車両の駆動力制御装置
【課題】 駆動車輪のスリップに伴う車体振動を抑制できる車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】 駆動車輪である左右後輪2c,2dがスリップしたとき、車両の目標駆動力tFo0に応じた動力源(エンジン1、モータ/ジェネレータ5)の目標値(目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm)から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を除去または低減するフィルタ処理を実施する。
【解決手段】 駆動車輪である左右後輪2c,2dがスリップしたとき、車両の目標駆動力tFo0に応じた動力源(エンジン1、モータ/ジェネレータ5)の目標値(目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm)から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を除去または低減するフィルタ処理を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセル開度に対して位相補償を行うことで、アクセルオン/オフに伴い発生するドライブシャフトのねじれに起因する車体振動を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−322947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、圧雪路等の低μ路において駆動車輪がスリップして駆動系に振動が発生した際、トラクション制御が介入するとタイヤのスリップ状態が維持されるため、振動が継続して運転性の悪化を招くという問題があった。
本発明の目的は、駆動車輪のスリップに伴う車体振動を抑制できる車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、駆動車輪がスリップしたとき、車両の目標駆動力に応じた動力源の目標値から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を除去または低減する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、駆動車輪のスリップに伴う車体振動の要因となる成分が除去または低減した目標値により動力源が駆動されるため、駆動車輪のスリップに伴う車体振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す平面図である。
【図2】実施例1の車両の駆動力制御装置の制御ブロック図である。
【図3】目標駆動力の特性線図である。
【図4】ハイブリッド車両の電気走行(EV)モード領域およびハイブリッド走行(HEV)モード領域を示す領域線図である。
【図5】ハイブリッド車両のバッテリ蓄電状態に対する目標充放電量特性を示す特性線図である。
【図6】目標変速段を決める変速マップの一例である。
【図7】車速に応じた最良燃費線までのエンジントルクの上昇経過を示すエンジントルク上昇経過説明図である。
【図8】実施例1のフィルタ処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例2の車両の制御装置の制御ブロック図である。
【図10】実施例3の車両の制御装置の制御ブロック図である。
【図11】実施例4の車両のパワートレインを示す平面図である。
【図12】実施例4の車両の制御装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す平面図である。
実施例1のハイブリッド車両は、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(後輪駆動車)をベース車両とし、これをハイブリッド化したもので、1はエンジンであり、2c,2dは駆動車輪としての左右後輪である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ5を設け、このモータ/ジェネレータ5を、第2動力源として備える。
【0009】
モータ/ジェネレータ5は、駆動モータおよびジェネレータとして作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで、第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0010】
モータ/ジェネレータ5および左右後輪(駆動車輪)2c,2d間に第2クラッチ(クラッチ)7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および左右後輪2c,2d間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0011】
自動変速機3は、周知の任意なものでよく、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結・解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放の組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
従って、自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2c,2dへ分配して伝達され、車両の走行に供される。
【0012】
ところで、図1においては、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7として専用のものを新設するのではなく、自動変速機3内に既存する変速摩擦要素を流用する。
この場合、第2クラッチ7が締結により上記の変速段選択機能(変速機能)を果たして自動変速機3を動力伝達状態にするのに加え、第1クラッチ6の解放・締結との共働により、後述するモード選択機能を果たし得ることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0013】
