説明

車両用暖房装置

【課題】PTC特性を有する面状発熱体を用いた場合にも快適で省エネ性に配慮した安全な車両用暖房装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両内の内装材にPTC特性を有する高分子型の面状発熱体3を配設して車両内を暖房する車両用暖房装置2において、車両内温度が−5℃における突入電流値IがI(−5℃)≦1.5Aとなる面状発熱体3を複数並列接続したものであって、かつ消費電力が20Wh以上かつ50Wh以下となように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用暖房装置は特許文献1にて開示されている。この従来技術では、車室内の内装材の表面に沿って面状の電気ヒータを配置し、この電気ヒータの表面上に、熱放射率の高い材料により構成される熱放射部材を配置している。そして、前記電気ヒータの発熱により熱放射部材を加熱して、熱放射部材の表面から赤外線を放射するようになっている(例えば、特許文献1参照)。また、従来から面状発熱体の発熱部として、カーボンブラックや金属粉末、グラファイトなどの導電性物質を樹脂に分散して得られたものが知られている。なかでも導電性物質と樹脂との組合せにより、自己温度制御機能を示すPTC発熱体(Positive Temperature Coefficient)を用いた場合には、発熱部の温度上昇に伴い抵抗値が上昇し、これにより発熱部に印加される電流が抑制されるため、発熱部の温度上昇が緩やかになり、発熱温度が安定するため、温度制御回路が不要となり、部品点数を少なくできるなど、メリットのあるデバイスとして知られている。
【0003】
また、PTC発熱体を用いることによって電力消費量を節約でき、車両用など電力供給に制限があるような場合にその利点を発揮させることができる。
【特許文献1】特開2005−212556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらPTC特性を有する面状発熱体においては、高温時には抵抗値が高く、低温時には抵抗値が低くなるため、低温環境下で電流供給を開始した場合には、発熱体自身が温度上昇した後と比べると大きな突入電流が流れることになる。
【0005】
発熱体の材料組成や周囲温度にも依存するが、安定時の電流値に対して2倍から10倍程度の差異が生じる場合がある。
【0006】
電極線の強度や構造を見直すことにより数アンペア程度の電流が流れても問題はないが、電極部の一部に断線あるいは断線に近い状態が発生した場合には、その部位に電流集中が発生し、また周辺材料がPTC特性を示すため、更に抵抗値上昇による電流集中が生じ、発煙発火に至る可能性がある。
【0007】
そのため、電流検知センサを用いて電流を制御する方法や、温度検知センサを電極部周辺に設けるなどの対策を行うことが容易に考えられるが、それらセンサを設けるための設置場所やそのための回路が必要となってくるため、部品点数を少なくできるPTC発熱体の優位性が失われてしまうことになる。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、PTC特性を有する面状発熱体を用いた場合にも快適で省エネ性に配慮した安全な車両用暖房装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明に係る車両用暖房装置は、車両内の内装材にPTC特性を有する高分子型の面状発熱体を配設し、前記面状発熱体は、車両内温度が−5℃における突入電流値IがI(−5℃)≦1.5Aとなるように複数並列接続したもの
であって、かつ消費電力を20Wh以上で、かつ50Wh以下に設定したものである。
【0010】
すなわち、暖房能力が強く望まれるような車両環境、つまり車両内温度が−5℃程度になったときの突入電流値Iが1.5Aを超えない面状発熱体を複数、並列接続して車両用暖房装置を得るものである。
【0011】
