説明

車両用扉の開閉構造

【課題】スライドドアの推進力を向上させて、箱型荷物室の開口部を充分に密閉保持し得る車両用扉の開閉構造を提供する。
【解決手段】箱型荷物室32の開口部32aにヒンジ接続した開閉ドア34と、該開閉ドア34に出入り自在に収納されるスライドドア36とから車両用扉30を構成する。前記開閉ドア34の内板34aに、所要長さの長孔34dを幅方向に開設し、該長孔34dに対応させてベース本体42を装着する。また、前記ベース本体42に、ネジ軸44を回転自在に支持させると共に、該ネジ軸44を回転させる回転駆動手段46を配設する。更に、その一部がスライドドア36に固定されたナット部材40を前記ネジ軸44に螺合させる。そして、前記回転駆動手段46によってネジ軸44を回転させて、ナット部材40が長孔34dに沿って往復動することで、スライドドア36が開閉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用扉の開閉構造に関し、更に詳細には、有蓋トラック(バン)や保冷車等の箱型荷物室の開口部に設けられる車両用扉の開閉構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バンタイプのトラックや保冷車等の有蓋車両は、後方に開口部を有する箱型荷物室を備え、その開口部に扉が開閉自在に取付けられている。この車両用扉は、ヒンジ接続した左右の扉が両側に開く観音式のものが一般的であるが、一方の扉をヒンジ開閉式とし、他方の扉をスライド式としたものも存在する。例えば、特許文献1に示す車両用扉10は、図7および図8に示すように、箱型荷物室12の開口部12aにヒンジ14を介して取付けた開閉ドア16と、この開閉ドア16の内部16aへスライド自在に収納したスライドドア18とから構成されている。
【0003】
開閉ドア16の箱型荷物室12側の面(裏面)には、前記スライドドア18を駆動して該開閉ドア16からスライド自在に出入りさせ、開口部12aの開閉を行なうスライド駆動機構20が設けられている。このスライド駆動機構20は、図8に示すように、開閉ドア16の裏面に取付けた駆動モータ22と、該駆動モータ22の駆動軸に設けたスプロケット24と、開閉ドア16の裏面に回転自在に設けたスプロケット24と、両スプロケット24,24に巻掛けられて水平に延在するチェーン26とから構成されている。開閉ドア16の裏面には、前記チェーン26と対応する位置に長孔16bが水平に開設され(図8)、前記スライドドア18に固定した連結片28が前記長孔16bを介して該チェーン26に連結されている。従って、駆動モータ22がチェーン26を回転させると、前記連結片28は該チェーン26と共に前記長孔16bに沿って移動し、前記スライドドア18を開閉ドア16に対し出入り自在にスライドさせる。
【0004】
また、スライドドア18をスライドさせる開閉機構としては、特許文献2に示す別の構造も提案されている。すなわち、特許文献2の図3には、一端がスライドドア3に固定したレール43に摺動自在に連結した開閉アーム42と、該アーム42を所要中心角でスイングさせる駆動モータ41とからなるスライドドア3の開閉機構が開示されている。またこれ以外に、パンダグラフ機構やワイヤ駆動機構等の車両用ウィンドレギュレータを、スライドドアの駆動機構に転用することも知られている。
【特許文献1】特開平10−147149号公報
【特許文献2】特開2003−82919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した各種の扉開閉構造は、何れもスライドドア18をスライドさせる力(推進力)が充分でなく、箱型荷物室12の開口部12aを確実に閉成し得ない欠点があった。殊に、開口部側またはドア側にパッキンを設けて、閉成時に開口部12aとスライドドア18との気密性を確保しているが、従来の扉開閉構造では、前記スライドドア18をパッキンへ充分押し付けることができず、保冷車の冷気が外部へ逃出し冷却効率を低下させる難点がある。
【0006】
そこで従来は、扉開閉構造の推進力不足を補うために、スライドドア18の内側にフックを取付けると共に、荷物室12の側に前記フックと係合して該ドア18を引き寄せるラッチ機構を取付け、パッキンを充分に押圧変形させて気密性を向上させる構造が採用されている。しかしこの構造では、前記の如く、スライドドア18の内側にフックを設けると共に、荷物室12の側にラッチ機構を設ける必要があり、部品点数が増加し取付作業も繁雑化してコスト高になる難点がある。また前記ラッチ機構によるロックおよびロック解除には、ソレノイドやモータ等の電気的な駆動源を使用する場合が多い。このときは、電気的な駆動源と制御部とをハーネスで配線する必要があり、この作業にも手間を要する欠点がある。更に、スライドドア18の完全閉成・開放を確認するには、その状態を検出するセンサを所要個所に設ける必要があるが、この場合もセンサと制御部とをハーネスで別途配線する手間を要している。