上記した図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を動力伝達状態にする。
なお第2クラッチ7は、自動変速機3内の変速摩擦要素のうち、現変速段で締結させるべき変速摩擦要素であって、選択中の変速段ごとに異なる。
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て左右後輪2c,2dに至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0014】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を対応変速段選択状態(動力伝達状態)にしたまま、第1クラッチ6も締結させる。
この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て左右後輪2c,2dに至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0015】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0016】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図2に示すようなシステムにより制御する。
図2の制御システムは、パワートレインの動作点を統合制御するハイブリッドコントローラ(HCM)9を備え、パワートレインの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータ(MG)トルクtTmと、第1クラッチ6の目標第1クラッチトルクtTc1と、第2クラッチ7の目標第2クラッチトルクtTc2とで規定する。
【0017】
HCM9には、上記パワートレインの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ10からの信号と、MG回転数NMを検出するMG回転センサ11からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ12からの信号と、変速機出力回転Noを検出する出力回転センサ13からの信号と、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ14からの信号と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ(不図示)の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ15からの信号と、を入力する。
【0018】
HCM9は、アクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、ドライバが希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標MGトルクtTm、目標第1クラッチトルクtTc1、および目標第2クラッチトルクtTc2をそれぞれ演算する。
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ17に供給され、目標MGトルクtTmはモータコントローラ18に供給される。
【0019】
エンジンコントローラ17は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、モータコントローラ18は、モータ/ジェネレータ5のトルクTmが目標MGトルクtTmとなるよう、バッテリおよびインバータ(不図示)を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
HCM9は、目標第1クラッチトルクtTc1および目標第2クラッチトルクtTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(不図示)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量が目標第1クラッチトルクtTc1に応じた伝達トルク容量に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量が目標第2クラッチトルクtTc2に応じた伝達トルク容量に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0020】
HCM9は、上記した運転モード(EVモード、HEVモード)の選択、そして目標エンジントルクtTe、目標MGトルクtTm、目標第1クラッチトルクtTc1、目標第2クラッチトルクtTc2の演算を各制御ブロックにより実行する。
目標駆動力演算/運転モード選択部19では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFo0を演算する。また、図4に示すEV−HEV領域マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標とする運転モードを決定する。
図4に示すEV−HEV領域マップから明らかなように、高負荷・高車速時はHEVモードを選択し、低負荷・低車速時はEVモードを選択し、EV走行中にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせで決まる運転点がEV→HEV切り替え線を越えてHEV領域に入るとき、EVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへのモード切り替えを行い、また、HEV走行中に運転点がHEV→EV切り替え線を越えてEV領域に入るとき、HEVモードからエンジン停止およびエンジン切り離しを伴うEVモードへのモード切り替えを行うものとする。ここで、EV→HEV切り替え線およびHEV→EV切り替え線は、バッテリ蓄電状態が低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に移動するものとする。
【0021】
目標充放電演算部20では、図5に示す充放電量マップを用いて、バッテリ蓄電状態SOCから目標充放電量(電力)tPを演算する。
