説明

車両の電源供給制御装置及び電源供給制御方法

【課題】単一の発電機のみを備えた構成であっても、エンジン回転数が低い状態において、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を確保することが可能な車両の電源供給制御装置及び電源供給制御方法を提供する。
【解決手段】左右後輪10L、10Rへの駆動力要求が無く、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動電圧未満である場合に、上アーム側スイッチング素子28cと発電機4との電気的な接続を遮断し、上アーム側スイッチング素子28cと被電力供給系12とを電気的に接続し、発電機4と被電力供給系12とを電機子コイル36を介して接続し、電機子コイル36と、下アーム側スイッチング素子30cと、上アーム側スイッチング素子28cとから、昇圧型のDC−DCコンバータを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の発電機が発電した電力の供給先を、従駆動輪を駆動するモータへ交流電力を供給するインバータから被電力供給系へ切り替える車両の電源供給制御装置及び電源供給制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、従駆動輪を駆動するモータを備えた車両では、エアコン等の被電力供給系の稼動に用いる12V程度の電力を発電するオルタネータと、モータの駆動に用いる高圧の電力を発電するジェネレータ、すなわち、複数の発電機を備えている場合がある。これらの発電機は、共に、主駆動輪を駆動する主駆動源(エンジン)により駆動される。
しかしながら、車両に複数の発電機を備えている場合、これらの発電機の分、車両レイアウトの自由度が低下するという問題が生じる。また、車両の構成を、複数の発電機を備える構成とすることは、車両の製造コストが増加してしまうという問題が生じるおそれがある。
【0003】
これらの問題を解決するために、例えば、単一の発電機により、被電力供給系の稼動に用いる12V程度の電力と、モータの駆動に用いる高圧の電力とを切り替えて発電する、電源供給制御装置が提案されている。
上記のような、単一の発電機により、被電力供給系の稼動に用いる12V程度の電力と、モータの駆動に用いる高圧の電力とを切り替えて発電する電源供給制御装置としては、例えば、特許文献1に記載されているような構成のものがある。
【0004】
特許文献1に記載されている電源供給制御装置は、エンジンの出力によって発電し、その発電出力を被電力供給系用のバッテリーに充電する発電機を、発電機クラッチを介して、エンジンの出力軸に断接可能に設けている。
そして、被電力供給系用バッテリーのエネルギー消費量に応じて、発電機の発電を行うか否かを決定し、発電機の発電を行うときには発電機クラッチを接続状態とし、発電機の発電を行わないときには発電機クラッチを遮断状態とする。
【0005】
このような電源供給制御装置では、被電力供給系用の電源エネルギーを貯蔵した被電力供給系用バッテリーに、エンジンの出力により駆動される発電機の発電出力を的確に給電するとともに、エンジンの燃料消費を抑制することが可能となっている。
【特許文献1】特開平11−150805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電源供給制御装置が備えているような、高圧の電力を発電可能な発電機は、エンジン回転数全域において、システム電圧が設計値を超えないように設計している場合が多い。また、このような発電機では、エンジン回転数と発電電圧との関係が、ほぼ比例関係となっており、エンジン回転数の増加に応じて、発電電圧も増加することとなる。
したがって、特許文献1に記載の電源供給制御装置では、特にアイドリング時等のエンジン回転数が低い状態において、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を発電することが困難となるという問題が生じるおそれがある。
【0007】
この問題の対応策として、例えば、アイドリング時におけるエンジン回転数を、運転者からの駆動力要求、すなわち、アクセル操作量(アクセル開度)に応じた値よりも上げることにより、発電電圧を増加させる方法がある。しかしながら、この方法では、アイドリング時における燃料の消費量が増加するため、燃費が悪化するという問題が生じるおそれがある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、単一の発電機のみを備えた構成であっても、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を供給することが可能な、車両の電源供給制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、主駆動輪を駆動する主駆動源からの駆動力を動力源として発電する発電機が発電した電力の供給先を、前記発電機から供給された電力を交流電力に変換し、この変換した交流電力を、従駆動輪を駆動するモータへ供給するインバータから、前記インバータ及び前記モータとは異なる被電力供給系へ切り替える車両の電源供給制御装置であって、
前記インバータは、上下で一相となる一組のスイッチング素子を複数相備え、
前記モータは、電機子コイルを備え、
前記複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と前記発電機との電気的な接続の遮断、前記一方のスイッチング素子と前記被電力供給系との電気的な接続、及び前記発電機と前記被電力供給系との前記電機子コイルを介した接続を、前記従駆動輪への駆動力要求及び前記発電機の発電電圧に応じて行うことを特徴とする車両の電源供給制御装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従駆動輪への駆動力要求及び発電機の発電電圧に応じて、複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と発電機との電気的な接続の遮断と、一方のスイッチング素子と被電力供給系との電気的な接続を行う。これに加え、従駆動輪への駆動力要求及び発電機の発電電圧に応じて、発電機と被電力供給系との電機子コイルを介した接続を行う。
これにより、電機子コイルと、発電機との電気的な接続を遮断したスイッチング素子と同相のスイッチング素子と、発電機との電気的な接続を遮断したスイッチング素子とから、昇圧型のDC−DCコンバータを形成する。
【0010】
以上により、単一の発電機のみを備えた構成であっても、アイドリング時等のエンジン回転数が低い状態において、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を確保することが可能となる。
なお、上記の「被電力供給系」とは、エンジンスタータやエアコン等の電装部品の他に、これらの電装部品に接続され、電装部品に電力を供給可能なバッテリーを含む。これは、以下の説明においても同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態の電源供給制御装置を備えた車両の概略装置構成図である。
