説明

複合成形品

【課題】軽量、薄肉、高強度・高剛性で、かつ高意匠性、高耐傷性に優れたものであり、これらの特性が要求される用途に適した複合成形品を提供する。
【解決手段】シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)とを含む複合成形品(I)において、少なくともシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部にまたがる表面の一部に鉛筆硬度が2H以上の硬質層(IV)が形成されているとともに、該硬質層(IV)が形成されるシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sが0〜50μmであり、かつ表面高低差Dが0〜50μmであることを特徴とする複合成形品(I)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、パソコンやOA機器、携帯電話などの部品や筐体部分として用いられる、軽量、高強度、高剛性、高意匠性、高耐傷性が要求される用途に適した複合成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品などの電気機器、電子機器の携帯化が進むにつれ、より小型、軽量化が要求されている。その要求を達成するために、機器を構成する部品、特に筐体には小型、軽量薄肉化を達成しつつ、外部から荷重がかかった場合に筐体が大きく撓んで内部部品と接触、破壊を起こさないようにする必要があるため、高強度、高剛性化が求められている。さらに製品として客先に触れる面でもあり、外観がきれいなこと(高意匠性)、使用中に傷がつきにくいこと(高耐傷性)も必須条件である。
【0003】
そこで、高強度、高剛性な成形品を得るために、一方向に連続な強化繊維を含む熱可塑性樹脂シートまたはそれを積層したシートと熱可塑性樹脂が一体化してなる複合射出成形物が提案されているが(例えば、特許文献1参照)、表面の鉛筆硬度はせいぜいH程度であり、使用中に容易に傷が付くという問題があった。さらに、例えば、表面に硬質層を設けたブロー成形品が提案されているが(例えば、特許文献2参照)、成形品自体の強度・剛性に劣るという問題があった。
【特許文献1】特開平9−272134号公報
【特許文献2】特開平10−330517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、軽量、薄肉、高強度、高剛性で、かつ高意匠性、高耐傷性に優れたものであり、これらの特性が要求される用途に適した複合成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するための本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)とを含む複合成形品(I)において、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部にまたがる表面の少なくとも一部に鉛筆硬度が2H以上の硬質層(IV)が形成されているとともに、該硬質層(IV)が形成されるシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sが0〜50μmであり、かつ表面高低差Dが0〜50μmであることを特徴とする複合成形品(I)。
【0006】
(2)樹脂部材(III)は射出成形されて形成されており、かつ樹脂流動方向の成形収縮率が0〜0.5%である前記(1)に記載の複合成形品(I)。
【0007】
(3)シート状強化部材(II)が、連続繊維を一方向にシート状に配列した繊維強化層を含む繊維強化層体である前記(1)または(2)に記載の複合成形品(I)。
【0008】
(4)繊維強化層の連続繊維が、少なくとも炭素繊維を含む前記(3)に記載の複合成形品(I)。
【0009】
(5)シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)が熱可塑性樹脂組成物(V)を介して接合されている前記(1)から(4)のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【0010】
(6)樹脂部材(III)を構成する樹脂の溶解度パラメータ(SP値)δAと熱可塑性樹脂組成物(V)を構成する樹脂の溶解度パラメータ(SP値)δBの差の絶対値(|δAーδB|)が0〜1.2である前記(5)に記載の複合成形品(I)。
【0011】
(7)シート状強化部材(II)および樹脂部材(III)のUL−94に基づく難燃性が0.1〜1.6mmのいずれかの厚みの試験片でV−1またはV−0である前記(1)から(6)のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【0012】
(8)シート状強化部材(II)および樹脂部材(III)が少なくともリン系の難燃剤を含む前記(7)に記載の複合成形品(I)。
【0013】
(9)シート状強化部材(II)がエポキシ樹脂を主成分とするマトリックス樹脂を含む前記(1)から(8)のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【0014】
(10)樹脂部材(III)が強化繊維を含む前記(1)から(9)のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【0015】
(11)強化繊維が少なくとも炭素繊維を含む前記(10)に記載の複合成形品(I)。
【0016】
