説明

車両の動力伝達機構をコントロールするための方法およびシステム

車両のための動力伝達機構をコントロールするための方法およびシステムであって、道路状態を記録するステップ、前記記録された道路状態が標準道路状態に対応する場合には、通常の道路における状態に対応する標準モードで前記車両を運転するために意図された第1のギア選択コントロール・アルゴリズムを使用するステップ、および前記記録された道路状態が軟弱地表面道路状態に対応する場合には、軟弱地表面道路における状態に対応する軟弱地表面モードで前記車両を運転するために意図された第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが使用されるステップ、を有する。本発明は、AMTが備えられた車両を増大する条件の多様性の下に満足のゆく形で動作すべく適合させることを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートマチック・マニュアル・トランスミッション(AMT)およびAMTのコントロールに関する。特に本発明は、その種のAMTにおけるギアの選択をコントロールするためのマップに関係する。
【背景技術】
【0002】
オートマチック・マニュアル・トランスミッション(AMT)の使用は、この数年の間にますます一般的になってきており、今日では多くの車両に共通する特徴である。オートマチック・ギアシフト選択の組込みは、運転をより容易にし、運転者は適切なギアの選択に努力を注ぐ代わりに運転および周囲の交通に集中できる。特にヘビーデューティ車両については、AMT等のオートマチック・シフト・システムが大きな価値を持つようになった。
【0003】
オートマチック・システムをコントロールするための多数のコントロール・ストラテジおよびシフト・パターン・マップが提案された。特許文献1および特許文献2は、ギアを選択するためのファジー・ロジックの使用を記述している。特許文献3は、ギア選択パターンを改善するための学習システムを記述している。特許文献4は、マニュアル・シフト・モードとオートマチック・シフト・モードの間、または異なるオートマチック・シフト・モードの間における選択のためのシステムを記述している。また、異なるパラメータに応じて異なるギアシフト・パターンを使用することも知られており、これはたとえば特許文献5、特許文献6、特許文献7、または特許文献8の中で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,067,374号明細書
【特許文献2】米国特許第4,841,815号明細書
【特許文献3】米国特許第4,922,428号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0254774号明細書
【特許文献5】米国特許第6,519,520号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0155447号明細書
【特許文献7】米国特許第5,911,771号明細書
【特許文献8】米国特許第6,182,000号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献はオートマチック・トランスミッションのコントロールのための異なるシステムを提供するものではあるが、この種のシステムが広汎多様な動作条件にわたって良好に動作するという点に関して未だ充足されていない特定の望ましいことが存在する。したがって本発明は、AMTが備えられた車両を増大する条件の多様性の下に満足のゆく形で動作すべく適合させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両のための新しい動力伝達機構システムならびにオートマチック・マニュアル・トランスミッション(AMT)の改善されたコントロールのための方法を提供する。したがって本発明は、以下を包含する本発明によるところの車両のための動力伝達機構ならびにシステムに関係する。
‐ 自動化されたマスタ・クラッチ、
‐ ずれ歯ギアボックス、および
‐ 前記マスタ・クラッチならびに前記ずれ歯ギアボックスをコントロールするべく適合されたコントロール・ユニット。
【0007】
コントロール・ユニットは、望ましいギア選択を示すコントロール信号を生成するべくプログラムされる。コントロール・ユニットは、ギア選択コントロール信号を生成するためのギア選択コントロール・アルゴリズムの少なくとも2つの異なるセットを包含し、それらの異なるコントロール・アルゴリズムは、入力データに基づいて異なるギア選択コントロール信号を生成するべくプログラムされ、言換えると同一の入力データが、入力パラメータの少なくとも1つの状態のために異なるギア選択コントロール信号を作り出すことになる。さらにコントロール・ユニットは、コントロール・ユニットによっていずれのギア選択コントロール・アルゴリズムのセットが使用されるべきかを示すギア選択コントロール・アルゴリズム・セレクタと接続される。少なくとも2つの異なるギア選択コントロール・アルゴリズムの中には、通常の道路上の状態に対応する標準モードで前記車両を運転しているときに使用されることが意図された第1のギア選択コントロール・アルゴリズムが少なくとも存在し、たとえばこれは、特定のストラテジもしくはプログラムが選択されない場合に車両によって標準で使用されるコントロール・ストラテジである。
