説明

車両用電力変換器の制御装置

【課題】車両用電力変換器の制御装置における車両制御手段と変換器制御手段間の通信について高速化、処理負荷低減を図る。
【解決手段】運転指令を受ける車両制御手段1と、該手段1の制御指令に応じて電力変換器5a、5bを制御する変換器制御手段2a、2bと、両手段1、2a、2bを接続するハブ型ネットワーク31a、31bからなり、車両制御手段は、変換器制御手段に対してマルチキャスト通信により制御指令を送信し、変換器制御手段は、車両制御手段、他変換器制御手段に対してマルチキャスト通信により運転状態を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用インバータ、車両用コンバータ及び車両用電源装置等の車両用電力変換器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用電力変換器の制御装置は、マスコンからのノッチ指令、応荷重指令、ブレーキ力指令及び主回路の断流器信号等、車両の運転状態を決定するために必要な運転情報により運転状態を決定する車両制御手段と、決定した運転状態に応じて電力変換器を制御する変換器制御手段を、独立した通信制御装置により1対1のシリアル通信にて接続する構成となっている。車両制御手段には複数台の変換器制御手段を接続することが可能で、これにより制御装置に運転情報を伝達する電線を集約し、配線量を低減させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−155201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の複数台の変換器制御手段を、独立した通信制御装置により1対1のシリアル通信にて接続する構成では、各々の変換器制御手段に同一の運転状態を伝達する場合においても、各々の通信制御装置を制御する必要があり、変換器制御手段の台数が増えることで、車両制御手段の通信処理負荷が増大する問題があった。また、あらかじめ車両制御手段に実装している通信制御装置の数を超える変換器手段を接続する場合には、変換器制御手段の台数に応じて車両制御手段を改造、新規製作する必要がある。
【0005】
さらに、特許文献1記載の従来技術は、一台の変換器制御手段が電動機の空転又は滑走を検知した場合、車両制御手段に空転又は滑走データを送信し、受信した車両制御手段が他の変換器制御手段に電流指令値を低減させる指令データを送信する方式としているため、一台の変換器制御手段が空転又は滑走を検知した時点から、他の変換器制御手段が指令データを受信するまで、車両制御手段を介す分の遅延が発生する問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、車両制御手段と変換器制御手段をハブ型のイーサネット(登録商標)により接続することで解決される。車両制御手段は、複数台の変換器制御手段に送信する指令データを、1つの送信データにまとめてマルチキャストすることにより、送信処理を集約することが可能となる。
【0007】
また、車両制御手段に実装している通信制御装置の数を超える変換器制御手段を接続する場合には、スイッチングハブ装置の追加により通信制御装置の増設が可能となり、車両制御手段の変更が不要となる。一台の変換器制御手段が電動機の空転又は滑走を検知した場合、検知した変換器制御手段が車両制御手段の通信制御を介さず、直接他の変換器制御手段に電動機の制御状態を送信することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、ハブ型ネットワークによって車両制御手段と変換器制御手段を接続することにより、変換器制御手段の台数によらずネットワークを構成することが可能となる。また、車両制御手段と変換器制御手段を分離して車両に実装することが可能となり、車両制御手段を車両情報制御装置に集約することが可能である。
【0009】
車両制御手段から変換器制御手段に電動機のトルク指令を与えることにより、変換器制御手段は、電動機電流目標値の演算処理を省略することが可能となる。
【0010】
車両制御手段から変換器制御手段に電動機の電流指令を与えることにより、インバータ装置の制御対象である電動機電流を制御指令とすることで、制御上の無駄な処理を省略することが可能となる。
【0011】
車両制御手段が複数台の変換器制御手段に個別の制御指令を渡すことにより、各々の変換器制御手段が制御対象の電動機を独立して制御することが可能となり、車両全体の制御性能の向上が期待できる。
【0012】
変換器制御手段が他変換器制御手段に運転状態を送信する場合において、車両制御手段のマイコン処理を介さず直接送信することが可能となり、空転・滑走制御性能の向上が期待できる。
【0013】
