説明

複合荷電粒子ビーム装置、それを用いた試料加工方法及び透過電子顕微鏡用試料作製方法

【課題】 電子ビーム照射で変質しやすい試料を、操作性やスループットを損なわずに正確にイオンビームエッチング加工する手段を提供する。
【解決手段】 イオンビーム鏡筒1と電子ビーム鏡筒2を有し、イオンビームによるエッチング加工中の試料の状態を電子ビームによる観察あるいは計測可能な装置において、第一に加工部分全体を含む電子ビームによる二次信号による観察像を取得し、第二に前記観察像の中で照射可能領域7と照射禁止領域8を設定し、第三に前記照射可能領域7のみに電子ビーム照射を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の断面観察をするためのあるいは透過電子顕微鏡(TEM)用の薄片化試料を作製するための複合荷電粒子ビーム装置、及びそれを用いた試料加工方法及び透過電子顕微鏡用試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム装置は、高精度な微細加工を行うことができるため、TEM試料薄片を始め様々な局所微細加工に応用されている。このような微細加工を行う際には、特許文献1に開示されているように、走査型電子顕微鏡と集束イオンビーム装置の複合装置を用いて、試料を観察しながら微細加工を行う方法が提案されている。試料の状態を把握しながら高精度な加工を確実に行うことができるという特徴があるため、この方法は広く行われている。
【0003】
しかしながら、半導体に用いられている低誘電率材料など電子ビームの照射で収縮など変質しやすい試料も存在しており、このような試料では走査型電子顕微鏡で観察しながら集束イオンビーム加工を行う方法の適用は難しい。電子ビーム照射で変質しやすい材料に対しても、高精度な微細加工には多くの需要があり実現が望まれている。一つの解決策として非特許文献1に述べられているように、試料を冷却しながら加工を行う方法も提案されているが、試料ステージの動作に制限がある、試料の冷却と常温に戻す過程が含まれるため処理に時間がかかるといった問題点がある。
【特許文献1】特許公報第2811073号
【非特許文献1】鈴木,"Dual Beam FIBによるTEM試料作製応用",第21回分析電子顕微鏡討論会予稿集,p69-72,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来技術の問題点を考慮し、電子ビーム照射で変質しやすい試料を、操作性やスループットを損なわずに正確にイオンビームエッチング加工する手段を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の第一の態様は、
試料をイオンビームでエッチング加工するイオンビーム鏡筒と、
試料上の任意の領域に電子ビームを照射できる電子ビーム鏡筒と、
電子ビーム照射による二次信号を検出可能な二次信号検出器と、
電子ビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化するデータ処理部と、
前記データ処理部からの画像信号に基づき前記試料上の任意の領域の画像を表示させる画像表示部と、
入力機器により指定された照射可能領域または照射禁止領域を電子ビーム照射位置データとして設定する照射位置設定手段と、
該照射位置設定手段からの電子ビーム照射位置データに基づき電子ビーム照射位置を制御する照射位置制御手段とからなり、
該照射位置設定手段は、前記指定された領域が照射可能領域か照射禁止領域であるかに応じて電子ビーム照射位置データを更新し、よって前記照射位置制御手段は前記照射可能領域のみに電子ビーム照射を制限することを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置である。
【0006】
上記課題を解決するための本発明の第二の態様は、
前記第一の態様において、
前記照射位置設定手段は、予め得たイオンビームによりエッチング加工部分全体を含む画像のうちから、入力機器により指定される照射可能領域と照射禁止領域により電子ビーム照射位置データを更新することを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の第三の態様は、
前記第一の態様において、
前記照射位置設定手段は、イオンビームによる加工中において、加工対象領域から離れた位置の画像と、試料加工対象部の既知情報とから電子線照射可能領域を推定することを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の第四の態様は、
