説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】電気式差動部と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、変速部の変速に際してドライバビリティを向上する。
【解決手段】エンジン回転速度N(エンジン動作点)を目標値とするように第1電動機M1のトルク制御を実行するエンジン運転状態であるエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においては、自動変速部20の入力トルクの変動を抑制するように第2電動機M2のトルク制御が実行されることで、第1電動機M1のトルク制御を実行しないエンジン運転状態であるエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して自動変速部20のコーストダウンシフトの進行が遅くなる可能性があることに対して、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧が増加させられるので、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を確保することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動が可能な差動機構を有する電気式差動部と動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、変速部の変速過程における係合圧制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動機構に連結された差動用電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、電気式差動部から駆動輪への動力伝達経路に動力伝達可能に連結された走行用電動機と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備えた車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用動力伝達装置がそれである。この車両用動力伝達装置においては、遊星歯車装置とその遊星歯車装置のサンギヤに連結された第1電動機(差動用電動機)とリングギヤに連結された第2電動機(走行用電動機)とを有する電気式差動部と、その電気式差動部の出力側(リングギヤ)に連結されてクラッチツゥクラッチ制御にて変速が実行される有段式自動変速部とを備え、第1電動機の運転状態を制御することにより遊星歯車装置のキャリアから入力されるエンジンからの入力回転速度と出力部材としてのリングギヤの出力回転速度との差動状態が制御されるように構成されている。そして、このように構成された車両用動力伝達装置において、コースト走行時(アクセルオフの惰性走行時)に車速が基準車速(例えばコーストダウン点)以下となると、有段式自動変速部のコーストダウンを実行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−290582号公報
【特許文献2】特開2008−155831号公報
【特許文献3】特開2007−112350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示されるような車両用動力伝達装置では、エンジンの運転状態(以下、エンジン運転状態という)が種々切り替えられる。このエンジン運転状態としては、例えばアイドル回転速度以上の自律回転可能なエンジン回転速度を維持させるだけのエンジントルクを出力する自律運転、フューエルカット時に差動用電動機によりエンジン回転速度が維持されているモータリング運転、エンジントルクの反力が差動用電動機で受け持たれて電気式差動部の出力側にエンジン直達トルクを出力する負荷運転、走行用電動機を用いて走行するモータ走行において回転停止する停止運転がある。また、上記自律運転時や停止運転時では差動用電動機は無負荷状態とされるが、上記モータリング運転時や負荷運転時では例えばエンジン回転速度(エンジン動作点)を目標値に維持するように差動用電動機のトルク制御がフィードバック制御により実行される。そのため、上述したエンジン運転状態の違いによってすなわち差動用電動機トルクのフィードバック制御が実施されるかどうかの違いによって変速時の変速部入力トルクの挙動(変化の仕方)が異なることから、各々のエンジン運転状態にて変速部の変速時に同じような変速制御を実行すると、変速部入力回転速度の変化速度すなわち変速部の変速の進行具合が変わってしまいドライバビリティが変わってしまう可能性がある。
【0005】
図13は、エンジン運転状態の違いによって変速部のコーストダウン変速の進行具合が変わってしまう従来のコーストダウン変速制御の一例を説明する図である。図13において、実線は差動用電動機トルクのフィードバック制御が実施されるモータリング運転時や負荷運転時の場合であり、破線は差動用電動機トルクのフィードバック制御が実施されない自律運転時や停止運転時の場合である。t1時点は、変速部のコーストダウンシフトが判断されてクラッチツゥクラッチ制御によるコーストダウンシフトの為の変速油圧指令が出力されたことを示している。そして、t2時点に示すようにトルク相が開始された後、t3時点に示すようにイナーシャ相が開始される。イナーシャ相が開始されると、電気式差動部の各回転要素における回転速度の相対関係から、変速部入力回転速度(走行用電動機回転速度)の上昇に伴いエンジン回転速度が上昇させられる。モータリング運転時や負荷運転時(実線)の場合にはエンジン回転速度が目標値となるようにすなわちエンジン回転速度変動が抑制されるように差動用電動機トルクのフィードバック制御が実施される(矢印A)。従って、モータリング運転時や負荷運転時(実線)におけるイナーシャ相開始後の上記エンジン回転速度の変化は、自律運転時や停止運転時(破線)の場合に比較して抑制される。この際、エンジン回転速度変動を抑制する為に差動用電動機トルクが低下させられることにより(すなわち負トルクが発生させられることにより)、変速部の入力側ではエンジンの直達トルクが上昇させられる(すなわち正トルクが発生させられる)。その為、モータリング運転時や負荷運転時(実線)の場合には、自律運転時や停止運転時(破線)と比べて変速部入力トルクを変動させないように走行用電動機トルクが低下させられる(矢印B)。ここで、t3時点乃至t4時点(t4’時点)のイナーシャ相においては、差動用電動機回転速度の低下に伴う差動用電動機イナーシャトルクにより変速部入力トルクが低下させられる。この差動用電動機イナーシャトルクは、自律運転時や停止運転時(破線)に比較してエンジン回転速度の変化を抑制する為に差動用電動機回転速度の低下量が大きくなるモータリング運転時や負荷運転時(実線)の方が大きくなる(矢印C)。その為、モータリング運転時や負荷運転時(実線)では、自律運転時や停止運転時(破線)よりも実際の変速部入力トルクが低くなり、変速部入力回転速度の上昇が停滞して変速部の変速の進行が遅くなる(矢印D)。つまり、差動用電動機トルクの低下分がそのまま直達トルクとして変速部の入力側に発生するのではなく、差動用電動機イナーシャトルクによりその一部が吸収(相殺)され、その残部が変速部の入力側に発生する。その為、差動用電動機イナーシャトルクが大きなモータリング運転時や負荷運転時(実線)では、結果的に走行用電動機トルクを低下させ過ぎることになり、自律運転時や停止運転時(破線)よりも変速部の変速の進行が遅くなる。
【0006】
このような課題に対して、モータリング運転時や負荷運転時にも、例えば自律運転時や停止運転時と同様に差動用電動機トルクのフィードバック制御を実施しない態様とすることが考えられる。しかし、その場合には、変速部入力トルクの挙動は自律運転時や停止運転時と同様となるものの、エンジン動作点が目標値に対して乖離し易くなり、NV(騒音・振動)が悪化する可能性がある。尚、上述したような、変速部の変速の進行具合が変わってしまいドライバビリティが悪化する可能性があるという課題は未公知である。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電気式差動部と変速部とを備える車両用動力伝達装置において、変速部の変速に際して、ドライバビリティを向上することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記電気式差動部から駆動輪への動力伝達経路に動力伝達可能に連結された走行用電動機と、前記電気式差動部の出力側回転部材に直列的に連結されて前記電気式差動部から前記駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記エンジンの運転状態に応じた前記差動用電動機のトルク制御を実行し、前記変速部の変速時には前記差動用電動機のトルク制御の実行状況に応じてその変速部の入力トルクの変動を抑制するように前記走行用電動機のトルク制御を実行するものであり、(c) 前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態においては、前記差動用電動機のトルク制御を実行しない前記エンジンの運転状態と比較して、前記変速部の変速過程における係合側係合圧を増加させることにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態においては、前記差動用電動機のトルク制御を実行しない前記エンジンの運転状態と比較して、前記変速部の変速過程における係合側係合圧が増加させられるので、前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態において変速部の変速の進行が促進される。つまり、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においては、変速部の入力トルクの変動を抑制するように走行用電動機のトルク制御が実行されることで、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と比較して変速部の変速の進行が遅くなる可能性があることに対して、変速部の変速過程における係合側係合圧が増加させられるので、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を確保することが可能になる。よって、変速部の変速に際して、ドライバビリティを向上することができる。これは、エンジンの運転状態と変速部の入力トルク挙動の変化の仕方とに因果関係があることを利用して、すなわちエンジンの運転状態と発生する現象が1対1に結びついていることを利用して同等の変速進行(変速応答性)を確保するという新しい概念である。