【0008】
本発明によれば、ギア選択コントロール・アルゴリズムが、軟弱地表面モードで前記車両を運転しているときに使用されることが意図された第2のギア選択コントロール・アルゴリズムを包含する。用語『軟弱地表面モード』は、たとえば、車両が砂地、たとえば砂漠を運転しているときを含む。当然のことながら、動力伝達機構および車輪についての性質または状態と少なくとも関連して、このモードが使用できる、たとえば緩い雪上または泥濘地の運転といったその他の類似した状態も存在し得る。したがってこのモードには、軟弱地表面、たとえば何らかの種類の粒状物質または緩い物質を包含する地表面が存在し、その結果、緩い物質の本来的な特性に起因して牽引車輪のグリップが通常より低く、かつ同様に転がり特性も通常より低く、車輪が地表面に『沈み込み』、たとえば牽引車輪から地表面に力が伝達されるときに地表面の物質がまとまらない場合の異なる種類の状態を含むことが意図されている。したがって、特定の極端な条件下においては標準コントロール・モードから満足のゆく動力伝達機構システムの管理が得られないことから、異なる条件のためにコントロール・システムまたはギアシフト・コントロール信号を変更するための理由が存在する。たとえば、AMTが備えられた車両、たとえばヘビーデューティ車両が砂漠を走行中であり、丘を登っているときには、たとえばアスファルト地表面を有する均等に傾斜した丘を登るときよりはるかに走行抵抗が高い。変化した状態に応じた適合がまったくなされないとすれば、当該車両は、高すぎるギアを使用し、望むとおりに丘を登ることができないであろう。ギアがシフトダウンされれば、緩い砂地によって容易に空転してしまうことから少なくとも少しの間は車輪が滑りはじめることは非常にありがちであり、その結果としてギアボックスが、より高い望ましくないギアへ再びシフトアップすることがある。このシナリオが数度にわたって生じることがあり、車両はどのようにしても前へ進まなくなり、丘が充分に急峻であれば、おそらくは完全に立ち往生することになる。したがって、AMTを備えた車両が増大する多様な環境の中で安全かつ滑らかに走行することを可能にするために、これらの状態に適合した別のシフト・ストラテジ・モードが必要とされている。
【0009】
本発明の1つの実施態様においては、第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、選択された、より高いギアへのシフトを、標準モードのギア選択コントロール・アルゴリズムが使用されるときより高いエンジン回転速度において実行するべくプログラムされる。たとえば通常はギアシフトが予測されて、たとえば1600rpmにおいて実行される場合には、シフトのレベルを1900rpmまで上昇させることができる。
【0010】
さらに別の実施態様によれば、ギアシフトがより細かい段階を含むことができ、それを単独で使用してもよく、あるいは前述の実施態様との組合せで使用してもよい。たとえば12段の前進ギアを備えたギアボックスにおいて、ギア段2から12までのシフトアップ時には、標準ギアシフト・モードに従って2‐5‐8‐10‐11‐12のギア段を使用するギアの段階的シフトが行われるが、軟弱地表面モードにおける走行時に使用されるギア段は、たとえば2‐4‐6‐8‐9‐10‐11‐12のギア段とすることができる。したがって、最低可能ギアから最高可能ギアまでシフトする場合に、標準ギアシフト・パターンと軟弱地表面ギアシフト・パターンを比べると、両方のギアシフト・パターンにおいて最低および最高ギアが同一であれば、より多くのギアシフトが後者に含められる。上記の例では、2速から12速のギアまでのシフト時に、標準モードと比べると軟弱地表面モードでは2つ余分にギアシフトが使用される。
【0011】
一見すると、提案のシフト・パターンは、車両のスポーツ・モードまたはそれの類のためのシフト・パターンと類似に見えるかも知れない。しかしながら、軟弱地表面モードとその種のスポーツ・モードの間にはいくつかの基本的な差がある。軟弱地表面モードにおいては、車両の停止、またはシフトダウンしてより低いギアへ戻す必要性を回避するために充分に高い駆動力の提供が可能となるようにシフト・パターンが最適化される。スポーツ・モードにおいては、最適加速を提供するようにギアが変更されるべく車両が最適化される。さらにまた、意図されている軟弱地表面シフト・モード・パターンの使用は、非常に複雑な動力伝達機構および分割ギア装置、メイン・ギアボックス、およびECUによってコントロールされて自動的にギアをシフトするレンジ・ギアを包含するギアボックスを有する重車両および多用途車、たとえばトラックおよびその類といった車両に指向されている。スポーツ・モードは、通常、異なるギアボックスを有し、かつ意図された用途が異なるファミリー・カー等の標準的な車両に提供される。