前記第一の態様において、
前記二次信号検出器はイオンビーム照射による二次信号を検出可能であり、前記データ処理装置はイオンビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化し、前記照射位置設定手段は、イオンビームによる観察像からイオンビームと電子ビームの相対的な位置関係を元に電子線照射可能領域と電子線照射禁止領域を設定することを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の第五の態様は、
上記いずれかの複合荷電粒子ビーム装置を用いて、
前記照射可能領域の観察像中に位置認識用目標物を設定し
前記目標物の移動量に基づき試料と電子ビーム照射位置の相対的な位置ずれを検出し
前記照射可能領域の位置を補正することを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第六の態様は、
上記いずれかの複合荷電粒子ビーム装置を用いて、前記照射可能領域からの2次信号量を検出し、所定の二次信号量になったところでイオンビームエッチングを終了する複合荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の第七の態様は、
上記第六の態様において、
第一に加工部分全体を含む電子ビームによる二次信号による観察像を取得し、
第二に前記観察像の中で厚みモニタ領域と参照領域を照射可能領域として設定し、
第三に前記照射可能領域のみに電子ビーム照射し、
前記厚みモニタ領域と前記参照領域で発生する二次荷電粒子を検出し、検出した二次荷電粒子量から前記厚みモニタ領域の厚み情報を算出し、算出された厚みが所望の厚みに達したことをもってイオンビームエッチングを終了する。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の第八の態様は、
複合荷電粒子ビーム装置を用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法において、
試料をイオンビームでエッチング加工するイオンビーム鏡筒と、
試料上の任意の領域に電子ビームを照射できる電子ビーム鏡筒と、
電子ビーム照射による二次信号を検出可能な二次信号検出器と、
電子ビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化するデータ処理部と、
前記データ処理部からの画像信号に基づき前記試料上の任意の領域の画像を表示させる画像表示部と、
を備えてイオンビームによるエッチング加工中の試料の状態を観察可能な複合荷電粒子ビーム装置を用いて、透過電子顕微鏡用試料を作製する方法において、
イオンビームによるエッチング加工により、試料に仕上げ厚みより厚い所定の厚みに薄片部を作製した後、
前記薄片部断面全体の電子ビーム観察像を取得する第一の工程と、
前記観察像の中で照射領域と照射禁止領域を設定する第二の工程と、
前記照射可能領域のみに電子線の照射を制限して厚みをモニタしながら仕上げ厚みにする薄片化加工を行なう第三の工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の第九の態様は、
複合荷電粒子ビーム装置を用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法において、
試料をイオンビームでエッチング加工するイオンビーム鏡筒と、
試料上の任意の領域に電子ビームを照射できる電子ビーム鏡筒と、
電子ビーム照射による二次信号を検出可能な二次信号検出器と、
電子ビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化するデータ処理部と、
前記データ処理部からの画像信号に基づき前記試料上の任意の領域の画像を表示させる画像表示部と、
を備えてイオンビームによるエッチング加工中の試料の状態を観察可能な複合荷電粒子ビーム装置を用いて、透過電子顕微鏡用試料を作製する方法において、
イオンビームで仕上げ厚みより厚い所定の厚みに薄片部を作製するときに、薄片部両側の穴あけ加工を前記穴形状が試料上面から見て薄片部を上底とする台形形状に作製する工程と、
前記薄片部に平行方向の、前記両側の穴あけ加工部の外側から矩形形状の電子線走査領域を前記両側の穴あけ加工部に向けて近づけながら、前記台形形状の下底に繋がる辺の形状の一部の観察像を両側の穴に対して取得する工程と、
