説明

車両用パワーユニット

【課題】カウンタシャフトからの逆転方向の回転動力を、緩衝手段が設けられるファイナルシャフトにリバースギヤ列を介して伝達可能とした上で、ファイナルシャフトの長さが必要以上に大きくなることを回避してコンパクト化を可能とする。
【解決手段】緩衝手段91が、アイドルシャフト79の軸線と直交して該アイドルシャフト79の両端を通る一対の仮想平面PL3,PL4間に位置するようにしてファイナルシャフト10に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから入力される回転動力を段階的に変速可能な変速機のカウンタシャフトと平行なファイナルシャフト上に、該ファイナルシャフトに相対回転自在に支承されるダンパギヤと、前記ファイナルシャフトに相対回転不能かつ軸方向相対移動を可能として結合されるとともに前記ダンパギヤの一面に設けられるカムに係合されるリフターと、該リフターから軸方向に間隔をあけた位置で前記ファイナルシャフトに支持されるスプリングリテーナと、前記リフターを前記ダンパギヤ側に向けて付勢するばね力を発揮して前記リフターおよび前記スプリングリテーナ間に設けられるコイルスプリングとで構成される緩衝手段が設けられ、前記カウンタシャフトからの正転方向の回転動力を前記ダンパギヤに伝達する状態と、前記カウンタシャフトおよび前記ファイナルシャフトと平行なアイドルシャフトに回転自在に支承されるアイドルギヤを含むリバースギヤ列を介して前記カウンタシャフトからの逆転方向の回転動力を前記ダンパギヤに伝達する状態とを切換可能である車両用パワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
変速機のカウンタシャフトと、該カウンタシャフトに平行であるファイナルシャフトとの間に、カウンタシャフトからの回転動力が伝達されるダンパギヤと、ダンパギヤの一面に設けられるカムに係合されるリフターと、ファイナルシャフトに支持されるスプリングリテーナと、リフターをダンパギヤ側に向けて付勢するばね力を発揮してリフターおよびスプリングリテーナ間に設けられるコイルスプリングとで構成される緩衝手段が設けられるようにした車両用パワーユニットが、特許文献1で既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭59−191453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1で開示されたものでは、緩衝手段が配置されるスペース分だけファイナルシャフトが長くなっており、パワーユニットの大型化を招いている。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、カウンタシャフトからの逆転方向の回転動力を、緩衝手段が設けられるファイナルシャフトにリバースギヤ列を介して伝達可能とした上で、ファイナルシャフトの長さが必要以上に大きくなることを回避してコンパクト化を可能とした車両用パワーユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンから入力される回転動力を段階的に変速可能な変速機のカウンタシャフトと平行なファイナルシャフト上に、該ファイナルシャフトに相対回転自在に支承されるダンパギヤと、前記ファイナルシャフトに相対回転不能かつ軸方向相対移動を可能として結合されるとともに前記ダンパギヤの一面に設けられるカムに係合されるリフターと、該リフターから軸方向に間隔をあけた位置で前記ファイナルシャフトに支持されるスプリングリテーナと、前記リフターを前記ダンパギヤ側に向けて付勢するばね力を発揮して前記リフターおよび前記スプリングリテーナ間に設けられるコイルスプリングとで構成される緩衝手段が設けられ、前記カウンタシャフトからの正転方向の回転動力を前記ダンパギヤに伝達する状態と、前記カウンタシャフトおよび前記ファイナルシャフトと平行なアイドルシャフトに回転自在に支承されるアイドルギヤを含むリバースギヤ列を介して前記カウンタシャフトからの逆転方向の回転動力を前記ダンパギヤに伝達する状態とを切換可能である車両用パワーユニットにおいて、前記緩衝手段が、前記アイドルシャフトの軸線と直交して該アイドルシャフトの両端を通る一対の仮想平面間に位置するようにして前記ファイナルシャフトに配設されることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記スプリングリテーナが、前記リフター側の端部を前記ファイナルシャフトにスプライン結合せしめるとともに前記リフターとは反対側に開放した椀状