説明

車両用ブレーキのトルク補正が可能な制御方法

【課題】車両用のブレーキの制御方法を提供する。
【解決手段】ブレーキの制御方法が、ブレーキの設定値(F)に基づいて、ブレーキアクチュエータの通常の作動設定値(X)を、前記ブレーキの設定値のすべての成分を考りょして決定する段階と、前記ブレーキの設定値(F)と前記ブレーキにより作用された測定されたトルク(Cmes)とに基づいて、前記通常の作動設定値の補正値(Xcorr)を決定する段階であって、前記補正値は前記ブレーキの設定値の低周波数の変動だけを考りょしている段階と、前記補正値を通常の作動設定値に加える段階と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ブレーキのトルク補正が可能な制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のブレーキ装置はアクチュエータ(油圧式又は電気機械式の)を含んでいて、アクチュエータは車両の速度を減速するために車輪にブレーキトルクを作用するようになっている。
【0003】
航空機におけるほとんどのブレーキは、油圧ブレーキのための圧力、又は電気機械式ブレーキの場合の作用する力もしくはプッシャの変位のいずれかに変換される設定値を使用している。
【0004】
従来のコントローラは、特許文献1に記載されているように、トルクの設定値を使用していて、そして、測定されたトルクに基づくフィードバックループを備えている。これらのコントローラは、トルク制御によりブレーキの作動全体を考りょに入れ、そして所定のブレーキ力に対するブレーキトルクの応答のばらつきに適合することを可能にしている。
【0005】
それにもかかわらず、トルク指令とアンチロック指令との間に位相の違いがある場合、広いパスバンド(passband)を使用しているコントローラは、車輪のアンチロック・プロテクションシステムと干渉する。そのような条件において、トルクコントロールは、車輪のロッキングを防止するために一時的にゼロのトルク設定値を実行する。しかしながら、車輪がロックしてしまうと、測定されたトルクは急に消失し、そしてゼロのトルク設定値に等しくなる。従って、車輪のブレーキは解除されることなく、車輪はロックされたままになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2005/0001474号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、測定されたトルクを考りょするだけでなく力又は位置の設定値を使用したブレーキの制御を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために、車両用のブレーキの制御方法であって、前記ブレーキは作動設定値に応答してブレーキ力を作用するようになっている方法が提供されていて、その方法は、
ブレーキの設定値に基づいて、ブレーキアクチュエータの通常の作動設定値を、前記ブレーキの設定値のすべての成分を考りょして決定する段階と、
前記ブレーキの設定値と前記ブレーキにより作用された測定されたトルクとに基づいて、前記通常の作動設定値の補正値を決定する段階であって、前記補正値は前記ブレーキの設定値の低周波数の変動だけを考りょしている段階と、
前記補正値を通常の作動設定値に加える段階と、を含んでいる。
【0009】
従って、ブレーキは、トルクではなくブレーキの設定値に基づいて制御される。トルクの測定値は、通常の作動設定値に対して低周波補正を実行するためにだけ使用されていて、それ自身はブレーキの設定値の高周波成分を考りょする際に計算されているものである。
【0010】
ここで提案されている低周波補正は、所定のブレーキの設定値に関するブレーキトルクのばらつきを低減していて、そのばらつきは作用されたブレーキ力のばらつき又は作用されたブレーキ力に対するブレーキのトルク応答におけるばらつきにより引き起こされるものである。
【0011】
さらに、低周波補正は、車輪のロッキングを防止するために高周波におけるブレーキの設定値を調節するアンチロック・プロテクションシステムに対しても適合し得るものである。
【0012】
本発明の利点の一つは、トルクセンサが損傷した場合の減速モードにおけるブレーキ操作を可能にするものである。補正は停止されるかあるいは現在の値に維持され、そしてブレーキはブレーキの設定値だけにより制御される。
【0013】
位置の設定値の特別な場合には、本発明のトルク補正はブレーキにより実際に作用される力を変化させる熱膨張を補償できるようになっている。
【0014】