該観察像と前記薄片部の長さから前記薄片部断面の電子線照射禁止領域及び電子線照射可能領域を決定する工程と、
前記電子線照射可能領域に電子線を照射して厚みをモニタしながらイオンビームにより前記薄片部を仕上げ厚みに薄片化加工する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子ビーム照射により変質しやすい材質やチャージアップを起こしやすい材質など電子ビーム照射を嫌う材質を含む試料に対し、特定部分への電子ビームの照射を大幅に減らすことができるため、操作性やスループットを損なわずに変質しやすい材質や電子ビーム照射を嫌う材質を含む試料を正確にイオンビームエッチング加工する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明における複合荷電粒子ビーム装置である。
【0017】
図1におけるように、本発明の複合荷電粒子ビーム装置はイオンビーム鏡筒1、電子ビーム鏡筒2、二次信号検出器3、データ処理装置4で構成される。データ処理装置4は電子ビームを走査する位置を規定する照射位置データ17と、照射位置データ17に基づき、イオンビーム鏡筒1または電子ビーム鏡筒2を制御して所望の場所にイオンビームまたは電子ビームを照射するための照射位置制御手段15と、二次信号検出器3からの信号強度をビームの照射位置と関連付けて信号強度データ16として格納するための信号強度取り込み手段14と信号強度データ16を画像として表示するための画像表示手段18と、画像表示手段18からの信号をもとに画像を表示する画像表示装置13、および画像表示装置13の画像上で、照射可能領域や照射禁止領域を指定することで対応する照射位置データ17を変更するための、照射位置設定手段19を含む。
【0018】
本実施例においてはイオンビーム鏡筒1としては液体金属ガリウムをイオン源として用いた集束イオンビーム鏡筒を用い、電子ビーム鏡筒2としては走査型電子顕微鏡の鏡筒を使用した。
【0019】
照射位置データ17としては、イオンビーム鏡筒1または電子ビーム鏡筒2の偏向器を制御するための参照電圧をデジタルーアナログ変換器(DAC)で発生させるための数値データと、ビームの滞留時間およびビームのON/OFFを切り替えるタイミングを表すデータの組み合わせとして定義し、照射位置制御手段15は照射位置データを順次読み込み、偏向器への出力とビームON/OFFの制御信号を、読み込んだデータに基づくタイミングで照射位置を制御する電子回路として実装した。信号強度取り込み手段14は照射位置制御手段15から現在の照射位置のデータを受け取り、照射位置に対応するメモリアドレスに二次信号検出器3からの出力電圧をAD変換したデータを書き込む電子回路として実装した。画像表示手段18は、信号強度データを汎用のコンピュータで画像情報として扱える形に変換した後、画像表示ソフトウェアとして実装した。照射位置設定手段19は、表示された画像に対して、キーボードやマウスなどの入力機器を用いて対話的に領域指定可能なソフトウェアと、指定された領域が照射可能領域であるか、照射禁止領域であるかに応じて照射位置データを更新するソフトウェアとして実装した。
【0020】
イオンビーム鏡筒1と電子ビーム鏡筒2は加工対象の薄片試料5に対して、薄片化加工を行いながら試料状態を確認できるように、試料位置でビームが交差するように配置される。通常FIBで作製する断面はSEMに対して正面となるような向きで作製される。二次信号検出器3は試料から放出される二次電子を検出可能な二次電子検出器を用いる。
【0021】
薄片化加工は、図1に示されているように、薄片試料5を残すように両側をイオンビームエッチング加工で削り落としていくことによりなされる。薄片の厚さは、様々な場合があるが、一般的な半導体デバイスの透過電子顕微鏡観察に用いる試料の場合100nmよりも薄くする場合が多い。
【0022】
図2は典型的な半導体デバイス断面の模式図である。ここに示したように、上部は低誘電率層間絶縁膜10及び配線11を含む配線層で、下部は拡散層を含む基板12となっている。このうち、低誘電率層間絶縁膜を含む配線層に電子ビームを照射すると、層間絶縁膜の収縮などの変質が起こることが知られている。このため、配線層に電子ビームを照射することを極力避けることが望まれている。
【0023】
