説明

計測治具および配管の断面形状計測方法

【課題】配管周りのスペースが狭くても、安価な構成で、配管の軸方向に直交する断面の外径を好適に計測することができる計測治具および配管の断面形状計測方法を提供する。
【解決手段】エルボ1の軸方向に直交する断面の外径を計測する計測治具5であって、エルボ1に取付可能に構成され、エルボ1の外径よりも大径となる円形の計測枠11と、計測枠11に形成され、ダイヤルゲージ30を挿入可能に、計測枠11の径方向に貫通形成した計測穴12と、を備え、計測枠11は、真円との誤差が予め計測され、計測穴12は、計測枠11の周方向に複数設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の軸方向に直交する断面の形状を計測するために用いる計測治具および配管の断面形状計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接対象物の形状を計測して認識しながら溶接を行うアーク溶接ロボットシステムが知られている(例えば、特許文献1の[0077]以降を参照)。このアーク溶接ロボットシステムでは、3次元に可動するロボットアームに取り付けられたレンジセンサによって、溶接対象物を計測することで、溶接対象物の2次元座標列の取込みを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−250257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明の計測対象となる配管は、主にプラントに配設されており、配管周りのスペースは、計測する配管の配設位置によって制限が生じる。つまり、配管周りのスペースは狭く、計測に必要な設置スペースや作業スペースを十分に確保することが難しい場合がある。この場合、従来のように、ロボットアームを用いて、溶接対象物を計測することは困難である。一方で、配管周りのスペースが狭い場合でも、小型の計測機器を用いて、配管の形状を計測することが考えられる。しかしながら、要求を満たす小型の計測機器は、高価なものとなるため、計測の使用に伴う装置コストが増大することが考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、配管周りのスペースが狭くても、安価な構成で、配管の軸方向に直交する断面の外径を好適に計測することができる計測治具および配管の断面形状計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の計測治具は、配管の軸方向に直交する断面の外径を計測する計測治具であって、配管に取付可能に構成され、配管の外径よりも大径となる円形の計測枠と、計測枠に形成され、計測器を挿入可能に、計測枠の径方向に貫通形成した計測穴と、を備え、計測枠は、真円との誤差が予め計測され、計測穴は、計測枠の周方向に複数設けられていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、計測枠を配管に取り付けて、計測枠に設けられた計測穴に計測器を挿入することで、配管の周方向における外径を計測することができる。このとき、配管には、配管よりも大径の計測枠を取り付けるだけであるため、計測に必要な設置スペースや作業スペースを最小限のスペースとすることができ、配管周りのスペースが狭くとも、好適に計測することが可能となる。また、円形に加工した計測枠に、計測穴を形成するだけで構成できるため、簡易で安価な構成とすることができる。
【0008】
この場合、計測枠は、周方向に分割した複数の分割計測枠と、複数の分割計測枠を締結する締結部材と、を有していることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、分割計測枠を配管に取り付けた後、締結部材で締結することで、計測枠を簡単に配管に取り付けることができる。
【0010】
この場合、計測器は、本体部と、本体部に対して出没可能な先端部と、を有し、計測穴は、本体部の径方向への移動を規制するストッパを有し、計測器は、先端部が計測穴を通過して配管の外面に突き当たってから、本体部がストッパに突き当たるまでの変位量を計測していることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、計測器を計測穴に挿入するだけで、変位量を好適に計測することができる。
【0012】