本発明で示す面状発熱体の1つの単位としては、少なくとも一対の電極及びそれら電極より給電されるPTC特性を示す高分子抵抗体から形成されてなるもので、供給側の電流値が1.5Aを超えないように接続された大きさの発熱体を意味する。例えば切り欠きや開口部を設け抵抗体自身が独立している場合でも、電流供給となる電極が直列接続の場合は同一と見なし、電流値が1.5Aを超えないことが本発明での限定条件となる。電流値1.5Aの根拠としては、PTC特性を示す高分子抵抗体の許容初期変動や許容経時変動、及び車両の電圧変動を加味して2倍相当の3Aまでであれば、電流集中が仮に生じたとしても発煙発火に至らないことを我々独自の検討結果より得、その値を定めたものである。電流値が3Aを超えると、断線状態にも依存するが、電流集中時に電極周辺部位が200℃を越えることとなり、持続状態によっては発煙発火に至る可能性がある。
【0012】
当然ながら面状発熱体の抵抗値を大きくすることにより、突入電流値が1.5Aを超えないようにすることは容易であるが、本発明においては更に発熱体としての暖かさを提供するための数値として消費電力が20Wh以上かつ50Wh以下となることが必要である。PTC特性や電極間距離、車両内温度環境にも依存するが、20Wh以下の発熱量の場合では充分な暖かさ感覚を得ることはできなかった。また50Wh以上では暖かさは充分得られることになるが、そのために消費されるエネルギー量が大きく、自動車の燃費との関係から好ましくはない。
【発明の効果】
【0013】
本発明よれば、突入電流値を限定したPTC特性を有する高分子型の面状発熱体を複数用いて車両用暖房装置を得ることにより、長期的な使用感に優れると共に、限られた電気容量内でも快適な暖房効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第1の発明は、車両内の内装材にPTC特性を有する高分子型の面状発熱体を配設し、前記面状発熱体は、車両内温度が−5℃における突入電流値IがI(−5℃)≦1.5Aとなるように複数並列接続したものであって、かつ消費電力を20Wh以上で、かつ50Wh以下に設定したものである。
【0015】
すなわち、暖房能力が強く望まれるような車両環境、つまり車両内温度が−5℃程度になったときの突入電流値Iが1.5Aを超えない面状発熱体を複数、並列接続して車両用暖房装置を得るものである。
【0016】
これより、突入電流値が限定されているために仮に電極部が断線に近い状態になった場合にでも極端な電流集中は生じず、長期的に安心して使用することができる。また消費電力がある範囲にあるため、燃費を極端に悪くすることなく快適な車両用暖房を実現できる。
【0017】
第2の発明は、前記第1の発明において、天井部、サイドガラス上部、サイドガラス下部、センターピラーあるいは膝〜下腿部に対向した部位の少なくともひとつの内装材に面状発熱体を配設したもので、車両内を効率よく暖房することができる。
【0018】
第3の発明は、前記第1または2の発明において、複数並列接続した面状発熱体は異な
る発熱密度に設定した。
【0019】
したがって、配設される内装材の形状に応じて発熱体の大きさや形状を変化させ、その発熱密度を調整することによって、快適な車両用暖房を実現できる。
【0020】
第4の発明は、前記第3の発明において、面状発熱体の発熱密度を人体からの距離が近いほど低くした。
【0021】
これにより、配設される内装材の空間形状、つまりは人体との間の距離に応じて発熱密度を調整することによって、間接的暖房において快適性を得ることができる。
【0022】
第5の発明は、前記第1〜4のいずれか一つの発明において、電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材上に配設された一対の電極と、PTC特性を有する高分子抵抗体とで面状発熱体を形成した。
【0023】
したがって、外部コントローラなどが不要のシンプルな構成からなるヒータデバイスとして提供することができる。
【0024】
第6の発明は、前記第5の発明において、電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材上に配設された一対の電極と、PTC特性を有する高分子抵抗体とで面状発熱体を形成し、かつ前記電極と高分子抵抗体との双方に接触する導電被覆層を有するものである。
【0025】
これより、導電被覆層が電極及び高分子抵抗体との密着性を仲介する役割を果たし、屈曲性などの耐久性能をさらに向上させることができる。
【0026】
第7の発明は、前記第6の発明において、面状発熱体における導電被覆層の導電体成分が、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、導電性セラミック繊維、導電性ウィスカ、金属繊維、導電性無機酸化物、導電性ポリマー繊維の少なくとも一種から選ばれる導電体からなる。