(12)硬質層(IV)が光硬化型樹脂、触媒硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂のいずれかで形成される前記(1)から(11)のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【0017】
(13)電子機器用筐体である前記(1)から(12)のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【0018】
(14)ノートパソコン用筐体である前記(13)に記載の複合成形品(I)。
【0019】
(15)携帯電話用筐体である前記(13)に記載の複合成形品(I)。
【発明の効果】
【0020】
本発明の複合成形品は、軽量、薄肉、高剛性、高強度で、高意匠性、高耐傷性に優れ、これらの特性を有するパソコン、ディスプレイや携帯情報端末などの電気機器、電子機器の筐体およびその筐体を製造するのに適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明についてその一実施例に係る図面を参照しながら具体的に説明するが、下記実施例は本発明を何ら制限するものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することは、本発明の技術範囲である。
【0022】
図1は、本発明の一実施例に係る複合成形品(I)の斜視図である。
【0023】
図2は、図1に例示した複合成形品(I)のA−A断面図である。
【0024】
図3は、図2に例示した複合成形品(I)のB部詳細図である。
【0025】
図1、図2、図3において、本発明の複合成形品(I)は、角孔部1箇所と丸孔部1箇所が設けられた連続繊維を一方向にシート状に配列したシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)、および該シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)との接合部にまたがる表面の一部または全部に鉛筆硬度が2H以上の硬質層(IV)が形成された構成を有している。
【0026】
硬質層(IV)を設ける理由は、複合成形品(I)の使用中に外部からの傷付きを抑制し、高意匠性を維持することである。さらに表面が傷つけられることで強化繊維が表面に露出して切断され、強化繊維のささくれにより指などに刺さって負傷させることを抑制するといった安全性も向上させることができる。
【0027】
前記目的を達するためには、硬質層(IV)は、鉛筆硬度が2H以上のものを用いる。なお、鉛筆硬度は高いほど好ましく、硬質層(IV)を形成する母材の種類にもよるが、現状では鉛筆硬度は5H程度が技術レベルである。また、硬質層(IV)の形成方法については、特に限定はしないが、短期間で硬化が可能であり量産効率がよく、かつ硬化させる際の熱履歴が小さく、成形品への熱影響の少なくてすむことから光硬化型樹脂、触媒硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂のいずれかで形成させることが好ましい。これら光硬化型、触媒硬化型、電子線硬化型樹脂の主成分としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、不飽和アクリル樹脂等が例示でき、硬化方法により例えば光硬化型樹脂では、光重合開始剤としてクロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジル、ベンゾフェノン、メチルベンジルフォルメート、ヘキサクロロエタン等をが重合開始剤として添加される。また、触媒硬化型樹脂では、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン等がラジカル重合触媒として添加されるることで硬化を促進させる。
【0028】
硬質層(IV)が形成される複合成形品(I)の表面、特にシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部において、図3に示したように、間隙Sや表面高低差(段差)Dがあると硬質層(IV)がその部分で不均一になり、外観意匠性を大きく低下し、商品価値を損なうことになる。高意匠性を満足しつつ、硬質層(IV)による耐傷性を達成するためには、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sは0〜50μmとするものであり、好ましくは0〜30μmとするものである。また同様に表面高低差Dも0〜50μmとするものであり、好ましくは0〜30μmとするものである。
【0029】
なお、鉛筆硬度の測定はJIS K5400に記載されている方法で測定する。また、接合部の間隙Sおよび表面高低差Dは表面粗さ測定器で測定し最大高さとした。
【0030】
シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)とを一体化する方法として、予め各々別々に製造した後、接着剤、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、熱圧着などにより一体化させてもよいが、別々に部材製造する場合には上記間隙および表面高低差の精度を達成するためには極めて精度の高い金型で各部材を製造および管理する必要があるが、生産性が極めて低くなる。そのため、シート状強化部材(II)に直接射出成形により、樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)を設けることが生産性および寸法精度の観点から好ましい。ただ、射出樹脂は成形の際に収縮を伴うため、射出成形品自体は金型寸法より小さくなるため、成形収縮率の大きな樹脂は、上記間隙、および表面高低差の精度が達成できなくなる。そのため、射出成形に用いられる樹脂部材(III)は、樹脂流動方向の成形収縮率が0〜0.5%であることが好ましい。さらに好ましくは0〜0.3%である。これにより、シート状強化部材(II)に発生する反りやねじれも低減することができる。さらに、強化繊維が含まれた射出樹脂を選定することで成形収縮率がより小さくなる傾向があり、上記間隙および表面高低差を小さくでき、反りやねじれをより低減するだけでなく、複合成形品(I)全体の剛性向上も図ることができ好ましい。さらに、炭素繊維を強化繊維とすることがなお好ましい。なお、成形収縮率の測定はJIS K7152に記載されている方法で測定する。