本実施形態では、第一に薄片試料5の厚みが数百nm以上残っている時点で、薄片試料5を含む領域で電子ビーム鏡筒2により電子ビームを一度だけ走査し画像表示装置13上に観察像6を得る。図1に基づいて説明すれば、加工部分全体を含む矩形領域を表す照射位置データ17を準備し、照射位置制御手段19を用いて前述の矩形領域にビームを照射し、各照射点における二次信号強度を信号強度取り込み手段14にて取り込み、画像表示手段18を用いて画像表示装置13上に加工部分全体の観察像を表示する。薄片試料5が厚いうちに観察を行うのは、表面に多少の影響が出ても以降の薄片化のプロセスで削り落とされるために影響が少なくてすむと考えられることと、薄片試料5の厚みが厚いうちはイオンビーム鏡筒1による観察像でも十分な加工の制御が可能なためである。
【0024】
第二にこの観察像6において、配線層の断面が露出している領域を含む領域を電子ビーム照射禁止領域8として設定し、それ以外の部分を電子ビーム照射可能領域7として設定する。具体的には画像上で領域を設定し、その設定に対応する照射位置データ17を照射位置設定手段19により更新する。
第三に、逐次電子ビーム鏡筒2による観察を行いながら、イオンビーム鏡筒1による薄片化を進行させていく。照射位置データ17は、照射可能領域だけにビームが照射され照射禁止領域にはビームが照射されないようなデータに更新されているため、この時の観察は、電子ビーム照射禁止領域8に電子ビームが照射されることはない。この観察により、試料の湾曲、過剰なイオンビームエッチングによる試料の穴あき、ビームの位置ずれなどの現象、またはその予兆を検出することができ、試料の損壊を未然に防ぐことができる。このことは、薄片化の過程を観察することのメリットを達成していると言える。
【0025】
ここに開示した例では、全領域を含む観察像6を取得し、電子ビーム照射可能領域7、電子ビーム照射禁止領域8を設定する工程が増えているだけなので、試料作製のスループットや、操作性に与える影響は極めて小さいと言える。以上より、電子ビーム照射による試料の変質を防ぎながら、正確な加工を実施することができ、課題を達成している。
【0026】
(実施形態2)
本実施形態では、電子ビーム照射可能領域7と電子ビーム照射禁止領域8を設定するために観察像6を取得する方法が実施形態1とは異なる。
【0027】
実施形態1では、薄片試料5の厚みが数百nm以上残っている時点で、薄片試料5を含む領域で電子ビーム鏡筒2により電子ビームを一度だけ走査し観察像6を得たが、本実施形態では薄片試料5を含む領域全てを一度に走査して観察像を得ることは行わない。薄片試料はその周辺の形状との関係が分かっている場合が多いため、確実に電子ビーム照射可能領域7である部分から部分的に電子ビームを走査し観察像6の一部を取得し、試料周辺部の構造の既知情報を元に走査領域を順次拡大していくことにより、電子ビーム照射禁止領域8に一度も電子ビームを照射することなく、電子ビーム照射禁止領域8を設定することができる。
【0028】
図3を用いて、より具体的な例を説明する。ここで説明する例では、薄片試料周辺は図3(a)のような形状をしている。すなわち、薄片部の両側は試料上面からみて薄片部を上底とする台形形状に穴あけ加工されており、穴あけ部外側から薄片に向かって徐々に深くなるようにスロープ部22、23を形成しながら穴あけ加工されている。ここで、断面21の上端から高さhの部分が電子ビーム照射禁止領域8として設定したい部分である。この場合、図1における観察像6の画面左端(薄片部に平行方向の薄片化部の外側)から矩形の電子ビーム照射領域を徐々に拡大していき、台形の上底および下底につながる辺であるスロープエッジ24及びスロープエッジ25が見え始めた状態で停止する。
【0029】
断面21の上端はスロープエッジ24及びスロープエッジ25の交点付近として認識でき、断面21の幅wは既知情報として持っているので、図3(b)の状態から電子ビーム照射禁止領域8を決定することが可能であり、電子ビーム照射禁止領域8以外の領域を電子ビーム照射可能領域7として設定可能である。
【0030】
この後の加工においては、電子ビーム照射可能領域7のみに電子ビームを走査しての観察像を観察しながら加工を行うことで、電子ビーム照射による試料の変質を防ぎながら、正確な加工を実施することができ、課題を達成している。
【0031】
本実施形態において主張する発明の本質は、事前に明らかな試料形状を元に既知の電子ビーム照射可能領域内において漸次電子ビームを走査する領域を拡張し得られた観察像から電子ビーム照射禁止領域を推定することで、電子ビーム照射禁止領域8となる領域に電子ビームを照射することなく、薄片試料5の断面において電子ビーム照射可能領域7と電子ビーム照射禁止領域8を設定し、電子ビーム照射可能領域7のみの電子ビーム走査で観察しながら加工を行うことである。
