説明

複合酸化物膜の製造方法、その製造方法で得られる複合体、該複合体を含む誘電材料、圧電材料、コンデンサ、圧電素子並びに電子機器

【課題】複雑で大掛かりな設備を用いずに、比誘電率が高く、膜厚が任意に制御され得る複合酸化物膜の製造方法、その複合酸化物膜を基体表面に有する複合体、該複合体を含む誘電材料又は圧電材料、さらにこれら材料を含むコンデンサ又は圧電素子および、これら素子を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】第一金属元素を含む基体表面の酸化被膜を除去し、次いで該酸化被膜が除去された基体に、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華及び熱分解のうちの少なくとも一つの手段で気体となる塩基性化合物と、第二金属元素のイオンとを含有する溶液を反応させて、基体表面に、第一金属元素及び第二金属元素を含有する複合酸化物膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比誘電率の高い複合酸化物膜の製造方法;その製造方法で得られる複合体;該複合体を含む誘電材料及び圧電材料;大静電容量化に有利な複合体を含むコンデンサ及び圧電素子並びにこれらの電子部品を含む電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型コンデンサとしては、積層セラミックコンデンサ、タンタル電解コンデンサ、アルミニウム電解コンデンサが実用化されている。
タンタル電解コンデンサやアルミニウム電解コンデンサでは、金属タンタルや金属アルミニウムを陽極酸化することによって得られるタンタル酸化物膜やアルミニウム酸化物膜が誘電体として用いられている。陽極酸化するときの電圧を調整することによってタンタル酸化物膜やアルミニウム酸化物膜の厚みを容易に制御することができるので、0.1μm以下のものを製造することができる。しかし、タンタル酸化物膜やアルミニウム酸化物膜は比誘電率が小さいので、大容量化に向かない。
【0003】
一方、積層セラミックコンデンサには、誘電体として誘電率の大きなチタン酸バリウムや耐電圧の大きなチタン酸ストロンチウムなどの複合酸化物粒子が用いられている。
静電容量は比誘電率に比例し誘電体層の厚さに反比例するので、高い比誘電率を持つ誘電体層を薄く均一に製膜することが求められている。ところが、従来のプロセスでは膜厚1μm以上のものしか得られず、小型大容量化が難しかった。
【0004】
このような従来技術の問題を解決するために、基体上に複合酸化物膜を形成する方法が試みられている。例えば、特許文献1及び2に、バリウムイオンを含む強アルカリ性水溶液中で金属チタン基材を化成処理することでチタン酸バリウム薄膜を形成する技術が開示されている。特許文献3に、アルコキシド法により基材上にチタン酸バリウム薄膜を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭60−116119号公報
【特許文献2】特開昭61−30678号公報
【特許文献3】特開平5−124817号公報
【0005】
また、特許文献4には、金属チタン基体をアルカリ金属の水溶液中で処理して基体表面にアルカリ金属のチタン酸塩を形成後ストロンチウム、カルシウム等の金属イオンを含む水溶液で処理してアルカリ金属をストロンチウム、カルシウム等の金属に置換することによって複合チタン酸化被膜を形成する技術が開示されている。さらに特許文献5には、基板上に電気化学的手法によりチタン酸化物被膜を形成し、その被膜をバリウム水溶液中で陽極酸化することによってチタン酸バリウム被膜を製造する方法が開示されている。また、非特許文献1には、水熱電気化学法によりチタン酸バリウム薄膜を得る技術が開示されている。
【特許文献4】特開2003−206135号公報
【特許文献5】特開平11−172489号公報
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics Vol. 28, No. 11, November, 1989, L2007-L2009
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によると、特許文献1〜5に開示されている方法では、誘電体層厚の制御が難しく、得られるコンデンサの容量を制御することが難しいことがわかった。また非特許文献1に記載の方法は、100℃程度の温度ではほとんど反応しないこと、オートクレーブを用いる高温高圧化学反応を行う必要があることから、大掛かりな設備を要する。
【0007】
そこで、本発明は、複雑で大掛かりな設備を用いずに、比誘電率が高く、膜厚が任意に制御され得る複合酸化物膜とその製造方法、その複合酸化物膜を含む誘電材料又は圧電材料、さらにこれら材料を含むコンデンサ又は圧電素子および、これら素子を備えた電子機器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた。その結果、チタン等の第一金属からなる基体表面の酸化被膜を除去し、その酸化被膜が除去された基体に、気化(本発明では熱分解により気体になる場合も含めて「気化」と表現することがある。)しやすい塩基性化合物とバリウムなどの第二金属元素のイオンとを含有する溶液を反応させることによって、高誘電率の第一金属元素及び第二金属元素を含有する複合酸化物膜を任意の厚さで均一に得ることができることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1) 第一金属元素を含む基体表面の酸化被膜を除去する工程と、
