圧(17.5kg/cm)下に加熱(220℃)し、窒素ガスと共に系内の水分を4時間要して系外に排出した。その後1時間を要して徐々に昇温(275℃)し水分の残渣を系外に排除した後オートクレーブの内圧を常圧に戻した。冷却後、ポリアミド612を得た。得られたポリマーは、分子量(Mn)約20000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/9であった。このポリマーを単独で樹脂組成物(A6)とした。
【0126】
樹脂組成物B1〜B2
熱可塑性樹脂としてポリアミド66(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の重縮合物)を用い、下記の樹脂組成物を調製した(B1〜B2)。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0127】
NH2-(CH2)6-NH-C(=O)-(CH2)4-C(=O)-OH
樹脂組成物(B1):
ポリアミド66(NH2末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):モノマーの組み合わせをヘキサメチレンジアミンとアジピン酸として前記(A4)と同様の調製方法で分子量(Mn)20000〜25000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/1のポリアミド66を得、これを単独で樹脂組成物(B1)とした。
【0128】
樹脂組成物(B2):
ポリアミド66(NH2末端/COOH末端=1/3(モル比))単独
(調製方法):モノマーの組み合わせをヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とし前記(A6)と同様の調製方法で分子量(Mn)は約20000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/9のポリアミド66を得た。このポリマーと樹脂組成物(B1)を62.5/37.5の重量比で2軸押出機により混練し、樹脂組成物(B2)とした。
【0129】
樹脂組成物C1〜C3
熱可塑性樹脂として、ポリアミド6(ε−カプロラクタムの開環重合体)を用い、下記の樹脂組成物(C1〜C3)を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0130】
NH2-(CH2)5-C(=O)-NH-(CH2)5-C(=O)-OH
樹脂組成物(C1):
ポリアミド6(NH末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):ε―カプロラクタムの80重量%水溶液を、少量のリン酸の存在下、窒素置換したオートクレーブ中で250〜260℃に加熱し、窒素ガスと共に系内の水分を4時間を要して系外に排出した。その後1時間を要して徐々に昇温(275℃)し水分の残渣を系外に排除した後、冷却し、ポリアミド6を得た。得られたポリマーは分子量(Mn)約20000〜25000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/1であった。このポリマーを単独で樹脂組成物(C1)とした。
【0131】
樹脂組成物(C2):
ポリアミド6(NH末端/COOH末端=1/3(モル比))単独
(調製方法):ε―カプロラクタムの80重量%水溶液に所定量のヘキサメチレンジアミンを添加し、少量のリン酸の存在下、窒素置換したオートクレーブ中で250〜260℃に加熱し、窒素ガスと共に系内の水分を4時間要して系外に排出した。その後1時間を要して徐々に昇温(275℃)し、水分の残渣を系外に排除した後、冷却し、ポリアミド6を得た。得られたポリマーは、分子量(Mn)約20000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=9/1であった。このポリマーを樹脂組成物(C4)とした。この(C4)と前記樹脂組成物(C1)とを重量比37.5/62.5となるように混練し樹脂組成物(C2)とした。
【0132】
樹脂組成物(C3):
ポリアミド6(NH末端/COOH末端=1/4(モル比))単独
(調製方法):前記(C1)と前記(C4)を重量比25/75となるように混練し樹脂組成物(C3)とした。
【0133】
樹脂組成物D1〜D3
熱可塑性樹脂として、ポリアミド46(ジアミノブタンとアジピン酸の重縮合物)を用い、下記の樹脂組成物(D1〜D3)を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0134】
NH2-(CH2)4-NH-C(=O)-(CH2)4-C(=O)-OH
樹脂組成物(D1):
ポリアミド46(NH2末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
樹脂組成物(D2):
ポリアミド46(NH2末端/COOH末端=1/3(モル比))単独
樹脂組成物(D3):
ポリアミド46(NH2末端/COOH末端=1/4(モル比))単独
樹脂組成物E1〜E3
熱可塑性樹脂として、テレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンとの重縮合物(芳香族ポリアミドA5)を用い、下記の樹脂組成物(E1〜E3)を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0135】
【化1】

