説明

誘電体セラミックおよび積層セラミックコンデンサ

【課題】 還元雰囲気下において焼成されても、安定した絶縁性を有する、積層セラミックコンデンサに好適な誘電体セラミックを提供する。
【解決手段】 CaTiO3系において、Snを含む組成とする。特に、SnをBaサイトに固溶させた、(Ca1-x-yBaxSny)TiO3(ただし0≦x<0.2、0.01≦y<0.2)を主成分とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体セラミックおよびそれを用いて構成される積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の主用途である積層セラミックコンデンサは、以下のようにして製造されるのが一般的である。
【0003】
まず、その表面に、所望のパターンをもって内部電極となる導電材料を付与した、誘電体セラミック原料を含むセラミックグリーンシートが用意される。
【0004】
次に、上述した導電材料を付与したセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートが積層され、熱圧着され、それによって一体化された生の積層体が作製される。
【0005】
次に、この生の積層体は焼成され、それによって、焼結後の積層体が得られる。この積層体の内部には、上述した導電材料をもって構成された内部電極が形成されている。
【0006】
次いで、積層体の外表面上に、内部電極の特定のものに電気的に接続されるように、外部電極が形成される。外部電極は、たとえば、導電性金属粉末およびガラスフリットを含む導電性ペーストを積層体の外表面上に付与し、焼き付けることによって形成される。このようにして、積層セラミックコンデンサが完成される。
【0007】
積層セラミックコンデンサは、製造原価を下げるために、その内部電極に価格の安いNiが用いられることが望まれる。このとき、Niは卑金属であることから、積層体の焼成時におけるNiの酸化を防ぐため、焼成時の雰囲気を還元雰囲気にする必要がある。
【0008】
還元雰囲気にて焼成するためには、誘電体セラミック材料に耐還元性が求められる。還元雰囲気下で焼成しても、一定の絶縁性を示す材料として、特許文献1には、(Sr,Ca)(Ti,Zr)O3系セラミック組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−80278号公報
【発明の概要】
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体セラミックにおいては、絶縁性、信頼性を確保するために、副成分としてV、Nb、W、TaおよびMoの酸化物および/または焼成後にこれらの酸化物になる化合物から選ばれる1種類以上を含む必要があるが、この化合物の含有量の僅かの変動が、電気特性を大きく変動させるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、還元雰囲気焼成をしても十分に高い絶縁性を有しながら、組成変動に対して安定な電気特性値を示す誘電体セラミックを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、(Ca1-xBax)TiO3(ただし0≦x<0.2)を主成分とし、前記主成分100モル部に対してSnを1モル部以上20モル部未満含む、誘電体セラミックである。
【0014】
また、本発明は、(Ca1-x-yBaxSny)TiO3(ただし0≦x<0.2、0.01≦y<0.2)を主成分とる、誘電体セラミックである。
【0015】
さらに、本発明は、積層された複数の誘電体セラミック層および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む積層体と、前記内部電極の特定のものに電気的に接続されるように前記積層体の外表面上に形成された外部電極とを備え、前記誘電体セラミック層が本発明の誘電体セラミックからなる積層セラミックコンデンサにも向けられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、還元雰囲気焼成をしても十分に高い絶縁性を有し、かつ安定な電気特性値を示す誘電体セラミックを得ることができる。
【0017】
また、本発明の誘電体セラミックは耐還元性に優れるため、積層セラミックコンデンサの内部電極にNiを使用することが可能となり、低コストの積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
【0020】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体2を備えている。積層体2は、積層された複数の誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成された複数の内部電極4および5とをもって構成されている。
【0021】
内部電極4および5は、好ましくは、Niを主成分としている。内部電極4および5は、積層体2の外表面にまで到達するように形成されるが、積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部電極4と他方の端面7にまで引き出される内部電極5とが、積層体2の内部において交互に配置されている。
【0022】
積層体2の外表面であって、端面6および7上には、それぞれ、外部電極8および9が形成されている。外部電極8および9は、たとえば、Cuを主成分とする導電性ペーストを塗布し、焼付けることによって形成される。一方の外部電極8は、端面6上において、内部電極4と電気的に接続され、他方の外部電極9は、端面7上において、内部電極5と電気的に接続される。
【0023】
外部電極8および9上には、はんだ付け性を良好にするため、必要に応じて、Niなどからなる第1のめっき膜10および11、さらにその上に、Snなどからなる第2のめっき膜12および13がそれぞれ形成される。
【0024】
このような積層セラミックコンデンサ1において、誘電体セラミック層3は(Ca1-xBax)TiO3(ただし0≦x<0.2)で示されるペロブスカイト化合物を主成分とする。そして、(Ca1-xBax)TiO3100モル部に対して1モル部以上20モル部未満のSnが含まれる。このSnが1モル部以上含まれることにより、絶縁抵抗率が向上する。Snが20モル部以上になると、誘電率εが低下するため望ましくない。また、同様にBa含有量xが0.2以上になると、絶縁抵抗率が低下するため望ましくない。
【0025】
このSnは、2価の陽イオンとしてCaサイトに入っていてもよいし、4価の陽イオンとしてTiサイトに入っていてもよいし、また、本発明の目的を損なわない範囲で粒界に存在したり、ペロブスカイト化合物とは異なる二次相粒子を形成していてもよい。
【0026】
本発明は、好ましくは、Snは2価の陽イオンとしてCaサイトに入る、(Ca1-x-yBaxSny)TiO3(ただし0≦x<0.2、0.01≦y<0.2)を主成分とる、誘電体セラミックである。Sn含有量yが0.01以上になることにより、さらに高い絶縁抵抗率が確保される。Sn含有量yが0.2以上になると、誘電率εが低下するため望ましくない。また、同様にBa含有量xが0.2以上になると、絶縁抵抗率が低下するため望ましくない。 なお、ペロブスカイトのCaサイト/Tiサイトのモル比は、1を中心に比較的広い範囲を取りうる。特に0.93〜1.03程度が好ましい。
【0027】