【0032】
従って本実施形態で述べたものとまったく違う形状の試料であっても、事前に明らかな試料形状を元に漸次電子ビームを走査する領域を拡張し、電子ビーム照射禁止領域8となる領域に電子ビームを照射することなく、電子ビーム照射可能領域7と電子ビーム照射禁止領域8を設定できるのであれば、本発明に含まれると考えられる。
【0033】
(実施形態3)
本実施形態では、電子ビーム照射可能領域7と電子ビーム照射禁止領域8を設定するために観察像6を取得する方法が実施形態1および2とは異なる。本実施形態では、イオンビーム鏡筒1による観察像を元に決定された加工位置と、禁止領域に相当する深さの既知情報、およびイオンビーム鏡筒1と電子ビーム鏡筒2のビームの位置関係から、電子ビーム鏡筒2による観察像6上での電子ビーム照射禁止領域7と電子ビーム照射可能領域8を計算で求め、決定する方法を取る。
【0034】
事前の準備として、試料の表面が規定の高さにあるとき、イオンビーム鏡筒1の観察像の中心と電子ビーム鏡筒2の観察像の中心が一致するように調整する。さらに、倍率の校正、視野回転の補正を行っておく。この状態で加工対象の試料を、前述の視野中心を合わせたときと同じ規定の高さに設置する。ここでの説明では、イオンビーム鏡筒1および電子ビーム鏡筒2の、イオンビーム軸34及び電子ビーム軸32の両方の軸に直交する方向をX方向、観察像の画面内でX方向に直交する方向をY方向と定義する。図面上で言えば、図4において紙面を貫通する方向がX方向と定義される。画面上のX方向の位置は、前述の事前の調整によりイオンビーム鏡筒1および電子ビーム鏡筒2それぞれの観察像において一致する。Y方向は電子ビーム鏡筒2の取付角度及び、試料の高さ方向位置の影響を受ける。図4において、イオンビームによる観察像33における位置Yにある断面の位置Ys1は図4から簡単な幾何学的な計算により、
Ys1=Y*Sinφ
と表される。イオンビームによる観察像33では深さ方向の位置は認識できないが、電子ビームによる観察像31は断面を斜め上から見る形になるため、深さ方向の位置も認識できる。前述の断面において深さhにあたる場所のY方向位置Ys2はYs1から
h*Cosφ
だけ、離れた位置に認識される。以上より、イオンビームによる観察像33において、位置Yに存在する断面の上辺から深さhまでの範囲は、電子ビームによる観察像31においては、
Y*Sinφ
から
Y*Sinφ―h*Cosφ
の範囲として表示される。また、断面の幅方向、すなわちX方向は前述の事前の調整により、イオンビームによる観察像33のものと一致する。
【0035】
これらの関係式を用いて、イオンビーム鏡筒1の観察像に基づき設定された加工位置の情報と、深さ方向の既知の情報を用いて、電子ビーム照射可能領域7と電子ビーム照射禁止領域8を計算から求めることができる。計算を行う際には、加工による試料厚みの変化に起因する電子ビーム照射禁止領域8のY方向の位置変化も考慮する。さらに、誤差を見込んで適宜、電子ビーム照射禁止領域8を拡張する場合もある。
【0036】
この後の加工においては、電子ビーム照射可能領域7のみに電子ビームを走査しての観察像を観察しながら加工を行うことで、電子ビーム照射による試料の変質を防ぎながら、正確な加工を実施することができ、課題を達成している。
【0037】
(実施形態4)
ここまで述べてきた、実施形態1から3においては、電子ビーム照射可能領域7と電子ビーム照射禁止領域8は、固定であった。本実施形態では、実施形態1から3の各場合において、電子ビーム照射可能領域7の中に、位置認識用目標物9(図1参照)を設定する。位置認識用目標物9は、試料、ステージ、ビーム制御系などシステムの様々な不安定要因による試料とビームの位置関係の微妙なズレ、いわゆるドリフトの方向と量を検出するために用いる。
【0038】
電子ビームにて電子ビーム照射可能領域7全体を走査する前に、位置認識用目標物9の周辺を限定的に走査し位置認識用観察像を得る。この位置認識用観察像中の位置認識用目標物9の座標を毎回確認し、前回の座標との差をドリフトと見なし、電子ビーム照射可能領域7および電子ビーム照射禁止領域8をドリフト分だけ移動させて、しかる後に電子ビームの走査を行い観察像を得る。位置認識用目標物9としては試料上の特徴的な形状の部分、あるいはイオンビーム鏡筒1を用いて試料上に作成したパターン認識しやすい形状、を用いてパターン認識を行うなどがある。また、位置認識用観察像を取得する範囲は、位置認識用目標物9の大きさと通常想定されるドリフト量を勘案して決定される。
