説明

走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法

【課題】試料の表面形状の測定精度を大幅に向上させることのできる、走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法を提供する。
【解決手段】対物レンズの下にビームスプリッター及びミラーを配し、試料表面を含めて、マイケルソン型などの干渉計を構成し、試料までの距離又はミラーまでの距離をピエゾアクチュエーターで走査し、それによりできる干渉波形をCCDカメラで撮影して動画ファイルデータとして記録し、データ収集間隔をナイキスト間隔(干渉波形の周期の1/2)よりも広く取って試料の表面形状を測定する、走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法において、得られた収集波形についてヒルベルト変換を行い、包絡線と位相を得、こうして得られた位相が0になる走査位置と試料の表面高さとの関係を用いて位相が0になる走査位置から試料表面の高さを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型白色干渉計による試料の表面形状を精度よく測定するための方法に関するものである。
【0002】
本明細書において、用語“試料の表面形状”は試料の表面の段差又は高さ、膜厚、表面粗さの概念を包含して意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
知られているように、走査型白色干渉計は、可干渉性の少ない白色光を光源として用い、マイケルソン型や、ミラウ型などの等光路干渉計を利用して試料の表面形状を非接触三次元測定できる装置であり、ウエハなどの表面形状の測定に用いられ得る。走査型白色干渉計の原理を添付図面の図1に示し、1は光源であり、高輝度白色光源から成っている。2は光源1からの白色光に対するフィルターであり、3はビームスプリッター、4はマイケルソン型干渉計である。マイケルソン型干渉計4は対物レンズ4aとビームスプリッター4bとミラー4cを備えている。マイケルソン型干渉計4には、マイケルソン型干渉計4を垂直走査するピエゾアクチュエーター5が設けられている。また図1において6は受光素子を成すCCDカメラ、7は試料8を支持する試料ホルダーである。
【0004】
光学顕微鏡の対物レンズ4aの下に干渉計が構成され、ピエゾアクチュエーター5を作動して対物レンズ4aを走査することにより干渉波形が得られる。すなわち、ピエゾアクチュエーター5により対物レンズ4aを走査しながら光の強度をCCDカメラ6で動画として撮影することによって、CCDカメラ6の各画素で干渉波形が得られる。干渉波形のピークの位置は試料表面の高さに対応するので、各画素でそのピーク位置を求めれば、撮影した領域で表面高さが得られる。
【0005】
干渉波形のピーク位置を求める方法としては、例えば干渉周期の1/5以下の間隔で光強度のデータを収集し、その交流成分を2乗し、低域通過フィルターにかけて干渉波形の包絡線を求めて、そのピーク位置を求める方法が提案されている。しかし、かかる方法では、データ収集の間隔が狭いので、データ収集に時間がかかるという問題がある。(特許文献1の背景技術の記述、及び非特許文献1参照)
【0006】
かかる問題を解決するために、ナイキスト間隔(干渉波形の周期の1/2)よりも広い間隔で収集したデータからでも干渉波形のピーク位置を算出できる方法として、Frequency domain analysis法(FDA法、特許文献1)や波形復元法(非特許文献1)がある。FDA法では、データ収集間隔がナイキスト間隔の2.5倍の場合に、試料の表面高さが数十ナノメートルの範囲内で正確に求められるとしている。
【0007】
本願の発明者は特願2011−152999号において、収集した波形にヒルベルト変換を施して、その包絡線を求め、求めた包絡線のピーク位置を算出する方法を提案し、その方法により、ナイキスト間隔よりも広い間隔の収集データからでも元の干渉波形の包絡線とそのピーク位置を算出できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2679876号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】吉澤徹、「最新光三次元計測」、2006年、朝倉書店 第5章2 光干渉法、pp.66〜73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
