試料作成装置および試料姿勢転換方法
【課題】 簡便に試料小片の姿勢を90度、180度、あるいは任意の角度だけ回転させて試料台に固定可能な装置を提供すること。
【解決手段】 試料7の表面とマニピュレータ回転軸2の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸2の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線11に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸2を動作させることを特徴とする試料作成装置。
【解決手段】 試料7の表面とマニピュレータ回転軸2の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸2の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線11に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸2を動作させることを特徴とする試料作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過電子顕微鏡用試料を作成するための集束イオンビーム装置及び複合荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)の試料を作製するために集束イオンビーム装置は広く用いられている。特に半導体デバイスのプロセスモニタリングや故障解析の分野では、集束イオンビームによる試料作製は、試料薄片の位置決め精度が非常に高いためなくてはならない技術となっている。
【0003】
集束イオンビームによるTEM試料作製は、試料中の観察したい部位を集束イオンビーム装置のイオン顕微鏡像により位置決めし、観察対象の断面の両側をイオンビームエッチング加工で取り除くことにより観察対象の薄片を作製する。作製された薄片は、TEM観察用の試料台に移され、TEM観察を行う。
【0004】
半導体デバイスの微細化により、TEM試料は100ナノメートル以下の厚みにすることが要求される場合が増えている。このように非常に薄い試料はTEM観察用の試料台に移動する際に破損する危険が大きいので、ある程度厚みを残してTEM観察用の試料台に移設し、TEM観察用の試料台の上で最終的な薄片化が行われることが多い。これらのTEM試料薄片の典型的な大きさは概ね10マイクロメートル平方で厚みが数マイクロメートル程度である。このような微細な試料をハンドリングするには、精密動作が可能なアクチュエータに、非常に先鋭な先端をもつニードルを装着したマニピュレータを用いる例がある。ニードルを試料に近づけてイオンビームデポジションでニードルと試料を固定し、アクチュエータと試料ステージの操作でTEM試料台に試料を接近させる。その後、再びイオンビームデポジションで試料を試料台に固定する。通常これらの操作は、集束イオンビーム装置の視野内で行われるため、マニピュレータの動作の自由度は少ない。そのため、取り出された試料は取り出された時と同じ姿勢のまま試料台に固定されることになる。多くの場合半導体試料では、配線層が上で基板が下の状態で試料台に固定される。
【0005】
この状態で最終的な薄片化加工を行うが、配線部分、層間絶縁膜および基板などの部位によりイオンビームによるエッチングの効率が異なるため、試料下部の薄片化加工の仕上がり状態は上部の構造の影響を受ける場合がある。MOSトランジスタのゲート酸化膜付近の観察やビアの底部観察などにおいて、このような上部構造の影響は問題視されている。
【0006】
このような問題を回避するために、特許文献1においては試料母体を表裏逆にして裏側から摘出する方法や、回転軸および傾斜機構の付いたマニピュレータを用いる方法が開示されている。試料母体を表裏逆にして裏側から摘出する方法は、大多数の試料でTEM観察を行う部位は表面からは10um程度の深さにあるが、裏面からは数百マイクロメートル以上の深さとなり、裏面から試料を取り出すには事前に裏面の研磨を行うなど特別な前処理が必要となる。さらには、研磨の終点の検出も非常に困難であり、実用性の面で大きな問題がある。また、回転軸および傾斜機構のついたマニピュレータを用いる方法では、マニピュレータの取付角度に応じて、数十度程度の傾斜が必要になる。数十度の傾斜を行った上で集束イオンビーム装置の視野内に対象の試料を留めるには傾斜以外に数十ミリメートル程度のストロークをもつ並進機構が必要であると考えられる。加えて、近年広く普及している集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡の複合装置においては、試料近傍の空間は制約が多くこのような機構を装備することは非常な困難が予想される。
【0007】
このように、試料薄片の姿勢を回転した状態でTEM試料台に固定して最終薄片化を行う手法の重要性は広く認識されているが、TEM試料薄片の取り出しから、姿勢転換、そして試料台への固定までのプロセスを効率良く行える装置は未だ提供されていない。
【特許文献1】特開2007-108105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような技術動向を考慮し、簡便に試料小片の姿勢を90度、180度、あるいは任意の角度だけ回転させて試料台に固定可能な装置を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の第一の様態は、
試料ステージと、マニピュレータを備える。試料ステージは、マニピュレータとは独立に試料ステージを回転可能な少なくとも一つの試料ステージ回転軸を有する。マニピュレータは、マニピュレータ回転軸を有し、マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができる。試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度は0度以上かつ45度以下である。試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第二の様態は、
第一の様態において、試料ステージにはさらに試料小片を移設固定するための試料小片台が設置され、所望の特定方向を直立させた状態で試料小片を試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の第三の様態は、