【0039】
このような方法を用いることで、ドリフトがある場合でも、電子ビーム照射可能領域7のみに電子ビームを走査しての観察像を観察しながら加工を行うことで、電子ビーム照射による試料の変質を防ぎながら、正確な加工を実施することができ、課題を達成している。
【0040】
(実施形態5)
図5に本発明における第5の実施形態を示すための薄片試料5を含む部分の概略斜視図を示す。
【0041】
実施形態1から4においては、設定された電子ビーム照射可能領域7に電子ビームを走査することで観察像を得て、その観察像から得られた情報により正確な加工を実現していた。本実施形態では、電子ビーム照射により薄片試料5から出る2次信号の量から、薄片試料5の厚みを推定し、所定の厚みで加工を終了させる方法を開示する。実施形態1から4の各場合において、薄片試料5の少なくとも一部に電子ビーム照射可能領域7が存在する場合、薄片試料5上の電子ビーム照射可能領域7内部に厚みモニタ用領域41を設ける。また、電子ビーム照射可能領域7内の十分に厚い領域を参照領域42として設定する。
【0042】
一般に薄片試料に電子ビームを照射した場合、電子ビームのエネルギー、試料の材質で決まる電子ビームの浸入長より薄い領域では、薄片試料の厚みに応じて二次信号の量が変化する。電子ビームのエネルギーを適当に選び、これらの二次信号の変化を捕らえることで、試料の厚みを推定することができる。二次信号として、二次電子、反射電子、吸収電流、X線、透過電子などを用いることができるが、以下では一例として反射電子を用いた場合を説明する。
【0043】
実施形態1から4においては、二次信号検出器3として二次電子検出器を用いたが、本実施形態では反射電子検出器を用いる。薄膜試料からの反射電子強度は、薄膜の厚さが入射電子ビームの浸入長より薄い領域では試料の厚さの情報を持つ。具体的には、試料の厚みが薄くなるに従い信号量が減少する。よって、反射電子の強度が一定値まで減少した時点で、目的の厚みに達したと判断し、加工を停止する。より具体的には、システムの変動をキャンセルするために、図5に示すように参照領域42からの反射電子強度で、厚みモニタ領域41からの反射電子強度を規格化した値を厚み指標として用いる。
【0044】
このような方法により、電子ビーム照射可能領域7のみに電子ビームを照射して試料厚みをモニタしながら加工を行うことで、電子ビーム照射による試料の変質を防ぎながら、正確な加工を実施することができ、課題を達成している。
【0045】
(実施形態6)
本実施形態では、試料中の所望箇所(欠陥部分)の断面像を取得する例をあげ、断面加工観察の方法について開示する。
【0046】
図6で示すように、イオンビーム鏡筒1でエッチング加工を行い所望箇所である欠陥部分56近傍に加工溝55を形成し、イオンビームまたは、電流量の小さい電子ビームで試料断面像を取得する。図7(a)は上記の方法で取得した半導体デバイスの試料断面像で、図2の場合とは異なり、電子ビームを照射すると変質するような材質の層間絶縁膜は含まないが、試料表面にパッシベーション層61が含まれている。このパッシベーション層61に電子ビームを照射するとチャージアップを起こしてしまい、照射する電子ビームや観察像に影響を与えてしまうため、この層への電子ビーム照射は極力避けることが望まれている。そこで、パッシベーション層61避けるように電子ビーム照射可能領域7を設定し、断面加工が所望箇所に到達するまでは電子ビーム照射可能領域7のみに電子ビームを照射して断面像を取得するように制御する。
【0047】
加工溝55の試料断面をイオンビーム加工でエッチングし新たな断面を露出させる。図7(b)は新たに現れた断面で、電子ビーム照射領域7に電子ビームを照射して取得した新たな断面像である。所望箇所の欠陥部分56の断面が露出するまでイオンビームによる断面加工と新たな断面の観察を繰り返して行う。イオンビーム加工により現れる新たな断面を観察像で確認することにより所望箇所を見逃して加工しすぎることなく所望箇所の断面に到達したときにイオンビーム加工を止めることができる。図7(c)はイオンビーム加工と断面観察を繰り返した結果得られた欠陥部分56を含んだ断面観察像である。このように断面加工と電子ビーム照射を極力避けたい部分への電子ビーム照射を避けた断面観察を繰り返すことで、所望箇所の断面像を取得することができ、課題を達成している。
