説明

車両用ペダル変位抑制構造

【課題】 簡単な構成で安価なものでありながら、ペダルの後退移動を確実に抑制することができ、しかも通常時におけるペダルブラケットの剛性の向上を図ることができるような車両用ペダル変位抑制構造を提供する。
【解決手段】 一端14aがステアリングサポートメンバ11に取付けられ、他端14bがペダルブラケット6に取付けられた変位抑制部材14をペダル(例えば、クラッチペダル9)の後方に設け、車両前方から車両後方に向かう荷重によってダッシュパネル3が車両後方に後退移動するときに、変位抑制部材14がペダル9に当接してこのペダル9の後退移動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に前方からの過大な荷重が作用してダッシュパネルと共にペダルが後退移動する際にペダルの後退移動を抑制する車両用ペダル変位抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用ペダル変位抑制構造としては各種のものが従来より提案されている。その1例としては、図5(a)に示すようにペダルアーム30の途中に第1のリンク31の一端部を軸支し、この第1のリンク31の他端部を、ペダル軸32に他端部を係合した第2のリンク33の一端部に軸支し、車体前方からの過大な入力荷重に伴ってペダルハンガ(ペダルブラケット)34が車体取付部側に対して相対的に移動したときに、第2のリンク33の他端部係合部がペダル軸32から離脱可能に構成したペダル支持構造がある(例えば、特開2003−146193号参照)。このペダル支持構造によれば、前方よりの過大な荷重の作用時に第2のリンク33が図5(b)に示すようにペダル軸32から外れることによって、ペダルの後退移動を抑制するようにしている。また、その他の例としては、ダッシュパネルと共に後退してきたペダルを専用の当接部材(ストッパ)等の構造物に押し当てて押さえ込むようにした、いわゆる直押し式のペダル変位抑制構造が提案されている。
【特許文献1】特開2003−146193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のようなリンク離脱式のペダル支持構造では、第2のリンク33を設ける必要があるため部品点数が多くなり、コスト高になるといった問題点がある。
【0004】
一方、直押し式のペダル変位抑制構造にあっては、ペダルの後方(真後ろ箇所)に高強度の当接部材等の構造物が必要となり、ペダルの後退移動時にはこのペダルを確実に受け支え得るように当接部分を広くしておく必要があるため、ペダル後方の構造物が重く、大きなものになってしまうといった不具合がある。例えば、コラムハンガブラケット若しくはステアリングサポートメンバから、ペダル当接部を有する当接部材を延ばす構造では、荷重によって予想されるペダルの移動範囲(車両左右方向)以上の範囲に設定する必要があるため、当接を確実とするため大きな(広い)当接部分が必要になる。また、車両左右方向でペダル位置とコラムハンガブラケット位置が異なるため、専用の取付けが必要になる。コラムハンガブラケットを当接部材の取付けに利用する場合には、当接部は、片持ち状態で取付けられることとなるので、当接部材(ブラケット)そのものの強度が必要になり、大型化してしまう。さらに、取付けの強度も十分に確保することが必要になり、締付け箇所の増大や大型化を招いてしてしまうこととなる。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡単な構成で安価なものでありながら、ペダルの後退移動を確実に抑制することができ、しかも通常時におけるペダルブラケットの剛性の向上を図ることができるような車両用ペダル変位抑制構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明では、車両のフロントボディ空間と車室空間とを区画するダッシュパネルと、乗員によって足踏み操作されるペダルを軸支するペダルブラケットとを有すると共に、ステアリングコラムが取付けられかつ車両左右方向に延びるように配置されたステアリングサポートメンバを前記ダッシュパネルの後方に配置し、前記ダッシュパネルに前記ペダルブラケットを取付けた車両における車両用ペダル変位抑制構造であって、一端が前記ステアリングサポートメンバに取付けられ、他端が前記ペダルブラケットに取付けられた変位抑制部材を前記ペダルの後方に設け、車両前方から車両後方に向かう荷重によって前記ダッシュパネルが車両後方に後退移動するときに、前記変位抑制部材が前記ペダルに当接して前記ペダルの後退移動を抑制するようにしている。
また、本発明では、前記ステアリングサポートメンバは、フロントピラーに固定され、前記変位抑制部材は、前記ステアリングサポートメンバに前記ステアリングコラムを取付けるための取付ブラケットであるコラムハンガブラケットに固定されるようにしている。