目標入力トルク演算部21では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFo0と、目標運転モードと、車速VSPと、目標充放電量tPとから、これらを動作点到達目標として、時々刻々の過渡的な目標エンジントルクtTeと、目標変速機入力トルク(目標入力トルク)tTiと、目標変速機出力トルク(目標駆動トルク)tTdとを演算する。
また、現在の動作点から図6に示す最良燃費線までエンジントルクを上げるのに必要な出力を演算し、これと上記目標充放電量tPとを比較し、小さい方の出力を要求出力として、目標エンジントルクtTeに加算する。
駆動トルク配分演算部22では、目標エンジントルクtTeと、目標入力トルクtTiと、目標駆動トルクtTdとから、目標MGトルクtTmと、目標第1クラッチトルクtTc1と、目標第2クラッチトルクtTc2と、自動変速機3の目標変速段SHIFTを演算する。図7は、目標変速段SHIFTを決める変速マップの一例であり、目標変速段SHIFTは、車速VSPとアクセル開度APOに応じて設定する。
自動変速機3は、第2クラッチ7を目標第2クラッチトルクtTc2に応じた伝達トルク容量が達成されるよう締結制御されつつ、目標変速段SHIFTが選択された動力伝達状態になる。
【0022】
TCSコントローラ16は、各車輪2a,2b,2c,2dに回転速度を検出する各車輪速センサ23a,23b,23c,23dからの左前車輪速信号VFL、右前車輪速信号VFR、左後車輪速信号VRL、右後車輪速信号VRRを入力する。TCSコントローラ16のTCS制御作動判定部24は、左前車輪速VFLと右前車輪速VFRの平均値を従動輪速VF、左後車輪速VRLと右後車輪速VRRの平均値を駆動輪速VRとし、駆動輪速VRから従動輪速VFを減算して求めた駆動スリップ量Sが所定値Sth以上となったとき、TCS制御要求フラグFtcsをセットすると共に、駆動スリップ量Sに応じて目標入力トルクtTiを低下させるTCS制御要求トルク(要求駆動力低減量)Ttcsを決定する。TCS制御要求トルクTtcsは、駆動スリップ量Sが大きいほど大きくなり目標入力トルクtTiをより大きく低下させる。TCS要求制御フラグおよびTCS制御要求トルクTtcsは目標入力トルク演算部21のフィルタ処理部(振動抑制手段)25に入力される。
【0023】
フィルタ処理部25は、TCS要求制御フラグがセットされた場合、TCS制御要求トルクTtcsから左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分(周波数成分)を低減するためのフィルタ処理を行う。以下にフィルタ処理に用いるフィルタの伝達関数C(s)の算出ロジックを示す。
変速機入力トルクu(s)を入力、駆動輪回転数y(s)を出力とする伝達関数G(s)は、下記の式(1)で示すような二次遅れの伝達関数で表すことができる。
【数1】
ここで、sはラプラス演算子、ωpは自車両の固有振動数、ζpは自車両の減衰率であり、
ζp<1.0の場合は減衰振動、
ζp=1.0の場合は臨界減衰、
ζp>1.0の場合は過減衰、
となる。
【0024】
式(1)に基づき、伝達関数G(s)の前段に挿入するフィルタの伝達関数C(s)を、下記の式(2)のように設定する。
【数2】
ここで、ωmは目標伝達特性の固有振動数、ζmは目標伝達特性の減衰率であり、これらを適宜の値に設定することで、トラクション(TCS)制御介入時の車体振動(8Hz近傍)の振動レベルを抑制できる。なお、車体振動の周波数は自動変速機3の変速段毎に変化するため、フィルタに幅を持たせる。
目標入力トルク演算部21は、算出した目標入力トルクtTiからフィルタ処理後のTCS制御要求トルクTtcsを減算して目標入力トルクtTiを減少補正する。
【0025】
[フィルタ処理]
図8は、実施例1のフィルタ処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、TCS制御動作中であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS2へ進み、NOの場合には制御を終了する。
ステップS2では、TCS制御要求トルクTtcsにフィルタ処理を行う。
よって、フィルタ処理部25によるフィルタ処理は、TCS制御介入時にのみ実施される。
【0026】
次に、実施例1の作用を説明する。
駆動系にトルクコンバータを持たない車両において、低μ路でタイヤスリップ時に車体振動(8Hz近傍)が発生することがある。これは、タイヤをマス、ドライブシャフトをバネとした振動系に、タイヤ−路面間のμ-S特性によるトルク変動が入力されることで起こる現象であり、駆動系にトルクコンバータを持たない車両で顕著となる。そして、駆動輪スリップを抑制するTCS制御を行う車両では、駆動車輪のスリップ状態がTCS制御介入により維持されてしまうため、この現象が継続しやすく、運転性の悪化を招くと共に、ドライバに異常振動の違和感を与えてしまう。
【0027】
ここで、特開2004−322947号公報には、アクセルオン/オフに伴う発生するドライブシャフトのねじれに起因する車体振動(いわゆる、ガクガク振動)を抑制する技術が開示されている。ところが、この従来技術はタイヤがスリップしていない状態での振動抑制を目的としたものであり、タイヤスリップ時の振動とは周波数が異なるため、圧雪路等の低μ路において駆動車輪がスリップして駆動系に振動が発生した際、TCS制御が介入した場合、タイヤのスリップ状態が維持されてしまうため、振動が継続する。また、従来の振動抑制は、入力トルクに対して常に動作するため、ある条件(タイヤのスリップ時)にのみ発生する振動を抑えることができず、この振動を抑えようとするとタイヤスリップ以外の走行状態の場合にも制振制御が働いて運転性を悪化させてしまう。
【0028】
これに対し、実施例1のフィルタ処理部25では、TCS制御介入時、TCS制御要求トルクTtcsに対して、左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するフィルタ処理を実施する。これにより、左右後輪2c,2dのスリップに伴う車体振動の要因となる成分を低減した目標エンジントルクtTeおよび目標MGトルクtTmによりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5が駆動されるため、当該スリップに伴う車体振動を抑制できる。
