説明

車両用アンダーカバー

【課題】燃料電池車に用いられるサイレンサーの外気温、環境風、走行風による冷却を防止できる車両用アンダーカバーを提供する。
【解決手段】燃料電池車の反応済みガス排出用のサイレンサー24を下側から覆う車両用アンダーカバー36であって、カバー本体42にサイレンサー24のテールパイプ28の端末の開口部29を臨ませる開口54を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用アンダーカバー、特に燃料電池車の車両用アンダーカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用アンダーカバーは、車両が走行する際に車体の下面を流れる走行風の空気抵抗を低減し、車室内の騒音を抑制するために車体下面に取り付けられる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−1419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、燃料電池車は、水素と酸素の反応により電気エネルギーを発生させこれを駆動源とし走行するものであるが、その反応を促進するため多量の酸素を供給する。そのため、反応後の酸素と水分とが含まれる反応済みガスである排ガスは、流速が高く騒音発生の原因となる。したがって、サイレンサーを設けるようにしている。
ところが、このサイレンサーは車室外側に露出するので、環境風や走行中の空気の流れで冷却され、外気温が低ければ凍結してサイレンサー内の排気管が詰まる虞があるため、同様にして車体の下側に配置されるアンダーカバーを有効利用しサイレンサーの冷却を防止する技術が要望されている。
【0004】
そこで、この発明は、燃料電池車に用いられるサイレンサーの外気温、環境風、走行風による冷却を防止できる車両用アンダーカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、燃料電池車の反応済みガス排出用のサイレンサー(例えば、実施形態におけるサイレンサー24)を下側から覆う車両用アンダーカバー(例えば、実施形態におけるアンダーカバー36)であって、カバー本体(例えば、実施形態におけるカバー本体42)に前記サイレンサーの排出管(例えば、実施形態における排気管チューブ23、短管27、テールパイプ28)の端末の開口部(例えば、実施形態における開口部29)を臨ませる開口(例えば、実施形態における開口54)を形成したことを特徴とする。
このように構成することで、カバー本体でサイレンサーを覆い、サイレンサーが外気温、環境風、走行風に晒されるのを防止できる。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記開口の周縁に前記カバー本体の一般面(例えば、実施形態における一般面55)よりも低い段差部(例えば、実施形態における段差部56)が形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、サイレンサーが振動しても開口の周縁に設けた段差部により、サイレンサーの排出管の端末が開口から外部に突出した状態となるため、サイレンサーの排出管の端末と開口との間からカバー本体内に排ガスが逆流し難く、かつ外気がカバー本体内に浸入し難くなる。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記開口の周縁と前記サイレンサーの排出管(例えば、実施形態におけるテールパイプ28)の端末との間に両者間の隙間を閉塞するシール材(例えば、実施形態におけるシール材57)を設けたことを特徴とする。
このように構成することで、サイレンサーが振動しても開口の周縁とサイレンサーの排出管の端末との間に設けたシール材により両者間をシールして両者間の隙間からカバー本体内に排ガスが逆流して蓄積することがなく、かつ外気がカバー本体内に浸入することもない。
【0008】
請求項4に記載した発明は、前記サイレンサーと前記アンダーカバーとを連結することを特徴とする。
このように構成することで、アンダーカバーの振動を防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載した発明によれば、カバー本体でサイレンサーを覆い、サイレンサーが外気、環境風、走行風に晒されるのを防止できるため、外気温が低い場合にサイレンサーが冷却され、サイレンサー内の排気管が凍結するのを防止できる効果がある。
請求項2に記載した発明によれば、サイレンサーが振動しても開口の周縁に設けた段差部により、サイレンサーの排出管の端末が外部に突出した状態となるため、サイレンサーの排出管の端末と開口との間からカバー本体内に排ガスが逆流し難く、かつ外気がカバー本体内に浸入し難くなる。
請求項3に記載した発明によれば、サイレンサーが振動しても開口の周縁とサイレンサーの排出管の端末との間に設けたシール材により両者間をシールして両者間の隙間からカバー本体内に排ガスが逆流して蓄積することがなく、かつ外気がカバー本体内に浸入することもないため、外気によりサイレンサー内の排気管の凍結を防止できる効果がある。
