説明

複合熱可塑性樹脂めっき成形品

【課題】従来にない卓越した外観を有し、めっき膜の密着性及び耐サーマルサイクル性にも優れた複合熱可塑性樹脂めっき成形品を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と無機質充填材とが配合された成形材料の射出成形品表面にめっき処理を施してなる複合熱可塑性樹脂めっき成形品。該射出成形品は、金型の表面温度を前記熱可塑性樹脂の熱変形温度以上に加熱した状態で前記成形材料を射出し、射出が完了した後、前記金型表面を冷却して成形品を取り出すヒートサイクル法により得られた成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と無機質充填材とが配合された成形材料の射出成形品表面にめっき処理を施してなる複合熱可塑性樹脂めっき成形品に係り、特に、従来にない卓越した外観を有し、めっき膜の密着性及び耐サーマルサイクル性にも優れた複合熱可塑性樹脂めっき成形品に関する。
本発明の複合熱可塑性樹脂めっき成形品は、高外観、高品質を示し、電気、電子部品、携帯電話、家電機器、その他自動車内外装品等にも好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、OA分野におけるパソコン、テレビ、オーディオ機器を始め、携帯電話などのハウジング、又は車両分野におけるラジエターグリル等は、デザイン上、更には軽量化のために薄肉化が進んだ結果、その材料には良好な成形性と高い剛性が求められるようになってきている。また、高級感を高めるために、これらを構成する樹脂成形品にめっき処理を施すことにより金属調の外観を付与することが求められることも多くあり、このためにめっき処理に適した樹脂成形品が求められている。即ち、通常のめっき処理により実用上十分なめっき外観と、めっき膜密着強度及び耐サーマルサイクル性を示す樹脂成形品が求められている。
【0003】
樹脂成形品のめっき適応性が悪く、めっき不良となると、不良品から樹脂を回収するためには、めっき膜の剥離などに多大なエネルギーを必要とするため、再利用不可能な産業廃棄物となることが多い。このため、めっき不良を低減し、産業廃棄物の削減、更にはエネルギーの無駄を無くすためにも、めっき適応性に優れた樹脂成形品の開発が望まれる。
【0004】
従来、樹脂成形品に剛性を付与する方法としては、成形原料の樹脂組成物にガラス繊維等の無機充填剤を添加して補強する手法があるが、この方法では、得られる成形品の表面に繊維状充填剤が露出するために、表面の平滑性が悪いという問題がある。しかも、従来の樹脂成形品に通常のめっき処理を施しても、実用上満足なめっき外観とめっき膜の密着強度及び耐サーマルサイクル性を示すめっき成形品は得られていない。
【0005】
成形品表面の繊維状充填材の露出を回避する方法として、特許文献1には射出成形時の金型温度を樹脂の軟化点に応じて制御する方法が提案されている。また、特許文献2には、金型を交互に加熱冷却することができる合成樹脂成形用金型が提案され、この特許文献2にはこのような金型により、金型温度を交互に加熱冷却して成形することにより、ガラス繊維等の露出を防止できると記載されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2のいずれにも、得られた樹脂成形品にめっき処理を施すことについては検討されておらず、従来において、剛性とめっき適応性、即ち、通常のめっき処理により実用上十分なめっき外観と、めっき膜密着強度及び耐サーマルサイクル性を示す熱可塑性樹脂成形品は提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2004−130528号公報
【特許文献2】特開2001−18229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、従来にない卓越した外観を有し、めっき膜の密着性及び耐サーマルサイクル性にも優れた複合熱可塑性樹脂めっき成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の複合熱可塑性樹脂めっき成形品は、熱可塑性樹脂と無機質充填材とが配合された成形材料の射出成形品表面にめっき処理を施してなる複合熱可塑性樹脂めっき成形品において、該射出成形品は、金型の表面温度を前記熱可塑性樹脂の熱変形温度以上に加熱した状態で前記成形材料を射出し、射出が完了した後、前記金型表面を冷却して成形品を取り出すヒートサイクル法により得られた成形品であることを特徴とする。
【0009】
なお、本発明において、めっき処理は、化学めっき及び/又は電気めっきによるめっき膜の形成に限らず、真空蒸着等による金属薄膜の形成を含む、広義のめっき処理を指す。
【0010】