データ収集時間を短くするために収集間隔を広くして、例えばナイキスト間隔の2.5倍では、前述のように試料表面高さの測定精度は数十ナノメートルと悪くなる。収集間隔がナイキスト間隔の1/4以下では数ナノメートル以下の測定精度が得られる(非特許文献1)のに対して、1桁程度悪いという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、試料の表面形状の測定精度を大幅に向上させることのできる、走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、対物レンズの下にビームスプリッター及びミラーを配し、試料表面を含めて、マイケルソン型などの干渉計を構成し、試料までの距離又はミラーまでの距離をピエゾアクチュエーターで走査し、それによりできる干渉波形をCCDカメラで撮影して動画ファイルデータとして記録し、データ収集間隔をナイキスト間隔(干渉波形の周期の1/2)よりも広く取って試料の表面形状を測定する、走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法において、
得られた収集波形についてヒルベルト変換を行い、包絡線と位相を得、包絡線がピークの走査位置と位相が0になる走査位置を求め、幾つかの画素でのそれらの値から、それらの間の例えば一次式の関係式を求めて、その関係式を用いて、位相が0になる走査位置から試料表面の高さを全画素について算出すること
を特徴としている。
【0013】
本発明の方法においては、ピエゾアクチュエーターで対物レンズを走査して一定の時間間隔でデータを収集する際に、収集時間を短くするためにデータ収集間隔がナイキスト間隔よりも広いので、干渉波形とは異なる形状の波形が得られるが、得られた波形に対してヒルベルト変換を実施し、包絡線と位相を得る。その包絡線は元の干渉波形のそれと1×10−4の精度で一致し、その包絡線のピーク位置は試料表面の高さに一致する。位相が0になる走査位置は表面高さに対して線形の関係で変化する。この関係を利用して、位相が0の走査位置から試料の表面の高さを算出する。位相は走査位置に対して線形の関係があるので、位相が0の走査位置は幅の広い包絡線のピークの位置を探すよりも高精度に算出できる。また、位相が0の走査位置は試料の表面の高さの変化よりも数倍から10倍大きく変化する。このことは、試料の表面の高さに対する感度が増すことを意味している。このように、本発明では、位相が0の走査位置を用いることにより、包絡線のみから求めるよりも、表面高さの測定精度が10倍以上向上することになる。
【0014】
ところで、ナイキスト間隔よりも広い間隔で収集すると、元の波形の情報の一部が消え、デジタル信号処理分野での標本化定理を満たさない場合に元の波形とは異なる周波数の波形が表れる現象、エイリアシング(aliasing)と同じである。偽信号とも訳されるエイリアスだが、この場合には試料の表面の高さの情報を含んでおり、むしろこれを積極的に活用することで測定精度が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法においては、ナイキスト間隔(干渉周期の半分)よりも広い間隔でデータ収集を行う場合に、収集波形からヒルベルト変換を用いて算出した収集波形の位相に関して、「位相が0になる走査位置」は試料表面高さに対して一定の関係で変化し、1次式または3次式で表わされるこの関係の式を予め求めておき、それを用いて位相が0になる走査位置から試料の表面の高さを求めることにより、先に提案した方法で用いる「包絡線が最大になる走査位置」は試料表面高さに対して、同じ量しか変化しないが、「位相が0になる走査位置」は試料表面高さに対して数倍から10倍大きく変化するので、感度が増したのと同じことになり、試料の表面の高さの測定精度がその分、向上することになる。
また、包絡線の幅は広く、その頂点付近は丸みを帯び、実際の測定では雑音もあるので、「包絡線が最大になる走査位置」を高精度に算出することは困難だが、本発明の方法においては、位相は走査位置に対して線形(1次式の関係)に変化するので、「位相が0になる走査位置」を精度よく算出できる。
これにより、先に提案した方法(特願2011−152999)よりも試料の表面の高さの測定精度を1桁以上向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施する際に使用され得る走査型白色干渉計の構成例を示す概略図。