酸化被膜が除去された基体に、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華及び熱分解のうちの少なくとも一つの手段で気体となる塩基性化合物と、第二金属元素のイオンとを含有する溶液を反応させる工程と
を含む、第一金属元素及び第二金属元素を含有する複合酸化物膜の製造方法。
(2) 第一金属元素がチタンである前記(1)に記載の複合酸化物膜の製造方法。
(3) 第二金属元素がアルカリ土類金属及び鉛から選択される少なくとも一種である前記(1)又は(2)に記載の複合酸化物膜の製造方法。
(4) 基体が金属チタン又はチタンを含む合金である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【0010】
(5) 酸化被膜の除去が化学エッチング又は電解エッチングによって行われる前記(1)に記載の複合酸化物膜の製造方法。
(6) エッチングに用いるエッチング液がフッ酸を含む前記(5)に記載の複合酸化物膜の製造方法。
(7) 塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液の第二金属元素のイオン濃度が0.5mol/l未満である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
(8) 塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液のpHが11以上である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【0011】
(9) 酸化被膜が除去された基体に、塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液を40℃以上の温度で反応させる、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
(10) 塩基性化合物が塩基性有機化合物である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
(11) 塩基性有機化合物が水酸化テトラメチルアンモニウムである前記(10)に記載の複合酸化物膜の製造方法。
【0012】
(12) 基体と、その表面に形成された前記(1)〜(11)のいずれかに記載の製造方法により得られる複合酸化物膜とからなる複合体。
(13) 基体が金属チタン又はチタンを含む合金であり、複合酸化物がチタンとアルカリ土類金属及び鉛から選択される少なくとも一種の金属元素とを含む前記(12)に記載の複合体。
(14) 基体が厚さ5μm以上300μm以下の箔である前記(12)又は(13)に記載の複合体。
(15) 基体が平均粒径0.1μm以上20μm以下の微粒子を焼結したものである前記(12)又は(13)に記載の複合体。
(16) 複合酸化物がペロブスカイト構造を含む前記(12)〜(15)のいずれかに記載の複合体。
【0013】
(17) 前記(12)〜(16)のいずれかに記載の複合体を含む誘電材料。
(18) 前記(12)〜(16)のいずれかに記載の複合体を含む圧電材料。
(19) 前記(17)に記載の誘電材料を含むコンデンサ。
(20) 前記(18)に記載の圧電材料を含む圧電素子。
(21) 前記(19)に記載のコンデンサを含む電子機器。
(22) 前記(20)に記載の圧電素子を含む電子機器。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合酸化物膜の製造方法によれば、基体表面の酸化被膜を除去し、次いで酸化被膜が除去された基体に、気化しやすい特定の塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液を反応させるという極めて簡単な方法で、第一金属元素及び第二金属元素を含有する複合酸化物膜を形成することができる。そのため、大掛かりで複雑な設備を要せず、低コストで複合酸化物膜を製造することができる。また予め基体を化成処理することなく、所望の膜厚の複合酸化物膜を得ることができる。
【0015】
基体として表面の酸化被膜が除去された金属チタン又はチタンを含む合金を用い、この基体にアルカリ土類金属及び鉛から選択される少なくとも一種の金属元素のイオンを含む水溶液を反応させることにより基体表面上に比誘電率の高い強誘電体膜を形成できる。
【0016】
気化しやすい塩基性化合物と第二金属元素のイオンを含む溶液としてpHが11以上のアルカリ性溶液を用いることで、結晶性の高い強誘電体膜が形成でき、高い比誘電率を得ることができる。
本発明ではアルカリ成分として、気化しやすい塩基性化合物、すなわち大気圧下又は減圧下で、蒸発、昇華、熱分解のうちの少なくとも一つの手段で気体となる塩基性化合物を用いる。その結果、膜特性に影響を与えることなく該塩基性化合物を容易に除去でき、複合酸化物膜中にアルカリ成分が残存したことによる膜の特性低下という影響を抑制することができ、安定した特性を有する複合酸化物膜を得ることができる。また、反応温度を40℃以上にすることで、反応をより確実に進行させることができる。このようにして得られた複合酸化物膜は、高い比誘電率を有している。
【0017】
基体として、厚さが5μm以上300μm以下のもの、若しくは平均粒径0.1μm以上20μm以下の金属(例えば、チタン又はチタンを含む合金等)の微粒子を焼結したものを用いると、複合酸化物膜の基体に対する割合を増やすことができ、コンデンサなどの電子素子用として好適であり、電子部品の小型化、さらにはこれら電子素子を含む電子機器の小型化、軽量化に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を例示しながら詳しく説明する。
(複合酸化物膜の製造方法)