部と、前記コイルスプリングを受けるようにして前記椀状部の開放端外周に連なる鍔部とを有するように形成され、前記コイルスプリングとは反対側から前記スプリングリテーナに係合する位置決め部材が、前記椀状部内に配置されて前記ファイナルシャフトに装着されることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、前記ファイナルシャフトの軸線に直交する方向から見て前記椀状部に少なくとも一部が重なる軸受部材が、前記ファイナルシャフトと、該ファイナルシャフトを回転自在に支承するシャフト支持部材との間に介設されることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第3の特徴の構成に加えて、前記軸受部材がニードルベアリングであることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第1〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記アイドルシャフトが、前記緩衝手段の上方であって平面視では少なくとも一部が前記緩衝手段に重なる位置に配置され、該アイドルシャフトに回転自在に支承される前記アイドルギヤおよび前記アイドルシャフト間に給油するための潤滑油路が前記アイドルシャフトに同軸に設けられることを第5の特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、第1〜第5の特徴の構成のいずれかに加えて、前記緩衝手段の一部が、前記ファイナルシャフトおよび前記アイドルシャフトの軸線に直交する平面への投影図上で、前記アイドルシャフトの水平方向両端から下方に垂下した2つの直線間に配置されることを第6の特徴とする。
【0012】
なお実施の形態の第2クランクケースカバー15が本発明のシャフト支持部材に対応し、実施の形態のニードルベアリング70が本発明の軸受部材に対応し、実施の形態の止め輪93が本発明の位置決め部材に対応し、実施の形態の第1潤滑油路96が本発明の潤滑油路に対応する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の特徴によれば、緩衝手段が、ファイナルシャフトおよびアイドルシャフトの軸線を通過する直線に沿う方向から見てアイドルシャフトと重なる位置でファイナルシャフトに配設されるので、カウンタシャフトからの逆転方向の回転動力をファイナルシャフトにリバースギヤ列を介して伝達可能とした上で、ファイナルシャフトの長さが必要以上に大きくなることを抑え、パワーユニットのコンパクト化が可能となる。
【0014】
また本発明の第2の特徴によれば、リフターとは反対側に開放するようにしてスプリングリテーナが有する椀状部内でファイナルシャフトに装着される位置決め部材が、コイルスプリングとは反対側からスプリングリテーナに係合するので、ファイナルシャフトの軸方向で緩衝手段が占めるスペースを小さく設定することができる。
【0015】
本発明の第3の特徴によれば、ファイナルシャフトおよびシャフト支持部材間に介設される軸受部材の少なくとも一部が、ファイナルシャフトの軸線に直交する方向から見て椀状部に重なるので、椀状部内に、ファイナルシャフトの軸受構造の少なくとも一部が収容されるようにしてファイナルシャフトの軸長を短くすることができる。
【0016】
本発明の第4の特徴によれば、軸受部材をニードルベアリングとすることで、椀状部の内径を小さく設定することができ、ファイナルシャフトの半径方向で緩衝手段が占めるスペースを小さくすることができる。
【0017】
本発明の第5の特徴によれば、リバースギヤ列のアイドルギヤを支承するアイドルシャフトが、緩衝手段の上方であって平面視では少なくとも一部が緩衝手段に重なる位置に配置されており、アイドルギヤおよびアイドルシャフト間に給油するための潤滑油路がアイドルシャフトに設けられるので、アイドルギヤを潤滑したオイルを緩衝手段側に滴下することが可能であり、緩衝手段に給油するための油路をファイナルシャフトに設けることを不要として、緩衝手段を潤滑することができる。
【0018】
さらに本発明の第6の特徴によれば、ファイナルシャフトおよびアイドルシャフトの軸線に直交する平面への投影図上でアイドルシャフトの水平方向両端から下方に垂下した2つの直線間に緩衝手段の一部が配置されるので、パワーユニットのコンパクト化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】内燃機関を車両後方側から見た背面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】潤滑油供給系統の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図4を参照しながら説明すると、先ず図1および図2において、このパワーユニットPは、エンジンEと、該エンジンEから入力される回転動力を段階的に変速可能な変速機Mとを備えており、変速機Mから伝達される回転動力がファイナルシャフト10から出力される。