ここで、例えば、TCS制御介入時以外の走行シーンにおいて、目標エンジントルクtTeや目標MGトルクtTmにフィルタ処理を実施した場合、当該フィルタ処理によって車両の駆動力が変動するため、車両の駆動力特性やドライバの運転に影響を与え、運転性の悪化を招くおそれがある。
そこで、実施例1では、左右後輪2c,2dのスリップに伴う車体振動が継続しやすいTCS制御介入時にのみフィルタ処理を実施し、他の走行シーンではフィルタ処理を実施しないようにすることで、フィルタ処理に伴う車両の運転性悪化を防止できる。
【0029】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の駆動力制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 駆動車輪である左右後輪2c,2dがスリップしたとき、車両の目標駆動力tFo0に応じた動力源(エンジン1、モータ/ジェネレータ5)の目標値(目標エンジントルクtTe、目標MGトルクtTm)から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するフィルタ処理を実施するフィルタ処理部25を備えた。
これにより、車体振動の要因となる成分が低減された目標値により動力源(エンジン1、モータ/ジェネレータ5)が駆動されるため、左右後輪2c,2dのスリップに伴う車体振動を抑制できる。
【0030】
(2) フィルタ処理部25は、左右後輪2c,2dの空転を抑制するTCS制御介入時にのみフィルタ処理を実施するため、TCS制御介入時以外の走行シーンにおけるフィルタ処理に伴う車両の運転性悪化を防止できる。
【0031】
(3) フィルタ処理部25は、TCS制御要求トルクTtcsに対してフィルタ処理を実施するため、左右後輪2c,2dのスリップに伴うTCS制御加入時の車体振動を抑制しつつ、その他の走行シーンにおけるフィルタ処理に伴う車両の運転性悪化を防止できる。
【0032】
〔実施例2〕
図9は、実施例2の車両の制御装置の制御ブロック図であり、実施例2では、フィルタ処理部25をTCSコントローラ16側に設けた点で実施例1と異なり、他の構成は実施例1と同一である。
よって、実施例2では、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0033】
〔実施例3〕
図10は、実施例3の車両の制御装置の制御ブロック図であり、実施例3では、フィルタ処理部26をモータコントローラ18側に設けた点で実施例1と異なる。
フィルタ処理部26は、TCS要求制御フラグがセットされた場合、目標MGトルクtTmから左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するためのフィルタ処理を行う。フィルタの伝達関数は実施例1のフィルタと同一である。
モータコントローラ18は、目標MGトルクtTmからフィルタ処理後のTCS制御要求トルクTtcsを減算して目標MGトルクtTmを補正する。
他の構成は実施例1と同一である。
よって、実施例3では、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0034】
〔実施例4〕
図11は、実施例4の車両のパワートレインを示す平面図である。
実施例4の車両は、図1に示した実施例1の構成からモータ/ジェネレータ5を省き、動力源をエンジン1のみとした例である。
図12は、実施例4の車両の制御装置の制御ブロック図である。
エンジンコントローラ27は、目標駆動力演算部28と、目標エンジントルク演算部29を備える。
目標駆動力演算部28は、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFo0を演算する。
目標エンジントルク演算部29は、目標駆動力tFo0から目標エンジントルクtTeを演算し、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御する。
目標エンジントルク演算部29は、フィルタ処理部30を有する。
フィルタ処理部30は、TCS制御要求フラグFtcsがセットされた場合、TCS制御要求トルクTtcsから左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するためのフィルタ処理を行う。
目標エンジントルク演算部29は、算出した目標エンジントルクtTeからフィルタ処理後のTCS制御要求トルクTtcsを減算して目標エンジントルクtTeを補正する。
よって、実施例4の車両の駆動力制御装置は、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0035】
(他の実施例)
以上、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に記載の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等は本発明の範囲に含まれる。
自動変速機3は、有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
第2クラッチ7は自動変速機3内に既存する変速摩擦要素ではなく、専用のものを新設してもよい。この場合、第2クラッチ7は自動変速機3の入力軸3aとモータ/ジェネレータ軸4との間に設けたり、自動変速機3の出力軸3bと後輪駆動系との間に設けたりすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン(動力源)
2c,2d 左右後輪(駆動車輪)
5 モータ/ジェネレータ(動力源)
25,26,29 フィルタ処理部(振動抑制手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセル開度に対して位相補償を行うことで、アクセルオン/オフに伴い発生するドライブシャフトのねじれに起因する車体振動を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−322947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、圧雪路等の低μ路において駆動車輪がスリップして駆動系に振動が発生した際、トラクション制御が介入するとタイヤのスリップ状態が維持されるため、振動が継続して運転性の悪化を招くという問題があった。