【0010】
ここで、好適には、前記エンジンの運転状態は、自律回転可能なエンジン回転速度を維持する自律運転、前記差動用電動機によりエンジン回転速度が維持されるモータリング運転、エンジントルクの反力が前記差動用電動機により受け持たれる負荷運転、及び前記走行用電動機を用いて走行するモータ走行状態において回転停止する停止運転の何れかの運転状態であり、前記自律運転時及び前記停止運転時には前記差動用電動機を無負荷状態とし、前記モータリング運転時及び負荷運転時にはエンジン回転速度を目標値とするように前記差動用電動機のトルク制御をフィードバック制御により実行するものであり、前記モータリング運転時及び負荷運転時には、前記自律運転時及び前記停止運転時と比較して、前記変速部の変速過程における係合側係合圧を増加させるものである。このようにすれば、エンジン回転速度を目標値とするように前記差動用電動機のトルク制御がフィードバック制御により実行される前記モータリング運転時及び負荷運転時においては、変速部の入力トルクの変動を抑制するように走行用電動機のトルク制御が実行されることで、前記自律運転時及び前記停止運転時と比較して変速部の変速の進行が遅くなる可能性があることに対して、前記変速部の変速過程における係合側係合圧が増加させられるので、前記自律運転時及び前記停止運転時と同等の変速進行を確保することが可能になる。
【0011】
また、好適には、前記変速部の変速過程における係合側係合圧の変化率を増加させることでその係合側係合圧を増加させるものである。このようにすれば、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においてそのトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を適切に確保することができる。
【0012】
また、好適には、前記差動用電動機のトルク制御時の制御量が小さい程、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくする。このようにすれば、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においてそのトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。つまり、差動用電動機のトルク制御時の制御量が小さい程、変速部の入力トルクの変動を抑制する際の走行用電動機のトルク制御時の制御量も小さくされて、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と比較して変速部の変速の進行遅れも小さくされることから、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることで、上記同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保するものである。
【0013】
また、好適には、蓄電装置における充放電可能量が小さい程、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくする。このようにすれば、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においてそのトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。つまり、蓄電装置における充放電可能量が小さい程、差動用電動機のトルク制御時の制御量が制限される為に、変速部の入力トルクの変動を抑制する際の走行用電動機のトルク制御時の制御量も制限されて、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と比較して変速部の変速の進行遅れも小さくされることから、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることで、上記同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保するものである。
【0014】
また、好適には、エンジン水温が低い程、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくする。このようにすれば、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においてそのトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。つまり、エンジン水温が低い程、エンジンフリクションが増大し、変速部の変速時のエンジン回転速度変動が小さくなって差動用電動機のトルク制御時の制御量が小さくされる為に、変速部の入力トルクの変動を抑制する際の走行用電動機のトルク制御時の制御量も小さくされて、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と比較して変速部の変速の進行遅れも小さくされることから、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることで、上記同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保するものである。
【0015】
また、好適には、前記変速部は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによるクラッチツゥクラッチ変速が油圧制御により実行されて複数のギヤ段が選択的に成立させられる有段式自動変速機であり、前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態においては、前記差動用電動機のトルク制御を実行しない前記エンジンの運転状態と比較して、前記変速部のコーストダウン変速過程における前記係合側係合装置の係合油圧を増加させるものである。このようにすれば、前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態において変速部(有段式自動変速機)のクラッチツゥクラッチによるコーストダウン変速の進行が促進される。つまり、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においては、変速部の入力トルクの変動を抑制するように走行用電動機のトルク制御が実行されることで、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と比較して変速部のクラッチツゥクラッチによるコーストダウン変速の進行が遅くなる可能性があることに対して、変速部のコーストダウン変速過程における係合側係合圧が増加させられるので、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を確保することが可能になる。よって、変速部のクラッチツゥクラッチによるコーストダウン変速に際して、ドライバビリティを向上することができる。
【0016】
また、好適には、前記変速部の作動油温が低い程、前記係合油圧を増加させる際の増加量を小さくする。このようにすれば、差動用電動機のトルク制御を実行するエンジンの運転状態においてそのトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。つまり、変速部の作動油温が低い程、変速部の変速時の変速部入力回転速度の上昇が遅くなり、エンジン回転速度変動が小さくなって差動用電動機のトルク制御時の制御量が小さくされる為に、変速部の入力トルクの変動を抑制する際の走行用電動機のトルク制御時の制御量も小さくされて、差動用電動機のトルク制御を実行しないエンジンの運転状態と比較して変速部の変速の進行遅れも小さくされることから、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることで、上記同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保するものである。
【0017】
また、好適には、前記変速部は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源(エンジン)により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
【0018】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
【0019】
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0020】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。さらに、補助的な走行用動力源として、電動機等がこのエンジンに加えて用いられても良い。