【0021】
前記エンジンEのエンジン本体11は、クランクシャフト12を回転自在に支持するクランクケース13と、前記クランクシャフト12の軸線に沿う方向で前記クランクケース13の一側を覆って該クランクケース13に締結される第1クランクケースカバー14と、前記クランクシャフト12の軸線に沿う方向で前記クランクケース13の他側を覆って該クランクケース13に締結される第2クランクケースカバー15と、前記クランクケース13の上部に結合されるシリンダブロック16と、該シリンダブロック16の上部に結合されるシリンダヘッド17と、該シリンダヘッド17の上部に結合されるヘッドカバー18とを備える。
【0022】
このエンジン本体11は、第1クランクケースカバー14がエンジン本体11の前面の一部を構成するとともに第2クランクケースカバー15がエンジン本体11の後面の一部を構成するようにしつつ、前記クランクシャフト12の軸線を車両の前後方向に沿わせて車両に搭載される。
【0023】
前記シリンダブロック16に設けられるシリンダボア19にはピストン20が摺動自在に嵌合され、このピストン20はコネクティングロッド21およびクランクピン22を介して前記クランクシャフト12に連接される。前記ピストン20の頂部を臨ませる燃焼室23が前記シリンダブロック16および前記シリンダヘッド17間に形成されており、前記シリンダヘッド17には、前記燃焼室23への吸気を制御する吸気弁24と、前記燃焼室23からの排気を制御する排気弁25とが開閉作動可能に配設され、吸気弁24および排気弁25は閉弁方向にばね付勢される。またシリンダヘッド17およびヘッドカバー18間には、前記吸気弁24を開閉駆動する吸気側動弁機構26の一部と、前記排気弁25を開閉駆動する排気側動弁機構27の一部とが収容される。
【0024】
前記クランクケース13は、前方側の第1ケース半体28ならびに後方側の第2ケース半体29が、前記シリンダボア19の軸線を含む平面に沿う結合面で相互に締結されて成り、前記クランクシャフト12は第1および第2ケース半体28,29を回転自在に貫通し、第1および第2ケース半体28,29と、前記クランクシャフト12との間にはボールベアリング31,32がそれぞれ介装される。またクランクシャフト12の一端部は第1クランクケースカバー14にボールベアリング33を介して回転自在に支承される。
【0025】
クランクケース13の第1ケース半体28および第1クランクケースカバー14間で前記クランクシャフト12には、トルクコンバータ34が装着される。また第2ケース半体29から突出したクランクシャフト12の他端部にはロータ35が固定され、該ロータ35と協働して発電機37を構成するステータ36が第2クランクケースカバー15に固定される。
【0026】
前記クランクケース13の第2ケース半体29には、前記クランクシャフト12と平行な回転軸線を有するスタータモータ38が取付けられており、このスタータモータ38に連なる減速ギヤ列39の出力端である被動ギヤ40がクランクシャフト12に相対回転自在に支承され、前記発電機37のロータ36および前記被動ギヤ40間に一方向クラッチ41が介設される。
【0027】
変速機Mは、前記クランクシャフト12から出力される回転動力を段階的に変速可能であり、前記クランクシャフト12と平行な軸線を有して前記クランクケース13に回転自在に支承されるメインシャフト42およびカウンタシャフト43を備えてエンジン本体11に内蔵される。
【0028】
前記メインシャフト42は、前記クランクシャフト12の左上方に配置されており、このメインシャフト42の一端側はクランクケース13のうち第1ケース半体28を回転自在に貫通し、メインシャフト42の他端部はクランクケース13の第2ケース半体29にボールベアリング44を介して回転自在に支承される。またカウンタシャフト43は、前記メインシャフト42の左下方に配置されており、このカウンタシャフト43の一端側は第1ケース半体28を回転自在に貫通し、カウンタシャフト43および第1ケース半体28間にはボールベアリング45が介装される。さらにカウンタシャフト43の他端側は第2ケース半体29を回転自在に貫通し、カウンタシャフト43および第2ケース半体29間にはボールベアリング46が介装される。