本発明の目的は、駆動車輪のスリップに伴う車体振動を抑制できる車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、駆動車輪がスリップしたとき、車両の目標駆動力に応じた動力源の目標値から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を除去または低減する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、駆動車輪のスリップに伴う車体振動の要因となる成分が除去または低減した目標値により動力源が駆動されるため、駆動車輪のスリップに伴う車体振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す平面図である。
【図2】実施例1の車両の駆動力制御装置の制御ブロック図である。
【図3】目標駆動力の特性線図である。
【図4】ハイブリッド車両の電気走行(EV)モード領域およびハイブリッド走行(HEV)モード領域を示す領域線図である。
【図5】ハイブリッド車両のバッテリ蓄電状態に対する目標充放電量特性を示す特性線図である。
【図6】目標変速段を決める変速マップの一例である。
【図7】車速に応じた最良燃費線までのエンジントルクの上昇経過を示すエンジントルク上昇経過説明図である。
【図8】実施例1のフィルタ処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例2の車両の制御装置の制御ブロック図である。
【図10】実施例3の車両の制御装置の制御ブロック図である。
【図11】実施例4の車両のパワートレインを示す平面図である。
【図12】実施例4の車両の制御装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す平面図である。
実施例1のハイブリッド車両は、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(後輪駆動車)をベース車両とし、これをハイブリッド化したもので、1はエンジンであり、2c,2dは駆動車輪としての左右後輪である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ5を設け、このモータ/ジェネレータ5を、第2動力源として備える。
【0009】
モータ/ジェネレータ5は、駆動モータおよびジェネレータとして作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで、第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0010】
モータ/ジェネレータ5および左右後輪(駆動車輪)2c,2d間に第2クラッチ(クラッチ)7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および左右後輪2c,2d間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0011】
自動変速機3は、周知の任意なものでよく、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結・解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放の組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
従って、自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2c,2dへ分配して伝達され、車両の走行に供される。
【0012】
ところで、図1においては、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7として専用のものを新設するのではなく、自動変速機3内に既存する変速摩擦要素を流用する。
この場合、第2クラッチ7が締結により上記の変速段選択機能(変速機能)を果たして自動変速機3を動力伝達状態にするのに加え、第1クラッチ6の解放・締結との共働により、後述するモード選択機能を果たし得ることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0013】
上記した図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を動力伝達状態にする。
なお第2クラッチ7は、自動変速機3内の変速摩擦要素のうち、現変速段で締結させるべき変速摩擦要素であって、選択中の変速段ごとに異なる。
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て左右後輪2c,2dに至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0014】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を対応変速段選択状態(動力伝達状態)にしたまま、第1クラッチ6も締結させる。
この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て左右後輪2c,2dに至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0015】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0016】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図2に示すようなシステムにより制御する。
図2の制御システムは、パワートレインの動作点を統合制御するハイブリッドコントローラ(HCM)9を備え、パワートレインの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータ(MG)トルクtTmと、第1クラッチ6の目標第1クラッチトルクtTc1と、第2クラッチ7の目標第2クラッチトルクtTc2とで規定する。