【0048】
(その他の実施形態)
以上の実施形態では、イオンビーム鏡筒1として液体金属ガリウムをイオン源として用いた集束イオンビーム装置を想定しているが、その他のイオン源を用いた集束イオンビーム装置や、よりビーム径の大きい、希ガスや不活性ガスを用いたガスイオン源を備えたイオンビーム装置などを用いても電子ビーム照射による試料の変質を防ぎながら、正確な加工を実施することができ、課題を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の複合荷電粒子ビーム装置構成を説明する図。
【図2】薄片試料の断面構造図。
【図3】実施形態2における観察像の順次拡大を説明する図。
【図4】FIBのビームとSEMビームの位置関係を説明する図。
【図5】実施形態5における薄片試料を含む部分の概略斜視図。
【図6】実施形態6の構成を説明する図。
【図7】実施形態6において取得する試料の断面構造図。
【符号の説明】
【0050】
1 イオンビーム鏡筒
2 電子ビーム鏡筒
3 二次信号検出器
4 データ処理装置
5 薄片試料
6 観察像
7 電子ビーム照射可能領域
8 電子ビーム照射禁止領域
9 位置認識用目標物
10 低誘電率層間絶縁膜
11 配線
12 基板
13 画像表示装置
14 信号強度取り込み手段
15 照射位置制御手段
16 信号強度データ
17 照射位置データ
18 画像表示手段
19 照射位置設定手段
21 断面
22 スロープ部
23 スロープ部
24 スロープエッジ
25 スロープエッジ
31 電子ビームによる観察像
32 電子ビーム軸
33 イオンビームによる観察像
34 イオンビーム軸
41 厚みモニタ領域
42 参照領域
55 加工溝
56 欠陥部分
61 パッシベーション層
h 電子ビーム照射禁止領域の高さ
w 電子ビーム照射禁止領域の幅
Y FIB画面での断面Y方向位置
Ys1 SEM画面での電子ビーム照射禁止領域上端のY座標
Ys2 SEM画面での電子ビーム照射禁止領域下端のY座標
Φ SEM取付角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオンビームでエッチング加工するイオンビーム鏡筒と、
試料上の任意の領域に電子ビームを照射できる電子ビーム鏡筒と、
電子ビーム照射による二次信号を検出可能な二次信号検出器と、
電子ビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化するデータ処理部と、
前記データ処理部からの画像信号に基づき前記試料上の任意の領域の画像を表示させる画像表示部と、
入力機器により指定された照射可能領域または照射禁止領域を電子ビーム照射位置データとして設定する照射位置設定手段と、
該照射位置設定手段からの電子ビーム照射位置データに基づき電子ビーム照射位置を制御する照射位置制御手段とからなり、
前記照射位置設定手段は、前記指定された領域が照射可能領域か照射禁止領域であるかに応じて電子ビーム照射位置データを更新し、よって前記照射位置制御手段は前記照射可能領域のみに電子ビーム照射を制限することを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置
【請求項2】
前記照射位置設定手段は、イオンビーム走査により予め得たエッチング加工部分全体を含む画像のうちから、入力機器により指定される照射可能領域と照射禁止領域により電子ビーム照射位置データを更新することを特徴とする請求項1記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記照射位置設定手段は、イオンビームによる加工中において、加工対象領域から離れた位置の画像と、試料加工対象部の既知情報とから電子線照射可能領域を推定する請求項1記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記二次信号検出器はイオンビーム照射による二次信号を検出可能であり、前記データ処理装置はイオンビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化し、前記照射位置設定手段は、イオンビームによる観察像からイオンビームと電子ビームの相対的な位置関係を元に電子線照射可能領域と電子線照射禁止領域を設定する請求項1記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記1から4に記載の複合荷電粒子ビーム装置を用いて、
