説明

車両用駆動装置

【課題】軸受部の冷却を効率的に行うことが可能な低騒音車用の車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】固定子フレーム4の外周部の内側に設けられた固定子1と、中空シャフト5と一体となった円筒形状の回転子3と、中空シャフト5を回転自在に支持する軸受部6と
から成る主電動機と、固定子フレーム4の両側面部と空間を介して配置され、中空シャフト5に固定された駆動継手11と、中空シャフト5内を貫通する車輪駆動用の車軸10に固定された従動継手12と、駆動継手11の外周部と従動継手12の外周部を弾性体を介してトルク伝達する継手結合部13とで構成し、軸受部6と対面する駆動継手11の側面から、この駆動継手11の外周部または継手結合部13の外周部に貫通する貫通孔14を少なくとも1個設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、改良された冷却構造を有する車両用主電動機を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両の車両用駆動装置においては、両サイドに車輪が設けられた車軸に大歯車を固着し、その大歯車と噛み合う小歯車に、台車に支持された主電動機の回転軸を継手装置を介して接続し、主電動機の回転動力を上記各歯車及び継手装置を介して車軸に伝達する構造としていた。
【0003】
しかしながら、最近になって、上記各歯車を省略して主電動機の回転力を継手装置を介して直接車軸に伝達することにより、各歯車の潤滑材の保守・点検を不用とし、かつ歯車の噛み合い音をなくした低騒音車が提案されている。
【0004】
低騒音車用主電動機の回転力を車軸に伝達するための継手装置は、振動抑制のため、その動力伝達部にゴム製の弾性体を用いるが、このゴム製の弾性体を冷却するため、弾性体の保持部材に貫通孔を設ける提案が為されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平2005−59617号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、主電動機の回転力を継手装置を介して直接車軸に伝達する低騒音車に使用される動力伝達部のゴム製の弾性体を冷却する技術が開示されているが、車両用駆動装置にこのような継手装置を使用した場合、特に主電動機の軸受部の冷却が困難になるという重要な課題がある。この課題は、比較的径の大きい継手装置が主電動機の軸受部と外気との熱交換を妨げることによって生じる。軸受部の温度が高くなると、軸受グリースの劣化寿命が短くなる。従って、主電動機のメンテナンス周期を長くするには、如何に軸受部の温度を低減させる構造とするかが課題となっていた。また、相対的に軸受部の温度上昇が抑えられれば、主電動機全体の冷却構造を小型化できるメリットがある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて為されたもので、その目的は軸受部の冷却を効率的に行うことが可能な低騒音車用の車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用駆動装置は、外周部と両側面部を有する固定子フレームの外周部の内側に設けられた固定子と、この固定子と空隙を介して対向し、中空シャフトと一体となった円筒形状の回転子と、前記固定子フレームの両側面部の芯部に設けられ、前記中空シャフトを回転自在に支持する軸受部とから成る主電動機と、前記固定子フレームの両側面部と空間を介して配置され、前記中空シャフトに固定された駆動継手と、この駆動継手の外側に対向して設けられ、前記中空シャフト内を貫通する車輪駆動用の車軸に固定された従動継手と、前記駆動継手の外周部に配置され、前記従動継手の外周部と前記駆動継手の外周部を弾性体を介してトルク伝達する継手結合部とを具備し、前記軸受部と対面する前記駆動継手の内側の側面から、この駆動継手の外周部または前記継手結合部の外周部に貫通する貫通孔を少なくとも1個設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軸受部の冷却を効率的に行うことが可能な低騒音車用の車両用駆動装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例1に係る車両用駆動装置を図1乃至図3を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の構造説明図である。この構造説明図は、実施例1に係る車両用駆動装置の側面図を基本とし、主要部分はその断面を図示したものである。
【0011】