本発明の配管の断面形状計測方法は、配管の軸方向に直交する断面の形状を計測する配管の断面形状計測方法であって、上記の計測治具を用いて、配管の軸方向に直交する断面の外径を計測する外径計測工程と、板厚計測装置を用いて、外径計測工程において計測した計測点における径方向の厚さを計測する厚さ計測工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この場合、板厚計測装置は超音波計測装置であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、外径計測工程では、計測治具を用いて配管の断面の外径を好適に計測することができ、また、厚さ計測工程では、外径計測工程において計測した外径に対する径方向の厚さを計測することで、配管の断面の内径を好適に計測することができる。
【0015】
この場合、配管は、溶接部を有し、型取りゲージを用いて、溶接部における配管の外径を型取りして計測する外径詳細計測工程をさらに備えたことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、溶接部を有する配管の計測においては、型取りゲージを用いることで、溶接部における配管の外径を詳細に計測することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の計測治具および配管の断面形状計測方法によれば、安価な構成で、配管周りのスペースが狭くとも、配管の軸方向に直交する断面の外径を簡単に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施例に係る計測治具を取り付けたエルボを模式的に表した外観斜視図である。
【図2】図2は、正面および側面から見た計測治具の構成図である。
【図3】図3は、計測器を用いてエルボの外径の形状を計測する説明図である。
【図4】図4は、型取りゲージを用いて溶接部の外径を計測する説明図である。
【図5】図5は、配管の外径計測結果と、配管の厚さ計測結果と、配管の外径詳細計測結果とを重ね合わせた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の計測治具および配管の断面形状計測方法について説明する。なお、以下の実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0020】
本実施例に係る計測治具は、配管の軸方向に直交する断面の外径を計測するために用いられるものであり、配管の断面形状計測方法では、計測治具を用いて配管の外径を計測すると共に、超音波計測装置などの板厚計測装置を用いて配管の厚さを計測することにより、配管の断面形状を計測している。先ず、図1および図2を参照して、計測対象となる配管について説明する。
【0021】
図1は、本実施例に係る計測治具を取り付けたエルボを模式的に表した外観斜視図であり、図2は、正面および側面から見た計測治具の構成図である。図1に示すように、計測対象となる配管は、例えば、屈曲部を有するエルボ1であり、エルボ1は、原子力発電プラントや火力発電プラント等の各種プラントに設けられた配管設備の一部を構成している。
【0022】
エルボ1は、屈曲部において屈曲径の小さい方が腹側となっており、屈曲径の大きい方が背側となっている。図2に示すように、エルボ1は、軸心L、腹側および背側を通る面で切った一対の半割れ管を、溶接により接合することで形成されている。よって、エルボ1には、その腹側と背側とのそれぞれに溶接部3が形成される。
【0023】
このように形成されたエルボ1には、その内部に高温流体が流れることで、持続応力が加わる。この持続応力は、屈曲部の背側に比して、屈曲部の腹側が大きくなる。エルボ1に応力が加わると、エルボ1の余寿命(耐久寿命)は短くなる。このため、エルボ1を含む配管の余寿命を予測するために、プラントの定期点検時おいて、エルボ1の軸方向に直交する断面の形状を計測する。
【0024】
次に、図1ないし図3を参照して、エルボ1の外径を計測する計測治具5について説明する。図3は、計測器を用いてエルボの外径の形状を計測する説明図である。計測治具5は、エルボ1に取り付けられる計測枠11と、計測枠11に形成された計測穴12と、計測枠11を支持する支持台13とを備えている。支持台13は、プラントの設置面に載置されており、エルボ1に対し計測枠11が位置ズレしないように、計測枠11を固定可能に設置される。
【0025】
計測枠11は、エルボ1よりも大径となる円形状に形成されており、真円との誤差が予め計測されている。このため、真円に対する計測枠11の形状を把握できるため、計測枠11に対するエルボ1の形状を把握することで、真円に対するエルボ1の形状を把握することができる。
