走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び走査型プローブ顕微鏡
【課題】 本発明は走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び装置に関し、探針先端と試料表面が接触せず、高速でアプローチする、走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 探針6を使用して試料1表面を走査し、試料1表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう原子間力顕微鏡であって、探針6と試料1表面の距離を近づけるための第1段階の高速アプローチと第2段階の精密アプローチを組み合わせるようにした。この結果、全体として試料表面と探針間のアプローチ時間を短縮することができる。
【解決手段】 探針6を使用して試料1表面を走査し、試料1表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう原子間力顕微鏡であって、探針6と試料1表面の距離を近づけるための第1段階の高速アプローチと第2段階の精密アプローチを組み合わせるようにした。この結果、全体として試料表面と探針間のアプローチ時間を短縮することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び装置に関し、探針と試料表面の距離をある任意の値になるまで近づけるために、高速移動・ダメージレスで行ない、測定に至るまでの時間を短縮する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型原子力間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)は、探針先端と試料表面の間に働く原子力間力を検出し、この原子力間力が一定になるようにフィードバックを行ないながら試料を走査し、試料の表面形状を得る装置である。このAFMには、多くの測定モードがあり、探針先端をコンタクトさせるコンタクトモードAFM、探針を振動させながら試料に近づけ、探針の振幅が一定になるように測定するACモードAFM、探針を試料表面に接触させずに測定するNC(Non Contact)モードAFMが代表的なものである。
【0003】
図16はACモードAFMの実施の形態例を示す構成図である。図において、1は試料、2はその上に試料1を載せ、3次元方向に試料1を移動させるスキャナ、3は該スキャナ2を移動させるモータである。該モータ3はパソコン(PC)14から駆動力を与えられるようになっている。
【0004】
4はレーザダイオード(LD)、5は圧電素子としてのPZT、6は該PZT5により微小振動を与えられるカンチレバ(以下探針という)である。7はレーザダイオード4により探針6上に照射された光の反射光を受けて電気信号に変換するフォトディテクタ(PD)、8は該フォトディテクタ7の出力を受けて信号の増幅を行なうプリアンプ、9は該プリアンプ8の出力を受けてRMS(実効値)を直流に変換するRMS−DCコンバータである。
【0005】
10はRMS−DCコンバータ9の出力を一方の入力に、他方の入力に基準値を受けてその差分を演算により求める誤差アンプ、11は基準値を発生する基準値発生部である。12は誤差アンプ10の出力を受けて、フィードバック信号を作成するフィードバック回路、13は該フィードバック回路12の出力であるトポグラフィック信号(表面形状信号)を受けて、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換器、14は該A/D変換器13の出力を受けて、所定の演算制御処理を行なうパソコン(PC)である。該パソコンPCからは、モータ3に向けてモータ駆動信号が出力される。
【0006】
15はプリアンプ8の出力を受けてFM復調を行なうFM復調器(D−PLL)である。16は該FM復調器15の出力を受けるアッテネータである。FM復調器15の出力は、アッテネータ16及びA/D変換器13に与えられる。17はフィードバック回路12の出力を受けてスキャナ2を駆動するHV−アンプである。FM復調器15の出力はA/D変換器13には、位相信号の直流成分として与えられる。このDC成分は、A/D変換器13の基準電圧となる。18はスキャンジェネレータ、19は該スキャンジェネレータ18の出力を受けて増幅するHV−アンプである。該HV−アンプ19は、ステージをX,Y2次元方向に駆動する。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0007】
先ず、光学的顕微鏡(図示せず)と高さ方向(Z軸方向)調整手段(図示せず)を用いて試料1表面と探針(カンチレバ)6間の高さ方向の距離がほぼ数μmとなるように、オペレータが機械的にマニュアルで調整を行なう。その後、自動ボタンを押すと、装置は以下のような動作により更に試料1表面と探針6間の距離が最も適正な値になるまでフィードバックによる位置制御を行なう。その制御の概要は、以下の通りである。
【0008】
探針6をPZT5により一定出力で加振して、探針6の先端部にレーザのスポットがくるように調整する。その際、反射したレーザ光をフォトディテクタ7で光信号として検出し、プリアンブ8で増幅した後RMS−DCコンバータ9を通して探針6の振幅を検出する。また、この際、探針6に印加する波形と、フォトディテクタ7で検出した波形の間には位相差が生じているため、RMS−DCコンバータ9から出力される電圧値が最大になるように、FM復調器(D−PLL)15の中で位相の調整を行なう。次に、RMS−DC値が基準値と同じ値になるまで、モータ3を使用してステージを探針6に近づける(アプローチ)。アプローチが完了した状態で、スキャナ2に走査電圧を印加し、誤差アンプ10からの出力が0になるようにフィードバック回路を動作させ、試料表面と探針間の距離の制御を行なう。
【0009】
従来のこの種の装置としては、自由端に探針を有する探針を一端に支持する圧電体を用い、探針の探針と試料との間の原子間力による探針の変位量を光学的に検出し、検出された探針変位量の変化に基づいて、前記圧電体をZ軸方向に移動制御する装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−101317号公報(段落0033〜0045、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図17はAC−AFMでアプローチを行なっている際の、RMS−DC出力信号を示す図である。縦軸は電圧(RMS−DC信号)、横軸は時間である。図より明らかなように、アプローチを開始した後、RMS−DC値は徐々に変化するが、リファレンス(基準)値に近づいた時、急激にRMS−DC値が変化している。このような急激な変化は、探針が試料表面に接触する可能性があり、探針先端や試料表面を保護するためには、避けるべき現象である。
【0011】
原子間力顕微鏡(プローブ顕微鏡)は、探針6を使用して試料1表面を走査し、試料1表面の凹凸を原子分解能で測定を行なうことができる。測定を行なう準備段階として、探針へのレーザ調整、探針6の発振調整を行なう。最初の段階として、探針と試料表面の距離を可能な限り近づけるために、光学顕微鏡を利用して、試料ステージと探針6間の距離の調整を行なう。最後に、探針先端と試料表面の距離が、ある設定された距離になるように、DCモータや、ステッピングモータを使用して近づける。これらの準備が終了した後、測定を行なうことができる。
【0012】
原子間力顕微鏡は、探針先端と試料表面の距離を、ある設定された距離まで近づける(アプローチ)ために、モータを使用している。その速度は、探針が試料表面に衝突しないように、遅い値(例えば1μm/sec以下)に設定されている。そのため、100μmの距離をアプローチさせるためには、約2分ほど待ち時間を必要とする。若し、アプローチ速度を速くした場合には、現在の制御方法では、探針先端部が試料表面に接触する危険性が高く、速度を速くすることができない。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、探針先端と試料表面が接触せず、高速でアプローチする、走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)請求項1記載の発明は、探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を検出し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行ないながら、次に、第2段階では、前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御することを特徴とする。
【0015】
(2)請求項2記載の発明は、前記試料表面観察フィードバック信号として、振幅信号又はFMD値を用いることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記第1段階における制御はモータを用いて行ない、前記第2段階における制御はピエゾ素子の伸縮とモータとを用いて行なうことを特徴とする。
【0016】