前記照射可能領域の観察像中に位置認識用目標物を設定し
前記目標物の移動量に基づき試料と電子ビーム照射位置の相対的な位置ずれを検出し
前記照射可能領域の位置を補正することを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工方法。
【請求項6】
前記1から4に記載の複合荷電粒子ビーム装置を用いて、前記照射可能領域からの2次信号量を検出し、所定の二次信号量になったところでイオンビームエッチングを終了する複合荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工方法。
【請求項7】
請求項6記載の複合荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工方法において、
第一に加工部分全体を含む電子ビームによる二次信号による観察像を取得し、
第二に前記観察像の中で厚みモニタ領域と参照領域を照射可能領域として設定し、
第三に前記照射可能領域のみに電子ビーム照射し、
前記厚みモニタ領域と前記参照領域で発生する二次荷電粒子を検出し、検出した二次荷電粒子量から前記厚みモニタ領域の厚み情報を算出し、算出された厚みが消耗の厚みに達したことをもってイオンビームエッチングを終了する複合荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工方法。
【請求項8】
試料をイオンビームでエッチング加工するイオンビーム鏡筒と、
試料上の任意の領域に電子ビームを照射できる電子ビーム鏡筒と、
電子ビーム照射による二次信号を検出可能な二次信号検出器と、
電子ビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化するデータ処理部と、
前記データ処理部からの画像信号に基づき前記試料上の任意の領域の画像を表示させる画像表示部と、
を備えてイオンビームによるエッチング加工中の試料の状態を観察可能な複合荷電粒子ビーム装置を用いて、透過電子顕微鏡用試料を作製する方法において、
イオンビームによるエッチング加工により、試料に仕上げ厚みより厚い所定の厚みに薄片部を作製した後、
前記薄片部断面全体の電子ビーム観察像を取得する第一の工程と、
前記観察像の中で照射領域と照射禁止領域を設定する第二の工程と、
前記照射可能領域のみに電子線の照射を制限して厚みをモニタしながら仕上げ厚みにする薄片化加工を行なう第三の工程と、
を有することを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置を用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法。
【請求項9】
試料をイオンビームでエッチング加工するイオンビーム鏡筒と、
試料上の任意の領域に電子ビームを照射できる電子ビーム鏡筒と、
電子ビーム照射による二次信号を検出可能な二次信号検出器と、
電子ビーム照射位置と二次信号量を関連付けて画像化するデータ処理部と、
前記データ処理部からの画像信号に基づき前記試料上の任意の領域の画像を表示させる画像表示部と、
を備えてイオンビームによるエッチング加工中の試料の状態を観察可能な複合荷電粒子ビーム装置を用いて、透過電子顕微鏡用試料を作製する方法において、
イオンビームで仕上げ厚みより厚い所定の厚みに薄片部を作製するときに、薄片部両側の穴あけ加工を前記穴形状が試料上面から見て薄片部を上底とする台形形状に作製する工程と、
前記薄片部に平行方向の、前記両側の穴あけ加工部の外側から矩形形状の電子線走査領域を前記両側の穴あけ加工部に向けて近づけながら、前記台形形状の下底に繋がる辺の形状の一部の観察像を両側の穴に対して取得する工程と、
該観察像と前記薄片部の長さから前記薄片部断面の電子線照射禁止領域及び電子線照射可能領域を決定する工程と、
前記電子線照射可能領域に電子線を照射して厚みをモニタしながらイオンビームにより前記薄片部を仕上げ厚みに薄片化加工する工程と、
を有する複合荷電粒子ビーム装置を用いた透過電子顕微鏡用試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−192428(P2009−192428A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35048(P2008−35048)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】