請求項2の複合熱可塑性樹脂めっき成形品は、請求項1において、前記成形材料が、スチレン系樹脂、或いはスチレン系樹脂にポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を添加してなるアロイ樹脂100質量部に対して、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、金属繊維及び酸化亜鉛ウィスカーよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機質充填材を1〜50質量部配合してなる複合熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来では成し得なかった複合熱可塑性樹脂めっき成形品外観の向上が達成され、更にめっき膜の密着強度と、耐サーマルサイクル性の改善も可能となる。即ち、金型のキャビティ表面が交互に加熱冷却される射出成形金型を用いて、キャビティ表面温度を繰り返し上下させるヒートサイクル成形法により得られた射出成形品であれば、それ自体優れた表面外観を有し、この射出成形品にめっき処理を施すことにより、優れためっき外観とめっき膜の密着強度及び耐サーマルサイクル性を得ることができる。
【0012】
従って、本発明によれば、これまで不可能であった薄型高剛性で高品位のめっき外観及びめっき性能を有するめっき成形品を提供することができ、意匠性の向上による高級感の追求、めっき不良の低減による産業廃棄物の削減、更には省エネルギー化が図れ、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の複合熱可塑性樹脂めっき成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
[複合熱可塑性樹脂組成物]
まず、本発明で用いる成形材料である複合熱可塑性樹脂組成物について説明する。
本発明に係る複合熱可塑性樹脂めっき成形品は、好ましくは、スチレン系樹脂、或いはスチレン系樹脂にポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を添加してなるアロイ樹脂100質量部に対して、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、金属繊維及び酸化亜鉛ウィスカーよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機質充填材を1〜50質量部好ましくは5〜30質量部配合してなるものである。
【0015】
〈スチレン系樹脂〉
本発明で用いるスチレン系樹脂としては、一般(GP)ポリスチレン、耐衝撃性(HI)ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体であるAS樹脂、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体からなるABS樹脂、前記ABS樹脂のスチレンの一部又は大部分をα−メチルスチレン又はマレイミド等に置き換えた耐熱ABS樹脂、前記ABS樹脂のブタジエンをエチレン−プロピレン系ゴムやポリブチルアクリレート等に置き換えた(耐熱)AES樹脂、(耐熱)AAS樹脂等のABS系樹脂、前記ABS樹脂のブタジエンをシリコンゴム、シリコン−アクリル複合ゴムに置き換えた(耐熱)ABS系樹脂等が挙げられる。これらのスチレン系樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
これらスチレン系樹脂の中でもABS樹脂及びABS系樹脂が、優れためっき密着性を有し、さらにめっき外観にも優れる点で特に好ましい。
【0017】
ABS樹脂又はABS系樹脂の製造法としては特に限定されるものではないが、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等が適用できる。特に、ゴム粒子の製造方法は、乳化重合により所定の粒子径になるまで行う重合も可能であるが、小粒子を機械凝集や化学凝集などによって肥大化し次工程のグラフト重合に使用する方法が、得られる成形品の耐衝撃性の点から特に好ましく用いられる。グラフト重合では、ゴムの存在下に、ビニル系単量体をグラフト共重合させ、酸又は塩析凝固し乾燥して製造される。
【0018】
なお、必要によりビニル系単量体同士を共重合させてなる硬質共重合体を、複合熱可塑性樹脂組成物の製造時にブレンドすることも可能であり、これらを用いることにより、優れためっき密着性やめっき外観を得ることができる。
【0019】
上記スチレン系樹脂を用いた場合、ヒートサイクル成形法における成形性及び成形後におけるめっき等の加飾性の観点から好ましい。
【0020】
〈アロイ樹脂〉
本発明において使用されるアロイ樹脂は、上述のスチレン系樹脂にポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂の1種又は2種以上を添加してなるものである。
【0021】
なお、アロイ樹脂中に含まれるスチレン系樹脂の割合は、5質量%以上、特に30〜70質量%の範囲であることが好ましい。アロイ樹脂中のスチレン系樹脂の割合がこの範囲よりも少ないとめっき、塗装性などのスチレン系樹脂のもつ二次加工性の特徴を活かすことが難しく、多いと他の樹脂をアロイ化することによる効果を十分に得ることができない。