【0021】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0022】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】油圧制御回路のうちクラッチC及びブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブに関する回路図である。
【図6】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図7】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図1の車両用動力伝達装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図9】図1のエンジンの最適燃費率曲線の一例を示す図である。
【図10】第1電動機のトルク制御時の制御量が小さい程、蓄電装置における充放電可能量が小さい程、エンジン水温が低い程、或いは自動変速部の作動油温が低い程、係合側係合装置の係合油圧の増加量を小さくする設定するように予め実験的に求められて記憶された関係を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち自動変速部の変速に際してドライバビリティを向上する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図11の制御作動に対応するタイムチャートであり、3→2コーストダウンシフトが行われる場合の一例である。
【図13】エンジン運転状態の違いによって変速部の3→2コーストダウン変速の進行具合が変わってしまう従来のコーストダウン変速制御の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0026】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。尚、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0027】
差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている第2電動機M2とを備える電気式差動部である。尚、伝達部材18は差動部11の出力側回転部材であるが自動変速部20の入力側回転部材にも相当するものである。
【0028】
第1電動機M1及び第2電動機M2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図7参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図7参照)に蓄積する等の作動を行う。
【0029】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
【0030】
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.416」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。尚、差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0031】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0032】
自動変速部20(変速部)は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26及びシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.488」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.455」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0033】
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。更に第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
【0034】
以上のように構成された自動変速部20では、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより例えばクラッチツゥクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合及び一方向クラッチFにより変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
【0035】
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段及び後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0036】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0037】
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0038】
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γATとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0039】
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
【0040】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XG(X3)が伝達部材18の回転速度N18すなわち差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
【0041】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。更に、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5(第5要素)に対応する相互に連結された第1リングギヤR1及び第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0042】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0043】
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度Nが上昇或いは下降させられる。また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度Nと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度Nよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
【0044】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
【0045】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
【0046】
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0047】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ72により検出された出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)にブレーキトルク(制動力)を付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダルの操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、触媒温度を表す信号、アクセル開度センサ78により検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバ等からなるM1回転速度センサ74により検出された第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバ等からなるM2回転速度センサ76により検出された第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図7参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号、蓄電装置(バッテリ)56のバッテリ温度THBATを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0048】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力P(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力P」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、ホイールブレーキ装置を作動させるためのホイールブレーキ作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図5、図7参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧Pを調圧するための信号、そのライン油圧Pが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0049】