【0027】
したがって、これら導電体を樹脂に混合、分散させた場合においても柔軟性、屈曲性に優れるため、長期にわたり安定な高分子発熱体を提供することができる。
【0028】
第8の発明は、前記第5または6の発明において、面状発熱体における電気絶縁性基材が樹脂フィルム、織布、不織布の少なくとも1種からなる。
【0029】
これにより、極めて薄くかつ軽量化材料により使用感や長期信頼性に優れた高分子発熱体を得ることができる。
【0030】
なお、これら車両用暖房装置は、従来から既知のシートヒータやハンドルヒータなどと組合せて使用されても構わないし、また新たに提案される接触型の暖房装置などと併用されても構わない。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0032】
(実施の形態1)
図1,2において、運転席側の天井部1に配設するための車両用暖房装置2として、2枚の面状発熱体3を有する。
【0033】
各面状発熱体3は、電気絶縁性基材4上に、一対の電極5と高分子抵抗体6とを配列して形成してある。
【0034】
なお、図1では直流電源と面状発熱体3との接続の様子の概略を図示したが、面状発熱体同士が並列に接続されていれば、どのような配線であっても構わないし、また発熱部同士は配設方法によりどのような間隔であっても構わない。
【0035】
さらに、面状発熱体3の人体を暖めるのとは逆側の面には断熱材などで熱の拡散を抑える工夫をする必要があるが、どのような方法を用いても構わない。
【0036】
1つの面状発熱体3は、電気絶縁性基材4と一対の線条電極5と高分子抵抗体6とからなる。
【0037】
線条電極5は、電気絶縁性基材4上に、中心線に対して左右対称になるように配置される。
【0038】
高分子抵抗体6は線条電極5が配置された電気絶縁性基材4上に、例えばTダイ押し出し法によりフィルム状に押し出して形成されている。これにより高分子抵抗体6が線条電極5と電気絶縁性基材4とに熱融着している。
【0039】
高分子抵抗体6はPTC特性を有し、温度が上昇すると抵抗値が上昇して、所定の温度になるように自己温度調節機能を有する。
【0040】
すなわち、高分子抵抗体6は車両用暖房装置2に安全性が高く温度コントロールを不要とする機能を付与する。
【0041】
またPTC特性のない発熱体に比べて、PTC特性を有する車両用暖房装置2は速熱性と省エネルギー性とを発揮することができる。PTC特性のない発熱体は、温度制御器を必要し、温度制御器はオン−オフ(ON−OFF)制御で通電を制御して発熱温度を制御している。特に、線条発熱線を用いたPTC特性のない発熱体の場合、線条発熱線間の低温部を回避するため、ON時の発熱体温度を目標温度よりかなり高温まで上昇させており、発熱体の温度を均一にするために均熱部材が別途必要となる。
【0042】
これに対し本実施の形態における面状発熱体3では、高分子抵抗体4が均一に加熱され発熱体温度が自己制御される。そのため、発熱体温度が低く、速熱性と外部への放熱ロスを低減できため省エネルギー性を実現できる。
【0043】
電気絶縁性基材4は、例えばポリエステル繊維で作製されたニードルパンチタイプの不織布が用いられる。これ以外にポリエステル織布やポリエチレンテレフタレート(PET)などフィルム基材を用いてもよい。
【0044】
これらの電気絶縁性基材4は、柔軟性を付与し、配設される内装材が平面形状でない場合でも成形可能である。
【0045】
線条電極5は、金属導線と金属編組導線の少なくとも1種で構成される。これらの材料は、電気絶縁性基材4への縫製加工が容易であり、生産性が高い。
【0046】
線条電極5としては、銅、錫メッキを施した銅、銅−銀合金の単線、撚り線、編組線が使用可能である。特に、機械的強度の点では引っ張り強度の高い銅−銀のそれらを用いることが好ましい。
【0047】
高分子抵抗体6は、PTC特性の経時変化を抑制し、安定したPTC特性を再現するために、PTCを発現する被反応樹脂としてカルボキシル基を有する変性ポリエチレンと被反応樹脂と反応する反応性樹脂としてエポキシ基を有する変性ポリエチレンとを混成したものがよい。
【0048】
これは、被反応性樹脂の持つカルボニル基が反応性樹脂の持つエポキシ基の酸素と反応して化学結合し、架橋された構造を有することに起因している。
