車両運動制御装置及びプログラム
【課題】簡単な構成のマップを用いて、移動する障害物を回避するための車体合成力及び回避軌道を導出する。
【解決手段】自車両の速度のx成分vx0、y成分vy0、障害物の速度のy成分Zv、位置のy成分Z0、及び車体合成加速度の最大値F0/mを用いた各々異なる3つのパラメータを演算し、設定された横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる回避を行う場合の予測回避時間teを導出するための3次元マップを用いて予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の障害物の位置のy成分を横移動距離Yeとして設定し、設定された横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる車体合成力を導出するための最短2次元マップを用いて、移動する障害物を回避するために横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出する。
【解決手段】自車両の速度のx成分vx0、y成分vy0、障害物の速度のy成分Zv、位置のy成分Z0、及び車体合成加速度の最大値F0/mを用いた各々異なる3つのパラメータを演算し、設定された横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる回避を行う場合の予測回避時間teを導出するための3次元マップを用いて予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の障害物の位置のy成分を横移動距離Yeとして設定し、設定された横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる車体合成力を導出するための最短2次元マップを用いて、移動する障害物を回避するために横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運動制御装置及びプログラムに係り、特に、簡単な構成のマップを用いて移動する障害物を回避する軌道及びその軌道に基づいた車体合成力の大きさ及び向きを導出する車両運動制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行する道路上に存在する障害物を検出し、検出現在時刻から評価終了時刻後の自車両の予測位置及び外部環境に基づいて、自車両の回避後の目標姿勢角を設定し、現在時刻の外部環境及び障害物の状態量に基づいてリスクポテンシャル関数を設定し、そのリスクと運転操作量の時間積分値、目標姿勢角と自車両の姿勢角との差などに基づく評価値を算出し、評価値が最小となる軌道を導出する回避操作算出装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、緊急時の衝突回避動作を想定して、障害物の検出データや行動パターンに基づいて危険度マップを作成し、その危険度が最小化されるような最短回避軌道を算出する車両運動制御装置が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2の車両運動制御装置では、障害物の存在確率が0を超える領域において危険度を段階的に示した危険度マップを用いている。
【0004】
また、自車両と障害物との間の距離、自車両の障害物に対する相対速度、及び回避するための目標位置に基づいて定まる物理量を導入し、その物理量により回避動作時に最大値が最小となる車体合成力の向きと大きさを出力するマップを予め記憶しておき、そのマップより現時刻の車体合成力を求めて車両運動を制御する車両運動制御装置が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−253746号公報
【特許文献2】再公表特許WO2006/070865号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本機械学会、第18回交通・物流部門大会講演論文集、障害物回避のための車両の最適軌道制御、pp.145−148(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、現時刻の外部環境と障害物の状態量に基づいてリスクポテンシャル関数を導入して回避軌道を導出しているものの、障害物の移動距離を予測する具体的な方法までは記載されていない。
【0008】
また、特許文献2の技術では、障害物の検出データや行動パターンに基づく危険度マップを導入して回避軌道を導出しているものの、障害物の移動距離を予測する具体的な方法までは記載されていない。
【0009】
また、非特許文献1の技術では、相対的な意味において所望の位置の速度方向に対して車体合成力の最大値を最小化する軌道を導出し、その軌道に基づいたマップを記憶しておくことで現時刻の車体合成力の算出を可能にしているが、道路に対する所望の速度方向に対して移動する障害物を回避する方法までは記載されていない。
【0010】
本発明は、簡単な構成のマップを用いて、移動する障害物を回避するために横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道、または目標位置及び目標位置における速度方向になるために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出することができる車両運動制御装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出するための最短2次元マップ、並びに・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0、及び車体合成加速度の最大値F0/mを用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分に対して車体前後方向の移動距離が最短となる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Zv、前記成分Z0、及び前記最大値F0/mのうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、設定された前記成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0012】
また、第1の発明において、前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求めるようにすることができる。
【0013】
また、第1の発明において、前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更することができる。
【0014】
また、第2の発明の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力及び回避時間を導出するための最短2次元マップを記憶した記憶手段と、前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記成分Yeを再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0015】
また、第1及び第2の発明において、前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離とを比較し、前記最短距離が小さい側の回避軌道を選択するようにすることができる。
【0016】
また、第3の発明の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出するための最適2次元マップ、並びに・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記自車両と前記障害物との距離の車体前後方向の成分Xe、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、及び前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0を用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Xe、前記成分Zv、及び前記成分Z0のうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0017】
また、第3の発明において、前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求めるようにすることができる。
【0018】
また、第3の発明において、前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更することができる。
【0019】
また、第4の発明の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避時間を導出するための最適2次元マップを記憶した記憶手段と、前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記目標位置を再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記目標位置に対して車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0020】
また、第3及び第4の発明において、前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値とを比較し、前記車体合成力の最大値が小さい側の回避軌道を選択するようにすることができる。
【0021】
また、前記導出手段は、前記検出手段により検出された前記障害物の状態量を、該状態量及び精度で表される真値の範囲、並びに予め記憶された前記障害物の行動パターンにより定まる前記状態量の取りうる範囲との関係に基づいて修正するようにすることができる。
【0022】
また、前記検出手段は、前記自車両に対する前記障害物の相対距離及び相対速度を検出するようにすることができる。
【0023】
また、前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、操舵角、制動力、及び駆動力の少なくとも一つを制御する制御手段を更に含んで構成することができる。
【0024】
また、前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、ドライバに車両運動状態を報知する報知手段を更に含んで構成することができる。
【0025】
また、第5の発明の車両運動制御プログラムは、コンピュータを、第1〜第4の発明の車両運動制御装置を構成する各手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、静止した障害物を回避するための横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出するための最短2次元マップ、または目標位置及び目標位置における速度方向になるために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出するための最適2次元マップを用いることを前提として、移動する障害物の位置を簡単な構成のマップを用いて予測することができるため、障害物が移動する場合でも、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道、または目標位置及び目標位置における速度方向になるために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車両運動制御の概略を示す図である。
【図2】xy座標の設定を説明するための図である。
【図3】第1の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最短2次元マップを表す線図である。
【図4】第1の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップを表す線図である。
【図5】第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】第1の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第1の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最短2次元マップの他の例を表す線図である。
【図8】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最適2次元マップを表す線図である。
【図9】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップを表す線図である。
【図10】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図11】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図12】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図13】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図14】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図15】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図16】第2の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図17】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最適2次元マップの他の例を表す線図である。
【図18】第3の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図19】第3の実施の形態の車両運動制御ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図20】第4の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図21】第4の実施の形態の車両運動制御ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図22】左側回避と右側回避との対称性を説明するための図である。
【図23】第5の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図24】第5の実施の形態の車両運動制御ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図25】検出値、真値の範囲、及び推定範囲の関係を表す図である。
【図26】第6の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、車両が走行する道路上において移動する障害物を回避する場合を想定し、回避直後の位置を障害物の横(障害物の移動方向の延長線上)を通過する位置とし、その回避直後の位置における速度方向を車体前後方向とする場合について説明する。
【0029】
第1の実施の形態では、障害物が移動する場合に、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離を最短にする車体合成力及び回避軌道を導出する場合について説明する。
【0030】
まず、障害物が静止物である場合に、所望の横移動距離(車体横方向の距離)及びその位置における速度方向に到達するために縦移動距離(車体前後方向の移動距離)を最短にする車体合成力及び回避軌道の導出の概略について説明する。
【0031】
図1に示すように、設定したxy座標での時刻t(現時刻をt=0として、現時刻からt秒後)における車体合成加速度のx成分をux(t)、車体合成加速度のy成分をuy(t)、車体合成力の大きさをF(t)、車体合成力の方向をθ(t)、及び自車両の重量をmとすると、車体合成加速度ux(t)及びuy(t)は、下記(1)式及び(2)式で示される。また、(1)式及び(2)式を積分して、下記(3)式及び(4)式に示すように、自車両の路面に対する速度のx成分vx(t)、及び速度のy成分vy(t)が得られる。また、(3)式及び(4)式を積分して、下記(5)式及び(6)式に示すように、自車両のt秒間の移動距離のx成分X(t)、及び移動距離のy成分Y(t)が得られる。このX(t)及びY(t)により回避軌道が得られる。
【0032】
【数1】
【0033】
なお、xy座標は、t=0における自車両の位置を原点とし、障害物の横を通過する位置における速度方向(車体前後方向)をx軸、x軸に直交する軸(車体横方向)をy軸として設定する(図2参照)。
【0034】
そして、現時刻(t=0)におけるxy座標上の目標位置を(Xe,Ye)とし、自車両の路面に対する速度をvx(0)=vx0、vy(0)=vy0とし、さらに、目標位置のy成分及び目標位置における速度方向に到達する時刻をteとした場合に、車体合成力の最大値F0=maxF(t)を設定して、自車両の移動距離のy成分に関してY(te)=Ye、及び自車両の速度のy成分に関してvy(te)=0を満たすような車体合成加速度ux(t)及びuy(t)((1)式、及び(2)式)を、F0、vx0、vy0、及びYeをパラメータとするマップを用いて導出する。なお、X(te)を縦移動距離または回避距離、Y(te)を横移動距離ともいう。
【0035】
次に、既知の横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出するために用いられるマップ(以下、最短2次元マップともいう)について説明する。
【0036】
まず、x1=X(t)、x2=vx(t)、x3=Y(t)、x4=vy(t)、u1=ux(t)、u2=uy(t)とおくと、(1)式及び(2)式の運動方程式は、下記(7)式及び(8)式のような状態方程式に変形できる。なお、Tはベクトル及び行列の転置記号である。
【0037】
【数2】
【0038】
次に、車体合成力の最大値F0が-既知であると仮定して、回避距離を最小化する最適制御問題として考えると、評価関数Iを下記(9)式で表した場合、下記(10)式で表される終端条件、及び下記(11)式で表される車体合成力の大きさに関する入力制約条件の下で、評価関数Iを最小化する制御入力を求めよという制御問題に帰着される。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、特開2007−283910号公報等の公知の技術を用いると、下記(12)式のような制御入力が導出される。
【0041】
【数4】
【0042】
ただし、ν1及びν2は最適解を求めるために導入した第1の導入パラメータ及び第2の導入パラメータである。
【0043】
(12)式において必要となるte、ν1、ν2は、下記(13)式〜(15)式の非線形方程式にm、vx0、vy0、F0、及びYeを代入して解くことにより得られる。また、横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となるときの最短距離Xsは、(16)式の関係を満たす。
【0044】
【数5】
【0045】
まず、任意の正数a0を導入して下記(17)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解{ν1、ν2、te}及び{ν1’、ν2’、te’}は、下記(18)式の関係を満たす。
【0046】
【数6】
【0047】
(17)式の最後の式より、a0を下記(19)式のようにおくと、(17)式よりvx0’及びvy0’は下記(20)式のように変形できる。
【0048】
【数7】
【0049】
この関係より、F0’/m’及びYe’に任意の正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvx0’及びvy0’が求まる。よって、F0’/m’及びYe’をある値に設定した場合において、vx0’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとしたマップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びYe’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0050】
ここでは、一例として、F0’/m’=Ye’=1とした場合のvx0’及びvy0’に関する最短2次元マップを作成する。図3に示すように、vx0’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとして、上記(13)式〜(15)式に基づいて得られるν1’の値をマッピングした第1のマップ、ν2’の値をマッピングした第2のマップ、及びte’の値をマッピングした第3のマップを作成する。
【0051】
なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、(20)式で定める場合だけでなく、導入した任意の正数a0の取り方を変えたり、F0’/m’、vy0’、vx0’及びYe’のそれぞれに着目して式を変形したりして求めることもできる。それぞれ得られた第1のパラメータ及び第2のパラメータに応じて、F0’/m’、vy0’、vx0’及びYe’の内必要な値に任意の値を設定して最短2次元マップを作成することができる。また、マップの特異点のラインが縦軸又は横軸と平行になるように各マップの軸の取り方を変更したマップを作成することもできる。
【0052】
次に、この静止物回避用の最短2次元マップを用いて障害物を回避する制御を行うコントローラを、障害物が移動する場面に適用することを考える。
【0053】
設定したx−y座標系における現時刻の移動体のx方向の位置をXe、y方向の位置をZ0、x方向の速度を0、及びy方向の速度をZvとし、障害物がy軸方向に等速直線運動をすると仮定すると、t秒後の障害物の位置は下記(21)式となる。
【0054】
【数8】
【0055】
ここで、自車両の回避に要する予測回避時間teのチルダを導入する。
【0056】
【数9】
【0057】
まず、任意の正数aを導入して下記(22)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解は、下記(23)式の関係を満たす。
【0058】
【数10】
【0059】
(22)式の最後の式より、aを下記(24)式のようにおくと、(22)式よりvx0’、vy0’及びZv’は下記(25)式のように変形できる。
【0060】
【数11】
【0061】
この関係より、F0’/m’及びZ0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvx0’、vy0’及びZv’が求まる。よって、F0’/m’及びZ0’をある値に設定した場合において、vx0’、vy0’及びZv’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0062】
ここでは、一例として、F0’/m’=Z0’=1とした場合のvx0’、vy0’及びZv’に関するマップを作成する。図4に示すように、vx0’、vy0’及びZv’をパラメータとして、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した上記(13)式〜(15)式に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。例えば、Zv’について、Zv’=va’、Zv’=vb’、Zv’=vc’の3値(va’<vb’<vc’)を用い、va’〜vb’間、及びvb’〜vc’間は、各々線形近似などで内挿する。
【0063】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=Z0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(25)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZv’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(24)式に従ってteのチルダに変換する。そして、(21)式を適用することで、予測回避時間teのチルダに応じた障害物の位置Yeのチルダ(teのチルダ)が得られる。
【0064】
ただし、Z0<0の場合は、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0065】
次に、得られた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を、上記の最短2次元マップ(例えば、図3)、(18)式、及び(19)式に適用すると、障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を(13)式〜(15)式に代入したときの解{ν1,ν2,te}が得られる。より具体的には、図3の最短2次元マップを用いた場合、F0’/m’=Ye’=1、既知のm、vx0、vy0、F0、及びYe(=求めた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ))から(20)式に従って第1のパラメータvx0’及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最短2次元マップから得て、(18)式及び(19)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換する。
【0066】
そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより入力の時間関数が得られ、また、(16)式に代入することで最短の回避距離Xsが得られる。なお、図4の3次元マップから得られるteのチルダと、図3の最短2次元マップから得られるteは等しくなるため、図3のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0067】
この結果、障害物の位置及び速度を考慮して、静止物回避における最短2次元マップを用いて、障害物の回避を可能にする制御入力関数と(1)式〜(6)式の積分計算により回避軌道が導出される。
【0068】
なお、上記の3次元マップではパラメータvx0’、vy0’及びZv’を(25)式のように定め、F0’/m’=Z0’=1とした場合について説明したが、このパラメータの取り方は、上記以外にも複数存在する。例えば、任意の正数aを(22)式の第1式より下記(26)式のようにおくと、(22)式よりvy0’、Zv’及びZ0’は下記(27)式のように変形できる。
【0069】
【数12】
【0070】
この関係より、F0’/m’及びvx0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvy0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、F0’/m’及びvx0’をある値に設定した場合において、vy0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びvx0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、F0’/m’=vx0’=1とした場合のvy0’、Zv’及びZ0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0071】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=vx0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(27)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(26)式に従ってteのチルダに変換する。
【0072】
なお、この3次元マップの領域は、vy0’、Zv’及びZ0’のいずれかにおいて0以上に限定してもよい。例えば、Z0≧0の3次元マップを作成した場合は、検出値がZ0<0であったとしても、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0073】
また、別のパラメータを用いる場合として、(27)式の第3式を下記(28)式のように変形すると、(26)式のaは、下記(29)式のように変形される。
【0074】
【数13】
【0075】
この関係より、vx0’及びZ0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってF0’/m’、vy0’及びZv’が求まる。よって、vx0’及びZ0’をある値に設定した場合において、F0’/m’、vy0’及びZv’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvx0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、vx0’=Z0’=1とした場合のF0’/m’、vy0’及びZv’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0076】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vx0’=Z0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(27)式の第1式及び第2式に従ってパラメータvy0’及びZv’を演算し、(28)式に従ってパラメータF0’/m’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(29)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0077】
また、別のパラメータを用いる場合として、任意の正数aを(22)式の第2式より下記(30)式のようにおくと、(22)式よりvx0’、Zv’及びZ0’は下記(31)式のように変形できる。
【0078】
【数14】
【0079】
この関係より、F0’/m’及びvy0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vx0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、F0’/m’及びvy0’をある値に設定した場合において、vx0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びvy0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、F0’/m’=vy0’=1とした場合のvx0’、Zv’及びZ0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0080】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=vy0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(31)式に従ってパラメータvx0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(30)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0081】
また、別のパラメータを用いる場合として、(31)式の第3式を下記(32)式のように変形すると、(30)式のaは、下記(33)式のように変形される。
【0082】
【数15】
【0083】
この関係より、vy0’及びZ0’にある値を設定することにより、現時刻のパラメータPによってF0’/m’、vx0’及びZv’が求まる。よって、vy0’及びZ0’をある値に設定した場合において、F0’/m’、vx0’及びZv’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvy0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、vy0’=1、Z0’=±1とした場合のF0’/m’、vx0’及びZv’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0084】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vy0’=1、Z0’=±1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(31)式の第1式及び第2式に従ってパラメータvx0’及びZv’を演算し、(32)式に従ってパラメータF0’/m’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(33)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0≧0、Z0≧0の場合には、Z0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0≧0、Z0<0の場合には、Z0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。また、vy0<0、Z0≧0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0<0、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。
【0085】
また、別のパラメータを用いる場合として、任意の正数aを(22)式の第3式より下記(34)式のようにおくと、(22)式よりvx0’、vy0’及びZ0’は下記(35)式のように変形できる。
【0086】
【数16】
【0087】
この関係より、F0’/m’及びZv’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vx0’、vy0’及びZ0’が求まる。よって、F0’/m’及びZv’をある値に設定した場合において、vx0’、vy0’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びZv’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、F0’/m’=Zv’=1とした場合のvx0’、vy0’及びZ0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0088】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=Zv’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(35)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(34)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Zv<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0089】
また、別のパラメータを用いる場合として、(35)式の第3式を下記(36)式のように変形すると、(34)式のaは、下記(37)式のように変形される。
【0090】
【数17】
【0091】
この関係より、Zv’及びZ0’にある値を設定することにより、現時刻のパラメータPによってF0’/m’、vx0’及びvy0’が求まる。よって、Zv’及びZ0’をある値に設定した場合において、F0’/m’、vx0’及びvy0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このZv’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、Zv’=1、Z0’=±1とした場合のF0’/m’、vx0’及びvy0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0092】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、Zv’=1、Z0’=±1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(35)式の第1式及び第2式に従ってパラメータvx0’及びvy0’を演算し、(36)式に従ってパラメータF0’/m’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(37)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Zv≧0、Z0≧0の場合には、Z0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、Zv≧0、Z0<0の場合には、Z0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。また、Zv<0、Z0≧0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、Zv<0、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。
【0093】
また、3次元マップの軸の取り方を変更して、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように移動させた3次元マップを用いてもよい。例えば、(27)式のパラメータを下記(38)式のように変更した(teのチルダ)’の3次元マップを作成することができる。また、(27)式の第1式、第2式、及び(28)式のパラメータを下記(39)式のように、(35)式のパラメータを下記(40)式のように、(35)式の第1式、第2式、及び(36)式のパラメータを下記(41)式のように変更することもできる。
【0094】
【数18】
【0095】
このように、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように3次元マップの軸を変更することにより、3次元マップの精度を保ちつつマップを記憶する容量を、例えば図4に示した3次元マップに比べて小さく抑えることが容易になる。
【0096】
以下、上記のマップを用いた第1の実施の形態について詳細に説明する。図5に示すように、第1の実施の形態の車両運動制御装置には、自車両の走行状態を検出する走行状態検出手段として車両に搭載されたセンサ群、外部環境状態を検出する外部環境検出手段として車両に搭載されたセンサ群、及びこれらのセンサ群からの検出データに基づいて、自車両が運動するように自車両に搭載された車載機器を制御することによって目標位置へ到達するように車両運動を制御する制御装置20、ドライバに車両運動制御状態を報知する表示装置30が設けられている。
【0097】
車両運動制御装置の自車両の走行状態を検出するセンサ群としては、車速を検出する車速センサ10、操舵角を検出する操舵角センサ12、及びスロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサ14が設けられている。また、図示しないGPS装置からの情報を加えるようにしてもよい。
【0098】
また、外部環境状態を検出するセンサ群としては、自車両の前方を撮影する前方カメラ16、及び自車両の前方の障害物を検出するレーザレーダ18が設けられている。なお、レーザレーダ18に代えて、又はレーザレーダ18と共にミリ波レーダを設けるようにしてもよい。また、図示しないGPS装置からの情報を加えるようにしてもよい。
【0099】
前方カメラ16は、車両の前方を撮影するように車両のフロントウインドウ上部等に取り付けられている。前方カメラ16は、小型のCCDカメラ又はCMOSカメラで構成され、自車両の前方の道路状況を含む領域を撮影し、撮影により得られた画像データを出力する。出力された画像データは、マイクロコンピュータ等で構成された制御装置20に入力される。なお、カメラとして、前方カメラ16に加えて、前方赤外線カメラを設けるのが好ましい。赤外線カメラを用いることにより、歩行者を障害物として確実に検出することができる。なお、上記の赤外線カメラに代えて近赤外線カメラを用いることができ、この場合においても同様に歩行者を確実に検出することができる。
【0100】
レーザレーダ18は、赤外光パルスを照射する半導体レーザからなる発光素子、赤外光パルスを水平方向に走査する走査装置、及び前方の障害物(歩行者、前方車両等)から反射された赤外光パルスを受光する受光素子を含んで構成され、車両の前方グリル又はバンパに取り付けられている。このレーザレーダ18では、発光素子から発光された時点を基準として受光素子で受光されるまでの反射赤外光パルスの到達時間に基づいて、自車両から前方の障害物までの距離を検出することができる。レーザレーダ18で検出された障害物までの距離を示すデータは制御装置20に入力される。制御装置20は、RAM、ROM、及びCPUを含むマイクロコンピュータ等で構成され、ROMには以下で説明する車両運動制御ルーチンのプログラムが記憶されている。
【0101】
また、制御装置20は、自車両の操舵角、制動力、及び駆動力の少なくとも1つを制御することによって、目標位置へ到達するように車両運動を制御するための車両搭載機器に接続されている。この車両搭載機器としては、車輪の操舵角を制御するための電動パワーステアリング等の操舵角制御装置22、ブレーキ油圧を制御することによって制動力を制御する制動力制御装置24、及び駆動力を制御する駆動力制御装置26が設けられている。制動力制御装置24には、制動力を検出する検出センサ24Aが取り付けられている。また、制御装置20には、演算された制御入力の方向θ等を表示することによって車両運動制御情報をドライバに報知する表示装置30が接続されている。なお、車両運動制御を行なっていることを、ドライバだけでなく車両外部の目標位置方向に向かって報知するようにしてもよい。また、最短回避距離が自車両と障害物との距離よりも短い場合には、ドライバに回避の必要性を予め報知するようにしてもよい。