【0031】
複合成形品(I)における樹脂部材(III)の割合は、成形収縮率の観点から必要最低限で形状機能が必要な部分のみとし、極力小さくすることが好ましい。さらにこれによりシート状強化部材(II)の割合が増すので、強度および剛性面からも有効である。
【0032】
なお、形状設計上でどうしても樹脂部材(III)を大きくする必要があるなど、間隙および表面高低差が大きくなる場合には、硬化層(IV)の形成前にサンディングを行ったり、パテなどの充填材で間隙および表面高低差を小さく調整することでも対応することができる。
【0033】
シート状強化部材(II)に孔部を設ける理由は、例えばノートパソコン用筐体ではカメラレンズ取り付け用の孔や会社名が明示されたロゴ用の台座部を設けたい要求があるためである。このような場合、一般的にはシート状強化部材(II)に孔部や切り欠き部、凹部を穿孔、切削、ザグリなどの加工により形成するが、このとき連続な強化繊維の一部を切断するため、該孔部、切り欠き部、凹部の加工面は強化繊維がささくれ、外観を著しく低下させるばかりか、成形品の製造または使用中にささくれや剥がれが生じやすくなる。最悪は指などに刺さって負傷させてしまう危険性があるため、該孔部、切り欠き部、凹部の加工面に樹脂部材(IIIa)、(IIIb)を設けることで安全性を高めることができ、さらには複雑な形状のため、強化繊維の切断による乱れの影響によりシート状強化部材(II)が充分な加工寸法精度が得られない場合でも、樹脂部材(IIIa)、(IIIb)を孔部に設けることで、寸法精度を確保することができる。樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)は一般的に金型に樹脂を流して成形されるため、寸法精度を確保することは容易である。
【0034】
なお、樹脂部材(III)、(IIIa)および(IIIb)は同一材料であってもよいが、例えば一部に弾力性や導電性を持たせたいとかといった必要機能により、それぞれ異なる樹脂で形成しても良い。さらに、樹脂部材(IIIa)のようにシート状強化部材(II)の角孔部全体に形成し、該各孔部を閉鎖しかつ会社名が明示されたロゴ用の台座部として断面が凹形状とすることもできるし、樹脂部材(IIIb)のようにシート状強化部材(II)の丸孔部の加工面部分のみを形成し、孔部形状を残すこともできる。なお、シート状強化部材(II)に形成する形状は孔部形状のみに限らず、切り欠き部形状、凹部形状でもよく、後加工を施したどのような形状でも構わない。また、該後加工部分に形成する樹脂部材(IIIa)、(IIIb)の形状は図2に示した形状のみに限らず、要求形状に合わせた任意の形状でも構わない。
【0035】
連続繊維を一方向にシート状に配列した繊維強化層を含む繊維強化層体からなるシート状強化部材(II)の製造方法としては、プレス成形、ハンドレイアップ成形法、スプレーアップ成形法、真空バック成形法、加圧成形法、オートクレーブ成形法、トランスファー成形法などの熱硬化樹脂を使用した方法、およびプレス成形、スタンピング成形法などの熱可塑性樹脂を使用した方法などが挙げられる。とりわけ、プロセス性、力学特性の観点から真空バック成形法、プレス成形法、トランスファー成形法などが好適に用いられる。
【0036】
連続繊維とは10mm以上の長さの連続した繊維が配列されている状態であって、必ずしも繊維強化層全体にわたって連続した繊維である必要はなく、途中で分断されていても特に問題はない。具体的な繊維の形態としては、フィラメント、クロス、一方向引き揃え(UD)、ブレイド、マルチフィラメントや紡績糸をドラムワインドなどで一方向に引き揃えた形態の強化材などの形態が例示できるが、プロセス面の観点から、クロス、UDが好適に使用される。また、これらの強化形態は単独で使用しても、2種以上の強化形態を併用してもよい。
【0037】
具体的な連続繊維としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維などの単独で導電性を示す繊維の他に、ガラス繊維などの絶縁性繊維や、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維、およびシリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維が例示できる。
【0038】
これらの連続繊維は単独で用いても、また、2種以上併用しても良い。中でも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維、とりわけ安価なコストを実現できる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0039】