【図2】収集間隔240nmでの収集波形の例を示し、試料の表面の高さを各グラフの右上に示すグラフ。
【図3】図2の試料の表面の高さ96nmでの包絡線を示し、収集間隔240nm(■)と収集間隔1nm(点線)の収集波形から算出した包絡線を比較して示すグラフ。
【図4】図3の2つ包絡線の差を示すグラフ。
【図5】包絡線のずれを収集間隔に対してプロットした図。
【図6】図2の試料の表面の高さ96nmでの位相(■)と包絡線(+)を示すグラフ。
【図7】「位相が0になる走査位置」(○)と「包絡線が最大になる走査位置」(点線)を試料の表面の高さに対してプロットしたグラフ。
【図8】「位相が0になる走査位置」と「包絡線が最大になる走査位置」の関係の測定結果を示すグラフ。
【図9】図8の元となる測定結果を示し、「位相が0になる走査位置」(◆)と「包絡線が最大になる走査位置」(○)の測定結果をx方向の画素に対してプロットしたグラフ。
【図10】収集間隔を247.5nmにして本発明の方法で求めた試料の表面の高さを示すグラフ。
【図11】収集間隔55nmの測定データをヒルベルト変換し位相から求めた試料表面の高さの2回の測定結果(太線と細線)を重ねてプロットして示すグラフ。
【図12】収集間隔は247.5 nmにして従来の方法で求めた試料の表面の高さを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すような落射照明式の正立金属顕微鏡と同様の構成をもつ走査型白色干渉計装置において、対物レンズ4aと試料8の間にマイケルソン型干渉計4を構成する。マイケルソン型干渉計の代わりにミラウ型のものでもよい。干渉計4の光路差をピエゾアクチュエーター5などにより変化させる。この場合、試料8までの距離を変えても、ミラー4cまでの距離を変えてもよい。
【0018】
試料に焦点が合った状態で、干渉縞の光強度が最大(光路差0)に成るようにミラー4cの位置を決めて固定しておいて、対物レンズ4a、ビームスプリッター4b及びミラー4cを一体として走査するのが、高低差が大きい試料面を測るには良い。その理由は、最大ピークを含む干渉波形のデータが、常に焦点が合った状態で取れるからである。
【0019】
このようにして走査をしながら、CCDカメラ6で30フレーム/秒程度で光の強度のデータが動画として収集され、保存される。この動画データは図示していないコンピュータ等でデータ解析され、各画素ごとに時間軸方向の配列データとして扱われ、それが干渉波形である。
【0020】
図示装置において、光源1は例えばハロゲンランプから成り、また帯域を制限するフィルター2として中心波長550nm、帯域幅80nmのフィルターを使用し、このフィルター2を通した光での干渉波形を240nmの走査間隔(ナイキスト間隔の1.75倍)でデータ収集した例を図2のa〜kに示す。これらデータは計算で生成した波形である。中心波長が550nmなので、干渉波形の周期は275nmで、ナイキスト間隔は137.5nmである。図2において、横軸が対物レンズの走査位置、縦軸が光の強度、点線が元の干渉波形、■が240nmの走査間隔で得られるデータを示す。試料8の表面の高さを各グラフの右上に示しており、試料8の表面の高さが24nmずつ異なる場合を示している。元の干渉波形(点線)は試料面の高さが増すと、その分、グラフの右方向へ移動しているのが認められる。
【0021】
収集されるデータの波形は元の波形とは異なる。試料の表面の高さが増すに従い、収集波形は横軸において左方向へ移動して行き、試料8の表面の高さが240nmになると、図の右側から移動してきた別の山のピーク位置が走査位置240nmになり、結果として「高さ0での波形」が走査位置240nmずれた波形になる。収集波形は試料の表面の高さに対して、このような周期的な動きを繰り返す。この図の例では、干渉波形のピーク位置でデータ収集しているが、任意の位置でデータ収集することができる。
【0022】
このようなナイキスト間隔より広い間隔で収集したデータでも、ヒルベルト変換を用いて算出したその包絡線は、元の干渉波形のそれによく一致することは先の出願において示した。以下に具体的な数値を例示する。
【0023】
図3の■は図2の試料表面高さ96nmでの収集波形にヒルベルト変換を施して求めた包絡線であり、図3の点線は元の波形(図2の点線)から求めた包絡線である。■で示す包絡線と点線で示す包絡線との差を図4に示す。包絡線の高さを1として計算しているが、それに対して差は3×10−4以下と非常に小さい。そして図4に示す差のデータの2乗の平均の平方根は1.19×10−4であり、これを試料8の表面の高さが0〜240nmで求めて平均すると1.05×10−4である。この数値は2つの包絡線の「ずれ」として評価でき、非常に小さく、それら包絡線はよく一致することが分かる。