【0102】
操舵角制御装置22としては、ドライバのステアリングホイール操作に重畳して前輪及び後輪の少なくとも一方の車輪の操舵角を制御する制御手段、ドライバ操作とは機械的に分離され、ステアリングホイールの操作とは独立して前輪及び後輪の少なくとも一方の車輪の操舵角を制御する制御手段(いわゆるステア・バイ・ワイヤ)等を用いることができる。
【0103】
制動力制御装置24としては、ドライバ操作とは独立して各車輪の制動力を個別に制御する、いわゆるESC(Electronic Stability Control)に用いられる制御装置、ドライバ操作とは機械的に分離され、各車輪の制動力を信号線を介して任意に制御する制御装置(いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ)等を用いることができる。
【0104】
駆動力制御装置26としては、スロットル開度、点火進角の遅角、又は燃料噴射量を制御することによって駆動力を制御する制御装置、変速機の変速位置を制御することによって駆動力を制御する制御装置、トルクトランスファを制御することによって前後方向及び左右方向の少なくとも一方の駆動力を制御する制御装置等を用いることができる。
【0105】
また、制御装置20には、制御入力を求めるためのマップを記憶したマップ記憶装置28が接続されている。マップ記憶装置28には、予測回避時間teのチルダを求めるための3次元マップ、及び予測回避時間に基づいて、移動する障害物を回避するための回避軌道及び車体合成力を導出するための2次元マップが記憶される。
【0106】
また、制御装置20には、ドライバに警報を発する図示しない警報装置が接続されている。警報装置としては、音や音声によって警報を発する装置、光や視覚的な表示によって警報を発する装置、振動によって警報を発する装置、又は操舵反力のような物理量をドライバに与えてドライバの操作を誘導する物理量付与装置を用いることができる。また、表示装置30を警報装置として用いるようにしてもよい。
【0107】
以下、図6を参照して第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間teのチルダを求めるためのマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。
【0108】
ステップ100で、車速センサ10等で検出された自車両の走行状態、及びレーザレーダ18等で検出された外部環境状態に関する検出データを取り込む。次に、ステップ102で、取り込んだ検出データに基づいて、車両が走行している道路上の障害物の位置を含む環境マップを作成する。
【0109】
次に、ステップ104で、障害物の横を通過する位置における速度方向を環境マップに基づいて設定し、さらに自車両の現在時刻の位置を原点に、また設定した速度方向を車体前後方向(x軸)に取り、x軸に直交する方向をy軸とするxy座標を設定する。
【0110】
次に、ステップ106で、上記ステップ100で走行状態として取り込まれた自車両及び障害物の状態量を設定された座標に対応させて変換し、現在の自車両と障害物との距離のx成分Xe、自車両の速度のx成分vx0、自車両の速度のy成分vy0、障害物のy方向の位置Z0、及び障害物の速度のy成分Zvを演算する。なお、ここでは、障害物の速度のx成分は0とする。
【0111】
次に、ステップ108で、外部環境及び自車両の構造と状態に基づいて、車体合成力の最大値F0を設定する。
【0112】
次に、ステップ110で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、Zv、Z0、及び上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0を用いて、(25)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZv’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(24)式に従って予測回避時間teのチルダに変換する。
【0113】
次に、ステップ112で、上記ステップ110で算出された予測回避時間teのチルダを(21)式に適用して、teのチルダ後の障害物の位置を予測し、その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を回避すべき横移動距離Yeとして設定する。
【0114】
次に、ステップ114で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0、及び上記ステップ112で設定した横移動距離Yeを用いて、(20)式に従って、第1のパラメータvx0’、及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最短2次元マップから得て、(18)式及び(19)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換する。そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより車体合成力を得る。また、(16)式に代入することで最短の回避距離Xsを得る。また、(1)式〜(6)式に従って、横移動距離Yeに対する縦移動距離が最短となる回避軌道を導出する。
【0115】
次に、ステップ116で、上記ステップ114で導出された車体合成力に従って、回避軌道に沿った走行を実現するために必要な各車輪のタイヤ発生力を演算し、各車輪のタイヤ発生力が得られるように操舵角制御装置22、制動力制御装置24、及び駆動力制御装置26の少なくとも1つを制御すると共に、車両運動制御情報を表示装置30に表示する。また、障害物を回避するように制御する際には無条件で警報装置から警報を発したり、障害物を回避するための車両運動制御を行っていることを表示装置に表示したりすることにより警報を行ってもよい。各車輪のタイヤ発生力が得られるように制御することにより、目的とする車体合成力が得られるように制御することができる。
【0116】
以上説明したように、第1の実施の形態の車両運動制御装置によれば、静止した障害物を回避するための横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出するために最短2次元マップを用いることを前提とした簡単な構成の3次元マップを用いて移動する障害物の位置を予測するため、障害物が移動する場合でも、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出することができる。
【0117】
なお、第1の実施の形態では、(25)式をパラメータとする(teのチルダ)’の3次元マップと(20)式をパラメータとする最短2次元マップとを組み合わせる場合について説明したが、(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は最短2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0118】
また、第1の実施の形態では、道路に対する自車両及び障害物の速度を用いる場合について説明したが、道路に対する自車両の速度及び自車両に対する障害物の相対速度を検出するようにしてもよい。
【0119】
また、回避制御は、公知の技術(特開2007−283910号公報)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0120】
また、第1の実施の形態では、車体合成力の向きを求めるために{ν1’,ν2’,te’}を導出する最短2次元マップを用いる場合について説明したが、現時刻の車体合成力の向きを求めたい場合には、1つのパラメータを出力する最短2次元マップで導出するようにしてもよい。具体的には、図3の最短2次元マップの{ν1’,ν2’,te’}を(12)式に適用して、t=0の場合における{θ’}を出力する最短2次元マップ(図7)を作成する。
【0121】
そして、上記実施の形態と同様の流れで(teのチルダ)’の3次元マップを作成しておき、その3次元マップから得られる(teのチルダ)’、(23)式、(24)式よりteのチルダを求める。次に(21)式より予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を算出し、Yeのチルダ(teのチルダ)を回避すべき横移動距離Yeとして設定して、図7の最短2次元マップを用いてθ’を得る。ただし、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して最短2次元マップより−θ’を求め、さらに−θ’→θ’の処理を行えばよい。
【0122】
その結果、障害物の速度を考慮して、静止物回避時に縦移動距離を最短にする最短2次元マップ及び下記(42)を用いて、現時刻の車体合成力の大きさと向きが得られる。
【0123】
【数19】
【0124】
なお、この方法でも(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は、最短2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0125】
また、図7のように{Xs’}を出力する最短2次元マップを導入して、下記(43)式及び公知の技術(特開2007-283910号公報)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0126】
【数20】
【0127】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、障害物が移動する場合に、障害物の予測位置に基づいた目標位置及び目標位置における速度方向に対して車体合成力の最大値を最小にする車体合成力及び回避軌道を導出する場合について説明する。なお、第2の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0128】
まず、障害物が静止物である場合に、目標位置及び目標位置における速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小となる車体合成力及び回避軌道の導出するために用いられるマップ(以下、最適2次元マップともいう)について説明する。
【0129】
静止物回避に対して車体合成力の最大値を最小にする最適制御は、第1の実施の形態で述べたのと同様に(7)式〜(11)式で定式化できる。なぜなら、最短の回避距離Xsが自車両と障害物との相対距離のx成分Xeと等しくなる車体合成力の最大値F0を求められれば、そのときの(12)式で示される制御入力は、車体合成力の最大値最小化問題の最適解になるためである。よって、自車両と障害物との相対距離のx成分Xeに対して、x1(te)=Xeの関係を導入することにより、Xs→Xeに変換された非線形方程式(13)式〜(16)式により、F0、te、ν1、ν2が求まる。
【0130】
まず、(13)式を(44)式のように変形し、Xs→Xeに変換された(14)式〜(16)式に代入する((45)式〜(47)式)。
【0131】
【数21】
【0132】
ここで、任意の正数a0を導入して下記(49)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解{ν1、ν2、te}及び{ν1’、ν2’、te’}は、(50)式の関係を満たす。
【0133】
【数22】
【0134】
(49)式の最後の式より、a0を下記(51)式のようにおくと、(49)式よりYe’ 及びvy0’は(52)式のように変形できる。
【0135】
【数23】
【0136】
この関係より、Xe’及びvx0’に任意の正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってYe’及びvy0’が求まる。よって、Xe’及びvx0’をある値に設定した場合において、Ye’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとした最適2次元マップマップを予め用意しておけばよい。なお、このXe’及びvx0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0137】
ここでは、一例として、Xe’=vx0’=1とした場合のYe’及びvy0’に関する最適2次元マップを作成する。図8に示すように、Ye’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとして、Xs→Xeに変換した(13)式〜(16)式に基づいて得られるν1’の値をマッピングした第1のマップ、ν2’の値をマッピングした第2のマップ、及びte’の値をマッピングした第3のマップを作成する。
【0138】
なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、(52)式で定める場合だけでなく、導入した任意の正数aの取り方を変えたり、vx0’、vy0’、Xe’及びYe’のそれぞれに着目して式を変形したりして、求めることもできる。それぞれ得られた第1のパラメータ及び第2のパラメータに応じて、vx0’、vy0’、Xe’及びYe’の内必要な値に任意の値を設定してマップを作成することができる。また、最適2次元マップの特異点のラインが縦軸又は横軸と平行になるように各マップの軸の取り方を変更したマップを作成することもできる。
【0139】
次に、この静止物回避用の最適2次元マップを用いて障害物を回避する制御を行うコントローラを、障害物が移動する場面に適用することを考える。
【0140】
第1の実施の形態と同様に、設定したx−y座標系における現時刻の移動体のx方向の位置をXe、y方向の位置をZ0、x方向の速度を0、及びy方向の速度をZvとし、障害物がy軸方向に等速直線運動をすると仮定すると、t秒後の障害物の位置は(21)式となる。
【0141】
ここで、自車両の回避に要する予測回避時間teのチルダを導入する。
【0142】
【数24】
【0143】
まず、{F0のチルダ、ν1のチルダ、ν2のチルダ、teのチルダ}に対応した(13)式を(53)式のように変形し、Xs→Xeに変換した(14)式〜(16)式に代入する((54)式〜(56)式)。
【0144】
【数25】
【0145】
ここで、任意の正数aを導入して下記(57)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解は、下記(58)式の関係を満たす。
【0146】
【数26】
【0147】
(57)式の第2式より、aを下記(59)式のようにおくと、(57)式より、vy0’、Zv’及びZ0’は下記(60)式のように変形できる。
【0148】
【数27】
【0149】
この関係より、vx0’及びXe’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vy0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、vx0’及びXe’をある値に設定した場合において、vy0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvx0’及びXe’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0150】
ここでは、一例として、vx0’=Xe’=1とした場合のvy0’、Zv’及びZ0’に関する3次元マップを作成する。図9に示すように、vy0’、Zv’及びZ0’をパラメータとして、上記(54)式〜(56)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0151】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vx0’=Xe’=1、既知のm、vx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(60)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(58)式及び(59)式に従ってteのチルダに変換する。そして、(21)式を適用することで、予測回避時間teのチルダに応じた障害物の位置Yeのチルダ(teのチルダ)が得られる。
【0152】
なお、この3次元マップの領域は、vy0’、Zv’及びZ0’のいずれかにおいて0以上に限定してもよい。例えば、Z0≧0の3次元マップを作成した場合は、検出値がZ0<0であったとしても、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0153】
次に、得られた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を、上記の最適2次元マップ(例えば、図8)、(44)式に適用すると、障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)をXs→Xeに変換された(13)式〜(16)式に代入したときの解{F0,ν1,ν2,te}が得られる。より具体的には、図8の最適2次元マップを用いた場合、Xe’=vx0’=1、既知のvx0、vy0、Xe及びYe(=求めた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ))から(52)式に従って第1のパラメータYe’及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最適2次元マップから得て、(50)式及び(51)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換し、(44)式によりF0を得る。
【0154】
そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより入力の時間関数が得られる。なお、図9の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0155】
この結果、障害物の位置及び速度を考慮して、静止物回避において車体合成力の最大値を最小にする最適2次元マップを用いて、障害物の回避を可能にする制御入力関数と(1)式〜(6)式の積分計算により回避軌道が導出される。
【0156】
なお、上記の3次元マップではパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を(60)式のように定め、vx0’=Xe’=1とした場合について説明したが、このパラメータの取り方は、上記以外にも複数存在する。例えば、任意の正数aを(57)式の第4式より下記(61)式のようにおくと、(57)式よりvy0’、Zv’及びXe’は下記(62)式のように変形できる。
【0157】
【数28】
【0158】
この関係より、vx0’及びZ0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvy0’、Zv’及びXe’が求まる。よって、vx0’及びZ0’をある値に設定した場合において、vy0’、Zv’及びXe’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvx0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、図10に示すように、vx0’=Z0’=1とした場合のvy0’、Zv’及びXe’を変数として(54)式〜(56)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0159】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vx0’=Z0’=1、既知のvx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(62)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びXe’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(58)式及び(61)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Z0<0の場合は、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0160】
なお、図10の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0161】
また、別のパラメータを用いる場合として、(53)式〜(56)式の展開方法を変更する。まず、Xs→Xeに変換された非線型方程式(13)式〜(16)式において、(14)式を下記(63)式のように変形し、(13)式、(15)式及び(16)式に代入する((64)式〜(66)式)。
【0162】
【数29】
【0163】
ここで、任意の正数a1を導入して下記(67)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解は、下記(68)式の関係を満たす。