主電動機はコイルエンド2を有する固定子1及び回転子3を備えており、固定子1は外周部と側面部を有する主電動機の固定子フレーム4の外周部の内側に、回転子3は中空シャフト5に夫々結合固定されている。そして、固定子1に加えられる回転磁界によって回転子3はトルクを発生し、軸受部6に支持された状態で回転する。
【0012】
中空シャフト5の軸受け部6の外側の所定の位置には駆動継手11が結合固定され、駆動継手11は継手結合部13を介して従動継手12にトルク伝達が可能なように結合固定されている。尚、ここで外側とは、中空シャフト5の中心から両サイドの軸方向に向かう側を意味している。
【0013】
そして従動継手12は中空シャフト5の中空部を軸方向に貫通する車軸10に結合固定されている。尚、車軸10の両側の端部には図示しない車輪が結合固定されている。このようにして、回転子3の発生トルクは、中空シャフト5、駆動継手11、継手結合部13、及び従動継手12を介して車軸10に伝えられ、車軸10は図示しない車輪を回転させる。
【0014】
また、固定子フレーム4の側面部には固定子フレーム4の軸方向外側に向かって突起21が設けられ、駆動継手11と空間を挟んで対面している。
【0015】
更に駆動継手11及び継手結合部13には、軸受部6と空間を挟んで対面する駆動継手11の内側側面部から、この駆動継手11及び継手結合部13の外周部に向けて貫通する貫通孔14が設けられている。図1においては、この貫通孔14の外周側の開口部は継手結合部13に設けられているが、駆動継手11及び継手結合部13の構造によっては、貫通孔14の外周側の開口部は駆動継手11の外周部とすることも可能である。
【0016】
尚、図1においては主電動機の右側半分しか図示していないが、左側も同様の対称構造となっている。
【0017】
図2は図1の駆動継手11、継手結合部13、従動継手12を駆動継手側の軸方向か
ら見た構造説明図である。この図2においては、中空シャフト5の断面が図示されている。
【0018】
駆動継手11は、中空シャフト5に結合固定され外周方向に6個の突起部を有する構造となっている。従動継手12の外周部は駆動継手11と同様に6個の突起部を有し、これらの突起部は駆動継手側に曲折して駆動継手11の突起部と交互に噛み合うように配置されている。そして駆動継手11の突起部及び従動継手12の突起部には継手結合部13が結合固定され、隣り合う継手結合部13の間には弾性体15が嵌め込まれている。従って弾性体の数は12個である。このようにして駆動継手11側のトルクは振動防止用の弾性体15を介して従動継手12に伝達される。
【0019】
前述したように、駆動継手11の内側の側面部に一方の開口部を有し、駆動継手11の突起部内を貫通し、継手結合部13の外周端部に他方の開口部を有する貫通孔14が6個設けられている。
【0020】
尚、図2においては駆動継手11及び従動継手12の突起の数は夫々6個としているが、任意の数であっても良い。また、継手結合部13は駆動継手11と、或いは従動継手12と一体構造とすることも可能である。
【0021】
図3に示すのは、固定子フレーム4の側面部に設けられた突起21を軸方向(駆動継手側)から見た構造説明図である。図示したように突起21は固定子フレーム4の側面に垂直な板状の形状であり、側面部に沿って軸受部6近傍の所定の内径位置から固定子フレーム4の側面部の外周方向に向かって放射状に設けられている。
【0022】
以下、本実施例の作用について説明する。
【0023】
駆動継手11が中空シャフト5から伝達されるトルクによって回転すると、継手結合部13の外周部の空気圧力は、軸受部6と空間を隔てて対面する駆動継手11の内側の側面部の貫通孔14の開口部の圧力に比べて非常に低い圧力となる。この理由は、駆動継手11或いは継手結合部13の外周部の方が、駆動継手11の内側の側面部の貫通孔14の開口部に比べて周速度が高いためである。この圧力差によって図1の矢印に示すような空気の流れが生じる。従って、この空気の流れの途上にある軸受部6を効率的に冷却することが可能となる。
【0024】
固定子フレーム4の側面に沿って放射状に設けられた突起21は、固定子フレーム4の外周部から固定子フレーム4の側面芯部に位置する軸受部6に向かって空気の流れが生じ易くするガイドの役割を果たしている。これによって固定子フレーム4の側面の冷却、ひいては軸受部6の冷却を効率的に行うことが可能となる。
【0025】
発明者は、図1乃至図3に示した構造の車両駆動装置を3次元の有限要素でモデル化し、固定子1及び回転子3に発熱量を与え、所定の回転速度における風の流れと熱の流れについて熱流解析ソフトを用いてシミュレーションし、軸受部6の温度変化を予測した。この結果、貫通孔14及び突起21を有さない従来の車両駆動装置に比べ、軸受部4の温度上昇が約8%低下する結果が得られている。