【0007】
本発明は、従来の車両用扉の開閉構造に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、スライドドアの推進力を向上させて、箱型荷物室の開口部を充分に密閉保持し得る開閉構造を提供することを目的とする。また本発明の別の目的は、スライドドアをロックする機構やドアの開閉検出用のセンサ等をユニット化することで、取付けや配線の手間を軽減させた構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項1に係る車両用扉の開閉構造は、
箱型荷物室の開口部にヒンジ接続した開閉ドアと、この開閉ドアの内部に収納されてスライド自在に出入りするスライドドアとからなる車両用扉において、
前記開閉ドアの裏面に取付け可能なベース本体と、
前記ベース本体に回転自在に支持され、前記スライドドアのスライド方向へ延在するネジ軸と、
前記ベース本体に設けられ、前記ネジ軸を正逆方向へ回転させる回転駆動手段と、
前記開閉ドアの裏面に開設され、前記ネジ軸に沿って所要長さで延在する長孔と、
前記開閉ドアの裏面に位置して前記ネジ軸に螺合し、その一部を前記長孔を介して前記スライドドアに固定されるナット部材とから構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る車両用扉の開閉構造によれば、ネジ軸を回転させて、これに螺合したナット部材を直線的に往復動させることで、スライドドアの開閉がなされる。すなわちネジ軸とナット部材との組合わせによりスライドドアの推進力が大幅に向上し、開口部を充分に密閉保持することができる。従って、従来の如きラッチ機構を設けなくても、開口部に設けたパッキンを充分押付け、箱型荷物室内の気密性を高いまま保持することが可能となり、取付けの手間や部品点数を低減させ、製造コストを低廉になし得る。
【0010】
本願の請求項2に係る車両用扉の開閉構造は、開口部を閉成したスライドドアのロックおよびロック解除を行なうロック機構をベース本体に設けた。
請求項2に係る発明によれば、ロック機構がベース本体に設けられてユニット化されているので、荷物室内の別の個所に設ける場合に比べて取付け作業が容易となり、別途配線用のハーネスを設ける必要もない。
【0011】
本願の請求項3に係る車両用扉の開閉構造は、前記ロック機構を、前記ベース本体に揺動自在に軸支され、スライドドアの閉成時に一方向へ揺動して前記ナット部材に係合し、該スライドドアをロックするシーソーアームと、該シーソーアームを逆方向へ揺動させて該ナット部材から離脱させ、該スライドドアのロックを解除するソレノイドとから構成した。
請求項3に係る発明によれば、シーソーアームとソレノイドとからなる簡単な構造でスライドドアを確実にロックすることができ、製造コストを低く押えることができる。
【0012】
本願の請求項4に係る車両用扉の開閉構造は、前記ロック機構によるスライドドアのロックを前記荷物室の内側から電気的に解除する非常解除手段を、前記ベース本体に設けた。
請求項4に係る発明によれば、万が一作業者が箱型荷物室内に閉じ込まれてしまっても、非常解除手段を作動させることでロックを解除し、外部へ脱出することができる。
【0013】
本願の請求項5に係る車両用扉の開閉構造は、前記ナット部材に係合している前記シーソーアームを逆方向へ強制的に揺動させ、前記スライドドアのロックを前記荷物室の内側から解除する手動解除手段を、前記ベース本体に設けた。
請求項5に係る発明によれば、万が一作業者が荷物室内に閉じ込まれ、しかも電気系統の故障によって請求項4に記載の非常解除手段が作動しなくなった場合であっても、手動でロック機構を解除させることが可能となり、外部へ脱出することができる。
【0014】
本願の請求項6に係る車両用扉の開閉構造は、前記手動解除手段を、前記ベース本体に進退自在に螺合され、その先端を前記シーソーアームの一端側に臨ませたボルトと、このボルトの後端に設けた手回しハンドルとから構成した。
請求項6に係る発明によれば、手回しハンドルを回転させるだけでロック機構を容易に解除させることが可能となる。
【0015】
本願の請求項7に係る車両用扉の開閉構造は、前記ネジ軸のリードを、前記ナット部材を該ネジ軸に沿って何れの方向へ手で押しても、該ネジ軸を遊転させて該ナット部材の移動を許容する数値に設定した。
請求項7に係る発明によれば、ネジ軸のリードを、ナット部材を手で押して移動させ得る数値に設定されているので、作業者は箱型荷物室内に閉じ込まれてもスライドドアを手で開放することができる。