【0012】
さらに別の実施態様においては、ギア選択コントロール・アルゴリズムが、ステアリング・ホイール角度の増加がある場合にギアの変更のためのエンジン回転速度限界の増加があるようにステアリング角度にも依存できる。特に、ステアリング角度があらかじめ定義済みの限界を超えるときはシフトアップが許されないようにできる。別の可能性は、ステアリング角度が特定の限界を超える場合にシフトダウンを要求することである。したがって、まとまって軟弱地表面シフト・コントロール・ストラテジを定義するいくつかの入力パラメータの1つとして非常に良好にステアリング角度を使用することができる。たとえば、100メートルの旋回半径に対応するステアリング角度は、ギアの変更のためのエンジン回転速度限界に増分ゼロを与えることができる。これに対して20メートルの旋回半径に対応するステアリング角度は、ギアの変更のためのエンジン回転速度限界に増分200rpmを与えることができる。
【0013】
1つの実施態様によれば、前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズム、すなわち軟弱地表面モードがマニュアルで選択できるように、ギア選択コントロール・アルゴリズム・セレクタがマニュアルで作動される。当然のことながら、外部条件および車両の機能またはこれらのシステムの組合せに応じて機能を自動的にオン/オフすること、たとえば自動選択モードまたは運転者がいずれのギアシフトまたはギア選択モードが使用されるべきかを意図的に選択するモードを設定することもできる。
【0014】
コントロール・ユニットは、ギア選択コントロール信号の生成のために使用されるルックアップ・テーブルもしくは数学的公式と接続するか、またはそれを包含することができる。
【0015】
さらにまた、本発明の追加の実施態様によれば、車両内のコントロール・システムが、動力伝達機構が第2のギア選択コントロール・アルゴリズムによって、すなわち軟弱地表面モードでコントロールされるべき時期、および別のギア選択コントロール・アルゴリズムによって、たとえば標準モードでコントロールされるべき時期を予測できるように、システムが、この分野において周知の関連するセンサから取出したデータから走行抵抗値を評価または計算する機能も包含できる。いずれのモードが選択されるべきかの選択は、特定の時間にわたって走行抵抗があるレベルを超える場合に軟弱地表面モードが選択されるという形で走行抵抗のレベルを設定することによって行うことができる。走行抵抗は、たとえば牽引力(噴射された燃料の量またはトルク・センサ)、車両質量、および車両加速度を測定し、牽引力をFtractive、走行抵抗をFresistance、車両質量をm、および車両加速度をaで表わした周知の公式Ftractive‐Fresistance=maを使用することによって評価することが可能である。走行抵抗についてより良好な値を得るために、道路勾配センサを使用して評価可能な登坂力についての値と走行抵抗について評価された値を比較することができる。
【0016】
手前の実施態様とともに使用できるさらに別の実施態様によれば、動力伝達機構が第2のギア選択コントロール・アルゴリズムに従ってコントロールされている場合のギアシフト時には、第1のギア選択コントロール・アルゴリズムによってコントロールされているときより急峻なトルクの立上がりが実行される。この機能は、たとえば緩い砂地等の地表面が強くグリップせず、ギアをむしろ迅速に係合させたとしても、軟弱地表面が特定の滑りを与え、むしろ滑らかな反力が動力伝達機構およびギアボックス上に働くことから使用できる。より急進なトルクの立上がりは、シフト時間、すなわち牽引車輪に対する動力の中断が存在する時間を低減し、したがって急峻な状態においてシフトアップを実行するとき、より良好な成功の機会を提供する。
【0017】
軟弱地表面モードはまた、シフトダウンの前にむしろ大きな滑りを許す必要があり、軟弱地表面モードが滑りに反応する機能とともに提供されるべきではなく、あるいは少なくとも、標準モードにおいて許容されるよりはるかに多くの車輪の滑りを許容する。これは、軟弱地表面が存在するときには車輪の滑りが予測されるという事実に起因する。
【0018】
本発明による方法は、車両のための動力伝達機構をコントロールするための方法である。この方法は、次のステップを特徴とする。
‐ 道路状態を記録するステップ、
‐ 前記記録された道路状態が標準道路状態に対応する場合には、通常の道路における状態に対応する標準モードで前記車両を運転するために意図された第1のギア選択コントロール・アルゴリズムを使用するステップ、および