【0029】
前記メインシャフト42および前記カウンタシャフト43間には、択一的に確立される複数変速段のギヤ列が設けられるものであり、この実施の形態では、第1、第2および第3速ギヤ列G1,G2,G3が前記メインシャフト42および前記カウンタシャフト43間に設けられる。
【0030】
第1速ギヤ列G1は、クランクケース13の第1ケース半体28を回転自在に貫通してメインシャフト42に相対回転自在に支承される第1速用駆動ギヤ48と、第1速用駆動ギヤ48に噛合して前記カウンタシャフト43に固定される第1速用被動ギヤ49とから成り、第1速用駆動ギヤ48および第1ケース半体28間にボールベアリング50が介装される。
【0031】
また第2速ギヤ列G2は、第1速用駆動ギヤ48に隣接した位置で前記メインシャフト42に固定される第2速用駆動ギヤ51と、第2速用駆動ギヤ51に噛合して前記カウンタシャフト43に相対回転自在に支承される第2速用被動ギヤ52とから成り、第3速ギヤ列G3は、第2ケース半体29に近接した位置で前記メインシャフト42に固定される第3速用駆動ギヤ53と、第3速用駆動ギヤ53に噛合して前記カウンタシャフト43に相対回転自在に支承される第3速用被動ギヤ54とから成る。
【0032】
前記クランクシャフト12の一端部に装着されたトルクコンバータ34のタービン羽根車55は、一次減速ギヤ機構56およびダンパばね57を介して前記メインシャフト42に連結されるものであり、一次減速ギヤ機構56は、前記タービン羽根車55に固定される一次駆動ギヤ58と、前記メインシャフト42を同軸に囲繞して該メインシャフト42に固定される伝動筒軸60に相対回転可能に支承されて前記一次駆動ギヤ58に噛合する一次被動ギヤ59とから成り、一次被動ギヤ59および前記伝動筒軸60間にダンパばね57が介装される。
【0033】
前記伝動筒軸60および第1速用駆動ギヤ48間に、油圧の作用に応じて動力伝達状態となる油圧式の第1多板クラッチ61が介設される。また第2速用被動ギヤ52およびカウンタシャフト43間には、油圧の作用に応じて動力伝達状態となる油圧式の第2多板クラッチ62が介設され、第3速用被動ギヤ54およびカウンタシャフト43間には、油圧の作用に応じて動力伝達状態となる油圧式の第3多板クラッチ63が介設されており、第2および第3多板クラッチ62,63が共通に備えるクラッチアウタ64を前記カウンタシャフト43に固定するようにして、第2および第3多板クラッチ62,63は第2および第3速ギヤ列G2,G3間に配置される。
【0034】
而して第1多板クラッチ61が動力伝達状態となることでメインシャフト42からカウンタシャフト43に第1速ギヤ列G1を介して回転動力が伝達されることになり、第2多板クラッチ62が動力伝達状態となることでメインシャフト42からカウンタシャフト43に第2速ギヤ列G2を介して回転動力が伝達されることになり、第3多板クラッチ63が動力伝達状態となることでメインシャフト42からカウンタシャフト43に第3速ギヤ列G3を介して回転動力が伝達されることになる。すなわち第1〜第3多板クラッチ61〜63の断・接を油圧制御によって切換えることで、第1、第2および第3速ギヤ列G1〜G3を択一的に確立状態とし、第1、第2および第3速ギヤ列G1〜G3のうち確立したギヤ列を介してメインシャフト42からカウンタシャフト43に回転動力が伝達されることになる。
【0035】
前記ファイナルシャフト10は、前記クランクシャフト12、前記メインシャフト42および前記カウンタシャフト43と平行な軸線を有して、前記カウンタシャフト43の下方に配置されるものであり、このファイナルシャフト10の一端側は第1ケース半体28を回転自在に貫通し、ファイナルシャフト10および第1ケース半体28間にはボールベアリング67が介装され、ファイナルシャフト10の一端部は環状のシール部材68を第1クランクケースカバー14との間に介在させて第1クランクケースカバー14を回転自在に貫通する。またファイナルシャフト10の他端側は第2ケース半体29を回転自在に貫通し、ファイナルシャフト10および第2ケース半体29間にはボールベアリング69が介装され、ファイナルシャフト10の他端部は第2クランクケースカバー15を回転自在に貫通し、ファイナルシャフト10および第2クランクケースカバー15間にはニードルベアリング70が介装され、該ニードルベアリング70の外方でファイナルシャフト10および第2クランクケースカバー15間には環状のシール部材66が介装される。
【0036】