【0022】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシジアリールアルカンから得られ、任意に枝別れしていても良い。このポリカーボネート樹脂は公知の方法により製造されるものであり、一般にジヒドロキシ又はポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることにより製造される。適当なジヒドロキシジアリールアルカンは、ヒドロキシ基に関しオルトの位置にアルキル基、塩素原子又は臭素原子を有するものである。ジヒドロキシジアリールアルカンの好ましい具体例としては、4,4−ジヒドロキシ2,2−ジフェニルプロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼンなどが挙げられる。また、分岐したポリカーボネートは、例えばジヒドロキシ化合物の一部、例えば0.2〜2モル%をポリヒドロキシで置換することにより製造される。ポリヒドロキシ化合物の具体例としては、フロログリシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリー(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゼンなどが挙げられる。
【0023】
これらのポリカーボネート樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0024】
スチレン系樹脂にポリカーボネート樹脂を最適組成によりアロイ化することにより、衝撃強度、耐熱性とめっき、塗装性の向上という相乗効果が奏される。
【0025】
(ナイロン樹脂)
本発明で用いるナイロン樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン116、ナイロン4、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6I、ナイロン6/66、ナイロン6T/6I、ナイロン6/6T、ナイロン66/6T、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ナイロン11T、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド、ポリアミドエラストマー等が挙げられる(ただし、Iはイソフタル酸成分、Tはテレフタル酸成分を示す。)。
【0026】
これらのナイロン樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
本発明においては、これらのうち、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6T/6I、ナイロン6/6T、ナイロン66/6Tが特に好ましく用いられる。
【0028】
スチレン系樹脂にナイロン樹脂を適正組成によりアロイ化することにより、耐薬品性、耐熱性及びめっき、塗装性の向上という相乗効果が奏される。
【0029】
(ポリエステル樹脂)
本発明で用いるポリエステル樹脂は、主として炭素数8〜22個の芳香族ジカルボン酸と炭素数2〜22個のアルキレングリコールあるいはシクロアルキレングリコールからなるものを50重量%以上含むものであり、例えばアジピン酸やセバチン酸などを構成単位として含んでいてもよく、またポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールを構成単位として含んでもよい。特に好ましいポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0030】
これらのポリエステル樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
スチレン系樹脂にポリエステル樹脂を適正組成によりアロイ化することにより、耐薬品性、衝撃強度及びめっき、塗装性の向上という相乗効果が奏される。
【0032】
〈無機質充填材〉
本発明に用いられる無機質充填材としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、中空ガラス、炭素繊維、タルク、マイカ、金属繊維、ワラストナイト、カオリン、硫酸バリウム、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化亜鉛ウィスカー、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウィスカー、ロックフィラー等が挙げられ、好ましくは耐衝撃性の改善効果の面からガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、金属繊維、酸化亜鉛ウィスカー等が挙げられ、これらの1種を単独で或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
これらの無機質充填材のうち、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状の大きさとしては、5〜60μmの繊維径と30μm以上の繊維長を有するものが好ましい。また、粒状のものは平均粒径0.05〜2μmのものが好ましい。
【0034】
無機質充填材は、熱可塑性樹脂100質量部、好ましくは前述のスチレン系樹脂又はアロイ樹脂100質量部に対し、1〜50質量部、好ましくは5〜30質量部の範囲で配合される。この無機質充填材の配合量が50質量部を超えると、得られるめっき成形品の衝撃強度が低下し、また、外観も損なわれるため好ましくない。また、1質量部未満では、十分な剛性が得られず、得られるめっき成形品の耐サーマルサイクル性も劣るものとなる。
【0035】
[その他の成分]