‐ 前記記録された道路状態が軟弱地表面道路状態に対応する場合には、軟弱地表面道路における状態に対応する軟弱地表面モードで前記車両を運転するために意図された第2のギア選択コントロール・アルゴリズムを使用するステップ。
【0019】
方法の追加の実施態様は、前記動力伝達機構システムの実施態様に対応する。
【0020】
さらに本発明は、前述した類の動力伝達機構を包含する車両に指向されている。特にこの動力伝達機構は、トラック等のヘビーデューティ車両に適する。
【0021】
本発明の1つの実施態様は、前記動力伝達機構、分割ギアボックス、メイン・ギアボックス、およびレンジ・ギアを包含する。
【0022】
それに加えて、本発明は、本発明によるギアシフト選択を実行するためにコンピュータとともに使用されるコンピュータ・プログラム、コンピュータ・プログラム製品、およびストレージ媒体に指向されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に適した駆動伝達機構システムを示した概略図である。
【図2】本発明に適したギアボックスを示した概略図である。
【図3】本発明による第1の標準シフト・モードおよび第2の軟弱地表面シフト・モードにおけるシフトアップについてのギアシフト限界の例を示したグラフである。
【図4】本発明による第1の標準シフト・モードおよび第2の軟弱地表面シフト・モードにおけるシフトアップについてのギアシフト限界の別の例を示したグラフである。
【図5】本発明に適したコンピュータ・コントロール・システムを示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による駆動伝達機構システム1を包含する車両を図1に示す。このシステムは、メイン・クラッチ(またはマスタ・クラッチ)(MC)5を介して機械式トランスミッション(MT)4と接続される出力シャフト3が備えられた内燃機関(ICE)2を包含する。機械式トランスミッション4は、分割ギア装置4a、メイン・ギアボックス4b、およびレンジ・ギア装置4cを包含している。MT 4は、さらに、従動シャフト8を介して車両の駆動輪7と接続される出力シャフト6を備える。システムは、ICE 2、MC 5、およびMT 4と接続された電子コントロール・ユニット(ECU)9によってコントロールされる。
【0025】
本発明によれば、ECU 9が、運転者が希望しているストラテジを示すマニュアルで入力される信号、またはルックアップ・テーブルからギアシフト・パターンを選択するために使用されるか、もしくは使用されるべき特定のアルゴリズムを示すかのいずれかとなる検知されたデータに帰するべき選択されるギアシフト・ストラテジを示すマニュアルで入力される信号のいずれかとすることができる入力信号に応じて特定のギア変更ストラテジを実行するべくプログラムされる。このシステムは、標準モードおよび軟弱地表面シフト・モードに対応する少なくとも2つの異なるギアシフト・コントロール・ストラテジを提供することができる。前記ECU 9は、優勢な走行抵抗ならびに車輪の滑りを記録するべくプログラムすることが可能である。走行抵抗があらかじめ決定済みの値より高く、かつ車輪の滑りがあらかじめ決定済みの値より高い場合には、前記軟弱地表面モードに従ってコントロールを行うべく前記ECUをプログラムできる。
【0026】
マニュアルで、もしくは関連するパラメータの使用による計算によって軟弱地表面モードが選択された場合には、結び付きの緩い粒子または類似の物質からなる軟弱地表面モードにおける運転時に望ましい動力を提供するべく適合されたギアシフト・パターンが使用される。これは、たとえば、砂漠の道路上の砂地を運転している場合とすることができる。したがってシフト・パターンが、ギアシフト時に、標準モードで通常に使用されるより高いrpmにおいてシフトアップするか、またはより細かいステップでシフトアップするべく適合される。この方法は、当然のことながらこれらの手段の組合せを包含する。このギアシフト・ストラテジの目的は、緩い表面上で車両を運転している場合であってさえ、ギアシフトの後に駆動力が充分となるように、シフトに先行してより多くの動力を提供することである。その種の緩い物質中における運転をマネージする問題は、重量が重く、車輪が軟弱地表面にはまりやすく、したがって結果として走行抵抗の有意の増加をもたらすヘビーデューティ車両に特に関係する。
【0027】