【0024】
図5には、この「包絡線のずれ」を、データ収集間隔を変えて算出し、プロットして示し、図2と同じく中心波長550nm、帯域幅80nmのフィルター2に通した光の場合で、干渉周期275nm、ナイキスト間隔137.5nmである。収集間隔がナイキスト間隔のN倍(Nは自然数)の付近を除けば、「包絡線のずれ」は小さいことが分かる。
【0025】
図2の収集間隔240nmでの例に戻って更に説明する。
試料8の表面の高さ96nmでの例において、収集波形にヒルベルト変換を行い、その位相を求めてプロットしたものを図6に■で示す。これは収集波形の位相であり、収集波形のピーク位置で位相が0になる。収集波形は□で示し、また、収集波形から求めた包絡線は+で示している。収集波形の位相(■)は、包絡線のピークから離れた領域を除き、走査位置に対して線形(1次式の関係)に変化していることが分かる。このことにより、「位相が0になる走査位置」を離散的な位相データから内掃により求めることができる。
【0026】
ところで、「位相が0になる走査位置」は複数あるが、「包絡線が最大になる走査位置」に近い方を選ぶこととし、試料8の表面の高さを変えながら算出してプロットしたものを図7に示す。図7において横軸は試料の表面の高さであり、「位相が0になる走査位置」を○で示し、「包絡線が最大になる走査位置」を点線で示している。図2に示す例においては試料8の表面の高さの0点と走査位置の0点を一致させているので、図7では「包絡線が最大になる走査位置」は試料8の表面の高さに等しい。実際の測定では、走査位置の0点には任意性があり、各画素における「包絡線が最大になる走査位置の差」が「試料の表面の高さの差」に一致し、その差(試料面内の相対的な高さ)が意味を持つ。「位相が0になる走査位置」(○及びそれらを結ぶ実線)は、試料の表面の高さに対して線形に変化することが分かる。これを1次式でフィッティングすると、この例では傾きは−6.93であり、差分(1次式との差)は最大でも約2nmと小さい。この差分は図7での縦方向の差であり、横方向の差は最大でも0.3nm程度とさらに小さい。なお、3次式でフィッティングすると、これらの差はさらに数分の1に小さくなる。
【0027】
このように「位相が0になる走査位置」と試料の表面の高さ(或いは「包絡線が最大になる走査位置」)の間には、ある一定の関係があるので、予めその関係を求めておけば、「位相が0になる走査位置」から試料の表面の高さを求めることができる。上記のように、試料の表面の高さの変化に対して、「包絡線が最大になる走査位置」の変化量は等しいが、「位相が0になる走査位置」の変化量は数倍かそれ以上大きい(上の例では6.93倍)。上の例で言うと、これは感度が6.93倍に増したのと同じことであり、試料の表面の高さの測定精度を向上させることができる。
【0028】
収集した波形データからヒルベルト変換を用いて位相を算出して、それが0になる走査位置を求めておき、上記関係から試料表面高さを求める場合、図7の縦軸の値(位相が0の走査位置)が求まっていて、上記の1次フィット式又は3次フィット式を用いて、その値に対応する横軸の値(試料の表面の高さ)を求めるので、フィット式とのずれは、横方向のずれが問題になる。縦方向のずれが同じなら、上記の傾きが大きいほど、横方向のずれは小さくなり、測定精度は向上する。
【0029】
実際の測定では、収集データには雑音が乗っており、その場合を考える。
図6から分かるように包絡線の幅は広く、その頂点付近は丸みを帯びており、そのピークの位置を高精度に算出することは難しい。それに対して位相は、走査位置に対して線形に大きく変化するので、「位相が0になる走査位置」の算出は高精度にできる。これは位相を利用することの利点である。図6で走査位置480nm以上での位相に2πを加えると、それ未満での位相と直線的につながる(位相接続の手法)。この直線的につながった位相の3点以上のデータに1次式でフィッティングして、それが0になる走査位置を求めると、位相が0付近の2点のデータからの内掃で求めるよりも高精度で算出できる。その理由は、2点よりも多くのデータを用いるからである。
【0030】