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、C3、及びブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AC3、AB1、AB2の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AC3、AB1、AB2には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧(係合油圧)PC1、PC2、PC3、PB1、PB2に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しない電動オイルポンプやエンジン8により回転駆動される機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧として例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0050】
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AC3、AB1、AB2の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2の係合圧PC1、PC2、PC3、PB1、PB2が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とがすなわち解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とが同時に制御される所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0051】
図6は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0052】
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0053】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0054】
上記「P」乃至「M」ポジション(レンジ)に示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする動力伝達経路の動力伝達遮断状態への切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0055】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBのいずれもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされると共に自動変速部20の出力軸22がロックされ、「N」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBの何れもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされ、「R」、「D」、及び「M」ポジションのいずれかへ手動操作されることで各ポジションに対応した何れかのギヤ段が成立させられて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態とされる。
【0056】
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御部すなわち有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶部すなわち記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
【0057】
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツゥクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0058】
ハイブリッド制御部すなわちハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0059】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
【0060】
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
【0061】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NとエンジントルクTとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶手段84に予め記憶された例えば図9の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように第1電動機M1の出力トルク(以下、「第1電動機トルク」と表す)TM1をフィードバック制御により変化させて差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0062】
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0063】
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度Nを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
【0064】
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度Nを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度Nを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力Pを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
【0066】
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0067】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図8の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図8に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図8中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
【0068】
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図8の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図8から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクT域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0069】
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。
【0070】
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0071】
ハイブリッド制御手段86は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御部すなわちエンジン始動停止制御手段88を備えている。このエンジン始動停止制御手段88は、ハイブリッド制御手段86により例えば図8の駆動力源マップから車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0072】
例えば、エンジン始動停止制御手段88は、図8の実線Bの点a→点bに示すようにアクセルペダルが踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり、ハイブリッド制御手段86により車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化したと判断されてモータ走行からエンジン走行への切り換えが判断された場合にはすなわちハイブリッド制御手段86によりエンジン始動が判断された場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度Nを完爆可能な所定回転速度N’例えばアイドル回転速度以上の自律回転可能な所定の自律回転速度NEIDL以上に引き上げるエンジン回転駆動制御を行うと共に、所定回転速度N’以上にて燃料噴射装置66により燃料を供給(噴射)し点火装置68により点火してエンジントルクTを発生させるエンジントルク発生制御を行うことによってエンジン8を始動し、モーター走行からエンジン走行へ切り換える。また、エンジン始動停止制御手段88は、図8の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダルが戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置66により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段86によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。
【0073】