【0136】
樹脂組成物(E1):
芳香族ポリアミドA5(NH末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):モノマーの組み合わせをトリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸として前記(A4)と同様の調製方法で分子量(Mn)20000〜25000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/1のポリマーを得、これを単独で樹脂組成物(E1)とした。
【0137】
樹脂組成物(E2):
芳香族ポリアミドA5(NH末端/COOH末端=1/3(モル比))単独
(調製方法):モノマーの組み合わせをトリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸として前記(A6)と同様の調製方法で分子量(Mn)約20000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/9のポリマーを得、このポリマーを樹脂組成物(E4)とした。このポリマー(E4)と樹脂組成物(E1)とを62.5/37.5の重量比で2軸押出機により混練し、これを樹脂組成物(E2)とした。
【0138】
樹脂組成物(E3):
芳香族ポリアミドA5(NH末端/COOH末端=1/4(モル比))単独
(調製方法):前記(E1)と前記(E4)を重量比25/75となるように混練し樹脂組成物(E3)とした。
【0139】
樹脂組成物F1〜F3
熱可塑性樹脂として、ドデカンジカルボン酸とビス(4−アミノシクロへキシル)メタンとの重縮合物(脂環族ポリアミドA6)を用い、下記の樹脂組成物(F1〜F3)を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0140】
【化2】

【0141】
樹脂組成物(F1):
脂環族ポリアミドA6(NH末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):モノマーの組み合わせをビス(4−アミノシクロへキシル)メタンとドデカンジカルボン酸として前記(A4)と同様の調製方法で分子量(Mn)20000〜25000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/1のポリマーを得、これを単独で樹脂組成物(F1)とした。
【0142】
樹脂組成物(F2):
脂環族ポリアミドA6(NH末端/COOH末端=1/2(モル比))単独
(調製方法):モノマーの組み合わせをビス(4−アミノシクロへキシル)メタンとドデカンジカルボン酸として前記(A6)と同様の調製方法で分子量(Mn)約20000、アミン末端とカルボキシル末端の比率=1/9のポリマーを得、これを樹脂組成物(F4)とした。この(F4)と樹脂組成物(F1)を133.4/66.6の重量比で2軸押出機により混練し、これを樹脂組成物(F2)とした。
【0143】
樹脂組成物(F3):
脂環族ポリアミドA6(NH末端/COOH末端=1/3(モル比))単独
(調製方法):前記(F4)と前記(F1)を62.5/37.5の重量比で2軸押出機により混練し、これを樹脂組成物(F3)とした。
【0144】
樹脂組成物G1〜G2
熱可塑性樹脂として、PBT(テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの重縮合物)、又はアミン変性PBT(前記PBTとヘキサメチレンジアミンとの反応生成物)を用い、下記の樹脂組成物(G1〜G2)を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0145】
【化3】

【0146】
樹脂組成物(G1):
PBT(OH末端/COOH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):ジメチルテレフタレート14.587kg、1,4−ブタンジオール6.767kg、酢酸カルシウム30g、及び酸化アンチモン60gを窒素ガス導入管と蒸留用側管とを有する重合釜に仕込み、180℃に過熱し、窒素ガスを少量づつ供給した。メタノールの流出を確認したところで減圧攪拌下で徐々に昇温を開始し、徐々に270℃、真空度100Pa以下にまで導いた。エチレングリコールの留出を確認した後、270℃で3時間加熱保持した後、取り出して放冷した。得られたポリマーを樹脂組成物(G1)とした。
【0147】
樹脂組成物(G2):
アミン変性PBT(NH末端/OH末端=1/1(モル比))単独
(調製方法):前記(G1)と(G1)に含まれるカルボキシル基と等モルのメチレンジアミンを230℃でニーダーを用いて30分間混練し樹脂組成物(G2)とした。
【0148】
樹脂組成物H
ポリ(2,5−ジメチルフェニレンエーテル)(デグサAG(株)製、Vestoran1900)単独で樹脂組成物を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0149】
【化4】