車両制御手段はハブ型ネットワークに接続された複数台の変換器制御手段に対して、1回のマルチキャスト通信により制御指令の送信が可能であるため、従来の各々の変換器制御手段に送信する方式と比較して、通信処理負荷を低減することが可能となる。
【0014】
ハブ型ネットワークに加え、故障情報連絡用の通信手段を備えることにより、変換器制御手段が検知した故障情報を速やかに車両制御手段に送信することが可能となり、信頼性の向上が期待できる。
【0015】
インバータ装置用変換器制御手段、コンバータ装置用変換器制御手段、電源装置用変換器制御手段を一台の車両制御手段にハブ型ネットワークに接続することにより、車両情報制御装置からの運転指令の集約が可能となり、車両内の制御配線数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施形態による車両用電力変換器の制御装置である。
【図2】図2は本発明の制御指令の処理を説明する図である。
【図3】図3は本発明の変換器制御手段が運転状態を送信する方法を説明する図である。
【図4】図4は本発明のコンバータ装置、インバータ装置、電源装置を制御する場合の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態による車両用電力変換器の制御装置を示す。なお、本実施形態では2台のインバータ装置を駆動する場合について説明する。
【0018】
本実施形態において、車両制御手段1は、マイコン10、車両情報制御装置インタフェース11、イーサネット(登録商標)インタフェース12、スイッチングハブ13、デジタル出力インタフェース14、デジタル入力インタフェース15からなり、車両情報制御装置インタフェース11に車両情報制御装置3より出力される運転指令22を入力し、デジタル入力インタフェース15に断流器4の接点信号24及び変換制御手段2a、2bの故障信号32a、32bを入力する。
【0019】
マイコン10は、運転指令22、接点信号24および故障信号32a、32bより断流器状態、制御指令を決定する。ここで決定した断流器状態によりデジタル出力インタフェース14から断流器4に駆動信号23を出力し、決定した制御指令をイーサネットインタフェース12、スイッチングハブ13を介してイーサネット信号31a、31bを変換器制御手段2a、2bのイーサネットインタフェース19a、19bに出力する。
【0020】
次に、2台の変換器制御手段2a、2bは、マイコン16a、16b、アナログ入力インタフェース17a、17b、デジタル出力インタフェース18a、18b、イーサネットインタフェース19a、19b、パルスインタフェース20a、20b、ロジック回路21a、21bからなり、マイコン16a、16bはイーサネットインタフェース19a、19bを介してイーサネット信号31a、31bから制御指令を取り込む。
【0021】
マイコン16a、16bは、ロジック回路21a、21bを介してPWMパルス信号30a、30bを出力し、インバータ装置5a、5bを駆動する。これにより3相誘導電動機6a、6bの回転速度が制御される。3相誘導電動機6a、6bの回転速度は、パルス発生器7a、7bで速度に比例したパルス列29a、29bに変換し、パルスインタフェース20a、20bを介してマイコン16a、16bに入力する。速度センサレス制御の場合は、電動機電流より電動機の回転速度を推定するため、パルス発生器7a、7bを省略することが可能である。
【0022】
また、電流検出器8ua、8va、8wa及び8ub、8vb、8wbで検出した電動機電流26a、27a、28a及び26b、27b、28bと、電圧検出器9a、9bで検出したインバータ装置5a、5bの直流電源電圧25a、25bはアナログ入力インタフェース17a、17bを介してマイコン16a、16bに入力する。電動機電流は、2相分の電流値を足し合わせ反転させることにより残り1相の電流値を得られるため、電流検出器は1電動機あたり2個に省略可能である。
【0023】
変換器制御手段2a、2bは、PWMパルス信号30a、30bの異常をロジック回路21a、21bが検知した場合、電動機電流26a、27a、28a及び26b、27b、28bの過大を電流検出器8ua、8va、8wa及び8ub、8vb、8wbが検出した場合など、迅速な保護動作が必要となる故障が発生した場合、ロジック回路21a、21bによりPWMパルス信号30a、30bを停止すると共に、デジタル出力インタフェース18a、18bを介して故障信号32a、32bを出力する。
【0024】
車両制御手段1は、デジタル入力インタフェース15に故障信号32a、32bを入力し、断流器4の駆動信号23を制御してインバータ装置5a、5bに供給する電源を切り離す。
【0025】
変換器制御手段2a、2bは、イーサネット信号31a、31bから他変換制御手段の故障状態を検知し、該当インバータ装置5a、5bのPWMパルス信号30a、30bを停止する。
【0026】