第二の様態において、試料小片は断面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面に平行で水平な方向である。さらに、試料小片台は試料ステージ表面に対して直立して設置されている。試料小片を、観察対象断面の法線を軸として90度回転させた姿勢にて、試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の第四の様態は、
第二の様態において、試料小片は断面観察用の電子顕微鏡観察用薄片試料または仕上げ加工前の電子顕微鏡観察用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面の法線方向
とすることで、観察対象断面が水平になるように試料小片の姿勢を制御することが可能となる。さらに、試料小片台は試料ステージ表面に対して水平に設置し、試料ステージ回転軸を動作させることで、試料小片に対して試料小片台を所望の位置に回転させた後に試料小片を固定することで、試料小片台に対して、試料小片の観察対象断面の任意の方向が上になるように固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の第五の様態は、
第二の様態において、試料小片は平面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料である。試料小片台は試料ステージに対して垂直に設置し、試料小片の水平面を直立させて試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の第六の様態は、
第三から第五の様態において、試料小片中の特定方向を指定することで、マニピュレータ回転軸に対して適正な角度になるよう自動的に試料ステージを制御する機能を備えることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の第七の様態は、
マニピュレータ回転軸を有し、マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができ、かつ試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度は0度以上かつ45度以下であるマニピュレータ、およびマニピュレータとは独立に試料ステージを回転可能な少なくとも一つの試料ステージ回転軸を有する試料ステージとを用い。試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料姿勢転換方法を用いることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便に試料小片の姿勢を90度、180度、あるいは任意の角度だけ回転させて試料台に固定可能な装置を提供することが可能である。この装置を用いることで配線構造の影響を受けずに非常に高品位なTEM試料の作成が非常に効率よく行うことが出来るため、半導体分野の故障解析やプロセスモニタリング等の分野に非常に大きな貢献をすることが出来る。
【0017】
本発明はマニピュレータに回転軸を備え、通常広く用いられている形式の試料ステージの制御と組み合わせるで、課題を解決することが可能で、適用可能な装置の形態にも制限は少ない。また、試料小片の姿勢を回転させない通常の方法と比較しても特別な前処理や複雑な操作は付加されない。このため、適用する装置に制限が少ないことと操作が簡単であるという2つの意味で非常に効率が良く実用性が高いと言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施形態1)
図1から図3は本発明を実施した試料作製装置の略図を示す。図1は斜視図、図2は上面図、そして図3は側面図である。
【0019】
各部の関係をわかりやすく示すために、大きさの比率は実施とは異なる。
【0020】
ここでは、集束イオンビーム装置に本発明を組み込んだ例を開示する。
試料ステージは5軸で構成される。ステージ回転軸を有する回転ステージ5は、XYZ直交ステージ6の上部に配され、ステージ回転軸とXY軸を協働させることで試料ステージ上の任意の点を中心とした回転動作が可能となる。このようなステージ動作を以降の説明ではコンピューセントリックローテーションと呼称する。さらにこれらのステージは、チルトステージの上に配されており、必要に応じて試料ステージの表面の角度を集束イオンビームに対して変化させることが出来る。以下の説明では、集束イオンビーム鏡筒が垂直に配置され、試料ステージ表面は水平であり、試料表面も水平と見なすことが出来る状態を前提とする。この前提は、過度に一般化した表現により説明文中での各要素の位置関係の説明が複雑になりすぎることを避けるためであり、発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
マニピュレータ1はマイクロメートル以下の位置制御が可能な3軸アクチュエータ4に、マニピュレータ回転機構3を取付け、そのマニピュレータ回転軸2にほぼ一致するように先端が非常に先鋭なニードルを取付けた構成としている。
【0022】
マニピュレータ1はチルトステージに対して独立に固定されており、ステージの並進動作、回転動作に影響を受けずに集束イオンビーム装置視野周辺に先端がとどまるようになっている。マニピュレータ1が全てのステージ機構と独立に設置される場合もあるが、本発明の本質は実際に試料をマニピュレータに固定する時点での、マニピュレータ回転軸2と試料小片8の特定方向の位置関係にあるのであって、マニピュレータ1の固定場所の違いは本発明の権利範囲の認識に影響を与えない。
【0023】
マニピュレータ回転軸2の回転ステージ5表面に対する角度すなわち図3に示したマニピュレータ取付け角度12は、0度から45度の範囲で任意に選べるが、ここでは20度の角度で取り付けた場合について説明する。
【0024】
回転ステージ5には、試料小片台9と試料7とが取り付けられている。試料小片台9は、直径3mm程度の薄い円盤状あるいはその円盤を切り欠いた形状をしている。この、3mmの薄い円盤形を基本とした形は市販されている大多数のTEMに設置可能な形状である。この例では、概ね半円の形の試料小片台9が円弧部分を下にして、直立した形で取り付けられている。試料7はTEM試料を作製したい部位を含み、この部位を含む試料小片8を取り出すことになる。ここでは試料7の例として半導体素子について説明する。取り付けられた半導体素子は、観察したい特定断面を含む領域の両側を集束イオンビーム装置によりイオンビームエッチング加工して直立した姿勢の板状の試料小片8が作製される。
【0025】
