説明

車両用空調装置

【課題】空調装置から漏洩した冷媒の車室内への流入を防止することを課題とする。
【解決手段】空調ケーシング1内に配置された蒸発器4で冷媒との間で熱交換された空気を車室内に送出する車両用空調装置において、蒸発器4から冷媒の漏洩あるいは漏洩の可能性を検出する漏洩検出手段と、少なくとも空調ケーシング1内に漏洩した冷媒を隔離するインテークドア2ならびにモードドア10,11,12と、蒸発器4から漏洩し、インテークドア2ならびにモードドア10,11,12によって隔離された冷媒を、開放された吸引路13を介してエンジンの吸気動作により負圧が生じている吸気側の負圧領域に吸引して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調装置から冷媒が漏洩した際に冷媒の車室内への流入を抑制した車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば以下に示す文献に記載されたものが知られている(特許文献1参照)。この文献1には、蒸発器の空気流れ下流側に空気通路を閉塞するシャッタードアを設け、シャッタードアより空気流れ上流側に排出口を開閉する排出ドアを設け、送風機より送風された空気を蒸発器を迂回させてヒータに導くバイパス通路を開閉するバイパスドアを設け、蒸発器から冷媒が空調ケーシング内に漏れ出た場合には、シャッタードアを閉じて排出口及びバイパス通路を開いた状態で送風機を稼動させることにより、蒸発器から漏れ出た冷媒を外部に放出する技術が記載されている。
【0003】
また、同文献1には、上記技術を改良した車両空調装置として、送風機から蒸発器に至る第1送風通路内外を連通させる排出口を開閉する排出ドアを設け、送風機から送風された空気を蒸発器を迂回させてヒータの空気流れ上流側に導く第2送風通路と第1送風通路とを切り替え開閉する通路バイパスドアを設け、空調ケーシング内に冷媒が漏れ出たことを検出したときには、排出口を開くとともに、第2送風通路側を開き、かつ第1送風通路側を閉じることにより、空調ケーシング内に漏れ出た冷媒を排出口から車室外に排出する技術が記載されている。
【0004】
一方、以下に示す他の特許文献2には、室内と室外間の区画壁と熱交換器との間に、室内機内の熱交換器と冷媒が流通する配管とが機械的に接続される接続部および配管を囲むカバー部材を設け、このカバー部材で配管を含む接続部近傍を囲むようにすることで、冷媒洩れによる室内への流出防止を安価な構成で対応した技術が記載されている。
【特許文献1】特開2004−189129
【特許文献2】特開2002−174448
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の車両用空調装置においては、漏洩した冷媒を車室外に排出するために、複雑な連通経路や複数の開閉ドア、カバー部材を設けているので、構成の大型化や複雑化、組み付け作業に必要となる時間の増大、ならびにコストの上昇を招いていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、空調装置から漏洩した冷媒の車室内への流入を防止した車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の課題を解決する手段は、空調ケーシング内に配置された熱交換手段で冷媒との間で熱交換された空気を車室内に送出する車両用空調装置において、前記熱交換手段から冷媒の漏洩あるいは漏洩の可能性を検出する冷媒漏洩検出手段と、少なくとも前記空調ケーシング内に漏洩した冷媒を隔離する冷媒隔離手段と、前記熱交換手段から漏洩し、前記冷媒隔離手段によって隔離された冷媒をエンジンの吸気作用により負圧が生じている負圧領域に吸引する吸引手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、漏洩した冷媒を隔離して空調ケーシング外に吸引することで、漏洩した冷媒の車室内への侵入を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は本発明の実施例1に係る車両用空調装置の構成を示す図である。図1に示す実施例1の装置において、空調ケーシング1は、車室内に空気を送出する通路を構成するダクト手段であり、この空調ケーシング1の空気流れ最上流側には、インテークドア2が設けられている。このインテークドア2は、車室内から空調ケーシング1に空気を取り込む(内気循環)か、もしくは車室外から空調ケーシング1に空気を取り込む(外気導入)かを切り替える手段である。このインテークドア2の空気流れ下流側には、空調ケーシング1内の空気を下流側に送風する送風機3が設けられている。この送風機3の空気流れ下流側には、空気と冷媒とを熱交換して空気を冷却する蒸発器4が設けられている。この蒸発器4は、減圧された例えば二酸化炭素の冷媒を蒸発させることで冷却機能を有する熱交換器である。なお、冷媒としては、二酸化炭素の他に例えばプロパンやアンモニア等を用いることも可能である。
【0011】