以上、収集間隔が240nm(ナイキスト間隔の1.75倍)の例について説明してきたが、例えば間隔が220nm(ナイキスト間隔の1.6倍)の場合には、1次式でフィッティングすると、傾きは−4.03となり、間隔が240nmである上記の例の場合より若干小さいが、フィット式との差分(図7相当での縦方向の差)は最大でも0.12nm と上の例よりも1桁以上小さくなり、また、収集間隔が250nmでは上記の傾きは−10.0となる。
【0031】
以上では、収集間隔がナイキスト間隔の1倍から2倍の間の場合について説明してきたが、間隔がさらに大きくても同様の振舞いが得られる。
収集間隔がナイキスト間隔の2倍から3倍の間の場合では、上記の傾きは正になる。例えば収集間隔が320nm(ナイキスト間隔の2.33倍)では、上記傾きは7.06であり、1次フィット式との差分(図7相当での縦方向の差)は最大でも2nmである。また、収集間隔が360nm(ナイキスト間隔の2.62倍)では、上記傾きは4.21となり、1次フィット式との差分(図7相当での縦方向の差)は最大でも0.15nmである。
次に収集間隔がナイキスト間隔の3倍から4倍の間の領域を考える。
この領域では上記傾きは負になる。これまでは図に示すように「位相が0になる走査位置」の変動の周期は収集間隔に一致していたが、この領域では収集間隔の半分になる。例えば収集間隔が480nm(ナイキスト間隔の3.49倍)では、上記傾きは−6.92となり、1次フィット式との差分(図7相当での縦方向の差)は最大でも1.7nmである。
【0032】
データ収集間隔がナイキスト間隔の2.5倍のときに他の方式での測定精度が数10nmであることを考えると、上に示した1次フィット式との差分の例は何れも十分に小さく、1次フィット式でも十分に実用的に使えると考えられる。収集間隔がナイキスト間隔の4倍までを例に挙げたが、それ以上でも同様のことが可能である。
【0033】
以下、実験結果の例を示す。光源1のハロゲンランプの後の光学フィルター2として中心波長550nm、帯域幅80nmを用いて、データ収集間隔247.5nm(ナイキスト間隔の1.8倍)で測定した「包絡線が最大の走査位置」と「位相が0になる走査位置」の関係を図8に示す。データを配列で扱っており、収集データは下記のようにx,yの各画素で走査位置(時間にも対応)について1からnまでの指標で表わされる(収集するフレーム数がn個の場合)。

D(1,x,y), D(2,x,y), … , D(i,x,y), D(i+1,x,y), … D(n,x,y)
【0034】
図8の単位はこの配列の走査位置の指標であり、この1の間隔は収集間隔247.5nmに相当する。図8の横軸は「包絡線が最大になる走査位置」だが、試料の表面の高さに相当し、図8は図7に対応する。
【0035】
図9には、図8を得るための元の測定データを示す。光強度の収集データからヒルベルト変換を用いて「包絡線が最大の走査位置」(○)と「位相が0になる走査位置」(◆)を全画素で算出しており、その一部として画素の位置y=480で、x=0から200でのそれら値を示した例である。この例では試料の表面の傾きを反映して、x方向に進むに従い「包絡線が最大の走査位置」が増している。上述のように「包絡線が最大の走査位置」(図9の○)を高精度に算出するのは難しく、そのために縦方向のばらつきが大きい。それに対して、「位相が0になる走査位置」(図9の◆)は前述のように精度よく求めやすいので、縦方向のばらつきは小さい。そのばらつきは「包絡線が最大の走査位置」のばらつきに比べて数分の1である。
【0036】
図8に示すデータは、図9のデータを、横軸を「包絡線が最大の走査位置」、縦軸を「位相が0になる走査位置」にしてプロットしたものである。図8でプロットしたデータがばらついているのは、上述のように「包絡線が最大の走査位置」のばらつきを主に反映している。つまり図8において横軸方向に主にばらついていると考えられる。横軸と縦軸の値が等しい線を図8の点線で表わしている。
【0037】
図8の横軸を試料表面高さと考え、図8に示したような直線(図中の実線)を仮定し、「位相が0になる走査位置」からその直線の関係を用いて、試料の表面の高さを求めればよい。その直線の傾きと定数項(y切片)は図8のデータからフィッティングにより求めてもよい。そのような直線を用いて試料の表面の高さを求めて、それを図9の横軸のようなx方向の画素に対してプロットしてみると、もしその傾きが適切でないと、試料の表面の高さにおいて不連続なとびが起きる。これは図8での例えば横軸が40に対して、縦軸は35と44があるが、傾きが正しくないとここで不連続が起きる。対策としては傾きを調整して、とびが消えればよい。一度傾きを決まれば、その後、変える必要はない。その直線のy切片については値がずれていても、試料の表面の高さはxy面の全体で同じ値ずれるだけなので問題ない。一度決めたら、その後、変えなければそれでよい。