次に、この試料小片8とマニピュレータ回転軸2との位置関係の設定方法の説明に先立ち、角度の関連を表現するためにいくつかの定義を行う。第一に、マニピュレータ回転軸2と試料7の表面との交点を一端とする試料7の表面に対する法線を、マニピュレータ回転軸2の周りに回転させることで得られる仮想円錐10を想定する。第二に、仮想円錐10の頂点を含む水平面を考え、この水平面と仮想円錐10の交わる線を交線11とする。
【0026】
第三に交線11の方位を表す角度を交線方位角13とする。交線方位角13は、真上から見た時マニピュレータ回転軸と交線11が重なった状態を0度として定義する。
【0027】
以下に、ここまでで定義した用語を用いて、位置関係の設定方法の詳細を説明する。交線方位角13はマニピュレータ取付け角度12の関数として定まり、マニピュレータ取付け角度12が20度の場合交線方位角13は68.7度となる。試料小片8は前述の通り、直立した板状であるため、その上面は細長い長方形である。その長方形の長辺を、交線11と一致するように回転ステージ5とXYZ直交ステージ6をコンピューセントリックローテーション動作させる。
【0028】
この状態で、試料小片8にマニピュレータ1を接近させ、試料小片8をマニピュレータ1に固定する。この場合の固定は、イオンビームによるデポジション膜をマニピュレータ1の先端と試料小片8にまたがるように堆積させて行う。マニピュレータ1と試料小片8が固定されたならば、マニピュレータ1の3軸アクチュエータ4を操作し、試料小片8を試料7から取り出す。その後、マニピュレータ回転機構3の動作によりマニピュレータ1と試料7が干渉しないように試料ステージを待避させる。具体的には、XYZ直交ステージ6のZ軸を動作させて試料ステージを下降させることによって待避を行う。待避の量は回転精度に応じて適宜決めればよい。
【0029】
この状態で、マニピュレータ回転軸2を動作させると、交線11と一致した状態でマニピュレータ1に固定された試料小片8の上面の長辺は、当然ながらマニピュレータ回転軸2を軸として回転し、仮想円錐10と一致する。この仮想円錐10は、試料ステージ表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸2の周りに回転させた物として定義したのだから、試料小片8の上面の長辺が垂直になるマニピュレータ回転軸2の回転角度が必ず存在する。上辺が直立したところでマニピュレータ回転軸2を停止させることで、板状の試料小片8が90度回転した姿勢を作ることが出来る。直立かどうかは、観察により決定するか、または幾何学的な計算によりマニピュレータ回転軸2の回転角度をもとめて、必要量だけ回転させることも出来る。この回転角度も、マニピュレータ取付け角度12の関数として計算でき、マニピュレータ取付け角度12が20の時は、必要な回転角度は97.6度となる。図4は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させる前の状態、図5は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させ板状の試料小片8を90度回転した状態を表す模式図である。どちらの図にも、試料小片8とマニピュレータ1および仮想円錐10が描かれている。
【0030】
これ以降、試料小片8を試料小片台9に固定する過程を説明する。まず、XYZ直交ステージ6を動作させて試料小片台9を集束イオンビーム装置の視野内に移動させる。この時試料小片台9は前述のように直立した状態で保持されている。図6に示したように、試料小片台9と、試料小片8の方向が揃うように回転ステージ5とXYZ直交ステージ6をコンピューセントリックローテーション動作させる。さらにマニピュレータ1の3軸アクチュエータ4を動作させて、試料小片台9のごく近くまで試料小片8を接近させ、イオンビームによるデポジション膜により試料小片台9に固定する。最後にマニピュレータ1と試料小片8を集束イオンビーム装置を用いてイオンビームエッチングにより切り離す。このようにして、板状に成形された試料小片8を90度回転させた状態で試料小片台9に固定することが出来る。ここで述べた例と、一般に行われている、試料小片の姿勢を変化させないでTEM試料を試料台に移設する方法と比べると、増えているプロセスは試料小片8の位置設定と、マニピュレータ回転軸2の回転のみであり、簡便に90度回転した状態で試料小片を取り付ける方法を提供するという課題を解決している。
【0031】
(実施形態2)
第2の実施例を、実施例1と異なる部分を記述することで説明する。本実施例では実施例1における、試料小片8とマニピュレータ回転軸2の位置設定の過程において、交線11と試料小片8の位置関係が異なる。本実勢例では直立した板状に成形された試料小片8の上面の短辺が、交線方位角13と一致するように試料小片8の位置を設定する。この位置は、実施例1で行った位置設定の結果に対して90度回転した位置となる。この状態で、試料小片8とマニピュレータ1を固定し、実施例1と同様に試料ステージを待避させてからマニピュレータ回転軸2を動作させる。この状態では、板状の試料小片8の上面の短辺方向、言い換えれば板状の試料小片8の厚み方向が直立する条件が必ず存在する。厚み方向が垂直になる状態でマニピュレータ回転軸2を停止すると、板状に成形された試料小片8は試料ステージ表面に平行な姿勢となる。
【0032】
本実施例では、試料小片台9は試料ステージに水平に固定される。これまでに述べたように板状に成形された試料小片8も水平な姿勢に回転されているので、回転ステージ5を用いることで、試料小片8に対して試料小片台9の向きを任意に選ぶことが出来る。試料小片8と試料小片台9を所望の位置関係に調節した後、実施例1と同様のプロセスで、試料小片8を試料小片台9に取り付けることで、試料小片8を任意の角度で試料小片台9に取り付けることが出来る。図7は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させる前の状態、図8は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させ板状の試料小片8を水平に姿勢転換した状態の模式図である。また、図9は本実施例において180度回転した状態で試料小片台9に試料小片8を取り付ける場合の、試料小片8と試料小片台9の位置関係を表した図であり、図10は本実施例において180度回転した状態で試料小片台9に試料小片8を取り付ける場合の、試料小片8と試料小片台9の位置関係を表した図である。
【0033】
特に図示はしないが、試料小片台9を回転ステージ5とXYZ直交ステージ6を任意の角度にコンピューセントリックローテーション動作させることで、任意の位置関係で試料小片台9に試料小片8を取り付けることが可能となる。以上に説明したような方法で、簡便に90度、180度または任意の角度で回転した状態で試料小片8を試料小片台9取り付ける方法を提供するという課題を解決している。
