説明

車両用エンジン及び変速装置の制御装置

【課題】機械式スロットルバルブが用いられた車両において意図せずに両踏み状態に陥った時に、車両がショック状態になることを抑制させつつエンジン出力を制限させる車両用エンジン及び変速装置の制御装置を提供する。
【解決手段】多気筒エンジン、自動変速装置、及び機械式スロットルバルブを備える車両に適用されることを前提とし、アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏み込まれている両踏み状態であるか否かを判定する両踏み判定手段S10と、前記両踏み状態であると判定されている時には、多気筒エンジンのうち所定気筒での燃焼行程で燃料噴射を禁止して失火させることで、ブレーキペダルの踏込操作をアクセルペダルの踏込操作よりも優先してエンジン出力を制限させる出力制限手段S20と、を備え、出力制限手段S20により所定気筒での燃焼行程で失火させるタイミングで、自動変速装置をニュートラル状態に制御する(S40)ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び変速装置の作動を制御する制御装置であって、アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏み込まれた両踏み状態の時の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
スロットルバルブには、電動モータでスロットル開度を制御する電動式と、運転者によるアクセルペダルの踏込み操作力で機械的に駆動させる機械式とがある。そして、電動式が用いられた車両の場合には、ブレーキペダルとアクセルペダルの両方が踏み込まれた状態(両踏み状態)に陥ったとしても、アクセルペダルの踏込量に応じたスロットル開度とならないように制御(出力制限制御)することができ、エンジン出力を制限させることができる(特許文献1参照)。
【0003】
両踏み状態に陥る具体例としては、ブレーキペダルを踏み損なってアクセルペダルも同時に踏み込んでしまう場合の他に、以下に詳述するようにフロアマットがアクセルペダルに干渉することが原因で生じる場合がある。
【0004】
車両フロアのうち運転席の部分に敷かれているフロアマットは、係止部材により位置決めされ、所定の位置からずれないように敷かれているのが一般的である。しかし、係止部材が破損している等の原因でフロアマットが前方にずれた場合には、図2及び図3に例示するようにフロアマットがアクセルペダルに干渉して、アクセルペダルが意に反して踏み込まれた状態になることがある。すると、このようなフロアマットのずれが原因で、アクセルペダルよりも所定時間以上先にブレーキペダルが踏み込まれる両踏みの状態になることがある。
【0005】
例えば、図2に示すようにアクセルペダル32がフロア支持式(オルガン式)である場合において、フロアマット40が前方にずれて、その先端部41がアクセルペダル32に乗り上げた状態になることがある(図2(c)(d)参照)。そして、この状態でブレーキペダル34を踏込操作すると、先端部41はブレーキペダル34により下方へ押されてアクセルペダル32との間に挟み込まれることになり、この状態でさらにブレーキペダル34を踏み込むと、先端部41によりアクセルペダル32が下方へ押されて両踏みの状態になる。この場合、ブレーキペダル34がアクセルペダル32よりも所定時間以上先に踏込操作されたと検出されることになるので、上記検討の制御ではエンジン出力の上昇を許可することになってしまう。
【0006】
また、図3に示すようにアクセルペダル320が吊り下げ式の場合においても、フロアマット40が前方にずれて、その先端部42がアクセルペダル320の直下に位置する状況になることがある(図3(c)(d)参照)。この状況でアクセルペダル320を踏み込むと、アクセルペダル320は先端部42を乗り越えて下方に移動し、アクセルペダル320の上に先端部42が位置するようになることがある(図3(e)(f)参照)。そして、この状態でブレーキペダル34を踏込操作すると、先端部42はブレーキペダル34により下方へ押されてアクセルペダル320との間に挟み込まれることになり、この状態でさらにブレーキペダル34を踏み込むと、先端部42によりアクセルペダル320が下方へ押されて両踏みの状態になる。この場合にも、ブレーキペダル34がアクセルペダル320よりも所定時間以上先に踏込操作されたと検出されることになるので、上記検討の制御ではエンジン出力の上昇を許可することになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−291930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1記載の発明では、電動式スロットルバルブが用いられていることを前提としており、機械式スロットルバルブが用いられている場合には、アクセルペダルの踏込量と異なるスロットル開度にすることができないため、上述した出力制限制御を実施できない。