図3において、前記カウンタシャフト43の他端には、回転軸71の一端が相対回転不能にかつ同軸に連結されており、この回転軸71の他端部は、ボールベアリング72を介して第2クランクケースカバー15に回転自在に支承される。
【0037】
前記回転軸71の第2ケース半体29寄りの部分には正転方向駆動ギヤ73が相対回転自在に支承され、この正転方向駆動ギヤ73に噛合するダンパギヤ74が前記ファイナルシャフト10に相対回転自在に支承される。また前記回転軸71の第2クランクケースカバー15寄りの部分には逆転方向駆動ギヤ75が相対回転自在に支承されており、この逆転方向駆動ギヤ75は、カウンタシャフト43からの回転動力を前記ファイナルシャフト10に逆転方向で伝達するためのリバースギヤ列76の一部を構成する。而して前記リバースギヤ列76は、前記逆転方向駆動ギヤ75に噛合する第1アイドルギヤ77と、第1アイドルギヤ77とともに回転する第2アイドルギヤ78と、第2アイドルギヤ78に噛合するダンパギヤ74とで構成される。
【0038】
第1および第2アイドルギヤ77,78は、前記カウンタシャフト43および前記ファイナルシャフト10と平行な軸線を有して前記ファイナルシャフト10の右上方に配置されるアイドルシャフト79に回転自在に支承されるものであり、アイドルシャフト79の一端部は第2ケース半体29に嵌合、支持され、アイドルシャフト79の他端部は第2クランクケースカバー15に嵌合、支持される。しかも該アイドルシャフト79は、その軸方向から見て前記メインシャフト42に一部が重なるように配置されている。
【0039】
而してダンパギヤ74に噛合する第2アイドルギヤ78には、アイドルシャフト79を同軸に囲繞して該アイドルシャフト79で回転自在に支承される円筒部78aが一体に設けられ、第1アイドルギヤ77は前記円筒部78aの外周に固定される。
【0040】
前記正転方向駆動ギヤ73および前記逆転方向駆動ギヤ75間で前記回転軸71には、該回転軸71を同軸に囲繞する円筒状のスリーブ80が固定されており、該スリーブ80の周方向に間隔をあけた複数箇所との間に複数ずつのボール81…を介在させたシフタ82が、前記スリーブ80との軸方向相対移動を可能とするとともに軸線まわりの相対回転を不能としてスリーブ80を囲繞するように配置されており、このシフタ82の軸方向両端にそれぞれ対向する係止部材83,84が前記正転方向駆動ギヤ73および前記逆転方向駆動ギヤ75にそれぞれ固定される。
【0041】
前記シフタ82の外周は、シフトドラム85(図1参照)の外周に係合されたシフトフォーク86で抱持されており、シフトフォーク86がシフトドラム85の回動に応じて前記回転軸71の軸方向に移動することにより、前記シフタ82は、一方の係止部材83に係合して正転方向駆動ギヤ73を回転軸71に相対回転不能に結合する位置と、他方の係止部材84に係合して逆転方向駆動ギヤ75を回転軸71に相対回転不能に結合する位置との間で移動し、中間位置にある状態でシフタ82は、いずれの係止部材83,84にも係合しない。
【0042】
すなわちシフタ82の軸方向移動によって、カウンタシャフト43からの正転方向の回転動力をダンパギヤ74に伝達する状態と、リバースギヤ列76を介してカウンタシャフト43からの逆転方向の回転動力をダンパギヤ74に伝達する状態と、カウンタシャフト43からの回転動力をダンパギヤ74に伝達することがない状態とを択一的に切換可能である。
【0043】
前記第2ケース半体29および前記第2クランクケースカバー15間で前記ファイナルシャフト10には、該ファイナルシャフト10に相対回転自在に支承される前記ダンパギヤ74と、ファイナルシャフト10に相対回転不能かつ軸方向相対移動を可能として結合されるとともにダンパギヤ74の一面に設けられるカム87に係合されるリフター88と、該リフター88から軸方向に間隔をあけた位置でファイナルシャフト10に支持されるスプリングリテーナ89と、リフター88をダンパギヤ74側に向けて付勢するばね力を発揮してリフター88およびスプリングリテーナ89間に設けられるコイルスプリング90とで構成される緩衝手段91が設けられる。
【0044】
前記リフター88は前記ファイナルシャフト10にスプライン結合されるものであり、このリフター88への前記ダンパギヤ74の対向面には、前記リフター88から離反する側に凹んだカム87が形成され、前記リフター88には、前記カム87に当接する従動突部88aが突設される。また前記リフター88の前記ダンパギヤ74側への移動端を規制する止め輪92が、前記ダンパギヤ74側から前記リフター88の内周部に係合するようにしてファイナルシャフト10の外周に装着される。
【0045】