【0150】
樹脂組成物I
ポリプロピレン単独で樹脂組成物を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0151】
CH3-CH(CH3)-CH2-CH(CH3)-CH2-CH(CH3)-CH2-CH2(CH3)
樹脂組成物J
ポリアセタール(ポリプラスチックス(株)製、ジュラコンM90)単独で樹脂組成物を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0152】
CH−O−CH−O−CH−O−CH−CH−O−CH
樹脂組成物K
ポリフェニレンスルフィド(ポリプラスチックス(株)製、フォートロン0220A9(無充填品))単独で樹脂組成物を調製した。なお、MOPACPM3の計算は、下記式に基づいて行った。
【0153】
Cl−C−S−C−S−C−Cl
樹脂と加硫活性剤を所定の割合で配合し、樹脂組成物(L〜N)を調製した。
【0154】
樹脂組成物L1〜L2
樹脂組成物(L1):
(i)ポリアミド612(NH2末端/COOH末端=1/1(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 3重量部
樹脂組成物(L2):
(i)ポリアミド612(NH2末端/COOH末端=1/9(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 3重量部
樹脂組成物M1〜M2
樹脂組成物(M1):
(i)ポリアミド6(NH2末端/COOH末端=1/1(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド) 3重量部
樹脂組成物(M2):
(i)ポリアミド6(NH2末端/COOH末端=1/4(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド) 3重量部
樹脂組成物N1〜N2
熱可塑性樹脂として、ドデカンジカルボン酸とビス(4−アミノシクロへキシル)メタンとの重縮合物(前記脂環族ポリアミドA6)を用い、下記の樹脂組成物(N1〜N2)を調製した。
【0155】
樹脂組成物(N1):
(i)脂環族ポリアミドA6(NH2末端/COOH末端=1/1(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(トリアリルイソシアヌレート) 3重量部
樹脂組成物(N2):
脂環族ポリアミドA6(NH2末端/COOH末端=1/2(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(トリアリルイソシアヌレート) 5重量部
樹脂組成物O1〜O2
樹脂組成物(O1):
(i)PBT(OH末端/COOH末端=1/1(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 3重量部
樹脂組成物(O2):
(i)アミン変性PBT(NH2末端/OH末端=1/1(モル比)) 100重量部
(ii)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 3重量部
[未加硫ゴム組成物(R)]
下記成分を所定の割合で配合し、未加硫ゴム組成物(R1〜R10)を調製した。
【0156】
ゴム組成物R1
(i)ゴム 100重量部(エチレンプロピレンジエンゴム(DSM(株)製、ケルタン509×100、ジエン含量8.2重量%)90重量部、ポリオクテニレンゴム(Degussa(株)製、Vestenamer8012)10重量部)
(ii)フィラー[カーボンブラック(FEF)] 1重量部
(iii)ラジカル発生剤[有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド)] 5重量部
(iv)加硫活性剤 0重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68)) 100重量部
(vi)酸化亜鉛 5重量部
(vii)ステアリン酸 1重量部
ゴム組成物R2
(i)ゴム 100重量部(エチレンプロピレンジエンゴム(DSM(株)製、ケルタン509×100、ジエン含量8.2重量%)90重量部、ポリオクテニレンゴム(Degussa(株)製、Vestenamer8012)10重量部)
(ii)フィラー[カーボンブラック(FEF)] 1重量部
(iii)ラジカル発生剤[有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド)] 5重量部
(iv)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 1重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68)) 100重量部
(vi)酸化亜鉛 5重量部
(vii)ステアリン酸 1重量部
ゴム組成物R3
(i)ゴム 100重量部(エチレンプロピレンジエンゴム(DSM(株)製、ケルタン509×100、ジエン含量8.2重量%)90重量部、ポリオクテニレンゴム(Degussa(株)製、Vestenamer8012)10重量部)
(ii)フィラー[カーボンブラック(FEF)] 1重量部
(iii)ラジカル発生剤(有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド)) 5重量部
(iv)加硫活性剤(ブタンジオールジメタクリレート) 2重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68) 100重量部