また、本発明では、前記変位抑制部材は、前記ペダルブラケットの後方移動に伴って回転し、回転前後で前記変位抑制部材のうちの前記ペダルの後方に位置する部分が異なるようにしている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、一端がステアリングサポートメンバに取付けられ、他端がペダルブラケットに取付けられた変位抑制部材をペダルの後方に設け、車両前方から車両後方に向かう荷重によってダッシュパネルが車両後方に後退移動するときに、変位抑制部材がペダルに当接してペダルの後退移動を抑制するようにしたものであるから、通常使用時では、変位抑制部材によりステアリングサポートメンバとペダルブラケットが互いに連結されているので、ペダルブラケットの剛性の向上を図ることができ、ひいてはペダルの操作感(剛性感)の向上を図ることができる。また、ダッシュパネルが車両後方に後退移動するときでは、変位抑制部材(後退抑制用ブラケット)は、ペダルの後方に配置されその両端が固定されているので、ペダルとの当接荷重を小さな部材及び比較的簡単な取付けで受けることができ、さらに、他端がペダルブラケットに取付けられているので、部材の大型化を招くことなく確実にペダルと当接させることができる。従って、本発明の車両用ペダル変位抑制構造によれば、簡単な構成で安価なものでありながら、ペダルの後退移動を確実に抑制することができる。また、変形後のペダルと変位抑制部材との位置関係を確保し易いという利点もある。
【0008】
また、請求項2に記載の本発明は、ステアリングサポートメンバは、フロントピラーに固定され、変位抑制部材は、ステアリングサポートメンバにステアリングコラムを取付けるための取付ブラケットであるコラムハンガブラケットに固定されるようにしたものであるから、ステアリングサポートメンバが、ペダルブラケットが取付けられているダッシュパネルとは異なる部材で剛性のあるフロントピラーに取付けられていて、前方からの荷重時にステアリングサポートメンバは比較的後退しない部材とすることができるので、変位抑制部材の一端の後方移動量を少なくすることが可能となる。そして、ステアリングサポートメンバによって、ペダルの後退移動を確実に阻止することができる。さらに、ペダルブラケットの近傍に存在するステアリングコラムの取付ブラケット(コラムハンガブラケット)を利用して、変位抑制部材を取付けているので、専用の強固なブラケットを別途に設ける必要がなく、生産性の向上を図ることが可能となる。また、コラムハンガブラケットは、強固な部材でありため、変位抑制部材の効果を出すために補強等が必要ない。
【0009】
また、請求項3に記載の本発明は、変位抑制部材は、ペダルブラケットの後方移動に伴って回転し、回転前後で変位抑制部材のうちのペダルの後方に位置する部分が異なるようにしたものであるから、次のような作用効果をそうすることができる。すなわち、通常使用時は、ペダルと変位抑制部材との間のクリアランスを十分に取り、変位抑制部材のペダル後方部分が乗員の操作に支障がない位置となっている(例えば、逃げ形状となっている)。前方からの荷重があって、ペダルブラケットが後方に移動すると、変位抑制部材はその取付関係によって回転し、ペダルブラケットに対して通常使用時と比較して変位抑制部材がペダル側に近づくと共に、より接近する部分がペダルの後方側に移動する。回転によって、ペダルとの当接部をペダルの後方に移動させることができるので、通常使用時は支障がないクリアランスを確保できると共に、前方からの荷重が加わった時は、積極的にクリアランスを減らして、早期にペダルと変位抑制部材を当接させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用ペダル変位抑制構造について図1〜図4を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用ペダル変位抑制構造を備えた自動車の前部を示すものである。この自動車の前部には、フロントボディ空間(エンジンルーム)1と車室空間2とを区画するダッシュパネル3が設けられており、ステアリングホイール4により回転操作されるステアリングシャフト5がダッシュパネル3に貫通配置されている。一方、ダッシュパネル3にはペダルブラケット6及びブレーキブースタ(倍力装置)7が取付けられ、ペダルブラケット6が車室空間2内に配置されると共に、ブレーキブースタ7がフロントボディ空間1に配置されている。そして、上述のペダルブラケット6には、乗員によって足踏み操作されるブレーキペダル8及びクラッチペダル9がそれぞれ回動可能に軸支されている。
【0012】