【0164】
【数30】
【0165】
(67)式の第2式より、a1を下記(69)式のようにおくと、(67)式より、vx0’、Zv’及びZ0’は下記(70)式のように変形できる。
【0166】
【数31】
【0167】
この関係より、vy0’及びXe’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vx0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、vy0’及びXe’をある値に設定した場合において、vx0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvy0’及びXe’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0168】
ここでは、一例として、vy0’=Xe’=1とした場合のvx0’、Zv’及びZ0’に関するマップを作成する。図11に示すように、vx0’、Zv’及びZ0’をパラメータとして、上記(64)式〜(66)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0169】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vy0’=Xe’=1、既知のvx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(70)式に従ってパラメータvx0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(68)式及び(69)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0<0の場合は、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0170】
なお、図11の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0171】
また、別のパラメータを用いる場合として、任意の正数a1を(67)式の第4式より下記(71)式のようにおくと、(67)式よりvx0’、Zv’及びXe’は下記(72)式のように変形できる。
【0172】
【数32】
【0173】
この関係より、vy0’及びZ0’にある値を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvx0’、Zv’及びXe’が求まる。よって、vy0’及びZ0’をある値に設定した場合において、vx0’、Zv’及びXe’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvy0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、図12、13に示すように、vy0’=1、Z0’=±1とした場合のvx0’、Zv’及びXe’を変数として(64)式〜(66)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0174】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vy0’=1、Z0’=±1、既知のvx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(72)式に従ってパラメータvx0’、Zv’及びXe’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(68)式及び(71)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0≧0、Z0≧0の場合には、Z0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0≧0、Z0<0の場合には、Z0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。また、vy0<0、Z0≧0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0<0、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。
【0175】
なお、図12、13の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0176】
また、3次元マップの軸の取り方を変更して、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように移動させた3次元マップを用いてもよい。例えば、(60)式のパラメータを下記(73)式のように変更した(teのチルダ)’の3次元マップ(図14)を作成したり、下記(74)式のように変更した(teのチルダ)’の3次元マップ(図15)を作成したりすることができる。また、(62)式のパラメータを下記(75)式や(76)式のように、(70)式のパラメータを下記(77)式や(78)式のように、(72)式のパラメータを下記(79)式や(80)式のように変更することもできる。
【0177】
【数33】
【0178】
このように、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように3次元マップの軸を変更することにより、3次元マップの精度を保ちつつマップを記憶する容量を、例えば図9に示した3次元マップに比べて小さく抑えることが容易になる。
【0179】
以下、図16を参照して第2の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間teのチルダを求めるためのマップとして図9の3次元マップを用い、目標位置及び目標位置における速度方向に対して最大値が最小になる車体合成力を求めるためのマップとして図8の最適2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0180】
ステップ100〜106を経て、ステップ200で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量vx0、vy0、Zv及びZ0を用いて、(60)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(58)式及び(59)式に従って予測回避時間teのチルダに変換する。
【0181】
次に、ステップ202で、上記ステップ200で算出された予測回避時間teのチルダを(21)式に適用して、teのチルダ後の障害物の位置を予測し、その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を回避すべき横移動距離Yeとし、上記ステップ106で演算されたXeと合わせて目標位置として設定する。
【0182】
次に、ステップ204で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、Xe、及び上記ステップ204で設定した横移動距離Yeを用いて、(52)式に従って、第1のパラメータYe’、及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最適2次元マップから得て、(50)式及び(51)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換し、(44)式に従ってF0を演算する。そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより車体合成力を得る。また、(1)式〜(6)式に従って、目標位置及び目標位置における速度方向に対して車体合成力の最大値を最小にする回避軌道を導出する。
【0183】
次に、ステップ206で、上記ステップ204で演算したF0が、タイヤ発生力の限界値以下か否かを判定する。車体合成力の最大値がタイヤ発生力の限界値以下の場合には、ステップ116へ移行し、タイヤ発生力の限界値を超えている場合には、ステップ118へ移行する。なお、タイヤ発生力の限界値は、路面とタイヤとの間の摩擦係数に基づいて定まる真の限界値だけでなく、真の限界値に対してマージンを設けて設定した限界値も含む意味である。
【0184】
ステップ116では、第1の実施の形態と同様に、上記ステップ204で導出された車体合成力に従って、車体合成力の最大値が最小になる回避軌道に沿った走行を実現するための回避車両運動制御を実行する。一方、ステップ208では、急制動制御により障害物の手前で車両が停止するように制動力制御装置24を制御するか、推定される衝突被害が最小化されるように操舵角制御装置22及び制動力制御装置24を制御する。例えば、WO2006−070865記載の技術のような公知の技術を用いればよい。
【0185】
以上説明したように、第2の実施の形態の車両運動制御装置によれば、静止した障害物を回避するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出するための最適2次元マップを用いることを前提とした簡単な構成の3次元マップを用いて移動する障害物の位置を予測するため、障害物が移動する場合でも、障害物の予測位置に基づいた目標位置及び目標位置における速度方向に対して車体合成力の最大値を最小にする車体合成力及び回避軌道を導出することができる。
【0186】
なお、第2の実施の形態では、(60)式をパラメータとする(teのチルダ)’の3次元マップと(52)式をパラメータとする最適2次元マップを組み合わせる場合について説明したが、(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は最適2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0187】
また、第2の実施の形態では、道路に対する自車両及び障害物の速度を用いる場合について説明したが、道路に対する自車両の速度及び自車両に対する障害物の相対速度を検出するようにしてもよい。
【0188】
また、回避制御は、公知の技術(特開2007−283910)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0189】
また、第2の実施の形態では、車体合成力の向きを求めるために{ν1’,ν2’,te’}を導出する最適2次元マップを用いる場合について説明したが、現時刻の車体合成力の向きを求めたい場合には、2つのパラメータを出力する最適2次元マップで導出するようにしてもよい。具体的には、図8の最適2次元マップの{ν1’,ν2’,te’}を(12)式に適用して、t=0の場合における{θ’,F0’/m’}を出力する最適2次元マップ(図17)を作成する。
【0190】
そして、上記実施の形態と同様の流れで(teのチルダ)’の3次元マップを作成しておき、その3次元マップから得られる(teのチルダ)’、(58)式、(59)式よりteのチルダを求める。次に(21)式より予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を算出し、Yeのチルダ(teのチルダ)を目標位置までの横移動距離Yeとして設定して、図17の最適2次元マップを用いて{θ’,F0’/m’}を得る。
【0191】
その結果、障害物の速度を考慮して、静止物回避時に車体合成力の最大値を最小にする最適2次元マップ、下記(81)、及び(42)式を用いて、現時刻の車体合成力の大きさと向きが得られる。
【0192】
【数34】
【0193】
なお、この方法でも(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は、最適2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0194】
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、障害物まで到達する予測時間と移動距離のマージンを設けて障害物の位置を予測する場合について説明する。なお、第3実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0195】
まず、障害物の位置を予測するために、障害物に対する自車両の相対速度vx0を用いて、下記(82)式のように予測時間teのバーを算出する。
【0196】
【数35】
【0197】
この予測時間は、減速しないで自車両が障害物に近づいたときの到達時間を表しており、このとき、障害物の予測位置はYeのチルダ(teのバー)となる。この予測位置Yeのチルダ(teのバー)を回避すべき横移動距離Yeとして、(13)式〜(16)式の解を、例えば図3や図7に示す最短2次元マップにより求めて、(12)式により得られる制御入力により車両を制御すると、横移動距離が不足して車体合成力の限界制限により障害物を回避できない場面が生じる。
【0198】
そこで、この横移動距離にマージンαYを加えた新たな横移動距離(下記(83)式)を考える。
【0199】
【数36】
【0200】
ここで、適切にαYを選び、(83)式により求まる横移動距離Yeのバー(teのバー)を、回避すべき横移動距離Yeとして、Ye及び所望の速度方向に対して、図3または図7の最短2次元マップを用いると、設定した横移動距離Yeに対して縦移動距離を最短にする車体合成力及び回避軌道が得られる。
【0201】
しかし、所望のYeを求めるためにはマージンαYを求める必要がある。そこで、第1の実施の形態の(teのチルダ)’の3次元マップ(図4)を用いること考える。この3次元マップから得られる(teのチルダ)’は、(23)式及び(24)式により、現在の状態における予測回避時間teのチルダに変換することができる。よって、下記(84)式により、現在の状態に対する適切なマージンが求められる。
【0202】
【数37】
【0203】
このマージンαYを(83)式に代入し、図3または図7のような最短2次元マップ、及び(12)式に示す制御入力を用いれば、現時刻のm、vx0、vy0、Zv、Zo、及び設定したF0に対して、予測時間の算出方法に依らず第1の実施の形態と同じ車体合成力及び回避軌道が得られる。
【0204】
以下、図18を参照して第3の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、マージンαYを求めるために用いるマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0205】
ステップ100〜108を経て、ステップ300で、(82)式に従って、x方向についての障害物に対する自車両の相対速度vx0及び相対距離Xeに基づいて、自車両が障害物近傍に到達する予測時間teのバーを算出する。
【0206】
次に、ステップ302で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、Zv、Z0、及び上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0を用いて、(25)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZv’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(24)式に従って予測回避時間teのチルダに変換する。そして、(84)式によりマージンαYを算出する。
【0207】
次に、ステップ304で、上記ステップ302で算出されたマージンαYを(83)式に適用して、マージンを加味したteのバー後の障害物の位置を予測し、teのバー後の障害物の位置Yeのバー(teのバー)を回避すべき横移動距離Yeとして設定する。
【0208】
以下、第1の実施の形態と同様に、ステップ114で、最短2次元マップを用いて、上記ステップ304で設定した横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる車体合成力を導出し、ステップ116で回避車両運動制御を実行する。
【0209】
なお、第3の実施の形態では、最短2次元マップを用いて最短回避制御を行う際に、必要な横方向のマージンを求める場合について説明したが、例えば図8や図17の最適2次元マップを用いて最適回避制御を行う場合にも適用できる。図19を参照して、第3の実施の形態の最適回避制御の場合について説明する。なお、第1〜第2の実施の形態、及び第3の実施の形態の最短回避制御の場合と同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0210】
ステップ100〜106、及びステップ300を経て、ステップ350で、例えば、図9に示す(teのチルダ)’の3次元マップから得られた(teのチルダ)’を、(58)式(59)式に従って予測回避時間teのチルダに変換し、(84)式によりマージンαYを算出する。
【0211】
次に、ステップ352で、算出されたマージンαYを(83)式に適用して、マージンを加味したteのバー後の障害物の位置を予測して、目標位置として設定し、次に、ステップ204で、最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出する。
【0212】
そして、ステップ206で、上記ステップ204で得られた車体合成力の最大値がタイヤ発生限界値以下か否かを判定して、ステップ116で回避車両運動制御、あるいはステップ208で急制動または衝突被害予測値最小化車両制御を実行する。
【0213】
この場合においても、現時刻のvx0、vy0、Xe、Zv,及びZoに対して、予測時間の算出方法に依らず第2の実施の形態と同じ回避軌道及び車体合成力の大きさと向きが得られる。
【0214】
次に、第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態では、予測回避時間を収束演算により求める場合について説明する。なお、第4の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0215】
図20を参照して第4の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、移動する障害物を回避するために、障害物の予測位置に基づく横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0216】
ステップ100〜108、及びステップ300を経て、ステップ400で、(82)式により予測時間teのバーを求め、この予測時間teのバー及び(21)式に基づく障害物の予測位置Yeのチルダ(teのバー)を回避すべき横移動距離Yeとして設定する。
【0217】
次に、ステップ114で、最短2次元マップを用いて、上記ステップ400で設定した横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる車体合成力を導出する。
【0218】
次に、ステップ402で、上記ステップ300で算出した予測時間teのバーと、上記ステップ114で最短2次元マップから得られた回避時間teとが等しくなったか否かを判定する。teのバー=teの場合には、ステップ116へ移行し、teのバー≠teの場合には、ステップ404へ移行する。なお、ここでは、teのバー=teか否かを判定する場合について説明するが、teのバーとteとが等しい場合だけでなく、teのバーとteとの差が所定値(例えば、teの5%等)以下の場合も肯定判定されるようにしてもよい。
【0219】
ステップ404では、teのバーを修正して、修正したteのバーに基づく回避すべき横移動距離Yeを再設定して、ステップ114に戻り、ステップ402でteのバー=teと判定されるまで、ステップ114、ステップ402及び404の処理を繰り返す。
【0220】
ステップ116では、teのバー=teと判定されたときに上記ステップ114で導出された車体合成力に基づいて、回避車両運動制御を実行する。
【0221】
なお、第4の実施の形態では、最短2次元マップを用いて最短回避制御を行う際に、収束演算により予測時間を修正する場合について説明したが、例えば図8や図17の最適2次元マップを用いて最適回避制御を行う場合にも適用できる。図21を参照して、第4の実施の形態の最適回避制御の場合について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態、及び第4の実施の形態の最短回避制御の場合と同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0222】
ステップ100〜106、及びステップ300を経て、ステップ450で、予測時間teのバーに基づいて予測した障害物の位置を、目標位置(Xe,Yeのチルダ(teのバー))として設定する。次に、ステップ204で、例えば図8や図17のような最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び速度方向に到達するための車体合成力の最大値が最小になる回避軌道及び車体合成力を導出する。
【0223】