【0026】
計測枠11は、半円に分割した一対の分割計測枠15と、一対の分割計測枠15を固定する締結部材16とを有している。分割計測枠15は、その断面において、エルボ1の外周面に対向する円筒部15aと、円筒部15aの軸方向両側から径方向外側に突出して形成された一対の円環部15bとで、断面凹状に形成されている。そして、円筒部15aには、後述する計測器30が挿入される計測穴12が形成されている。
【0027】
各分割計測枠15の周方向の両端部には、一対のフランジ部18が円環部15bの表面にそれぞれ設けられている。フランジ部18は、円環部15bの表面に取り付けられた取付部18aと、円環部15bの表面から突出する突出部18bとでL字状に形成されている。この突出部18bは、ボルトおよびナットで構成された締結部材16によって締結されている。従って、一対の分割計測枠15は、一方の分割計測枠15の一対のフランジ部18と、他方の分割計測枠15の一対のフランジ部18とをそれぞれ対向させて重ね合わせ、両フランジ部18を締結部材16により締結することにより、計測枠11がエルボ1に取り付けられる。
【0028】
計測穴12は、計測枠11の周方向に複数設けられており、この計測穴12に計測器30が挿通される。計測器30としては、ダイヤルゲージ30が用いられており、図3に示すように、ダイヤルゲージ30は、ゲージ本体(本体部)31と、ゲージ本体31に対して出没可能な先端部32とを有している。そして、この計測穴12には、ダイヤルゲージ30の先端部32が挿入される一方で、ゲージ本体31の挿入が不可となっている。つまり、計測穴12には、ゲージ本体31の挿入を規制するストッパ21が設けられており、ストッパ21は、円筒部15aの上面の一部となっている。
【0029】
図3に示すように、計測穴12にダイヤルゲージ30を挿入すると、ダイヤルゲージ30の先端部32が計測穴12を通過して、エルボ1の外周面に突き当たる。この後、さらにダイヤルゲージ30を挿入すると、ダイヤルゲージ30の先端部32がエルボ1の外周面に突き当たった状態で、ダイヤルゲージ30のゲージ本体31が、計測穴12のストッパ21に突き当たる。これにより、ダイヤルゲージ30は、エルボ1の外周面に突き当たってから、ゲージ本体31がストッパ21に突き当たるまでの変位量Hを計測している。
【0030】
従って、計測治具5を用いて、エルボ1の外径を計測する場合、先ず、計測枠11をエルボ1に取り付けた後、計測枠11を支持台13で支持することで、エルボ1に対し計測枠11が固定される。計測枠11が固定された状態で、複数の計測穴12に、計測器30を順次挿入して、複数の計測穴12における変位量Hを計測する。これにより、エルボ1の周方向における外径を、複数の計測穴12に対応した複数の計測点において計測することができる。なお、図1に示すように、エルボ1の外径の計測は、エルボ1の軸方向に対して、複数箇所(本実施例では5箇所)P1,P2,P3,P4,P5で行うこともできる。
【0031】
続いて、エルボ1の断面形状を計測する断面形状計測方法について説明する。この断面形状計測方法では、外径計測工程と、厚さ計測工程と、外径詳細計測工程とを順に行っている。外径計測工程は、上記の計測治具5を用いて、エルボ1の軸方向に直交する断面の外径を計測する工程である。外径計測工程では、上記したように、複数の計測穴12における変位量Hを計測することで、エルボ1の周方向における外径を計測している。
【0032】
厚さ計測工程では、超音波計測装置を用いて、外径計測工程の複数の計測穴12に対応した複数の計測点における径方向の厚さを計測している。超音波計測装置は、非破壊計測により、エルボ1の外部から、エルボ1の径方向の厚さを計測する周知の装置である。厚さ計測工程において、複数の計測点における径方向の厚さを計測することで、外径の計測点と同数の内径の計測点を得ることができ、これにより、エルボ1の断面の内径を計測することができる。
【0033】
図4は、型取りゲージを用いて溶接部の外径を計測する説明図である。図4に示すように、外径詳細計測工程では、型取りゲージ40を用いて、エルボ1の溶接部3における外径を型取りして計測している。型取りゲージ40は、周知のゲージであり、複数のゲージ針41を有している。複数のゲージ針41は、ゲージ針41の長手方向に直交する方向に並べて設けられ、各ゲージ針41は、長手方向に移動自在となっている。外径詳細計測工程では、この型取りゲージ40を、溶接部3におけるエルボ1の外周面に押し当てることで、溶接部3の外径を詳細に計測している。