【0049】
この架橋反応により、被反応性樹脂単独の場合に比べ、熱的安定性を高めることができ、その結果、樹脂組成物中での導電体の導電パスの形成、及び切断する温度が安定する。
【0050】
この架橋反応は、酸素以外に窒素を介しても起こり得るものである。酸素と窒素の少なくともいずれかを含む官能基を有する反応性樹脂と、これら官能基と反応が可能な官能基を有する被反応性樹脂の組合せであれば架橋反応が起こることになり、反応性樹脂の反応性官能基と被反応樹脂の官能基との組み合わせとしては、上述のエポキシ基とカルボニル基以外に以下のものがある。
【0051】
エポキシ基は、上述のカルボン酸のカルボニル基以外に無水マレイン酸基などのカルボニル基、エステル基、水酸基、アミノ基、ビニル基と反応して付加重合する。これらの官能基を有する被反応樹脂を用いればよい。
【0052】
また、反応性樹脂の官能基としてはエポキシ基以外にオキサゾリン基や無水マレイン酸基を有する反応性樹脂を用いることもできる。
【0053】
また、PTC特性を発現させるための導電体としては、粒状導電体のカーボンブラック、繊維状導電体であれば酸化チタンに錫メッキしてアンチモンドープした導電性セラミック繊維、チタン酸カリウム系の導電性セラミックウィスカ、銅やアルミニウムなどの金属繊維、表面に導電層が形成された金属メッキガラス繊維、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、さらにはポリアニリンなどからなる繊維状の導電性ポリマーが挙げられる。
【0054】
また、繊維状導電体の代わりにフレーク状導電体を用いてもよい。フレーク状導電体としては、表面に導電層が形成されたマイカフレークなどのセラミックフレーク、銅やアルミニウムなどの金属フレーク、さらには鱗片状黒鉛が挙げられる。
【0055】
上述の導電体は、単独でも2種以上の混合でも用いることが可能で目標とするPTC特性に応じて適宜選択可能である。
【0056】
図1において2つの面状発熱体3の発熱部のそれぞれの大きさとしては、高分子抵抗体6が電極間隔50mm、電極長さ150mmで囲まれたものであり、−5℃での抵抗値が15Ω(合成抵抗値が7.5Ω)のものを用いた。車両用暖房装置2の配設形態としては、図2で示される天井部1の車両空間側に表面部材、面状発熱体、断熱材の順番になるように貼り合せた。当然ながら天井材の裏側面に面状発熱体3、断熱材の順に貼り合せて用いても良い。
【0057】
並列接続された2枚の面状発熱体3に通電すると、その温度が上昇し、所定の温度に加熱される。
【0058】
今回の測定では環境温度を−5℃に設定し、15Vの直流電源で評価を行ったところ、突入時の各面状発熱体3の電流値は1.0Aで、15分後の表面温度は45℃、立ち上が
り15分間の平均消費電力は2つの面状発熱体3の合計で21Wであった。
【0059】
電圧を印加した後約7分程度から頭を中心に暖かさの感覚が得られ始め、20分経過後は車両内の温度が低いにもかかわらず頭部で充分な暖かさ感覚を得ることができた。
【0060】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における車両用暖房装置においては、実施の形態1と同様の構成、材料を用いた。
【0061】
図1において2つの面状発熱体3の発熱部のそれぞれの大きさとしては、高分子抵抗体6が電極間隔50mm、電極長さ150mmで囲まれたものであり、−5℃での抵抗値が10Ω(合成抵抗値が5Ω)のものを用いた。
【0062】
車両内の配設場所としては、図2のサイドガラス下部7の位置に、車両内空間とは反対側面に面状発熱体3、断熱材の順に貼り合わせたものを用いた。
【0063】
並列接続された2枚の面状発熱体3に通電すると、その温度が上昇し、所定の温度に加熱される。
【0064】
今回の測定では環境温度を−5℃に設定し、14Vの直流電源で評価を行ったところ、突入時の各面状発熱体3の電流値は1.4Aで、15分後の面状発熱体の表面温度は50℃、立ち上がり、15分間の平均消費電力は2つの面状発熱体3の合計で30Wであった。
【0065】
電圧を印加した後約7分程度から右腕部を中心に暖かさの感覚が得られ始め、20分経過後は車両内の温度が低いにもかかわらず右腕部から、右腹部から右腰部にかけて暖かさ感覚を得ることができた。
【0066】
(実施の形態3)