【0016】
本願の請求項8に係る車両用扉の開閉構造は、請求項7記載の発明において、前記ネジ軸として、例えば8条のネジ溝でピッチ3(mm)のリード24(mm)を採用した。
【0017】
本願の請求項9に係る車両用扉の開閉構造は、外部送信端末からのスライドドアの開閉指令を受信するリモコン受信部と、該リモコン受信部を介した開閉指令に基づき前記回転駆動手段の正逆回転制御を行なう回転制御部とからなる制御ユニットを、前記ベース本体に配設した。
請求項9に係る発明によれば、スライドドアの開閉を遠隔操作で行なうことができるので、配送作業の能率向上を期待し得る。しかも、制御ユニットはベース本体に設けられてユニット化されているので、取付作業が極めて簡単になる。
【0018】
本願の請求項10に係る車両用扉の開閉構造は、前記スライドドアの完全開放および完全閉成を検知する検知手段を前記ベース本体に設け、該検知手段からの検知信号により前記回転制御部が回転駆動手段を停止させるようにした。
請求項10に係る発明によれば、スライドドアが完全に開放・閉成した際に回転駆動手段を自動で停止させることができる。また、検知手段もベース本体に設けられてユニット化されているので、該検知手段を別途離れた場所に設置する場合に比べて取付作業が簡単になり、ハーネスを設ける必要もない。
【0019】
本願の請求項11に係る車両用扉の開閉構造は、前記検知手段が、前記スライドドアの完全開放位置より手前の位置を副次的に検知し、その副次的な検知信号を受けて前記回転駆動制御部は回転駆動手段の減速を指令するようにした。
請求項11に係る発明によれば、スライドドアが完全に開放する直前に減速されるので、完全開放時の衝撃が抑えられ、騒音やスライドドアのビビリを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る車両用扉の開閉構造によれば、スライドドアの推進力を向上させて、箱型荷物室の開口部を充分に密閉保持することが可能となる。また、ロック機構や検知手段はユニット化されているので、取付けに手間が掛からず、ハーネスを別途設ける必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明に係る車両用扉の開閉構造につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して説明する。なお、実施例では、車両用扉の開閉構造を低温輸送に供されるバンタイプの保冷車に適用した場合を示すが、箱型荷物室を備えた車両であれば、配送トラックその他の各種車両に適用可能である。また、以下の説明では、スライドドアを開放させる方向を「開放方向」、スライドドアを閉成させる方向を「閉成方向」と称する。
【実施例】
【0022】
図1は、実施例に係る車両用扉の開閉構造を設けた箱型荷物室32の横断面図、図2は、車両用扉30を箱型荷物室32の内側から見た裏面図である。車両用扉30は、箱型荷物室32の開口部32aに設けた開閉ドア34とスライドドア36とから構成される。図2(b)に示すように、開閉ドア34の略中央部には、ユニット化されたスライド駆動機構38が設置されている。
【0023】
[扉の基本構造について]
開閉ドア34は、図示しない枠体を内板(裏面)34aと外板34bとで挟んだ中空サンドイッチ構造をなし、内板34aおよび外板34bの間にスライドドア36を出入自在に収納する収納部34cが画成されている。開閉ドア34は、開口部32aの一方の縁部にヒンジ72を介して接続され、図4(c)に示す如く、箱型荷物室32の外側へ開放可能になっている。なお、図2(a)は、スライド駆動機構38を取付ける前の状態を示し、開閉ドア34の内板34aには、該スライド駆動機構38に設けたナット部材40(後述)の往復動を許容する長孔34dが幅方向に開設されている。
【0024】
前記開閉ドア34の収納部34cに収納されたスライドドア36は、該収納部34cの上方に水平に設けたレールにローラ(何れも図示せず)を介して懸吊され、出入自在にスライド可能になっている。またスライドドア36の縦方向の端縁部にパッキン36aが取付けられ、ドア閉成時における箱型荷物室32内の気密性を確保している。
【0025】
[スライド駆動機構について]
前記スライドドア36のスライド駆動機構38は、図3に示すように、ベース本体42と、このベース本体42に回転自在に支持されたネジ軸44と、このネジ軸44を正逆方向へ回転させる回転駆動手段46と、ネジ軸44に螺合するナット部材40とを一纏りのユニットとして構成したものである。ベース本体42は、前面が開放した箱状をなし、開閉ドア34の内板34aに着脱自在に取付けられる。また、ベース本体42の開閉ドア34と当接する面には、前述の長孔34dに対応する開口42aが幅方向に開設され、この開口42aおよび長孔34dを介してナット部材40の一部が前記スライドドア36の裏面に固定される。なお、このベース本体42としては、必ずしも実施例の如く箱状に形成する必要はなく、例えば、前後面が開放した矩形状枠体であってもよい。