(4)請求項4記載の発明は、探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を演算し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行なう第1の制御手段と、前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御する第2の制御手段とを具備して構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
(1)請求項1記載の発明によれば、第1段階で探針への加振信号と光検出信号との位相差信号を用いてフィードバック制御により該位相信号が所定の値になるまで、試料表面と探針間の距離を調整し、次に第2段階で試料表面と探針間が最適な距離になるように試料表面観察フィードバック制御を行なうことで、少なくとも第1段階の試料表面と探針間の距離の制御を行なうシーケンスは試料表面が探針と接触をしないように前記位相信号がある所定の値になるまで、行われるので、第1段階にかかる時間を高速化することができ、探針と試料表面が接触せず、高速でアプローチすることができる。
【0018】
(2)請求項2記載の発明によれば、試料表面観察フィードバック信号としてRMS−DC信号又はFMD値を用いることができ、良好なフィードバック制御を行なうことができる。
【0019】
(3)請求項3記載の発明によれば、第1段階の試料表面と探針間の距離を調整する手段としてモータを用い、第2段階における制御は試料表面と探針間の距離の制御にモータとピエゾ素子の伸縮を用いる制御を行なうので、全体として探針と試料正面の距離が最適な値になるのに要する時間を高速化することができる。
【0020】
(4)請求項4記載の発明によれば、第1段階では探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を基に試料表面と探針間の距離を高速で所定の範囲になるように制御し、第2段階では試料表面と探針間の距離が最適な値になるように試料表面観察フィードバック制御するので、試料表面と探針間の距離に関して全体として高速でアプローチすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
(実施の形態例1)
図1はAC−AFMの際、アプローチを開始してからアプローチが止まるまでのRMS−DC値と位相(Phase:フェーズ)差信号の関係を表わす図である。ここで、位相差信号は、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差で定義される(以下同じ)。縦軸は電圧、横軸は時間である。f1は位相差信号、f2は探針からの信号を光検出器で検出した信号の振幅に比例した、試料表面観察フィードバック信号であるRMS−DC値を示している。図からも分かるように、ある時間T1で両信号を比較すると、アプローチ開始からの信号の変化量は、位相差信号の方が大きくなっている。また、信号に変化が現れる時間も位相差信号の方が早く現れる。これは、位相差信号が探針と試料間距離の変化を敏感に検出することに依存していることによる。
【0022】
このことから、位相差信号から求めたリファレンス値でアプローチを停止する直前に、位相差信号を検出してアプローチを停止することが可能であれば、探針先端が試料表面に接触せずにアプローチを停止することが可能となる。
【0023】
そこで、新しいアプローチ方法は、アプローチを2段階のアプローチの組み合わせとする。第1段階は、設定された位相差値の最小変化量を用いて試料表面と探針間の距離が所定の位置で停止するようにする。ここで、第1段階における試料表面と探針間の距離は、試料表面と探針とが接触しないことが保証される値になるように設定される。従って、この場合のアプローチは、試料と探針先端との距離は離れていることから、フィードバック制御を行ないながら、モータを用いてアプローチを行なうようにする。ここで、モータアプローチは、モータスピードを任意に設定できるようにする。次に、第2段階のアプローチは、スキャナのZ軸(高さ方向)の伸縮とステージの移動を組み合わせで動作するようにする。この第2段階では、制御信号としてRMS−DC値を用いる。もちろん、光検出器で検出した信号をピークホールドにより求めた振幅値を用いてもよい。この移動方法により、探針の先端が試料表面に接触することなく、RMS−DC値がリファレンスになるまで安全にアプローチすることができる。
【0024】
図2は新しいアプローチのアルゴリズム(AC−AFM)を示すフローチャートである。なお、以下の説明での各構成要素の識別番号で図16と同一のものは、同一の符号を付して示す。
S1:AC−AFMで探針の加振設定を行なう。
【0025】
この際、AC−AFM測定で必要となる探針6のチューニング(調整)を行なう。
S2:リファレンス値の算出、位相の調整を行なう。
RMS−DC値が最大になるように、探針6の加振信号とフォトディテクタ7で検出される信号間の位相差調整を行なう。次に、アプローチ条件のリファレンス値を算出する。上記S1,S2の作業は、AC−AFMモードで試料表面の観測を行なう際に通常行なう作業である。
S3:位相差の最小変化量の設定、アプローチ速度の設定を行なう。
【0026】
モータアプローチを、位相差信号を検出して停止するために、最小変化量を設定する。設定する最小変化量は、角度で設定し、通常2度前後を設定するが、試料や環境(大気、真空、液体等)の状態により、設定する角度は変化するので、状況に応じて設定する。また、最小変化量は角度で設定しているが、その単位は、例えば角度変換を行えば、ラジアンで設定することもできる。
【0027】
位相差調整は、電気回路の中で、電圧値で計算されることから、電圧での設定でも可能である。次に、第1段階のアプローチの際に使用する、モータアプローチの速度を設定する。モータの速度は最大で50μm/secとしているが、ステージの構造、使用するモータによっても変わるので、任意的に変更できるようにする。
S4:ステップS3で設定された速度で、モータアプローチを開始する。
【0028】
この時のスキャナのZ軸方向の状態は、フィードバック回路12を動作させ図3の(b)に示すように伸びている状態とする。図3はスキャナの状態を示す図である。(a)はリトラクト状態を、(b)は最大振り幅まで伸びている状態を示す。
S5:指定位相差値と現在の位相差値との比較を行なう
ステップS4のモータアプローチ中、位相差を観察する。アプローチ直前の位相差と、アプローチ中の位相差を比較して、ステップS3で設定された最小変化量だけ位相値が変化しているか観察する。アプローチ直前の位相差と、アプローチ中の位相差を比較して、ステップS3で設定された最小変化量だけ位相値が変化しているか観察する。位相差が最小変化量だけ変化していない場合は、モータアプローチを続行する。
S6:モータアプローチを停止する
ステップS4のアプローチ中、位相差がステップS3で設定された最小変化量だけ変化した際、モータアプローチを停止する。ステップS1〜ステップS6までの動作を第1段階のアプローチとする。以降は第2段階のアプローチである。
S7:スキャナをリトラクト状態にする
スキャナ2を一旦、リトラクト状態にする。その時の状態は図3の(a)に示すように一番縮んでいる状態にする。
S8:スキャナの最大振り幅分の半分の距離分を、試料1表面と探針6間の距離が縮まる方向にステージを移動する
図3の(a),(b)のようにスキャナがZ軸方向に伸びた状態と、縮んだ状態から最大振り幅の半分の距離を算出する。算出した距離分だけをスキャナ2を使用して試料1表面と探針6間の距離が縮まる方向へ移動する。
S9:スキャナ2をアプローチ状態にする
フィードバック回路12を動作させながら、スキャナ2のリトラクト状態を解除する。
S10:ステップS9の状態で、RMS−DC値がステップ2が算出されたリファレンス 値になっているかを誤差アンプ10で比較を行なう。
【0029】
図3の(b)のように、スキャナ2が最大振り幅まで伸びた状態で、RMS−DC値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S10の作業を繰り返す。
S11:RMS−DC値がリファレンス値になったらアプローチを終了する。
【0030】
ステップS10の状態で、RMS−DC値がリファレンス値と同じになる場合にはアプローチを終了する。また、モータアプローチを開始する時点で、位相差がステップS3で設定された最小変化量だけ変化している場合は、既に第1段階のアプローチは終了していることになるので、第1段階のアプローチは省略し、第2段階のアプローチS7から行なうようにする。
【0031】
このように、本発明の実施の形態例によれば、試料表面と探針間の距離が所定の値になるまで制御する位相差信号を用いた第1段階のアプローチと、試料表面と探針間の距離が最適な値になるようにRMS−DC信号を用いた第2段階のアプローチを行なうことで、全体としての試料表面と探針間の距離が最適なものとなる制御を行なうことで高速なアプローチが可能となる。
【0032】
(実施の形態例2)
図4はスキャナのアプローチ状態を示す図であり、前記第2段階におけるアプローチの様子を示している。図2におけるステップS7〜S11までの第2段階の作業中、スキャナ2が伸びている状態でアプローチ状態になった際のスキャナ2の図と、スキャナ2が縮んでいる状態でアプローチ状態になった際のスキャナの図を表している。通常、アプローチの状態は、同図中(c)の中間位置でのアプローチ状態のようにスキャナが伸びも縮みもする状態、つまり、印加電圧が0Vの状態が望ましい。