【0034】
(実施形態3)
実施例1及び2では、断面を観察するために直立した板状に成形された試料小片8の例を開示したが、ここでは試料7の平面に対してTEM観察を行うための試料を作製する例を開示する。集束イオンビーム装置を用いたイオンビームエッチングでは原理的に試料の上方または斜め上方からの加工しかできないため、平面を観察するための試料小片は、例えば図11に示したように試料表面を1つの面とするくさび状に作製される。この試料小片8で、試料小片台9に取り付けた時上下方向にしたい方向を交線11と一致するように位置設定する。この後、実施例1及び2と同様に試料小片8をマニピュレータ1に固定し、試料ステージ待避後、マニピュレータ回転軸2を動作させることで、平面部分が直立した姿勢を作ることが出来る。図11は本実施例においてくさび状に形成された試料小片8がマニピュレータ1に取付けられた直後の状態。また、図12は本実施例において、図11の状態からマニピュレータ回転軸2を動作させて、試料小片8のうち試料7中にあった時点で水平面だった面が直立するよう姿勢転換された状態を表す図である。上記の過程を経た後、実施例1と同様に直立させて取り付けた試料小片台9に試料小片8を取り付ける。
【0035】
このようにして、平面観察用の試料小片8を簡便に試料小片台9に取り付けることができる。
【0036】
(その他の実施形態)
ここまで述べてきた実施例からも分かるように、試料小片8と交線11の位置関係および、マニピュレータ回転軸2の回転角度は、マニピュレータ取付け角度12が決まれば決定される。そのため、所望の試料姿勢変換を指定するだけで、試料ステージの回転やマニピュレータの回転を自動で行うシステムを構築することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による試料作製装置の構成を示す斜視図。
【図2】本発明による試料作製装置の構成を示す上面図。
【図3】本発明による試料作製装置の構成を示す側面図。
【図4】実施形態1においてマニピュレータに試料小片を固定した直後の状態を表す図。
【図5】実施形態1においてマニピュレータ回転軸を動作させ、試料小片を90度回転させた状態を表す図。
【図6】実施形態1において試料小片台と試料小片の位置関係を表す図。
【図7】実施形態2においてマニピュレータに試料小片を固定した直後の状態を表す図。
【図8】実施形態2においてマニピュレータ回転軸を動作させ、板状の試料小片を水平状態に姿勢転換させた状態を表す図。
【図9】実施形態2において180度回転させた状態で試料小片を固定する場合の試料小片と試料小片台の位置関係を表す図。
【図10】実施形態2において90度回転させた状態で試料小片を固定する場合の試料小片と試料小片台の位置関係を表す図。
【図11】実施形態3においてマニピュレータに試料小片を固定した直後の状態を表す図。
【図12】実施形態3においてマニピュレータ回転軸を動作させ、くさび状の試料小片の水平面を直立の状態に姿勢転換させた状態を表す図。
【符号の説明】
【0038】
1 マニピュレータ
2 マニピュレータ回転軸
3 マニピュレータ回転機構
4 3軸アクチュエータ
5 回転ステージ
6 XYZ直交ステージ
7 試料
8 試料小片
9 試料小片台
10 仮想円錐
11 仮想円錐と水平面の交線
12 マニピュレータ取付け角度
13 交線方位角
【技術分野】
【0001】
本発明は透過電子顕微鏡用試料を作成するための集束イオンビーム装置及び複合荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)の試料を作製するために集束イオンビーム装置は広く用いられている。特に半導体デバイスのプロセスモニタリングや故障解析の分野では、集束イオンビームによる試料作製は、試料薄片の位置決め精度が非常に高いためなくてはならない技術となっている。
【0003】
集束イオンビームによるTEM試料作製は、試料中の観察したい部位を集束イオンビーム装置のイオン顕微鏡像により位置決めし、観察対象の断面の両側をイオンビームエッチング加工で取り除くことにより観察対象の薄片を作製する。作製された薄片は、TEM観察用の試料台に移され、TEM観察を行う。
【0004】
半導体デバイスの微細化により、TEM試料は100ナノメートル以下の厚みにすることが要求される場合が増えている。このように非常に薄い試料はTEM観察用の試料台に移動する際に破損する危険が大きいので、ある程度厚みを残してTEM観察用の試料台に移設し、TEM観察用の試料台の上で最終的な薄片化が行われることが多い。これらのTEM試料薄片の典型的な大きさは概ね10マイクロメートル平方で厚みが数マイクロメートル程度である。このような微細な試料をハンドリングするには、精密動作が可能なアクチュエータに、非常に先鋭な先端をもつニードルを装着したマニピュレータを用いる例がある。ニードルを試料に近づけてイオンビームデポジションでニードルと試料を固定し、アクチュエータと試料ステージの操作でTEM試料台に試料を接近させる。その後、再びイオンビームデポジションで試料を試料台に固定する。通常これらの操作は、集束イオンビーム装置の視野内で行われるため、マニピュレータの動作の自由度は少ない。そのため、取り出された試料は取り出された時と同じ姿勢のまま試料台に固定されることになる。多くの場合半導体試料では、配線層が上で基板が下の状態で試料台に固定される。
【0005】
この状態で最終的な薄片化加工を行うが、配線部分、層間絶縁膜および基板などの部位によりイオンビームによるエッチングの効率が異なるため、試料下部の薄片化加工の仕上がり状態は上部の構造の影響を受ける場合がある。MOSトランジスタのゲート酸化膜付近の観察やビアの底部観察などにおいて、このような上部構造の影響は問題視されている。
【0006】
このような問題を回避するために、特許文献1においては試料母体を表裏逆にして裏側から摘出する方法や、回転軸および傾斜機構の付いたマニピュレータを用いる方法が開示されている。試料母体を表裏逆にして裏側から摘出する方法は、大多数の試料でTEM観察を行う部位は表面からは10um程度の深さにあるが、裏面からは数百マイクロメートル以上の深さとなり、裏面から試料を取り出すには事前に裏面の研磨を行うなど特別な前処理が必要となる。さらには、研磨の終点の検出も非常に困難であり、実用性の面で大きな問題がある。また、回転軸および傾斜機構のついたマニピュレータを用いる方法では、マニピュレータの取付角度に応じて、数十度程度の傾斜が必要になる。数十度の傾斜を行った上で集束イオンビーム装置の視野内に対象の試料を留めるには傾斜以外に数十ミリメートル程度のストロークをもつ並進機構が必要であると考えられる。加えて、近年広く普及している集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡の複合装置においては、試料近傍の空間は制約が多くこのような機構を装備することは非常な困難が予想される。