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やブレーキペダルの操作によるホイールブレーキ作動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
【0075】
ここで、前述したハイブリッド制御手段86により実行される、エンジン動作点を目標値とするように例えば最適燃費率曲線(図8参照)に沿ってエンジン8が作動させられるように第1電動機トルクTM1を制御するフィードバック制御について以下に説明する。
【0076】
エンジン走行中において、ハイブリッド制御手段86は例えばエンジン8の最適燃費率曲線にエンジン動作点が沿ってエンジン8が作動するように動力分配機構16の変速比γ0を制御するが、そのためにハイブリッド制御手段86は目標エンジン回転速度決定部すなわち目標エンジン回転決定手段90を備えている。この目標エンジン回転決定手段90は、例えば最適燃費率曲線、アクセル開度Acc、車速V、及び自動変速部20の変速比γATなどに基づき、最適燃費率曲線にエンジン動作点が沿わされつつ、アクセル開度Accに応じた要求駆動力を充足するために必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、エンジン回転速度Nの目標値である目標エンジン回転速度Nを予め決定する。そして、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転決定手段90により予め定められた目標エンジン回転速度NになるようにエンジントルクTに対抗する反力トルクである第1電動機トルクTM1を制御するフィードバック制御を実行する。このようにして、ハイブリッド制御手段86によってエンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nになるように第1電動機トルクTM1のフィードバック制御が実行されることにより、最適燃費率曲線にエンジン動作点が沿うようにエンジン8が作動させられる。
【0077】
第1電動機トルクTM1は上記のようにエンジン回転速度Nを目標エンジン回転速度Nに収束させる目的のほかエンジントルクTを駆動輪34に伝達するためにも必要とされる反力トルクであるので、第1電動機トルクTM1は、エンジントルクTを駆動輪34に伝達するための駆動用トルクと、エンジン回転速度Nを目標エンジン回転速度Nに収束させるために、下記式(1)の制御式に基づくフィードバック制御により発生させられ変化させられるフィードバックトルクTFBM1(以下、「第1電動機フィードバックトルクTFBM1」と表す)とに分けて考えることができる。すなわち、第1電動機トルクTM1は上記駆動用トルクと、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nと一致しているときには零になる第1電動機フィードバックトルクTFBM1との和で表されると考えることができる。従って、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機フィードバックトルクTFBM1を含む第1電動機トルクTM1を下記式(1)に基づいて決定することにより、エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nになるように第1電動機トルクTM1を制御する前記フィードバック制御を実行すると言える。尚、下記式(1)の制御式で右辺第1項は比例項であり右辺第2項は積分項である。下記式(1)の「KP」は比例ゲイン、「KI」は積分ゲインをそれぞれ示しており、下記式(1)とその比例ゲインKPと積分ゲインKIとは第1電動機フィードバックトルクTFBM1の応答性と安定性とが両立するように予め実験的に設定されたものである。
TFBM1=KP×(N−N)+KI×∫(N−N)dt ・・・(1)
【0078】
また、前記式(1)の制御式に基づく第1電動機トルクTM1のフィードバック制御は自動変速部20の非変速中はもちろんのこと、変速中にも実行される。自動変速部20が変速させられると自動変速部20の入力側回転速度すなわち伝達部材回転速度N18(=第2電動機回転速度NM2)が変化させられることから、変速時以外の定常時に比べて実エンジン回転速度Nが目標エンジン回転速度Nに対して一時的に大きく乖離し易くなり、上記式(1)に基づくフィードバック制御により第1電動機トルクTM1(第1電動機フィードバックトルクTFBM1)が一層増大させられる。例えば、自動変速部20のダウンシフト中では第1電動機トルクTM1が低下させられる(例えば図13参照)。そうすると、差動部11の出力側(すなわち伝達部材18)へ伝達されるトルクも一層増大させられて変速中の自動変速部20の入力トルク(変速部入力トルク)も増大させられるので、上記式(1)に基づくフィードバック制御を実行しない場合と比較して変速部入力トルクがより大きく変動させられて変速ショックが増大する可能性がある。
【0079】
そこで、ハイブリッド制御手段86は、自動変速部20の変速時には第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動を抑制するように第2電動機M2のトルク制御を実行する変速部入力トルク変動抑制部すなわち変速部入力トルク変動抑制手段92を更に備える。より具体的には、変速部入力トルク変動抑制手段92は、例えば自動変速部20のダウンシフト中では、第1電動機トルクTM1の低下に伴って増大させられる変速部入力トルクの増大分を相殺するように第2電動機M1の出力トルク(以下、「第2電動機トルク」と表す)TM2を低下させて、第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動を抑制する
【0080】
ところで、本実施例の動力伝達装置10では、エンジン運転状態が種々切り替えられる。このエンジン運転状態としては、例えばエンジン自律運転、エンジンモータリング運転、エンジン負荷運転、及びエンジン停止運転がある。上記エンジン自律運転は、例えばアイドリング状態すなわちエンジン自身をアイドル回転速度以上の自律回転可能な所定の自律回転速度NEIDLに維持するだけのエンジントルクTを出力する状態である。また、上記エンジンモータリング運転は、例えばフューエルカットによるエンジン8の停止時に第1電動機M1によりエンジン8が回転駆動されてエンジン回転速度Nが維持されている状態である。また、上記エンジン負荷運転は、エンジントルクTの反力を第1電動機M1により受け持ち差動部11の出力側(すなわち伝達部材18)にエンジン直達トルクを出力する状態である。尚、アクセルオフのコースト状態においても、例えば低車速の被駆動・駆動領域付近(例えばクリープトルク出力時)や、第1電動機M1を用いた蓄電装置56への充電要求時では、このエンジン負荷運転となる。また、上記エンジン停止運転は、第2電動機M2によるモータ走行時にエンジン回転速度Nを略零としてエンジン8を回転停止する状態である。
【0081】
上述した種々のエンジン運転状態のうち、上記エンジン自律運転時やエンジン停止運転時では、第1電動機M1は無負荷状態とされる為、上述したような第1電動機M1のトルク制御は実行されない。一方で、上記エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時では、エンジン回転速度N(エンジン動作点)を目標値に維持するように上述したような第1電動機M1のトルク制御がフィードバック制御により実行される。そして、この第1電動機M1のトルク制御を実行するエンジン運転状態例えば上記エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においては、自動変速部20の変速時にこの第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動を抑制するように第2電動機M2のトルク制御が実行される。このように、本実施例では、エンジン運転状態に応じた第1電動機M1のトルク制御を実行し、自動変速部20の変速時には第1電動機M1のトルク制御の実行状況に応じて変速部入力トルクの変動を抑制するように第2電動機M2のトルク制御を実行する。
【0082】
つまり、変速部入力トルク変動抑制手段92によって自動変速部20の変速時に実行される第2電動機M2のトルク制御は、上記エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時であっても、第1電動機M1のトルク制御を実行しないエンジン運転状態例えば上記エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同様の変速部入力トルク挙動となるように、自動変速部20の変速時に第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動を抑制するものであるとも言える。しかしながら、自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相においては、第1電動機回転速度NM1の回転変化に伴う第1電動機M1のイナーシャトルクが発生する。変速中のエンジン回転速度Nの変化を抑制する場合としない場合とではすなわち第1電動機M1のトルク制御を実行する場合としない場合とでは、第1電動機回転速度NM1の回転変化が異なることから、上記第1電動機M1のイナーシャトルクも異なってくる。その為、実際には第1電動機M1のトルク制御が実行されているかどうかの違いによってすなわちエンジン運転状態の違いによって変速部入力トルク挙動が変わってしまうことから、各々のエンジン運転状態にて自動変速部20の変速時に同様のクラッチツゥクラッチ変速制御を実行すると、自動変速部20の入力回転速度の変化速度すなわち自動変速部20の変速の進行具合が変わってしまいドライバビリティが変わってしまう可能性がある。例えば、自動変速部20のクラッチツゥクラッチ変速によるコーストダウンシフト時では、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時の第1電動機M1のイナーシャトルクは、エンジン回転速度Nの回転変化が抑制される為に第1電動機回転速度NM1の低下量が大きくされることからエンジン自律運転時やエンジン停止運転時に比較して大きくなる。その為、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時では、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時よりも実際の変速部入力トルクが低くなり、各々のエンジン運転状態にて同様のクラッチツゥクラッチ変速油圧制御を実行すると、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時に比較して自動変速部20の入力回転速度の上昇が停滞して自動変速部20の変速の進行が遅くなる可能性がある(例えば図13参照)。