次に、ステップ402で、上記ステップ300で算出した予測時間teのバーと、上記ステップ204で最適2次元マップから得られた回避時間teとが等しくなったか否かを判定する。teのバー≠teの場合には、ステップ452へ移行し、teのバーを修正して、修正したteのバーに基づく目標位置を再設定して204に戻り、ステップ402でteのバー=teと判定されるまで、ステップ204、ステップ402及び452の処理を繰り返す。そして、ステップ206で、上記ステップ204で得られた車体合成力の最大値がタイヤ発生限界値以下か否かを判定して、ステップ116で回避車両運動制御、あるいはステップ208で急制動または衝突被害予測値最小化車両制御を実行する。
【0224】
次に、第5の実施の形態について説明する。第5の実施の形態では、左右の回避軌道を求めて比較する場合について説明する。なお、第5の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0225】
第1〜第4の実施の形態では、自車両の前後方向に対して障害物の左側に回避する回避軌道を導出する場合について説明したが、障害物の右側に回避する回避軌道を導出する場合にも適用することができる。なぜなら、図22に示すように、障害物の右側を回避する軌道は、x軸に関して線対称な場面に対して、障害物の左側に回避する軌道と対称になるためである。
【0226】
図23を参照して第5の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間を求めるために用いるマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0227】
ステップ100〜108を経て、ステップ500で、障害物の現時刻のy方向の位置Z0に対応して、Zv=0の時に自車両が障害物の横を通過するときの位置を左側回避ではZl、右側回避ではZrとおく。そして、自車両及び障害物の大きさに基づいた横位置のマージンαZと設定して、下記(85)式のようにZl及びZrを設定する。
【0228】
【数38】
【0229】
次に、ステップ110で、左側回避ではZ0をZlに、右側回避ではZ0をZrに代えて、例えば図4の3次元マップを用いて予測回避時間teのチルダを導出する。次に、ステップ502で、上記ステップ110で導出された予測回避時間teのチルダと(85)式のZlまたはZrとを(21)式に適用して、teのチルダ後の自車両の通過位置を左側回避及び右側回避の各々について予測する。その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を左側回避及び右側回避の各々における回避すべき横移動距離Yeとして設定する。ただし、(21)式のZ0にはZlまたはZrを代入する。
【0230】
次に、ステップ504で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0、及び上記ステップ502で設定した左側回避の横移動距離Yeを用いて、最短2次元マップから{ν1’,ν2’,te’}を得て、(18)式及び(19)式に従って{ν1,ν2,te}に変換する。そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより左側回避の車体合成力を得る。また、(16)式に代入することで左側回避の最短の回避距離Xsを得る。
【0231】
同様に、右側回避についても車体合成力及び最短の回避距離Xsを得る。なお、左側回避の場合には、Zv及びZlをそのまま第1の実施形態と同様に適用することができるが、右側回避の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Zr→−Zrに変換(x軸に線対称な場面)して、第1の実施形態と同様に適用して、最短2次元マップより{−ν1’,−ν2’,te’}を得る。そして、−ν1’→ν1’、−ν2’→ν2’の処理を行えば、障害物の右側を回避する{ν1’,ν2’,te’}が得られる。
【0232】
次に、ステップ506で、左側回避の最短の回避距離Xsと右側回避との最短の回避距離Xsとを比較し、左側回避の最短の回避距離Xsの方が小さい場合には、ステップ508へ移行し、左側回避の軌道を選択し、右側回避の最短の回避距離Xsの方が小さい場合には、ステップ510へ移行し、右側回避の軌道を選択する。
【0233】
次に、ステップ512で、選択した回避動作が必要か否かを判定し、その回避動作が必要な場合には、ステップ116へ移行し、回避車両運動制御を実行し、回避動作が必要でない場合、すなわち回避動作を行わなくても障害物と衝突しない場合には、そのまま処理を終了する。なお、公知の技術(特開2007-283910号公報)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0234】
なお、第5の実施の形態では、最短2次元マップを用いた最短回避制御について、左側回避軌道と右側回避軌道とを比較する場合について説明したが、例えば図8や図17の最適2次元マップを用いて最適回避制御を行う場合にも適用できる。図24を参照して、第5の実施の形態の最適回避制御の場合について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態、及び第5の実施の形態の最短回避制御の場合と同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0235】
ステップ100〜106、及びステップ500を経て、ステップ200で、左側回避ではZ0をZlに、右側回避ではZ0をZrに代えて、例えば図9の3次元マップを用いて予測回避時間teのチルダを導出する。次に、ステップ550で、上記ステップ500で導出された予測回避時間teのチルダと(85)式のZlまたはZrとを(21)式に適用して、teのチルダ後の自車両の通過位置を左側回避及び右側回避の各々について予測する。その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を左側回避及び右側回避の各々における回避すべき横移動距離Yeとして設定する。ただし、(21)式のZ0にはZlまたはZrを代入する。
【0236】
次に、ステップ552で、例えば図8や図17のような最適2次元マップを用いて、設定された左側回避の目標位置及び速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する。同様に、右側回避の目標位置及び速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する。なお、左側回避の場合には、Zv及びZlをそのまま第2の実施形態と同様に適用することができるが、右側回避の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Zr→−Zrに変換(x軸に線対称な場面)して、第2の実施形態と同様に適用して、最適2次元マップより{−ν1’,−ν2’,te’}を得る。そして、−ν1’→ν1’、−ν2’→ν2’の処理を行えば、障害物の右側を回避する{ν1’,ν2’,te’}が得られる。
【0237】
次に、ステップ554で、上記ステップ552で得られた左側回避の場合の車体合成力の最大値と右側回避の場合の車体合成力の最大値とを比較し、左側回避の車体合成力の最大値の方が小さい場合には、ステップ508へ移行し、左側回避の軌道を選択し、右側回避の車体合成力の最大値の方が小さい場合には、ステップ510へ移行し、右側回避の軌道を選択する。
【0238】
以下、ステップ206、及びステップ116またはステップ208で、回避車両運動制御等を実行する。
【0239】
次に、第6の実施の形態について説明する。第6の実施の形態では、障害物の位置や速度の検出値の誤差を考慮する場合について説明する。なお、第6の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0240】
まず、障害物の位置の検出値を(Xeのバー,Z0のバー)、精度をex、ey、速度の検出値をZvのバー、精度をevとすると、真値Xe、Zv、Z0と検出値及び精度との間には、下記(86)式のような関係がある。
【0241】
【数39】
【0242】
ここで、予め障害物の行動パターンのデータベースを定めておき、このデータベースを参照して、直前に制御指令を行った時刻の障害物の状態量に基づいて、現時刻の障害物の状態量の範囲を推定する。その範囲が、位置のx成分において[Xea,Xeb]、y成分において[Z0a,Z0b]、速度において[Zva,Zvb]になったとすると、検出値、真値、及び推定範囲には、例えば図25に示すような関係が想定される。同図(a)は、検出値、及び(86)式に従って検出値から定まる真値の範囲のいずれもが推定範囲内の場合である。同図(b)は、検出値は推定範囲内であるが、真値の範囲の一部が推定範囲外となる場合である。同図(c)は、検出値及び真値の範囲のいずれもが推定範囲外の場合である。なお、同図では、Zvb側に関して推定範囲を示したが、Zva側に関しても同様に推定範囲が想定され、また区間[Zva,Zvb]を含むような広い範囲となる場合も想定される。さらに、同図では、障害物の速度Zvについての検出値、真値、及び推定範囲の関係について示しているが、障害物の位置(Xe,Zo)についても同様である。
【0243】
これらの関係に基づき、上記各実施の形態に適用する場合において、例えば、図1のような自車両の前後方向に対して障害物の左側を回避する場面において、Xe、Zo及びZvの各々の検出値、真値、及び推定範囲の関係が、例えば図25の(a)〜(c)のいずれかに該当する場合には、下記(87)式のような方法により、Xe、Zo及びZvの各々の値を修正することができる。
【0244】
【数40】
【0245】
なお、障害物の右側を回避する場合は、vy0→−vy0、Z0のバー→−Z0のバー、Zvのバー→−Zvのバー、Z0a→−Z0a、Z0b→−Z0bに変換して、(87)式のような方法により修正した後、上記実施の形態と同様に、{−ν1’,−ν2’,te’}を求めて、−ν1’→ν1’、−ν2’→ν2’の処理を行えばよい。
【0246】
図26を参照して第6の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間を求めるために用いるマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0247】
ステップ100〜106を経て、ステップ600で、上記ステップ106で変換された障害物の状態量(Xeのバー,Z0のバー,Zvのバー)から、(87)式のような方法により各々の値を修正する。
【0248】
以下、第1の実施の形態と同様に処理する。なお、ステップ110では、修正した値を用いて3次元マップより(teのチルダ)’を得、ステップ114では、修正した値を用いて最短2次元マップより車体合成力を導出する。
【0249】
なお、上記では、最短回避制御の場合について説明したが、最適回避制御についても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0250】
10 車速センサ
12 操舵角センサ
14 スロットル開度センサ
16 前方カメラ
18 レーザレーダ
20 制御装置
22 操舵角制御装置
24 制動力制御装置
26 駆動力制御装置
28 マップ記憶装置
30 表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運動制御装置及びプログラムに係り、特に、簡単な構成のマップを用いて移動する障害物を回避する軌道及びその軌道に基づいた車体合成力の大きさ及び向きを導出する車両運動制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行する道路上に存在する障害物を検出し、検出現在時刻から評価終了時刻後の自車両の予測位置及び外部環境に基づいて、自車両の回避後の目標姿勢角を設定し、現在時刻の外部環境及び障害物の状態量に基づいてリスクポテンシャル関数を設定し、そのリスクと運転操作量の時間積分値、目標姿勢角と自車両の姿勢角との差などに基づく評価値を算出し、評価値が最小となる軌道を導出する回避操作算出装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、緊急時の衝突回避動作を想定して、障害物の検出データや行動パターンに基づいて危険度マップを作成し、その危険度が最小化されるような最短回避軌道を算出する車両運動制御装置が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2の車両運動制御装置では、障害物の存在確率が0を超える領域において危険度を段階的に示した危険度マップを用いている。
【0004】
また、自車両と障害物との間の距離、自車両の障害物に対する相対速度、及び回避するための目標位置に基づいて定まる物理量を導入し、その物理量により回避動作時に最大値が最小となる車体合成力の向きと大きさを出力するマップを予め記憶しておき、そのマップより現時刻の車体合成力を求めて車両運動を制御する車両運動制御装置が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−253746号公報
【特許文献2】再公表特許WO2006/070865号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本機械学会、第18回交通・物流部門大会講演論文集、障害物回避のための車両の最適軌道制御、pp.145−148(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、現時刻の外部環境と障害物の状態量に基づいてリスクポテンシャル関数を導入して回避軌道を導出しているものの、障害物の移動距離を予測する具体的な方法までは記載されていない。
【0008】
また、特許文献2の技術では、障害物の検出データや行動パターンに基づく危険度マップを導入して回避軌道を導出しているものの、障害物の移動距離を予測する具体的な方法までは記載されていない。
【0009】
また、非特許文献1の技術では、相対的な意味において所望の位置の速度方向に対して車体合成力の最大値を最小化する軌道を導出し、その軌道に基づいたマップを記憶しておくことで現時刻の車体合成力の算出を可能にしているが、道路に対する所望の速度方向に対して移動する障害物を回避する方法までは記載されていない。
【0010】
本発明は、簡単な構成のマップを用いて、移動する障害物を回避するために横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道、または目標位置及び目標位置における速度方向になるために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出することができる車両運動制御装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出するための最短2次元マップ、並びに・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0、及び車体合成加速度の最大値F0/mを用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分に対して車体前後方向の移動距離が最短となる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Zv、前記成分Z0、及び前記最大値F0/mのうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、設定された前記成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0012】
また、第1の発明において、前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求めるようにすることができる。
【0013】
また、第1の発明において、前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更することができる。
【0014】
また、第2の発明の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力及び回避時間を導出するための最短2次元マップを記憶した記憶手段と、前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記成分Yeを再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0015】
また、第1及び第2の発明において、前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離とを比較し、前記最短距離が小さい側の回避軌道を選択するようにすることができる。
【0016】
また、第3の発明の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出するための最適2次元マップ、並びに・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記自車両と前記障害物との距離の車体前後方向の成分Xe、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、及び前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0を用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Xe、前記成分Zv、及び前記成分Z0のうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0017】
また、第3の発明において、前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求めるようにすることができる。
【0018】
また、第3の発明において、前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更することができる。
【0019】
また、第4の発明の車両運動制御装置は、障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避時間を導出するための最適2次元マップを記憶した記憶手段と、前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記目標位置を再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記目標位置に対して車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、を含んで構成されている。
【0020】
また、第3及び第4の発明において、前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値とを比較し、前記車体合成力の最大値が小さい側の回避軌道を選択するようにすることができる。
【0021】
また、前記導出手段は、前記検出手段により検出された前記障害物の状態量を、該状態量及び精度で表される真値の範囲、並びに予め記憶された前記障害物の行動パターンにより定まる前記状態量の取りうる範囲との関係に基づいて修正するようにすることができる。
【0022】
また、前記検出手段は、前記自車両に対する前記障害物の相対距離及び相対速度を検出するようにすることができる。
【0023】
また、前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、操舵角、制動力、及び駆動力の少なくとも一つを制御する制御手段を更に含んで構成することができる。
【0024】
また、前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、ドライバに車両運動状態を報知する報知手段を更に含んで構成することができる。
【0025】
また、第5の発明の車両運動制御プログラムは、コンピュータを、第1〜第4の発明の車両運動制御装置を構成する各手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、静止した障害物を回避するための横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出するための最短2次元マップ、または目標位置及び目標位置における速度方向になるために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出するための最適2次元マップを用いることを前提として、移動する障害物の位置を簡単な構成のマップを用いて予測することができるため、障害物が移動する場合でも、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道、または目標位置及び目標位置における速度方向になるために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車両運動制御の概略を示す図である。
【図2】xy座標の設定を説明するための図である。