本発明の第一金属元素及び第二金属元素を含む複合酸化物膜の製造方法は、第一金属元素を含む基体表面の酸化被膜を除去する工程と、該基体に大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華及び熱分解のうちの少なくとも一つの手段で気体となる塩基性化合物と、第二金属元素のイオンとを含む溶液を反応させる工程Bとを含むものである。
【0019】
本発明に用いる基体は、その表面に第一金属元素が含まれるものであれば、特に制限されない。第一金属元素を含む材質は用途に応じて選択することができ、コンデンサ用途等では導電体を選択することができ、好ましくは金属チタンまたはチタンを含む合金を選択することができる。基体の表面以外の部分の材質は、特に制限されず、用途に応じて導電体、半導体、絶縁体を使用することができる。コンデンサ用途に好ましい材質の例としては、導電体である金属チタンまたはチタンを含む合金が挙げられる。金属チタンのような導電体表面に誘電体である複合酸化物膜を形成することで得られる複合体はコンデンサの電極としてそのまま使用することができる。
【0020】
第一金属元素を含む基体の態様としては、第一金属元素を含む材質で基体全体が構成されているものと;基体の表面に第一金属元素を含む材質の層が形成されたものとがある。第一金属元素を含む材質で基体全体が構成されているものとしては、第一金属元素を含む金属で基体全体が構成されているものが挙げられる。基体の表面に第一金属元素を含む材質の層が形成されたものとして、金属からなる基体表面に第一金属元素を含む金属層が形成されたものが挙げられる。
【0021】
基体を構成する金属と、その上に形成される金属層を構成する第一金属元素とは、異なるものを使用することもできるし、同一とすることもできる。第一金属元素からなる金属層を形成する方法としては、スパッタリング法やプラズマ蒸着法等の乾式プロセス;ゾル−ゲル法、メッキ法等の湿式プロセスなどが挙げられる。低コスト製造の観点から湿式プロセスが好ましい。
【0022】
基体はその形状によって特に制限はなく、板状のもの、箔状のもの、さらに表面が平滑でないものも適用できる。コンデンサ用途には、小型、軽量化の観点および基体質量当たりの表面積が大きいほど複合酸化物膜の基体に対する割合が増し有利である点から、基体は箔状のものが好ましく、厚さ5μm以上300μm以下、より好ましくは厚さ5μm以上100μm以下、更に好ましくは厚さ5μm以上30μmの箔が好適である。また同様な観点から基体は、金属チタン又はチタンを含む合金からなる微粒子の焼結体であることが好ましい。金属チタン又はチタンを含む合金からなる微粒子の平均粒径は0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0023】
通常、基体の表面には、自然酸化、熱酸化等によって安定な酸化被膜が形成されている。この安定な酸化被膜には、厚い加工変質層が存在する。
本発明の複合酸化物膜の製造方法では、この安定な酸化被膜を基体から除去する。酸化被膜を除去することによって基体表面を活性にし、塩基性化合物及び第二金属元素のイオンを含有する溶液と、基体表面との反応を促進させることによって、膜厚が均一に制御された複合酸化物膜を基体上に得ることができる。
【0024】
酸化被膜を除去する方法は特に制限されない。酸化被膜を完全に除去する方法としては、化学エッチング法、電解エッチング法などのエッチング法が好ましい。金属チタン又はチタンを含む合金からなる基体では、フッ酸を含むエッチング液が好適に用いられる。
エッチング量をコントロールするために、硝酸、酢酸、エチレングリコールなどを適宜添加することができる。エッチング量はエッチング液の濃度、温度、処理時間などを調整することによって適宜制御することができ、好ましくは1nm〜5000nmの範囲、さらに好ましくは10nm〜1000nmの範囲である。
【0025】
本発明の複合酸化物膜の製造方法では、酸化被膜が除去された基体に、塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液を反応させる。酸化被膜が除去された基体は、前記エッチング後、酸化被膜が再形成されないうちに、前記反応に供することが好ましい。この反応により、第一金属元素と第二金属元素を含有する複合酸化物の膜が基体表面上に形成される。
【0026】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液に用いる第二金属元素としては、第一金属元素と反応して高い比誘電率を有する複合酸化物を形成できるものであれば特に限定されない。好ましい例としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属や鉛が挙げられる。この溶液は水溶液であることが好ましい。第二金属元素を含む化合物として水溶性化合物、例えば、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等を一種単独で又は二種以上を組み合わせて好適に用いることができる。中でも水酸化物はアルカリ濃度を高めることができ好ましい。第二金属元素を含む化合物の具体例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸鉛、酢酸鉛などが挙げられる。
【0027】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液中の第二金属元素のイオン濃度が薄いと反応が進行しにくい傾向になる。濃度が濃いと溶液がアルカリ性であるために過剰な原料が炭酸塩となり洗浄が難しくなる傾向になる。第二金属元素のイオン濃度は、好ましくは1mmol/l以上1mol/l以下、より好ましくは5mmol/l以上200mmol/l以下である。