【0083】
そこで、本実施例では、上記エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時と、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時とで、同等の変速進行(変速応答性)を確保する為に、エンジン運転状態に基づいてクラッチツゥクラッチ変速油圧制御の態様を変更する。つまり、上記エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においては、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を確保する為に、自動変速部20の変速過程における係合側係合圧を増加させる。例えば、上記エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においては、自動変速部20のクラッチツゥクラッチ変速によるコーストダウンシフト時に、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して、クラッチツゥクラッチ変速油圧制御における係合側係合装置の係合油圧を増加させる。この係合側係合装置の係合油圧の増加は、例えば係合側係合装置の係合油圧の変化率(すなわち係合側油圧指令値のスイープ率)を増加させることで為される。
【0084】
より具体的には、図7に戻り、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段94は、例えばシフトポジションPSHに基づいて前進走行レンジである「D」レンジで走行中であるか否かを判定する。また、走行状態判定手段94は、例えば有段変速制御手段82により自動変速部20のダウンシフトが判断されてその判断された自動変速部20のダウンシフトを実行する為の油圧指令値が出力されたか否かを判定する。また、走行状態判定手段94は、有段変速制御手段82により判断された自動変速部20のダウンシフトがコーストダウンシフトであるか否かを、例えばアクセル開度Acc(或いはスロットル弁開度θTHなど)が例えば予め実験的に求められて記憶された零と判断する為のアクセルオフ判定値以下であるか否かに基づいて判定する。つまり、走行状態判定手段94は、自動変速部20のコーストダウンシフトの為の油圧指令値が出力されたか否かを判定するものである。尚、有段変速制御手段82による自動変速部20のダウンシフトの判断と、そのダウンシフトの為の油圧指令値の出力とは1対1の関係であることから、走行状態判定手段94は、その油圧指令値が出力されたか否かを判定することに替えて、例えば有段変速制御手段82により自動変速部20のダウンシフトが判断されたか否かを判定しても良い。
【0085】
エンジン運転状態判定部すなわちエンジン運転状態判定手段96は、例えば第1電動機M1によるエンジン動作点のフィードバック制御中であるエンジン運転状態であるか否かを判定する。すなわち、エンジン運転状態判定手段96は、ハイブリッド制御手段86による上述した第1電動機M1のトルク制御(すなわち第1電動機トルクTM1のフィードバック制御)が実行されているエンジン運転状態例えばエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時であるか否かを判定する。
【0086】
係合側油圧増加制御部すなわち係合側油圧増加制御手段98は、例えば走行状態判定手段94によりコーストダウンシフトの為の油圧指令値が出力されたと判定され、且つエンジン運転状態判定手段96により第1電動機M1によるエンジン動作点のフィードバック制御中であるエンジン運転状態であると判定された場合には、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時における自動変速部20のコーストダウンシフトの変速進行を促進する為に、すなわちエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時における自動変速部20のコーストダウンシフトの変速進行がエンジン自律運転時やエンジン停止運転時に比較して停滞することを抑制する為に、クラッチツゥクラッチ変速における係合側係合装置の係合油圧をエンジン自律運転時やエンジン停止運転時よりも増加させる。例えば、係合側油圧増加制御手段98は、クラッチツゥクラッチ変速によるコーストダウンシフトの為の係合側油圧指令値のスイープ率(変化率)をエンジン自律運転時やエンジン停止運転時よりも増加させる指令を有段変速制御手段82へ出力する。そして、有段変速制御手段82は、係合側油圧増加制御手段98による指令に従って、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時よりも高い係合側油圧指令値を油圧制御回路70へ出力する。
【0087】
エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時にクラッチツゥクラッチ変速における係合側係合装置の係合油圧をエンジン自律運転時やエンジン停止運転時よりも増加させる際の増加量すなわち係合側油圧指令値のスイープ率(変化率)の増大分について、以下に検討する。
【0088】
例えば、ハイブリッド制御手段86による上述した第1電動機M1のトルク制御時の制御量例えば前記式(1)の制御式に基づく第1電動機フィードバックトルクTFBM1の変化分が小さい程、自動変速部20の変速時には第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動も小さくされる。従って、その変速部入力トルクの変動を抑制する際の第2電動機M2のトルク制御時の制御量も小さくされて、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して自動変速部20のダウンシフトの進行遅れも小さくされる。このことから、第1電動機M1のトルク制御時の制御量が小さい程、係合側係合装置の係合油圧を増加させる際の増加量を小さくしても良い。つまり、有段変速制御手段82或いは係合側油圧増加制御手段98は、第1電動機M1のトルク制御時の制御量が小さい程、図10に示すように係合側係合装置の係合油圧の増加量を小さくする。これにより、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0089】
また、例えば蓄電装置56における充放電可能量が小さい程、ハイブリッド制御手段86による上述した第1電動機M1のトルク制御時の制御量が制限される為に、自動変速部20の変速時には第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動も制限される。従って、その変速部入力トルクの変動を抑制する際の第2電動機M2のトルク制御時の制御量も制限されて、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して自動変速部20のダウンシフトの進行遅れも小さくされる。このことから、蓄電装置56における充放電可能量が小さい程、係合側係合装置の係合油圧を増加させる際の増加量を小さくしても良い。つまり、有段変速制御手段82或いは係合側油圧増加制御手段98は、蓄電装置56における充放電可能量が小さい程、図10に示すように係合側係合装置の係合油圧の増加量を小さくする。これにより、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。尚、蓄電装置56における充放電可能量は、例えば有段変速制御手段82或いは係合側油圧増加制御手段98により蓄電装置56の充電容量SOCやバッテリ温度THBATなどに基づいて算出される。具体的には、例えば充電容量SOCが高容量である程、第1電動機M1の発電による電気エネルギを蓄える余裕分が少なくなる為に充電可能量が小さくされる。また、例えば充電容量SOCが低容量である程、第1電動機M1を駆動する為に供給する電気エネルギが少なくなる為に放電可能量が小さくされる。また、例えばバッテリ温度THBATが低温になる程、蓄電装置56における充放電可能量が小さくされる。
【0090】
また、例えばエンジン水温TEMPが低い程、エンジンフリクションが増大し、自動変速部20の変速時のエンジン回転速度Nの変動が小さくなってハイブリッド制御手段86による上述した第1電動機M1のトルク制御時の制御量が小さくされる為に、自動変速部20の変速時には第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動も小さくされる。従って、その変速部入力トルクの変動を抑制する際の第2電動機M2のトルク制御時の制御量も小さくされて、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して自動変速部20のダウンシフトの進行遅れも小さくされる。このことから、エンジン水温TEMPが低い程、係合側係合装置の係合油圧を増加させる際の増加量を小さくしても良い。つまり、有段変速制御手段82或いは係合側油圧増加制御手段98は、エンジン水温TEMPが低い程、図10に示すように係合側係合装置の係合油圧の増加量を小さくする。これにより、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0091】