【図3】第1の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最短2次元マップを表す線図である。
【図4】第1の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップを表す線図である。
【図5】第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】第1の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第1の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最短2次元マップの他の例を表す線図である。
【図8】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最適2次元マップを表す線図である。
【図9】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップを表す線図である。
【図10】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図11】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図12】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図13】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図14】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図15】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる3次元マップの他の例を表す線図である。
【図16】第2の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図17】第2の実施の形態の車両運動制御装置で用いられる最適2次元マップの他の例を表す線図である。
【図18】第3の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図19】第3の実施の形態の車両運動制御ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図20】第4の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図21】第4の実施の形態の車両運動制御ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図22】左側回避と右側回避との対称性を説明するための図である。
【図23】第5の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図24】第5の実施の形態の車両運動制御ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図25】検出値、真値の範囲、及び推定範囲の関係を表す図である。
【図26】第6の実施の形態の車両運動制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、車両が走行する道路上において移動する障害物を回避する場合を想定し、回避直後の位置を障害物の横(障害物の移動方向の延長線上)を通過する位置とし、その回避直後の位置における速度方向を車体前後方向とする場合について説明する。
【0029】
第1の実施の形態では、障害物が移動する場合に、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離を最短にする車体合成力及び回避軌道を導出する場合について説明する。
【0030】
まず、障害物が静止物である場合に、所望の横移動距離(車体横方向の距離)及びその位置における速度方向に到達するために縦移動距離(車体前後方向の移動距離)を最短にする車体合成力及び回避軌道の導出の概略について説明する。
【0031】
図1に示すように、設定したxy座標での時刻t(現時刻をt=0として、現時刻からt秒後)における車体合成加速度のx成分をux(t)、車体合成加速度のy成分をuy(t)、車体合成力の大きさをF(t)、車体合成力の方向をθ(t)、及び自車両の重量をmとすると、車体合成加速度ux(t)及びuy(t)は、下記(1)式及び(2)式で示される。また、(1)式及び(2)式を積分して、下記(3)式及び(4)式に示すように、自車両の路面に対する速度のx成分vx(t)、及び速度のy成分vy(t)が得られる。また、(3)式及び(4)式を積分して、下記(5)式及び(6)式に示すように、自車両のt秒間の移動距離のx成分X(t)、及び移動距離のy成分Y(t)が得られる。このX(t)及びY(t)により回避軌道が得られる。
【0032】
【数1】
【0033】
なお、xy座標は、t=0における自車両の位置を原点とし、障害物の横を通過する位置における速度方向(車体前後方向)をx軸、x軸に直交する軸(車体横方向)をy軸として設定する(図2参照)。
【0034】
そして、現時刻(t=0)におけるxy座標上の目標位置を(Xe,Ye)とし、自車両の路面に対する速度をvx(0)=vx0、vy(0)=vy0とし、さらに、目標位置のy成分及び目標位置における速度方向に到達する時刻をteとした場合に、車体合成力の最大値F0=maxF(t)を設定して、自車両の移動距離のy成分に関してY(te)=Ye、及び自車両の速度のy成分に関してvy(te)=0を満たすような車体合成加速度ux(t)及びuy(t)((1)式、及び(2)式)を、F0、vx0、vy0、及びYeをパラメータとするマップを用いて導出する。なお、X(te)を縦移動距離または回避距離、Y(te)を横移動距離ともいう。
【0035】
次に、既知の横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出するために用いられるマップ(以下、最短2次元マップともいう)について説明する。
【0036】
まず、x1=X(t)、x2=vx(t)、x3=Y(t)、x4=vy(t)、u1=ux(t)、u2=uy(t)とおくと、(1)式及び(2)式の運動方程式は、下記(7)式及び(8)式のような状態方程式に変形できる。なお、Tはベクトル及び行列の転置記号である。
【0037】
【数2】
【0038】
次に、車体合成力の最大値F0が-既知であると仮定して、回避距離を最小化する最適制御問題として考えると、評価関数Iを下記(9)式で表した場合、下記(10)式で表される終端条件、及び下記(11)式で表される車体合成力の大きさに関する入力制約条件の下で、評価関数Iを最小化する制御入力を求めよという制御問題に帰着される。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、特開2007−283910号公報等の公知の技術を用いると、下記(12)式のような制御入力が導出される。
【0041】
【数4】
【0042】
ただし、ν1及びν2は最適解を求めるために導入した第1の導入パラメータ及び第2の導入パラメータである。
【0043】
(12)式において必要となるte、ν1、ν2は、下記(13)式〜(15)式の非線形方程式にm、vx0、vy0、F0、及びYeを代入して解くことにより得られる。また、横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となるときの最短距離Xsは、(16)式の関係を満たす。
【0044】
【数5】
【0045】
まず、任意の正数a0を導入して下記(17)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解{ν1、ν2、te}及び{ν1’、ν2’、te’}は、下記(18)式の関係を満たす。
【0046】
【数6】
【0047】
(17)式の最後の式より、a0を下記(19)式のようにおくと、(17)式よりvx0’及びvy0’は下記(20)式のように変形できる。
【0048】
【数7】
【0049】
この関係より、F0’/m’及びYe’に任意の正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvx0’及びvy0’が求まる。よって、F0’/m’及びYe’をある値に設定した場合において、vx0’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとしたマップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びYe’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0050】
ここでは、一例として、F0’/m’=Ye’=1とした場合のvx0’及びvy0’に関する最短2次元マップを作成する。図3に示すように、vx0’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとして、上記(13)式〜(15)式に基づいて得られるν1’の値をマッピングした第1のマップ、ν2’の値をマッピングした第2のマップ、及びte’の値をマッピングした第3のマップを作成する。
【0051】
なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、(20)式で定める場合だけでなく、導入した任意の正数a0の取り方を変えたり、F0’/m’、vy0’、vx0’及びYe’のそれぞれに着目して式を変形したりして求めることもできる。それぞれ得られた第1のパラメータ及び第2のパラメータに応じて、F0’/m’、vy0’、vx0’及びYe’の内必要な値に任意の値を設定して最短2次元マップを作成することができる。また、マップの特異点のラインが縦軸又は横軸と平行になるように各マップの軸の取り方を変更したマップを作成することもできる。
【0052】
次に、この静止物回避用の最短2次元マップを用いて障害物を回避する制御を行うコントローラを、障害物が移動する場面に適用することを考える。
【0053】
設定したx−y座標系における現時刻の移動体のx方向の位置をXe、y方向の位置をZ0、x方向の速度を0、及びy方向の速度をZvとし、障害物がy軸方向に等速直線運動をすると仮定すると、t秒後の障害物の位置は下記(21)式となる。
【0054】
【数8】
【0055】
ここで、自車両の回避に要する予測回避時間teのチルダを導入する。
【0056】
【数9】
【0057】
まず、任意の正数aを導入して下記(22)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解は、下記(23)式の関係を満たす。
【0058】
【数10】
【0059】
(22)式の最後の式より、aを下記(24)式のようにおくと、(22)式よりvx0’、vy0’及びZv’は下記(25)式のように変形できる。
【0060】
【数11】
【0061】
この関係より、F0’/m’及びZ0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvx0’、vy0’及びZv’が求まる。よって、F0’/m’及びZ0’をある値に設定した場合において、vx0’、vy0’及びZv’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0062】
ここでは、一例として、F0’/m’=Z0’=1とした場合のvx0’、vy0’及びZv’に関するマップを作成する。図4に示すように、vx0’、vy0’及びZv’をパラメータとして、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した上記(13)式〜(15)式に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。例えば、Zv’について、Zv’=va’、Zv’=vb’、Zv’=vc’の3値(va’<vb’<vc’)を用い、va’〜vb’間、及びvb’〜vc’間は、各々線形近似などで内挿する。
【0063】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=Z0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(25)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZv’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(24)式に従ってteのチルダに変換する。そして、(21)式を適用することで、予測回避時間teのチルダに応じた障害物の位置Yeのチルダ(teのチルダ)が得られる。
【0064】
ただし、Z0<0の場合は、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0065】
次に、得られた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を、上記の最短2次元マップ(例えば、図3)、(18)式、及び(19)式に適用すると、障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を(13)式〜(15)式に代入したときの解{ν1,ν2,te}が得られる。より具体的には、図3の最短2次元マップを用いた場合、F0’/m’=Ye’=1、既知のm、vx0、vy0、F0、及びYe(=求めた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ))から(20)式に従って第1のパラメータvx0’及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最短2次元マップから得て、(18)式及び(19)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換する。
【0066】
そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより入力の時間関数が得られ、また、(16)式に代入することで最短の回避距離Xsが得られる。なお、図4の3次元マップから得られるteのチルダと、図3の最短2次元マップから得られるteは等しくなるため、図3のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0067】
この結果、障害物の位置及び速度を考慮して、静止物回避における最短2次元マップを用いて、障害物の回避を可能にする制御入力関数と(1)式〜(6)式の積分計算により回避軌道が導出される。
【0068】
なお、上記の3次元マップではパラメータvx0’、vy0’及びZv’を(25)式のように定め、F0’/m’=Z0’=1とした場合について説明したが、このパラメータの取り方は、上記以外にも複数存在する。例えば、任意の正数aを(22)式の第1式より下記(26)式のようにおくと、(22)式よりvy0’、Zv’及びZ0’は下記(27)式のように変形できる。
【0069】
【数12】
【0070】
この関係より、F0’/m’及びvx0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvy0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、F0’/m’及びvx0’をある値に設定した場合において、vy0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びvx0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、F0’/m’=vx0’=1とした場合のvy0’、Zv’及びZ0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0071】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=vx0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(27)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(26)式に従ってteのチルダに変換する。
【0072】
なお、この3次元マップの領域は、vy0’、Zv’及びZ0’のいずれかにおいて0以上に限定してもよい。例えば、Z0≧0の3次元マップを作成した場合は、検出値がZ0<0であったとしても、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0073】
また、別のパラメータを用いる場合として、(27)式の第3式を下記(28)式のように変形すると、(26)式のaは、下記(29)式のように変形される。
【0074】
【数13】
【0075】
この関係より、vx0’及びZ0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってF0’/m’、vy0’及びZv’が求まる。よって、vx0’及びZ0’をある値に設定した場合において、F0’/m’、vy0’及びZv’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvx0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、vx0’=Z0’=1とした場合のF0’/m’、vy0’及びZv’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0076】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vx0’=Z0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(27)式の第1式及び第2式に従ってパラメータvy0’及びZv’を演算し、(28)式に従ってパラメータF0’/m’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(29)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0077】
また、別のパラメータを用いる場合として、任意の正数aを(22)式の第2式より下記(30)式のようにおくと、(22)式よりvx0’、Zv’及びZ0’は下記(31)式のように変形できる。
【0078】
【数14】
【0079】
この関係より、F0’/m’及びvy0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vx0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、F0’/m’及びvy0’をある値に設定した場合において、vx0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びvy0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、F0’/m’=vy0’=1とした場合のvx0’、Zv’及びZ0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0080】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=vy0’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(31)式に従ってパラメータvx0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(30)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0081】
また、別のパラメータを用いる場合として、(31)式の第3式を下記(32)式のように変形すると、(30)式のaは、下記(33)式のように変形される。
【0082】
【数15】
【0083】
この関係より、vy0’及びZ0’にある値を設定することにより、現時刻のパラメータPによってF0’/m’、vx0’及びZv’が求まる。よって、vy0’及びZ0’をある値に設定した場合において、F0’/m’、vx0’及びZv’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvy0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、vy0’=1、Z0’=±1とした場合のF0’/m’、vx0’及びZv’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0084】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vy0’=1、Z0’=±1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(31)式の第1式及び第2式に従ってパラメータvx0’及びZv’を演算し、(32)式に従ってパラメータF0’/m’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(33)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0≧0、Z0≧0の場合には、Z0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0≧0、Z0<0の場合には、Z0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。また、vy0<0、Z0≧0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0<0、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。