前記スプリングリテーナ89は、前記リフター88側の端部を前記ファイナルシャフト10にスプライン結合せしめるとともに前記リフター88とは反対側に開放した椀状部89aと、前記コイルスプリング90を受けるようにして前記椀状部89aの開放端外周に連なる鍔部89bとを有するように形成される。
【0046】
またスプリングリテーナ89の前記リフター88から離反する側への移動端を規制してファイナルシャフト10の軸方向での前記スプリングリテーナ89の位置を定める位置決め部材としての止め輪93が、前記椀状部89a内に配置されて前記ファイナルシャフト10の外周に装着される。
【0047】
ところでファイナルシャフト10の他端部を回転自在に支承するシャフト支持部材である第2クランクケースカバー15の内面には、前記スプリングリテーナ89の椀状部89a内に一部を突入せしめる筒状の軸受ハウジング15aが一体に突設されており、該軸受ハウジング15aおよび前記ファイナルシャフト10間に介設される軸受部材であるニードルベアリング70が、ファイナルシャフト10の軸線に直交する方向から見て前記椀状部89aに少なくとも一部が重なるように配置される。すなわちファイナルシャフト10の軸線に直交するとともに前記ニードルベアリング70の軸方向両端を通る2つの仮想平面PL1,PL2(図3参照)間に前記椀状部89aの少なくとも一部(この実施の形態では一部)が配置される。
【0048】
しかも前記緩衝手段91は、前記アイドルシャフト79の軸線と直交して該アイドルシャフト79の両端を通る一対の仮想平面PL3,PL4間に位置するようにして、前記第2ケース半体29および前記第2クランクケースカバー15間で前記ファイナルシャフト10に配設される。またアイドルシャフト79は、前記緩衝手段91の右上方であって平面視では少なくとも一部が前記緩衝手段91に重なる位置に配置されている。すなわちファイナルシャフト10およびアイドルシャフト79の軸線に直交する平面への投影図上で、図1で示すように、アイドルシャフト79の水平方向両端から下方に垂下した2つの直線L1,L2間に前記緩衝手段91の一部が配置される。
【0049】
図4において、前記アイドルシャフト79には、該アイドルシャフト79に回転自在に支承される第1および第2アイドルギヤ77,78と、アイドルシャフト79との間に給油するための第1潤滑油路96が同軸に設けられる。一方、前記エンジン本体11内には、クランクシャフト12から伝達される動力で回転駆動されるオイルポンプ(図示せず)が内蔵されており、このオイルポンプから吐出されるオイルは、第1クランクケースカバー14に配設されたオイルフィルタ97で浄化され、第1クランクケースカバー14、第1ケース半体28および第2ケース半体29に設けられるオイル供給油路98を介して前記オイルフィルタ97からのオイルが第1潤滑油路96に導かれる。また前記オイルフィルタ97からのオイルは、トルクコンバータ34にオイルを供給するとともに、クランクピン22の周囲に潤滑用のオイルを供給すべく前記クランクシャフト12に設けられる油路110(図2参照)にも供給される。
【0050】
また前記オイル供給油路98の途中に通じる第2潤滑油路99が前記メインシャフト42の他端側に同軸に設けられており、第1速用駆動ギヤ48およびメインシャフト42間への給油が第2潤滑油路99からなされる。また前記オイル供給油路98の途中から分岐した第1分岐油路100が第2ケース半体29および第2クランクケースカバー15に設けられ、この第1分岐油路100からのオイルは、前記正転方向駆動ギヤ73および前記逆転方向駆動ギヤ75と前記回転軸71との間に給油するようにして前記回転軸71に設けられる第3潤滑油路101(図3参照)に導かれる。
【0051】
ところで第1クランクケースカバー14には、第1〜第3多板クラッチ61〜63の断・接を切換えるための油圧制御装置(図示せず)が配設されており、この油圧制御装置には、前記オイル供給油路98から分岐して第1クランクケースカバー14に設けられた第2分岐油路102を介してオイルが導かれる。
【0052】
図2に注目して、第1クランクケースカバー14には第1オイル供給管103の一端が液密に嵌入されており、この第1オイル供給管103の他端は前記メインシャフト42の他端に液密に嵌入される。而して第1オイル供給管103およびメインシャフト42によって、第1多板クラッチ61の断・接を切換える制御油圧用のオイルを導く第1制御用油路104が形成され、第1制御用油路104は前記油圧制御装置に接続される。
【0053】