また、例えば自動変速部20の作動油温TOILが低い程、自動変速部20の変速時の自動変速部20の入力回転速度の上昇が遅くなり、エンジン回転速度Nの変動が小さくなってハイブリッド制御手段86による上述した第1電動機M1のトルク制御時の制御量が小さくされる為に、自動変速部20の変速時には第1電動機トルクTM1のフィードバック制御の実行に伴う変速部入力トルクの変動も小さくされる。従って、その変速部入力トルクの変動を抑制する際の第2電動機M2のトルク制御時の制御量も小さくされて、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して自動変速部20のダウンシフトの進行遅れも小さくされる。このことから、自動変速部20の作動油温TOILが低い程、係合側係合装置の係合油圧を増加させる際の増加量を小さくしても良い。つまり、有段変速制御手段82或いは係合側油圧増加制御手段98は、自動変速部20の作動油温TOILが低い程、図10に示すように係合側係合装置の係合油圧の増加量を小さくする。これにより、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0092】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち自動変速部20の変速に際してドライバビリティを向上する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図12は、図11の制御作動に対応するタイムチャートであり、3→2コーストダウンシフトが行われる場合の一例である。
【0093】
図11において、先ず、走行状態判定手段94に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、シフトポジションPSHに基づいて前進走行レンジである「D」レンジで走行中であるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は同じく走行状態判定手段94に対応するS20において、自動変速部20のダウンシフトが判断されてその判断された自動変速部20のダウンシフトを実行する為の油圧指令値が出力されたか否かが判定される。また、その判断された自動変速部20のダウンシフトがコーストダウンシフトであるか否かが、例えばアクセル開度Accがアクセルオフ判定値以下であるか否かに基づいて判定される。つまり、このS20では自動変速部20のコーストダウンシフトの為の油圧指令値が出力されたか否かが判定される。上記S20の判断が肯定される場合はエンジン運転状態判定手段96に対応するS30において、例えば第1電動機M1によるエンジン動作点のフィードバック制御中であるエンジン運転状態であるか否かが判定される。すなわち、上述した第1電動機M1のトルク制御(すなわち第1電動機トルクTM1のフィードバック制御)が実行されているエンジン運転状態例えばエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時であるか否かが判定される。自動変速部20のコーストダウンシフト時のエンジン負荷運転としては、例えば低車速でのエンジン負荷運転となるクリープトルク出力時などが想定される。上記S30の判断が肯定される場合は係合側油圧増加制御手段98に対応するS40において、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時における自動変速部20のコーストダウンシフトの変速進行を促進する為に、すなわちエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時における自動変速部20のコーストダウンシフトの変速進行がエンジン自律運転時やエンジン停止運転時に比較して停滞することを抑制する為に、クラッチツゥクラッチ変速における係合側係合装置の係合油圧がエンジン自律運転時やエンジン停止運転時よりも増加させられて、自動変速部20のコーストダウンシフトが実行される。上記S30の判断が否定される場合は有段変速制御手段82に対応するS50において、クラッチツゥクラッチ変速における係合側係合装置の係合油圧が増加されることなく、通常のクラッチツゥクラッチ変速油圧制御によって自動変速部20のコーストダウンシフトが実行される。また、上記S10の判断が否定されるか或いは上記S20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるか、或いはS60において例えば自動変速部20のコーストダウンシフト以外のその他の制御が実行される。
【0094】
図12において、実線は第1電動機トルクTM1のフィードバック制御が実行されるエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時の場合であり、破線は第1電動機トルクTM1のフィードバック制御が実施されないエンジン自律運転時やエンジン停止運転時の場合である。t1時点は、自動変速部20のダウンシフトが判断されてクラッチツゥクラッチ制御によるコーストダウンシフトの為の変速油圧指令が出力されたことを示している。そして、t2時点に示すようにトルク相が開始された後、t3時点に示すようにイナーシャ相が開始される。イナーシャ相が開始されると、自動変速部20の入力回転速度(伝達部材回転速度N18,第2電動機回転速度NM2)の上昇に伴いエンジン回転速度Nが上昇させられる。エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時(実線)の場合にはエンジン回転速度Nが目標値となるように第1電動機トルクTM1のフィードバック制御が実施される。従って、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時(実線)におけるイナーシャ相開始後のエンジン回転速度Nの変化は、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時(破線)の場合に比較して抑制される。この際、エンジン回転速度Nの変動を抑制する為に第1電動機トルクTM1が低下させられることにより(すなわち負トルクが発生させられることにより)、自動変速部20の入力側ではエンジン8の直達トルクが上昇させられる(すなわち正トルクが発生させられる)。その為、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時(実線)の場合には、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時(破線)と比べて変速部入力トルクを変動させないように第2電動機トルクTM2が低下させられる。この際、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時(実線)においては、自動変速部20のコーストダウンシフトの変速進行が促進される為に、すなわち自動変速部20のコーストダウンシフトの変速進行がエンジン自律運転時やエンジン停止運転時(破線)に比較して停滞することが抑制される為に、矢印Aに示すように、クラッチツゥクラッチ変速によるコーストダウンシフトの為の係合側油圧指令値のスイープ率(変化率)をエンジン自律運転時やエンジン停止運転時(破線)よりも増加させる指令が出力されて、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時(破線)よりも高い係合側油圧指令値が油圧制御回路70へ出力される。これにより、矢印Bに示すように、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時(実線)において、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時(破線)と同等の変速進行(変速応答性)が確保される。
【0095】
上述のように、本実施例によれば、エンジン回転速度N(エンジン動作点)を目標値とするように第1電動機M1のトルク制御を実行するエンジン運転状態であるエンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においては、第1電動機M1のトルク制御を実行しないエンジン運転状態であるエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して、自動変速部20のクラッチツゥクラッチによるコーストダウン変速過程における係合側係合装置の係合油圧が増加させられるので、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時において自動変速部20のコーストダウンシフトの進行が促進される。つまり、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においては、自動変速部20の入力トルクの変動を抑制するように第2電動機M2のトルク制御が実行されることで、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と比較して自動変速部20のコーストダウンシフトの進行が遅くなる可能性があることに対して、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧が増加させられるので、エンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を確保することが可能になる。よって、自動変速部20のクラッチツゥクラッチによるコーストダウンシフトに際して、ドライバビリティを向上することができる。