利点のあることに、トルクの補正は、一つの着陸装置に支持され、かつ同一のブレーキの設定値を受け入れるようになっているすべてのブレーキの作動条件を考りょできるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明におけるブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は変位制御式の電気機械式アクチュエータを備えた航空機ブレーキに関する。コンピュータ(図示せず)がブレーキの設定値Fを発生する。設定値がアンチロック・プロテクションシステムにより高頻度で補正されていて、アンチロック・プロテクションシステムは車輪のスリップ比を連続的に監視しており、従って車輪のロッキングを検出できるようになっていて、そのことが車輪のロッキングを防止するためにブレーキの設定値Fを減少するようになっている。
【0017】
従来技術において、コンバータ1はブレーキの設定値Fをアクチュエータのプッシャの位置の設定値Xに変換していて、ここでは非線形モデル1が使用されている。本実施形態において、位置の設定値Xはアンチロック・プロテクションシステムの作動速度に対応する高速演算で計算されていて、従って位置の設定値Xにはブレーキの設定値Fにおける低周波成分及び高周波成分が考りょされている。
【0018】
本発明において、低周波位置補正値Xcorrが計算され、それは加算回路20により位置の設定値Xに加算されており、補正された位置の設定値Xcorr=X+Xcorrが得られるようになっている。この位置補正Xcorrには以下の方法で計測されたトルクが考りょされている。
【0019】
第一に、平均トルクCmeanのイメージがブレーキの設定値Fに対応して発生される。この目的のために、ブレーキの設定値Fはトルクと同程度になるようにゲインK1の比例ステージ2に入力され、続いてすべての高周波成分を除去するべく第一のローパスフィルタ3に供給され、そしてこれらがアンチロック・プロテクションを実行する。
【0020】
ブレーキにより作用される平均トルクCmeanの測定値はゲインK2の比例ステージ(propotional stage)4に使用され、そして測定ノイズと共に高周波成分のすべてを除去するために第二のローパスフィルタに入力される。このようにして補正された測定トルクCmesが生成される。
【0021】
平均トルクCmean及び補正された測定トルクCmesは誤作εを発生するコンパレータへの入力として使用される。エラーは処理され、ゲインK3の比例動作6と積分動作7とを提供するコントローラに入力され、そして最終的に、補正値を範囲〔Xmin,Xmax〕の値に制限するようになっている飽和ステージ(saturator stage)に入力される。この飽和状態が、ブレーキの正確な作動を乱し、あるいは非常に大きな力(すなわち、ブレーキの許容可能な制限力より大きな力)を作用する過剰な補正を防止するようになっている。
【0022】
好ましくは、従来技術において、積分動作7は積分動作をフリーズするアンチランアウェー・プロテクション(anti-runaway protection)を含んでいて、補正は飽和ステージ8において飽和され、補正が飽和されているかぎり誤差との積分を実行しないようになっている。
【0023】
飽和ステージ8からの出力はスロープリミッタ9に入力され、スロープリミッタ9は補正の変化の度合が漸進的であることを保証する機能を有している。このことが求めていた位置補正Xcorrを作り出す。
【0024】
航空機が停止している場合、停止状態を保つためにブレーキ力を作用することが可能である。そして、測定されたトルクCmesはゼロ又は非常に小さいけれども、作用されているブレーキ力はゼロでない平均トルクCmeanに誘導される。そのような場合、トルクの誤差は大きくて、そして大きな補正がなされ、従ってアクチュエータ・プッシャ(actuator pusher)の変位がさらに増大され、従って作用されたブレーキ力が増加される。そのような状態をさけるために、補正が無効化される。そのような無効化を実行するために、スイッチ10が備えられていて、そのスイッチ10は補正停止部材(correction deactivator member)11により制御されており、スロープリミッタ9への入力を固定値に切りかえるようになっていて、この場合固定値はゼロである。測定されたトルクCmesを提供するトルクセンサが異状を検出した場合、この切りかえ操作が、補正を無効化している。スイッチ10の下流側にあるスロープリミッタ9は、そのような切りかえ操作の際、及びもとの状態にもどす際における補正の変動を防止するようになっている。
【0025】
利点のあることに、さらにここに示すように、又は飽和ステージ8に代えて、補正された位置の設定値Xcorrを飽和させるための飽和ステージ21が備えられていて、補正された位置の設定値Xcorrはブレーキのコンポーネントの機械的な強度に見合ったレベルに保たれるようになっている。
【0026】
本発明において、変数であるゲインK1が使用されていて、その変数は、ブレーキの作動時に適用されるトルク補正を可能にするものであって、適切な数値モーデルを使用して作られた種々のパラメータの函数であり、そのパラメータは航空機の速度、ブレーキの作動位置、のようなものである。