請求項4に記載した発明によれば、アンダーカバーの振動を防止することができるため、音振性能が向上する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、図中FRは車体前側を示す。図1〜3に示すように、燃料電池車の車体1の後部には車体前後方向に延びるリヤフレーム2,2が左右に設けられている。リヤフレーム2,2は後端部側が段差部3,3を介して斜めに立ち上がるようにして形成され、左右のリヤフレーム2,2の段差部3,3の間にはミドルクロスメンバ4(図4参照)が設けられ、左右のリヤフレーム2,2の後端はリヤクロスメンバ5によって連結されている。リヤクロスメンバ5から下方に延び車体後壁を構成するリヤパネル6にはリヤバンパフェイス7がこれを覆うように取り付けられている。左右のリヤフレーム2,2にはリヤフロアパネル8が取り付けられている。
【0011】
リヤフレーム2,2には後端部からやや前側の部分に枠状のサブフレーム10が下方から取り付けられている。サブフレーム10は車幅方向に設けた前横フレーム11と後横フレーム12と、これら前横フレーム11と後横フレーム12の左右の端部を前後で連結する車体前後方向の左縦フレーム13と右縦フレーム14とで枠状に構成されている。サブフレーム10の前部には図示しないバッテリ及び高圧電装機器類が支持され、後部には水素タンク15が支持されている。
サブフレーム10には図示しないサスペンションユニットが後輪と共に支持されるため、サブフレーム10の後横フレーム12の下面にはサスペンションユニットの取付部16,16が、サブフレーム10の左縦フレーム13と右縦フレーム14の下面にはサスペンションユニットの取付部17,17が設けられている。
【0012】
サブフレーム10の前横フレーム11とリヤフレーム2,2の段差部3,3の下面に渡る部位には電装部品アンダーカバー18が複数のボルト19により固定され、サブフレーム10の水素タンク15の下には水素タンクアンダーカバー21が複数のボルト22により取り付けられている。
ここで、車体1の右側寄りには車体前側から電装部品アンダーカバー18の上方に配索され水素タンクアンダーカバー21の下方を通り、サブフレーム10の右縦フレーム14の内側に沿いサブフレーム10の後横フレーム12の上を通る、排気管チューブ23が配索されている。
【0013】
ここで、燃料電池内で反応に使用された酸素と水素の反応済みガスである排ガスは合流され、その後図示しない希釈ボックスにて希釈された状態で排気管チューブ23内を流れてくるが、この排ガスの流量が多い場合には、排気音が無視できないものとなってしまう。そのため、これを低減するため排気管チューブ23の端末には、サイレンサー24が接続されている。このサイレンサー24はサブフレーム10の後横フレーム12と左右のリヤフレーム2,2とリヤクロスメンバ5との間であって、サブフレーム10の後横フレーム12に近接して配置されている。
【0014】
サイレンサー24は両端部の楕円形の左エンドプレート25と右エンドプレート26とを車幅方向に向けて配置した筒状の部材である。右エンドプレート26の前寄りには短管27が車幅方向に沿って固定され、この短管27に排気管チューブ23が車体右側から車幅方向中央部に向けて装着固定されている。右エンドプレート26の後寄りには、短管27、内部に設けた図示しない膨張室に連通するテールパイプ28が車幅方向外側に向けて接続され、テールパイプ28の端末は後方に向かって折れ曲がった後に下方に開口部29を向けている。
【0015】
図4は図2のA−A線に沿う断面図である。前述した左右のリヤフレーム2,2の段差部3,3の間を接続するミドルクロスメンバ30には下縁部31が設けられ、下縁部31がサブフレーム10の後横フレーム12の後面近傍に延出し、リヤクロスメンバ5の下縁部を構成するリヤパネル6もミドルクロスメンバ30の下縁部31と同様の位置まで下側に延出し、これら下縁部31とリヤパネル6の下縁にリヤフロアパネル8が接合されている。このリヤフロアパネル8の下方にサイレンサー24が配置されている。
【0016】
ここで、リヤクロスメンバ5にはブラケット33を介してリヤバンパフェイス7の上縁34が取り付けられ、リヤバンパフェイス7の下縁部35はリヤフロアパネル8の底壁位置付近まで延びており、このリヤバンパフェイス7の下縁部35とサブフレーム10の後横フレーム12の下面との間にアンダーカバー36が取り付けられている。尚、アンダーカバー36とリヤバンパフェイス7とはクリップ37により取り付けられる。
【0017】
図2に示すように、アンダーカバー36は排気ガス温度が低い(常時60度程度)関係で、PP材等の樹脂材料によって形成されている。アンダーカバー36は前縁部39がサブフレーム10の後横フレーム12に4箇所でボルト38により取り付けられ、側縁部40が前後でリヤフレーム2にボルト38により固定され、後縁部41がリヤバンパフェイス7を介してリヤパネル6に3箇所でボルト38により取り付けられている。