【0033】
しかしながら、探針6先端と試料1間の距離や、スキャナ2の最大振幅量によっては、図4の(d),(e)のようなスキャナ2の状態になる場合もある。そこで、実施の形態例1での図2におけるステップS7〜S11の作業中に、スキャナ2のアプローチ状態が中間位置に来るようなアルゴリズムを組み込む。
【0034】
次に、図4の動作について説明する。以下の説明における構成要素の識別記号は図16と同一のものは、同一の符号を付して示す。
S1:スキャナ2へ印加する電圧と、Z軸方向の振幅量から算出される電圧−振り幅特性から、単位電圧当たりの振幅量を求める。
S2:(d),(e)の状態の場合、印加されている電圧をS1の電圧−振り幅特性から距離に換算する。
S3:(d)の場合、一旦スキャナ2をリトラクト状態にし、試料1表面と探針6先端の間の距離が縮まる方向へ、S2で求まる距離分をモータで移動する。
S4:移動終了後、スキャナ2のリトラクト状態を解除し、アプローチ状態にする。
S5:(c)の場合、一旦スキャナ2をリトラクト状態にし、試料1の表面と探針先端の間の距離が伸びる方向へ、ステップS2で求まる距離分をモータで移動させる。
S6:移動終了後、スキャナのリトラクト状態を解除し、アプローチ状態にする。
【0035】
(実施の形態例3)
次の実施の形態例について説明する。図5はAC−AFMのRMS−DC値と位相差信号の関係を示す図である。図のf1は位相差(Phase)を、f2がRMS−DC特性をそれぞれ示している。縦軸は電圧、横軸は時間である。探針6の材質、レーザ照射の位置、探針6の固有振動数等によっては、図1に示す位相信号とは異なり、図5に示すように位相差信号が検出される場合もある。
【0036】
そのため、図1,図5何れの場合においても、位相差信号を検出してアプローチを停止することが可能であれば、探針6の先端が試料1表面に接触せずに、アプローチを停止することが可能となる。
【0037】
この場合、アルゴリズムは、図2のステップS2動作と同じであるが、ステップS5の「指定位相差値と現在の位相差値との比較を行なう」の作業の中で、アプローチを開始する時の位相差値へ、指定した最小変位量の値を加減算する。その時、求まった位相差値と、アプローチ中の値を比較するようにする。この方法により、図1,図5の位相差信号に対しても、第1段階のアプローチを停止することが可能となる。
【0038】
(実施の形態例4)
前記した実施の形態例1の中で、スキャナ2のリトラクト解除については、図6の(a)のようにステップ的な電圧を印加し、フィードバック回路のゲイン・フィルタ若しくはPIDの制御を行ない、スキャナ2の制御を行なっている。このような瞬時的な反応は、探針6の先端が試料1の表面に接触する危険性を含む。そこで、アプローチの際に印加する電圧を調整することが好ましい。
【0039】
図6はスキャナのZ軸方向への印加電圧を示す図である。(a)はステップ応答、(b)はランプ応答を示す。縦軸は印加電圧、横軸は時間である。(b)のように、印加する電圧をランプ応答のように印加する。このことにより、スキャナの応答性は穏やかになり、探針の衝突は、より回避できるものとなる。また、ランプ応答の出力方法は、スキャナのZ軸方向に印加する電圧をランプ応答のように時系列的に制御することや、フィードバック回路のゲイン・フィルタ若しくはPIDの制御を調整することで可能となる。
【0040】
(実施の形態例5)
図3で示した図中では、探針6が固定され、スキャナ2にモータ3を使用して、モータアプローチする構造となっている。この実施の形態例では、スキャナ2、探針6、ステージの関係を示す。このように構成されたシステムにおいては、スキャナ2、探針6、ステージの関係は、構造的に自由にとることができ、図7に示すように固定されるものではない。図7は探針、試料、ステージの関係を示す図である。スキャナ2を移動したり、カンチレバ6を移動したりすることができる。
【0041】
(実施の形態例6)
この実施の形態例では、第1段階のアプローチで、試料表面と探針先端の間の距離を、更に遠い場所で停止したい場合は、静電気力顕微鏡(EFM)の原理を利用できるようにする。静電気力顕微鏡は、試料と探針の間にバイアスを印加し、静電気力を発生させ、この静電気力による力の変化を検出する測定法である。静電気力は、引力領域よりも遠い場所で検出することができる。
【0042】
そこで、第1段階のアプローチの際、試料1と探針6の間にバイアスを印加できるようにする。この時、発生する静電気力により、探針は、より遠くの場所で力を検出することができ、位相差値の変化もより遠くの位置で検出することが可能となる。
【0043】
次に、別のタイプの発明について説明する。図8は探針の振幅−周波数特性を示す図である。縦軸は振幅、横軸は周波数である。NC(ノンコンタクト:Non Contact)−AFMでは、図8に示すように試料から受ける力の変化を、探針の共振周波数ずれ(ΔF)として検出する方式と、振幅の変化(ΔA)として検出する方式がある。周波数のずれを検出する方式は、引力領域で微弱な探針−試料間の力を検出することが可能なことから、近年、周波数のずれを検出する方式(FM−AFM)を採用している。
【0044】
図9は、NCモードAFMの実施の形態例を示すブロック図である。図16と同一のものは、同一の符号を付して示す。この図は、Non Contact Mode AFM(NC−AFM)でFM−AFMを使用した時の信号の流れを示している。共振周波数Foで振動している探針6の先端部からのレーザ光を検出し、FM復調器15aに入力する。該FM復調器15a内のD−PLLでは、探針6の発振が一定になるように、位相と振幅の調整を行なっている。周波数が指定したリファレンス(図8のF1)になるまでモータ3でアプローチを行なう。アプローチが完了した状態で、スキャナに走査電圧を印加し、誤差アンプ10からの出力(Z方向信号)が0になるように、フィードバック回路を動作させ、測定を行なう。FM復調器15aの出力である周波数復調信号(FMD)は、誤差アンプ10の一方の入力に入っている。該誤差アンプ10の他方の入力には基準値発生部11からの基準値が入力されている。その他の構成は、図16に示すものと同様である。
【0045】
(実施の形態例7)
図10はNC−AFMのFMD値と位相差信号の関係を示す図である。縦軸は電圧、横軸は時間である。この図は、NC−AFMの際、アプローチを開始してからアプローチが止まるまでのFMD値と位相差信号の関係を示している。FMD値は、位相差信号を使用して出力されるので、信号波形は同じ形となっている。f5は位相差信号を、f6はFMD信号をそれぞれ示している。しかしながら、図からも分かるように、ある時間T1で両信号を比較すると、アプローチ開始からの信号の変化量は、位相差信号の方が大きくなっている。
【0046】
また、信号に変化が現れる時間も位相差信号の方が早い。これは、位相差信号が、試料1と探針6間距離の変化を敏感に検出することに依存していることによる。このことから、FMD値から求めたリファレンス値でアプローチを停止する直前に、位相差信号を検出してアプローチを停止することが可能となる。
【0047】
そこで、新しいアプローチ手法は、アプローチを2段階の組み合わせとする。第1段階では、設定された最小位相差値の最小変化量で停止する。
試料1と探針先端との距離は離れていることから、ここまでのモータアプローチは、モータ速度を任意に設定できるようにする。次に、第2段階のアプローチは、スキャナのZ軸の伸縮とステージの移動を組み合わせて動作するようにする。この移動方法により、探針先端が試料表面に接触することがなく、FMD値がリファレンス値になるまで安全にアプローチすることができる。次に、本発明の動作について説明する。
【0048】
図11は本発明の新しいアプローチのアルゴリズム(NC−AFM)の他の例を示すフローチャートである。以下の説明中の構成要素の識別番号は、図9に示すものを用いる。以下、このフローチャートに沿って本発明を説明する。
S1:NC−AFMで探針の加振設定を行なう。
【0049】
NC−AFM測定で必要となる探針のチューニングを行なう。
S2:リファレンス値の算出
FMD値を調整し、アプローチ条件のリファレンス値を算出する。上記ステップS1,S2の作業は、NC−AFMモードで試料表面の観測を行なう際に、通常行なう作業である。
S3:位相差の最小変化量の設定、もしくは周波数変位量の設定、アプローチ速度の設定を行なう。
【0050】
モータアプローチを、位相差信号を検出して停止するために、最小変化量を設定する。 設定する最小変化量は前述したAC−AFMと同様である。ただし、上述したように、周波数変位量でも設定できるようにするため、選択できるようにする。次に、第1段階のアプローチの際に使用する、モータアプローチの速度を設定する。設定方法は、AC−AFMと同じである。
S4:モータアプローチを開始する。
【0051】
ステップS3で設定された速度で、モータアプローチを開始する。この時の、スキャ ナ2のZ軸方向の状態は、フィードバック回路12を動作させ、図12の(b)のように伸びている状態とする。
【0052】
図12は、スキャナ2の状態を示す図である。(a)はリトラクト状態を、(b)は最大振り幅まで伸びている状態をそれぞれ示す。
