説明

車両用駆動力制御装置

【課題】減速後の再加速時におけるドライバビリティを向上させる車両用駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン12と自動変速機16との間の動力伝達経路にトルクコンバータ14を備えた駆動力伝達装置において、前記エンジン12の出力トルクを制御する車両用駆動力制御装置であって、車両加速時において、予め定められた関係から前記トルクコンバータ14の入力トルク容量に相当するポンプトルクTpに基づいて前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定するものであることから、前記エンジン12の回転速度変化及びトルクコンバータ14の速度比eを考慮してそのエンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定できるため、減速後においても良好な加速特性を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に流体式動力伝達装置を備えた駆動力伝達装置において、前記駆動力源の出力トルクを制御する車両用駆動力制御装置に関し、特に、減速後の再加速時におけるドライバビリティを向上させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に流体式動力伝達装置(トルクコンバータ)を備えた駆動力伝達装置が知られている。斯かる駆動力伝達装置において、減速後の加速ショックを低減するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたトルクコンバータ付内燃機関の制御装置がそれである。この技術によれば、車両減速時における流体式動力伝達装置のスリップ量に応じて内燃機関の吸入空気量及び点火遅角量の補正値を算出し、その算出された補正値に応じて内燃機関の吸入空気量及び点火遅角量を補正して内燃機関の出力トルクを制御することにより、減速後の加速ショックを低減して良好な加速フィーリングが得られるとされている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−42370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術は、流体式動力伝達装置のスリップ量に応じて吸入空気量及び点火遅角量を補正するものであることから、アクセル踏込後の流体式動力伝達装置のスリップ量は成り行きとなってしまい、良好なドライバビリティが得られない可能性があった。すなわち、減速後の再加速時におけるドライバビリティを向上させる車両用駆動力制御装置の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、減速後の再加速時におけるドライバビリティを向上させる車両用駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、駆動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に流体式動力伝達装置を備えた駆動力伝達装置において、前記駆動力源の出力トルクを制御する車両用駆動力制御装置であって、車両加速時において、予め定められた関係から前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量に基づいて前記駆動力源の出力トルク要求量を決定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、駆動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に流体式動力伝達装置を備えた駆動力伝達装置において、前記駆動力源の出力トルクを制御する車両用駆動力制御装置であって、車両加速時において、予め定められた関係から前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量に基づいて前記駆動力源の出力トルク要求量を決定するものであることから、前記駆動力源の回転速度変化及び流体式動力伝達装置の速度比を考慮してその駆動力源の出力トルク要求量を決定できるため、減速後においても良好な加速特性を実現することができる。すなわち、減速後の再加速時におけるドライバビリティを向上させる車両用駆動力制御装置を提供することができる。
【0008】
ここで、好適には、前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量は、予め定められた性能曲線からその流体式動力伝達装置の入出力速度比に基づいて導出されるものである。このようにすれば、実用的な態様で前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量を導出することができる。
【0009】
また、好適には、前記駆動力源の出力トルク要求量は、前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量以上となるように決定されるものである。このようにすれば、前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量に所定の加速感向上トルク補正値を加味する等して、実用的な態様で好適な減速後の再加速を実現できる。
【0010】