本発明においては、成形材料である複合熱可塑性樹脂組成物に必要に応じて難燃剤を使用しても良い。
本発明で使用される難燃剤としては、ハロゲン含有化合物、リン含有化合物、窒素含有化合物、金属水酸化物などが挙げられる。
【0036】
ハロゲン含有化合物としては、特に制限はないが、臭素系難燃剤が好ましく利用でき、例えば、テトラブロモビスフェノールA及びその誘導体、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモ無水フタル酸、ヘキサブロモベンゼン、臭素化ジフェニルエーテル、臭素化ポリカーボネートオリゴマー及びその末端変性品、臭素化エポキシ樹脂(ビスフェノールAタイプ、ノボラックタイプ)及びその末端変性品、臭素化フェノキシ樹脂、トリスブロモフェニルフォスフェート、臭素化ポリスチレン、臭素化フェニレンエーテルオリゴマー等の1種又は2種以上が好ましく用いられる。
【0037】
リン含有化合物としては、有機系リン含有化合物、赤リン、ホスファゼン系化合物、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。有機系リン酸含有化合物としては、トリフェニルホスフェートに代表されるホスフェート類、トリフェニルホスファイトに代表されるホスファイト類などが挙げられる。ホスフェート類としては、トリフェニルホスフェート、トリフェニルチオホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリキシレニルチオホスフェート、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)などが好ましい。特に金型汚染を防ぐために単分子型ホスフェート類よりもオリゴマー型のホスフェート類が好ましい。
【0038】
本発明に係る複合熱可塑性樹脂組成物には、難燃性を更に向上させるために難燃助剤としてアンチモン化合物を添加しても良い。アンチモン化合物としては公知のものが使用でき、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ソーダ等のアンチモン酸塩等の1種又は2種以上が挙げられる。これらのアンチモン化合物としては、表面に処理を施したものも工業的に入手可能であり、表面処理を施したものを使用しても良い。
【0039】
本発明に係る複合熱可塑性樹脂組成物には、更に樹脂組成物の難燃性を向上させるために、ポリテトラフルオロエチレン、塩素化ポリエチレン、シリコーンオイルから選ばれる少なくとも1種を配合しても良い。
【0040】
本発明に係る複合熱可塑性樹脂組成物には、更に耐候性を向上させるためにベンゾトリアゾール系化合物及び/又はヒンダードアミン系化合物を配合しても良い。
【0041】
[複合熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る複合熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは前記スチレン系樹脂又はアロイ樹脂、無機質充填材、及び必要に応じて難燃剤、更に必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲内で添加される酸化防止剤、滑剤、加工助剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、上記以外の難燃剤、顔料等の添加剤と共に混合し、例えば、押し出し機、バンバリーミキサー、混練ロール等にて混練してペレット化することにより、容易に製造することができる。本発明に係る複合熱可塑性樹脂組成物はこのような方法により容易に溶融混練することができるが、無機充填剤を良好に分散混練する方法として、押し出し機を使用することが好ましい。
【0042】
[ヒートサイクル成形]
次に、上述のような複合熱可塑性樹脂組成物を成形材料として用い、ヒートサイクル成形法により射出成形して射出成形品を得る方法について説明する。
【0043】
本発明においては、金型のキャビティ表面が交互に加熱冷却される射出成形金型を用いて、金型のキャビティ表面温度を繰り返し上下させるヒートサイクル成形法を適用して複合熱可塑性樹脂組成物の射出成形を行う。ヒートサイクル成形法については特に制限はないが、例えば前述の特許文献2に示されるような、蒸気と水の組み合わせによりキャビティ表面を短時間で加熱冷却するヒートサイクル射出成形方法を適用するのが好ましい。
【0044】
ヒートサイクル成形法による成形は、具体的には、例えば、
(1) 金型のキャビティの表面温度を樹脂成分の熱変形温度以上に加熱しておき、成形材料を射出充填する。
(2) 保圧工程を経た後、金型を冷却して成形品を取り出しても変形しない温度以下に冷却して成形品を取り出す。
の手順で行うことができる。
【0045】
このようにして、金型のキャビティの表面温度を樹脂成分の熱変形温度以上に加熱しておいて成形材料を充填することにより、成形品の表面に無機質充填材の存在しないスキン層が形成され、このスキン層の存在で、めっきによる良好な外観とめっき密着性を得ることができる。金型を加熱しない通常の射出成形や、加熱しても樹脂成分の熱変形温度未満にしか加熱しない成形方法では、無機質充填材の存在しないスキン層が形成されず、後の工程でめっきを行っても良好な外観、めっき密着強度が得られない。
【0046】