また、自動車の左右一対のフロントピラー(図示せず)間に固定(架設)されてインストルメントパネル10の裏面側において車両左右方向に沿って延びるように配置されたステアリングサポートメンバ11がダッシュパネル3の後方に配設されており、このステアリングサポートメンバ11には、ステアリングサポートメンバ11にステアリングコラム12を取付けるための取付ブラケットであるコラムハンガブラケット(ステアリングコラムハンガ)13が結合(固定)されている。そして、上述のコラムハンガブラケット13には、ステアリングシャフト5の室内側と接続されるステアリングコラム12がボルト締めなどにて取付けられている。
【0013】
さらに、本実施形態にあっては、図1及び図2に示すように、ダッシュパネル3と共にペダルブラケット6が車室側に移動された際にクラッチペダル9が車室側へ後退移動(突出移動)するのを抑制するために、コラムハンガブラケット13(ひいてはステアリングサポートメンバ11)とペダルブラケット6とを連結する変位抑制部材(変位抑制用ブラケット)14がクラッチペダル9の後方に設けられている。さらに具体的に述べると、この変位抑制部材14の一端14aは、図2に示すように、コラムハンガブラケット13に取付けられた1本の溶接ボルト16にナット17を締め込むことにより、コラムハンガブラケット13に固定されている。従って、変位抑制部材14の一端14aは、コラムハンガブラケット13を介してステアリングサポートメンバ11に取付けられている。
【0014】
なお、変位抑制部材14をコラムハンガブラケット13に取付けるための溶接ボルト16として、ステアリングコラム12をコラムハンガブラケット13に取り付けるためのボルトと同じものを共通使用しているが、この溶接ボルト16を用いた共締め固定ではなく、それぞれ別のナット17,18(図2参照)での締付けがなされている。すなわち、変位抑制部材14の一端14aは、ステアリングコラム固定用のナット18と変位抑制部材固定用のナット17との間に挟持固定されている。これは、前方から荷重が作用した時にステアリングコラム12ヘの変位抑制部材14の影響を抑えるためである。また、本実施形態では、変位抑止部材14の固定作業を容易にするために、コラムハンガブラケット13の側に設けられる変位抑制部材取付用の取付穴19は、図2に示すような車両の左右方向に沿って延びるスリット(一方が開放された長孔)として形成されており、溶接ボルト16を受け入れ(挿入)易いように口元の両側部分が面取りされている(図2に示す面取部20参照)。この場合、溶接ボルト16にナット17を前もって螺合させておくことができて組付け性の向上を図ることが可能である。
【0015】
一方、変位抑制部材14の他端14bは、図2に示すように、ペダルブラケット6のうちのステアリングコラム12と反対側の壁部6aから下方に延びた取付片6bに取付けられた溶接ナット21に、1本のボルト22にて固定されている。このボルト22が挿通される変位抑制部材14の取付穴23は、長穴として設けられている。この長孔23の長軸の向きは、車両搭載状態で、車両左右方向であり、ペダルブラケット6の後退移動によるコラムハンガブラケット13の固定点とペダルブラケット6の固定点との間の距離の変化を許容できるように配慮されている。また、ペダルブラケット6は、その上方と前方とがダッシュパネル3に固定されている。変位抑制部材14が固定されるペダルブラケット6の取付片6b(取付位置)は、ペダルブラケット6の後方かつ下方の位置であり、ダッシュパネル3との取付点から離れた位置となっているので、ペダルブラケット6の剛性向上に効果的な位置となっており、変位抑制部材14の取り付けによって、ペダルブラケット6の振動防止やペダルの操作感の向上を図ることができる。また、変位抑制部材14の取り付け位置は、車両の側方から見てペダル軸支位置K(図1及び図2参照)の後方かつ下方の位置となっていて、変位抑制部材14は、軸支位置の下方のペダルの後方に位置している。
【0016】
本実施形態では、変位抑制部材14の回転を容易にするためにその2箇所の取付けは、その取付面を略平行な面とし、該略平行な面へ略垂直方向から(つまり、略平行な方向)の締付けによる取付けとなされている。しかも、各取付点はボルト1本づつ(ボルト16,22)の締付けとなっており、衝撃荷重が作用した時に各取付点のボルト軸回りの相対回転を許容できる締付けとなっている。つまり、変位抑制部材14をコラムハンガブラケット13に取付けるための溶接ボルト16、及び、ペダルブラケット6の取付片6bに取付けるためのボルト22が変位抑制部材14の回転の軸となるように構成されている。変位抑制部材14とコラムハンガブラケット13との固定点α(図3参照)と、変位抑制部材14とペダルブラケット6との固定点β(図3参照)との位置関係は、車両の左右方向にオフセットした位置に設定されている。