図3は実施の形態3を示すもので、図2で示す運転席側の膝〜下腿部に対向した部位8に配設するための車両用暖房装置11として、4枚の面状発熱体12からなり、各面状発熱体12は電気絶縁性基材13上に、一対の電極14と高分子抵抗体15、及び電極14と高分子抵抗体15の双方に接触している導電性被覆層16から形成されている。
【0067】
なお、図3では直流電源と面状発熱体12との接続の様子を示したが、4つの面状発熱体12同士が並列に接続されていれば、発熱体同士の間隔や配線はどのようなものであっても構わない。
【0068】
さらに、面状発熱体12の人体を暖めるのとは逆側の面には断熱材などで熱の拡散を抑える工夫をする必要があるが、本実施の形態ではどのような方法を用いても構わない。
【0069】
1つの面状発熱体12は、電気絶縁性基材13と、一対の線条電極14と高分子抵抗体15、及び電極14と高分子抵抗体15の双方に接触している導電性被覆層16とからなる。
【0070】
線条電極14は、電気絶縁性基材13上に左右対称になるように配置される。
【0071】
高分子抵抗体15は線条電極14が配置された電気絶縁性基材13上に、例えばTダイ押し出し法によりフィルム状に押し出して形成されている。これにより高分子抵抗体15が線条電極14と電気絶縁性基材13とに熱融着している。
【0072】
高分子抵抗体15はPTC特性を有し、温度が上昇すると抵抗値が上昇して、所定の温度になるように自己温度調節機能を有する。
【0073】
すなわち、高分子抵抗体15は車両用暖房装置11に安全性が高く温度コントロールを不要とする機能を付与する。
【0074】
また、PTC特性のない発熱体に比べて、PTC特性を有する車両用暖房装置11は速熱性と省エネルギー性とを発揮することができる。
【0075】
PTC特性のない発熱体は、温度制御器を必要し、温度制御器はオン−オフ(ON−OFF)制御で通電を制御して発熱温度を制御している。特に、線条発熱線を用いたPTC特性のない発熱体の場合、線条発熱線間の低温部を回避するため、ON時の発熱体温度を目標温度よりかなり高温まで上昇させており、発熱体の温度を均一にするために均熱部材が別途必要となる。
【0076】
これに対し、本実施の形態における面状発熱体12では、高分子抵抗体15が均一に加熱され発熱体温度が自己制御される。
【0077】
そのため、発熱体温度が低く、速熱性と外部への放熱ロスを低減できため省エネルギー性を実現できる。
【0078】
電気絶縁性基材13は、例えばポリエステル繊維で作製されたニードルパンチタイプの不織布が用いられる。これ以外にポリエステル織布やポリエチレンテレフタレート(PET)などフィルム基材を用いてもよい。これらの電気絶縁性基材13は、柔軟性を付与し、配設される内装材が平面形状でない場合でも成形可能である。
【0079】
線条電極14は、金属導線と金属編組導線の少なくとも1種で構成される。これらの材料は、電気絶縁性基材13への縫製加工が容易であり、生産性が高い。
【0080】
線条電極14としては、銅、錫メッキを施した銅、銅−銀合金の単線、撚り線、編組線が使用可能である。特に、機械的強度の点では引っ張り強度の高い銅−銀のそれらを用いることが好ましい。
【0081】
高分子抵抗体15は、PTC特性の経時変化を抑制し、安定したPTC特性を再現するために、PTCを発現する被反応樹脂としてカルボキシル基を有する変性ポリエチレンと被反応樹脂と反応する反応性樹脂としてエポキシ基を有する変性ポリエチレンとを混成したものがよい。
【0082】
これは、被反応性樹脂の持つカルボニル基が反応性樹脂の持つエポキシ基の酸素と反応して化学結合し、架橋された構造を有することに起因している。この架橋反応により、被反応性樹脂単独の場合に比べ、熱的安定性を高めることができ、その結果、樹脂組成物中での導電体の導電パスの形成、及び切断する温度が安定する。
【0083】
この架橋反応は、酸素以外に窒素を介しても起こり得るものである。酸素と窒素の少なくともいずれかを含む官能基を有する反応性樹脂と、これら官能基と反応が可能な官能基を有する被反応性樹脂の組合せであれば架橋反応が起こることになり、反応性樹脂の反応性官能基と被反応樹脂の官能基との組み合わせとしては、上述のエポキシ基とカルボニル基以外に以下のものがある。
【0084】
エポキシ基は、上述のカルボン酸のカルボニル基以外に無水マレイン酸基などのカルボニル基、エステル基、水酸基、アミノ基、ビニル基と反応して付加重合する。これらの官能基を有する被反応樹脂を用いればよい。