【0026】
所要長のネジ軸44は、その両側がベース本体42に設けた支持部42b,42bに回転自在に支持されると共に、図3の右側に位置する支持部42bから延出する一端部は、後述するスプロケット50bを介してモータ48に連結されている。このネジ軸44に螺合するナット部材40は、図1に示すように、開閉ドア34の裏側に位置し、ネジ軸44を正逆回転させることで、開放方向および閉成方向へ直線的に往復動し得るようになっている。また、前述のように、ナット部材40の一部は、ベース本体42の開口42aおよび長孔34dを介してスライドドア36に固定され、ナット部材40の移動に伴いスライドドア36をスライドさせる。すなわち、スライド駆動機構38は、ネジ軸44を正逆回転させることでナット部材40を往復動させ、これにより得られる強い推進力によってスライドドア36のスライド開閉がなされる。そして、閉成時にスライドドア36のパッキン36aが開口部32aの縁部に当接して押圧変形状態となることで、箱型荷物室32内の気密性が確保される。なお、以下の説明において、スライドドア36が閉成した状態でのナット部材40の位置を「閉成位置」、また、スライドドア36が開放した状態でのナット部材40の位置を「開放位置」と称する(図3参照)。
【0027】
[ネジ軸について]
前記ネジ軸44としては、一例として8条のネジ溝を有する多条ネジとするのが好ましく、またピッチ(隣り合う溝と溝の距離)は3[mm]のものを選択した。従って、ネジ軸44を1回転させてナット部材40が軸方向に進むリード(距離)Lは、L=N×P(N:条数,P:ピッチ)より24[mm]となる。このように、大きなリードのネジ軸44を使用することで、電気系統その他の故障により手でスライドドア36を開放する必要を生じた際にも、該スライドドア36に固定したナット部材40に対し該ネジ軸44が自由回転(遊転)して、該スライドドア36の開放を支障なく許容する。なお、大きなリードのネジ軸44を使用すると、スライドドア36の完全閉成時に押圧変形したパッキン36aの弾性力により該ドア36が僅かに押し戻され、気密性が低下する畏れがあるので、後述のロック機構52によりスライドドア36をロックするのが好ましい。また、ネジ軸44の代わりに、ボールネジを使用してもよい。
【0028】
[回転駆動手段について]
ベース本体42の側方に配設された回転駆動手段46は、モータ48および動力伝達機構50から構成され、これによりネジ軸44を正逆方向へ回転させるようになっている。モータ48は、低速・高トルクタイプが好適に採用され、実施例では、回転数1200[rpm]のものを使用した。モータ48の回転数を低く抑えることにより、モータ作動時の騒音を低下させることが可能となる。また、低速のモータ48を後述のベルト機構に組合わせることで、歯車式の減速機構を設ける必要がなくなり、スライド駆動機構38を軽量かつコンパクトにすることができる。更に、歯車式減速機構を使用しないので、保冷室の低温により潤滑グリス等が固まってしまう問題もなくなる。
【0029】
前記動力伝達機構50は、モータ48の回転軸に接続した小径のスプロケット50aと、ネジ軸44の端部に接続した大径のスプロケット50bと、両スプロケット50a,50b間に介装されたタイミングベルト50cとから構成されている。また、両スプロケット50a,50bの直径差によりその回転比は、例えば、2.7に設定される。すなわち、実施例では、モータ48の回転数を1200[rpm](=20[rps])、スプロケット50bの回転比2.7、ネジ軸44のリードを24[mm]とすることで、スライドドア36の移動速度が、20/2.7*24=178[mm/s]となる。但し、以上に示した回転数等の数値は、実施態様に合わせて任意に変更可能である。
【0030】
[ロック機構について]
図3に示すように、ベース本体42には、スライドドア36のロックおよびロック解除を行なうロック機構52が配設されている。前述したように、実施例では、リードの大きいネジ軸44を使用しているため、スライドドア36の完全閉成後、パッキン36aの弾性力によって該スライドドア36が僅かに押し戻されてしまう畏れがある。そこで、ロック機構52により完全閉成後のスライドドア36をその位置でロックし、開口部32aを密閉状態に保持しようとするものである。
【0031】