【0028】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液には、さらに、Sn、Zr、La、Ce、Mg、Bi、Ni、Al、Si、Zn、B、Nb、W、Mn、Fe、Cu、Dyよりなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物を、反応後の複合酸化物膜中にこれら元素が5mol%未満含まれるように添加されていても良い。
【0029】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液に用いる塩基性化合物は、焼成温度以下で、且つ大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、熱分解のうちの少なくとも一つの手段で気体となる塩基性化合物である。特にこの塩基性化合物は塩基性有機化合物であることが好ましい。
【0030】
塩基性化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、コリン等が挙げられる。これらのうちTMAHが好ましい。
大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華及び熱分解のうちのいずれの手段でも気体とならない部分の残る塩基性化合物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物は、得られる複合酸化物膜中にアルカリ金属が残存してしまい、誘電材料や圧電材料等の機能材料としての特性が低下する可能性がある。
【0031】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液は、pHが11以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましく、14以上であることが特に好ましい。
pHを高くすることで、より結晶性の高い複合酸化物膜を得ることができる。結晶性が高い膜ほど、比誘電率が高くなる。
【0032】
基体に塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含有する溶液を反応させる条件は特に制限されないが、該溶液を攪拌しながら常圧において、通常、40℃以上溶液の沸点以下、好ましくは80℃以上溶液の沸点以下に加熱して反応させる。反応時間は通常10分以上、好ましくは1時間以上である。
【0033】
以上のようにして得られた複合酸化物膜は、必要に応じて、電気透析、イオン交換、水洗、浸透膜などの方法を用いて不純物イオンが除去され、乾燥される。乾燥は、通常、室温以上150℃以下で1〜24時間行われる。乾燥時の雰囲気は特に制限されず、大気中又は減圧下で行うことができる。
【0034】
以上の方法によって、第一金属元素と第二金属元素とを含有する複合酸化物膜が基体表面上に形成され、その結果、基体と該複合酸化物膜とからなる複合体が得られる。
【0035】
本発明の複合酸化物膜又は複合体は、誘電材料、圧電材料として用いることができる。
本発明のコンデンサは、前記誘電材料を含むものである。具体的には本発明の複合体をコンデンサの陽極に使用する。陽極にするために、通常、複合体の表面にカーボンペーストを付着させ、更に銀ペーストを付着させ外部リードと複合体とを電気的に導通させる。このとき、酸化マンガン、導電性高分子、ニッケルなどの金属をコンデンサの陰極に使用する。
一方、本発明の圧電素子は、前記圧電材料を含むものである。そして、これらコンデンサ及び圧電素子は、電子機器に備えることができる。
【0036】
本発明の複合体(誘電材料)は、誘電体層である複合酸化物膜の厚みが薄く均一である。さらにこの誘電体層は比誘電率が高い。その結果、本発明の複合体(誘電材料)を含むコンデンサは小型で高い静電容量を持つものである。このような小型高容量のコンデンサは、電子機器類、特に携帯電話機をはじめとする携帯型機器の部品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、実施例及びその他本明細書の記述で、部、%および比率は、特に記載のない限り質量基準である。
【0038】
(実施例1)
厚さ20μmの純度99.9%のチタン箔(株式会社サンクメタル製)を3.3mm幅に切断したものを13mmの長さに切り取り、この箔片の一方の短辺部を金属製ガイドに溶接して固定した。フッ酸と硝酸を1:3の割合で混合したエッチング液に60秒間浸漬し、次いで、水で十分に洗浄した。25%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)2Lに水酸化バリウム8水和物(和光純薬工業株式会社製)6gを溶解した溶液に100℃で4時間浸漬することで反応させた。
【0039】
X線回折により同定したところ、チタン箔表面に立方晶のペロブスカイト構造であるチタン酸バリウム層が生成していることがわかった。
層厚の平均値は、FIB装置により断面加工した試料をTEM観察し、0.08μmであることがわかった。
電気容量は固定していない端から4.5mmの箇所まで電解液(10質量%アジピン酸アンモニウム水溶液)に浸漬し、金属性ガイドを正極とし、負極としてPtを用いて以下の条件にて静電容量を測定した。
装置:LCRメータ(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製ZM2353型)
測定周波数:120V
振幅:1V
その結果静電容量は11μF/cmと大きな値であった。
【0040】
(実施例2)