以下、車両制御手段の制御指令伝送方法について図2を用いて説明する。車両制御手段1のマイコン10は、運転指令22、接点信号24および故障信号32a、32bより、変換器制御手段2a、2bに送信する制御指令33を決定する。制御指令33は、変換器制御手段2a、2bに共通して伝送する共通制御指令34、変換器制御手段2aに伝送するA系制御指令35および変換器制御手段2bに伝送するB系制御指令36から構成する1つのパケットである。
【0027】
マイコン10は、決定した制御指令33をイーサネットインタフェース12、スイッチングハブ13を介してマルチキャスト通信でイーサネット信号31a、31bに出力する。変換器制御手段2aのマイコン16aは、イーサネットインタフェース19aを介してイーサネット信号31aから制御指令33を取り込み、共通制御指令34、A系制御指令35に基づき制御を実行する。変換器制御手段2bのマイコン16bは、イーサネットインタフェース19bを介してイーサネット信号31bから制御指令33を取り込み、共通制御指令34、B系制御指令36に基づき制御を実行する。
【0028】
以下、変換器制御手段の運転状態伝送方法について図3を用いて説明する。変換器制御手段は、制御対象の電動機に接続された車輪の空転又は滑走を検知した場合、該当電動機の出力トルクを低減させると共に、他変換器制御手段に対し他変換器制御手段の制御対象である電動機の出力トルクを低減させるよう該当電動機の運転状態を伝送する。
【0029】
変換器制御手段2aのマイコン16aは、パルスインタフェース20aを介してパルス列29aを入力して3相誘導電動機6aに接続された車輪の回転速度を演算する。マイコン16aは、車輪の回転速度の急峻な変化により3相誘導電動機6aに接続された車輪の空転又は滑走を検知した場合、空転又は滑走状態から回復するようインバータ装置5aのPWMパルス信号30aを制御して3相誘導電動機6aのトルクを低下させるとともに、インバータ装置5aの運転状態(A系運転状態37)をイーサネットインタフェース19aを介してイーサネット信号31aに出力する。
【0030】
車両制御手段1のマイコン10は、スイッチングハブ13、イーサネットインタフェース12を介してイーサネット信号31aからA系運転状態37を入力する。変換器制御手段2bのマイコン16bは、スイッチングハブ13、イーサネットインタフェース19bを介した通信経路38よりイーサネット信号31bからA系運転状態37を入力し、変換器制御手段2aが空転又は滑走により出力トルクを低減させる運転状態であった場合、インバータ装置5bのPWMパルス信号30bを制御して3相誘導電動機6bのトルクを低下させる。
【0031】
ここで、マイコンの処理時間をt1、車両制御手段1と変換器制御手段2a、2bとのイーサネット通信に要する時間をt2とした場合、従来の制御装置では変換器制御手段2aが空転又は滑走を検知した場合、変換器制御手段2bが変換器制御手段2aの運転状態37を受信するまでの時間は、変換器制御手段2aのマイコン16aが送信処理する時間t1、車両制御手段1のイーサネットインタフェース12がイーサネット信号31aを受信する時間t2、車両制御手段1のマイコン10が受信処理する時間t1、車両制御手段1のマイコン10が送信処理する時間t1、変換器制御手段2bのイーサネットインタフェース19bがイーサネット信号31bを受信する時間t2、変換器制御手段2bのマイコン16bが受信処理する時間t1の延べt1×4+t2×2の時間が必要となる。
【0032】
本発明の制御装置によれば、変換器制御手段2bが変換器制御手段2aの運転状態37を受信するまでの時間は、変換器制御手段2aのマイコン16aが送信処理する時間t1、変換器制御手段2bのイーサネットインタフェース19bがイーサネット信号31bを受信する時間t2、変換器制御手段2bのマイコン16bが受信処理する時間t1の延べt1×2+t2の時間となり、従来の方式と比較して大幅に通信時間を低減することが可能である。
【0033】
以上説明した車両用電力変換器の制御装置では、車両用インバータを制御対象とした。以下、本発明の車両用電力変換器の制御装置によって車両用インバータ、車両用コンバータ及び車両用電源装置を制御する場合の構成について図4を用いて説明する。
【0034】
電源装置51、コンバータ装置52、インバータ装置53を制御する車両用電力変換器の制御装置は、電源装置用変換器制御手段42、コンバータ装置用変換器制御手段43、インバータ装置用変換器制御手段44、車両制御手段39からなり、制御対象となる電力変換器に1台ずつ変換器制御手段を備えた構成となる。各々の変換器制御手段は、イーサネットインタフェース45、46、47を介し、イーサネット信号48、49、50で車両制御手段39のスイッチングハブ40、イーサネットインタフェース41と接続される。車両制御手段39は、車両情報制御装置54からの運転指令55に基づき、各々の変換器制御手段の制御指令を決定し、イーサネットインタフェース41、スイッチングハブ40を介してイーサネット信号48、49、50を出力する。