これによって、前方からの衝撃荷重によるペダルブラケット6の後退によって変位抑制部材14が容易に回転することができる。さらに、固定点αに対して固定点βは、左側斜め前方に配置されている。本実施形態では、変位抑制部材14はコラムハンガブラケット13の下側およびペダルブラケット6の下側に重ねられて、下側からのボルト16およびナット17によって締付け固定されている。この配置では、変位抑制部材14の回転(固定点βの後方移動に伴う回転であり、車両下方から見て時計方向の回転;図4参照)がボルト16(ナット17)の締付方向となる回転方向となっている。これにより、変位抑制部材14の回転に伴う締付けの緩みを防止でき、確実な後退抑止の効果を達成できるように構成されている。一方、クラッチペダル9は、図3に示すように車両左右における固定点αと固定点βとの間の領域に配置されるようになっている。
【0017】
また、本実施形態の変位抑制部材14は、平面視で略四角形の板金部材であり、その車両前方側の周縁は、車両の左右方向に沿って配設されている。そして、通常使用時にクラッチペダル9の後方となる変位抑制部材14のほぼ中央部分には、クラッチペダル9との干渉を避けるために湾曲形状の逃げ部(下方へ向けて湾曲した膨出部)25が形成されている。これによって、ペダルブラケット6の取付片6bを不要に下方へ延出させなくて済み、取付片6bの剛性確保が容易となり、ペダルブラケット6が大型化するのを防止できる。さらに、湾曲形状の逃げ部25によって変位抑制部材14の剛性の向上を図り得ると共に、変位抑制部材14が大きな荷重を受けた時には多少の左右方向の動き(延びや収縮)を許容し、既述の長穴として形成された取付穴23と共に変位抑制部材14の円滑な回転が可能となっている。また、上述の変位抑制部材14の周縁にはその全周にわたって下方に屈曲されたフランジ14dが設けられており、上述の逃げ部25に対応するフランジ14dの角部(図2において×印で示した部分)が、ペダルブラケット6(クラッチペダル9)の後退移動時にクラッチペダル9に当接する当接部Pとなされている。すなわち、変位抑制部材14の前端部14cは曲げられてフランジ14dが形成されており、このフランジ14dにより変位抑制部材14の剛性の向上が図られると共に、クラッチペダル9に当接する当接部Pが形成されている。また、変位抑制部材14は、クラッチペダル9からの力を板厚方向でなく幅方向で受けるので、変位抑制部材14を強靭な部材とすることなく効率よく力を受けることが可能となっている。なお、本実施形態では、変位抑制部材14の当接部Pに対応するクラッチペダル9側の当接部は、図4に示すように、クラッチペダルアーム9aの側方に取付けられたリターンストッパ、すなわち、ペダルの戻り側のストッパ当接用のブラケット26(スイッチの押し部材を兼ねる)となっている。板部材であるクラッチペダルアーム9aの端部でなくブラケット26を変位抑制部材14との当接部として用いるので、変位抑制部材14とクラッチペダル9との当接が確実となる。この場合、滑らかな面同士の当接となるので、変異抑制部材14がクラッチペダルアーム9aの端部に接触(引っ掛かる)することによって、変位抑制部材14の回転が阻害されることはない。
【0018】
かくして、変位抑制部材14は、クラッチペダル9に対して所定の間隔を隔てた後方位置においてクラッチペダル9の左右両側にわたって(跨って)掛け渡された状態で配設されている。なお、通常時においては、変位抑制部材14の当接部Pは、周辺部品に対して機能上必要なクリアランスが確保されるように配置されている。そして、後述する如く、車両前方から車両後方に向かう荷重によってダッシュパネル3が車両後方に後退移動するときに、変位抑制部材14は、ペダルブラケット6の後方移動に伴って溶接ボルト16とナット17との締結点(固定点α)を中心に回転し、回転前後で変位抑制部材14のうちのクラッチペダル9の後方に位置する部分が異なるように構成されており、回転によってクラッチペダル9に当接する当接部Pがクラッチペダル9の後方に移動する。そして、変位抑制部材14がクラッチペダル9に当接してペダルの後退移動が抑制されるように構成されている。
【0019】
次に、上述の如き構成の車両用ペダル変位抑制構造の作用について述べると、次の通りである。まず、自動車に前側から過大な荷重が作用して、車体前部(エンジンルーム)が変形すると、車室側に移動されるエンジン(図示せず)によりダッシュパネル3及びこのダッシュパネル3に取付けられているブレーキブースタ7などのブレーキ部品が車室側に押される。ブレーキペダル8やクラッチペダル9は、ペダルブラケット6に回動可能に軸支されているので、ダッシュパネル3の後退移動(車室内への移動)に伴い、車室内側に移動される。
【0020】