【0085】
また、反応性樹脂の官能基としてはエポキシ基以外にオキサゾリン基や無水マレイン酸基を有する反応性樹脂を用いることもできる。
【0086】
また、PTC特性を発現させるための導電体としては、粒状導電体のカーボンブラック、繊維状導電体であれば酸化チタンに錫メッキしてアンチモンドープした導電性セラミック繊維、チタン酸カリウム系の導電性セラミックウィスカ、銅やアルミニウムなどの金属繊維、表面に導電層が形成された金属メッキガラス繊維、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、さらにはポリアニリンなどからなる繊維状の導電性ポリマーが挙げられる。
【0087】
また、繊維状導電体の代わりにフレーク状導電体を用いてもよい。フレーク状導電体としては、表面に導電層が形成されたマイカフレークなどのセラミックフレーク、銅やアルミニウムなどの金属フレーク、さらには鱗片状黒鉛が挙げられる。
【0088】
上述の導電体は、単独でも2種以上の混合でも用いることが可能で目標とするPTC特性に応じて適宜選択可能である。
【0089】
導電被覆層16の役割としては、電極14と高分子抵抗体15のそれぞれ同士の密着性を改善させることにある。
【0090】
導電被覆層16は大きく分類すると樹脂成分及び導電体成分により構成される。樹脂成分としては高分子抵抗体15と類似のものを利用することができ、可能な限り架橋反応を行っておくことが望ましい。
【0091】
具体的には樹脂成分としてエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂とエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合樹脂に、導電性成分として針状酸化チタンからなる導電性ウィスカとカーボンブラック、反応性添加剤を混練分散させたものを用い、銅−銀合金の撚り線外径250μmに対して被覆後の導電被覆層全体の外径が約950μmとなるように押出し成形した。比抵抗は5Ω・cmであった。
【0092】
このとき導電性被覆層16の導電体成分としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、導電性セラミック繊維、導電性ウィスカ、金属繊維、導電性無機酸化物、導電性ポリマー繊維などを用いることができる。
【0093】
これらの導電体を樹脂に混合、分散させた場合、柔軟性や屈曲性に優れるため、長期にわたり安定な高分子発熱体を提供することができる。
【0094】
また、無機系の導電材成分比率を高めることによって、電極14が仮に断線に近い状態になったとしても、被覆層が燃えにくい成分から構成されているために、より効果を発揮することができる。
【0095】
図3において4つの面状発熱体12の発熱部のそれぞれの大きさとしては、高分子抵抗体15が電極間隔50mm、電極長さ150mmで囲まれたものであり、−5℃での抵抗値が20Ωのもの(合成抵抗値が5Ω)を用いた。
【0096】
車両用暖房装置11の配設形態としては、図2で示される運転席側の膝〜下腿部に対向した部位8の車両空間側に表面部材、面状発熱体、断熱材の順番になるように貼り合せた
。並列接続された4枚の面状発熱体12に通電すると、それらの温度が上昇し、所定の温度に加熱される。
【0097】
今回の測定では環境温度を−5℃に設定し、15Vの直流電源で評価を行ったところ、突入時の各面状ヒータの電流値は0.75Aで、15分後の面状発熱体の表面温度は50℃、立ち上がり15分間の平均消費電力は2つの面状発熱体12の合計で32Wであった。
【0098】
電圧を印加した後約7分程度から膝部を中心に暖かさの感覚が得られ始め、20分経過後は車両内の温度が低いにもかかわらず足元を中心に充分な暖かさ感覚を得ることができた。
【0099】
(実施の形態4)
図4は実施の形態4を示し、車両用暖房装置21においては、実施の形態1と同様の材料を用いた。
【0100】
図4において、電気絶縁性基材22上の2つの面状発熱体23の発熱部のそれぞれの大きさとしては、高分子抵抗体24が電極25の間隔50mm、長さ150mmで囲まれたものと、電極25の間隔50mm、長さ75mmで囲まれたものであり、−5℃でのそれぞれの抵抗値が10Ω、15Ω(合成抵抗値が6Ω)のものを用いた。
【0101】