ロック機構52は、ベース本体42に揺動自在に軸支されてスライドドア36をロックするシーソーアーム54と、該シーソーアーム54のロックを解除するソレノイド56とから構成される。シーソーアーム54は、その中央より僅かに変位した位置を支軸54bにより軸支されて、ベース本体42に対し揺動自在になっている。シーソーアーム54の閉成位置側の端部54aは、ソレノイド56のプランジャ56aにピン80を介して連結されている。そして、図5(a)に示すように、シーソーアーム54は、常には端部54aが下がった状態にある。
【0032】
前記シーソーアーム54は、ナット部材40が閉成方向へ移動する際に、その端部54aを時計方向へ押し上げる(図5(b))。そして、ナット部材40がシーソーアーム54の端部54a下方を通過して、閉成位置へ到達すると、該シーソーアーム54は重力によって反時計方向へ揺動し、ナット部材40と係合してロックが完了する(図5(c))。
【0033】
ロック解除に際しては、ソレノイド56に通電すると、プランジャ56aが引き上げられ、シーソーアーム54を時計方向へ揺動させてナット部材40との係合を離脱させる。但し、スライドドア36が完全閉成状態にある場合、押圧変形したパッキン36aの反発力によってナット部材40とシーソーアーム54とは強固に係合しているので、ソレノイド56に通電してもロックの解除が困難な場合が多い。そこでロックを解除するに先立ち、モータ48を正回転させてスライドドア36を更に閉成方向へ移動させ、パッキン36aを更に押圧変形させることで、ナット部材40とシーソーアーム54との間に作用している強固な係合力を緩和させる。この間にソレノイド56に通電すれば、容易にロックを解除し得る。なお、前記プランジャ56aにはスプリング56cが介装され、該スプリング56cの弾性力によって該プランジャ56aを常に下方へ付勢している。従って、悪路を走行中におけるシーソーアーム54のチャタリングが防止される。
【0034】
[非常解除手段について]
ベース本体42の上部には、ロック機構52のロックを電気的に解除する非常解除ボタン(非常解除手段)58が設けられている。すなわち、この非常解除ボタン58を押すことで、ソレノイド56が通電されてプランジャ56aが引き上げられ、シーソーアーム54とナット部材40との係合が解除されるようになっている。従って、作業者が箱型荷物室32内に閉じ込まれてしまった場合でも、箱型荷物室32内側からロックを解除して外部へ脱出することができる。なお、非常解除ボタン58を作動させてロックが解除されると、回転駆動手段46が作動して自動的にスライドドア36が開放される。
【0035】
[手動解除手段]
ベース本体42には手動解除手段60が配設され、これはナット部材40に係合しているシーソーアーム54を逆方向へ揺動させて、強制的にスライドドア36のロックを解除するものである。すなわち、作業者が箱型荷物室32内に閉じ込まれ、しかも電気系統の故障等によって非常解除ボタン58が作動しない場合であっても、手動解除手段60によってロックを強制的に解除して外部へ脱出することができる。この手動解除手段60は、ベース本体42に進退自在に螺合されて、その先端をシーソーアーム54における開放位置側の端部54cに臨ませたボルト60bと、このボルト60bに設けた手回しハンドル60aとから構成される。そして、この手回しハンドル60aを回転させることによりボルト60bが下降して端部54cを押し下げ、シーソーアーム54を逆方向へ揺動させるようになっている。なお、この手動解除手段60については、手動操作によりシーソーアーム54を強制的に揺動させてロック機構52を解除し得るものであれば、他の構成を適宜採用可能である。また、手動解除手段60によってロックを解除した後、作業者は、スライドドア36を手で開放させて外部に脱出する。
【0036】
[制御ユニットについて]
前記ベース本体42の略中央部には、外部送信端末(図示せず)からのスライドドア36の開閉指令を受信するリモコン受信部64および回転駆動手段46の正逆回転制御を行なう回転制御部70からなる制御ユニット62がユニット化されて設けられる。リモコン受信部64は、スライド駆動機構38とは独立した外部送信端末からの開閉指令を受信して、該開閉指令を回転制御部70へ送るようになっている。また、回転制御部70は、リモコン受信部64からの開閉指令に基づき回転駆動手段46を正逆回転させるよう構成される。そして、スライドドア36の開閉を遠隔操作により行ない得るようになっている。なお、外部送信端末による遠隔操作は、スライドドア36の開閉操作に限られず、例えば、スライドドア36の非常停止を行ない得るようにしてもよい。また、実施例に係る制御ユニット62は、回転駆動手段46の制御だけでなく、ロック機構52のソレノイド56をON・OFF制御するようになっている。従って、スライドドア36の開放指令を受信した場合、または非常解除ボタン58が押された場合に、制御ユニット62はソレノイド56を作動させてスライドドア36のロックを解除させるようになっている。