また第1クランクケースカバー14には第2オイル供給管105の一端が液密に嵌入されるとともに、第2オイル供給管105内に同軸に挿入される第3オイル供給管106の一端が液密に嵌入される。第3オイル供給管106の他端は、第3多板クラッチ63の断・接を切換える制御油圧用のオイルを導く第3制御用油路108を前記メインシャフト42とともに形成するようにしてメインシャフト42の一端側に液密に嵌入され、また第2オイル供給管105の他端は、第2多板クラッチ62の断・接を切換る制御油圧用のオイルを導く第2制御用油路107を前記第3オイル供給管106および前記メインシャフト42とともに形成するようにして前記メインシャフト42の一端側に液密に嵌入され、第2および第3制御用油路107,108は前記油圧制御装置に接続される。
【0054】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、パワーユニットPからの回転動力を出力するファイナルシャフト10上に、該ファイナルシャフト10に相対回転自在に支承されるダンパギヤ74と、ファイナルシャフト10に相対回転不能かつ軸方向相対移動を可能として結合されるとともにダンパギヤ74の一面に設けられるカム87に係合されるリフター88と、該リフター88から軸方向に間隔をあけた位置でファイナルシャフト10に支持されるスプリングリテーナ89と、前記リフター88をダンパギヤ74側に向けて付勢するばね力を発揮してリフター88およびスプリングリテーナ89間に設けられるコイルスプリング90とで構成される緩衝手段91が設けられており、この緩衝手段91が、前記カウンタシャフト43からの逆転方向の回転動力をダンパギヤ74に伝達するリバースギヤ列76の一部を構成する第1および第2アイドルギヤ77,78を回転自在に支承するアイドルシャフト79の軸線と直交して該アイドルシャフト79の両端を通る一対の仮想平面PL3,PL4間に位置するようにして前記ファイナルシャフト10に配設されている。
【0055】
したがってカウンタシャフト43からの逆転方向の回転動力をファイナルシャフト10にリバースギヤ列76を介して伝達可能とした上で、ファイナルシャフト10の長さが必要以上に大きくなることを抑え、パワーユニットPのコンパクト化が可能となる。
【0056】
また緩衝手段91の一部が、ファイナルシャフト10およびアイドルシャフト79の軸線に直交する平面への投影図上で、アイドルシャフト79の水平方向両端から下方に垂下した2つの直線L1,L2間に配置されるので、これによってもパワーユニットPのコンパクト化が可能となる。
【0057】
またスプリングリテーナ89が、リフター88側の端部をファイナルシャフト10にスプライン結合せしめるとともにリフター88とは反対側に開放した椀状部89aと、コイルスプリング90を受けるようにして椀状部89aの開放端外周に連なる鍔部89bとを有するように形成されており、コイルスプリング90とは反対側からスプリングリテーナ89に係合する止め輪93が、前記椀状部89a内に配置されて前記ファイナルシャフト10に装着されるので、ファイナルシャフト10の軸方向で緩衝手段91が占めるスペースを小さく設定することができる。
【0058】
またファイナルシャフト10の軸線に直交する方向から見て椀状部89aに少なくとも一部が重なる軸受部材が、前記ファイナルシャフト10と、第2クランクケースカバー15の軸受ハウジング15aとの間に介設されるので、椀状部89a内に、ファイナルシャフト10の軸受構造の少なくとも一部が収容されるようにしてファイナルシャフト10の軸長を短くすることができる。
【0059】
しかも前記軸受部材がニードルベアリング70であるので、椀状部89aの内径を小さく設定することができ、ファイナルシャフト10の半径方向で緩衝手段91が占めるスペースを小さくすることができる。
【0060】
さらにアイドルシャフト79が、前記緩衝手段91の上方であって平面視では少なくとも一部が前記緩衝手段91に重なる位置に配置され、該アイドルシャフト79に回転自在に支承される第1および第2アイドルギヤ77,78および前記アイドルシャフト79間に給油するための第1潤滑油路96が前記アイドルシャフト79に同軸に設けられるので、第1および第2アイドルギヤ77,78を潤滑したオイルを緩衝手段91側に滴下することが可能であり、緩衝手段91に給油するための油路をファイナルシャフト10に設けることを不要として、緩衝手段91を潤滑することができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10・・・ファイナルシャフト
15・・・シャフト支持部材である第2クランクケースカバー
43・・・カウンタシャフト
70・・・軸受部材であるニードルベアリング