ゲインK1を変化させることにより、ブレーキの現在の条件又は将来の条件に対する平均トルクCmeanの予測に適用することができる。この適用の目的は、補正された位置の設定値が飽和されている作動ステージを限定するためのものである。前述したように、補正を飽和させることは必要であるけれども、飽和モードにおける操作は、操作のもとめているモードではない。というのは、それはトルクレスポンスを完全に補正した結果ではないからである。
【0027】
利点のあることに、対象となっているブレーキに関するパラメータだけでなく、他のブレーキ(特に同一のブレーキ設定値を受け取る)に関するパラメータも考りょすることができ、従がって、ブレーキは一様な摩擦及び加熱を受けることが保証されている。
【0028】
従って、第一の実施形態において、飽和ステージ21(又は飽和ステージ8)を最大飽和限界とすることにより、補正された位置の設定値が飽和されているか、いないかが検証されている。そのような飽和は平均トルクCmeanは、過大評価されていることを示していて、そのことは、ブレーキが本来発生する平均トルクCmeanに対してブレーキのトルクレスポンスが通常のレスポンスより劣っているある種のタイプのブレーキに生じている。この過大評価を改善するために、ゲインK1の値は小さなものとなっている。従って、評価された平均トルクCmeanは平均トルクの設定値より小さなものとなっていて、従って、最大のブレーキの設定値に関連する平均トルクCmeanを最大トルク(生じ得る特別なブレーキ状態のためのブレーキにより実際に引き起こされるトルク)に一致させることにより、低周波位置補正値Xcorrを非飽和の作動範囲に引きもどすことを可能にしている。
【0029】
別の実施形態において、同一のブレーキの設定値を受ける一連のブレーキのゲインK1は、共に下げられる(すなわち、一つの着陸装置に支持されたすべての車輪のブレーキ)。このことにより、ブレーキに発生されるトルクが一定であることを保証されるようになっている。
【0030】
当然のことであるが、最低の飽和限界において飽和された補正された位置の設定値の場合、ゲインK1を下げることは適切ではなく、それを増加する必要がある。
【0031】
第二の実施形態において、ゲインK1は、将来のブレーキ操作のパラメータの函数として適用される。ブレーキのトルクレスポンスは初期温度及び放散されるブレーキのエネルギに影響されることが知られている。従って、係数K1は航空機のブレーキの初期平均温度の函数及び/又は航空機の速度と質量と(ブレーキエネルギを表わすもの)の函数として表わされてもよくて、最大のブレーキの設定値に関連する平均トルクCmeanが最大トルク(生じ得る特別なブレーキ状態のためのブレーキにより実際に引き起こされるトルク)に一致するようになっている。
【0032】
第三の実施形態において、同一のブレーキの設定値を受け入れる個々のブレーキの初期状態の違いが考りょされる。すべてのブレーキのブレーキ操作の初期においては同一の温度ではなく、同一の摩擦ではないことがある。初期の状態が異なるので、個々のブレーキは同一のブレーキの設定値に応答して異なるトルクを引き起こし、従って発熱量が異なるものとなり、ブレーキ間で温度の上昇が異なる可能性がある。係数K1を適合させることにより、ブレーキを多用することによるこれらの違いを低減することが可能となる。
【0033】
例えば、最初のブレーキ操作で一つのブレーキが他のブレーキより加熱されると、次のブレーキ操作においてより大きなトルクレスポンスを生じ、従って、他のブレーキに比較してさらに加熱されることなる。この欠点を取り除くために、ブレーキ操作に先立って、このブレーキは他のブレーキより高温であることが判明した場合、このブレーキに必要とされる平均トルクCmeanを低減するようにゲインK1を下げることが可能である。従って、このブレーキは他のブレーキよりブレーキ力が小さくなり、他のブレーキと比較して加熱も少なく、従って、対象とするブレーキの温度をより一様なものにすることができる。
【0034】
本発明は前述の説明だけに限定されるものではなく、特許請求の範囲に含まれるすべての変形を含むものである。
【0035】
詳しくは、本発明は位置を制御する電気機械式アクチュエータを有しているブレーキに関して説明されてきたが、本発明はいずれのタイプの制御にも適用することができる。例えば、同一のタイプのブレーキ用の力の作動設定点又は油圧ブレーキ用の圧力の作動設定点を発生することができ、これらの作動設定点は、本発明によるブレーキにより発生されるトルクの測定により補正することができる。
【0036】
前述したように、補正を無効化する場合には、補正を迅速にゼロ値に切りかえるけれども、他の方法で補正を停止することができる。例えば、無効化に先立って最新の補正値を維持し、そして補正が再起動される場合その最新の補正値から再開する。他の方法、例えば条件付き加算回路(conditional sunming circuit)20によりその条件付き加算回路は、補正を無効化する指示に基づき、位置補正Xcorrを位置の設定値Xに加算することを停止する。