図1中に示すように、本実施形態の電源供給制御装置を備えた車両は、エンジン1と、主駆動輪2と、発電機4と、インバータ6と、モータ8と、従駆動輪10と、被電力供給系12とを有する車両である。
エンジン1は、内燃機関であり、主駆動輪2を駆動させる主駆動源を構成している。本実施形態では、主駆動輪2を、車両前後方向前方において、それぞれ、左右に配置した、左右前輪2L、2Rによって構成している。
【0012】
エンジン1の吸気管路(図示せず)には、例えば、メインスロットルバルブとサブスロットルバルブとを介装している。メインスロットルバルブは、運転者によるアクセルペダル(図示せず)の踏込み量等に応じて、スロットル開度を調整制御する。
サブスロットルバルブは、ステップモータ等をアクチュエータとして用い、そのステップ数に応じた回転角によりスロットル開度を調整制御する。これにより、後述するエンジン制御部16が出力する制御指令に応じて、サブスロットルバルブのスロットル開度を、メインスロットルバルブのスロットル開度以下等に調整する。以上により、運転者のアクセルペダルの操作状態とは独立させて、エンジン1の出力トルクを調整する。なお、運転者のアクセルペダルの操作状態とは、例えば、「アクセル開度」である。
【0013】
左右前輪2L、2Rには、それぞれ、前輪速センサ18FL、18FRを設けている。
各前輪速センサ18FL、18FRは、それぞれ、対応する左右前輪2L、2Rの回転速度及び回転数を検出し、この検出した回転速度及び回転数を含む情報信号を、4WDコントローラ14に出力する。
エンジン1と左右前輪2L、2Rとの間には、トランスミッション等を備える変速機20を介装している。これにより、エンジン1が駆動すると、エンジン1の回転トルクTeが、変速機20を介して、左右前輪2L、2Rに伝達される構成としている。
【0014】
発電機4は、エンジン1からの駆動力を動力源として駆動し、電力を発電する構成となっている。具体的には、発電機4が有する回転軸が、エンジン1の回転軸と無端ベルト22を介して連結している。これにより、エンジン1の回転トルクTeの一部を、無端ベルト22を介して発電機4に伝達し、発電機4の回転軸を、エンジン1の回転数Neにプーリ比を乗じた回転数Nhで回転させて、電力を発電する。
【0015】
ここで、図2を参照して、発電機4の出力特性について説明する。
図2は、発電機4の出力特性の一例を示す図である。
図2中に示すように、発電機4の出力特性は、エンジン回転数と発電電圧VDC及び発電電流が、ほぼ比例関係となる特性となっている。すなわち、発電機4の出力特性は、エンジン回転数全域において、システム電圧が設計値を超えない特性となっている。
したがって、図2中に示すように、エンジン1の回転数が600rpm未満の領域では、発電機4の発電電圧VDCが12V未満となる。なお、このエンジン1は、アイドリング時のエンジン回転数が600rpm未満となる特性を有する。
【0016】
以下、図1を参照した説明に戻る。
発電機4は、4WDコントローラ14が調整する界磁電流Ifgに応じて、エンジン1に対する負荷となり、その負荷トルクに応じた発電を行う。発電機4が発電する電力(発電電力)の大きさは、回転数Ngと界磁電流Ifgとの大きさにより決定する。なお、発電機4の回転数Ngは、エンジン1の回転数Neから、プーリ比に基づき演算することが可能である。
【0017】
発電機4には、第一ジャンクションボックス24を介してインバータ6が接続している。そして、発電機4が発電した電力を、第一ジャンクションボックス24を介して、インバータ6へ供給可能となっている。
第一ジャンクションボックス24は、その内部に、発電機4とインバータ6とを接続・遮断するリレーが設けてある。そして、このリレーを接続した状態で、発電機4が直流の電力をインバータ6へ供給する。インバータ6は、発電機4が供給した直流の電力を、例えば、三相交流等の交流電力に変換してモータ8へ供給する。
【0018】
また、第一ジャンクションボックス24の内部には、発電機4の発電電圧を検出する発電機電圧センサ26を設けている。
発電機電圧センサ26は、発電機4の発電電圧を検出し、この検出した発電電圧を含む情報信号を、4WDコントローラ14に出力する。
また、インバータ6は、複数個のスイッチング素子28,30(MOSFET)と、インバータ側切り替え部32と、インバータ駆動回路34とを備えている。本実施形態では、インバータ6が、それぞれ3個のスイッチング素子28,30、すなわち、6個のスイッチング素子を備えている場合について説明する。
【0019】
本実施形態では、6個のスイッチング素子28,30を、それぞれ、上下で一相となる、3個の上アーム側スイッチング素子28a〜28cと、3個の下アーム側スイッチング素子30a〜30cとから構成している。なお、図1中では、3個の上アーム側スイッチング素子28a〜28cを、発電機4に近い側から、上アーム側スイッチング素子28a、上アーム側スイッチング素子28b、上アーム側スイッチング素子28cと記載している。同様に、図1中では、3個の下アーム側スイッチング素子30a〜30cを、発電機4に近い側から、下アーム側スイッチング素子30a、下アーム側スイッチング素子30b、下アーム側スイッチング素子30cと記載している。
【0020】
上アーム側スイッチング素子28aと下アーム側スイッチング素子30a等、上下で一相となる3組のスイッチング素子28,30は、それぞれ、モータ8が備える電機子コイル36の三相に対応する。すなわち、インバータ6は、上下で一相となる三組のスイッチング素子28,30を備える。そして、その3組の各スイッチング素子28,30を、それぞれ、スイッチング制御することにより、三相交流をモータ8に供給する構成となっている。各スイッチング素子28,30のスイッチング制御は、インバータ駆動回路34が出力する制御指令によって行う。
【0021】
インバータ側切り替え部32は、上アーム側スイッチング素子28bと上アーム側スイッチング素子28cとの間に介装してあり、三箇所のインバータ側接続部38a〜38cを有している。インバータ側接続部38aは、上アーム側スイッチング素子28bに接続しており、インバータ側接続部38bは、上アーム側スイッチング素子28cに接続している。また、インバータ側接続部38cは、被電力供給系12に接続している。
また、インバータ側切り替え部32は、上アーム側スイッチング素子28cと発電機4及び被電力供給系12との電気的な接続状態を切り替える機能を有する。その切り替え制御は、4WDコントローラ14が備える電力供給先切り替え手段が出力する制御指令によって行う。
【0022】
具体的には、インバータ側切り替え部32は、電力供給先切り替え手段が出力する制御指令によって、インバータ側第一切り替え状態と、インバータ側第二切り替え状態とを切り替える。
インバータ側第一切り替え状態は、インバータ側接続部38aとインバータ側接続部38bとを電気的に接続する状態である。これにより、インバータ側第一切り替え状態は、上アーム側スイッチング素子28cと発電機4とを電気的に接続するとともに、上アーム側スイッチング素子28cと被電力供給系12との電気的な接続を遮断する状態となる。