20%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(セイケム昭和株式会社製)2Lに水酸化バリウム8水和物(和光純薬株式会社製)6gを溶解した溶液に浸漬する条件を、80℃、6時間に変更した以外は実施例1と同様にして、複合酸化物膜を形成した。
X線回折により同定したところ、チタン箔表面に立方晶のペロブスカイト構造であるチタン酸バリウム層が生成していることがわかった。層厚の平均値は、FIB装置により断面加工した試料をTEM観察し、0.05μmであることがわかった。静電容量は実施例1と同様にして測定し19μF/cmと大きな値であった。
【0041】
(実施例3)
20%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(セイケム昭和株式会社製)2Lに水酸化バリウム8水和物(和光純薬株式会社製)6gを溶解した溶液に浸漬する条件を、120℃、4時間に変更した以外は実施例1と同様にして、複合酸化物膜を形成した。
X線回折により同定したところ、チタン箔表面に立方晶のペロブスカイト構造であるチタン酸バリウム層が生成していることがわかった。層厚の平均値は、FIB装置により断面加工した試料をTEM観察し、0.10μmであることがわかった。静電容量は実施例1と同様にして測定し9μF/cmと大きな値であった。
【0042】
本実施例では複合酸化物を誘電材料として用いたコンデンサを一例にして説明したが、当該複合酸化物膜を基体表面上に有する複合体は圧電素子用の圧電材料としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属元素を含む基体表面の酸化被膜を除去する工程と、
酸化被膜が除去された基体に、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華及び熱分解のうちの少なくとも一つの手段で気体となる塩基性化合物と、第二金属元素のイオンとを含有する溶液を反応させる工程と
を含む、第一金属元素及び第二金属元素を含有する複合酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
第一金属元素がチタンである請求項1に記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
第二金属元素がアルカリ土類金属及び鉛から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
基体が金属チタン又はチタンを含む合金である請求項1〜3のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
酸化被膜の除去が化学エッチング又は電解エッチングによって行われる請求項1に記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
エッチングに用いるエッチング液がフッ酸を含む請求項5に記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液の第二金属元素のイオン濃度が0.5mol/l未満である請求項1〜6のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液のpHが11以上である請求項1〜7のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項9】
酸化被膜が除去された基体に、塩基性化合物と第二金属元素のイオンとを含む溶液を40℃以上の温度で反応させる、請求項1〜8のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項10】
塩基性化合物が塩基性有機化合物である請求項1〜9のいずれかに記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項11】
塩基性有機化合物が水酸化テトラメチルアンモニウムである請求項10に記載の複合酸化物膜の製造方法。
【請求項12】
基体と、その表面に形成された請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法により得られる複合酸化物膜とからなる複合体。
【請求項13】
基体が金属チタン又はチタンを含む合金であり、複合酸化物がチタンとアルカリ土類金属及び鉛から選択される少なくとも一種の金属元素とを含む請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
基体が厚さ5μm以上300μm以下の箔である請求項12又は13に記載の複合体。
【請求項15】
基体が平均粒径0.1μm以上20μm以下の微粒子を焼結したものである請求項12又は13に記載の複合体。
【請求項16】
複合酸化物がペロブスカイト構造を含む請求項12〜15のいずれかに記載の複合体。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれかに記載の複合体を含む誘電材料。
【請求項18】
請求項12〜16のいずれかに記載の複合体を含む圧電材料。
【請求項19】
請求項17に記載の誘電材料を含むコンデンサ。
【請求項20】
請求項18に記載の圧電材料を含む圧電素子。
【請求項21】
請求項19に記載のコンデンサを含む電子機器。
【請求項22】
請求項20に記載の圧電素子を含む電子機器。

【公開番号】特開2007−284312(P2007−284312A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115915(P2006−115915)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】