【0037】
前述したように、ブレーキ操作条件にトルク補正を適用することは、ブレーキにより発生された平均トルクCmeanの評価を変更することにより、詳しくは可変ゲインK1を使用することにより、実行されるが、他の方法でもよい。
【0038】
前述したように、比例−積分タイプのコントローラが使用されているが、他のタイプのコントローラ、例えば比例−積分−微分コントローラ又は別のタイプのコントローラが使用されてもよい。
【0039】
平均トルクCmean及び測定されたトルクCmesのイメージは個々の二つのローパスフィルタによりフィルタされているが、これらの二つのフィルタを削除し、これらをコンパレータの下流に設けた一つのローパスフィルタに置きかえて誤差εをフィルタしてもよい。
【0040】
最後に、補正された位置の設定値Xcorrを決定するために、アンチ・ロッキング補正を含んでいるブレーキの設定値が使用され、そしてローパスフィルタにより低周波成分がフィルタされているけれども、他の方法により位置補正を行なってもよい。例えば、アンチロック・プロテクションシステムにより高周波補正を行なう前に得られた低周波のブレーキの設定値を使用してもよい(低周波のブレーキの設定値はパイロット操作のペダル又はいわゆる“自動ブレーキ”自動モードにおけるブレーキ操作の場合の減速設定値からもたらされたものでもよい)。公称の位置の設定値Xは低周波のブレーキ設定値と高周波のアンチ・ロッキング補正とを加算した合計の入力に基づいて決定されている。
【符号の説明】
【0041】
1 非線形モデル
2 比例ステージ
3 第一ローパスフィルタ
4 比例ステージ
5 第二ローパスフィルタ
6 比例動作
7 積分動作
8 飽和ステージ
9 スロープリミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のブレーキの制御方法であって、前記ブレーキは作動設定値に応答してブレーキ力を作用するようになっている方法において、
ブレーキの設定値(F)に基づいて、ブレーキアクチュエータの通常の作動設定値(X)を、前記ブレーキの設定値のすべての成分を考りょして決定する段階と、
前記ブレーキの設定値(F)と前記ブレーキにより作用された測定されたトルク(Cmes)とに基づいて、前記通常の作動設定値の補正値(Xcorr)を決定する段階であって、前記補正値は前記ブレーキの設定値の低周波数の変動だけを考りょしていて、前記補正値は、同一の前記ブレーキの設定値に従がう少なくとも一つの前記ブレーキの現時点における又は今後の作動条件を考りょするようになっている段階と、
前記補正値を通常の作動設定値に加える段階と、
を含んでいる方法。
【請求項2】
前記補正値を決定するために、前記ブレーキに作用された平均トルク(Cmean)のイメージが前記ブレーキの設定値(F)から作られ、そして前記平均トルクは前記測定されたトルク(Cmes)と比較される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正値が、予測した前記平均トルク(Cmean)を所定のブレーキの設定値に対して変化させるようになっている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記平均トルク(Cmean)は、前記ブレーキの設定値に調節可能なゲイン(K1)を乗算することにより前記ブレーキの設定値(F)から予測される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法を実行するための装置であって、
ブレーキの設定値(F)を受け入れるための入力装置と、
ブレーキにより発生されたトルクの測定値(Cmes)を受け入れるための入力装置と、
ブレーキアクチュエータのための通常の作動設定値(F)を計算するために前記ブレーキの設定値(F)に対応するための計算手段と、
前記通常の作動設定値の補正値(Xcorr)を計算するために、前記ブレーキの設定値(F)と前記トルクの測定値(Cmes)とに対応するための計算手段であって、前記補正値は前記ブレーキの設定値の低周波数の変動だけを考りょするものであって、前記補正値を計算する手段は、同一のブレーキの設定値を受け入れる少なくとも一つのブレーキの作動条件を考りょする計算手段と、
前記作動設定値に前記作動設定値の補正値を加算した合計値を出力する出力装置と、
を備えている装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163162(P2010−163162A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8373(P2010−8373)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(591131361)メシエ−ブガッティ (64)
【氏名又は名称原語表記】MESSIER BUGATTI
【Fターム(参考)】