【0023】
一方、インバータ側第二切り替え状態は、インバータ側接続部38bとインバータ側接続部38cとを電気的に接続する状態である。これにより、インバータ側第二切り替え状態は、上アーム側スイッチング素子28cと発電機4との電気的な接続を遮断するとともに、上アーム側スイッチング素子28cと被電力供給系12とを電気的に接続する状態となる。また、インバータ側第二切り替え状態は、発電機4と被電力供給系12とを、モータ8が備える電機子コイル36を介して接続する状態となる。なお、図1中には、インバータ側第二切り替え状態を記載している。また、電機子コイル36の説明は後述する。
【0024】
ここで、図3を参照して、インバータ駆動回路34の構成について説明する。
図3は、インバータ駆動回路34の構成を示すブロック図である。
図3中に示すように、インバータ駆動回路34は、通常インバータ駆動制御部34Aと、通常モータ界磁制御部34Bと、昇圧時処理部34Cとを備えている。
通常インバータ駆動制御部34Aは、モータトルク指令値Ttとモータ8の回転速度Vmとから公知のベクトル制御を行い、インバータ6に三相パワー素子のスイッチング制御信号を出力して、三相交流を制御する。
【0025】
通常モータ界磁制御部34Bは、モータ界磁電流が、モータ8の回転速度Vmに基づき求めた目標モータ界磁電流となるように、モータ8にスイッチング制御信号を出力する。
なお、通常インバータ駆動制御部34A及び通常モータ界磁制御部34Bの処理は、公知の目標モータトルクに関する制御方法であれば適用可能である。
昇圧時処理部34Cは、各スイッチング素子28,30のオン・オフ状態を制御する。昇圧時処理部34Cによる、各スイッチング素子28,30のオン・オフ状態の詳細な制御については、後述する。
なお、通常インバータ駆動制御部34A、通常モータ界磁制御部34B、昇圧時処理部34Cの動作は、4WDコントローラ14が備える電力供給先切り替え手段が出力する制御指令によって行う。
【0026】
以下、図1を参照した説明に戻る。
モータ8は、界磁巻線型同期モータであり、界磁コイル40を有するロ一タと、回転磁界を発生するための三相巻線(電機子コイル36)が巻かれたステータとを備えている。
また、モータ8は、ロータが有する界磁コイル40に電流を流すことで発生する磁界と、ステータに巻かれた電機子コイル36から発生する磁界との相互作用により回転運動する。これにより、モータ8は、従駆動輪10を駆動させる従駆動源を構成している。本実施形態では、従駆動輪10を、車両前後方向後方において、それぞれ左右に配置した、左右後輪10L、10Rによって構成している。
【0027】
また、モータ8は、ロータが外力により回転させられる場合には、これらの磁界の相互作用により、電機子コイル36の両端に起電力を発生して、発電動作する。
左右後輪10L、10Rには、それぞれ、後輪速センサ42RL、42RRを設けている。
各後輪速センサ42RL、42RRは、それぞれ、対応する左右後輪10L、10Rの回転速度及び回転数を検出し、この検出した回転速度及び回転数を含む情報信号を、4WDコントローラ14に出力する。
【0028】
モータ8の駆動軸は、減速機44、クラッチ46及びデフ48を介して、左右後輪10L、10Rに接続可能となっている。したがって、モータ8は、モータ8の駆動軸が左右後輪10L、10Rに接続された状態で、左右後輪10L、10Rによって構成される従駆動輪10を駆動させる構成となっている。
クラッチ46は、例えば、湿式多板クラッチによって形成してあり、モータ8から左右後輪10L、10Rまでのトルク伝達経路に介装している。なお、本実施形態においては、締結手段としてのクラッチ46を湿式多板クラッチとしたが、これに限定されるものではなく、クラッチ46を、例えば、パウダークラッチやポンプ式クラッチとしてもよい。
【0029】
また、クラッチ46は、4WDコントローラ14が出力するクラッチ制御指令に応じて、接続状態または解放状態となり、車両の駆動状態を、四輪駆動状態または二輪駆動状態とする。
具体的には、クラッチ46が接続状態となると、モータ8の駆動軸が左右後輪10L、10Rに接続され、車両は四輪駆動状態となる。この状態では、左右前輪2L、2R及び左右後輪10L、10Rが駆動輪となる。
一方、クラッチ46が解放状態となると、モータ8の駆動軸と左右後輪10L、10Rとの接続が解除され、車両は二輪駆動状態となる。この状態では、左右前輪2L、2Rのみが駆動輪となる。
【0030】
被電力供給系12は、車両が備えるエンジンスタータやエアコン等の電装部品50と、これらの電装部品50へ蓄電した電力を供給可能なバッテリー52から構成している。バッテリー52は、電装部品50に接続している。
また、被電力供給系12は、被電力供給系側切り替え部54を介して、発電機4と接続しており、発電機4が発電した電力が供給されて稼動する。被電力供給系12の稼動に必要な電圧は、例えば、12V〜14V程度となっている。以下の説明では、被電力供給系12の稼動に必要な電圧を12Vとする。電装部品50とバッテリー52は、発電機4に対して、並列に接続している。
【0031】
また、被電力供給系12は、第二ジャンクションボックス56を介して、インバータ側切り替え部32が有するインバータ側接続部38cと接続している。
第二ジャンクションボックス56は、その内部に、被電力供給系12の稼動状態における電圧(以下、「稼動電圧」と記載する)を検出する被電力供給系電圧センサ58を設けてある。
【0032】
被電力供給系電圧センサ58は、被電力供給系12の稼動電圧を検出し、この検出した稼動電圧を含む情報信号を、4WDコントローラ14に出力する。
被電力供給系側切り替え部54は、発電機4と被電力供給系12との間に介装してあり、二箇所の被電力供給系側接続部60a,60bを有している。被電力供給系側接続部60aは、発電機4に接続しており、被電力供給系側接続部60bは、被電力供給系12に接続している。
【0033】
また、被電力供給系側切り替え部54は、発電機4と被電力供給系12との電気的な接続状態を切り替える機能を有する。その切り替え制御は、4WDコントローラ14が備える電力供給先切り替え手段が出力する制御指令によって行う。電力供給先切り替え手段の構成については、後述する。
具体的には、被電力供給系側切り替え部54は、電力供給先切り替え手段が出力する制御指令によって、被電力供給系側第一切り替え状態と、被電力供給系側第二切り替え状態とを切り替える。
【0034】
被電力供給系側第一切り替え状態は、被電力供給系側接続部60aと被電力供給系側接続部60bとを電気的に接続する状態である。これにより、被電力供給系側第一切り替え状態は、発電機4と被電力供給系12とを電気的に接続する状態となる。
一方、被電力供給系側第二切り替え状態は、被電力供給系側接続部60aと被電力供給系側接続部60bとの電気的な接続を遮断する状態である。これにより、被電力供給系側第二切り替え状態は、発電機4と被電力供給系12との電気的な接続を遮断する状態となる。なお、図1中には、被電力供給系側第二切り替え状態を記載している。