図2においては、本発明に適した機械式トランスミッション(MT)4が示されており、たとえばこれはトラックに使用される。ギア・ホイール12が、図1のICE 2からの入力シャフト3、すなわち出力シャフト3上に回転可能にマウントされており、同期手段が提供されている係合スリーブ13によってシャフト上へのロックが可能であり、当該スリーブは回転可能でないが軸方向に変位可能にハブ14上にマウントされ、当該ハブは非回転可能に入力シャフト3と接続されている。係合スリーブ13によって、メイン・シャフト10上に回転可能にマウントされたギア・ホイール15もまた、入力シャフト3に関するロックが可能になる。ギア・ホイール12および15は、それぞれギア・ホイール16および17と係合しており、それらは非回転可能に中間シャフト11と接続されている。中間シャフト11上には、さらにギア・ホイール18、19、20が回転可能に取付けられる形で配されており、それらはそれぞれ、メイン・シャフト10上に回転可能にマウントされたギア・ホイール21、22、23と係合し、後者のギア・ホイールは、図解されている実施態様においては同期構成を有していない係合スリーブ24および25によってそれぞれメイン・シャフト上にロック可能である。しかしながら望ましい場合には、これらのスリーブにも同期構成を備えることができる。さらにギア・ホイール28がメイン・シャフト10上に回転可能にマウントされ、分離シャフト29上に回転可能にマウントされた中間ギア・ホイール30と係合しており、それがまた中間シャフトのギア・ホイール20と係合している。ギア・ホイール28は、係合スリーブ26を経由してシャフト上へのロックが可能である。
【0028】
ペアのギア・ホイール12、16、ならびに15、17、および係合スリーブ13は、低速ギア段LSおよび高速ギア段HSを有する分割ギア装置4aを形成する。ペアのギア・ホイール15、17はまた、ペアのギア・ホイール21、18、22、19、23、20、および28、30とともに、前進4速および後退1速を伴う基本メイン・ギアボックス4bを形成する。メイン・シャフトの出力端上にはギア・ホイール31が回転可能に取付けられる形で配されており、それが、参照番号32によって示された遊星タイプの2段レンジ・ギア4c内の中心ギアを形成し、それの遊星ホイール・キャリア33は、ギアボックスの出力シャフトを形成するシャフト34と、回転可能に取付けられる形で接続されている。レンジ・ギア32の遊星ホイール35は、リング・ギア36と係合しており、当該リング・ギアは、係合スリーブ37を経由して、低速レンジLRの場合にはギアボックスのケーシングに関してロック可能であり、高速レンジHRの場合には、遊星ホイール・キャリア33に関してロック可能である。この係合スリーブはまた、ギア・ポジションLRとHRの間にニュートラル・ポジションNRも有している。ニュートラル・ポジションNRにおいては、出力シャフト34がメイン・シャフト10から解放される。
【0029】
係合スリーブ13、24、25、26および37は、図2において矢印によって示されているとおり、変位可能であり、矢印の隣に示されているギア段を提供する。変位は、図2内に略図的に示されたサーボ装置40、41、42、43、および44によってもたらされ、前述したタイプのギアボックスに使用されるタイプの空気圧作動ピストン/シリンダ構成とすることができる。これらのサーボ装置は、コントロール・ユニットへ供給される信号、たとえばエンジンの回転速度、車両の速度、スロットル・ペダル位置、エンジン・ブレーキのオン/オフといったエンジンおよび車両の多様なデータを表わす信号、およびマニュアル・シフトまたはオートマチック・コントロール・シフトが希望されているか否かを示す信号に応じてマイクロコンピュータを包含するECU 9(図1)によってコントロールされる。ECU 9はまた、スロットル・ペダル位置に応じて、およびクラッチ5(図1)が係合されているかまたは解放されているかに応じて燃料噴射もコントロールし、言換えるとそれは、エンジンの回転速度もコントロールする。
【0030】
図2に示されているMT 4は、本発明に適したトランスミッション・システムの例に過ぎず、特定のギアシフト・ストラテジを伴う発明の概念は任意のギアシフト・システムに適用可能である。図2に記述されたシステムは、たとえば、本発明における同期のために使用される同期ギアがメイン・ギアボックス内もしくは分割ギア装置構成内またはレンジ・ギア構成内に配置できるように、同期の数および位置に関して修正できる。
【0031】
図3は、x軸をアクセル・ペダル位置、y軸をエンジン回転速度として示したグラフである。2つの曲線は、それぞれ同一のギアから前記標準シフト・モードに従って実行されるシフトアップおよび前記軟弱地表面シフト・モードに従って実行されるシフトアップについてのエンジン回転速度を示している。これからわかるとおり、軟弱地表面シフト・モードに従って実行されるシフトアップは、より高いエンジン回転速度において実行される。2つの異なるモードの間における特定ギアからのシフトアップの場合の回転速度差xは、この実施態様によれば、アクセル・ペダルのすべての位置について同一となる。
【0032】