【0017】
HCM9には、上記パワートレインの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ10からの信号と、MG回転数NMを検出するMG回転センサ11からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ12からの信号と、変速機出力回転Noを検出する出力回転センサ13からの信号と、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ14からの信号と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ(不図示)の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ15からの信号と、を入力する。
【0018】
HCM9は、アクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、ドライバが希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標MGトルクtTm、目標第1クラッチトルクtTc1、および目標第2クラッチトルクtTc2をそれぞれ演算する。
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ17に供給され、目標MGトルクtTmはモータコントローラ18に供給される。
【0019】
エンジンコントローラ17は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、モータコントローラ18は、モータ/ジェネレータ5のトルクTmが目標MGトルクtTmとなるよう、バッテリおよびインバータ(不図示)を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
HCM9は、目標第1クラッチトルクtTc1および目標第2クラッチトルクtTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(不図示)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量が目標第1クラッチトルクtTc1に応じた伝達トルク容量に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量が目標第2クラッチトルクtTc2に応じた伝達トルク容量に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0020】
HCM9は、上記した運転モード(EVモード、HEVモード)の選択、そして目標エンジントルクtTe、目標MGトルクtTm、目標第1クラッチトルクtTc1、目標第2クラッチトルクtTc2の演算を各制御ブロックにより実行する。
目標駆動力演算/運転モード選択部19では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFo0を演算する。また、図4に示すEV−HEV領域マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標とする運転モードを決定する。
図4に示すEV−HEV領域マップから明らかなように、高負荷・高車速時はHEVモードを選択し、低負荷・低車速時はEVモードを選択し、EV走行中にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせで決まる運転点がEV→HEV切り替え線を越えてHEV領域に入るとき、EVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへのモード切り替えを行い、また、HEV走行中に運転点がHEV→EV切り替え線を越えてEV領域に入るとき、HEVモードからエンジン停止およびエンジン切り離しを伴うEVモードへのモード切り替えを行うものとする。ここで、EV→HEV切り替え線およびHEV→EV切り替え線は、バッテリ蓄電状態が低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に移動するものとする。
【0021】
目標充放電演算部20では、図5に示す充放電量マップを用いて、バッテリ蓄電状態SOCから目標充放電量(電力)tPを演算する。
目標入力トルク演算部21では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFo0と、目標運転モードと、車速VSPと、目標充放電量tPとから、これらを動作点到達目標として、時々刻々の過渡的な目標エンジントルクtTeと、目標変速機入力トルク(目標入力トルク)tTiと、目標変速機出力トルク(目標駆動トルク)tTdとを演算する。
また、現在の動作点から図6に示す最良燃費線までエンジントルクを上げるのに必要な出力を演算し、これと上記目標充放電量tPとを比較し、小さい方の出力を要求出力として、目標エンジントルクtTeに加算する。
駆動トルク配分演算部22では、目標エンジントルクtTeと、目標入力トルクtTiと、目標駆動トルクtTdとから、目標MGトルクtTmと、目標第1クラッチトルクtTc1と、目標第2クラッチトルクtTc2と、自動変速機3の目標変速段SHIFTを演算する。図7は、目標変速段SHIFTを決める変速マップの一例であり、目標変速段SHIFTは、車速VSPとアクセル開度APOに応じて設定する。
自動変速機3は、第2クラッチ7を目標第2クラッチトルクtTc2に応じた伝達トルク容量が達成されるよう締結制御されつつ、目標変速段SHIFTが選択された動力伝達状態になる。
【0022】