【0018】
図4、図5に示すように、アンダーカバー36のカバー本体42は下壁43がサイレンサー24の下方部位では平坦部44となっていてその後、後方の斜め上に向かう傾斜部45で形成され、側壁46は後方に行くほどリヤフロアパネル8の底壁47に近づくようにして高さが小さく形成されている。したがって、サイレンサー24はこのアンダーカバー36とリヤフロアパネル8との間の空間部分48に位置することとなる。
【0019】
アンダーカバー36のカバー本体42の底壁47外面には前後方向に複数の補強用及び整流用のリブ49が形成され、底壁47の前部の車幅方向中央部には牽引用アンカ孔50が形成されている。カバー本体42の底壁47外面の後部両側には雪により閉塞しないように凹部51,51が形成され、各凹部51の底壁に排水孔52が形成されている。排水孔52,52間には通常の排水を行う3つの排水孔53,53,53が形成されている。 そして、カバー本体42には傾斜部45にサイレンサー24のテールパイプ28の端末を臨ませる開口54が形成され、この開口54の周縁には、カバー本体42の一般面55よりも低く下がるようにして形成された段差部56が設けられている。
【0020】
図2、図6に示すように、サイレンサー24の右エンドプレート26の上側には短管27とテールパイプ28との間にリヤフロアパネル8にゴムブッシュ60、カラー60’をを介してボルト61、ナット61’により固定される右支持ブラケット62が設けられている。サイレンサー24の左エンドプレート25にはリヤフロアパネル8に各々ゴムブッシュ60、カラー60’を介してボルト61、ナット61’により固定される左前支持ブラケット63と左後支持ブラケット64が設けられている。
これら右支持ブラケット62、左前支持ブラケット63、左後支持ブラケット64はL字状に形成された部材で、リヤフロアパネル8への取付部65には後側が開口する切欠部66が形成され(右支持ブラケット62では図示せず)、ここにボルト61、カラー61’ゴムブッシュ60を挿入してナット61’で締め付け、サイレンサー24をフローティングして支持するようになっている。
また、左エンドプレート25の前側であって下側にはアンダーカバー36にクリップ67止めされる左クリップブラケット68が設けられ、右エンドプレート26の前側であって下側にはアンダーカバー36にクリップ67止めされる右クリップブラケット69が設けられている。
【0021】
図7に示すように、サイレンサー24の右エンドプレート26に取り付けられたテールパイプ28は短管27の後方でやや低い位置に接続されている。具体的には短管27の底部とテールパイプ28の底部とを結んだ直線Lが水平線Hに対して角度θ(17度)傾斜して配置されている。
したがって、車体1が前側に17度を超えて傾斜しない限り、テールパイプ28の端末の開口部29は短管27より下側に位置して排ガス中に水蒸気の状態、あるいは水の状態となっている生成水を排水できる。尚、車体1が後側に傾斜した場合にはテールパイプ28は短管27に対してより低い位置になるため排水性に問題はない。
【0022】
ここで、アンダーカバー36のカバー本体42の開口54の周縁にはサイレンサー24のテールパイプ28の外周面に密接するシール材57が取り付けられている。
このシール材57はテールパイプ28の周縁に嵌着するコの字断面形状の装着部58とテールパイプ28の外周に密接するリップ部59とで構成されている。
リップ部59はテールパイプ28の端末の開口部29よりもやや右エンドプレート26寄りに延びるように形成され、サイレンサー24、つまりテールパイプ28が振動しても、リップ部59がテールパイプ28の外周から離れないようにたわみ代をもった充分な長さを備えている。
ここで、テールパイプ28の端末の開口部29はアンダーカバー36のカバー本体42の一般面55と面一に設定され、シール材57を装着した状態でシール材57の装着部58がアンダーカバー36のカバー本体42の一般面55よりも外側に突出しないようになっている。カバー本体42とシール材57とでアンダーカバー36が構成されている。尚、図示都合上シール材57は図7にのみ示し、図1〜3では図示を省略する。
【0023】
上記実施形態によれば、サイレンサー24がアンダーカバー36で覆われ、リヤフロアパネル8とアンダーカバー36とで囲まれた空間部分48内に収容されるため、サイレンサー24と外気とが直接接触するのを防止し、外気温、環境風、走行風によるサイレンサー24の冷却を防止することができる。
よって、サイレンサー24の内部が冷却されるのを確実に防止して燃料電池車の性質上温度が低い排ガスが外気温、環境風、走行風により直接的に冷却されることがなくなり、内部の排気管が凍結するのを防止できる。
また、サイレンサー24のテールパイプ28の端末の開口部29がアンダーカバー36の一般面55と面一に設定され、アンダーカバー36のカバー本体42の開口54が段差部56を介して一般面55より低い位置に設定してあるため、カバー本体42のリブ49と共にアンダーカバー36の整流効果を発揮することができる。