S5:指定位相値若しくは指定周波数変位量と、現在の位相値との比較を行なう
ステップS4のモータアプローチ中、位相差値を観察する。アプローチ直前の位相差値若しくはFMDと、アプローチ中の位相差値を比較して、ステップS3で設定された最小変化量だけの位相差、若しくは周波数変位量分だけが変化しているか監察する。位相差値若しくは周波数変位量が指定値分だけ変化していない場合は、モータアプローチを続行する。
S6:モータアプローチを停止する。
【0053】
ステップS4のアプローチ中、位相差若しくは周波数変位量がステップS3で設定された最小変化量だけ変化した際、若しくは周波数変位量だけが変化した際、アプローチを停止する。
ここで、ステップS1〜ステップS6までの動作を、第1段階のアプローチとする。
【0054】
以下は第2段階のアプローチである。
S7:スキャナをリトラクト状態にする
スキャナ2を一旦、リトラクト状態にする。その時の状態は、図12の(a)に示す ように一番縮んでいる状態になっているようにする。
S8:スキャナ2の最大振り幅分の半分の距離分を、試料1表面と探針6間の距離が縮まる方向にステージを移動する
図12に示すように、スキャナ2がZ軸方向に伸びた状態と、縮んだ状態から、最大振り幅の半分の距離を算出する。算出した距離分だけをモータ3を使用して、探針6とスキャナ2の距離が縮まる方向へ移動させる。
S9:スキャナをアプローチ状態にする。
【0055】
フィードバック回路12を動作させながら、スキャナ2のリトラクト状態を解除する。
S10:FMD値がリファレンス値になっているかどうかチェックする
ステップS9の状態で、FMD値がステップS2で算出されたリファレンス値になっているかどうか比較を行なう。FMD値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S10までの動作を繰り返す。
S11:FMD値がリファレンス値になっている場合には、アプローチを終了する。
【0056】
また、モータアプローチを開始する時点で、位相差値若しくはFMD値がステップS3で設定された最小変化量、若しくは周波数変位量だけ変化している場合には、第1段階のアプローチは省略し、第2段階のアプローチに移行するようにする。
【0057】
以上、説明したように、この実施の形態例によれば、試料表面と探針間の距離が所定の値になるまで制御する位相差信号又は周波数変位信号を用いた第1段階のアプローチと、試料表面と探針間の距離が最適な値になるようにFMD信号を用いた第2段階のアプローチを行なうことで、全体としての試料表面と探針間の距離が最適なものとなる制御を行なうことで高速なアプローチが可能となる。
【0058】
(実施の形態例8)
図13はAC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0059】
(第1段階アプローチ)
先ず、AC−AFMで探針の加振設定を行なう(S1)。次に、リファレンス値を算出し、位相差の調整を行なう(S2)。次に、位相差の最小変化量の設定と、アプローチ速度の設定を行なう(S3)。次に、モータアプローチを開始する(S4)。そして、指定位相差値になったかどうかを判定する(S5)。指定位相差値になった場合には、モータアプローチを停止する(S6)。
【0060】
(第2段階アプローチ)
ステップS6でモータアプローチが停止したら、スキャナをリトラクト状態にする(S7)。次に、NC−AFM用の自動調整を行ない、リファレンス値を算出する(S8)。次に、スキャナの最大振り幅分の半分の距離分を、探針と試料表面の距離が縮まる方向にステージを移動する(S9)。次に、スキャナをアプローチ状態にする(S10)。次に、FMD値がリファレンス値になっているかどうかチェックする(S11)。FMD値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S11を繰り返す。FMD値がリファレンス値になっていたらアプローチを終了する(S12)。
【0061】
(実施の形態例9)
図14はAC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムの他の例を示すフローチャートである。この実施の形態例は、第1段階はAC−AFMモードで行ない、第2段階はNC−AFMモードで行なうようにしたものである。
【0062】
(第1段階アプローチ)
NC−AFMで探針加振設定を行ない、AC−AFMで必要となる調整された位相差信号を保存する(S1)。次に、AC−AFMモードに切り替える(S2)。次に、位相差の最小変化量の設定アプローチ速度の設定を行なう(S3)。そして、設定された値を基にモータアプローチを開始する(S4)。次に、指定位相差値になったかどうかチェックする(S5)。指定位相差値になった場合には、モータアプローチを停止する(S6)。
【0063】
(第2段階アプローチ)
ステップS6でモータアプローチが停止すると、スキャナをリトラクト状態にする(S7)。そして、NC−AFMモードに切り替え、リファレンス値を設定する(S8)。次に、スキャナの最大振り幅分の半分の距離分を、探針と試料表面の距離が縮まる方向にステージを移動する(S9)。そして、スキャナをアプローチ状態にする(S10)。そして、FMD値がリファレンス値になっているかどうかをチェックする(S11)。FMD値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S11の処理を繰り返す。FMD値がリファレンス値になっていたらアプローチ処理を終了する(S12)。
【0064】
図15はダメージレス高速アプローチの説明図である。図において、1は試料、6は探針である。図はモータを用いた高速アプローチ領域とスキャナを用いた精密アプローチ領域からなることを示している。長距離力として働く微弱な引力を遠方から検出することができる。そこで、この力を検出するまで高速(50μm/秒)でアプローチを行ない、それ以降は精密アプローチを行なう。アプローチが短時間なので、試料表面と探針間の距離を気にせずにアプローチすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】AC−AFMのRMS−DC値と位相差信号の関係を示す図である。
【図2】新しいアプローチのアルゴリズム(AC−AFM)を示すフローチャートである。
【図3】スキャナの状態を示す図である。
【図4】スキャナのアプローチ状態を示す図である。
【図5】AC−AFMのRMS−DC値と位相差信号の関係を示す図である。
【図6】スキャナのZ軸方向への印加電圧を示す図である。
【図7】探針、試料、ステージの関係を示す図である。
【図8】探針の振幅−周波数特性を示す図である。
【図9】NCモードAFMの実施の形態例を示すブロック図である。
【図10】NC−AFMのFMD値と位相差信号の関係を示す図である。
【図11】新しいアプローチのアルゴリズム(NC−AFM)を示すフローチャートである。
【図12】スキャナの状態を示す図である。
【図13】AC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図14】AC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムの他の例を示すフローチャートである。
【図15】本発明のダメージレス高速アプローチの説明図である。
【図16】ACモードのAFMの実施の形態例を示す構成図である。
【図17】AC−AFMの際のRMS−DC出力信号を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 試料
2 スキャナ
3 モータ
4 レーザダイオード
5 圧電素子(PZT)
6 探針
7 フォトディテクタ(PD)
8 プリアンプ
10 誤差アンプ
11 基準値
12 フィードバック回路
13 A/D変換器
14 パソコン(PC)
15aFM復調器
16 アッテネータ
17 HV−アンプ
18 スパンジェネレータ
19 HV−アンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び装置に関し、探針と試料表面の距離をある任意の値になるまで近づけるために、高速移動・ダメージレスで行ない、測定に至るまでの時間を短縮する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型原子力間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)は、探針先端と試料表面の間に働く原子力間力を検出し、この原子力間力が一定になるようにフィードバックを行ないながら試料を走査し、試料の表面形状を得る装置である。このAFMには、多くの測定モードがあり、探針先端をコンタクトさせるコンタクトモードAFM、探針を振動させながら試料に近づけ、探針の振幅が一定になるように測定するACモードAFM、探針を試料表面に接触させずに測定するNC(Non Contact)モードAFMが代表的なものである。
【0003】
図16はACモードAFMの実施の形態例を示す構成図である。図において、1は試料、2はその上に試料1を載せ、3次元方向に試料1を移動させるスキャナ、3は該スキャナ2を移動させるモータである。該モータ3はパソコン(PC)14から駆動力を与えられるようになっている。