【0009】
そこで本発明者は、機械式スロットルバルブが用いられた車両において両踏み状態に陥った場合には、次のように燃料噴射状態を制御(出力制限制御)することで、アクセルペダルの踏込量に応じたエンジン出力とならないようにエンジン出力を制限させることを検討した。すなわち、各気筒での燃焼行程を順次行う多気筒エンジンにおいて、例えば#1気筒→#3気筒→#4気筒→#2気筒の順に燃焼行程を順次行う4気筒エンジンの場合に、#3気筒(所定気筒)での燃料噴射を禁止して失火させることにより、4気筒全体としてのエンジン出力を低下させる。
【0010】
しかしながら、上述の如く踏み損なった場合やフロアマットが原因で両踏み状態に陥っている場合には、アクセル踏込量が大きいので吸気量が多くなっている。特に、フロアマットが原因で両踏み状態に陥っている場合には、運転者はその原因を理解できずにさらにブレーキペダルを踏み込んでしまい、スロットル開度をさらに大きくすることが懸念される。すると、燃料噴射が許可された燃焼気筒(#1,#4,#2)による出力トルクが大きくなるので、失火気筒(#3)による減速トルク(エンジンブレーキに相当するトルク)と燃焼気筒による加速トルクとのトルク差が大きくなる。その結果、極めて大きなトルク変動が生じてしまい、車両が減速と加速を繰り返すショック状態になることが懸念される。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、機械式スロットルバルブが用いられた車両において意図せずに両踏み状態に陥った時に、車両がショック状態になることを抑制させつつエンジン出力を制限させる車両用エンジン及び変速装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0013】
請求項1記載の発明では、各気筒での燃焼行程を順次行う多気筒エンジンと、エンジン出力軸の回転速度を変速して駆動輪へ伝達する変速装置であって、変速段を自動で切り替える電子制御式の自動変速装置と、エンジン吸気量を調整するスロットルバルブであって、運転者によるアクセルペダルの踏込み操作力で機械的に駆動させる機械式スロットルバルブと、を備える車両に適用されることを前提とする。
【0014】
そして、アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏み込まれている両踏み状態であるか否かを判定する両踏み判定手段と、前記両踏み状態であると判定されている時には、前記多気筒エンジンのうち所定気筒での燃焼行程で燃料噴射を禁止して失火させることで、前記ブレーキペダルの踏込操作を前記アクセルペダルの踏込操作よりも優先してエンジン出力を制限させる出力制限手段と、を備え、前記出力制限手段により前記所定気筒での燃焼行程で失火させるタイミングで、前記自動変速装置をニュートラル状態に制御することを特徴とする。
【0015】
上記発明によれば、出力制限手段を備えるので、先述したようにブレーキペダルを踏み損なった場合やフロアマットが原因で両踏み状態に陥った場合には、所定気筒を失火させてエンジン出力を制限するので、車両走行の安全性を向上できる。
【0016】
また、出力制限手段により所定気筒での燃焼行程で失火させるタイミングで、自動変速装置をニュートラル状態に制御するので、自動変速装置を動力伝達状態にした場合に失火タイミングで生じる減速トルク(エンジンブレーキ)を無くすことができる。例えば、先述した4気筒エンジンの例では、失火気筒(#3)のタイミングでエンジンブレーキがかかることが無くなるため、燃焼気筒(#1,#4,#2)による出力トルクと減速トルクとのトルク差が小さくなる。よって、トルク変動を抑制できるので、車両が加速と減速を繰り返すショック状態になることを抑制できる。
【0017】
以上により、上記発明によれば、機械式スロットルバルブが用いられた車両において意図せずに両踏み状態に陥った時に、車両がショック状態になることを抑制させつつエンジン出力を制限させることができる。
【0018】
請求項2記載の発明では、前記アクセルペダルは、車両のフロア部に支持されるフロア支持式のペダルであることを特徴とする。
【0019】