【0007】
このように、試料薄片の姿勢を回転した状態でTEM試料台に固定して最終薄片化を行う手法の重要性は広く認識されているが、TEM試料薄片の取り出しから、姿勢転換、そして試料台への固定までのプロセスを効率良く行える装置は未だ提供されていない。
【特許文献1】特開2007-108105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような技術動向を考慮し、簡便に試料小片の姿勢を90度、180度、あるいは任意の角度だけ回転させて試料台に固定可能な装置を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の第一の様態は、
試料ステージと、マニピュレータを備える。試料ステージは、マニピュレータとは独立に試料ステージを回転可能な少なくとも一つの試料ステージ回転軸を有する。マニピュレータは、マニピュレータ回転軸を有し、マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができる。試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度は0度以上かつ45度以下である。試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第二の様態は、
第一の様態において、試料ステージにはさらに試料小片を移設固定するための試料小片台が設置され、所望の特定方向を直立させた状態で試料小片を試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の第三の様態は、
第二の様態において、試料小片は断面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面に平行で水平な方向である。さらに、試料小片台は試料ステージ表面に対して直立して設置されている。試料小片を、観察対象断面の法線を軸として90度回転させた姿勢にて、試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の第四の様態は、
第二の様態において、試料小片は断面観察用の電子顕微鏡観察用薄片試料または仕上げ加工前の電子顕微鏡観察用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面の法線方向
とすることで、観察対象断面が水平になるように試料小片の姿勢を制御することが可能となる。さらに、試料小片台は試料ステージ表面に対して水平に設置し、試料ステージ回転軸を動作させることで、試料小片に対して試料小片台を所望の位置に回転させた後に試料小片を固定することで、試料小片台に対して、試料小片の観察対象断面の任意の方向が上になるように固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の第五の様態は、
第二の様態において、試料小片は平面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料である。試料小片台は試料ステージに対して垂直に設置し、試料小片の水平面を直立させて試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の第六の様態は、
第三から第五の様態において、試料小片中の特定方向を指定することで、マニピュレータ回転軸に対して適正な角度になるよう自動的に試料ステージを制御する機能を備えることを特徴とする試料作成装置とすることである。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の第七の様態は、
マニピュレータ回転軸を有し、マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができ、かつ試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度は0度以上かつ45度以下であるマニピュレータ、およびマニピュレータとは独立に試料ステージを回転可能な少なくとも一つの試料ステージ回転軸を有する試料ステージとを用い。試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料姿勢転換方法を用いることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便に試料小片の姿勢を90度、180度、あるいは任意の角度だけ回転させて試料台に固定可能な装置を提供することが可能である。この装置を用いることで配線構造の影響を受けずに非常に高品位なTEM試料の作成が非常に効率よく行うことが出来るため、半導体分野の故障解析やプロセスモニタリング等の分野に非常に大きな貢献をすることが出来る。
【0017】
本発明はマニピュレータに回転軸を備え、通常広く用いられている形式の試料ステージの制御と組み合わせるで、課題を解決することが可能で、適用可能な装置の形態にも制限は少ない。また、試料小片の姿勢を回転させない通常の方法と比較しても特別な前処理や複雑な操作は付加されない。このため、適用する装置に制限が少ないことと操作が簡単であるという2つの意味で非常に効率が良く実用性が高いと言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施形態1)
図1から図3は本発明を実施した試料作製装置の略図を示す。図1は斜視図、図2は上面図、そして図3は側面図である。
【0019】
各部の関係をわかりやすく示すために、大きさの比率は実施とは異なる。
【0020】
ここでは、集束イオンビーム装置に本発明を組み込んだ例を開示する。
試料ステージは5軸で構成される。ステージ回転軸を有する回転ステージ5は、XYZ直交ステージ6の上部に配され、ステージ回転軸とXY軸を協働させることで試料ステージ上の任意の点を中心とした回転動作が可能となる。このようなステージ動作を以降の説明ではコンピューセントリックローテーションと呼称する。さらにこれらのステージは、チルトステージの上に配されており、必要に応じて試料ステージの表面の角度を集束イオンビームに対して変化させることが出来る。以下の説明では、集束イオンビーム鏡筒が垂直に配置され、試料ステージ表面は水平であり、試料表面も水平と見なすことが出来る状態を前提とする。この前提は、過度に一般化した表現により説明文中での各要素の位置関係の説明が複雑になりすぎることを避けるためであり、発明の範囲を限定するものではない。