車両内の配設場所としては、図2のサイドガラス上部9の位置に、車両内空間とは反対側面に、面状発熱体、断熱材の順に貼り合わせたものを用いた。
【0102】
なお、このとき発熱密度の低い(つまり電極長さの短い方)の面状発熱体23を運転席に近い側に配置した。
【0103】
並列接続された2枚の面状発熱体22に通電すると、それらの温度が上昇し、所定の温度に加熱される。
【0104】
今回の測定では環境温度を−5℃に設定し、12Vの直流電源で評価を行ったところ、突入時の各面状ヒータの電流値はともに1.5Aを超えず、15分後の面状発熱体22の表面温度は42℃、立ち上がり15分間の平均消費電力は2つの面状発熱体22の合計で20Wであった。
【0105】
電圧を印加した後約7分程度から右頭部を中心に暖かさの感覚が得られ始め、20分経過後は車両内の温度が低いにもかかわらず頭部〜顔全体に暖かさ感覚を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上のように、本発明にかかる車両用暖房装置は、車両内といった限られた電気容量の場合においても快適な暖房使用感を得ることができ、また長期使用時においても問題の発生しない高信頼性の装置を提供することができる。特に今後の販売伸びが期待されるハイブリッド車や電気自動車、燃料電池自動車などの車両内暖房装置としてその効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態1における車両用暖房装置における面状発熱体の平面配置図
【図2】本発明の実施の形態2を示す車両用暖房装置の配設場所説明図
【図3】本発明の実施の形態3における車両用暖房装置における面状発熱体の平面配置図
【図4】本発明の実施の形態4における車両用暖房装置における面状発熱体の平面配置図
【符号の説明】
【0108】
2,11,21 車両用暖房装置
3,12,23 面状発熱体
4,13.22 電気絶縁性基材
5,14,25 電極
6,15,24 高分子抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内の内装材にPTC特性を有する高分子型の面状発熱体を配設し、前記面状発熱体は、車両内温度が−5℃における突入電流値IがI(−5℃)≦1.5Aとなるように複数並列接続したものであって、かつ消費電力を20Wh以上で、かつ50Wh以下に設定した車両用暖房装置。
【請求項2】
天井部、サイドガラス上部、サイドガラス下部、センターピラーあるいは膝〜下腿部に対向した部位の少なくともひとつの内装材に配設した請求項1記載の車両用暖房装置。
【請求項3】
複数並列接続した面状発熱体は異なる発熱密度に設定した請求項1または2記載の車両用暖房装置。
【請求項4】
面状発熱体の発熱密度を人体からの距離が近いほど低くした請求項3記載の車両用暖房装置。
【請求項5】
電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材上に配設された一対の電極と、PTC特性を有する高分子抵抗体とで面状発熱体を形成した請求項1〜4いずれか1項に記載の車両用暖房装置。
【請求項6】
電気絶縁性基材と、前記電気絶縁性基材上に配設された一対の電極と、PTC特性を有する高分子抵抗体とで面状発熱体を形成し、かつ前記電極と高分子抵抗体との双方に接触する導電被覆層を有する請求項5記載の車両用暖房装置。
【請求項7】
面状発熱体における導電被覆層の導電体成分が、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、導電性セラミック繊維、導電性ウィスカ、金属繊維、導電性無機酸化物、導電性ポリマー繊維の少なくとも一種から選ばれる導電体からなることを特徴とする請求項6項に記載の車両用暖房装置。
【請求項8】
面状発熱体における電気絶縁性基材が樹脂フィルム、織布、不織布の少なくとも1種からなる請求項5または6記載の車両用暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132055(P2010−132055A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308175(P2008−308175)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】