【0035】
4WDコントローラ14は、例えば、マイクロコンピュータ等の演算処理装置を備えた構成としている。また、4WDコントローラ14には、前輪速センサ18FL、18FR及び後輪速センサ42RL、42RRが検出した回転速度及び回転数を含む情報信号が入力される。さらに、4WDコントローラ14には、発電機電圧センサ26が検出した発電電圧、被電力供給系電圧センサ58が検出した稼動電圧を含む、それぞれの情報信号が入力される。4WDコントローラ14の詳細な構成については、後述する。
【0036】
次に、図4から図9を参照して、4WDコントローラ14の詳細な構成を説明する。
図4は、4WDコントローラ14の構成を示すブロック図である。
図4中に示すように、4WDコントローラ14は、モータ指令演算部62と、発電機制御部64と、クラッチ制御部66と、電力供給先切り替え手段68とを備える。
図5は、モータ指令演算部62の構成を示すブロック図である。
図5中に示すように、モータ指令演算部62は、前後回転数差演算部62a、車速演算部62b、第1モータ四駆動力演算部62c、第2モータ四駆動力演算部62d、セレクトハイ部62e、及び後輪TCS制御部62fを備えている。
【0037】
以下、モータ指令演算部62が行う処理について説明する。
まず、前後回転数差演算部62aにおいて、左右前輪2L、2R及び左右後輪10L、10Rの車輪速度信号Vfr〜Vrrに基づいて、以下の式(1)により、前後回転差ΔVを算出する。
ΔV=(Vfr+Vfl)/2−(Vrr−Vrl)/2…(1)
そして、前後回転差ΔVに基づいて、第1モータ四駆動力演算部62cに予め格納されたマップを参照し、第1モータ四駆動力TΔVを算出して、算出した第1モータ四駆動力TΔVをセレクトハイ部62eに出力する。この第1モータ四駆動力TΔVは、前後回転差ΔVが大きくなると共に、比例的に大きく算出されるように設定している。
【0038】
一方、車速演算部62bにおいて、左右前輪2L、2R及び左右後輪10L、10Rの車輪速度信号と車両が発生する総駆動力Fとをセレクトローして、車速信号Vを算出する。ここで、総駆動力Fは、トルクコンバータ滑り比から推定される前輪駆動力とモータトルク指令値Ttから推定される後輪駆動力との和によって求める。
また、第2モータ四駆動力演算部62dにおいて、第2モータ四駆動力Tvを算出する。具体的には、車速演算部62bから出力された車速Vとアクセル開度Accとに基づいて、予め格納されたマップを参照して算出する。この第2モータ四駆動力Tvは、アクセル開度Accが大きくなるほど大きく、車速Vが大きくなるほど小さく算出されるように設定している。
【0039】
次に、セレクトハイ部62eにおいて、第1モータ四駆動力TΔVと第2モータ四駆動力Tvとをセレクトハイした値を算出し、この算出した値を、目標トルクTttとして後輪TCS制御部62fに出力する。
そして、後輪速Vrl,Vrr、車速Vに基づいて、公知の方法により後輪トラクションコントロール制御を行い、モータ8のモータトルク指令値Ttを出力する。
【0040】
以上により、モータ指令演算部62は、左右前輪2L、2R及び左右後輪10L、10Rの車輪速度信号に基づいて算出した前後輪の車輪速度差と、アクセルペダルの開度信号とから、モータトルク指令値Ttを算出する構成となっている。
図6は、発電機制御部64及びクラッチ制御部66の構成を示すブロック図である。
図6中に示すように、発電機制御部64は、要求電力演算部64A及び発電機制御部本体64Bを備えている。
【0041】
以下、図7及び図8を参照して、発電機制御部64が行う処理について説明する。
図7は、要求電力演算部64Aの構成を示すブロック図である。
図7中に示すように、要求電力演算部64Aは、モータ指令演算部62で算出したモータトルク指令値Ttとモータ8の回転速度Vmとに基づいて、以下の式(2)により、モータ8に必要な電力(モータ必要電力)Pmを算出する。
Pm=Tt×Vm…(2)
【0042】
さらに、モータ必要電力Pmに基づいて、以下の式(3)により、発電機4が出力すべき発電機必要電力Pgを算出する。発電機必要電力Pgは、モータ・インバータ効率分だけ、モータ必要電力Pmより多く出力する必要がある。
Pg=Pm/Иm…(3)
ここで、Иmはモータ・インバータ効率である。モータ・インバータ効率Иmは、モータトルク指令値Ttとモータ8の回転速度Vmに基づき、効率マップを使用して算出する。
【0043】
図8は、発電機制御部本体64Bの構成を示すブロック図である。
図8中に示すように、発電機制御部本体64Bでは、まず、要求電力演算部64Aで算出した要求電力を発電機電流で除算することで、発電機電圧指令Vgを算出する。
このとき、電圧リミッタ部64Baを通して、発電機電圧指令が上限電圧Vmax(フェイル電圧)よりも大きい場合には、上限電圧Vmaxに制限する。この上限電圧Vmaxは、例えば、60Vなどに設定し、インバータ6のスイッチング素子28,30の定格や、発電機4・モータ8の設計から設定する。
【0044】
さらに、発電機電圧指令と発電機電圧を比較して電圧偏差を求め、PI制御を施して、発電機電圧指令にする界磁電流Ifgを求め出力する。
PI制御のゲインは、発電機回転数をパラメータとしたPゲインマップ及びIゲインマップを予め求めておき、これらのマップを用いて変化させる。また、FF(フィードフォワード)項は、発電機電圧の電圧差分と発電機回転数をパラメータとしたFFマップを予め求めておき、PI出力値に加算する。なお、図8には、発電電圧をコントロールする例を示したが、これに換えて、例えば、発電界磁電流を検出(または推定)して界磁電流Ifgを求め、この求めた界磁電流Ifgをコントロールしても良い。
【0045】
クラッチ制御部66は、図6中に示すように、クラッチ46の状態を制御し、四輪駆動状態と判定している間は、クラッチ46を接続状態に制御する。例えば、クラッチ制御部66は、クラッチ46の状態を、下記のように制御する。
・4WDスイッチオン時において、車両が停止している時は接続状態
・モータ8の目標トルクTttが0ではない時は接続状態
・モータ8の目標トルクTttが0の時は解放状態
・モータ8の回転数が許容回転数を越えた場合には、保護の為、解放状態
・4WDスイッチオフ時は解放状態
【0046】
なお、上記の「4WDスイッチ」とは、例えば、運転席付近に配置されたボタンやレバーによって形成してあり、運転者の意思によって、車両を四輪駆動状態とするスイッチである。
図9は、電力供給先切り替え手段68の構成を示すブロック図である。
図9中に示すように、電力供給先切り替え手段68は、駆動力要求判定部68Aと、発電電圧判定部68Bと、切り替え指令部68Cとを備えている。
【0047】
以下、電力供給先切り替え手段68が行う処理について説明する。
駆動力要求判定部68Aでは、左右前輪2L、2R及び左右後輪10L、10Rの車輪速度信号Vfr〜Vrrに基づき、左右前輪2L、2Rと左右後輪10L、10Rとの輪速差、すなわち、主駆動輪と従駆動輪との輪速差を算出する。具体的な算出方法は、上述した前後回転数差演算部62aにおける、前後回転差ΔVを算出する方法と同様である。