【0037】
前記ベース本体42の下方には、スライドドア36の完全開放および完全閉成を検知する検知手段66が配設されている。この検知手段66は、ベース本体42下方の閉成位置に設けられた第1検知センサ66aと、同じく開放位置に設けられた第2センサ66bとから構成される。第1センサは、図5(c)に示すように、閉成位置に到達したナット部材40を検知して、この検知信号により回転制御部70が回転駆動手段46を停止させるようになっている。同様に、第2センサ66bは、ナット部材40が開放位置に到達したのを検知して、回転制御部70により回転駆動手段46を停止させるものである。
【0038】
更に、前記検知手段66は、スライドドア36の完全開放位置(開放位置)より手前の位置を副次的に検知するよう第3センサ66cを備えている。この第3センサ66cは、ベース本体42に第2センサ66bと隣接するよう設けられ、開放位置に到達する直前のナット部材40を検知するようになっている。そして、第3センサ66cの検知信号によって、回転制御部70は回転駆動手段46を徐々に減速させ、完全開放時にスライドドア36はゆっくりと停止する。
【0039】
(実施例の作用)
次に、実施例に係る車両用扉の開閉構造の作用について説明する。なお、当初のスライドドア36は完全閉成状態にあるものとする。スライドドア36を開放させる際には、外部送信端末を操作して開放指令を送信する。この開放指令をリモコン受信部64が受信すると、先ず始めに、制御ユニット62は回転駆動手段46を作動させてスライドドア36を閉成方向へ僅かに移動させ、シーソーアーム54とナット部材40との係合を緩和させる。そして、この間にソレノイド56を作動させてプランジャ56aを引き上げ、スライドドア36のロックを解除する。
【0040】
次に、前記開閉指令は回転制御部70へ送られて、該制御部70は回転駆動手段46を逆方向へ回転させる。これによりネジ軸44は逆方向へ回転されてナット部材40が開放方向へ移動し、スライドドア36の開放が始まる(図4(a))。そして、スライドドア36が完全開放する直前になって、ナット部材40が第3センサ66c上を通過すると、該センサ66cはこれを検知する。第3センサ66cの検知信号は回転制御部70へ送られて、該制御部70は回転駆動手段46を徐々に減速させ、スライドドア36の移動速度を下げる。
【0041】
更に、図4(b)に示すように、スライドドア36が完全開放状態となって、ナット部材40が開放位置に到達すると、第2センサ66bがこれを検知して、回転制御部70は回転駆動手段46を停止させる。この時、スライドドア36は減速されているので、静かに停止して騒音やビビリが生じることがない。更に、スライドドア36を徐々に減速させて停止させることにより、前記タイミングベルト50cに掛かる負荷が低減されて、該ベルト50cの損耗を防止し得る。
【0042】
そして、作業者は、図4(c)に示すように、開閉ドア34を手動で開放して開口部32aを完全に開放し、荷物の積込み作業等を行なう。なお、図4(b)に示すように、スライドドア36のみ開放した状態で積込み作業を行なうことも可能である。
【0043】
荷物の積込みが終了して、車両用扉30を閉成させる際には、先ず、開閉ドア34を手動で閉成させた後(図4(b))、外部送信端末からスライドドア36の閉成指令を送信する。この閉成指令は、リモコン受信部64を介して回転制御部70へ送られて、回転駆動手段46が正方向へ回転される。これにより、ナット部材40が閉成方向へ移動してスライドドア36のスライドが開始する。
【0044】
ナット部材40が閉成方向へ移動して、図5(b)に示すように、シーソーアーム54に当接すると、ナット部材40はシーソーアーム54の端部54aを時計方向へ押し上げつつ移動する。更に、ナット部材40がシーソーアーム54を通過して閉成位置に到達すると、前記第1センサ66aがこれを検知し、回転制御部70は回転駆動手段46を停止させる。これと同時に、シーソーアーム54の端部54aは重力によって反時計方向へよって下がり、ナット部材40と係合してロックが完了する(図5(c))。すなわち、ナット部材40の強い推進力によって、スライドドア36のパッキン36aが押圧変形状態となるまで開口部32aは強力に密閉される。更にこの状態で、直ちにスライドドア36がロックされるので、パッキン36aの反発力によって該ドア36が移動することなく、密閉状態を保持し得る。
【0045】