[めっき処理]
本発明では上述のようなヒートサイクル成形法により得られた射出成形品をめっき処理することにより、通常の成形法では到達できない高品位のめっき外観、密着強度、耐サーマルサイクル性を示す複合熱可塑性樹脂めっき成形品を得ることができる。
このめっき処理は、後述の実施例に示すように常法に従って行うことができる。
【0047】
めっき処理により形成されるめっき膜の厚さについては特に制限はないが、通常5〜100μm程度である。この膜厚が薄過ぎると耐腐食性、耐サーマルサイクル性に劣り、厚過ぎるとめっき工程が煩雑になり長時間を有し生産工程上、不利である。
【0048】
また、化学めっき及び/又は電気めっきの代りに真空蒸着などの技術で金属皮膜を形成してもよく、その場合もめっき処理と同様な効果が得られる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた成形原料は次の通りである。
スチレン系樹脂:UMG ABS(株)製ABS樹脂(めっきグレード)「3001
M」
ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ポリカーボネー
ト樹脂「S−3000」
ナイロン樹脂:宇部興産(株)製ナイロン6樹脂「1013B」
ポリエステル樹脂:クラレ(株)製ポリエチレンテレフタレート樹脂「KS750R
C」
ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維「ECS03T−34」
(繊維径13μm,平均繊維長=3mm)
カーボン繊維:東邦レーヨン社製カーボン繊維「ベスファイト」
(繊維径=7μm、平均繊維長=6mm)
タルク:日本タルク(株)製タルク「MICRO ACE ミクロエースP−3」
(平均粒子径(測定方法;遠心沈降法)=1.8μm)
【0051】
実施例1〜9、比較例1
[複合熱可塑性樹脂組成物の製造]
表1に示す配合で各種樹脂及び無機質充填材を押し出し機で溶融混練することにより複合熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0052】
[射出成形]
得られた複合熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、下記の(1)の方法でヒートサイクル成形を行い図1に示すような箱型成形品1を得た。
ただし、比較例1では下記の(2)の一般的な方法で射出成形を行った。
(1)ヒートサイクル成形
複合熱可塑性樹脂組成物のペレットを小野産業(株)製「高速ヒートサイクル成形ユニット」を取り付けた住友重機工業(株)製「SG150−SYCAPM IV成形機」を使用し、樹脂温度は、使用した材料に応じて表1の如く適宜変更して最適設定温度にて射出し、金型への樹脂充填時の金型温度は110℃、冷却時の金型温度は40℃としてヒートサイクル射出成形を行った。なお、金型温度の調整には、加熱媒体としてスチームを使用し、冷却媒体として水を使用した。
(2)一般成形
複合熱可塑性樹脂組成物のペレットを、東芝機械(株)製「IS55FP−1.5A成形機」を使用して金型温度60℃、樹脂温度は使用した材料に応じて表1に示す最適設定温度として射出成形した。
【0053】
[めっき処理]
得られた成形品について、次の(1)〜(9)の手順で通常のめっき処理を行い、めっき成形品を得た。
(1)脱脂工程
CRPクリーナー40g/リットルにより50℃、5分間処理し、純水により3回洗浄した。
(2)エッチング工程
無水クロム酸400g/リットル、3価クロム30g/リットル、硫酸380g/リットルの混合液に68℃で15分間浸し、その後純水にて洗浄した。
(3)中和工程
35%塩酸50ml/リットル、CRPレデュサー10ml/リットルの混合液に25℃で2分間浸け、その後純水にて洗浄した。
(4)プレディップ工程
35%塩酸200ml/リットルに25℃で1分間浸けた。
(5)触媒化工程
35%塩酸300ml/リットル、CRPキャタリスト60ml/リットルの混合液に45℃で7分間浸け、その後純水にて洗浄した。
(6)導体化工程
CRPアクセレーターA200ml/リットル、CRPアクセレーターB200ml/リットルの混合液に50℃で7分間浸け、その後純水にて洗浄した。
(7)電気銅めっき工程
(6)の工程を終了したサンプルを、硫酸銅200g/リットル、硫酸50g/リットル、塩素イオン70ml/リットル、CRPカッパーMU5ml/リットル、CRPカッパーA0.5ml/リットルの混合液に浸け、25℃、電流密度6A/dmで、30μmの膜厚の銅めっき膜を形成させた。なお、ピーリング試験用サンプルについては60μmの膜厚になるまで処理した。
(8)電気ニッケルめっき工程
(7)の工程を終了したサンプルを、硫酸ニッケル280g/リットル、塩化ニッケル50g/リットル、硼酸50g/リットル、CRPカッパーMU5ml/リットル、CRPカッパーA0.5ml/リットルの混合液に浸け、25℃、電流密度6A/dmで10μmの膜厚のニッケルめっき膜を形成させた。
(9)電気クロムめっき工程
(8)の工程を終了したサンプルを、無水クロム酸200g/リットル、硫酸3g/リットルの混液に浸け、25℃、電流密度30A/dmで0.25μmの膜厚のクロムめっき膜を形成させた。
【0054】
[評価]
得られためっき成形品について、以下の条件及び方法で諸特性を試験し、結果を表1に示した。