【0096】
また、本実施例によれば、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧の変化率を増加させることでその係合側係合圧が増加させられるので、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を適切に確保することができる。
【0097】
また、本実施例によれば、第1電動機M1のトルク制御時の制御量が小さい程、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧を増加させる際の増加量が小さくされるので、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0098】
また、本実施例によれば、蓄電装置56における充放電可能量が小さい程、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧を増加させる際の増加量が小さくされるので、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0099】
また、本実施例によれば、エンジン水温TEMPが低い程、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧を増加させる際の増加量が小さくされるので、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0100】
また、本実施例によれば、自動変速部20の作動油温TOILが低い程、自動変速部20のコーストダウン変速過程における係合側係合圧を増加させる際の増加量が小さくされるので、エンジンモータリング運転時やエンジン負荷運転時においてエンジン自律運転時やエンジン停止運転時と同等の変速進行(変速応答性)を一層適切に確保することができる。
【0101】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0102】
例えば、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0103】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0104】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0105】
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられて入力側回転部材に動力伝達可能に電動機及びエンジン8が連結されておればよい。
【0106】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0107】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0108】
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0109】
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0110】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪34との間の動力伝達経路に、自動変速部20が介挿されていたが、例えば手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。
【0111】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0112】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0113】
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0114】
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0115】
また、前述の実施例において、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0116】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0117】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0118】
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0119】
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
【0120】
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
【0121】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0122】
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
11:差動部(電気式差動部)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(電気式差動部の出力側回転部材)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪
56:蓄電装置
80:電子制御装置(制御装置)
M1:第1電動機(差動用電動機)
M2:第2電動機(走行用電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記電気式差動部から駆動輪への動力伝達経路に動力伝達可能に連結された走行用電動機と、前記電気式差動部の出力側回転部材に直列的に連結されて前記電気式差動部から前記駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記エンジンの運転状態に応じた前記差動用電動機のトルク制御を実行し、前記変速部の変速時には前記差動用電動機のトルク制御の実行状況に応じて該変速部の入力トルクの変動を抑制するように前記走行用電動機のトルク制御を実行するものであり、
前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態においては、前記差動用電動機のトルク制御を実行しない前記エンジンの運転状態と比較して、前記変速部の変速過程における係合側係合圧を増加させることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの運転状態は、自律回転可能なエンジン回転速度を維持する自律運転、前記差動用電動機によりエンジン回転速度が維持されるモータリング運転、エンジントルクの反力が前記差動用電動機により受け持たれる負荷運転、及び前記走行用電動機を用いて走行するモータ走行状態において回転停止する停止運転の何れかの運転状態であり、
前記自律運転時及び前記停止運転時には前記差動用電動機を無負荷状態とし、前記モータリング運転時及び負荷運転時にはエンジン回転速度を目標値とするように前記差動用電動機のトルク制御をフィードバック制御により実行するものであり、
前記モータリング運転時及び負荷運転時には、前記自律運転時及び前記停止運転時と比較して、前記変速部の変速過程における係合側係合圧を増加させるものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記変速部の変速過程における係合側係合圧の変化率を増加させることで該係合側係合圧を増加させるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記差動用電動機のトルク制御時の制御量が小さい程、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
蓄電装置における充放電可能量が小さい程、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
エンジン水温が低い程、前記係合側係合圧を増加させる際の増加量を小さくすることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記変速部は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによるクラッチツゥクラッチ変速が油圧制御により実行されて複数のギヤ段が選択的に成立させられる有段式自動変速機であり、
前記差動用電動機のトルク制御を実行する前記エンジンの運転状態においては、前記差動用電動機のトルク制御を実行しない前記エンジンの運転状態と比較して、前記変速部のコーストダウン変速過程における前記係合側係合装置の係合油圧を増加させるものであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記変速部の作動油温が低い程、前記係合油圧を増加させる際の増加量を小さくすることを特徴とする請求項7に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−241378(P2010−241378A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95022(P2009−95022)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】