ここで、フロアマットのずれが原因で両踏みが検出される具体例として、アクセルペダルが吊り下げ式である場合(図3参照)とフロア支持式である場合(図2参照)について先に説明したが、吊り下げ式の場合、ずれたフロアマット40の先端部42が特定の位置よりもさらに前方に位置していれば、アクセルペダル32が先端部42を乗り越えて下方に移動することはない。よって、フロアマットが前方にずれたとしても、先端部42が特定の位置になければ図3(e)(f)の状況には陥らない。これに対しフロア支持式の場合には、フロアマット40の先端部41がアクセルペダル32よりも前方に位置していれば図2(c)(d)の状況に陥るので、フロアマット40がアクセルペダルを下方へ押すといった不具合が、吊り下げ式の場合に比べて生じ易い。
【0020】
この点を鑑みた上記発明では、フロアマットのずれによる両踏み検出の可能性が高いフロア支持式の場合に、上記請求項1記載の発明を適用させているので、フロアマットのずれが原因で両踏みが検出された場合であってもエンジン出力を確実に制限できる、といった上記効果が好適に発揮される。
【0021】
請求項3記載の発明では、踏込操作されていない時の前記アクセルペダルの踏込操作面が、踏込操作されていない時の前記ブレーキペダルの踏込操作面よりも下方に位置していることを特徴とする。
【0022】
フロア支持式の場合においては、アクセルペダルの踏込操作面の位置が下方にあるほど、前方にずれたフロアマット40がアクセルペダルの上に乗り上げてくるおそれが高くなる。吊り下げ式の場合においては、アクセルペダルの踏込操作面の位置が下方にあるほど、アクセルペダルがフロアマットの先端部を乗り越えて下方に移動するおそれが高くなる。つまり、フロア支持式及び吊り下げ式のいずれであっても、アクセルペダルの踏込操作面の位置が下方にあるほどフロアマットのずれによる両踏み検出の可能性が高くなる。
【0023】
この点を鑑みた上記発明では、アクセルペダルの踏込操作面がブレーキペダルの踏込操作面よりも下方に位置してフロアマットのずれによる両踏み検出の可能性が高くなっている場合に、上記請求項1記載の発明を適用させているので、フロアマットのずれが原因で両踏みが検出された場合であってもエンジン出力を確実に制限できる、といった上記効果が好適に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態にかかるエンジン制御システムの概略構成を示す図。
【図2】アクセルペダルがフロア支持式(オルガン式)である場合における、アクセルペダルとブレーキペダルの位置関係を示す図。
【図3】アクセルペダルが吊り下げ式である場合における、アクセルペダルとブレーキペダルの位置関係を示す図。
【図4】本発明の一実施形態において、失火減筒による出力制限制御を実施した場合に生じる、トルク変動発生の状況を説明するタイムチャート。
【図5】本発明の一実施形態において、両踏み状態検出時における出力制限制御及び変速装置ATのニュートラル切替の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
(第1実施形態)
先ず、本実施形態にかかる車両用エンジン制御装置が適用されたエンジン制御システム全体の概略構成を、図1に基づいて説明する。
【0027】
図1に示すエンジン11(内燃機関)は点火式のガソリンエンジンであり、複数の気筒を有する多気筒エンジンである。また、各気筒での燃焼行程を#1気筒→#3気筒→#4気筒→#2気筒の順に繰り返し行う4気筒の4サイクルエンジンを想定している。
【0028】
エンジン11の駆動トルク(出力)は、クランク軸(出力軸)から変速装置ATを介して駆動輪へ伝達される。変速装置ATは、流体クラッチとして機能するトルクコンバータ11a、及びクランク軸の回転速度を変速して出力する変速機11bを備えて構成されている。これらのトルクコンバータ11a及び変速機11bの作動はECU30により電子制御され、変速段が自動で切り替えられる。つまり、変速装置ATは、運転者が手動で操作するマニュアル式変速装置ではなく電子制御式の自動変速装置である。
【0029】
エンジン11の吸気管12には、エアクリーナ13、吸入空気量を検出するエアフローメータ14、吸気量を調節するスロットルバルブ16及びサージタンク18が、上流側から下流側へと順に設けられている。なお、スロットルバルブ16は、電動モータにより駆動する電動式ではなく、運転者によるアクセルペダル32の踏込み操作力で機械的に駆動させる機械式スロットルバルブであり、アクセルペダル32の踏込み操作力はケーブル17を介してスロットルバルブ16へ伝達される。
【0030】