また、好適には、前記駆動力源の出力トルク要求量は、予め設定された加速感向上トルクを前記流体式動力伝達装置の出力トルク容量に加算することにより決定されるものである。このようにすれば、実用的な態様で好適な駆動力源の出力トルク要求量を決定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明が好適に適用される車両用駆動力伝達装置10(以下、単に伝達装置10という)の骨子図である。この伝達装置10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、走行用の駆動力源であるエンジン12と、そのエンジン12のクランク軸に連結された流体式動力伝達装置であるトルクコンバータ14と、そのトルクコンバータ14の出力軸に連結された自動変速機16とを、備えて構成されている。この自動変速機16は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置18を主体として構成されている第1変速部20と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置22及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置24を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部26とを同軸線上に有し、入力軸28の回転を変速して出力回転部材30から出力させる。上記入力軸28は入力部材に相当するものであり、本実施例においては、上記エンジン12によって回転駆動される上記トルクコンバータ14のタービン軸である。また、上記出力回転部材30は自動変速機16の出力部材に相当するものであり、図3に示す差動歯車装置42に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)44と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能する。上記エンジン12の出力は、トルクコンバータ14、自動変速機16、差動歯車装置42、及び左右一対の車軸46を介して左右一対の駆動輪(前輪)48へ伝達されるようになっている。なお、この伝達装置10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
【0013】
上記エンジン12は、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。また、上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車34と、上記自動変速機16の入力軸28に連結されたタービン翼車36と、一方向クラッチによって上記自動変速機16のハウジング32に対する一方向の回転が阻止されているステータ翼車38とを備え、上記ポンプ翼車34とタービン翼車36との間で流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。また、上記ポンプ翼車34及びタービン翼車36の間には、それらを直結するためのロックアップクラッチ40が設けられている。
【0014】
前記自動変速機16では、第1変速部20及び第2変速部26の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられると共に、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2は、この自動変速機10において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この作動表は、上記各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置18、第2遊星歯車装置22、及び第3遊星歯車装置24の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
【0015】
図2に示すように、前記自動変速機16において、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1及び一方向クラッチF1(エンジンブレーキ時にはそれに加えてブレーキB2の係合) により第1速ギヤ段が、クラッチC1及びブレーキB1の係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1及びブレーキB3の係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1及びクラッチC2の係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2及びブレーキB3の係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2及びブレーキB1の係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2及びブレーキB3の係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の何れも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0016】
上記クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、例えば、多板式のクラッチやブレーキ等、油圧アクチュエータによってその係合状態が制御される油圧式摩擦係合装置であり、図3に示す油圧制御回路52のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁・非励磁や電流制御により、その係合状態が切り換えられると共に、係合時或いは解放時の過渡油圧等が制御されるようになっている。
【0017】
図3は、前記伝達装置10等を制御するために車両に設けられた電気的な制御系統を説明するブロック線図である。この図3に示す電子制御装置50は、車両の駆動力制御装置として機能するものであり、例えばROM、RAM、CPU、及び入出力インターフェース等を含む所謂マイクロコンピュータである。この電子制御装置50のCPUは、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理することにより、上記リニアソレノイドバルブSL1〜SL5を介しての前記自動変速機16の変速制御や、後述する電子スロットル弁82及び燃料噴射弁86等を介しての前記エンジン12の出力制御等の各種制御を実行する。