(vi)酸化亜鉛 5重量部
(vii)ステアリン酸 1重量部
ゴム組成物R4
(i)ゴム 100重量部(エチレンプロピレンジエンゴム(DSM(株)製、ケルタン509×100、ジエン含量8.2重量%)90重量部、ポリオクテニレンゴム(Degussa(株)製、Vestenamer8012)10重量部)
(ii)フィラー[カーボンブラック(FEF)] 1重量部
(iii)ラジカル発生剤(テトラメチルチウラムジスルフィド) 3重量部
(iv)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 1重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68) 100重量部
(vi)酸化亜鉛 5重量部
(vii)ステアリン酸 1重量部
ゴム組成物R5
(i)ゴム 100重量部(天然ゴム60重量部、エチレンプロピレンジエンゴム(DSM(株)製、ケルタン509×100、ジエン含量8.2重量%)35重量部、ポリオクテニレンゴム(Degussa(株)製、Vestenamer8012)5重量部)
(ii)フィラー[カーボンブラック(FEF)] 1重量部
(iii)ラジカル発生剤[有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド)] 5重量部
(iv)加硫活性剤 0重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68) 100重量部
(vi)酸化亜鉛 5重量部
(vii)ステアリン酸 1重量部
ゴム組成物R6
(i)ゴム 100重量部(天然ゴム60重量部、エチレンプロピレンジエンゴム(DSM(株)製、ケルタン509×100、ジエン含量8.2重量%)35重量部、ポリオクテニレンゴム(Degussa(株)製、Vestenamer8012)5重量部)
(ii)フィラー[カーボンブラック(FEF)] 1重量部
(iii)ラジカル発生剤[有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド)] 5重量部
(iv)加硫活性剤(トリメチロールプロパントリメタアクリレート) 1重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68) 100重量部
(vi)酸化亜鉛 5重量部
(vii)ステアリン酸 1重量部
ゴム組成物R7
(i)水素添加ニトリルゴム(HNBR) (「Zetpol3110」、日本ゼオン(株)製)100重量部
(ii)フィラー[カーボンブラック(N550)]50重量部
(iii)ラジカル発生剤(1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン) 3重量部
(iv)加硫活性剤 0重量部
(v)可塑剤(ジブチルメチレンビスチオグリコレート) 10重量部
(vi)酸化亜鉛 0重量部
(vii)ステアリン酸 0重量部
ゴム組成物R8
(i)水素添加ニトリルゴム(HNBR) (「Zetpol3110」、日本ゼオン(株)製)100重量部
(ii)フィラー[カーボンブラック(N550)]50重量部
(iii)ラジカル発生剤(1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン) 3重量部
(iv)加硫活性剤(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド) 4重量部
(v)可塑剤(ジブチルメチレンビスチオグリコレート) 10重量部
(vi)酸化亜鉛 0重量部
(vii)ステアリン酸 0重量部
ゴム組成物R9
(i)フッ素ゴム(FPM) (Dai El「G920」、ダイキン工業(株)製)100重量部
(ii)フィラー 0重量部
(iii)ラジカル発生剤(ジクミルパーオキサイド) 3重量部
(iv)加硫活性剤 0重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68)
0重量部
(vi)酸化亜鉛 0重量部
(vii)ステアリン酸 0重量部
ゴム組成物R10
(i)フッ素ゴム(FPM) (Dai El「G920」、ダイキン工業(株)製)100重量部
(ii)フィラー 0重量部
(iii)ラジカル発生剤(ジクミルパーオキサイド) 3重量部
(iv)加硫活性剤(トリアリルイソシアヌレート) 4重量部
(v)可塑剤(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルNM−68) 0重量部
(vi)酸化亜鉛 0重量部
(vii)ステアリン酸 0重量部
実施例1〜147及び比較例1〜77
前記樹脂組成物を射出成形し、得られた樹脂部材(平板状、サイズ100mm×100mm×4mm)を成形型内に配置し、成形樹脂部材の表面に対して前記未加硫ゴム組成物を射出成形し、温度180℃、圧力20MPaで20分間加硫又は架橋することにより、複合体を製造した。得られた複合体について、剥離試験により樹脂部材とゴム部材との接着強度を測定し、下記基準に従って評価した。
【0157】
A:極めて強固に接着しており、凝集破壊する
B:界面剥離するものの強固に接着している
C:樹脂部材とゴム部材とが界面で容易に剥離する
結果を表1に示す。なお、表中、「活性原子の個数」は、MOPACPM3の計算で得られた熱可塑性樹脂一分子中の活性原子(S≧0.006)の個数を示す。なお、前記計算において、Ecは、−8eV(ラジカル発生剤が有機過酸化物の場合)、又は−6eV(ラジカル発生剤がテトラメチルチウラムジスルフィドの場合)とした。
【0158】
【表1】