図4は、本発明の別の実施態様による、x軸をアクセル・ペダル位置、y軸をエンジン回転速度として示した別のグラフである。このグラフは、図3のグラフに対応するが、前記標準シフト・モードと前記軟弱地表面シフト・モードの間における特定ギアからのシフトアップの場合の回転速度差xが、この実施態様によれば、異なるアクセル・ペダルの位置において異なる。アクセル・ペダルの小さい踏み込みにおいては、アクセル・ペダルがより大きく踏込まれたとき(xsmall)と比べると回転速度差が大きい(xlarge)。これは、シフトアップが実行されるとき、ギアのシフトアップ後にエンジンの回転速度が低すぎるという結果への帰結を回避できる利点を有する。またこれは、ギアシフトを必要とせずにより広い車両速度間隔にわたって車両の速度を適合させる可能性を運転者に提供する。これは、運転者が丘の登坂前に走行を行うとき、または旋回前にわずかに減速しなければならない場合に有利となり得る。
【0033】
本発明はまた、前記方法を実行するためにコンピュータとともに使用されるコンピュータ・プログラム、コンピュータ・プログラム製品、およびストレージ媒体にも関係し、図5に、コンピュータ構成に適用される本発明を示す。
【0034】
図5は、本発明の1つの実施態様による装置300を示しており、この装置は、不揮発性メモリ320、プロセッサ310、および読み書きメモリ360を包含する。メモリ320は、装置300をコントロールするためのコンピュータ・プログラムがストアされた第1のメモリ部分330を有する。装置300をコントロールするためのメモリ部分330内のコンピュータ・プログラムは、オペレーティング・システムとすることができる。
【0035】
装置300は、たとえばECU 9等のコントロール・ユニット内に入れ込むことが可能である。データ処理ユニット310は、たとえばマイクロコンピュータを包含できる。
【0036】
メモリ320はまた、本発明に従って駆動伝達機構システムをコントロールするためのプログラムがストアされた第2のメモリ部分340も有する。代替実施態様においては、駆動伝達機構システムをコントロールするためのプログラムが、たとえばCDまたは交換可能な半導体メモリ等の別体の不揮発性データ・ストレージ媒体350内にストアされる。プログラムは、実行可能形式または圧縮状態でストアすることが可能である。
【0037】
以下においてデータ処理ユニット310が特定の機能を実行すると述べるときには、データ処理ユニット310がメモリ340内にストアされているプログラムの特定の部分を実行するか、または不揮発性記録媒体350内にストアされているプログラムの特定の部分を実行することが明らかであるものとする。
【0038】
データ処理ユニット310は、データ・バス314を通じたメモリ350との通信に合わせて調整されている。またデータ処理ユニット310は、データ・バス312を通じたメモリ320との通信に合わせた調整もなされている。それに加えてデータ処理ユニット310は、データ・バス311を通じたメモリ360との通信に合わせた調整もなされている。さらにデータ処理ユニット310は、データ・バス315の使用によるデータ・ポート390との通信に合わせた調整もなされている。
【0039】
データ処理ユニット310がメモリ340内にストアされているプログラムを実行するか、または不揮発性記録媒体350内にストアされているプログラムを実行することによって、本発明によるところの方法をデータ処理ユニット310によって実行することが可能である。
【0040】
本発明は、ここで述べた実施態様に限定されるとみなされるものではなく、むしろ多くの追加の変形および修正が以下の特許請求の範囲内に入ると考えられる。したがって、上記の論理システムは、駆動伝達機構コントロール・システムがどのように車両内に実装されるかを示した単なる例に過ぎず、車両内において本発明をどのように実装するかについて当業者に自明のオプションはそのほかにもいくつかあり、それらはこの出願における発明の概念の範囲内である。
【符号の説明】
【0041】
1 駆動伝達機構
2 内燃機関(ICE)
3 入力シャフト、出力シャフト
4 機械式トランスミッション(MT)
4a 分割ギア装置
4b メイン・ギアボックス
4c レンジ・ギア装置
5 メイン・クラッチ(MC)、マスタ・クラッチ
6 出力シャフト
7 駆動輪
8 従動シャフト
9 電子コントロール・ユニット(ECU)
10 メイン・シャフト
11 中間シャフト
12 ギア・ホイール
13 係合スリーブ
14 ハブ
15 ギア・ホイール
16 ギア・ホイール
17 ギア・ホイール
18 ギア・ホイール
19 ギア・ホイール
20 ギア・ホイール
21 ギア・ホイール
22 ギア・ホイール
23 ギア・ホイール
24 係合スリーブ
25 係合スリーブ
26 係合スリーブ
28 ギア・ホイール
29 分離シャフト
30 中間ギア・ホイール
31 ギア・ホイール
32 レンジ・ギア
33 遊星ホイール・キャリア
34 出力シャフト
35 遊星ホイール
36 リング・ギア
37 係合スリーブ
40 サーボ装置