【0018】
図3に示すように、本実施例の伝達装置10では、所謂アクセル開度APOとして知られるアクセルペダル54の操作量がアクセル操作量センサ56により検出されると共に、そのアクセル開度APOを表す信号が上記電子制御装置50に供給されるようになっている。上記アクセルペダル54は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであり、アクセル操作部材に相当し、アクセル開度APOは出力要求量に対応する。また、前記エンジン12の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、そのエンジン12の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ62、前記エンジン12の電子スロットル弁82の全閉状態(アイドル状態)及びその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力回転部材30の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ66、前記エンジン12の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキペダル80の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸28の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路52内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ78等が設けられており、それらのセンサやスイッチからエンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOIL等を表す信号が電子制御装置50に供給されるようになっている。
【0019】
また、前記エンジン12に吸気を行うための吸気管には、前記電子スロットル弁82を駆動するスロットルアクチュエータ84が設けられている。また、前記エンジン12の気筒或いは上記吸気管には、燃料の噴射量及び噴射タイミング等を制御するための燃料噴射弁86が設けられている。上記電子スロットル弁82のスロットル開度θTHは、アクセル開度APOの増加と共に増加する予め設定され且つ記憶された一定の電子スロットル基本制御特性から実際のアクセル開度APOに基づいてスロットルアクチュエータ84により制御される。
【0020】
図4は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示すように、前記伝達装置10には、前記電子制御装置50による情報の書き込み及び読み出しが可能なRAM等の記憶部88が設けられている。なお、この記憶部88は、前記電子制御装置50に内蔵されたRAM等によって代替されるものであってもよい。
【0021】
図5は、従来の技術による車両減速後の再加速時におけるショックの発生について説明するタイムチャートである。この図5では、2→1変速中の時点t1において前記アクセルペダル54の踏込操作が開始されている。この踏込操作に従い、前記電子スロットル弁82や燃料噴射弁86等を介して前記エンジン12の出力制御が行われ、実線で示すエンジン回転速度(回転数)NE及び一点鎖線で示すタービン回転速度(回転数)NTが共に上昇させられる。このとき、前記トルクコンバータ14の入出力速度比が一端低下させられた後に上昇させられると共に、その容量係数が一端上昇させられた後に低下させられる。続いて、時点t2において第1変速段「1st」が成立させられると、破線で囲って示すように、前記トルクコンバータ14の容量係数の急変動が発生する。この容量係数の変動に対応して前記トルクコンバータ14の入出力速度比が変動し、それにより駆動系伝達トルクがオーバーシュートするおそれがある。斯かるオーバーシュートは運転者に飛び出し感を与え、ドライバビリティの低下に繋がる。本実施例の制御では、そのようなトルクコンバータ14の入出力速度比の変動に起因するドライバビリティの低下を抑制するためにそのトルクコンバータ14の入力トルク容量に基づいて前記エンジン12の出力トルク要求量を決定するものであり、図4に示す制御機能は、斯かる制御を実現するために前記電子制御装置50に機能的に備えられたものである。以下、図6〜図8を参照しつつ、図4に示す各機能による制御の詳細について分説する。
【0022】
図4に示す速度比算出手段100は、前記トルクコンバータ14の入出力速度比eを算出する。具体的には、前記トルクコンバータ14の入力回転速度すなわち前記エンジン回転速度センサ58により検出されるエンジン回転速度NEと、そのトルクコンバータ14の出力回転速度すなわち前記タービン回転速度センサ76により検出されるタービン回転速度NTとの比e(=NT/NE)を算出する。
【0023】
ポンプトルク算出手段102は、予め定められた関係から、上記速度比算出手段100により算出される入出力速度比eに基づいて、前記トルクコンバータ14の入力トルク容量に相当するポンプトルクTpを導出する。具体的には、予め実験的に求められて前記記憶部88に記憶された図6に示すような前記トルクコンバータ14の性能曲線112から、上記速度比算出手段100により算出される入出力速度比eに基づいて、そのトルクコンバータ14の容量係数Cを導出する。そして、その容量係数C及びエンジン回転速度センサ58により検出されるエンジン回転速度NEに基づき、次の(1)式に従って前記トルクコンバータ14のポンプトルクTpを算出する。
【0024】
Tp=C×NE2 ・・・(1)
【0025】
ポンプトルク補正手段104は、前記ポンプトルク算出手段102により算出されるポンプトルクTpを補正する。例えば、前記自動変速機16の変速時においては、その変速動作に係るイナーシャトルクTiを前記ポンプトルク算出手段102により算出されるポンプトルクTpに加算する補正を行う。なお、斯かるイナーシャトルクTiがポンプトルクTpに比べて十分に小さい場合等、補正分がほとんど無視できる場合には斯かる補正は行われなくともよい。また、後述する出力トルク要求量算出手段108による制御において斯かる補正値を加算する態様も考えられる。