TCSコントローラ16は、各車輪2a,2b,2c,2dに回転速度を検出する各車輪速センサ23a,23b,23c,23dからの左前車輪速信号VFL、右前車輪速信号VFR、左後車輪速信号VRL、右後車輪速信号VRRを入力する。TCSコントローラ16のTCS制御作動判定部24は、左前車輪速VFLと右前車輪速VFRの平均値を従動輪速VF、左後車輪速VRLと右後車輪速VRRの平均値を駆動輪速VRとし、駆動輪速VRから従動輪速VFを減算して求めた駆動スリップ量Sが所定値Sth以上となったとき、TCS制御要求フラグFtcsをセットすると共に、駆動スリップ量Sに応じて目標入力トルクtTiを低下させるTCS制御要求トルク(要求駆動力低減量)Ttcsを決定する。TCS制御要求トルクTtcsは、駆動スリップ量Sが大きいほど大きくなり目標入力トルクtTiをより大きく低下させる。TCS要求制御フラグおよびTCS制御要求トルクTtcsは目標入力トルク演算部21のフィルタ処理部(振動抑制手段)25に入力される。
【0023】
フィルタ処理部25は、TCS要求制御フラグがセットされた場合、TCS制御要求トルクTtcsから左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分(周波数成分)を低減するためのフィルタ処理を行う。以下にフィルタ処理に用いるフィルタの伝達関数C(s)の算出ロジックを示す。
変速機入力トルクu(s)を入力、駆動輪回転数y(s)を出力とする伝達関数G(s)は、下記の式(1)で示すような二次遅れの伝達関数で表すことができる。
【数1】
ここで、sはラプラス演算子、ωpは自車両の固有振動数、ζpは自車両の減衰率であり、
ζp<1.0の場合は減衰振動、
ζp=1.0の場合は臨界減衰、
ζp>1.0の場合は過減衰、
となる。
【0024】
式(1)に基づき、伝達関数G(s)の前段に挿入するフィルタの伝達関数C(s)を、下記の式(2)のように設定する。
【数2】
ここで、ωmは目標伝達特性の固有振動数、ζmは目標伝達特性の減衰率であり、これらを適宜の値に設定することで、トラクション(TCS)制御介入時の車体振動(8Hz近傍)の振動レベルを抑制できる。なお、車体振動の周波数は自動変速機3の変速段毎に変化するため、フィルタに幅を持たせる。
目標入力トルク演算部21は、算出した目標入力トルクtTiからフィルタ処理後のTCS制御要求トルクTtcsを減算して目標入力トルクtTiを減少補正する。
【0025】
[フィルタ処理]
図8は、実施例1のフィルタ処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、TCS制御動作中であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS2へ進み、NOの場合には制御を終了する。
ステップS2では、TCS制御要求トルクTtcsにフィルタ処理を行う。
よって、フィルタ処理部25によるフィルタ処理は、TCS制御介入時にのみ実施される。
【0026】
次に、実施例1の作用を説明する。
駆動系にトルクコンバータを持たない車両において、低μ路でタイヤスリップ時に車体振動(8Hz近傍)が発生することがある。これは、タイヤをマス、ドライブシャフトをバネとした振動系に、タイヤ−路面間のμ-S特性によるトルク変動が入力されることで起こる現象であり、駆動系にトルクコンバータを持たない車両で顕著となる。そして、駆動輪スリップを抑制するTCS制御を行う車両では、駆動車輪のスリップ状態がTCS制御介入により維持されてしまうため、この現象が継続しやすく、運転性の悪化を招くと共に、ドライバに異常振動の違和感を与えてしまう。
【0027】
ここで、特開2004−322947号公報には、アクセルオン/オフに伴う発生するドライブシャフトのねじれに起因する車体振動(いわゆる、ガクガク振動)を抑制する技術が開示されている。ところが、この従来技術はタイヤがスリップしていない状態での振動抑制を目的としたものであり、タイヤスリップ時の振動とは周波数が異なるため、圧雪路等の低μ路において駆動車輪がスリップして駆動系に振動が発生した際、TCS制御が介入した場合、タイヤのスリップ状態が維持されてしまうため、振動が継続する。また、従来の振動抑制は、入力トルクに対して常に動作するため、ある条件(タイヤのスリップ時)にのみ発生する振動を抑えることができず、この振動を抑えようとするとタイヤスリップ以外の走行状態の場合にも制振制御が働いて運転性を悪化させてしまう。
【0028】
これに対し、実施例1のフィルタ処理部25では、TCS制御介入時、TCS制御要求トルクTtcsに対して、左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するフィルタ処理を実施する。これにより、左右後輪2c,2dのスリップに伴う車体振動の要因となる成分を低減した目標エンジントルクtTeおよび目標MGトルクtTmによりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5が駆動されるため、当該スリップに伴う車体振動を抑制できる。
ここで、例えば、TCS制御介入時以外の走行シーンにおいて、目標エンジントルクtTeや目標MGトルクtTmにフィルタ処理を実施した場合、当該フィルタ処理によって車両の駆動力が変動するため、車両の駆動力特性やドライバの運転に影響を与え、運転性の悪化を招くおそれがある。
そこで、実施例1では、左右後輪2c,2dのスリップに伴う車体振動が継続しやすいTCS制御介入時にのみフィルタ処理を実施し、他の走行シーンではフィルタ処理を実施しないようにすることで、フィルタ処理に伴う車両の運転性悪化を防止できる。
【0029】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の駆動力制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 駆動車輪である左右後輪2c,2dがスリップしたとき、車両の目標駆動力tFo0に応じた動力源(エンジン1、モータ/ジェネレータ5)の目標値(目標エンジントルクtTe、目標MGトルクtTm)から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するフィルタ処理を実施するフィルタ処理部25を備えた。
これにより、車体振動の要因となる成分が低減された目標値により動力源(エンジン1、モータ/ジェネレータ5)が駆動されるため、左右後輪2c,2dのスリップに伴う車体振動を抑制できる。
【0030】
(2) フィルタ処理部25は、左右後輪2c,2dの空転を抑制するTCS制御介入時にのみフィルタ処理を実施するため、TCS制御介入時以外の走行シーンにおけるフィルタ処理に伴う車両の運転性悪化を防止できる。