なお、外部送信端末を所持していない作業者が、何らかの原因によりスライドドア36が閉じて箱型荷物室32内に閉じ込まれてしまうと、該荷物室32内は低温なため、作業者にとって非常に危険である。このような場合には、非常解除ボタン58を押すことでスライドドア36のロックを解除することができる。すなわち、作業者が非常解除ボタン58を押すと、制御ユニット62はソレノイド56を作動させてプランジャ56aを引き上げ、シーソーアーム54とナット部材40との係合を解除する。その後、制御ユニット62は回転駆動手段46を逆回転させてスライドドア36を自動的に開放し、作業者は外部へ脱出することが可能となる。
【0046】
更に、上記の場合において、電気系統等の故障によって非常解除ボタン58を使用することができない場合には、作業者は手動解除手段60によりロック機構52を強制的に解除することが可能となる。すなわち、作業者が手回しハンドル60aを回転させて、手動解除手段60を下降させる。すると、ボルト60bはシーソーアーム54の端部54cを時計方向へ押し下げて、シーソーアーム54とナット部材40との係合が強制的に解除される。ロックを解除した後、作業者は手動でスライドドア36を開放させて外部へ脱出することができる。この時、ネジ軸44はリードの大きいなものが使用されているので、スライドドア36は支障なく開放させることが可能である。
【0047】
以上に示したように、実施例に係る車両用扉の開閉構造によれば、ネジ軸44に螺合したナット部材40が往復動することでスライドドア36を開閉するよう構成したので、スライドドア36の推進力が大幅に向上して、開口部32aを充分に密閉することができる。従って、内部の冷気が漏れることがなく、エネルギー効率が向上される。また、ロック機構52や制御ユニット62、検知手段66等は、ベース本体42にユニット化されているので、取付作業が容易となって、外部電源との配線も極めてシンプルにすることができる。更に、実施例では、制御ユニット62をリモコン受信部64と回転制御部70とから構成したので、スライドドア36の開閉を遠隔操作で行なうことが可能となり、配送作業の能率が向上される。
【0048】
(実施例の変更例)
実施例においては、図1に示すように、開閉ドア34およびスライドドア36の1組からなる車両用扉30に本発明の開閉構造を実施した場合を示した。しかしながら、図6に示すように、箱型荷物室32の開口部32aに開閉ドア34およびスライドドア36からなる組合わせを2組設け、観音開き式とした車両用扉68にも、本発明を実施することは可能である。但し、この場合においては、夫々のスライドドア36,36を開閉させるよう、スライド駆動機構38を2つ配設する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例に係る車両用扉の開閉構造を示す横断面図であって、図3のI-I線断面図である。
【図2】実施例に係る車両用扉を箱型荷物室の内側から見た裏面図であって、(a)はスライド駆動機構を取付ける前の状態を示し、(b)はスライド駆動機構が取付けられた状態を示している。
【図3】実施例に係るスライド駆動機構を示す正面図である。
【図4】実施例に係る車両用扉の開閉構造を示す横断面図であって、(a)はスライドドアが開放する途中の状態を示し、(b)はスライドドアが完全に開放した状態を示し、(c)は開閉ドアを開放させた状態を示している。
【図5】実施例においてナット部材が閉成方向に移動する様子を示した拡大図であって、(a)はナット部材がシーソーアームに当接する前の状態を示し、(b)はナット部材がシーソーアームに当接して移動する状態を示し、(c)はナット部材が閉成位置に到達してシーソーアームと係合した状態を示している。
【図6】変更例に係る車両用扉の開閉構造を示す横断面図である。
【図7】従来の開閉構造を備えた箱型荷物室の概略斜視図である。
【図8】従来の開閉構造を示す説明断面図である。
【符号の説明】
【0050】
30 車両用扉, 32 箱型荷物室, 32a 開口部 34 開閉ドア
34d 長孔, 36 スライドドア, 40 ナット部材, 42 ベース本体
44 ネジ軸, 46 回転駆動手段, 52 ロック機構, 54 シーソーアーム
56 ソレノイド, 58 非常解除ボタン(非常解除手段), 60 手動解除手段
62 制御ユニット, 64 リモコン受信部, 68 車両用扉(変更例)
70 回転制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱型荷物室(32)の開口部(32a)にヒンジ接続した開閉ドア(34)と、この開閉ドア(34)の内部に収納されてスライド自在に出入りするスライドドア(36)とからなる車両用扉(30)において、
前記開閉ドア(34)の裏面(34a)に取付け可能なベース本体(42)と、