41 サーボ装置
42 サーボ装置
43 サーボ装置
44 サーボ装置
300 装置
310 プロセッサ、データ処理ユニット
311 データ・バス
312 データ・バス
314 データ・バス
315 データ・バス
320 不揮発性メモリ
330 第1のメモリ部分
340 第2のメモリ部分
350 不揮発性データ・ストレージ媒体
360 読み書きメモリ
390 データ・ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動化されたマスタ(5)クラッチ、
ずれ歯ギアボックス(4)、および
前記マスタ・クラッチならびに前記ずれ歯ギアボックスをコントロールべく適合されたコントロール・ユニット(9)を包含する車両のための動力伝達機構システムであって、
前記コントロール・ユニットが、望ましいギア選択を示すコントロール信号を生成するべくプログラムされ、
前記コントロール・ユニットが、ギア選択コントロール信号を生成するためのギア選択コントロール・アルゴリズムの少なくとも2つの異なるセットを包含し、
前記異なるコントロール・アルゴリズムが、入力データに基づいて異なるギア選択コントロール信号を生成するべくプログラムされ、
前記コントロール・ユニットが、さらに、コントロール・ユニットによって使用されるべきギア選択コントロール・アルゴリズムのセットはいずれであるかを示すギア選択コントロール・アルゴリズム・セレクタと接続され、
前記異なるギア選択コントロール・アルゴリズムが、通常の道路上の状態に対応する標準モードで前記車両を運転しているときに使用されることが意図された第1のギア選択コントロール・アルゴリズムを少なくとも包含し、
それにおいて前記ギア選択コントロール・アルゴリズムが、軟弱地表面モードで前記車両を運転しているときに使用されることが意図された第2のギア選択コントロール・アルゴリズムを少なくとも包含することを特徴とする動力伝達機構システム。
【請求項2】
前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、選択された、より高いギアへのシフトを、標準モードのギア選択コントロール・アルゴリズムが使用されるときより高いエンジン回転速度において実行するべくプログラムされることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達機構システム。
【請求項3】
前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、標準のギアシフト・ストラテジが使用されるときと比較すると、シフトアップ時により細かいギアシフト段階を実行するべくプログラムされることを特徴とする、請求項1または2に記載の動力伝達機構システム。
【請求項4】
前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、ステアリング・ホイール角度の増加がある場合にギアの変更のためのエンジン回転速度限界の増加があるようにステアリング角度に依存することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の動力伝達機構システム。
【請求項5】
ステアリング角度があらかじめ定義済みの限界を超えるときはシフトアップが許されないことを特徴とする、請求項4に記載の動力伝達機構システム。
【請求項6】
前記ギア選択コントロール・アルゴリズム・セレクタが、前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムがマニュアルで選択できるように、マニュアルで作動されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の動力伝達機構システム。
【請求項7】
車両内のコントロール・システムが、特定の時間にわたって走行抵抗が特定のレベルを超えるとき、前記動力伝達機構が前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムによって、すなわち軟弱地表面モードでコントロールされるべきであり、およびその他の場合においては別のギア選択コントロール・アルゴリズムによって、たとえば標準モードでコントロールされるべきであると予測するように、走行抵抗値が、関連するセンサから取出したデータから評価されるか、または計算されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の動力伝達機構システム。
【請求項8】
ルックアップ・テーブルまたは数学的公式を包含することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の動力伝達機構システム。
【請求項9】