【0031】
(3) フィルタ処理部25は、TCS制御要求トルクTtcsに対してフィルタ処理を実施するため、左右後輪2c,2dのスリップに伴うTCS制御加入時の車体振動を抑制しつつ、その他の走行シーンにおけるフィルタ処理に伴う車両の運転性悪化を防止できる。
【0032】
〔実施例2〕
図9は、実施例2の車両の制御装置の制御ブロック図であり、実施例2では、フィルタ処理部25をTCSコントローラ16側に設けた点で実施例1と異なり、他の構成は実施例1と同一である。
よって、実施例2では、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0033】
〔実施例3〕
図10は、実施例3の車両の制御装置の制御ブロック図であり、実施例3では、フィルタ処理部26をモータコントローラ18側に設けた点で実施例1と異なる。
フィルタ処理部26は、TCS要求制御フラグがセットされた場合、目標MGトルクtTmから左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するためのフィルタ処理を行う。フィルタの伝達関数は実施例1のフィルタと同一である。
モータコントローラ18は、目標MGトルクtTmからフィルタ処理後のTCS制御要求トルクTtcsを減算して目標MGトルクtTmを補正する。
他の構成は実施例1と同一である。
よって、実施例3では、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0034】
〔実施例4〕
図11は、実施例4の車両のパワートレインを示す平面図である。
実施例4の車両は、図1に示した実施例1の構成からモータ/ジェネレータ5を省き、動力源をエンジン1のみとした例である。
図12は、実施例4の車両の制御装置の制御ブロック図である。
エンジンコントローラ27は、目標駆動力演算部28と、目標エンジントルク演算部29を備える。
目標駆動力演算部28は、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFo0を演算する。
目標エンジントルク演算部29は、目標駆動力tFo0から目標エンジントルクtTeを演算し、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御する。
目標エンジントルク演算部29は、フィルタ処理部30を有する。
フィルタ処理部30は、TCS制御要求フラグFtcsがセットされた場合、TCS制御要求トルクTtcsから左右後輪2c,2dのスリップに起因する車体振動の要因となる成分を低減するためのフィルタ処理を行う。
目標エンジントルク演算部29は、算出した目標エンジントルクtTeからフィルタ処理後のTCS制御要求トルクTtcsを減算して目標エンジントルクtTeを補正する。
よって、実施例4の車両の駆動力制御装置は、実施例1と同様の作用効果を奏する。
【0035】
(他の実施例)
以上、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に記載の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等は本発明の範囲に含まれる。
自動変速機3は、有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
第2クラッチ7は自動変速機3内に既存する変速摩擦要素ではなく、専用のものを新設してもよい。この場合、第2クラッチ7は自動変速機3の入力軸3aとモータ/ジェネレータ軸4との間に設けたり、自動変速機3の出力軸3bと後輪駆動系との間に設けたりすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン(動力源)
2c,2d 左右後輪(駆動車輪)
5 モータ/ジェネレータ(動力源)
25,26,29 フィルタ処理部(振動抑制手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動車輪がスリップしたとき、車両の目標駆動力に応じた動力源の目標値から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を除去または低減する振動抑制手段を備えたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記振動抑制手段は、前記駆動車輪の空転を抑制するトラクション制御介入時にのみ前記車体振動の要因となる成分の除去または低減を実施することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記振動抑制手段は、前記トラクション制御の要求駆動力低減量に対して前記車体振動の要因となる成分の除去または低減を実施することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項1】
駆動車輪がスリップしたとき、車両の目標駆動力に応じた動力源の目標値から当該スリップに起因する車体振動の要因となる成分を除去または低減する振動抑制手段を備えたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記振動抑制手段は、前記駆動車輪の空転を抑制するトラクション制御介入時にのみ前記車体振動の要因となる成分の除去または低減を実施することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記振動抑制手段は、前記トラクション制御の要求駆動力低減量に対して前記車体振動の要因となる成分の除去または低減を実施することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−86709(P2012−86709A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236031(P2010−236031)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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