【0048】
そして、前後回転差ΔVと所定の輪速差(前後回転差)とを比較し、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であると判定すると、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力する。ここで、所定の輪速差とは、左右前輪2L、2Rと左右後輪10L、10Rとの輪速差であり、車両の走行時にスリップが生じた場合等、左右後輪10L、10Rに駆動力が要求される大きさの輪速差である。なお、本実施形態では、所定の輪速差を、0[km/h]とした場合を例にあげて説明する。
【0049】
一方、前後回転差ΔVと所定の輪速差とを比較し、前後回転差ΔVが所定の輪速差以上であると判定すると、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力する。
発電電圧判定部68Bでは、発電機電圧センサ26が出力した情報信号に含まれる発電機4の発電電圧VDCと、被電力供給系電圧センサ58が出力した情報信号に含まれる被電力供給系12の稼動電圧とを比較する。
【0050】
そして、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動電圧未満、すなわち、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧未満であると判定すると、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力する。
一方、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動電圧以上、すなわち、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧以上であると判定すると、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力する。
【0051】
切り替え指令部68Cでは、駆動力要求判定部68A及び発電電圧判定部68Bが出力した情報信号に基づき、インバータ側切り替え部32及び被電力供給系側切り替え部54へ、それぞれの切り替え状態を制御する制御信号を出力する。
また、切り替え指令部68Cでは、駆動力要求判定部68A及び発電電圧判定部68Bが出力した情報信号に基づき、インバータ駆動回路34へ制御信号を出力する。具体的には、インバータ駆動回路34が備える、通常インバータ駆動制御部34A、通常モータ界磁制御部34B、昇圧時処理部34Cへ、それぞれの動作を制御する制御信号を出力する。
【0052】
以下に、駆動力要求判定部68A及び発電電圧判定部68Bが出力した情報信号に基づき、切り替え指令部68Cが、インバータ側切り替え部32、被電力供給系側切り替え部54及びインバータ駆動回路34へ出力する制御信号の、具体的な内容を示す。
駆動力要求判定部68A及び発電電圧判定部68Bが出力した情報信号から求めることが可能な判定結果は、次の四通り(C1〜C4)である。
【0053】
C1.駆動力要求判定部68Aから、前後回転差ΔVが所定の輪速差以上であるとの判定結果が出力され、発電電圧判定部68Bから、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧以上であるとの判定結果が出力されている場合。
C2.駆動力要求判定部68Aから、前後回転差ΔVが所定の輪速差以上であるとの判定結果が出力され、発電電圧判定部68Bから、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧未満であるとの判定結果が出力されている場合。
【0054】
C3.駆動力要求判定部68Aから、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であるとの判定結果が出力され、発電電圧判定部68Bから、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧以上であるとの判定結果が出力されている場合。
C4.駆動力要求判定部68Aから、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であるとの判定結果が出力され、発電電圧判定部68Bから、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧未満であるとの判定結果が出力されている場合。
【0055】
駆動力要求判定部68A及び発電電圧判定部68Bが出力した情報信号によって得られる判定結果(以下、「判定結果」と記載する)が、C1及びC2である場合、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求がある。このため、車両の駆動状態を四輪駆動状態にすることを優先する。
これにより、判定結果がC1及びC2である場合、切り替え指令部68Cは、インバータ側切り替え部32へ、インバータ側第一切り替え状態とする制御信号を出力する。さらに、判定結果がC1及びC2である場合、切り替え指令部68Cは、被電力供給系側切り替え部54へ、被電力供給系側第二切り替え状態とする制御信号を出力する。
【0056】
また、判定結果がC1及びC2である場合、切り替え指令部68Cは、インバータ駆動回路34へ、通常インバータ駆動制御部34A及び通常モータ界磁制御部34Bを動作させる制御信号を出力する。
なお、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求は、前後回転差ΔVが所定の輪速差以上であるとの判定結果以外に、4WDスイッチオン時も含む。
【0057】
判定結果がC3である場合、車両の駆動状態は二輪駆動状態であり、発電機4が発電した電流を、インバータ6へ供給する必要は無い。
このため、判定結果がC3である場合、切り替え指令部68Cは、インバータ側切り替え部32へ、インバータ側第二切り替え状態とする制御信号を出力する。さらに、判定結果がC3である場合、切り替え指令部68Cは、被電力供給系側切り替え部54へ、被電力供給系側第一切り替え状態とする制御信号を出力する。
【0058】
また、判定結果がC3である場合、切り替え指令部68Cは、インバータ駆動回路34へ、昇圧時処理部34Cの動作を停止させる制御信号を出力する。
判定結果がC4である場合、車両の駆動状態は二輪駆動状態であり、発電機4が発電した電流を、インバータ6へ供給する必要は無い。
このため、判定結果がC4である場合、切り替え指令部68Cは、インバータ側切り替え部32へ、インバータ側第二切り替え状態とする制御信号を出力する。さらに、判定結果がC4である場合、切り替え指令部68Cは、被電力供給系側切り替え部54へ、被電力供給系側第二切り替え状態とする制御信号を出力する。
【0059】
この状態において、インバータ6、モータ8、被電力供給系12の各構成部材から形成する回路の構成を、図10に示す。