【0004】
4はレーザダイオード(LD)、5は圧電素子としてのPZT、6は該PZT5により微小振動を与えられるカンチレバ(以下探針という)である。7はレーザダイオード4により探針6上に照射された光の反射光を受けて電気信号に変換するフォトディテクタ(PD)、8は該フォトディテクタ7の出力を受けて信号の増幅を行なうプリアンプ、9は該プリアンプ8の出力を受けてRMS(実効値)を直流に変換するRMS−DCコンバータである。
【0005】
10はRMS−DCコンバータ9の出力を一方の入力に、他方の入力に基準値を受けてその差分を演算により求める誤差アンプ、11は基準値を発生する基準値発生部である。12は誤差アンプ10の出力を受けて、フィードバック信号を作成するフィードバック回路、13は該フィードバック回路12の出力であるトポグラフィック信号(表面形状信号)を受けて、アナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換器、14は該A/D変換器13の出力を受けて、所定の演算制御処理を行なうパソコン(PC)である。該パソコンPCからは、モータ3に向けてモータ駆動信号が出力される。
【0006】
15はプリアンプ8の出力を受けてFM復調を行なうFM復調器(D−PLL)である。16は該FM復調器15の出力を受けるアッテネータである。FM復調器15の出力は、アッテネータ16及びA/D変換器13に与えられる。17はフィードバック回路12の出力を受けてスキャナ2を駆動するHV−アンプである。FM復調器15の出力はA/D変換器13には、位相信号の直流成分として与えられる。このDC成分は、A/D変換器13の基準電圧となる。18はスキャンジェネレータ、19は該スキャンジェネレータ18の出力を受けて増幅するHV−アンプである。該HV−アンプ19は、ステージをX,Y2次元方向に駆動する。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0007】
先ず、光学的顕微鏡(図示せず)と高さ方向(Z軸方向)調整手段(図示せず)を用いて試料1表面と探針(カンチレバ)6間の高さ方向の距離がほぼ数μmとなるように、オペレータが機械的にマニュアルで調整を行なう。その後、自動ボタンを押すと、装置は以下のような動作により更に試料1表面と探針6間の距離が最も適正な値になるまでフィードバックによる位置制御を行なう。その制御の概要は、以下の通りである。
【0008】
探針6をPZT5により一定出力で加振して、探針6の先端部にレーザのスポットがくるように調整する。その際、反射したレーザ光をフォトディテクタ7で光信号として検出し、プリアンブ8で増幅した後RMS−DCコンバータ9を通して探針6の振幅を検出する。また、この際、探針6に印加する波形と、フォトディテクタ7で検出した波形の間には位相差が生じているため、RMS−DCコンバータ9から出力される電圧値が最大になるように、FM復調器(D−PLL)15の中で位相の調整を行なう。次に、RMS−DC値が基準値と同じ値になるまで、モータ3を使用してステージを探針6に近づける(アプローチ)。アプローチが完了した状態で、スキャナ2に走査電圧を印加し、誤差アンプ10からの出力が0になるようにフィードバック回路を動作させ、試料表面と探針間の距離の制御を行なう。
【0009】
従来のこの種の装置としては、自由端に探針を有する探針を一端に支持する圧電体を用い、探針の探針と試料との間の原子間力による探針の変位量を光学的に検出し、検出された探針変位量の変化に基づいて、前記圧電体をZ軸方向に移動制御する装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−101317号公報(段落0033〜0045、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図17はAC−AFMでアプローチを行なっている際の、RMS−DC出力信号を示す図である。縦軸は電圧(RMS−DC信号)、横軸は時間である。図より明らかなように、アプローチを開始した後、RMS−DC値は徐々に変化するが、リファレンス(基準)値に近づいた時、急激にRMS−DC値が変化している。このような急激な変化は、探針が試料表面に接触する可能性があり、探針先端や試料表面を保護するためには、避けるべき現象である。
【0011】
原子間力顕微鏡(プローブ顕微鏡)は、探針6を使用して試料1表面を走査し、試料1表面の凹凸を原子分解能で測定を行なうことができる。測定を行なう準備段階として、探針へのレーザ調整、探針6の発振調整を行なう。最初の段階として、探針と試料表面の距離を可能な限り近づけるために、光学顕微鏡を利用して、試料ステージと探針6間の距離の調整を行なう。最後に、探針先端と試料表面の距離が、ある設定された距離になるように、DCモータや、ステッピングモータを使用して近づける。これらの準備が終了した後、測定を行なうことができる。
【0012】
原子間力顕微鏡は、探針先端と試料表面の距離を、ある設定された距離まで近づける(アプローチ)ために、モータを使用している。その速度は、探針が試料表面に衝突しないように、遅い値(例えば1μm/sec以下)に設定されている。そのため、100μmの距離をアプローチさせるためには、約2分ほど待ち時間を必要とする。若し、アプローチ速度を速くした場合には、現在の制御方法では、探針先端部が試料表面に接触する危険性が高く、速度を速くすることができない。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、探針先端と試料表面が接触せず、高速でアプローチする、走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面との距離測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)請求項1記載の発明は、探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を検出し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行ないながら、次に、第2段階では、前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御することを特徴とする。
【0015】
(2)請求項2記載の発明は、前記試料表面観察フィードバック信号として、振幅信号又はFMD値を用いることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記第1段階における制御はモータを用いて行ない、前記第2段階における制御はピエゾ素子の伸縮とモータとを用いて行なうことを特徴とする。
【0016】
(4)請求項4記載の発明は、探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を演算し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行なう第1の制御手段と、前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御する第2の制御手段とを具備して構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
(1)請求項1記載の発明によれば、第1段階で探針への加振信号と光検出信号との位相差信号を用いてフィードバック制御により該位相信号が所定の値になるまで、試料表面と探針間の距離を調整し、次に第2段階で試料表面と探針間が最適な距離になるように試料表面観察フィードバック制御を行なうことで、少なくとも第1段階の試料表面と探針間の距離の制御を行なうシーケンスは試料表面が探針と接触をしないように前記位相信号がある所定の値になるまで、行われるので、第1段階にかかる時間を高速化することができ、探針と試料表面が接触せず、高速でアプローチすることができる。
【0018】
(2)請求項2記載の発明によれば、試料表面観察フィードバック信号としてRMS−DC信号又はFMD値を用いることができ、良好なフィードバック制御を行なうことができる。
【0019】
(3)請求項3記載の発明によれば、第1段階の試料表面と探針間の距離を調整する手段としてモータを用い、第2段階における制御は試料表面と探針間の距離の制御にモータとピエゾ素子の伸縮を用いる制御を行なうので、全体として探針と試料正面の距離が最適な値になるのに要する時間を高速化することができる。
【0020】
(4)請求項4記載の発明によれば、第1段階では探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を基に試料表面と探針間の距離を高速で所定の範囲になるように制御し、第2段階では試料表面と探針間の距離が最適な値になるように試料表面観察フィードバック制御するので、試料表面と探針間の距離に関して全体として高速でアプローチすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
(実施の形態例1)