前記ベース本体(42)に回転自在に支持され、前記スライドドア(36)のスライド方向へ延在するネジ軸(44)と、
前記ベース本体(42)に設けられ、前記ネジ軸(44)を正逆方向へ回転させる回転駆動手段(46)と、
前記開閉ドア(34)の裏面(34a)に開設され、前記ネジ軸(44)に沿って所要長さで延在する長孔(34d)と、
前記開閉ドア(34)の裏面(34a)に位置して前記ネジ軸(44)に螺合し、その一部を前記長孔(34d)を介して前記スライドドア(36)に固定されるナット部材(40)と
から構成したことを特徴とする車両用扉の開閉構造。
【請求項2】
前記開口部(32a)を閉成したスライドドア(36)のロックおよびロック解除を行なうロック機構(52)を、前記ベース本体(42)に設けた請求項1記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項3】
前記ロック機構(52)は、前記ベース本体(42)に揺動自在に軸支され、スライドドア(36)の閉成時に一方向へ揺動して前記ナット部材(40)に係合し、該スライドドア(36)をロックするシーソーアーム(54)と、該シーソーアーム(54)を逆方向へ揺動させて該ナット部材(40)から離脱させ、該スライドドア(36)のロックを解除するソレノイド(56)とからなる請求項2記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項4】
前記ロック機構(52)によるスライドドア(36)のロックを前記箱型荷物室(32)の内側から電気的に解除する非常解除手段(58)を、前記ベース本体(42)に設けた請求項2または3記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項5】
前記ナット部材(40)に係合している前記シーソーアーム(54)を逆方向へ強制的に揺動させ、前記スライドドア(36)のロックを前記荷物室(32)の内側から解除する手動解除手段(60)を、前記ベース本体(42)に設けた請求項3または4記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項6】
前記手動解除手段(60)は、前記ベース本体(42)に進退自在に螺合され、その先端を前記シーソーアーム(54)の一端側に臨ませたボルト(60b)と、このボルト(60b)の後端に設けた手回しハンドル(60a)とからなる請求項5記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項7】
前記ネジ軸(44)のリードは、前記ナット部材(40)を該ネジ軸(44)に沿って何れの方向へ手で押しても、該ネジ軸(44)を遊転させて該ナット部材(40)の移動を許容する数値に設定される請求項1〜6の何れかに記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項8】
前記ネジ軸(44)として、例えば8条のネジ溝でピッチ3(mm)のリード24(mm)が採用される請求項7記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項9】
外部送信端末からのスライドドア(36)の開閉指令を受信するリモコン受信部(64)と、該リモコン受信部(64)を介した開閉指令に基づき前記回転駆動手段(46)の正逆回転制御を行なう回転制御部(70)とからなる制御ユニット(62)を、前記ベース本体(42)に配設した請求項1〜8の何れかに記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項10】
前記スライドドア(36)の完全開放および完全閉成を検知する検知手段(66)を前記ベース本体(42)に設け、該検知手段(66)からの検知信号により前記回転制御部(70)が回転駆動手段(46)を停止させる請求項9記載の車両用扉の開閉構造。
【請求項11】
前記検知手段(66)は、前記スライドドア(36)の完全開放位置より手前の位置を副次的に検知し、その副次的な検知信号を受けて前記回転駆動制御部(70)は回転駆動手段(46)の減速を指令する請求項10記載の車両用扉の開閉構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−291666(P2006−291666A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117455(P2005−117455)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(593222805)アスカ株式会社 (11)
【出願人】(596166313)株式会社 いそのボデー (8)
【Fターム(参考)】