サージタンク18には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられるとともに、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられている。そして、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁21が、気筒毎に取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各気筒の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0031】
エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0032】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ27が取り付けられている。また、クランク軸28の外周側には、クランク軸28が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ29が取り付けられ、このクランク角センサ29の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0033】
更に、アクセルセンサ31によってアクセルペダル32の操作量が検出され、ブレーキスイッチ33(ブレーキセンサ)によってブレーキペダル34の踏込操作が検出されると共に、車速センサ35によって車速が検出される。ここで、ブレーキペダル34は、車両の運転中に車両を減速又は停止させるための常用ブレーキ装置のブレーキ操作部である。また、アクセルペダル32やブレーキペダル34は、図3に例示する吊り下げ式(ペンダントタイプ)のペダルでも良いし、或いは、図2に例示するフロア支持式(オルガン式)のペダルでも良い。
【0034】
ECU30は、アクセルセンサ31の出力信号に基づいてアクセルペダル32の踏み込み(オン操作)を判定すると共に、ブレーキスイッチ33の出力信号に基づいてブレーキペダル34の踏み込み(オン操作)を判定する。なお、アクセルセンサ31により検出されたアクセルペダル32の踏込量が所定値以上である場合に、アクセルペダル32が踏み込まれていると判定(オン操作を判定)する。そして、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33が共にオン操作を判定している時には、アクセルペダル32及びブレーキペダル34が共に踏込操作されている両踏み状態であると判定する。
【0035】
両踏み状態を判定するにあたり、アクセルセンサ31により検出された踏込操作開始時期、及びブレーキスイッチ33により検出された踏込操作開始時期のいずれが先であるか否かは無関係であり、いずれが先であっても、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33が共にオン操作判定している時には両踏み状態であると判定する。
【0036】
両踏み状態であると判定した場合には、所定気筒(例えば#3気筒)での燃焼行程で燃料噴射を禁止する制御(出力制限制御)を実施することで所定気筒を失火させる。これにより、実質的に出力トルクを生じさせる気筒の数が減るので、アクセルペダル32の踏込量に応じたエンジン出力よりも、実際のエンジン出力は低下する(制限される)。
【0037】
ところで、図2及び図3を用いて後に詳述するように、フロアマット40のずれが原因で両踏み状態になることがある。本実施形態では、このようなフロアマット40のずれが原因で両踏み状態に陥った場合を想定して、上述した出力制限制御を実施している。
【0038】
先ず、図2を用いて、フロアマット40が車両の前方にずれたことが原因で両踏み状態に陥る状況について説明する。なお、本実施形態にかかるアクセルペダル32は、吊り下げ式及びフロア支持式のいずれであっても良い旨は先述した通りであるが、図2に示す例では、フロア支持式のアクセルペダル32を採用している。そして、図2(a)(b)は、フロアマット40が正規の位置に係止された状態を示し、(c)(d)は、フロアマット40が正規の位置から車両の前方側へずれた状態を示す。
【0039】
アクセルペダル32は、車両乗員の足裏で踏込み操作される踏込操作面を有するペダル部32aと、ペダル部32aのうち車両後方側の端部を回動可能に支持するとともに車体のフロア部50に固定された支持部32bと、ペダル部32aを上方へ押し戻す向きに弾性力を付勢するバネ部32cと、を備えて構成されている。
【0040】
ブレーキペダル34は吊り下げ式であり、車両乗員の足裏で踏込み操作される踏込操作面を有するペダル部34aと、ペダル部34aから上方に延びるアーム部34bと、アーム部34bの上端を回動可能に支持する支持部34cと、を備えて構成されている。
【0041】