図1はAC−AFMの際、アプローチを開始してからアプローチが止まるまでのRMS−DC値と位相(Phase:フェーズ)差信号の関係を表わす図である。ここで、位相差信号は、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差で定義される(以下同じ)。縦軸は電圧、横軸は時間である。f1は位相差信号、f2は探針からの信号を光検出器で検出した信号の振幅に比例した、試料表面観察フィードバック信号であるRMS−DC値を示している。図からも分かるように、ある時間T1で両信号を比較すると、アプローチ開始からの信号の変化量は、位相差信号の方が大きくなっている。また、信号に変化が現れる時間も位相差信号の方が早く現れる。これは、位相差信号が探針と試料間距離の変化を敏感に検出することに依存していることによる。
【0022】
このことから、位相差信号から求めたリファレンス値でアプローチを停止する直前に、位相差信号を検出してアプローチを停止することが可能であれば、探針先端が試料表面に接触せずにアプローチを停止することが可能となる。
【0023】
そこで、新しいアプローチ方法は、アプローチを2段階のアプローチの組み合わせとする。第1段階は、設定された位相差値の最小変化量を用いて試料表面と探針間の距離が所定の位置で停止するようにする。ここで、第1段階における試料表面と探針間の距離は、試料表面と探針とが接触しないことが保証される値になるように設定される。従って、この場合のアプローチは、試料と探針先端との距離は離れていることから、フィードバック制御を行ないながら、モータを用いてアプローチを行なうようにする。ここで、モータアプローチは、モータスピードを任意に設定できるようにする。次に、第2段階のアプローチは、スキャナのZ軸(高さ方向)の伸縮とステージの移動を組み合わせで動作するようにする。この第2段階では、制御信号としてRMS−DC値を用いる。もちろん、光検出器で検出した信号をピークホールドにより求めた振幅値を用いてもよい。この移動方法により、探針の先端が試料表面に接触することなく、RMS−DC値がリファレンスになるまで安全にアプローチすることができる。
【0024】
図2は新しいアプローチのアルゴリズム(AC−AFM)を示すフローチャートである。なお、以下の説明での各構成要素の識別番号で図16と同一のものは、同一の符号を付して示す。
S1:AC−AFMで探針の加振設定を行なう。
【0025】
この際、AC−AFM測定で必要となる探針6のチューニング(調整)を行なう。
S2:リファレンス値の算出、位相の調整を行なう。
RMS−DC値が最大になるように、探針6の加振信号とフォトディテクタ7で検出される信号間の位相差調整を行なう。次に、アプローチ条件のリファレンス値を算出する。上記S1,S2の作業は、AC−AFMモードで試料表面の観測を行なう際に通常行なう作業である。
S3:位相差の最小変化量の設定、アプローチ速度の設定を行なう。
【0026】
モータアプローチを、位相差信号を検出して停止するために、最小変化量を設定する。設定する最小変化量は、角度で設定し、通常2度前後を設定するが、試料や環境(大気、真空、液体等)の状態により、設定する角度は変化するので、状況に応じて設定する。また、最小変化量は角度で設定しているが、その単位は、例えば角度変換を行えば、ラジアンで設定することもできる。
【0027】
位相差調整は、電気回路の中で、電圧値で計算されることから、電圧での設定でも可能である。次に、第1段階のアプローチの際に使用する、モータアプローチの速度を設定する。モータの速度は最大で50μm/secとしているが、ステージの構造、使用するモータによっても変わるので、任意的に変更できるようにする。
S4:ステップS3で設定された速度で、モータアプローチを開始する。
【0028】
この時のスキャナのZ軸方向の状態は、フィードバック回路12を動作させ図3の(b)に示すように伸びている状態とする。図3はスキャナの状態を示す図である。(a)はリトラクト状態を、(b)は最大振り幅まで伸びている状態を示す。
S5:指定位相差値と現在の位相差値との比較を行なう
ステップS4のモータアプローチ中、位相差を観察する。アプローチ直前の位相差と、アプローチ中の位相差を比較して、ステップS3で設定された最小変化量だけ位相値が変化しているか観察する。アプローチ直前の位相差と、アプローチ中の位相差を比較して、ステップS3で設定された最小変化量だけ位相値が変化しているか観察する。位相差が最小変化量だけ変化していない場合は、モータアプローチを続行する。
S6:モータアプローチを停止する
ステップS4のアプローチ中、位相差がステップS3で設定された最小変化量だけ変化した際、モータアプローチを停止する。ステップS1〜ステップS6までの動作を第1段階のアプローチとする。以降は第2段階のアプローチである。
S7:スキャナをリトラクト状態にする
スキャナ2を一旦、リトラクト状態にする。その時の状態は図3の(a)に示すように一番縮んでいる状態にする。
S8:スキャナの最大振り幅分の半分の距離分を、試料1表面と探針6間の距離が縮まる方向にステージを移動する
図3の(a),(b)のようにスキャナがZ軸方向に伸びた状態と、縮んだ状態から最大振り幅の半分の距離を算出する。算出した距離分だけをスキャナ2を使用して試料1表面と探針6間の距離が縮まる方向へ移動する。
S9:スキャナ2をアプローチ状態にする
フィードバック回路12を動作させながら、スキャナ2のリトラクト状態を解除する。
S10:ステップS9の状態で、RMS−DC値がステップ2が算出されたリファレンス 値になっているかを誤差アンプ10で比較を行なう。
【0029】
図3の(b)のように、スキャナ2が最大振り幅まで伸びた状態で、RMS−DC値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S10の作業を繰り返す。
S11:RMS−DC値がリファレンス値になったらアプローチを終了する。
【0030】
ステップS10の状態で、RMS−DC値がリファレンス値と同じになる場合にはアプローチを終了する。また、モータアプローチを開始する時点で、位相差がステップS3で設定された最小変化量だけ変化している場合は、既に第1段階のアプローチは終了していることになるので、第1段階のアプローチは省略し、第2段階のアプローチS7から行なうようにする。
【0031】
このように、本発明の実施の形態例によれば、試料表面と探針間の距離が所定の値になるまで制御する位相差信号を用いた第1段階のアプローチと、試料表面と探針間の距離が最適な値になるようにRMS−DC信号を用いた第2段階のアプローチを行なうことで、全体としての試料表面と探針間の距離が最適なものとなる制御を行なうことで高速なアプローチが可能となる。
【0032】
(実施の形態例2)
図4はスキャナのアプローチ状態を示す図であり、前記第2段階におけるアプローチの様子を示している。図2におけるステップS7〜S11までの第2段階の作業中、スキャナ2が伸びている状態でアプローチ状態になった際のスキャナ2の図と、スキャナ2が縮んでいる状態でアプローチ状態になった際のスキャナの図を表している。通常、アプローチの状態は、同図中(c)の中間位置でのアプローチ状態のようにスキャナが伸びも縮みもする状態、つまり、印加電圧が0Vの状態が望ましい。
【0033】
しかしながら、探針6先端と試料1間の距離や、スキャナ2の最大振幅量によっては、図4の(d),(e)のようなスキャナ2の状態になる場合もある。そこで、実施の形態例1での図2におけるステップS7〜S11の作業中に、スキャナ2のアプローチ状態が中間位置に来るようなアルゴリズムを組み込む。
【0034】
次に、図4の動作について説明する。以下の説明における構成要素の識別記号は図16と同一のものは、同一の符号を付して示す。
S1:スキャナ2へ印加する電圧と、Z軸方向の振幅量から算出される電圧−振り幅特性から、単位電圧当たりの振幅量を求める。
S2:(d),(e)の状態の場合、印加されている電圧をS1の電圧−振り幅特性から距離に換算する。
S3:(d)の場合、一旦スキャナ2をリトラクト状態にし、試料1表面と探針6先端の間の距離が縮まる方向へ、S2で求まる距離分をモータで移動する。
S4:移動終了後、スキャナ2のリトラクト状態を解除し、アプローチ状態にする。
S5:(c)の場合、一旦スキャナ2をリトラクト状態にし、試料1の表面と探針先端の間の距離が伸びる方向へ、ステップS2で求まる距離分をモータで移動させる。
S6:移動終了後、スキャナのリトラクト状態を解除し、アプローチ状態にする。
【0035】
(実施の形態例3)
次の実施の形態例について説明する。図5はAC−AFMのRMS−DC値と位相差信号の関係を示す図である。図のf1は位相差(Phase)を、f2がRMS−DC特性をそれぞれ示している。縦軸は電圧、横軸は時間である。探針6の材質、レーザ照射の位置、探針6の固有振動数等によっては、図1に示す位相信号とは異なり、図5に示すように位相差信号が検出される場合もある。
【0036】
そのため、図1,図5何れの場合においても、位相差信号を検出してアプローチを停止することが可能であれば、探針6の先端が試料1表面に接触せずに、アプローチを停止することが可能となる。
【0037】
この場合、アルゴリズムは、図2のステップS2動作と同じであるが、ステップS5の「指定位相差値と現在の位相差値との比較を行なう」の作業の中で、アプローチを開始する時の位相差値へ、指定した最小変位量の値を加減算する。その時、求まった位相差値と、アプローチ中の値を比較するようにする。この方法により、図1,図5の位相差信号に対しても、第1段階のアプローチを停止することが可能となる。
【0038】