(Ca1-x-yBaxSny)TiO3誘電体セラミックの製造方法においては、通常の固相法において製造することができるが、好ましくは、(Ca1-x-yBaxSny)TiO3の合成時や、セラミックの焼結時には、Snが安定して2価の陽イオンとなるよう、雰囲気を還元雰囲気にすることが好ましい。
【0028】
なお、Snの価数を同定するには、XANES測定による価数の評価でSn-K吸収端において透過法で実施し、吸収端のケミカルシフトから価数の評価することができる。すなわち、一般的に価数が大きくなると高エネルギー側に吸収端がシフトし、このシフトとリファレンスとしてSn、SnO、SnO2と比較することで価数を同定できる。なお、TEM-EELSやESRなど価数を同定することができる他の手法によって検出しても良い。
【実施例】
【0029】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0030】
[実験例1] まず、主成分の出発原料として、CaCO3、BaCO3、TiO2、SnO2粉末を用意した。これらを、(Ca1-xBax)(Ti1-ySny)O3において表1のx、yの値となるよう秤量し、水を溶媒としたボールミルにて混合した。そして乾燥後、大気中において、800〜1000℃の温度で2時間仮焼した。このようにして、セラミック原料を得た。
【0031】
次いで、得られたセラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノール等の有機溶剤を加えて、ボールミルにより混合し、セラミックスラリーを得た。このセラミックスラリーをドクターブレード法によってシート成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0032】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、Niを主成分とする導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極となるべき導電性ペースト膜を形成した。そして、この導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを、導電性ペースト膜が引き出される側が互い違いになるように積層し、生の積層体を得た。
【0033】
次に、生の積層体を、窒素雰囲気中において300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、表1に記載の酸素分圧、焼成温度において、2時間焼成し、焼結した積層体を得た。この積層体は、セラミックグリーンシートが焼結して得られた誘電体層および導電性ペースト膜が焼結して得られた内部電極を備えているものである。
【0034】
焼成後の積層体の両端面にB23-SiO2-BaO系のガラスフリットを含有する銀ペーストを塗布し、窒素雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0035】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ2.0mm、幅1.0mmおよび厚さ1.0mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは7μmであった。また、静電容量形成に有効な誘電体セラミック層の数は5であり、誘電体セラミック層1層当たりの対向電極面積は1.7mm2であった。
【0036】
上記の各試料に係る積層セラミックコンデンサにおける誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックの誘電率εを、25℃、1kHz、1Vrmsの条件下で測定した。
【0037】
次に、誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックの抵抗率ρを、25℃の温度にて100Vの電圧を120秒間チャージして測定した絶縁抵抗から求めた。
【0038】
以上、誘電率ε、抵抗率の対数logρの結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
本発明の範囲内にある試料番号2〜7、9〜14、16〜21の試料は、logρが10以上と高い絶縁性が得られた。
【0041】
Sn量が多すぎた試料番号8、22の試料は、一定の絶縁性は得られたものの、εが50未満となった。また、Ba量が多すぎた試料番号15の試料は、logρが低い結果となった。
【0042】
[実験例2]まず、主成分の出発原料として、CaCO3、BaCO3、TiO2、SnO2粉末を用意した。これらを、(Ca1-x-yBaxSny)TiO3において表2のx、yの値となるよう秤量し、水を溶媒としたボールミルにて混合した。そして乾燥後、大気中において、900〜1000℃の温度で、酸素分圧1.0×10-11MPaの還元雰囲気下にて2時間仮焼した。このようにして、セラミック原料を得た。
【0043】
得られたセラミック原料を用いて、実験例と同じ方法において、積層セラミックコンデンサを作製した。焼成温度と焼成時の酸素分圧は表2のとおりである。
【0044】
得られた積層セラミックコンデンサにおいて、実験例1と同じ方法にて、誘電率εと低効率ρの対数値を求めた。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
本発明の範囲内にある試料番号102〜107、109〜114、116〜121の試料は、logρが10.9以上とさらに高い絶縁性が得られた。
【0047】
Sn量が多すぎた試料番号108、122の試料は、一定の絶縁性は得られたものの、εが50未満となった。Ba量が多すぎた試料番号115の試料は、logρが低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の誘電体セラミック、およびそれを用いた積層セラミックコンデンサは、各種電子回路において、容量素子として有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 誘電体セラミック層
4,5 内部電極
8,9 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ca1-xBax)TiO3(ただし0≦x<0.2)を主成分とし、前記主成分100モル部に対してSnを1モル部以上20モル部未満含む、誘電体セラミック。
【請求項2】
(Ca1-x-yBaxSny)TiO3(ただし0≦x<0.2、0.01≦y<0.2)を主成分とする、誘電体セラミック。
【請求項3】
積層された複数の誘電体セラミック層および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された内部電極を含む積層体と、前記内部電極の特定のものに電気的に接続されるように前記積層体の外表面上に形成された外部電極と、を備え、
前記誘電体セラミック層は請求項1または2に記載の誘電体セラミックからなる積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記内部電極の主成分がNiであることを特徴とする、請求項3に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−173910(P2010−173910A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19694(P2009−19694)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】