【0055】
〈外観〉
電気クロムめっき工程まで行っためっき成形品を目視にて観察し、下記判定基準に基づき判定した。
○:光沢部分は高度な表面光沢があり、しぼ部分(しぼ面1B部分)は均一な艶消し
状態にある。
△:光沢部分に若干の曇りがあるか、しぼ部分に若干のむらがある。
×:表面光沢が無く、しぼむら、ウエルド部のむらが発生。また、無機充填材が突出
している。
【0056】
〈ピーリング強度〉
電気銅めっき工程まで終了させた成形品について、図1の1A部に示すように4cm×10cmで試験片を切り出し、めっき被膜を1cm幅で切削した後、この試験片から90°の角度にてめっき被膜を引張って、剥離強度を測定した。
製品に使用する際の目安として、この剥離強度は1.0Kg/cm以上の値を示せば実用上、問題無いと判断する。
【0057】
〈耐サーマルサイクル性〉
電気クロムめっき工程まで行っためっき成形品について、−40℃×2時間→23℃×30分→90℃×2時間→23℃×30分を1サイクルとして10サイクルの試験を行い、めっき被膜のふくれ及びクラックの有無を観察し、下記基準で評価した。
○:ふくれ、クラックが全く発生せず。
△:ふくれ、クラックのどちらかが僅かに発生。
×:ふくれ、クラックが激しく発生。
【0058】
【表1】

【0059】
[考察]
表1から次のことが明らかである。
【0060】
〈実施例1〜9の説明〉
ヒートサイクル成形を行った本発明に係る実施例1〜9のめっき成形品、特に本発明に好適な複合熱可塑性樹脂組成物を用いた実施例1〜7のめっき成形品は、表面外観に優れ、めっきピーリング強度及び耐サーマルサイクル性に優れている。従って、本発明によれば、剛性強化のためのガラス繊維等の無機質充填材が配合されているにも拘らず、従来では無し得なかった、極めて高度なめっき外観及び性能を得ることができることが分かる。
【0061】
〈比較例1の説明〉
ヒートサイクル成形を行っていない比較例1では、めっき外観は著しく悪化し、めっき施能も低いことが分かる。
【0062】
なお、実施例8においては、ガラス繊維を本発明の好適範囲外の1質量部添加としたため、めっき外観は良好であるが、耐サーマルサイクル性が若干低下する。また、実施例9においては、ガラス繊維を本発明の好適範囲外の40質量部添加したため、めっき外観が低下しめっきピーリング強度も低下傾向となる。
【0063】
これらの結果から、本発明によれば、従来では成し得なかっためっき外観、めっき性能の改良が達成され、この結果、剛性の高い薄肉のめっき成形品であって、良好なめっき成形品を得ることが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の複合熱可塑性樹脂めっき成形品は、車輛分野として、ドアミラー、ラジエターグリル、ガーニッシュ、リアガーニッシュ、内外装ピラー類等、家電分野として、液晶テレビ、ブラウン管テレビ、プラズマテレビ等の画面枠、液晶テレビのチルト台(スタンド)、携帯及び固定電話のハウジング、ゲーム機ハウジング等、事務機器分野として、パソコン、プリンターのハウジングや携帯情報端末のハウジング等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1〜9及び比較例1で成形した射出成形品を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 箱型成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機質充填材とが配合された成形材料の射出成形品表面にめっき処理を施してなる複合熱可塑性樹脂めっき成形品において、該射出成形品は、金型の表面温度を前記熱可塑性樹脂の熱変形温度以上に加熱した状態で前記成形材料を射出し、射出が完了した後、前記金型表面を冷却して成形品を取り出すヒートサイクル法により得られた成形品であることを特徴とする複合熱可塑性樹脂めっき成形品。
【請求項2】
請求項1において、前記成形材料が、スチレン系樹脂、或いはスチレン系樹脂にポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を添加してなるアロイ樹脂100質量部に対して、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、金属繊維及び酸化亜鉛ウィスカーよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機質充填材を1〜50質量部配合してなる複合熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする複合熱可塑性樹脂めっき成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−240085(P2006−240085A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59194(P2005−59194)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000185868)小野産業株式会社 (14)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】