【0159】
【表2】

【0160】
【表3】

【0161】
【表4】

【0162】
【表5】

【0163】
【表6】

【0164】
【表7】

【0165】
【表8】

【0166】
【表9】

【0167】
【表10】

【0168】
表1〜10から明らかなように、実施例では、活性原子を2個以上有する樹脂を用いているため、ゴムの種類に拘わらず、樹脂とゴムとを強固に接着できる。
【0169】
実施例148
接合強度の評価が「B」であったゴム組成物R1/樹脂A5(PA612)の組合せにおいて、溶剤処理により効果を調べた。すなわち、紙((株)クレシア製、「キムワイプワイパーS−200」)を横に3回、縦に1回折り、これの先端部を溶剤(ヘキサフルオロイソプロパノール)に漬け、樹脂A5(PA612)の試験片(平板状、サイズ100mm×100mm×4mm)の接合面を軽く拭いた。なお、試験片の表面が溶剤で濡れているか否かを目視で判断することにより、清拭されていることを確認した。清拭後、試験片を5分間放置し、水洗し、100℃の減圧乾燥機で5時間乾燥させ、接着試験に供した。そして、上記実施例1と同様にして、試験片と未加硫ゴム組成物とを用い、複合体を製造した。得られた複合体について、剥離試験により樹脂部材とゴム部材との接着強度を測定したところ、複合体の接合強度は、評価「A」に向上した。
【0170】
実施例149
ヘキサフルオロイソプロパノールに代えてメタクレゾールを用い、試験片の接合面を拭く以外、実施例148と同様にして複合体を製造した。得られた複合体について、剥離試験により樹脂部材とゴム部材との接着強度を測定したところ、複合体の接合強度は、評価「A」に向上した。
【0171】
実施例150
接着強度の評価が「B」であったゴム組成物R1/樹脂H(m−PPE)の組合せにおいて、樹脂H(m−PPE)の試験片(平板状、サイズ100mm×100mm×4mm)の接合面をメタクレゾールで拭く以外、実施例148と同様にして複合体を製造した。得られた複合体について、剥離試験により樹脂部材とゴム部材との接着強度を測定したところ、複合体の接合強度は、評価「A」に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0172】
このようにして得られた複合体は、加硫によりゴム部材と樹脂部材とが著しく高い強度で接着している。そのため、熱可塑性樹脂の特性とゴムの特性とを有効に発現でき、種々の用途、例えば、自動車用部品(振動吸収ブッシュ、スプリングプレート、ドアロック部材、ラジエターマウントなど)、防振ゴム、バルブ、電気プラグなどの種々の部材として有利に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非シリコーン系未加硫ゴムの加硫により生成した加硫ゴム部材と、熱可塑性樹脂で構成された樹脂部材とが直接接合した複合体を製造する方法であって、
前記複合体が、有機過酸化物で加硫した加硫ゴム部材と、下記式(1)
S=(CHOMO,n2/|Ec−EHOMO,n|+(CLUMO,n2/|Ec−ELUMO,n| (1)
(式中、Ec、CHOMO,n、EHOMO,n、CLUMO,n、ELUMO,nは、いずれも半経験的分子軌道法MOPACPM3により算出された値であって、Ecは有機過酸化物のラジカルの軌道エネルギー(eV)を示し、CHOMO,nは熱可塑性樹脂の末端と1〜3個の繰り返し単位とで形成された基本単位を構成する第n番目の水素原子又は硫黄原子の最高被占分子軌道(HOMO)の分子軌道係数を示し、EHOMO,nは前記HOMOの軌道エネルギー(eV)を示し、CLUMO,nは前記n番目の水素原子又は硫黄原子の最低空分子軌道(LUMO)の分子軌道係数を示し、ELUMO,nは前記LUMOの軌道エネルギー(eV)を示す)
で表される軌道相互作用エネルギー係数Sが0.006以上である水素原子又は硫黄原子を一分子中に少なくとも平均2つ有する熱可塑性樹脂を含む樹脂部材との組合せで構成されており、
前記水素原子は、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、メチル基、活性メチレン基、およびメチリジン基から選択された基の水素原子であり、前記硫黄原子は、チオ基、メルカプト基、アルキルチオ基、およびスルフィニル基から選択された基の硫黄原子である複合体であり、