【0021】
マニピュレータ1はマイクロメートル以下の位置制御が可能な3軸アクチュエータ4に、マニピュレータ回転機構3を取付け、そのマニピュレータ回転軸2にほぼ一致するように先端が非常に先鋭なニードルを取付けた構成としている。
【0022】
マニピュレータ1はチルトステージに対して独立に固定されており、ステージの並進動作、回転動作に影響を受けずに集束イオンビーム装置視野周辺に先端がとどまるようになっている。マニピュレータ1が全てのステージ機構と独立に設置される場合もあるが、本発明の本質は実際に試料をマニピュレータに固定する時点での、マニピュレータ回転軸2と試料小片8の特定方向の位置関係にあるのであって、マニピュレータ1の固定場所の違いは本発明の権利範囲の認識に影響を与えない。
【0023】
マニピュレータ回転軸2の回転ステージ5表面に対する角度すなわち図3に示したマニピュレータ取付け角度12は、0度から45度の範囲で任意に選べるが、ここでは20度の角度で取り付けた場合について説明する。
【0024】
回転ステージ5には、試料小片台9と試料7とが取り付けられている。試料小片台9は、直径3mm程度の薄い円盤状あるいはその円盤を切り欠いた形状をしている。この、3mmの薄い円盤形を基本とした形は市販されている大多数のTEMに設置可能な形状である。この例では、概ね半円の形の試料小片台9が円弧部分を下にして、直立した形で取り付けられている。試料7はTEM試料を作製したい部位を含み、この部位を含む試料小片8を取り出すことになる。ここでは試料7の例として半導体素子について説明する。取り付けられた半導体素子は、観察したい特定断面を含む領域の両側を集束イオンビーム装置によりイオンビームエッチング加工して直立した姿勢の板状の試料小片8が作製される。
【0025】
次に、この試料小片8とマニピュレータ回転軸2との位置関係の設定方法の説明に先立ち、角度の関連を表現するためにいくつかの定義を行う。第一に、マニピュレータ回転軸2と試料7の表面との交点を一端とする試料7の表面に対する法線を、マニピュレータ回転軸2の周りに回転させることで得られる仮想円錐10を想定する。第二に、仮想円錐10の頂点を含む水平面を考え、この水平面と仮想円錐10の交わる線を交線11とする。
【0026】
第三に交線11の方位を表す角度を交線方位角13とする。交線方位角13は、真上から見た時マニピュレータ回転軸と交線11が重なった状態を0度として定義する。
【0027】
以下に、ここまでで定義した用語を用いて、位置関係の設定方法の詳細を説明する。交線方位角13はマニピュレータ取付け角度12の関数として定まり、マニピュレータ取付け角度12が20度の場合交線方位角13は68.7度となる。試料小片8は前述の通り、直立した板状であるため、その上面は細長い長方形である。その長方形の長辺を、交線11と一致するように回転ステージ5とXYZ直交ステージ6をコンピューセントリックローテーション動作させる。
【0028】
この状態で、試料小片8にマニピュレータ1を接近させ、試料小片8をマニピュレータ1に固定する。この場合の固定は、イオンビームによるデポジション膜をマニピュレータ1の先端と試料小片8にまたがるように堆積させて行う。マニピュレータ1と試料小片8が固定されたならば、マニピュレータ1の3軸アクチュエータ4を操作し、試料小片8を試料7から取り出す。その後、マニピュレータ回転機構3の動作によりマニピュレータ1と試料7が干渉しないように試料ステージを待避させる。具体的には、XYZ直交ステージ6のZ軸を動作させて試料ステージを下降させることによって待避を行う。待避の量は回転精度に応じて適宜決めればよい。
【0029】
この状態で、マニピュレータ回転軸2を動作させると、交線11と一致した状態でマニピュレータ1に固定された試料小片8の上面の長辺は、当然ながらマニピュレータ回転軸2を軸として回転し、仮想円錐10と一致する。この仮想円錐10は、試料ステージ表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸2の周りに回転させた物として定義したのだから、試料小片8の上面の長辺が垂直になるマニピュレータ回転軸2の回転角度が必ず存在する。上辺が直立したところでマニピュレータ回転軸2を停止させることで、板状の試料小片8が90度回転した姿勢を作ることが出来る。直立かどうかは、観察により決定するか、または幾何学的な計算によりマニピュレータ回転軸2の回転角度をもとめて、必要量だけ回転させることも出来る。この回転角度も、マニピュレータ取付け角度12の関数として計算でき、マニピュレータ取付け角度12が20の時は、必要な回転角度は97.6度となる。図4は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させる前の状態、図5は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させ板状の試料小片8を90度回転した状態を表す模式図である。どちらの図にも、試料小片8とマニピュレータ1および仮想円錐10が描かれている。
【0030】
これ以降、試料小片8を試料小片台9に固定する過程を説明する。まず、XYZ直交ステージ6を動作させて試料小片台9を集束イオンビーム装置の視野内に移動させる。この時試料小片台9は前述のように直立した状態で保持されている。図6に示したように、試料小片台9と、試料小片8の方向が揃うように回転ステージ5とXYZ直交ステージ6をコンピューセントリックローテーション動作させる。さらにマニピュレータ1の3軸アクチュエータ4を動作させて、試料小片台9のごく近くまで試料小片8を接近させ、イオンビームによるデポジション膜により試料小片台9に固定する。最後にマニピュレータ1と試料小片8を集束イオンビーム装置を用いてイオンビームエッチングにより切り離す。このようにして、板状に成形された試料小片8を90度回転させた状態で試料小片台9に固定することが出来る。ここで述べた例と、一般に行われている、試料小片の姿勢を変化させないでTEM試料を試料台に移設する方法と比べると、増えているプロセスは試料小片8の位置設定と、マニピュレータ回転軸2の回転のみであり、簡便に90度回転した状態で試料小片を取り付ける方法を提供するという課題を解決している。
【0031】
(実施形態2)