図2(a)(b)は、両ペダル32,34が踏込操作されていない状態を示しており、この状態において、アクセルペダル32の踏込操作面の後方側端部32rは、ブレーキペダル34の踏込操作面の後方側端部34rよりも下方に位置している。また、アクセルペダル32の後方側端部32rは、ブレーキペダル34の後方側端部34rよりも車両の後方側に位置している。
【0042】
車体のフロア部50は、水平に拡がる形状の金属製パネルにより形成されている。フロア部50の前方端部には傾斜状の金属製パネルにより形成されるキックアップ部51が接続され、キックアップ部51の前方端部には、鉛直に広がる形状の金属製パネルにより形成されるダッシュパネル52が接続されている。ダッシュパネル52は、エンジンルームと車室内とを区画するファイアウォールとして機能する。
【0043】
フロアマット40は、フロア部50の上を覆うように敷かれたカーペット材により形成されたマットである。フロアマット40に形成された貫通穴40aには、フロア部50に設けられた係止部材50aが挿入される。これにより、フロアマット40は、フロア部50の所定位置からずれないように係止される。
【0044】
ところが、係止部材50aが破損してフロアマット40が係止されなくなると、運転者の足で前方押し出される等によりフロアマット40が前方へずれてくるおそれがある。そして、図2(c)(d)に示す如くフロアマット40の先端部41がアクセルペダル32の踏込操作面に乗り上げて覆い被さる位置にまでずれてくると、フロアマット40のうち先端部41の近傍部分に足を置いただけで、先端部41がアクセルペダル32を下方へ押して踏み込んだ状態になるおそれがある。
【0045】
しかも、図2(c)(d)の如くフロアマット40がずれた状態では、ブレーキペダル34のペダル部34aとアクセルペダル32のペダル部32aとの間にフロアマット40が挟まれた状態となる。したがって、この状態で運転者がブレーキペダル34を踏込操作すると、フロアマット40が全体的に下方へ押されることとなる。すると、アクセルペダル32のペダル部32aよりも上方に位置する先端部41がアクセルペダル32を下方へ押すこととなり、両踏みの状態になる。この場合、ブレーキペダル34がアクセルペダル32よりも先、又は同時に踏込操作されたと検出されることになる。
【0046】
次に、図3を用いて、アクセルペダル32が吊り下げ式の場合において、フロアマット40が車両の前方にずれたことが原因で両踏み状態に陥る状況について説明する。なお、図3(a)(b)は、フロアマット40が正規の位置に係止された状態を示し、(c)(d)(e)(f)は、フロアマット40が正規の位置から車両の前方側へずれた状態を示す。
【0047】
吊り下げ式のアクセルペダル320は、車両乗員の足裏で踏込み操作される踏込操作面を有するペダル部320aと、ペダル部320aから上方に延びるアーム部320bと、アーム部320bの上端を回動可能に支持する支持部320cと、を備えて構成されている。なお、ブレーキペダル34は図2と同様の吊り下げ式である。図3(a)(b)は、両ペダル320,34が踏込操作されていない状態を示しており、この状態において、アクセルペダル320の踏込操作面はブレーキペダル34の踏込操作面よりも下方に位置している。
【0048】
係止部材50aが破損してフロアマット40が係止されなくなると、運転者の足で前方押し出される等によりフロアマット40が前方へずれてくるおそれがある。この状況でアクセルペダル320を踏み込むと、アクセルペダル320は先端部42を乗り越えて下方に移動し、アクセルペダル320の上に先端部42が位置するようになることがある(図3(e)(f)参照)。そして、この状態でブレーキペダル34を踏込操作すると、先端部42はブレーキペダル34により下方へ押されてアクセルペダル320との間に挟み込まれることになり、この状態でさらにブレーキペダル34を踏み込むと、先端部42によりアクセルペダル320が下方へ押されて両踏みの状態になる。この場合、ブレーキペダル34がアクセルペダル320よりも先、又は同時に踏込操作されたと検出されることになる。
【0049】
説明を失火減筒による出力制限制御に戻す。
【0050】
上述の如くフロアマット40が原因で両踏み状態に陥っている場合には、運転者はその原因を理解できずにさらにブレーキペダル34を踏み込んでしまい、スロットルバルブ16の開度(スロットル開度)をさらに大きくすることが懸念される。すると、燃料噴射が許可された燃焼気筒(#1,#4,#2)による出力トルクが大きくなるので、失火気筒(#3)による減速トルク(エンジンブレーキに相当するトルク)と燃焼気筒による出力トルクとのトルク差が大きくなる。その結果、トルクコンバータ11aでは吸収できないほどに大きなトルク変動が駆動輪に伝達されてしまい、車両が加速と減速を短時間で繰り返すショック状態になることが懸念される。つまり厳密には、燃焼気筒(#1,#4,#2)による加速トルク発生のタイミングでは車両が加速し、失火気筒(#3)のタイミングではエンジンブレーキにより車両が減速する。