(実施の形態例4)
前記した実施の形態例1の中で、スキャナ2のリトラクト解除については、図6の(a)のようにステップ的な電圧を印加し、フィードバック回路のゲイン・フィルタ若しくはPIDの制御を行ない、スキャナ2の制御を行なっている。このような瞬時的な反応は、探針6の先端が試料1の表面に接触する危険性を含む。そこで、アプローチの際に印加する電圧を調整することが好ましい。
【0039】
図6はスキャナのZ軸方向への印加電圧を示す図である。(a)はステップ応答、(b)はランプ応答を示す。縦軸は印加電圧、横軸は時間である。(b)のように、印加する電圧をランプ応答のように印加する。このことにより、スキャナの応答性は穏やかになり、探針の衝突は、より回避できるものとなる。また、ランプ応答の出力方法は、スキャナのZ軸方向に印加する電圧をランプ応答のように時系列的に制御することや、フィードバック回路のゲイン・フィルタ若しくはPIDの制御を調整することで可能となる。
【0040】
(実施の形態例5)
図3で示した図中では、探針6が固定され、スキャナ2にモータ3を使用して、モータアプローチする構造となっている。この実施の形態例では、スキャナ2、探針6、ステージの関係を示す。このように構成されたシステムにおいては、スキャナ2、探針6、ステージの関係は、構造的に自由にとることができ、図7に示すように固定されるものではない。図7は探針、試料、ステージの関係を示す図である。スキャナ2を移動したり、カンチレバ6を移動したりすることができる。
【0041】
(実施の形態例6)
この実施の形態例では、第1段階のアプローチで、試料表面と探針先端の間の距離を、更に遠い場所で停止したい場合は、静電気力顕微鏡(EFM)の原理を利用できるようにする。静電気力顕微鏡は、試料と探針の間にバイアスを印加し、静電気力を発生させ、この静電気力による力の変化を検出する測定法である。静電気力は、引力領域よりも遠い場所で検出することができる。
【0042】
そこで、第1段階のアプローチの際、試料1と探針6の間にバイアスを印加できるようにする。この時、発生する静電気力により、探針は、より遠くの場所で力を検出することができ、位相差値の変化もより遠くの位置で検出することが可能となる。
【0043】
次に、別のタイプの発明について説明する。図8は探針の振幅−周波数特性を示す図である。縦軸は振幅、横軸は周波数である。NC(ノンコンタクト:Non Contact)−AFMでは、図8に示すように試料から受ける力の変化を、探針の共振周波数ずれ(ΔF)として検出する方式と、振幅の変化(ΔA)として検出する方式がある。周波数のずれを検出する方式は、引力領域で微弱な探針−試料間の力を検出することが可能なことから、近年、周波数のずれを検出する方式(FM−AFM)を採用している。
【0044】
図9は、NCモードAFMの実施の形態例を示すブロック図である。図16と同一のものは、同一の符号を付して示す。この図は、Non Contact Mode AFM(NC−AFM)でFM−AFMを使用した時の信号の流れを示している。共振周波数Foで振動している探針6の先端部からのレーザ光を検出し、FM復調器15aに入力する。該FM復調器15a内のD−PLLでは、探針6の発振が一定になるように、位相と振幅の調整を行なっている。周波数が指定したリファレンス(図8のF1)になるまでモータ3でアプローチを行なう。アプローチが完了した状態で、スキャナに走査電圧を印加し、誤差アンプ10からの出力(Z方向信号)が0になるように、フィードバック回路を動作させ、測定を行なう。FM復調器15aの出力である周波数復調信号(FMD)は、誤差アンプ10の一方の入力に入っている。該誤差アンプ10の他方の入力には基準値発生部11からの基準値が入力されている。その他の構成は、図16に示すものと同様である。
【0045】
(実施の形態例7)
図10はNC−AFMのFMD値と位相差信号の関係を示す図である。縦軸は電圧、横軸は時間である。この図は、NC−AFMの際、アプローチを開始してからアプローチが止まるまでのFMD値と位相差信号の関係を示している。FMD値は、位相差信号を使用して出力されるので、信号波形は同じ形となっている。f5は位相差信号を、f6はFMD信号をそれぞれ示している。しかしながら、図からも分かるように、ある時間T1で両信号を比較すると、アプローチ開始からの信号の変化量は、位相差信号の方が大きくなっている。
【0046】
また、信号に変化が現れる時間も位相差信号の方が早い。これは、位相差信号が、試料1と探針6間距離の変化を敏感に検出することに依存していることによる。このことから、FMD値から求めたリファレンス値でアプローチを停止する直前に、位相差信号を検出してアプローチを停止することが可能となる。
【0047】
そこで、新しいアプローチ手法は、アプローチを2段階の組み合わせとする。第1段階では、設定された最小位相差値の最小変化量で停止する。
試料1と探針先端との距離は離れていることから、ここまでのモータアプローチは、モータ速度を任意に設定できるようにする。次に、第2段階のアプローチは、スキャナのZ軸の伸縮とステージの移動を組み合わせて動作するようにする。この移動方法により、探針先端が試料表面に接触することがなく、FMD値がリファレンス値になるまで安全にアプローチすることができる。次に、本発明の動作について説明する。
【0048】
図11は本発明の新しいアプローチのアルゴリズム(NC−AFM)の他の例を示すフローチャートである。以下の説明中の構成要素の識別番号は、図9に示すものを用いる。以下、このフローチャートに沿って本発明を説明する。
S1:NC−AFMで探針の加振設定を行なう。
【0049】
NC−AFM測定で必要となる探針のチューニングを行なう。
S2:リファレンス値の算出
FMD値を調整し、アプローチ条件のリファレンス値を算出する。上記ステップS1,S2の作業は、NC−AFMモードで試料表面の観測を行なう際に、通常行なう作業である。
S3:位相差の最小変化量の設定、もしくは周波数変位量の設定、アプローチ速度の設定を行なう。
【0050】
モータアプローチを、位相差信号を検出して停止するために、最小変化量を設定する。 設定する最小変化量は前述したAC−AFMと同様である。ただし、上述したように、周波数変位量でも設定できるようにするため、選択できるようにする。次に、第1段階のアプローチの際に使用する、モータアプローチの速度を設定する。設定方法は、AC−AFMと同じである。
S4:モータアプローチを開始する。
【0051】
ステップS3で設定された速度で、モータアプローチを開始する。この時の、スキャ ナ2のZ軸方向の状態は、フィードバック回路12を動作させ、図12の(b)のように伸びている状態とする。
【0052】
図12は、スキャナ2の状態を示す図である。(a)はリトラクト状態を、(b)は最大振り幅まで伸びている状態をそれぞれ示す。
S5:指定位相値若しくは指定周波数変位量と、現在の位相値との比較を行なう
ステップS4のモータアプローチ中、位相差値を観察する。アプローチ直前の位相差値若しくはFMDと、アプローチ中の位相差値を比較して、ステップS3で設定された最小変化量だけの位相差、若しくは周波数変位量分だけが変化しているか監察する。位相差値若しくは周波数変位量が指定値分だけ変化していない場合は、モータアプローチを続行する。
S6:モータアプローチを停止する。
【0053】
ステップS4のアプローチ中、位相差若しくは周波数変位量がステップS3で設定された最小変化量だけ変化した際、若しくは周波数変位量だけが変化した際、アプローチを停止する。
ここで、ステップS1〜ステップS6までの動作を、第1段階のアプローチとする。
【0054】
以下は第2段階のアプローチである。
S7:スキャナをリトラクト状態にする
スキャナ2を一旦、リトラクト状態にする。その時の状態は、図12の(a)に示す ように一番縮んでいる状態になっているようにする。
S8:スキャナ2の最大振り幅分の半分の距離分を、試料1表面と探針6間の距離が縮まる方向にステージを移動する
図12に示すように、スキャナ2がZ軸方向に伸びた状態と、縮んだ状態から、最大振り幅の半分の距離を算出する。算出した距離分だけをモータ3を使用して、探針6とスキャナ2の距離が縮まる方向へ移動させる。
S9:スキャナをアプローチ状態にする。
【0055】
フィードバック回路12を動作させながら、スキャナ2のリトラクト状態を解除する。
S10:FMD値がリファレンス値になっているかどうかチェックする
ステップS9の状態で、FMD値がステップS2で算出されたリファレンス値になっているかどうか比較を行なう。FMD値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S10までの動作を繰り返す。
S11:FMD値がリファレンス値になっている場合には、アプローチを終了する。
【0056】
また、モータアプローチを開始する時点で、位相差値若しくはFMD値がステップS3で設定された最小変化量、若しくは周波数変位量だけ変化している場合には、第1段階のアプローチは省略し、第2段階のアプローチに移行するようにする。
【0057】
以上、説明したように、この実施の形態例によれば、試料表面と探針間の距離が所定の値になるまで制御する位相差信号又は周波数変位信号を用いた第1段階のアプローチと、試料表面と探針間の距離が最適な値になるようにFMD信号を用いた第2段階のアプローチを行なうことで、全体としての試料表面と探針間の距離が最適なものとなる制御を行なうことで高速なアプローチが可能となる。