【0035】
なお、本実施形態では、インバータ装置、コンバータ装置、電源装置を1台ずつの計3台を制御する構成にて説明したが、本発明は、ハブ型ネットワークを採用しているため、ネットワークに接続する制御手段の台数に応じてスイッチングハブ装置を増設することにより、制御対象となる装置が何台であっても構成は可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 車両制御手段
2a 変換器制御手段
2b 変換器制御手段
3 車両情報制御装置
4 断流器
5a インバータ装置
6a 3相誘導電動機
6b 3相誘導電動機
7a パルス発生器
7b パルス発生器
8ua 電流検出器
8va 電流検出器
8wa 電流検出器
8ub 電流検出器
8vb 電流検出器
8wb 電流検出器
9a 電圧検出器
9b 電圧検出器
10 マイコン
11 車両情報制御装置インタフェース
12 イーサネットインタフェース
13 スイッチングハブ
14 デジタル出力インタフェース
15 デジタル入力インタフェース
16a マイコン
16b マイコン
17a アナログ入力インタフェース
17b アナログ入力インタフェース
18a デジタル出力インタフェース
18b デジタル出力インタフェース
19a イーサネットインタフェース
19b イーサネットインタフェース
20a、パルスインタフェース
20b パルスインタフェース
21a ロジック回路
21b ロジック回路
22 運転指令
23 駆動信号
24 接点信号
25a 直流電源電圧
25b 直流電源電圧
26a 電動機電流
26b 電動機電流
27a 電動機電流
27b 電動機電流
28a 電動機電流
28b 電動機電流
29a パルス列
29b パルス列
30a PWMパルス信号
30b PWMパルス信号
31a イーサネット信号
31b イーサネット信号
32a 故障信号
32b 故障信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
力行又はブレーキの運転指令に基づき車両の電動機の加減速度を制御するための制御指令を決定する車両制御手段と、決定した前記制御指令に応じて電力変換器を制御する変換器制御手段を備え、前記車両制御手段と前記変換器制御手段をハブ型ネットワーク通信手段で接続することを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、前記車両制御手段から前記変換器制御手段へ渡す制御指令は、電動機のトルク指令であることを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、前記車両制御手段から前記変換器制御手段へ渡す制御指令は、電動機の電流指令であることを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、前記車両制御手段は、複数台の前記変換器制御手段と接続し、それぞれの前記変換器制御手段に対して個別の制御指令を渡すことを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、複数台の前記変換器制御手段を有し、前記変換器制御手段は、前記車両制御手段および他の前記変換器制御手段に対し、電動機の制御状態をハブ型ネットワーク通信手段により直接送信することを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、複数台の前記車両制御手段、または、複数台の前記変換器制御手段に送信するデータをマルチキャスト通信することを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、前記車両制御手段と前記変換器制御手段を前記ハブ型ネットワーク通信手段に加え、故障情報連絡用の通信手段を備えたことを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、前記変換器制御手段は車両用インバータに加えてコンバータの制御を行うことを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両用電力変換器の制御装置において、前記変換器制御手段は車両用インバータに加えて車両用電源装置の制御を行うことを特徴とする車両用電力変換器の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−4540(P2011−4540A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146285(P2009−146285)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】