【0051】
図4は、このような失火減筒によるトルク変動を説明する図であり、縦軸はエンジン出力軸(クランク軸)の出力トルクを示し、横軸は経過時間を示す。符号S(#1)、S(#3)、S(#4)、S(#2)に示すタイミングで、#1気筒、#3気筒、#4気筒、#2気筒の点火プラグ22を順次放電させている。これらの点火タイミングの直後に、各気筒での燃焼行程により出力トルクが上昇している。但し、#3気筒では燃料噴射を禁止しているため、燃焼行程期間中であっても出力トルクは点線に示すようには上昇しない。そのため、失火させていなければトルク変動幅がΔTrq1である筈が、失火させることにより変動幅がΔTrq2に増大している。
【0052】
しかも、上述の如くフロアマット40が原因で両踏み状態に陥っており、さらにブレーキペダル34を踏み込んでスロットル開度を増大させた場合には、図4中の一点鎖線に示すように燃焼気筒(#1,#4,#2)による出力トルクが大きくなるので、トルク変動幅ΔTrq2’はさらに大きくなる。
【0053】
そこで本実施形態では、失火気筒(#3)での燃焼行程で失火させるタイミング毎に、変速装置ATによる動力伝達を解除するニュートラル状態にするよう、変速機11bの作動を切り替える。具体的には、変速機11bが有するブレーキ又はクラッチの作動を制御することで、変速機11bの入力軸を空転させる。これにより、失火気筒(#3)のタイミング毎にエンジンブレーキがかかることが回避されるので、トルク変動による車両のショック状態を緩和できる。
【0054】
図5は、両踏み状態検出時における、燃料カットによる制限制御及び変速装置ATのニュートラル切替の処理手順を示すフローチャートであり、ECU30が有するマイクロコンピュータにより所定時間で繰り返し実行される。
【0055】
先ず、図5のステップS10(両踏み判定手段)において、アクセルセンサ31及びブレーキスイッチ33により両踏み状態が検出されているか否かを判定する。両踏みを検出している場合(S10:YES)には、次のステップS20(出力制限手段)に進み、所定気筒(失火気筒)に対する燃料噴射を禁止する。なお、この燃料カット実施に伴い、所定気筒に対する点火プラグ22の放電も禁止させる。
【0056】
続くステップS30では、現時点での燃焼行程にある気筒が、燃料カットされている失火気筒であるか否かを判定する。そして、失火気筒の燃焼行程であると判定された場合(S30:YES)には、次のステップS40に進み、変速装置ATをニュートラル状態に切り替えて、クランク軸から駆動輪への動力伝達を遮断する。一方、失火気筒の燃焼行程でないと判定された場合(S30:NO)には、次のステップS50に進み、変速装置ATを所定の変速段に切り替えて、エンジン出力を駆動輪に伝達させる。
【0057】
図4を用いてステップS30〜S50の処理を具体的に説明すると、失火気筒(#3)に対応する点火時期(正確には、燃料カットによる制限制御を実施していないと仮定した場合の点火時期)よりも所定時間だけ前の時期t1(ニュートラル開始時期)から、失火気筒(#3)の次に燃焼行程を実施する燃焼気筒(#4)に対応する点火時期よりも所定時間だけ後の時期t2(ニュートラル終了時期)までの期間Taでは、失火気筒の燃焼行程であると判定(S30:YES)してニュートラル状態に切り替える(S40)。一方、当該期間Taでなければ、失火気筒の燃焼行程でないと判定(S30:NO)して所定の変速段でクラッチ接続する(S50)。
【0058】
例えば、ニュートラル開始時期t1であるか否かを判定し、ニュートラル開始時期t1であると判定した時点からニュートラルへの切替(S40)を開始するとともに経過時間のカウントを開始する。そして、カウントした経過時間が前記期間Taに達した時点でニュートラル終了時期t2と判定してクラッチ接続する(S50)。
【0059】
以上により、本実施形態によれば、機械式のスロットルバルブ16を用いた車両において意図せずに両踏み状態に陥った場合であっても、両踏み検出時には燃料カットにより所定気筒を失火させるので、エンジン出力を制限して車両走行の安全性を向上できる。また、失火タイミング毎に変速装置ATをニュートラルに切り替えるので、失火タイミングで生じる減速トルク(エンジンブレーキ)を無くすことができる。よって、失火気筒(#3)による燃焼行程のタイミングでの出力トルクと、燃焼気筒(#1,#4,#2)による燃焼行程のタイミングでの出力トルクとで生じるトルク差を小さくできる。よって、トルク変動を抑制できるので、車両が加速と減速を繰り返すショック状態になることを抑制できる。