繊維強化層体のマトリックスとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または金属などを用いることができる。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステルなどのポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンなどのポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、熱可塑性フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、さらにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系などの熱可塑エラストマーなどや、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などが挙げられる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミドなどや、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂などが挙げられる。とりわけ繊維強化層体の剛性、強度に優れる熱硬化性樹脂、なかでもエポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂が成形品の力学特性の観点から好ましい。
【0041】
さらに耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂にその他のエラストマーもしくはゴム成分を添加した樹脂であってもよい。
【0042】
また、樹脂に限らず、チタン、マグネシウム、アルミなどの金属でもよい。
【0043】
繊維強化層体を構成する連続繊維の割合は、成形性、力学特性の観点から20〜90体積%が好ましく、30〜80体積%がより好ましい。なお、体積%の測定はJIS K 7075に記載されている方法で測定する。
【0044】
また、本発明の複合成形品(I)は、その機能を最大限に発揮するために、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)は強固に接合していることが好ましく、強固に接合させるために、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)が熱可塑性樹脂組成物(V)を介して接合されていることが好ましい。さらに好ましくは、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)を接合させるプロセス時に熱可塑性樹脂組成物(V)を溶融させることであり、熱可塑性樹脂組成物(V)が接合層としてシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)の間に行き渡ることができる。
【0045】
さらに、接合性を向上させる観点から、予めシート状強化部材(II)と熱可塑性樹脂組成物(V)とを一体化成形しておくことが好ましい。
【0046】
さらに、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)の接合を高めるために互いの樹脂の溶解度パラメータ(SP値)を近づけることが好ましく、樹脂部材(III)を構成する樹脂の溶解度パラメータ(SP値)δAと熱可塑性樹脂組成物(V)を構成する樹脂の溶解度パラメータ(SP値)δBの差の絶対値(|δAーδB|)が0〜1.2であることが好ましい。より好ましくは0〜1.0である。
【0047】
溶解度パラメータδ(SP値)は、フェダーズ(Fedors)の方法により決定される25℃におけるポリマーの繰り返し単位の値を指す。該方法は下記文献1、2に記載されている。すなわち、求める化合物の構造式において、原子および原子団の蒸発エネルギーとモル体積のデータより次式により決定される。
【0048】
溶解度パラメータδ(SP値)=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
ただし、式中、ΔeiおよびΔviは、それぞれ原子または原子団の蒸発エネルギーおよびモル体積を表す。求める化合物の構造式はIR、NMR、マススペクトルなどの通常の構造分析手法を用いて決定する。
(文献1)R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14(2),147(1974)
(文献2)向井淳二及び金城徳幸著「技術者のための実学高分子」
(講談社,1981年10月1日発行)第66〜87頁
熱可塑性樹脂組成物(V)を構成する樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂がある。必要に応じ、添加剤、充填材などを含んでいても良い。充填剤あるいは添加剤としては、無機充填剤、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、発泡剤、カップリング剤などがある。
【0049】
本発明の複合成形品(I)は、その用途に対する特性として、難燃性を有していることが好ましく、シート状強化部材(II)および樹脂部材(III)のUL−94に基づく難燃性が0.1〜1.6mmのいずれかの厚みの試験片でV−1またはV−0であることが好ましい。より好ましくは0.1〜1.0mmのいずれかの厚みの試験片でV−1またはV−0である。難燃性はUL−94規格に基づき、垂直燃焼試験により評価する。
【0050】
また、難燃性を付与するためにシート状強化部材(II)および樹脂部材(III)が少なくともリン系の難燃剤を含むことが好ましい。リン系の難燃剤としては例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファフェナントレン系化合物などのリン含有化合物や赤リンが好ましく用いられる。なかでも赤リンは、難燃剤を付与する働きをするリン原子含有率が大きいため、十分な難燃効果を得るために加えるべき難燃剤の添加量が少量でよいため好ましい。