前記動力伝達機構が前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムによってコントロールされているときは、前記第1のギア選択コントロール・アルゴリズムによってコントロールされているときよりギアシフトの間に急峻なトルクの立上がりが実行されることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の動力伝達機構システム。
【請求項10】
前記動力伝達機構が、分割ギアボックス、メイン・ギアボックス、およびレンジ・ギアを包含することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の動力伝達機構システム。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の動力伝達機構システムを包含する車両。
【請求項12】
前記車両がヘビーデューティ車両であることを特徴とする、請求項11に記載の車両。
【請求項13】
車両のための動力伝達機構をコントロールするための方法であって、
‐ 道路状態を記録するステップ、
‐ 前記記録された道路状態が標準道路状態に対応する場合には、通常の道路における状態に対応する標準モードで前記車両を運転するために意図された第1のギア選択コントロール・アルゴリズムを使用するステップ、および
‐ 前記記録された道路状態が軟弱地表面道路状態に対応する場合には、軟弱地表面道路における状態に対応する軟弱地表面モードで前記車両を運転するために意図された第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが使用されるステップ、
を有することを特徴とする方法。
【請求項14】
前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、選択された、より高いギアへのシフトを、前記第1のギア選択コントロール・アルゴリズムが使用されるときより高いエンジン回転速度において実行するべくプログラムされることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、標準のギアシフト・ストラテジが使用されるときと比較すると、シフトアップ時により細かいギアシフト段階を実行するべくプログラムされることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムが、ステアリング・ホイール角度の増加がある場合にギアの変更のためのエンジン回転速度限界の増加があるようにステアリング角度に依存することを特徴とする、請求項13乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ステアリング角度があらかじめ定義済みの限界を超えるときはシフトアップが許されないことを特徴とする、請求項13乃至16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記動力伝達機構が前記第2のギア選択コントロール・アルゴリズムによってコントロールされているときは、前記第1のギア選択コントロール・アルゴリズムによってコントロールされているときよりギアシフトの間に急峻なトルクの立上がりが実行されることを特徴とする、請求項13乃至17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
コンピュータ・プログラムであって、コンピュータ上において前記プログラムが実行されたときに請求項13に記載のすべてのステップを実行するためのプログラム・コード手段を包含するコンピュータ・プログラム。
【請求項20】
コンピュータ・プログラム製品であって、コンピュータ上において前記プログラム製品が実行されたときに請求項13に記載のすべてのステップを実行するためのコンピュータ可読媒体上にストアされたプログラム・コード手段を包含するコンピュータ・プログラム製品。
【請求項21】
コンピュータ・メモリ(520)または不揮発性データ・ストレージ媒体(550)等のコンピューティング環境において使用するためのストレージ媒体であって、請求項13に記載の方法を実行するコンピュータ可読プログラム・コードを包含するストレージ媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−505357(P2012−505357A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530982(P2011−530982)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/SE2008/000587
【国際公開番号】WO2010/041989
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(500277711)ボルボ ラストバグナー アーベー (163)
【Fターム(参考)】