図10は、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であり、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧未満である状態において、インバータ6、モータ8、被電力供給系12の各構成部材から形成する回路の構成を示す図である。
【0060】
図10中に示すように、上記の状態では、モータ8が備える電機子コイル36と、下アーム側スイッチング素子30cと、上アーム側スイッチング素子28cとから、昇圧型のDC−DCコンバータを形成する。
具体的には、電機子コイル36と下アーム側スイッチング素子30cからスイッチング手段を形成するとともに、上アーム側スイッチング素子28cから整流回路を形成することで、昇圧型のDC−DCコンバータを形成する。
また、判定結果がC4である場合、切り替え指令部68Cは、インバータ駆動回路34へ、昇圧時処理部34Cを動作させる制御信号を出力する。
【0061】
この制御信号は、上アーム側スイッチング素子28a,28bをオン状態とする信号と、下アーム側スイッチング素子30cのオン−オフ状態を切り替える信号とする。すなわち、切り替え指令部68Cは、インバータ駆動回路34へ、発電機4との電気的な接続を遮断するとともに、被電力供給系12と電気的に接続した上アーム側スイッチング素子28以外の、上アーム側スイッチング素子28をオン状態とする信号を出力する。また、切り替え指令部68Cは、発電機4との電気的な接続を遮断するとともに、被電力供給系12と電気的に接続した上アーム側スイッチング素子28と同相の、下アーム側スイッチング素子30のオン−オフ状態を切り替える信号を出力する。下アーム側スイッチング素子30cのオン−オフ状態の切り替えは、所定時間、例えば、数10ms経過する度に、オン状態とオフ状態とを切り替えて行う。
(動作)
次に、車両の駆動制御装置の動作について、図1から図10を参照しつつ、図11を用いて説明する。
図11は、駆動制御装置の動作を示すフローチャートである。
まず、車両の走行時等、エンジン1の駆動時において、左右後輪10L、10R、すなわち、従駆動輪への駆動力要求の有無を判定する(ステップS10)。
ステップS10では、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求の有無を判定する際の処理に、車両の走行時における前後回転差ΔVと所定の輪速差との比較や、4WDスイッチがオン状態であるか否かの判定を用いる。
【0062】
車両の走行時における前後回転差ΔVと所定の輪速差との比較を用いる際には、駆動力要求判定部68Aが、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であるか否かを判定する。以下、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求の有無を判定する際の処理に、車両の走行時における前後回転差ΔVと所定の輪速差との比較を用いる場合を例にあげて説明する。
駆動力要求判定部68Aは、例えば、路面μが小さい等の要因により、前後回転差ΔVが所定の輪速差以上である場合に、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求が有ると判定する。そして、駆動力要求判定部68Aは、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力し、ステップS20の処理へ移行する。
【0063】
一方、駆動力要求判定部68Aは、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満である場合に、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求が無いと判定する。そして、駆動力要求判定部68Aは、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力し、ステップS30の処理へ移行する。
ステップS20では、駆動力要求判定部68Aが、切り替え指令部68Cへ、前後回転差ΔVが所定の輪速差以上であるとの判定結果を含む情報信号を出力する。これにより、切り替え指令部68Cが、インバータ側切り替え部32へインバータ側第一切り替え状態とする制御信号を出力するとともに、被電力供給系側切り替え部54へ被電力供給系側第二切り替え状態とする制御信号を出力する。そして、ステップS22の処理へ移行する。
【0064】
また、ステップS20では、切り替え指令部68Cが、インバータ駆動回路34へ、通常インバータ駆動制御部34A及び通常モータ界磁制御部34Bを動作させる制御信号を出力し、ステップS22の処理へ移行する。
ステップS22では、発電機4が発電した電流をインバータ6へ供給し、この供給した電力をインバータ6で交流電力に変換する。そして、インバータ6で変換した交流電力を供給したモータ8により、左右後輪10L、10Rが駆動して、車両が四輪駆動状態となる。
【0065】
また、ステップS22では、左右後輪10L、10Rが駆動して、車両が四輪駆動状態となるために必要な、三相交流及びモータ界磁電流の制御が行われる。
三相交流及びモータ界磁電流の制御が行われるとともに、インバータ6で変換した交流電力を供給したモータ8により、左右後輪10L、10Rが駆動して、車両が四輪駆動状態となると、駆動制御装置の動作は、ステップS10の処理へ復帰する。
【0066】
ステップS30では、駆動力要求判定部68Aから、前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であるとの判定結果を含む情報信号を出力する。これにより、発電電圧判定部68Bが、発電機電圧センサ26が出力した情報信号に含まれる発電機4の発電電圧VDCと、被電力供給系電圧センサ58が出力した情報信号に含まれる被電力供給系12の稼動電圧とを比較する。
【0067】
そして、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動電圧以上であると判定すると、発電電圧判定部68Bは、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力し、ステップS40の処理へ移行する。
一方、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動電圧未満であると判定すると、発電電圧判定部68Bは、この判定結果を含む情報信号を、切り替え指令部68Cへ出力し、ステップS50の処理へ移行する。
【0068】
ステップS40では、発電電圧判定部68Bから、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧以上であるとの判定結果を含む情報信号を出力する。これにより、切り替え指令部68Cが、インバータ側切り替え部32へ、インバータ側第二切り替え状態とする制御信号を出力し、ステップS42の処理へ移行する。
ステップS42では、切り替え指令部68Cが、昇圧時処理部34Cの動作を停止する制御信号を出力して、ステップS44の処理へ移行する。
【0069】