【0051】
樹脂部材(III)に使用される樹脂としては特に制限はなく、とりわけ、耐熱性、耐薬品性の観点からはPPS樹脂が、成形品外観、寸法安定性の観点からはポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂が、成形品の強度、耐衝撃性の観点からはポリアミド樹脂がより好ましく用いられる。
【0052】
さらに複合成形品(I)をより高強度および高剛性化を図るために樹脂部材(III)の樹脂として、強化繊維を含有させたものを用いても良い。強化繊維としては、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維などの単独で導電性を示す繊維の他に、ガラス繊維などの絶縁性繊維や、アラミド繊維、PBO繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維、およびシリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維が例示できる。
【0053】
これらの連続繊維は単独で用いても、また、2種以上併用しても良い。中でも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維、とりわけ安価なコストを実現できる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0054】
さらに、樹脂部材(III)を構成する樹脂には、要求される特性に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、リン系以外の難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0055】
図4は、図1に例示した複合成形品(I)の分解斜視図である。
【0056】
図4において、本発明の複合成形品(I)は連続繊維を一方向にシート状に配列した繊維強化層を4層有したシート状強化部材(II)としているが、繊維強化層を4層としている理由は、連続繊維による繊維強化層は金属とは異なり、繊維方向には強く、繊維方向以外の方向には弱いといった方向により力学的特性が異なる異方性材料であるため(一例を挙げると炭素繊維による繊維強化層は繊維方向の曲げ弾性率に対し、繊維方向と直角方向の曲げ弾性率は約1/5程度である。)、このような材料を筐体に用いる場合、ある方向では強度的に満足できていてもそのほかの方向では満足できないということが起こり得る。このため、繊維強化層の繊維方向を強度が要求される方向に適切に配列することが必要となる。
【0057】
しかし、繊維強化層は、連続繊維のマトリックスとして樹脂や金属を用いて一般的には加圧および加熱により成形を行っているため、ただ、闇雲に繊維方向を定めても各方向での成形収縮率や引っ張り強度などの違いにより繊維強化層に反りやねじれが発生してしまうという問題が生じる。例えば、強化繊維が炭素繊維でマトリックス樹脂がエポキシ樹脂の場合、繊維方向の成形収縮率は繊維方向と直交する方向と比べ1/50程度と極めて小さい。このため、異方性を抑えつつ、かつ成形時に反りやねじれなどが少なく、寸法安定性の高いシート状強化部材(II)を得るためには、繊維配向が中立層を規準とし、上下対称となるように繊維強化層を配置した方が好ましい。ここで中立層とは、積層方向に対し、中央層のことである。具体的には、積層数が(2×n)層(nは正の整数)の場合はn層目と(n+1)層目の間の層を示し、積層数が(2×n−1)層(nは正の整数)の場合は、n層目のことである。なお、繊維強化層の層数はここでは4層としているが、特に限定するものではなく、厚み厚くしたいときにはより多く積層し、逆に薄くしたい場合は、層数を減らすといった必要厚み、必要強度などによって適切に選定することが好ましい。ただ、上述した異方性を低減し、より剛性バランスのとれたシート状強化部材(II)とするためには繊維強化層を複数層積層することが好ましい。
【0058】
特にノートパソコン用筐体の場合、特に外力から筐体内部部品を保護するため、外力を受けてもよりたわまないこと、すなわち曲げ剛性を高めることが要求されるが、この場合、シート状強化部材(II)の最外層の強化繊維の方向がシート状強化部材(II)のほぼ短辺方向(1a)になるように配置することが曲げ剛性向上の観点から好ましい。例えば、長辺と短辺との比が2である長方形形状の炭素繊維強化シート状強化部材(II)を3層構成で製造する場合、1層目の強化繊維の方向を短辺方向(1a)に、2層目の強化繊維の方向を長辺方向(1b)に、3層目の強化繊維の方向を短辺方向に(1a)積層したものは、1層目の強化繊維の方向を長辺方向(1b)に、2層目の強化繊維の方向を短辺方向(1a)に、3層目の強化繊維の方向を長辺方向(1b)に積層したものと比べ、一定荷重がかかった場合のたわみは1/2程度となる。また、より軽量化を図りたい場合は繊維強化層間に軽量な樹脂部材、より好ましくは発泡樹脂部材などをサンドイッチしたサンドイッチ構成のシート状強化部材(II)を用いることもできる。材料力学上、曲げ剛性はシート状強化部材(II)の表層に近い層の剛性の影響が前述した中立層に近い層の剛性の影響に比べ極めて大きいため、表層は繊維強化層で、中立層は軽量樹脂部材で構成することでシート状強化部材(II)の軽量化を図りつつ、剛性も確保することができるためである。
【0059】
図5は、本発明の一実施例に係る射出成形金型の概略横断面図である。
【0060】