【0085】
また、別のパラメータを用いる場合として、任意の正数aを(22)式の第3式より下記(34)式のようにおくと、(22)式よりvx0’、vy0’及びZ0’は下記(35)式のように変形できる。
【0086】
【数16】
【0087】
この関係より、F0’/m’及びZv’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vx0’、vy0’及びZ0’が求まる。よって、F0’/m’及びZv’をある値に設定した場合において、vx0’、vy0’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このF0’/m’及びZv’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、F0’/m’=Zv’=1とした場合のvx0’、vy0’及びZ0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0088】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、F0’/m’=Zv’=1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(35)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(34)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Zv<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0089】
また、別のパラメータを用いる場合として、(35)式の第3式を下記(36)式のように変形すると、(34)式のaは、下記(37)式のように変形される。
【0090】
【数17】
【0091】
この関係より、Zv’及びZ0’にある値を設定することにより、現時刻のパラメータPによってF0’/m’、vx0’及びvy0’が求まる。よって、Zv’及びZ0’をある値に設定した場合において、F0’/m’、vx0’及びvy0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このZv’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、Zv’=1、Z0’=±1とした場合のF0’/m’、vx0’及びvy0’を変数として、Ye=Yeのチルダ(teのチルダ)を適用した(13)式〜(15)式の非線形方程式を解き、その解であるteのチルダの3次元マップを作成する。
【0092】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、Zv’=1、Z0’=±1、既知のm、vx0、vy0、Z0、Zv及びF0から(35)式の第1式及び第2式に従ってパラメータvx0’及びvy0’を演算し、(36)式に従ってパラメータF0’/m’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(37)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Zv≧0、Z0≧0の場合には、Z0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、Zv≧0、Z0<0の場合には、Z0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。また、Zv<0、Z0≧0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、Zv<0、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。
【0093】
また、3次元マップの軸の取り方を変更して、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように移動させた3次元マップを用いてもよい。例えば、(27)式のパラメータを下記(38)式のように変更した(teのチルダ)’の3次元マップを作成することができる。また、(27)式の第1式、第2式、及び(28)式のパラメータを下記(39)式のように、(35)式のパラメータを下記(40)式のように、(35)式の第1式、第2式、及び(36)式のパラメータを下記(41)式のように変更することもできる。
【0094】
【数18】
【0095】
このように、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように3次元マップの軸を変更することにより、3次元マップの精度を保ちつつマップを記憶する容量を、例えば図4に示した3次元マップに比べて小さく抑えることが容易になる。
【0096】
以下、上記のマップを用いた第1の実施の形態について詳細に説明する。図5に示すように、第1の実施の形態の車両運動制御装置には、自車両の走行状態を検出する走行状態検出手段として車両に搭載されたセンサ群、外部環境状態を検出する外部環境検出手段として車両に搭載されたセンサ群、及びこれらのセンサ群からの検出データに基づいて、自車両が運動するように自車両に搭載された車載機器を制御することによって目標位置へ到達するように車両運動を制御する制御装置20、ドライバに車両運動制御状態を報知する表示装置30が設けられている。
【0097】
車両運動制御装置の自車両の走行状態を検出するセンサ群としては、車速を検出する車速センサ10、操舵角を検出する操舵角センサ12、及びスロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサ14が設けられている。また、図示しないGPS装置からの情報を加えるようにしてもよい。
【0098】
また、外部環境状態を検出するセンサ群としては、自車両の前方を撮影する前方カメラ16、及び自車両の前方の障害物を検出するレーザレーダ18が設けられている。なお、レーザレーダ18に代えて、又はレーザレーダ18と共にミリ波レーダを設けるようにしてもよい。また、図示しないGPS装置からの情報を加えるようにしてもよい。
【0099】
前方カメラ16は、車両の前方を撮影するように車両のフロントウインドウ上部等に取り付けられている。前方カメラ16は、小型のCCDカメラ又はCMOSカメラで構成され、自車両の前方の道路状況を含む領域を撮影し、撮影により得られた画像データを出力する。出力された画像データは、マイクロコンピュータ等で構成された制御装置20に入力される。なお、カメラとして、前方カメラ16に加えて、前方赤外線カメラを設けるのが好ましい。赤外線カメラを用いることにより、歩行者を障害物として確実に検出することができる。なお、上記の赤外線カメラに代えて近赤外線カメラを用いることができ、この場合においても同様に歩行者を確実に検出することができる。
【0100】
レーザレーダ18は、赤外光パルスを照射する半導体レーザからなる発光素子、赤外光パルスを水平方向に走査する走査装置、及び前方の障害物(歩行者、前方車両等)から反射された赤外光パルスを受光する受光素子を含んで構成され、車両の前方グリル又はバンパに取り付けられている。このレーザレーダ18では、発光素子から発光された時点を基準として受光素子で受光されるまでの反射赤外光パルスの到達時間に基づいて、自車両から前方の障害物までの距離を検出することができる。レーザレーダ18で検出された障害物までの距離を示すデータは制御装置20に入力される。制御装置20は、RAM、ROM、及びCPUを含むマイクロコンピュータ等で構成され、ROMには以下で説明する車両運動制御ルーチンのプログラムが記憶されている。
【0101】
また、制御装置20は、自車両の操舵角、制動力、及び駆動力の少なくとも1つを制御することによって、目標位置へ到達するように車両運動を制御するための車両搭載機器に接続されている。この車両搭載機器としては、車輪の操舵角を制御するための電動パワーステアリング等の操舵角制御装置22、ブレーキ油圧を制御することによって制動力を制御する制動力制御装置24、及び駆動力を制御する駆動力制御装置26が設けられている。制動力制御装置24には、制動力を検出する検出センサ24Aが取り付けられている。また、制御装置20には、演算された制御入力の方向θ等を表示することによって車両運動制御情報をドライバに報知する表示装置30が接続されている。なお、車両運動制御を行なっていることを、ドライバだけでなく車両外部の目標位置方向に向かって報知するようにしてもよい。また、最短回避距離が自車両と障害物との距離よりも短い場合には、ドライバに回避の必要性を予め報知するようにしてもよい。
【0102】
操舵角制御装置22としては、ドライバのステアリングホイール操作に重畳して前輪及び後輪の少なくとも一方の車輪の操舵角を制御する制御手段、ドライバ操作とは機械的に分離され、ステアリングホイールの操作とは独立して前輪及び後輪の少なくとも一方の車輪の操舵角を制御する制御手段(いわゆるステア・バイ・ワイヤ)等を用いることができる。
【0103】
制動力制御装置24としては、ドライバ操作とは独立して各車輪の制動力を個別に制御する、いわゆるESC(Electronic Stability Control)に用いられる制御装置、ドライバ操作とは機械的に分離され、各車輪の制動力を信号線を介して任意に制御する制御装置(いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ)等を用いることができる。
【0104】
駆動力制御装置26としては、スロットル開度、点火進角の遅角、又は燃料噴射量を制御することによって駆動力を制御する制御装置、変速機の変速位置を制御することによって駆動力を制御する制御装置、トルクトランスファを制御することによって前後方向及び左右方向の少なくとも一方の駆動力を制御する制御装置等を用いることができる。
【0105】
また、制御装置20には、制御入力を求めるためのマップを記憶したマップ記憶装置28が接続されている。マップ記憶装置28には、予測回避時間teのチルダを求めるための3次元マップ、及び予測回避時間に基づいて、移動する障害物を回避するための回避軌道及び車体合成力を導出するための2次元マップが記憶される。
【0106】
また、制御装置20には、ドライバに警報を発する図示しない警報装置が接続されている。警報装置としては、音や音声によって警報を発する装置、光や視覚的な表示によって警報を発する装置、振動によって警報を発する装置、又は操舵反力のような物理量をドライバに与えてドライバの操作を誘導する物理量付与装置を用いることができる。また、表示装置30を警報装置として用いるようにしてもよい。
【0107】
以下、図6を参照して第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間teのチルダを求めるためのマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。
【0108】
ステップ100で、車速センサ10等で検出された自車両の走行状態、及びレーザレーダ18等で検出された外部環境状態に関する検出データを取り込む。次に、ステップ102で、取り込んだ検出データに基づいて、車両が走行している道路上の障害物の位置を含む環境マップを作成する。
【0109】
次に、ステップ104で、障害物の横を通過する位置における速度方向を環境マップに基づいて設定し、さらに自車両の現在時刻の位置を原点に、また設定した速度方向を車体前後方向(x軸)に取り、x軸に直交する方向をy軸とするxy座標を設定する。
【0110】
次に、ステップ106で、上記ステップ100で走行状態として取り込まれた自車両及び障害物の状態量を設定された座標に対応させて変換し、現在の自車両と障害物との距離のx成分Xe、自車両の速度のx成分vx0、自車両の速度のy成分vy0、障害物のy方向の位置Z0、及び障害物の速度のy成分Zvを演算する。なお、ここでは、障害物の速度のx成分は0とする。
【0111】
次に、ステップ108で、外部環境及び自車両の構造と状態に基づいて、車体合成力の最大値F0を設定する。
【0112】
次に、ステップ110で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、Zv、Z0、及び上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0を用いて、(25)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZv’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(24)式に従って予測回避時間teのチルダに変換する。
【0113】
次に、ステップ112で、上記ステップ110で算出された予測回避時間teのチルダを(21)式に適用して、teのチルダ後の障害物の位置を予測し、その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を回避すべき横移動距離Yeとして設定する。
【0114】
次に、ステップ114で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0、及び上記ステップ112で設定した横移動距離Yeを用いて、(20)式に従って、第1のパラメータvx0’、及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最短2次元マップから得て、(18)式及び(19)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換する。そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより車体合成力を得る。また、(16)式に代入することで最短の回避距離Xsを得る。また、(1)式〜(6)式に従って、横移動距離Yeに対する縦移動距離が最短となる回避軌道を導出する。
【0115】
次に、ステップ116で、上記ステップ114で導出された車体合成力に従って、回避軌道に沿った走行を実現するために必要な各車輪のタイヤ発生力を演算し、各車輪のタイヤ発生力が得られるように操舵角制御装置22、制動力制御装置24、及び駆動力制御装置26の少なくとも1つを制御すると共に、車両運動制御情報を表示装置30に表示する。また、障害物を回避するように制御する際には無条件で警報装置から警報を発したり、障害物を回避するための車両運動制御を行っていることを表示装置に表示したりすることにより警報を行ってもよい。各車輪のタイヤ発生力が得られるように制御することにより、目的とする車体合成力が得られるように制御することができる。
【0116】
以上説明したように、第1の実施の形態の車両運動制御装置によれば、静止した障害物を回避するための横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出するために最短2次元マップを用いることを前提とした簡単な構成の3次元マップを用いて移動する障害物の位置を予測するため、障害物が移動する場合でも、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力及び回避軌道を導出することができる。
【0117】
なお、第1の実施の形態では、(25)式をパラメータとする(teのチルダ)’の3次元マップと(20)式をパラメータとする最短2次元マップとを組み合わせる場合について説明したが、(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は最短2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0118】
また、第1の実施の形態では、道路に対する自車両及び障害物の速度を用いる場合について説明したが、道路に対する自車両の速度及び自車両に対する障害物の相対速度を検出するようにしてもよい。
【0119】
また、回避制御は、公知の技術(特開2007−283910号公報)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0120】
また、第1の実施の形態では、車体合成力の向きを求めるために{ν1’,ν2’,te’}を導出する最短2次元マップを用いる場合について説明したが、現時刻の車体合成力の向きを求めたい場合には、1つのパラメータを出力する最短2次元マップで導出するようにしてもよい。具体的には、図3の最短2次元マップの{ν1’,ν2’,te’}を(12)式に適用して、t=0の場合における{θ’}を出力する最短2次元マップ(図7)を作成する。
【0121】
そして、上記実施の形態と同様の流れで(teのチルダ)’の3次元マップを作成しておき、その3次元マップから得られる(teのチルダ)’、(23)式、(24)式よりteのチルダを求める。次に(21)式より予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を算出し、Yeのチルダ(teのチルダ)を回避すべき横移動距離Yeとして設定して、図7の最短2次元マップを用いてθ’を得る。ただし、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して最短2次元マップより−θ’を求め、さらに−θ’→θ’の処理を行えばよい。
【0122】
その結果、障害物の速度を考慮して、静止物回避時に縦移動距離を最短にする最短2次元マップ及び下記(42)を用いて、現時刻の車体合成力の大きさと向きが得られる。
【0123】
【数19】
【0124】
なお、この方法でも(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は、最短2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0125】
また、図7のように{Xs’}を出力する最短2次元マップを導入して、下記(43)式及び公知の技術(特開2007-283910号公報)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0126】
【数20】
【0127】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、障害物が移動する場合に、障害物の予測位置に基づいた目標位置及び目標位置における速度方向に対して車体合成力の最大値を最小にする車体合成力及び回避軌道を導出する場合について説明する。なお、第2の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0128】
まず、障害物が静止物である場合に、目標位置及び目標位置における速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小となる車体合成力及び回避軌道の導出するために用いられるマップ(以下、最適2次元マップともいう)について説明する。
【0129】
静止物回避に対して車体合成力の最大値を最小にする最適制御は、第1の実施の形態で述べたのと同様に(7)式〜(11)式で定式化できる。なぜなら、最短の回避距離Xsが自車両と障害物との相対距離のx成分Xeと等しくなる車体合成力の最大値F0を求められれば、そのときの(12)式で示される制御入力は、車体合成力の最大値最小化問題の最適解になるためである。よって、自車両と障害物との相対距離のx成分Xeに対して、x1(te)=Xeの関係を導入することにより、Xs→Xeに変換された非線形方程式(13)式〜(16)式により、F0、te、ν1、ν2が求まる。
【0130】
まず、(13)式を(44)式のように変形し、Xs→Xeに変換された(14)式〜(16)式に代入する((45)式〜(47)式)。
【0131】
【数21】
【0132】
ここで、任意の正数a0を導入して下記(49)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解{ν1、ν2、te}及び{ν1’、ν2’、te’}は、(50)式の関係を満たす。
【0133】
【数22】
【0134】
(49)式の最後の式より、a0を下記(51)式のようにおくと、(49)式よりYe’ 及びvy0’は(52)式のように変形できる。
【0135】
【数23】
【0136】