この際、変位抑制部材14が止められているペダルブラケット6とコラムハンガブラケット13(ひいてはステアリングサポートメンバ11)との動きの差によって、変位抑制部材14は溶接ボルト16とナット17との締結点(固定点α)を中心に回転することとなる。すなわち、ペダルブラケット6の変位(移動)に対してコラムハンガブラケット13の変位は少ない或いは遅れるため、図4において矢印Xで示す方向へのペダルブラケット6は相対的に後方へ移動し、この後退移動に伴って、変位抑制部材14は図4において矢印Yで示す方向に回転することとなる。変位抑制部材14の回転によって、クラッチペダル9の後方に位置する変位抑制部材14の突出量が変わる。具体的には、クラッチペダル9の後方となる前端部14cとペダルブラケット6の取付片6bとの間の距離がL1(図3参照)からL2(図4参照)に増大し(L1<L2)、クラッチペダル9の軸支位置の下方位置を取付片6bに対して車両前方側に押すことになる。つまり、変位抑制部材14が前記固定点αを中心に略水平面内(具体的には後方がやや上となる傾斜面)で図4において矢印Yで示す方向に回転し、この回転に伴って、変位抑制部材14のうちでクラッチペダル9の後方に位置する部位が変わる。そして、クラッチペダル9と同様に後退すると考えられるペダルブラケット6に取付けられている変位抑制部材14は、コラムハンガブラケット13との固定点αを回転中心と想定すると、回転に伴ってその中央付近(固定点α,β間)がクラッチペダル9側に移動する。本実施形態では、ペダルブラケット6と変位抑制部材14との固定部から車両左右方向に変位抑制部材14の当接部Pが設定されていて、回転によって、前記当接部Pがクラッチペダル9に近づくこととなる。そして、回転後は、逃げ部25以外の部分がクラッチペダル9の後方に位置することとなる。さらに、変位抑制部材14は斜めに傾けられて取付けられているため、下方へ向けて膨出している逃げ部25に対して上方となる当接部Pは、その上下位置関係からもクラッチペダル9に近づくこととなる。そして、変位抑制部材14の当接部Pは、図4に示すように、クラッチペダル9の回転軸(ペダルブラケットの支持軸)よりも下方においてクラッチペダルアーム9aに固着されたストッパ当接用ブラケット(すなわち、ダッシュパネル3と共に後退してくるクラッチペダル9のリターンストッパ)26に当接し、これによって、当接部Pよりも下方となるクラッチペダル9の踏面が後退移動することが抑止される。
【0021】
このような車両用ペダル変位抑制構造によれば、ダッシュパネル3よりも後方で、前方からの荷重に対して、ダッシュパネル3よりも変形が遅く、かつ、変形量が少ないコラムハンガブラケット13(ひいてはステアリングサポートメンバ11)に回転可能に固定された変位抑制部材14を利用して、クラッチペダル9の後退移動を抑制することができ、従って、ダッシュパネル3と共にペダルブラケット6が車室側に移動された際にクラッチペダル9が車室側へ突出移動されるのを防止することができる。また、本実施形態においては、変位抑制部材14がクラッチペダル9の後方において掛け渡し状態で配置され、その両端が固定されているので、小さな部品でも確実な動作を期待することができ、従って、クラッチペダル9の後退抑制構造を簡単な構成で達成することが可能である。特に、クラッチペダル9が軸支されたペダルブラケット6に回転可能に固定された変位抑制部材14にて、クラッチペダル9を押すものであるので、動作が確実となる。一方、通常時は、変位抑制部材14が結合されるペダルブラケット6の剛性を向上させることができる。
【0022】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、変位抑制部材14を車両前後方向の軸回りで回転させるように構成しているが、車両左右方向の軸回りで変位抑制部材14を回転させるように構成しても良い。すなわち、車両の側方から見て、変位抑制部材14とペダルブラケット6との前側の固定点βと、変位抑制部材14とペダルブラケット6との後側の固定点αとを、互いに上下にずれた位置に配置(詳細には、前側の固定点βを後側の固定点βよりも前方下側に配置)して、ペダルブラケット6の後退移動により車両左右方向の軸(溶接ボルト16)に対して回転するように構成し、通常の操作でクラッチペダル9の揺動量(揺動範囲)が少ない位置に配置された(クラッチペダル9のより近い位置に配置できる)変位抑制部材14の当接部Pを、回転によって下方にその位置を変えることで、クラッチペダル9の後方のより近い位置に移動させたり積極的にペダルを押すようにしても良い。また、後退抑制効果をさらに高めるべく積極的にクラッチペダル9を押したい場合は、回転してクラッチペダル9の後方となる変位抑制部材14の特定部分に突出部を設けても良い。この場合には、通常状態では干渉せず、ダッシュパネル3の後退移動(ペダルブラケット6の後退移動)があった時にクラッチペダル9と当接する変位抑制部材14がクラッチペダル9の後方へ移動することとなるので、通常の使用には支障なく、後退移動時に確実に動作させることができる。また既述の実施形態では、変位抑制部材14の前端部14c(図2及び図3参照)を曲げて直線状のフランジ14dを設けるようにしたが、カムのように後退度合いによってクラッチペダル9の押し量が変わるような形状に形成しても良い。