まず(a)孔部、(b)切り欠き部、および(c)凹部、からなる群より選ばれた1種以上の形状を有するシート状強化部材(II)を予め製造し、この部材を図5に示す金型内にセットした後、型締めを行い、樹脂部材(III)を射出成形することで該孔部、切り欠き部、凹部の加工面の少なくとも一部に樹脂部材(IIIa)、(IIIb)を形成して複合成形品(I)を製造する。
【0061】
図5で例示する金型は、雌金型2と雄金型3から構成されており、雄金型3には、樹脂部材(III)を射出成形するためのゲート4、角孔部に樹脂部材(IIIa)を射出成形するためのゲート4a、図示していない丸孔部に樹脂部材(IIIb)を射出成形するためのゲートおよびシート状強化部材(II)を雄型3内に固定するための吸着用孔5が設けられている。なお、シート状強化部材(II)の形状自体に穴部や凹凸形状がある場合は、雄金型3に該穴部、該凹凸部と勘合できるような図示していない位置決め部材やシート状強化部材(II)の外周の少なくとも一部を固定できるような位置決め部材6を予め設けておくことでシート状強化部材(II)を雄金型3内に固定することもできる。さらに樹脂部材(III)を型締め後、射出成形し複合成形品(I)を金型から取り出すための突き出しピン7も設けられている。
【0062】
かかる複合成形品(I)の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、自動車や航空機の電装部材、内部部品などが挙げられる。
【0063】
とりわけ、本発明の複合成形品(I)はその優れた軽量性、高強度・高剛性、高意匠性、高耐傷性を活かして、電気、電子機器用筐体や外部部材用に好適であり、さらには薄肉で広い投影面積を必要とするノート型パソコンや携帯情報端末などの筐体として好適である。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、下記実施例は本発明を何ら制限するものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することは、本発明の技術範囲である。
【0065】
(実施例1)
シート状強化部材(II)として、炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa)、炭素繊維含有率67重量%、炭素繊維目付125g/m、ベースレジン:エポキシ樹脂#2500)を4層積層し、最外層に熱可塑性樹脂組成物(V)としてポリアミド層 CM4000(東レ(株)製 3元共重合ポリアミド樹脂、ポリアミド6/66/610、融点150℃;溶解度パラメータδ(SP値)13.3)を1層積層したものをプレス成形(金型温度150℃、圧力1.5MPa、硬化時間30分、成形後の目標厚み0.5mm)して製造し、これを外形サイズ約300mm×230mmに加工後、シート状強化部材(II)内に40mm×30mmの角孔部1箇所およびφ10mmの丸孔部1箇所を設けたものを図5に示すような射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、樹脂部材(III)として長繊維ペレット TLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を射出成形して複合成形品(I)を製造したところ、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sは最大で5μmであり、表面高低差Dは最大で10μmであった。その後、硬質層(IV)として、光硬化型(紫外線硬化型)塗料(オリジン電気(株)製 M−40)を形成したところ、外観意匠性も良好であり、かつ硬質層面の鉛筆硬度は2Hであり、爪で引っ掻いてもほとんど傷が付かなかった。
【0066】
(実施例2)
シート状強化部材(II)として、炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa)、炭素繊維含有率67重量%、炭素繊維目付200g/m、ベースレジン:エポキシ樹脂#2500)を2層積層した後、ポリプロピレン発泡材 “エフセル”(登録商標)RC2010(古河電工(株)製;厚み1.0mm)を1層積層し、さらに炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa)、炭素繊維含有率67重量%、炭素繊維目付200g/m、ベースレジン:エポキシ樹脂#2500)を2層積層し、最外層に熱可塑性樹脂組成物(V)としてポリアミド層 CM4000(東レ(株)製 3元共重合ポリアミド樹脂、ポリアミド6/66/610、融点150℃;溶解度パラメータδ(SP値)13.3)を1層積層したものをプレス成形(金型温度145℃、圧力1.5MPa、硬化時間30分、成形後の目標厚み1.5mm)して製造し、これを300mm×230mmのサイズに加工後、シート状強化部材(II)内に40mm×30mmの角孔部1箇所およびφ10mmの丸孔部1箇所を設けたものを図5に示すような射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、樹脂部材(III)として長繊維ペレット TLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を射出成形して複合成形品(I)を製造したところ、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sは最大で5μmであり、表面高低差Dは最大で10μmであった。その後、硬質層(IV)として、光硬化型(紫外線硬化型)塗料(オリジン電気(株)製 M−40)を形成したところ、外観意匠性も良好であり、かつ硬質層面の鉛筆硬度は2Hであり、爪で引っ掻いてもほとんど傷が付かなかった。
【0067】
(実施例3)