74・・・ダンパギヤ
76・・・リバースギヤ列
77,78・・・アイドルギヤ
79・・・アイドルシャフト
87・・・カム
88・・・リフター
89・・・スプリングリテーナ
89a・・・椀状部
89b・・・鍔部
90・・・コイルスプリング
91・・・緩衝手段
93・・・位置決め部材である止め輪
96・・・潤滑油路である第1潤滑油路
E・・・エンジン
N・・・変速機
P・・・パワーユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)から入力される回転動力を段階的に変速可能な変速機(M)のカウンタシャフト(43)と平行なファイナルシャフト(10)上に、該ファイナルシャフト(10)に相対回転自在に支承されるダンパギヤ(74)と、前記ファイナルシャフト(10)に相対回転不能かつ軸方向相対移動を可能として結合されるとともに前記ダンパギヤ(74)の一面に設けられるカム(87)に係合されるリフター(88)と、該リフター(88)から軸方向に間隔をあけた位置で前記ファイナルシャフト(10)に支持されるスプリングリテーナ(89)と、前記リフター(88)を前記ダンパギヤ(74)側に向けて付勢するばね力を発揮して前記リフター(88)および前記スプリングリテーナ(89)間に設けられるコイルスプリング(90)とで構成される緩衝手段(91)が設けられ、前記カウンタシャフト(43)からの正転方向の回転動力を前記ダンパギヤ(74)に伝達する状態と、前記カウンタシャフト(43)および前記ファイナルシャフト(10)と平行なアイドルシャフト(79)に回転自在に支承されるアイドルギヤ(77,78)を含むリバースギヤ列(76)を介して前記カウンタシャフト(43)からの逆転方向の回転動力を前記ダンパギヤ(74)に伝達する状態とを切換可能である車両用パワーユニットにおいて、前記緩衝手段(91)が、前記アイドルシャフト(79)の軸線と直交して該アイドルシャフト(79)の両端を通る一対の仮想平面(PL3,PL4)間に位置するようにして前記ファイナルシャフト(10)に配設されることを特徴とする車両用パワーユニット。
【請求項2】
前記スプリングリテーナ(89)が、前記リフター(88)側の端部を前記ファイナルシャフト(10)にスプライン結合せしめるとともに前記リフター(88)とは反対側に開放した椀状部(89a)と、前記コイルスプリング(90)を受けるようにして前記椀状部(89a)の開放端外周に連なる鍔部(89b)とを有するように形成され、前記コイルスプリング(90)とは反対側から前記スプリングリテーナ(89)に係合する位置決め部材(93)が、前記椀状部(89a)内に配置されて前記ファイナルシャフト(10)に装着されることを特徴とする請求項1記載の車両用パワーユニット。
【請求項3】
前記ファイナルシャフト(10)の軸線に直交する方向から見て前記椀状部(89a)に少なくとも一部が重なる軸受部材(70)が、前記ファイナルシャフト(10)と、該ファイナルシャフト(10)を回転自在に支承するシャフト支持部材(15)との間に介設されることを特徴とする請求項2記載の車両用パワーユニット。
【請求項4】
前記軸受部材がニードルベアリング(70)であることを特徴とする請求項3記載の車両用パワーユニット。
【請求項5】
前記アイドルシャフト(79)が、前記緩衝手段(91)の上方であって平面視では少なくとも一部が前記緩衝手段(91)に重なる位置に配置され、該アイドルシャフト(79)に回転自在に支承される前記アイドルギヤ(77,78)および前記アイドルシャフト(79)間に給油するための潤滑油路(96)が、前記アイドルシャフト(79)に同軸に設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用パワーユニット。
【請求項6】
前記緩衝手段(91)の一部が、前記ファイナルシャフト(10)および前記アイドルシャフト(79)の軸線に直交する平面への投影図上で、前記アイドルシャフト(79)の水平方向両端から下方に垂下した2つの直線(L1,L2)間に配置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車両用パワーユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−74978(P2011−74978A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225476(P2009−225476)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】