【0023】
一方、エンジンルームにはブレーキブースタ7やマスタシリンダなどのブレーキ部品があり、前方からの過大な荷重によってこのブレーキ部品が車両後方(車室内側)に押され、車室内側に移動するが、ブレーキブースタ7とブレーキペダル8とは、ブレーキペダル8の操作力を伝達するためにプッシュロッド26で連結されており(図2参照)、ブレーキブースタ7の後退移動に伴って、ブレーキペダル8がこのプッシュロッド26により、車両後方側(乗員側)に回動することも考えられる。既述の実施形態では、クラッチペダル9の後退移動を抑制する構成としたが、ブレーキペダル8の後退移動を抑制するように構成する場合にも本発明を適用することができることは言う迄もない。また、クラッチペダル9とブレーキペダル8の後退移動を同時に抑制する構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ペダル変位抑制構造を備えた自動車の前部を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用ペダル変位抑制構造を示す分解斜視図である。
【図3】コラムハンガブラケット及びペダルブラケットへの変位抑制部材の取付状態を示す、車両の下方から見た図である。
【図4】ダッシュパネルと共にペダルブラケットが後退移動した際の変位抑制部材の回転移動状態を示す、車両の下方から見た図である。
【図5】図5(a)は従来の車両用ペダル変位抑制構造示す側面図、図5(b)は過大な荷重が車両前方より加わった際に第2のリンクが外れた状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 フロントボディ空間
2 車室空間
3 ダッシュパネル
5 ステアリングシャフト
6 ペダルブラケット
8 ブレーキペダル
9 クラッチペダル
11 ステアリングサポートメンバ
12 ステアリングコラム
13 コラムハンガブラケット
14 変位抑制部材(変位抑制用ブラケット)
14a 一端
14b 他端
14c 前端部
14d フランジ
16 溶接ボルト
17,18 ナット
19 取付穴(長穴)
21 溶接ナット
22 ボルト
23 取付穴(長穴)
25 逃げ部
26 ブラケット(リターンストッパ)
α,β 固定点
P 当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントボディ空間と車室空間とを区画するダッシュパネルと、乗員によって足踏み操作されるペダルを軸支するペダルブラケットとを有すると共に、ステアリングコラムが取付けられかつ車両左右方向に延びるように配置されたステアリングサポートメンバを前記ダッシュパネルの後方に配置し、前記ダッシュパネルに前記ペダルブラケットを取付けた車両における車両用ペダル変位抑制構造であって、一端が前記ステアリングサポートメンバに取付けられ、他端が前記ペダルブラケットに取付けられた変位抑制部材を前記ペダルの後方に設け、車両前方から車両後方に向かう荷重によって前記ダッシュパネルが車両後方に後退移動するときに、前記変位抑制部材が前記ペダルに当接して前記ペダルの後退移動を抑制するようにしたことを特徴とする車両用ペダル変位抑制構造。
【請求項2】
前記ステアリングサポートメンバは、フロントピラーに固定され、前記変位抑制部材は、前記ステアリングサポートメンバに前記ステアリングコラムを取付けるための取付ブラケットであるコラムハンガブラケットに固定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ペダル変位抑制構造。
【請求項3】
前記変位抑制部材は、前記ペダルブラケットの後方移動に伴って回転し、回転前後で前記変位抑制部材のうちの前記ペダルの後方に位置する部分が異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ペダル変位抑制構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−76571(P2007−76571A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269430(P2005−269430)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】