【0034】
この後、図5に示すように、外径計測工程により得られたエルボ1の外径計測結果と、厚さ計測工程により得られたエルボ1の内径計測結果と、外径詳細計測工程により得られたエルボ1の溶接部3における外径詳細計測結果とを、座標を合わせて重ね合わせる。そして、重ね合わせた計測結果を計測データとして用いて解析を行うことにより、エルボ1の余寿命を予測している。
【0035】
以上のように、本実施例に示す計測枠11を含む計測治具5は、エルボ1に対し簡単に取りつけることができる。また、計測治具5を簡単な構成とすることができるため、安価なものとすることができる。さらに、計測治具5はコンパクトな構成であるため、設置スペースを最小限とすることができ、また、計測治具5を用いた計測作業の作業スペースも最小限とすることができる。これにより、エルボ1周りのスペースが狭くとも、好適にエルボ1の外径を計測することができる。そして、複数の計測穴12にダイヤルゲージ30を挿入するだけであるため、計測作業を簡単に行うことができる。
【0036】
また、本実施例の断面形状計測方法によれば、安価な構成で、エルボ1周りのスペースが狭くとも、エルボ1の軸方向に直交する断面の外径を簡単に計測することができる。なお、本実施例では、支持台13を用いて、計測枠11を支持したが、これに限らず、計測枠11をエルボ1に支持可能な支持台を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係る計測治具および配管の断面形状計測方法は、プラントに配設されたエルボを計測する場合に有用であり、特に、配管周りのスペースが狭い場合に適している。
【符号の説明】
【0038】
1 エルボ
3 溶接部
5 計測治具
11 計測枠
12 計測穴
13 支持台
15 分割計測枠
16 締結部材
21 ストッパ
30 ダイヤルゲージ(計測器)
31 ゲージ本体
32 先端部
40 型取りゲージ
H 変位量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の軸方向に直交する断面の外径を計測する計測治具であって、
前記配管に取付可能に構成され、前記配管の外径よりも大径となる円形の計測枠と、
前記計測枠に形成され、計測器を挿入可能に、前記計測枠の径方向に貫通形成した計測穴と、を備え、
前記計測枠は、真円との誤差が予め計測され、
前記計測穴は、前記計測枠の周方向に複数設けられていることを特徴とする計測治具。
【請求項2】
前記計測枠は、周方向に分割した複数の分割計測枠と、前記複数の分割計測枠を締結する締結部材と、を有していることを特徴とする請求項1に記載の計測治具。
【請求項3】
前記計測器は、本体部と、前記本体部に対して出没可能な先端部と、を有し、
前記計測穴は、前記本体部の径方向への移動を規制するストッパを有し、
前記計測器は、前記先端部が前記計測穴を通過して前記配管の外面に突き当たってから、前記本体部がストッパに突き当たるまでの変位量を計測していることを特徴とする請求項1または2に記載の計測治具。
【請求項4】
配管の軸方向に直交する断面の形状を計測する配管の断面形状計測方法であって、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の計測治具を用いて、前記配管の軸方向に直交する断面の外径を計測する外径計測工程と、
板厚計測装置を用いて、前記外径計測工程において計測した外径に対する径方向の厚さを計測する厚さ計測工程と、を備えたことを特徴とする配管の断面形状計測方法。
【請求項5】
前記板厚計測装置は、超音波計測装置であることを特徴とする請求項4に記載の配管の断面形状計測方法。
【請求項6】
前記配管は、溶接部を有し、
型取りゲージを用いて、前記溶接部における前記配管の外径を型取りして計測する外径詳細計測工程をさらに備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の配管の断面形状計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122979(P2012−122979A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276414(P2010−276414)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】