【0024】
アンダーカバー36のカバー本体42の開口54の周縁にはサイレンサー24のテールパイプ28の外周面に密接するシール材57が取り付けられているため、サイレンサー24に取り付けにばらつきがあっても、あるいは多少振動するサイレンサー24のテールパイプ28が揺れを生じていたとしても、シール材57がアンダーカバー36のカバー本体42の開口54とサイレンサー24のテールパイプ28の外周面との間の隙間を閉塞した状態を維持できる。よって、外気の空間部分48内への浸入を阻止してサイレンサー24が冷却されるのを確実に防止できると共に、排ガスが空間部分48内に逆流して蓄積するのを防止できる。
【0025】
そして、サイレンサー24はリヤフロアパネル8に対して、右エンドプレート26に設けた右支持ブラケット62、左エンドプレート25に向けた左前支持ブラケット63、左後支持ブラケット64により各々ゴムブッシュ60を介してフローティング状態で確実に支持され、アンダーカバー36に対しては左クリップブラケット68と右クリップブラケット69によりクリップ67止めされるため、アンダーカバー36の振動防止を図り音振性能の向上を図ることができる。
【0026】
また、アンダーカバー36の下壁43は前側の平坦部44が後方では斜め上に向かって傾斜しているため、開口54からテールパイプ28の端末の開口部29が後方から見え、見栄えもよく、アンダーカバー36の下壁に沿って流れる走行風に吸い出されるようにしてスムーズに排ガスが排出できる。
【0027】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、アンダーカバー36の開口54の周縁とサイレンサー24のテールパイプ28との間の隙間を閉塞するものであれば、テールパイプ28の周囲に、アンダーカバー36の開口54の周縁に密接するシール材を設けてもよい。また、短管27の底部とテールパイプ28の底部とを結んだ直線Lが水平線Hに対してなす角度θは一例であって、車体が前側へ傾斜した際にテールパイプ28内の水分の排水性を確保できればよい。
尚、シール材57を設けない場合であっても、サイレンサー24が振動したときに、アンダーカバー36の開口54の周縁に段差部56を設けたことにより、サイレンサー24のテールパイプ28の端末の開口部29がアンダーカバー36の開口54から外側に突出した状態となるため、テールパイプ28の端末の開口部29とアンダーカバー36の開口54との間からカバー本体42内に排ガスが逆流し難く、かつ外気がカバー本体42内に浸入し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施形態の左後下から見た要部斜視図である。
【図2】この発明の実施形態の下面図である。
【図3】この発明の実施形態の右後下から見た要部拡大斜視図である。
【図4】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図5】アンダーカバーのカバー本体の斜視図である。
【図6】サイレンサーの取り付け状態を示す斜視図である。
【図7】図2のB−B線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0029】
24 サイレンサー
36 アンダーカバー
42 カバー本体
28 テールパイプ(排出管)
29 開口部
54 開口
55 一般面
56 段差部
57 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池車の反応済みガス排出用のサイレンサーを下側から覆う車両用アンダーカバーであって、カバー本体に前記サイレンサーの排出管の端末の開口部を臨ませる開口を形成したことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
前記開口の周縁に前記カバー本体の一般面よりも低い段差部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用アンダーカバー。
【請求項3】
前記開口の周縁と前記サイレンサーの排出管の端末との間に両者間の隙間を閉塞するシール材を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用アンダーカバー。
【請求項4】
前記サイレンサーと前記アンダーカバーとを連結することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の車両用アンダーカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−96438(P2009−96438A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272605(P2007−272605)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】