前記熱可塑性樹脂と有機過酸化物を含む未加硫ゴムとを組み合わせて用い、前記樹脂部材の表面を、前記樹脂部材を溶解もしくは膨潤させる溶剤で処理した後、前記樹脂部材の処理面と未加硫ゴム組成物とを接触させ、加硫ゴム部材と樹脂部材とが接合した複合体を製造する方法。
但し、上記組合せは、(1)アミノ基を有する脂肪族ポリアミド系樹脂と、カルボキシル基又は酸無水物基含有未加硫ゴムとの組合せ、(2)脂肪族ポリアミド系樹脂と、シラン化合物を含む未加硫ゴムとの組合せ、(3)エポキシ基含有樹脂と、カルボキシル基又は酸無水物基含有未加硫ゴムとの組合せを含まず、(4)熱可塑性樹脂がポリアミド系樹脂であるとき、未加硫ゴムは多官能性の加硫活性剤を含み、(5)熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテル系樹脂であるとき、未加硫ゴムは加硫活性剤を含むものとする。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂及び熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ゴムが、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、ウレタン系ゴムから選択された少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
有機過酸化物の割合が、未加硫ゴム100重量部に対して1〜10重量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
未加硫ゴム及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方の成分が加硫活性剤を含有する請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
加硫活性剤が、一分子中に少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する有機化合物である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
加硫活性剤の割合が、未加硫ゴム及び熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方の成分100重量部に対して0.1〜10重量部である請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、加硫助剤を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
加硫助剤の割合が、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
下記の組合せで構成されている請求項1記載の製造方法。
(a)ポリアミド系樹脂と、カルボキシル基又は酸無水物基で変性されていない未加硫ゴムとの組合せ
(b)ポリアミド系樹脂と、有機過酸化物及び多官能性の加硫活性剤を含み、かつアルコキシシラン化合物を含まない未加硫ゴムとの組合せ
(c)アミノ基及びオキシアルキレン基から選択された少なくとも一種を有する芳香族ポリエステル系樹脂と、有機過酸化物を含む未加硫ゴムとの組合せ
(d)ポリアセタール系樹脂と、有機過酸化物を含む未加硫ゴムとの組合せ
(e)ポリフェニレンエーテル系樹脂と、有機過酸化物及び加硫活性剤を含む未加硫ゴムとの組合せ
(f)ポリスルフィド系樹脂と、有機過酸化物を含む未加硫ゴムとの組合せ
(g)ポリプロピレン系樹脂と、有機過酸化物を含む未加硫ゴムとの組合せ
(h)ポリウレタン系樹脂と、有機過酸化物を含む未加硫ゴムとの組合せ
(i)熱可塑性エラストマーと、有機過酸化物を含む未加硫ゴムとの組合せ

【公開番号】特開2010−52433(P2010−52433A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272245(P2009−272245)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2007−152472(P2007−152472)の分割
【原出願日】平成13年12月28日(2001.12.28)
【出願人】(000108982)ダイセル・エボニック株式会社 (31)
【Fターム(参考)】