シート状強化部材(II)として、炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa)、炭素繊維含有率67重量%、炭素繊維目付125g/m、ベースレジン:エポキシ樹脂#2500)を4層積層し、最外層に熱可塑性樹脂組成物(V)としてポリアミド層 CM4000(東レ(株)製 3元共重合ポリアミド樹脂、ポリアミド6/66/610、融点150℃;溶解度パラメータδ(SP値)13.3)を1層積層したものをプレス成形(金型温度150℃、圧力1.5MPa、硬化時間30分、成形後の目標厚み0.5mm)して製造し、これを外形サイズ約300mm×230mmに加工後、シート状強化部材(II)内に40mm×30mmの角孔部1箇所およびφ10mmの丸孔部1箇所を設けたものを図5に示すような射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、樹脂部材(III)として長繊維ペレット TLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を射出成形して複合成形品(I)を製造したところ、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sは最大で5μmであり、表面高低差Dは最大で10μmであった。その後、アクリル・ウレタン塗料(オリジン電気(株)製 オリジンプレート−Z−NY)を塗布・乾燥後、硬質層(IV)として、光硬化型(紫外線硬化型)塗料(オリジン電気(株)製 M−40)を形成したところ、外観意匠性も良好であり、かつ硬質層面の鉛筆硬度は2Hであり、爪で引っ掻いてもほとんど傷が付かなかった。
【0068】
(実施例4)
シート状強化部材(II)として、炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa)、炭素繊維含有率67重量%、炭素繊維目付125g/m、ベースレジン:エポキシ樹脂#2500)を4層積層したものをプレス成形(金型温度150℃、圧力1.5MPa、硬化時間30分、成形後の目標厚み0.5mm)して製造し、これを外形サイズ約300mm×230mmに加工後、シート状強化部材(II)内に40mm×30mmの角孔部1箇所およびφ10mmの丸孔部1箇所を設けたものを製造した。また樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)として長繊維ペレット TLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を射出成形して製造した後、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)を接着剤にて一体化したところ、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の隙間Sが最大で70μm、表面高低差Dが最大で100μmであったため、硬質層(IV)の形成面に不飽和ポリエステルパテ((株)ソーラー製 LP960)を塗布乾燥後、サンドペーパー(#1000)にてサンディングし、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)との接合部の間隙Sおよび表面高低差Dを50μm以下になるようにし、アクリル・ウレタン塗料(オリジン電気(株)製 オリジンプレート−Z−NY)を塗布乾燥後、硬質層(IV)として、光硬化型(紫外線硬化型)塗料(オリジン電気(株)製 M−40)を形成したところ、外観意匠性も良好であり、かつ硬質層面の鉛筆硬度は2Hであり、爪で引っ掻いてもほとんど傷が付かなかった。
【0069】
(比較例1)
硬質層(IV)を形成しない以外は実施例1と同様にして複合成形品(I)を製造したところ、表面の鉛筆硬度はHBであり、爪で引っ掻くことで容易に傷が付き、高意匠性を維持することができなかった。
【0070】
(比較例2)
シート状強化部材(II)として、炭素繊維一方向プリプレグ(UD PP)P3052S(東レ(株)製 炭素繊維T700S(強度4900MPa、弾性率230GPa)、炭素繊維含有率67重量%、炭素繊維目付125g/m、ベースレジン:エポキシ樹脂#2500)を4層積層したものをプレス成形(金型温度150℃、圧力1.5MPa、硬化時間30分、成形後の目標厚み0.5mm)して製造し、これを外形サイズ約300mm×230mmに加工後、シート状強化部材(II)内に40mm×30mmの角孔部1箇所およびφ10mmの丸孔部1箇所を設けたものを製造した。また樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)として長繊維ペレット TLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を射出成形して製造した後、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)、(IIIa)、(IIIb)を接着剤にて一体化したところ、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の隙間Sが最大で70μm、表面高低差Dが最大で100μmであった。その後、アクリル・ウレタン塗料(オリジン電気(株)製 オリジンプレート−Z−NY)を塗布乾燥後、硬質層(IV)として、光硬化型(紫外線硬化型)塗料(オリジン電気(株)製 M−40)を形成したところ、硬質面層の鉛筆硬度は2Hであったが、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部のスジが見える外観不良となり、製品としては不十分であった。
【0071】
実施例1〜4、比較例1、2より以下のことが明らかになった。
【0072】