第2の実施例を、実施例1と異なる部分を記述することで説明する。本実施例では実施例1における、試料小片8とマニピュレータ回転軸2の位置設定の過程において、交線11と試料小片8の位置関係が異なる。本実勢例では直立した板状に成形された試料小片8の上面の短辺が、交線方位角13と一致するように試料小片8の位置を設定する。この位置は、実施例1で行った位置設定の結果に対して90度回転した位置となる。この状態で、試料小片8とマニピュレータ1を固定し、実施例1と同様に試料ステージを待避させてからマニピュレータ回転軸2を動作させる。この状態では、板状の試料小片8の上面の短辺方向、言い換えれば板状の試料小片8の厚み方向が直立する条件が必ず存在する。厚み方向が垂直になる状態でマニピュレータ回転軸2を停止すると、板状に成形された試料小片8は試料ステージ表面に平行な姿勢となる。
【0032】
本実施例では、試料小片台9は試料ステージに水平に固定される。これまでに述べたように板状に成形された試料小片8も水平な姿勢に回転されているので、回転ステージ5を用いることで、試料小片8に対して試料小片台9の向きを任意に選ぶことが出来る。試料小片8と試料小片台9を所望の位置関係に調節した後、実施例1と同様のプロセスで、試料小片8を試料小片台9に取り付けることで、試料小片8を任意の角度で試料小片台9に取り付けることが出来る。図7は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させる前の状態、図8は本実施例においてマニピュレータ回転軸2を動作させ板状の試料小片8を水平に姿勢転換した状態の模式図である。また、図9は本実施例において180度回転した状態で試料小片台9に試料小片8を取り付ける場合の、試料小片8と試料小片台9の位置関係を表した図であり、図10は本実施例において180度回転した状態で試料小片台9に試料小片8を取り付ける場合の、試料小片8と試料小片台9の位置関係を表した図である。
【0033】
特に図示はしないが、試料小片台9を回転ステージ5とXYZ直交ステージ6を任意の角度にコンピューセントリックローテーション動作させることで、任意の位置関係で試料小片台9に試料小片8を取り付けることが可能となる。以上に説明したような方法で、簡便に90度、180度または任意の角度で回転した状態で試料小片8を試料小片台9取り付ける方法を提供するという課題を解決している。
【0034】
(実施形態3)
実施例1及び2では、断面を観察するために直立した板状に成形された試料小片8の例を開示したが、ここでは試料7の平面に対してTEM観察を行うための試料を作製する例を開示する。集束イオンビーム装置を用いたイオンビームエッチングでは原理的に試料の上方または斜め上方からの加工しかできないため、平面を観察するための試料小片は、例えば図11に示したように試料表面を1つの面とするくさび状に作製される。この試料小片8で、試料小片台9に取り付けた時上下方向にしたい方向を交線11と一致するように位置設定する。この後、実施例1及び2と同様に試料小片8をマニピュレータ1に固定し、試料ステージ待避後、マニピュレータ回転軸2を動作させることで、平面部分が直立した姿勢を作ることが出来る。図11は本実施例においてくさび状に形成された試料小片8がマニピュレータ1に取付けられた直後の状態。また、図12は本実施例において、図11の状態からマニピュレータ回転軸2を動作させて、試料小片8のうち試料7中にあった時点で水平面だった面が直立するよう姿勢転換された状態を表す図である。上記の過程を経た後、実施例1と同様に直立させて取り付けた試料小片台9に試料小片8を取り付ける。
【0035】
このようにして、平面観察用の試料小片8を簡便に試料小片台9に取り付けることができる。
【0036】
(その他の実施形態)
ここまで述べてきた実施例からも分かるように、試料小片8と交線11の位置関係および、マニピュレータ回転軸2の回転角度は、マニピュレータ取付け角度12が決まれば決定される。そのため、所望の試料姿勢変換を指定するだけで、試料ステージの回転やマニピュレータの回転を自動で行うシステムを構築することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による試料作製装置の構成を示す斜視図。
【図2】本発明による試料作製装置の構成を示す上面図。
【図3】本発明による試料作製装置の構成を示す側面図。
【図4】実施形態1においてマニピュレータに試料小片を固定した直後の状態を表す図。
【図5】実施形態1においてマニピュレータ回転軸を動作させ、試料小片を90度回転させた状態を表す図。
【図6】実施形態1において試料小片台と試料小片の位置関係を表す図。
【図7】実施形態2においてマニピュレータに試料小片を固定した直後の状態を表す図。
【図8】実施形態2においてマニピュレータ回転軸を動作させ、板状の試料小片を水平状態に姿勢転換させた状態を表す図。
【図9】実施形態2において180度回転させた状態で試料小片を固定する場合の試料小片と試料小片台の位置関係を表す図。
【図10】実施形態2において90度回転させた状態で試料小片を固定する場合の試料小片と試料小片台の位置関係を表す図。
【図11】実施形態3においてマニピュレータに試料小片を固定した直後の状態を表す図。
【図12】実施形態3においてマニピュレータ回転軸を動作させ、くさび状の試料小片の水平面を直立の状態に姿勢転換させた状態を表す図。
【符号の説明】
【0038】
1 マニピュレータ
2 マニピュレータ回転軸
3 マニピュレータ回転機構
4 3軸アクチュエータ
5 回転ステージ
6 XYZ直交ステージ
7 試料
8 試料小片
9 試料小片台
10 仮想円錐
11 仮想円錐と水平面の交線
12 マニピュレータ取付け角度
13 交線方位角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を少なくとも一つ有する試料ステージと、
前記試料ステージとは独立に回転可能で、かつ、試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度が0度以上かつ45度以下であるマニュピュレータ回転軸を有し、該マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができるマニュピュレータとからなり、
試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料作成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料作製装置において、試料ステージにはさらに試料小片を移設固定するための試料小片台が設置され、所望の特定方向を直立させた状態で試料小片を試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の試料作製装置において、試料小片は断面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面に平行で水平な方向であると共に、試料小片台は試料ステージ表面に対して直立して設置されており、