蒸発器4の空気流れ下流側には、空気と熱媒体とを熱交換して空気を加熱する熱交換器のヒータ5が設けられている。ヒータ5の空気流れ上流側には、ヒータ5に空気を供給するか否かを切り替えるヒータドア6が設けられている。
【0012】
空調ケーシング1の空気流れ最下流側には、空調ケーシング1から車両の窓ガラスに空気を送出するデフロスタ送出口7、空調ケーシング1から車室内の乗員の主に上半身に空気を送出するフェイス送出口8、ならびに乗員の主に下半身に空気を送出するフット送出口9が設けられている。デフロスタ送出口7には、空調ケーシング1と車室内とを連通制御するモードドア10が設けられ、同様にフェイス送出口8には、空調ケーシング1と車室内とを連通制御するモードドア11が設けられ、フット送出口9には、空調ケーシング1と車室内とを連通制御するモードドア12が設けられている。これらのモードドア10,11,12を閉じることで、空調ケーシング1と車室内とは非連通状態となる。
【0013】
蒸発器4の空気流れ上流側には、蒸発器4から漏洩した冷媒を空調ケーシング1外に吸引する際の吸引経路となる吸引路13が設けられている。この吸引路13には、吸引路13を連通制御する連通制御バルブ14が設けられている。この吸引路13の空気流れ下流側は、エンジンの気筒16が吸気ポート17を介して吸気動作を行う際に大気圧に対して負圧となる吸気側の負圧領域に接続されている。この負圧領域には、この負圧を利用してブレーキ力をアシストする真空倍力装置15が接続されている。
【0014】
また、この実施例1の車両用空調装置は、冷媒の漏洩を検出する冷媒漏洩検出手段(図示せず)、ならびに空調コントロールユニット18を備えている。
【0015】
冷媒漏洩検出手段は、冷媒の二酸化炭素もしくは酸素の濃度を検出する濃度センサで構成され、この濃度センサは空調ケーシング1内もしくは車室内に設けられる。あるいは、冷媒漏洩検出手段は、この車両用空調装置が搭載された車両の衝突を検出する車両衝突検知手段で構成される。この車両衝突検知手段は、車両の走行全般を制御し、車両が衝突した際に搭載したエアバッグを作動制御する機能を備えた例えば車両コントロールユニット19で構成される。この場合には、エアバッグを作動させるエアバッグ作動信号が車両コントロールユニット19から空調コントロールユニット18に出力され、エアバッグが作動する程度の車両の衝突により冷媒が漏洩するおそれがあるものと推定し、冷媒漏洩検出手段で冷媒の漏洩が検出されたものと見なす。
【0016】
空調コントロールユニット18は、本車両用空調装置の運転を制御する制御中枢として機能し、プログラムに基づいて各種動作処理を制御するコンピュータに必要な、CPU、記憶装置、入出力装置等の資源を備えた例えばマイクロコンピュータ等により実現される。空調コントロールユニット18は、上記冷媒濃度検出手段を含む各種センサ(図示せず)で収集された信号を読み込み、読み込んだ各種検出信号ならびに予め内部に保有する制御ロジック(プログラム)に基づいて、インテークドア2、送風機3、蒸発器4、ヒータ5、ヒータドア6、モードドア10,11,12、連通制御バルブ14に動作制御信号を送り、以下に説明する冷媒が漏洩した際の動作を含む本装置の運転に必要なすべての動作を統括管理して制御する。
【0017】
次に、図2のフローチャートを参照して蒸発器4から冷媒が漏洩した際の動作を説明する。
【0018】
先ず、冷媒漏洩検出手段で蒸発器4から冷媒が漏洩したか否かを判別する。冷媒漏洩手段が上述した冷媒の濃度を検出する濃度センサで構成されている場合には、濃度センサで検出された濃度が予め設定された濃度以上であれば冷媒が漏洩しているものと判別する。一方、冷媒漏洩手段が上述した車両衝突検知手段で構成されている場合には、エアバッグ作動信号が車両コントロールユニット19から空調コントロールユニット18に与えられると、車両の衝突により蒸発器4が破損、故障して冷媒が漏洩する可能性があるとして冷媒が漏洩したものと見なす(ステップS21)。
【0019】
冷媒の漏洩が検出されると、送風機3を停止して空気の送風を停止する(ステップS22)。続いて、すべてのモードドア10,11,12を閉じ(ステップS23)、その後インテークドア2を外気導入側に切り替える(ステップS24)。これにより、蒸発器4から空調ケーシング1内に漏洩した冷媒は、車室内の乗員から隔離される。
【0020】
次に、吸引路13の連通制御バルブ14を閉状態から開放して、吸引路13を介して空調ケーシング1とエンジンの吸気側とを接続して連通状態とする(ステップS25)。これにより、エンジンの吸気動作により負圧領域となるエンジンの吸気側に、空調ケーシング1内に漏洩した冷媒が強制的に吸引される。
【0021】
これにより、漏洩した冷媒を大気圧に放出する場合に比べて、確実かつ迅速に漏洩した冷媒を車室外に排出することができる。また、インテークドア2の内外に例えば衝突等で空気の流通を妨げる障害物が存在し、インテークドア2を介して外気側に放出されないような状況においても、漏洩した冷媒を隔離した後エンジンの吸気側に吸引することで、漏洩した冷媒を確実に車室外に排出することが可能となる。また、多量の冷媒が漏洩した場合に、送風機3を停止して各モードドア10,11,12を閉じただけでは、各モードドア10,11,12の隙間等から漏洩した冷媒が車室内に流入するおそれがあるが、漏洩した冷媒を吸引することで、車室内への侵入、ならびに空調ケーシング1から車室外に放出された冷媒の空調ケーシング1内への再流入を確実に防止することができる。