【0026】
エンジントルク推定手段106は、その時点における前記エンジン12の出力トルクToを推定する。具体的には、予め定められた関係から、前記エンジン回転速度センサ58により検出されるエンジン回転速度NE及びアイドルスイッチ付スロットルセンサ64により検出されるスロットル開度θTHに基づいて、その時点における前記エンジン12の出力トルクToを導出する。
【0027】
出力トルク要求量算出手段108は、前記エンジン12の出力を制御するための出力トルク要求量Tereqを算出する。具体的には、予め定められた関係から、前記ポンプトルク算出手段102により算出されるポンプトルクTp或いはポンプトルク補正手段104により補正されたポンプトルクTpに基づいて前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定する。なお、前記ポンプトルクTpは、前記トルクコンバータ14の入出力速度比eに基づいて算出されるものであるため、上記出力トルク要求量算出手段108は、換言すれば、予め定められた関係から、前記トルクコンバータ14の入出力速度比eに基づいて、前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定するものである。
【0028】
図7は、上記出力トルク要求量算出手段108による前記エンジン12の出力トルク要求量決定制御について説明する図である。この図7に示すように、上記出力トルク要求量算出手段108は、例えば、予め実験的に求められて前記記憶部88に記憶された運転者の加速感を向上させるための加速感向上トルクTaをポンプトルクTpに加算することにより、それらの和としての出力トルク要求量Tereqを算出する。すなわち、前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqは、好適には、前記トルクコンバータ14のポンプトルクTp以上となるように決定されるものである。なお、上記加速感向上トルクTaは、予め定められた一定の値(定数)であってもよいし、例えば前記アクセル操作量センサ56により検出されるアクセル開度APO等に応じて導出される値(変数)であっても構わない。
【0029】
エンジントルク制御手段110は、前記出力トルク要求量算出手段108により算出される出力トルク要求量Tereqに応じて前記エンジン12の出力を制御する。具体的には、前記スロットルアクチュエータ84を介しての電子スロットル弁82の開度(スロットル開度θTH)の制御や、前記燃料噴射弁86を介しての燃料噴射量及び噴射タイミングの制御等により、前記エンジントルク推定手段106により推定される前記エンジン12の出力トルクToと、前記出力トルク要求量算出手段108により算出される出力トルク要求量Tereqとの差が可及的に小さくなるように制御する。本実施例の制御において、前記出力トルク要求量算出手段108は、予め定められた関係から前記トルクコンバータ14の入力トルク容量に相当するポンプトルクTpに基づいて前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定するものであることから、上記エンジントルク制御手段110によりその出力トルク要求量Tereqに対応する値となるように前記エンジン12の出力トルクを制御することで、前記トルクコンバータ14の入出力速度比eに起因するドライバビリティの低下を抑制することができ、車両減速後の再加速時等においても好適な加速感を実現することができるのである。
【0030】
図8は、前記電子制御装置50による車両減速後の再加速時におけるエンジントルク制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0031】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記エンジン回転速度センサ58によりエンジン回転速度NEが検出されると共に、前記タービン回転速度センサ76によりタービン回転速度NTが検出される。次に、前記速度比算出手段100の動作に対応するS2において、S1にて検出されたエンジン回転速度NE及びタービン回転速度NTに基づいて前記トルクコンバータ14の入出力速度比e(=NT/NE)が算出される。次に、前記ポンプトルク算出手段102の動作に対応するS3において、前記記憶部88に記憶されたトルクコンバータ14の性能曲線112から、S2にて算出された入出力速度比eに基づいて、そのトルクコンバータ14のポンプトルクTpが算出される。次に、前記ポンプトルク補正手段104の動作に対応するS4において、S3にて算出されたポンプトルクTpにイナーシャトルクTiが加算されてその値が補正される。次に、前記エンジントルク推定手段106の動作に対応するS5において、S1にて検出されたエンジン回転速度NEやアイドルスイッチ付スロットルセンサ64により検出されるスロットル開度θTHに基づいて、その時点における前記エンジン12の出力トルクToが推定される。次に、前記出力トルク要求量算出手段108の動作に対応するS6において、S3にて算出されると共にS4にて補正されたポンプトルクTpに所定の加速感向上トルクTaが加算されてエンジントルク要求量(出力トルク要求量)Tereqが算出される。次に、前記エンジントルク制御手段110の動作に対応するS7において、前記電子スロットル弁82及び燃料噴射弁86等を介して、S5にて推定された前記エンジン12の出力トルクToと、S6にて算出された出力トルク要求量Tereqとの差が可及的に小さくなるように前記エンジン12の出力トルク制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0032】