【実施例2】
【0026】
図4は、本発明の実施例2に係る車両用駆動装置の構造説明図である。この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の構造説明図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、貫通孔14Aの形状を継手結合部13の内部近辺において屈曲させ、その外周側の開口部が従動継手12側の側面、即ち継手結合部13の外側となる構造とした点である。
【0027】
この実施例2の貫通孔の構造を採用することにより、固定子フレーム4の外周部から軸受部6に向かう空気の流れが、継手結合部13の外周部から放出される空気によって妨げられるのを防ぎ、固定子フレーム4ひいては軸受部6の冷却を効率的に行うことが可能となる。
【0028】
実施例1で説明したシミュレーションによれば、この実施例2によって軸受部4の温度上昇は従来の車両駆動装置に比べ約12%低下する。
【0029】
尚、前述したように、駆動継手11と継手結合部13の構造によっては、この実施例2における外周側の開口部は駆動継手11に設けるようにしても良い。
【実施例3】
【0030】
図5は、本発明の実施例3に係る車両用駆動装置の構造説明図である。この実施例3の各部について、図1の本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の構造説明図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例3が実施例1と異なる点は、固定子フレーム4の側面部に設けられた複数個の突起21の先端を一括して覆うように仕切り板22を設けた点である。
【0031】
この仕切り板22によって固定子フレーム4の外周部から軸受部6に向かう空気の流れが、駆動継手11の回転による空気の乱れに影響されることがなくなり、固定子フレーム4ひいては軸受部6を効率的に冷却すること可能となる。
【0032】
尚、図5に図示したように仕切り板22の外周部を屈曲させることによって上記空気の流れの干渉を更に抑制するようにすることもできる。
【0033】
実施例1で説明したシミュレーションによれば、この実施例3によって軸受部4の温度上昇は従来の車両駆動装置に比べ約12%低下する。
【実施例4】
【0034】
図6は、本発明の実施例4に係る車両用駆動装置の構造説明図である。この実施例4の各部について、図1の本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の構造説明図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例4が実施例1と異なる点は、軸受部6と対向する駆動継手11の側面部の貫通孔14の開口部を囲うように駆動継手11に結合固定して仕切り板16を設けた点である。
【0035】
この仕切り板16によって、固定子フレーム4の外周部から流入する空気が軸受部6近傍を通過するようになるとと共に、仕切り板16と固定子フレーム4間の狭い空間に空気が流入するようになるため、空気の流入速度が増大し、軸受部6の近傍に渦が発生し易くなる。この結果軸受部6の冷却効率を高めることができる。
【0036】
実施例1で説明したシミュレーションによれば、この実施例4によって軸受部4の温度上昇は従来の車両駆動装置に比べ約10%低下する。
【実施例5】
【0037】
図7は、本発明の実施例5に係る車両用駆動装置の構造説明図である。この実施例5の各部について、図1の本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の構造説明図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例5が実施例1と異なる点は、中空シャフト5の軸受6と駆動継手11の間の所定の位置に、車軸10側から軸受部の近傍の空間に貫通する貫通孔17を設けた点である。
【0038】
この貫通孔17によって、固定子フレーム4の外周面から軸受部4に向かって流れる空気に加え、車軸10側から流入する空気の流れができ、中空シャフト5ひいては軸受部6を効率的に冷却することが可能となる。
【0039】
尚、貫通孔17は、必ずしも中空シャフト5の左右両サイドに設ける必要はなく、片側のみとしてもよい。片側のみとすることにより、中空シャフト5と車軸10間に軸方向の空気の流れが生じやすくなるというメリットがあり、中空シャフト5ひいては軸受部6を効率的に冷却することが可能となる。
【0040】