【0060】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0061】
・上記実施形態では、失火気筒(#3)を1つに設定しているが、失火気筒を複数設定してもよい。また、両踏み判定された時の車速に応じて失火気筒の数を可変設定してもよい。例えば、高車速であるほど失火気筒の数を増やして安全性を向上させることが望ましい。
【0062】
・上記実施形態では、ニュートラルに切り替える期間Taの開始時期t1を、失火気筒(#3)の点火時期S(#3)の所定時間前に設定しているが、点火時期S(#3)を開始時期t1としてもよいし、所定のクランク角度に達したタイミングを開始時期t1としてもよい。なお、前記「所定のクランク角度」は、失火気筒が燃焼行程上死点に達したクランク角度でもよいし、その上死点角度よりも所定角度だけ前の角度でもよい。
【0063】
・上記実施形態では、ニュートラルに切り替える期間Taの終了時期t2を、燃焼気筒(#4)の点火時期S(#4)の所定時間後に設定しているが、点火時期S(#4)を終了時期t2としてもよいし、所定のクランク角度に達したタイミングを終了時期t2としてもよい。なお、前記「所定のクランク角度」は、失火気筒が燃焼行程下死点に達したクランク角度でもよいし、その下死点角度よりも所定角度だけ後の角度でもよい。
【0064】
・図5のステップS10で両踏みを判定するにあたり、アクセルペダル32の踏込量が所定量以上であることを条件として両踏み判定するようにしてもよい。同様に、ブレーキペダル34の踏込量が所定量以上であることを条件として両踏み判定するようにしてもよい。
【0065】
・本発明は、ブレーキペダル34の踏込操作の有無を検出するブレーキスイッチ33に替えて、ブレーキペダル34の踏込量を検出するブレーキセンサを備えた車両に適用しても良い。また、アクセルペダル32の踏込量を検出するアクセルセンサ31に替えて、アクセルペダル32の踏込操作の有無を検出するアクセルスイッチを備えた車両に適用しても良い。
【0066】
・本発明は、図1に示すような吸気ポート噴射式エンジンに限定されず、筒内噴射式エンジンや、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンにも適用して実施できる。
【符号の説明】
【0067】
16…機械式スロットルバルブ、32,320…アクセルペダル、34…ブレーキペダル、50…車両のフロア部、AT…自動変速装置、S10…両踏み判定手段、S20…出力制限手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各気筒での燃焼行程を順次行う多気筒エンジンと、
エンジン出力軸の回転速度を変速して駆動輪へ伝達する変速装置であって、変速段を自動で切り替える電子制御式の自動変速装置と、
エンジン吸気量を調整するスロットルバルブであって、運転者によるアクセルペダルの踏込み操作力で機械的に駆動させる機械式スロットルバルブと、
を備える車両に適用され、
アクセルペダル及びブレーキペダルが共に踏み込まれている両踏み状態であるか否かを判定する両踏み判定手段と、
前記両踏み状態であると判定されている時には、前記多気筒エンジンのうち所定気筒での燃焼行程で燃料噴射を禁止して失火させることで、前記ブレーキペダルの踏込操作を前記アクセルペダルの踏込操作よりも優先してエンジン出力を制限させる出力制限手段と、
を備え、
前記出力制限手段により前記所定気筒での燃焼行程で失火させるタイミングで、前記自動変速装置をニュートラル状態に制御することを特徴とする車両用エンジン及び変速装置の制御装置。
【請求項2】
前記アクセルペダルは、車両のフロア部に支持されるフロア支持式のペダルであることを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジン及び変速装置の制御装置。
【請求項3】
踏込操作されていない時の前記アクセルペダルの踏込操作面が、踏込操作されていない時の前記ブレーキペダルの踏込操作面よりも下方に位置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用エンジン及び変速装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97633(P2012−97633A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245044(P2010−245044)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】