【0038】
この方法で測定した試料の表面の高さの例を図10に示す。データ収集間隔247.5 nm であり、ナイキスト間隔の1.8倍である。y=170の画素の行で、x=0から370までの画素での試料の表面の高さである。この例では1画素が1.4μmに相当し370画素は518μmに相当する。なお、用いたカメラの走査方式がインターレース方式のため、y方向のデータが、1行おきに収集時刻がずれてy方向に不連続なので、最終的な試料の表面の高さの算出データをy方向に2個ずつ移動平均してその不連続を消している。「位相が0になる走査位置」から試料表面高さを算出するための関係式の直線の傾きとして−8.00を使用した。
【0039】
データ収集間隔が55nm(光学フィルター2は上記の場合と同じ。ナイキスト間隔の0.4倍。干渉の1周期あたり5個収集)の場合に、「位相が0の走査位置」から試料の表面の高さを算出した例を図11に示す。この狭い収集間隔では「位相が0の走査位置」は、「包絡線が最大の走査位置」に一致する。この場合は収集間隔が狭いので、測定精度は高く、上述の理由によりy方向に2個ずつの移動平均のみで、雑音のピーク-ピークは約1nmであった。図11では、測定値の再現性を調べるために、さらにx方向に3個ずつ、y方向に3個ずつの移動平均を行っている。2回の測定結果(太い線と細い線)を重ねてプロットしてあり、両者は1nmの数分の1の精度で一致することが分かる。そしてx=90, 210, 300付近で高いという試料の表面の形状を表わしている。
【0040】
図10は図11と同じ試料のかなり近い場所での測定結果であり、収集間隔がナイキスト間隔の1.8倍の図11でも図10と同様の高さが数nmの表面形状が見えていると考えられる。用いた試料のこのような形状を考慮すると、測定精度として雑音のピーク-ピークを挙げるならそれは5nmより小さいと考えられる。
【0041】
図12には、先に出願した発明による方法、即ち「包絡線が最大の走査位置」から求めた試料の表面の高さである。収集データは図10と同じであり、収集間隔247.5nm、ナイキスト間隔の1.8倍である。雑音のピーク-ピークは60nm程度である。図12に示すグラフと図10に示すグラフとの比較から、本発明の方法により測定精度が10倍以上向上できることが認められた。
【符号の説明】
【0042】
1:光源
2:フィルター
3:ビームスプリッター
4:マイケルソン型干渉計
4a:対物レンズ
4b:ビームスプリッター
4c:ミラー
5:ピエゾアクチュエーター
6:CCDカメラ
7:試料ホルダー
8:試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズの下にビームスプリッター及びミラーを配し、試料表面を含めて、マイケルソン型などの干渉計を構成し、試料までの距離又はミラーまでの距離をピエゾアクチュエーターで走査し、それによりできる干渉波形をCCDカメラで撮影して動画ファイルデータとして記録し、データ収集間隔をナイキスト間隔(干渉波形の周期の1/2)よりも広く試料の表面高さを測定する、走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法において、
得られた収集波形についてヒルベルト変換を行い、包絡線と位相を得、包絡線がピークの走査位置と位相が0になる走査位置を求め、幾つかの画素でのそれらの値から、それらの間の例えば一次式の関係式を求めて、その関係式を用いて、位相が0になる走査位置から試料表面の高さを全画素について算出すること
を特徴とする走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法。
【請求項2】
収集波形についてヒルベルト変換を行って得た位相を、位相接続の手法でつなぐことで、位相が直線的に変化する領域を広げて、より多くのデータから位相が0になる走査位置を求めることを特徴とする請求項1記載の走査型白色干渉計による試料の表面形状の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19759(P2013−19759A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153264(P2011−153264)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】