実施例1で説明したシミュレーションによれば、この実施例5によって軸受部4の温度上昇は従来の車両駆動装置に比べ約10%低下する。
【実施例6】
【0041】
図8は、本発明の実施例6に係る車両用駆動装置用の中空シャフトの軸方向の断面図である。図示したように、中空シャフト5Aの内周部には図示しない車軸10と平行に突起18が複数個設けられている。
【0042】
このような中空シャフト5Aの構造を前述した実施例5の車両駆動装置と組み合わせて用いることにより、空シャフト5Aの内周部の放熱面積が増大し、中空シャフト5ひいては軸受部6を効率的に冷却することができる。
【0043】
実施例1で説明したシミュレーションによれば、この実施例6を実施例5と組み合わせることによって軸受部4の温度上昇は従来の車両駆動装置に比べ約12%低下する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の構造説明図。
【図2】本発明の実施例1に係る車両用駆動装置を駆動継手側の軸方向から見た構造説明図。
【図3】本発明の実施例1に係る車両用駆動装置の固定子フレームの側面を軸方向(駆動継手側)から見た構造説明図。
【図4】本発明の実施例2に係る車両用駆動装置の構造説明図。
【図5】本発明の実施例3に係る車両用駆動装置の構造説明図。
【図6】本発明の実施例4に係る車両用駆動装置の構造説明図。
【図7】本発明の実施例5に係る車両用駆動装置の構造説明図。
【図8】本発明の実施例6に係る車両用駆動装置用の中空シャフトの軸方向の断面図。
【符号の説明】
【0045】
1 固定子
2 コイルエンド
3 回転子
4 固定子フレーム
5、5A 中空シャフト
6 軸受部

10 車軸
11 駆動継手
12 従動継手
13 継手結合部
14、14A 貫通孔
15 弾性体
16 仕切り板
17 貫通孔
18 突起

21 突起
22 仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部と両側面部を有する固定子フレームの外周部の内側に設けられた固定子と、
この固定子と空隙を介して対向し、中空シャフトと一体となった円筒形状の回転子と、
前記固定子フレームの両側面部の芯部に設けられ、前記中空シャフトを回転自在に支持する軸受部と
から成る主電動機と、
前記固定子フレームの両側面部と空間を介して配置され、前記中空シャフトに固定された駆動継手と、
この駆動継手の外側に対向して設けられ、前記中空シャフト内を貫通する車輪駆動用の車軸に固定された従動継手と、
前記駆動継手の外周部に配置され、前記従動継手の外周部と前記駆動継手の外周部を弾性体を介してトルク伝達する継手結合部と
を具備し、
前記軸受部と対面する前記駆動継手の内側の側面から、この駆動継手の外周部または前記継手結合部の外周部に貫通する貫通孔を少なくとも1個設けたことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記固定子フレームの側面部の所定の内径位置から外周部に向かって放射形状に複数個の板状の突起を配置したことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記放射形状の突起を覆うように第1の仕切り板を設けたことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記貫通孔の前記駆動継手の外周部の開口部または前記継手結合部の外周部の開口部を、前記従動継手と対面する側に配置したことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記軸受部と対向する前記駆動継手の内側側面に設けた貫通孔の開口部を囲うように前記駆動継手の所定の内径位置から前記軸受部に向かって第2の仕切り板を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記中空シャフトは、
前記車軸側から前記軸受部と前記駆動継手の間の空間に向けて貫通する貫通孔を少なくとも1個有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記中空シャフトの内周面に前記車軸と平行に複数個の突起を設けたことを特徴とする請求項6に記載の車両用駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−99377(P2008−99377A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276008(P2006−276008)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】