【0022】
冷媒漏洩検出手段として車両衝突検知手段のエアバッグ作動信号を採用することで、冷媒の漏洩を検出して漏洩した冷媒の吸引動作を確実に行うことが可能となり、かつ冷媒の漏洩を検出するセンサ類の構成を新たに設ける必要はなくなる。
【0023】
従来から車両用の空調装置に装備されているインテークドア2ならびに各モードドア10,11,12で漏洩した冷媒を少なくとも空調ケーシング1内に隔離する手段を構成することにより、隔離手段として新たな構成を設ける必要はなく、構成の大型化を回避することができる。
【0024】
なお、図3のフローチャートに示すように、図2のフローチャートに示すと同様のステップS21〜ステップS25の動作を行った後、真空倍力装置15内の圧力を圧力センサ(図示せず)で検出し、検出した圧力が予め設定された所定の圧力以上であるか否かを判別し(ステップS26)、漏洩した冷媒の吸引動作により真空倍力装置15内の圧力が所定の圧力以上になった場合には、吸引路13の連通制御バルブ14を閉じて(ステップS27)、吸引動作を停止するようにしてもよい。このような動作を採用することで、エンジンの吸気側の負圧領域に接続された真空倍力装置15によるブレーキのアシスト力の低下を防止することができる。したがって、上記所定の圧力としては、アシスト力の低下を招かない程度の値に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用空調装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る動作の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係る他の動作の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0026】
1…空調ケーシング
2…インテークドア
3…送風機
4…蒸発器
5…ヒータ
6…ヒータドア
7…デフロスタ送出口
8…フェイス送出口
9…フット送出口
10,11,12…モードドア
13…吸引路
14…連通制御バルブ
15…真空倍力装置
16…気筒
17…吸気ポート
18…空調コントロールユニット
19…車両コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調ケーシング内に配置された熱交換手段で冷媒との間で熱交換された空気を車室内に送出する車両用空調装置において、
前記熱交換手段から冷媒の漏洩あるいは漏洩の可能性を検出する冷媒漏洩検出手段と、
少なくとも前記空調ケーシング内に漏洩した冷媒を隔離する冷媒隔離手段と、
前記熱交換手段から漏洩し、前記冷媒隔離手段によって隔離された冷媒をエンジンの吸気作用により負圧が生じている負圧領域に吸引する吸引手段と
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記冷媒漏洩検出手段で冷媒の漏洩もしくは漏洩の可能性が検出された場合には、前記空調ケーシング内の空気を送風する送風機を停止させる停止手段
を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷媒漏洩検出手段は、車両の衝突を検知する車両衝突検知手段で構成され、前記車両衝突検知手段で車両の衝突が検知されたときに冷媒の漏洩の可能性を検出する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記冷媒隔離手段は、前記空調ケーシング内に導入される空気の導入口の外気側と車室内側とを切り替えるインテークドアと、前記空調ケーシング内の空気を車室内に送出する送出口を開閉するモードドアで構成され、冷媒が漏洩した際には、前記インテークドアを外気側に切り替え、前記モードドアを閉じて前記車室内と前記空調ケーシングとを遮断する
ことを特徴とする請求項1,2及び3のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
エンジンの吸気作用により生じた負圧を利用してブレーキ力をアシストする真空倍力装置内の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記吸引手段は、前記圧力検出手段で検出された圧力が所定の圧力以上になった場合に吸引を停止する
ことを特徴とする請求項1,2,3及び4のいずれか1項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−94340(P2008−94340A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281206(P2006−281206)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】