【0058】
(実施の形態例8)
図13はAC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0059】
(第1段階アプローチ)
先ず、AC−AFMで探針の加振設定を行なう(S1)。次に、リファレンス値を算出し、位相差の調整を行なう(S2)。次に、位相差の最小変化量の設定と、アプローチ速度の設定を行なう(S3)。次に、モータアプローチを開始する(S4)。そして、指定位相差値になったかどうかを判定する(S5)。指定位相差値になった場合には、モータアプローチを停止する(S6)。
【0060】
(第2段階アプローチ)
ステップS6でモータアプローチが停止したら、スキャナをリトラクト状態にする(S7)。次に、NC−AFM用の自動調整を行ない、リファレンス値を算出する(S8)。次に、スキャナの最大振り幅分の半分の距離分を、探針と試料表面の距離が縮まる方向にステージを移動する(S9)。次に、スキャナをアプローチ状態にする(S10)。次に、FMD値がリファレンス値になっているかどうかチェックする(S11)。FMD値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S11を繰り返す。FMD値がリファレンス値になっていたらアプローチを終了する(S12)。
【0061】
(実施の形態例9)
図14はAC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムの他の例を示すフローチャートである。この実施の形態例は、第1段階はAC−AFMモードで行ない、第2段階はNC−AFMモードで行なうようにしたものである。
【0062】
(第1段階アプローチ)
NC−AFMで探針加振設定を行ない、AC−AFMで必要となる調整された位相差信号を保存する(S1)。次に、AC−AFMモードに切り替える(S2)。次に、位相差の最小変化量の設定アプローチ速度の設定を行なう(S3)。そして、設定された値を基にモータアプローチを開始する(S4)。次に、指定位相差値になったかどうかチェックする(S5)。指定位相差値になった場合には、モータアプローチを停止する(S6)。
【0063】
(第2段階アプローチ)
ステップS6でモータアプローチが停止すると、スキャナをリトラクト状態にする(S7)。そして、NC−AFMモードに切り替え、リファレンス値を設定する(S8)。次に、スキャナの最大振り幅分の半分の距離分を、探針と試料表面の距離が縮まる方向にステージを移動する(S9)。そして、スキャナをアプローチ状態にする(S10)。そして、FMD値がリファレンス値になっているかどうかをチェックする(S11)。FMD値がリファレンス値になっていない場合には、ステップS7〜S11の処理を繰り返す。FMD値がリファレンス値になっていたらアプローチ処理を終了する(S12)。
【0064】
図15はダメージレス高速アプローチの説明図である。図において、1は試料、6は探針である。図はモータを用いた高速アプローチ領域とスキャナを用いた精密アプローチ領域からなることを示している。長距離力として働く微弱な引力を遠方から検出することができる。そこで、この力を検出するまで高速(50μm/秒)でアプローチを行ない、それ以降は精密アプローチを行なう。アプローチが短時間なので、試料表面と探針間の距離を気にせずにアプローチすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】AC−AFMのRMS−DC値と位相差信号の関係を示す図である。
【図2】新しいアプローチのアルゴリズム(AC−AFM)を示すフローチャートである。
【図3】スキャナの状態を示す図である。
【図4】スキャナのアプローチ状態を示す図である。
【図5】AC−AFMのRMS−DC値と位相差信号の関係を示す図である。
【図6】スキャナのZ軸方向への印加電圧を示す図である。
【図7】探針、試料、ステージの関係を示す図である。
【図8】探針の振幅−周波数特性を示す図である。
【図9】NCモードAFMの実施の形態例を示すブロック図である。
【図10】NC−AFMのFMD値と位相差信号の関係を示す図である。
【図11】新しいアプローチのアルゴリズム(NC−AFM)を示すフローチャートである。
【図12】スキャナの状態を示す図である。
【図13】AC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図14】AC−AFMの位相差信号を利用したNC−AFMの衝突防止高速アプローチのアルゴリズムの他の例を示すフローチャートである。
【図15】本発明のダメージレス高速アプローチの説明図である。
【図16】ACモードのAFMの実施の形態例を示す構成図である。
【図17】AC−AFMの際のRMS−DC出力信号を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 試料
2 スキャナ
3 モータ
4 レーザダイオード
5 圧電素子(PZT)
6 探針
7 フォトディテクタ(PD)
8 プリアンプ
10 誤差アンプ
11 基準値
12 フィードバック回路
13 A/D変換器
14 パソコン(PC)
15aFM復調器
16 アッテネータ
17 HV−アンプ
18 スパンジェネレータ
19 HV−アンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、
第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を算出し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行ない、
次に、第2段階では、前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面間の距離制御方法。
【請求項2】
前記試料表面観察フィードバック信号として、振幅信号又はFMD値を用いることを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面間の距離制御方法。
【請求項3】
前記第1段階における制御はモータを用いて行ない、前記第2段階における制御はピエゾ素子の伸縮とモータとを用いて行なうことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面間の距離制御方法。
【請求項4】
探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、
第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を算出し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行なう第1の制御手段と、
前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御する第2の制御手段と、
を具備して構成される走査型プローブ顕微鏡。
【請求項1】
探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、
第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を算出し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行ない、
次に、第2段階では、前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面間の距離制御方法。
【請求項2】
前記試料表面観察フィードバック信号として、振幅信号又はFMD値を用いることを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面間の距離制御方法。
【請求項3】
前記第1段階における制御はモータを用いて行ない、前記第2段階における制御はピエゾ素子の伸縮とモータとを用いて行なうことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡の探針と試料表面間の距離制御方法。
【請求項4】
探針を使用して試料表面を走査し、試料表面の凹凸を原子分解能で測定を行なう走査型プローブ顕微鏡において、
第1段階では、探針への加振信号と探針からの信号を光検出器で検出した信号との位相差を算出し、該位相差信号の所定の変化を検出するまでフィードバック制御を行なう第1の制御手段と、
前記光検出器の出力である試料表面観察フィードバック信号を用いてフィードバック制御を行なって、探針と試料表面間の距離を制御する第2の制御手段と、
を具備して構成される走査型プローブ顕微鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−33321(P2007−33321A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219116(P2005−219116)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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