ステップS44では、切り替え指令部68Cが、被電力供給系側切り替え部54へ、被電力供給系側第一切り替え状態とする制御信号を出力する。この状態では、発電機4が発電した電流を被電力供給系12へ供給し、この供給した電流を電装部品50及びバッテリー52へ供給する。このため、電装部品50の安定した稼動が可能となる。また、バッテリー52の蓄電量が少ない場合には、バッテリー52の充電を行う。
【0070】
発電機4が発電した電流を被電力供給系12へ供給する状態となると、駆動制御装置の動作は、ステップS10の処理へ復帰する。
ステップS50では、発電電圧判定部68Bが、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧未満であるとの判定結果を含む情報信号を出力する。これにより、切り替え指令部68Cが、被電力供給系側切り替え部54へ、被電力供給系側第二切り替え状態とする制御信号を出力して、ステップS52の処理へ移行する。
【0071】
ステップS52では、切り替え指令部68Cが、インバータ側切り替え部32へ、インバータ側第二切り替え状態とする制御信号を出力して、ステップS54の処理へ移行する。
この状態では、モータ8が備える電機子コイル36と、下アーム側スイッチング素子30cと、上アーム側スイッチング素子28cとから、昇圧型のDC−DCコンバータを形成する(図10参照)。
【0072】
ステップS54では、切り替え指令部68Cが、インバータ駆動回路34へ、昇圧時処理部34Cを動作させる制御信号、具体的には、上アーム側スイッチング素子28a,28bをオン状態とする信号を出力し、ステップS56の処理へ移行する。
この状態では、上アーム側スイッチング素子28a,28bが、共にオン状態となる。
ステップS56では、切り替え指令部68Cが、インバータ駆動回路34へ、昇圧時処理部34Cを動作させる制御信号、具体的には、下アーム側スイッチング素子30cのオン−オフ状態を、所定時間で切り替える(スイッチング)信号を出力する。
【0073】
この状態では、下アーム側スイッチング素子30cのオン−オフ状態を、所定時間で切り替えることにより、発電機4の発電電圧VDCを、被電力供給系12の稼動に必要な電圧へ向けて昇圧させる。
発電機4の発電電圧VDCが、被電力供給系12の稼動に必要な電圧へ向けて昇圧する状態となると、駆動制御装置の動作は、ステップS10の処理へ復帰する。
【0074】
そして、ステップS10において、発電機4の発電電圧VDCを昇圧させて、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧となると、駆動制御装置の動作は、ステップS40の処理へ移行する。
なお、上述したステップS30以降の処理中に、ステップS10において、左右後輪10L、10Rへの駆動力要求が有ると判定された場合には、優先的にステップS20の処理へ移行する。
【0075】
(効果)
(1)本実施形態の電源供給制御装置では、従駆動輪への駆動力要求及び発電機の発電電圧に応じて、インバータが備える複数相のうちいずれか一相における上アーム側スイッチング素子と発電機との電気的な接続を遮断する。さらに、従駆動輪への駆動力要求及び発電機の発電電圧に応じて、インバータが備える複数相のうちいずれか一相における上アーム側スイッチング素子と被電力供給系とを電気的に接続するとともに、発電機と被電力供給系とを電機子コイルを介して接続する。
【0076】
このため、電機子コイルと、発電機との電気的な接続を遮断した上アーム側スイッチング素子と同相の下アーム側スイッチング素子と、発電機との電気的な接続を遮断した上アーム側スイッチング素子とから、昇圧型のDC−DCコンバータを形成可能となる。
そして、昇圧型のDC−DCコンバータを形成した状態で、発電機との電気的な接続を遮断した上アーム側スイッチング素子以外の、複数相における上アーム側スイッチング素子をオン状態とする。また、昇圧型のDC−DCコンバータを形成した状態で、発電機との電気的な接続を遮断した上アーム側スイッチング素子と同相の下アーム側スイッチング素子のオン−オフ状態を、発電機の発電電圧が被電力供給系の稼動に必要な電圧となるまで切り替える。
【0077】
これにより、発電機の発電電圧が被電力供給系の稼動に必要な電圧未満である状態において、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を確保することが可能となる。
その結果、単一の発電機のみを備えた構成であっても、アイドリング時等のエンジン回転数が低い状態において、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を確保することが可能となる。
【0078】
また、エンジン回転数が低い状態において、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を確保することが可能となるため、燃費の悪化を抑制することが可能となる。
また、モータ及びインバータが有する構成部材から、昇圧型のDC−DCコンバータを形成することが可能となるため、独立したDC−DCコンバータを備える必要が無く、車両の製造コスト増加を抑制することが可能となる。
【0079】
(2)また、本実施形態の電源供給制御装置では、発電機の発電電圧が被電力供給系の稼動に必要な電圧未満である場合に、発電機と被電力供給系との電気的な接続を遮断する被電力供給系側切り替え部を備えている。
このため、発電機の発電電圧が被電力供給系の稼動に必要な電圧未満である状態で、発電機が発電した電力が、被電力供給系へ流れることを防止することが可能となる。
その結果、発電機の発電電圧大部分を、昇圧型のDC−DCコンバータによって、被電力供給系の稼動に必要な電圧まで昇圧することが可能となり、エンジン回転数を上げることなく、被電力供給系の稼動に必要な電圧の電力を確保することが可能となる。
【0080】
(応用例)
(1)なお、本実施形態の電源供給制御装置では、電機子コイルと、発電機との電気的な接続を遮断した上アーム側スイッチング素子と、この上アーム側スイッチング素子と同相の下アーム側スイッチング素子から、昇圧型のDC−DCコンバータを形成している。しかしながら、昇圧型のDC−DCコンバータの構成は、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、電機子コイルと、発電機との電気的な接続を遮断した下アーム側スイッチング素子と、この下アーム側スイッチング素子と同相の上アーム側スイッチング素子から、昇圧型のDC−DCコンバータを形成してもよい。要は、昇圧型のDC−DCコンバータは、電機子コイルと、複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と、このスイッチング素子と同相の、他方のスイッチング素子から形成することが可能である。
【0081】
(2)また、本実施形態の電源供給制御装置では、左右後輪への駆動力要求の有無を判定する際に、左右前輪と左右後輪との輪速差を用いたが、これに限定されるものではない。すなわち、左右後輪への駆動力要求の有無を判定する際に、例えば、左右前輪の回転数と左右後輪の回転数との差を用いてもよい。