試料小片を、観察対象断面の法線を軸として90度回転させた姿勢にて、試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の試料作製装置において、試料小片は断面観察用の電子顕微鏡観察用薄片試料または仕上げ加工前の電子顕微鏡観察用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面の法線方向
とすることで、観察対象断面が水平になるように試料小片の姿勢を制御することが可能であり、さらに、試料小片台は試料ステージ表面に対して水平に設置し、試料ステージ回転軸を動作させることで、試料小片に対して試料小片台を所望の位置に回転させた後に試料小片を固定することで、試料小片台に対して、試料小片の観察対象断面の任意の方向が上になるように固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項5】
請求項2に記載の試料作製装置において、試料小片は平面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料であり、試料小片台は試料ステージに対して垂直に設置し、試料小片の水平面を直立させて試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の試料作製装置において、試料小片中の特定方向を指定することで、マニピュレータ回転軸に対して適正な角度になるよう自動的に試料ステージを制御する機能を備えることを特徴とする試料作成装置。
【請求項7】
マニピュレータ回転軸を有し、マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができ、かつ試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度は0度以上かつ45度以下であるマニピュレータ、およびマニピュレータとは独立に試料ステージを回転可能な少なくとも一つの試料ステージ回転軸を有する試料ステージとを用い、試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料姿勢転換方法。
【請求項1】
回転軸を少なくとも一つ有する試料ステージと、
前記試料ステージとは独立に回転可能で、かつ、試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度が0度以上かつ45度以下であるマニュピュレータ回転軸を有し、該マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができるマニュピュレータとからなり、
試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料作成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料作製装置において、試料ステージにはさらに試料小片を移設固定するための試料小片台が設置され、所望の特定方向を直立させた状態で試料小片を試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の試料作製装置において、試料小片は断面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面に平行で水平な方向であると共に、試料小片台は試料ステージ表面に対して直立して設置されており、
試料小片を、観察対象断面の法線を軸として90度回転させた姿勢にて、試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の試料作製装置において、試料小片は断面観察用の電子顕微鏡観察用薄片試料または仕上げ加工前の電子顕微鏡観察用薄片試料であり、試料小片の特定方向は観察対象断面の法線方向
とすることで、観察対象断面が水平になるように試料小片の姿勢を制御することが可能であり、さらに、試料小片台は試料ステージ表面に対して水平に設置し、試料ステージ回転軸を動作させることで、試料小片に対して試料小片台を所望の位置に回転させた後に試料小片を固定することで、試料小片台に対して、試料小片の観察対象断面の任意の方向が上になるように固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項5】
請求項2に記載の試料作製装置において、試料小片は平面観察用の透過電子顕微鏡用薄片試料または仕上げ加工前の透過電子顕微鏡用薄片試料であり、試料小片台は試料ステージに対して垂直に設置し、試料小片の水平面を直立させて試料小片台に固定可能であることを特徴とする試料作成装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の試料作製装置において、試料小片中の特定方向を指定することで、マニピュレータ回転軸に対して適正な角度になるよう自動的に試料ステージを制御する機能を備えることを特徴とする試料作成装置。
【請求項7】
マニピュレータ回転軸を有し、マニピュレータ回転軸と概略重なる位置に試料小片を支持することができ、かつ試料ステージ表面から測ったマニピュレータ回転軸の取付け角度は0度以上かつ45度以下であるマニピュレータ、およびマニピュレータとは独立に試料ステージを回転可能な少なくとも一つの試料ステージ回転軸を有する試料ステージとを用い、試料表面とマニピュレータ回転軸の交点を一端とする試料表面に垂直な線分をマニピュレータ回転軸の周りに回転して得られる円錐側面と、試料表面の2つの面によってつくられる交線に、試料小片の特定の方向を一致させた後、試料小片をマニピュレータで支持し、マニピュレータ回転軸を動作させることを特徴とする試料姿勢転換方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−110745(P2009−110745A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280006(P2007−280006)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
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