実施例1〜4の複合成形品(I)は軽量、高剛性・高剛性である上、極めて高い意匠性を満足し、かつ高い耐傷性を有し、電気・電子機器の筐体として好適であった。
【0073】
一方、比較例1の複合成形品(I)では、表面に容易に傷が付いてしまい、高意匠性を維持することができなかった。また、比較例2ではシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部にスジが見え、製品としては不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の複合成形品(I)は、ノート型パソコンや携帯端末などの電気・電子機器筐体用途に限らず、その優れた軽量性、高強度・高剛性、高意匠性、安全性を活かして、スポイラーなどの自動車部品用途や担架などの医療部品用途、また楽器運搬用ケースなどにも応用することができるが、その応用範囲は、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施例に係る複合成形品(I)の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係る複合成形品(I)のA−A断面図である。
【図3】本発明の一実施例に係る複合成形品(I)のB部詳細図である。
【図4】本発明の一実施例に係る複合成形品(I)の分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施例に係る複合成形品(I)を成形するための射出成形金型の概要横断面図ある。
【符号の説明】
【0076】
I :複合成形品
II :シート状強化部材
III :樹脂部材
IIIa:樹脂部材(角孔部)
IIIb:樹脂部材(丸孔部)
IV :硬質層
V :熱可塑製樹脂塑性物
1a :繊維強化層の繊維方向(短辺方向)
1b :繊維強化層の繊維方向(長辺方向)
2 :雌型
3 :雄型
4 :ゲート
4a :ゲート(角孔部形成用)
5 :吸着用孔
6 :位置決め部材
7 :突き出しピン
S: 接合部の間隙
D: 接合部の表面高低差(段差)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)とを含む複合成形品(I)において、シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部にまたがる表面の少なくとも一部に鉛筆硬度が2H以上の硬質層(IV)が形成されているとともに、該硬質層(IV)が形成されるシート状強化部材(II)と樹脂部材(III)との接合部の間隙Sが0〜50μmであり、かつ表面高低差Dが0〜50μmであることを特徴とする複合成形品(I)。
【請求項2】
樹脂部材(III)は射出成形されて形成されており、かつ樹脂流動方向の成形収縮率が0〜0.5%である請求項1に記載の複合成形品(I)。
【請求項3】
シート状強化部材(II)が、連続繊維を一方向にシート状に配列した繊維強化層を含む繊維強化層体である請求項1または2に記載の複合成形品(I)。
【請求項4】
繊維強化層の連続繊維が、少なくとも炭素繊維を含む請求項3に記載の複合成形品(I)。
【請求項5】
シート状強化部材(II)と樹脂部材(III)が熱可塑性樹脂組成物(V)を介して接合されている請求項1から4のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【請求項6】
樹脂部材(III)を構成する樹脂の溶解度パラメータ(SP値)δAと熱可塑性樹脂組成物(V)を構成する樹脂の溶解度パラメータ(SP値)δBの差の絶対値(|δAーδB|)が0〜1.2である請求項5に記載の複合成形品(I)。
【請求項7】
シート状強化部材(II)および樹脂部材(III)のUL−94に基づく難燃性が0.1〜1.6mmのいずれかの厚みの試験片でV−1またはV−0である請求項1から6のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【請求項8】
シート状強化部材(II)および樹脂部材(III)が少なくともリン系の難燃剤を含む請求項7に記載の複合成形品(I)。
【請求項9】
シート状強化部材(II)がエポキシ樹脂を主成分とするマトリックス樹脂を含む請求項1から8のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【請求項10】
樹脂部材(III)が強化繊維を含む請求項1から9のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【請求項11】
強化繊維が少なくとも炭素繊維を含む請求項10に記載の複合成形品(I)。
【請求項12】
硬質層(IV)が光硬化型樹脂、触媒硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂のいずれかで形成される請求項1から11のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【請求項13】
電子機器用筐体である請求項1から12のいずれかに記載の複合成形品(I)。
【請求項14】
ノートパソコン用筐体である請求項13に記載の複合成形品(I)。
【請求項15】
携帯電話用筐体である請求項13に記載の複合成形品(I)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−114525(P2008−114525A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301287(P2006−301287)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】