(3)また、本実施形態の電源供給制御装置では、左右前輪を主駆動輪とし、左右後輪を従駆動輪とする四輪駆動車に適用したが、これに限定されるものではない。すなわち、左右後輪を主駆動輪とし、左右前輪を従駆動輪とする車両に適用してもよい。
【0082】
(4)また、本実施形態の電源供給制御装置では、本発明を四輪駆動車に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、車両前後方向に二輪以上の駆動輪を備え、一部の主駆動輪をエンジンで駆動し、残りの従駆動輪をモータで駆動する車両に適用してもよい。また、その他内燃機関等の回転駆動源によって回転駆動される発電機によって、車輪を駆動するための電動機を駆動する電動式駆動装置に、本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の電源供給制御装置を備えた車両の概略装置構成図である。
【図2】発電機4の出力特性の一例を示す図である。
【図3】インバータ駆動回路34の構成を示すブロック図である。
【図4】4WDコントローラ14の構成を示すブロック図である。
【図5】モータ指令演算部62の構成を示すブロック図である。
【図6】発電機制御部64及びクラッチ制御部66の構成を示すブロック図である。
【図7】要求電力演算部64Aの構成を示すブロック図である。
【図8】発電機制御部本体64Bの構成を示すブロック図である。
【図9】電力供給先切り替え手段68の構成を示すブロック図である。
【図10】前後回転差ΔVが所定の輪速差未満であり、発電機4の発電電圧VDCが被電力供給系12の稼動に必要な電圧未満である状態において、インバータ6、モータ8、被電力供給系12の各構成部材によって形成される回路の構成を示す図である。
【図11】駆動制御装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0084】
1 エンジン
2 主駆動輪
4 発電機
6 インバータ
8 モータ
10 従駆動輪
12 被電力供給系
14 4WDコントローラ
18 前輪速センサ
26 発電機電圧センサ
28 上アーム側スイッチング素子
30 下アーム側スイッチング素子
32 インバータ側切り替え部
34 インバータ駆動回路
34C 昇圧時処理部
36 電機子コイル
38 インバータ側接続部
40 界磁コイル
42 後輪速センサ
50 電装部品
52 バッテリー
54 被電力供給系側切り替え部
58 被電力供給系電圧センサ
60 被電力供給系側接続部
68 電力供給先切り替え手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主駆動輪を駆動する主駆動源と、当該主駆動源からの駆動力を動力源として発電する発電機と、当該発電機が発電した電力が供給され、且つ前記供給された電力を交流電力に変換するインバータと、当該インバータにより変換した交流電力が供給されて従駆動輪を駆動するモータと、前記インバータ及び前記モータとは異なる被電力供給系と、を有する車両に備えられ、
前記発電機が発電した電力の供給先を、前記インバータから前記被電力供給系へ切り替える電力供給先切り替え手段を有する車両の電源供給制御装置であって、
前記インバータは、上下で一相となる一組のスイッチング素子を複数相備え、
前記モータは、電機子コイルを備え、
前記電力供給先切り替え手段は、前記従駆動輪への駆動力要求及び前記発電機の発電電圧に応じて、前記複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と前記発電機との電気的な接続を遮断するとともに、前記一方のスイッチング素子と前記被電力供給系とを電気的に接続し、且つ前記発電機と前記被電力供給系とを前記電機子コイルを介して接続することを特徴とする車両の電源供給制御装置。
【請求項2】
前記複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と前記発電機との電気的な接続を遮断するとともに、前記一方のスイッチング素子と前記被電力供給系とを電気的に接続し、且つ前記発電機と前記被電力供給系とを前記電機子コイルを介して接続した状態で、前記発電機の発電電圧が前記被電力供給系の稼動に必要な電圧未満である場合に、前記一相以外の複数相における一方のスイッチング素子をオン状態とし、且つ前記一相における他方のスイッチング素子のオン−オフ状態を前記発電機の発電電圧が前記被電力供給系の稼動に必要な電圧となるまで切り替える昇圧時処理部を備えることを特徴とする請求項1に記載した車両の電源供給制御装置。
【請求項3】
前記従駆動輪への駆動力要求を、前記主駆動輪と前記従駆動輪との輪速差とし、
前記電力供給先切り替え手段は、前記輪速差が所定の輪速差未満であり、且つ前記発電機の発電電圧が前記被電力供給系の稼動に必要な電圧未満である場合に、前記複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と前記発電機との電気的な接続を遮断するとともに、前記一方のスイッチング素子と前記被電力供給系とを電気的に接続し、且つ前記発電機と前記被電力供給系とを前記電機子コイルを介して接続することを特徴とする請求項1または2に記載した車両の電源供給制御装置。
【請求項4】
前記発電機と前記被電力供給系との電気的な接続状態を切り替える被電力供給系側切り替え部を備え、
前記被電力供給系側切り替え部は、前記発電機と前記被電力供給系とを電気的に接続する被電力供給系側第一切り替え状態と、前記発電機と前記被電力供給系との電気的な接続を遮断する被電力供給系側第二切り替え状態とを切り替えることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載した車両の電源供給制御装置。
【請求項5】
主駆動輪を駆動する主駆動源からの駆動力を動力源とする発電機が発電した電力の供給先を、前記発電機から供給された電力を交流電力に変換して従駆動輪を駆動するモータへ供給するインバータから、前記発電機が発電した電力が供給されて稼動する被電力供給系へ切り替える車両の電源供給制御方法であって、
前記インバータは、上下で一相となる一組のスイッチング素子を複数相備え、
前記モータは、電機子コイルを備え、
前記従駆動輪への駆動力要求及び前記発電機の発電電圧に応じて、前記複数相のうちいずれか一相における一方のスイッチング素子と前記発電機との電気的な接続を遮断するとともに、前記一方のスイッチング素子と前記被電力供給系とを電気的に接続し、且つ前記発電機と前記被電力供給系とを前記電機子コイルを介して接続することを特徴とする車両の電源供給制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−207266(P2009−207266A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46193(P2008−46193)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】