このように、本実施例によれば、駆動力源であるエンジン12と自動変速機16との間の動力伝達経路に流体式動力伝達装置であるトルクコンバータ14を備えた駆動力伝達装置において、前記エンジン12の出力トルクを制御する車両用駆動力制御装置であって、車両加速時において、予め定められた関係から前記トルクコンバータ14の入力トルク容量に相当するポンプトルクTpに基づいて前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定するものであることから、前記エンジン12の回転速度変化及びトルクコンバータ14の速度比eを考慮してそのエンジン12の出力トルク要求量Tereqを決定できるため、減速後においても良好な加速特性を実現することができる。すなわち、減速後の再加速時におけるドライバビリティを向上させる車両用駆動力制御装置を提供することができる。
【0033】
また、前記トルクコンバータ14のポンプトルクTpは、予め定められた性能曲線112からそのトルクコンバータ14の入出力速度比eに基づいて導出されるものであるため、実用的な態様で前記トルクコンバータ14のポンプトルクTpを導出することができる。
【0034】
また、前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqは、前記トルクコンバータ14のポンプトルクTp以上となるように決定されるものであるため、前記トルクコンバータ14のポンプトルクTpに所定の加速感向上トルク補正値Taを加味する等して、実用的な態様で好適な減速後の再加速を実現できる。
【0035】
また、前記エンジン12の出力トルク要求量Tereqは、予め設定された加速感向上トルクTaを前記トルクコンバータ14のポンプトルクTpに加算することにより決定されるものであるため、実用的な態様で好適な駆動力源の出力トルク要求量を決定できる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0037】
例えば、前述の実施例において、前記ポンプトルク算出手段102は、前記トルクコンバータ14の入出力速度比eに基づき(1)式に従ってそのトルクコンバータ14のポンプトルクTpを算出するものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記トルクコンバータ14の入力トルク容量を好適に導出できるものであればその態様は問わない。すなわち、斯かる入力トルク容量を導出するために種々の数式或いは関係が適宜選択されて用いられ得る。同様に、前記出力トルク要求量算出手段108は、前記トルクコンバータ14のポンプトルク14に所定の加速感向上トルクTaを加算することにより出力トルク要求値Tereqを算出するものであったが、前記トルクコンバータ14の入力トルク容量に基づいて出力トルク要求値Tereqを算出するものであればよく、種々の数式或いは関係が適宜選択されて用いられ得る。
【0038】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動力伝達装置の骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動力伝達装置に備えられた自動変速機において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。
【図3】図1の車両用駆動力伝達装置等を制御するために車両に設けられた電気的な制御系統を説明するブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】従来の技術による車両減速後の再加速時におけるショックの発生について説明するタイムチャートである。
【図6】図1の車両用駆動力伝達装置に備えられたトルクコンバータの性能曲線を例示する図である。
【図7】図3の電子制御装置によるエンジンの出力トルク要求量決定制御について説明する図である。
【図8】図3の電子制御装置による車両減速後の再加速時におけるエンジントルク制御の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10:車両用駆動力伝達装置
12:エンジン(駆動力源)
14:トルクコンバータ(流体式動力伝達装置)
16:自動変速機
112:性能曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に流体式動力伝達装置を備えた駆動力伝達装置において、前記駆動力源の出力トルクを制御する車両用駆動力制御装置であって、
車両加速時において、予め定められた関係から前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量に基づいて前記駆動力源の出力トルク要求量を決定することを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量は、予め定められた性能曲線から該流体式動力伝達装置の入出力速度比に基づいて導出されるものである請求項1の車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
前記駆動力源の出力トルク要求量は、前記流体式動力伝達装置の入力トルク容量以上となるように決定されるものである請求項1又は2の車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
前記駆動力源の出力トルク要求量は、予め設定された加速感向上トルクを前記流体式動力伝達装置の出力トルク容量に加算することにより決定されるものである請求項3の車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−298025(P2008−298025A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147533(P2007−147533)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】