この関係より、Xe’及びvx0’に任意の正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってYe’及びvy0’が求まる。よって、Xe’及びvx0’をある値に設定した場合において、Ye’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとした最適2次元マップマップを予め用意しておけばよい。なお、このXe’及びvx0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0137】
ここでは、一例として、Xe’=vx0’=1とした場合のYe’及びvy0’に関する最適2次元マップを作成する。図8に示すように、Ye’を第1のパラメータ、及びvy0’を第2のパラメータとして、Xs→Xeに変換した(13)式〜(16)式に基づいて得られるν1’の値をマッピングした第1のマップ、ν2’の値をマッピングした第2のマップ、及びte’の値をマッピングした第3のマップを作成する。
【0138】
なお、第1のパラメータ及び第2のパラメータは、(52)式で定める場合だけでなく、導入した任意の正数aの取り方を変えたり、vx0’、vy0’、Xe’及びYe’のそれぞれに着目して式を変形したりして、求めることもできる。それぞれ得られた第1のパラメータ及び第2のパラメータに応じて、vx0’、vy0’、Xe’及びYe’の内必要な値に任意の値を設定してマップを作成することができる。また、最適2次元マップの特異点のラインが縦軸又は横軸と平行になるように各マップの軸の取り方を変更したマップを作成することもできる。
【0139】
次に、この静止物回避用の最適2次元マップを用いて障害物を回避する制御を行うコントローラを、障害物が移動する場面に適用することを考える。
【0140】
第1の実施の形態と同様に、設定したx−y座標系における現時刻の移動体のx方向の位置をXe、y方向の位置をZ0、x方向の速度を0、及びy方向の速度をZvとし、障害物がy軸方向に等速直線運動をすると仮定すると、t秒後の障害物の位置は(21)式となる。
【0141】
ここで、自車両の回避に要する予測回避時間teのチルダを導入する。
【0142】
【数24】
【0143】
まず、{F0のチルダ、ν1のチルダ、ν2のチルダ、teのチルダ}に対応した(13)式を(53)式のように変形し、Xs→Xeに変換した(14)式〜(16)式に代入する((54)式〜(56)式)。
【0144】
【数25】
【0145】
ここで、任意の正数aを導入して下記(57)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解は、下記(58)式の関係を満たす。
【0146】
【数26】
【0147】
(57)式の第2式より、aを下記(59)式のようにおくと、(57)式より、vy0’、Zv’及びZ0’は下記(60)式のように変形できる。
【0148】
【数27】
【0149】
この関係より、vx0’及びXe’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vy0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、vx0’及びXe’をある値に設定した場合において、vy0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvx0’及びXe’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0150】
ここでは、一例として、vx0’=Xe’=1とした場合のvy0’、Zv’及びZ0’に関する3次元マップを作成する。図9に示すように、vy0’、Zv’及びZ0’をパラメータとして、上記(54)式〜(56)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0151】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vx0’=Xe’=1、既知のm、vx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(60)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(58)式及び(59)式に従ってteのチルダに変換する。そして、(21)式を適用することで、予測回避時間teのチルダに応じた障害物の位置Yeのチルダ(teのチルダ)が得られる。
【0152】
なお、この3次元マップの領域は、vy0’、Zv’及びZ0’のいずれかにおいて0以上に限定してもよい。例えば、Z0≧0の3次元マップを作成した場合は、検出値がZ0<0であったとしても、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0153】
次に、得られた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を、上記の最適2次元マップ(例えば、図8)、(44)式に適用すると、障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)をXs→Xeに変換された(13)式〜(16)式に代入したときの解{F0,ν1,ν2,te}が得られる。より具体的には、図8の最適2次元マップを用いた場合、Xe’=vx0’=1、既知のvx0、vy0、Xe及びYe(=求めた障害物の予測位置Yeのチルダ(teのチルダ))から(52)式に従って第1のパラメータYe’及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最適2次元マップから得て、(50)式及び(51)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換し、(44)式によりF0を得る。
【0154】
そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより入力の時間関数が得られる。なお、図9の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0155】
この結果、障害物の位置及び速度を考慮して、静止物回避において車体合成力の最大値を最小にする最適2次元マップを用いて、障害物の回避を可能にする制御入力関数と(1)式〜(6)式の積分計算により回避軌道が導出される。
【0156】
なお、上記の3次元マップではパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を(60)式のように定め、vx0’=Xe’=1とした場合について説明したが、このパラメータの取り方は、上記以外にも複数存在する。例えば、任意の正数aを(57)式の第4式より下記(61)式のようにおくと、(57)式よりvy0’、Zv’及びXe’は下記(62)式のように変形できる。
【0157】
【数28】
【0158】
この関係より、vx0’及びZ0’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvy0’、Zv’及びXe’が求まる。よって、vx0’及びZ0’をある値に設定した場合において、vy0’、Zv’及びXe’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvx0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、図10に示すように、vx0’=Z0’=1とした場合のvy0’、Zv’及びXe’を変数として(54)式〜(56)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0159】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vx0’=Z0’=1、既知のvx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(62)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びXe’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(58)式及び(61)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、Z0<0の場合は、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0160】
なお、図10の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0161】
また、別のパラメータを用いる場合として、(53)式〜(56)式の展開方法を変更する。まず、Xs→Xeに変換された非線型方程式(13)式〜(16)式において、(14)式を下記(63)式のように変形し、(13)式、(15)式及び(16)式に代入する((64)式〜(66)式)。
【0162】
【数29】
【0163】
ここで、任意の正数a1を導入して下記(67)式の関係を満足する2組のパラメータP及びP’を考えると、P及びP’に対応する解は、下記(68)式の関係を満たす。
【0164】
【数30】
【0165】
(67)式の第2式より、a1を下記(69)式のようにおくと、(67)式より、vx0’、Zv’及びZ0’は下記(70)式のように変形できる。
【0166】
【数31】
【0167】
この関係より、vy0’及びXe’にある正数を設定することにより、現時刻のパラメータPによって、vx0’、Zv’及びZ0’が求まる。よって、vy0’及びXe’をある値に設定した場合において、vx0’、Zv’及びZ0’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvy0’及びXe’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。
【0168】
ここでは、一例として、vy0’=Xe’=1とした場合のvx0’、Zv’及びZ0’に関するマップを作成する。図11に示すように、vx0’、Zv’及びZ0’をパラメータとして、上記(64)式〜(66)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0169】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vy0’=Xe’=1、既知のvx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(70)式に従ってパラメータvx0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(68)式及び(69)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0<0の場合は、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換して3次元マップより(teのチルダ)’を求めればよい。
【0170】
なお、図11の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0171】
また、別のパラメータを用いる場合として、任意の正数a1を(67)式の第4式より下記(71)式のようにおくと、(67)式よりvx0’、Zv’及びXe’は下記(72)式のように変形できる。
【0172】
【数32】
【0173】
この関係より、vy0’及びZ0’にある値を設定することにより、現時刻のパラメータPによってvx0’、Zv’及びXe’が求まる。よって、vy0’及びZ0’をある値に設定した場合において、vx0’、Zv’及びXe’をパラメータとした(teのチルダ)’の3次元マップを予め用意しておけばよい。なお、このvy0’及びZ0’の値はマップ作成時に設計者が自由に設定できる。一例として、図12、13に示すように、vy0’=1、Z0’=±1とした場合のvx0’、Zv’及びXe’を変数として(64)式〜(66)式の関係に基づいて得られる(teのチルダ)’の値をマッピングした3次元マップを作成する。
【0174】
そして、この3次元マップを用いてteのチルダを求めるには、vy0’=1、Z0’=±1、既知のvx0、vy0、Xe、Z0及びZvから(72)式に従ってパラメータvx0’、Zv’及びXe’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(68)式及び(71)式に従ってteのチルダに変換する。ただし、vy0≧0、Z0≧0の場合には、Z0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0≧0、Z0<0の場合には、Z0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。また、vy0<0、Z0≧0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=−1の3次元マップより(teのチルダ)’を求め、vy0<0、Z0<0の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Z0→−Z0に変換してZ0’=1の3次元マップより(teのチルダ)’を求める。
【0175】
なお、図12、13の3次元マップから得られるteのチルダと、図8の最適2次元マップから得られるteは等しくなるため、図8のte’の2次元マップは省略してもよい。
【0176】
また、3次元マップの軸の取り方を変更して、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように移動させた3次元マップを用いてもよい。例えば、(60)式のパラメータを下記(73)式のように変更した(teのチルダ)’の3次元マップ(図14)を作成したり、下記(74)式のように変更した(teのチルダ)’の3次元マップ(図15)を作成したりすることができる。また、(62)式のパラメータを下記(75)式や(76)式のように、(70)式のパラメータを下記(77)式や(78)式のように、(72)式のパラメータを下記(79)式や(80)式のように変更することもできる。
【0177】
【数33】
【0178】
このように、特異点のラインが上下軸方向に対して重なるか、あるいは縦軸又は横軸と平行になるように3次元マップの軸を変更することにより、3次元マップの精度を保ちつつマップを記憶する容量を、例えば図9に示した3次元マップに比べて小さく抑えることが容易になる。
【0179】
以下、図16を参照して第2の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間teのチルダを求めるためのマップとして図9の3次元マップを用い、目標位置及び目標位置における速度方向に対して最大値が最小になる車体合成力を求めるためのマップとして図8の最適2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0180】
ステップ100〜106を経て、ステップ200で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量vx0、vy0、Zv及びZ0を用いて、(60)式に従ってパラメータvy0’、Zv’及びZ0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(58)式及び(59)式に従って予測回避時間teのチルダに変換する。
【0181】
次に、ステップ202で、上記ステップ200で算出された予測回避時間teのチルダを(21)式に適用して、teのチルダ後の障害物の位置を予測し、その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を回避すべき横移動距離Yeとし、上記ステップ106で演算されたXeと合わせて目標位置として設定する。
【0182】
次に、ステップ204で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、Xe、及び上記ステップ204で設定した横移動距離Yeを用いて、(52)式に従って、第1のパラメータYe’、及び第2のパラメータvy0’を演算し、演算されたパラメータに対する出力{ν1’,ν2’,te’}を最適2次元マップから得て、(50)式及び(51)式に従って{ν1’,ν2’,te’}を{ν1,ν2,te}に変換し、(44)式に従ってF0を演算する。そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより車体合成力を得る。また、(1)式〜(6)式に従って、目標位置及び目標位置における速度方向に対して車体合成力の最大値を最小にする回避軌道を導出する。
【0183】
次に、ステップ206で、上記ステップ204で演算したF0が、タイヤ発生力の限界値以下か否かを判定する。車体合成力の最大値がタイヤ発生力の限界値以下の場合には、ステップ116へ移行し、タイヤ発生力の限界値を超えている場合には、ステップ118へ移行する。なお、タイヤ発生力の限界値は、路面とタイヤとの間の摩擦係数に基づいて定まる真の限界値だけでなく、真の限界値に対してマージンを設けて設定した限界値も含む意味である。
【0184】
ステップ116では、第1の実施の形態と同様に、上記ステップ204で導出された車体合成力に従って、車体合成力の最大値が最小になる回避軌道に沿った走行を実現するための回避車両運動制御を実行する。一方、ステップ208では、急制動制御により障害物の手前で車両が停止するように制動力制御装置24を制御するか、推定される衝突被害が最小化されるように操舵角制御装置22及び制動力制御装置24を制御する。例えば、WO2006−070865記載の技術のような公知の技術を用いればよい。
【0185】
以上説明したように、第2の実施の形態の車両運動制御装置によれば、静止した障害物を回避するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出するための最適2次元マップを用いることを前提とした簡単な構成の3次元マップを用いて移動する障害物の位置を予測するため、障害物が移動する場合でも、障害物の予測位置に基づいた目標位置及び目標位置における速度方向に対して車体合成力の最大値を最小にする車体合成力及び回避軌道を導出することができる。
【0186】
なお、第2の実施の形態では、(60)式をパラメータとする(teのチルダ)’の3次元マップと(52)式をパラメータとする最適2次元マップを組み合わせる場合について説明したが、(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は最適2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0187】
また、第2の実施の形態では、道路に対する自車両及び障害物の速度を用いる場合について説明したが、道路に対する自車両の速度及び自車両に対する障害物の相対速度を検出するようにしてもよい。
【0188】
また、回避制御は、公知の技術(特開2007−283910)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0189】
また、第2の実施の形態では、車体合成力の向きを求めるために{ν1’,ν2’,te’}を導出する最適2次元マップを用いる場合について説明したが、現時刻の車体合成力の向きを求めたい場合には、2つのパラメータを出力する最適2次元マップで導出するようにしてもよい。具体的には、図8の最適2次元マップの{ν1’,ν2’,te’}を(12)式に適用して、t=0の場合における{θ’,F0’/m’}を出力する最適2次元マップ(図17)を作成する。
【0190】
そして、上記実施の形態と同様の流れで(teのチルダ)’の3次元マップを作成しておき、その3次元マップから得られる(teのチルダ)’、(58)式、(59)式よりteのチルダを求める。次に(21)式より予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を算出し、Yeのチルダ(teのチルダ)を目標位置までの横移動距離Yeとして設定して、図17の最適2次元マップを用いて{θ’,F0’/m’}を得る。
【0191】
その結果、障害物の速度を考慮して、静止物回避時に車体合成力の最大値を最小にする最適2次元マップ、下記(81)、及び(42)式を用いて、現時刻の車体合成力の大きさと向きが得られる。
【0192】
【数34】
【0193】
なお、この方法でも(teのチルダ)’の3次元マップの軸の取り方は、最適2次元マップの軸の取り方に依存しないため、その組合せは自由である。
【0194】
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、障害物まで到達する予測時間と移動距離のマージンを設けて障害物の位置を予測する場合について説明する。なお、第3実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0195】
まず、障害物の位置を予測するために、障害物に対する自車両の相対速度vx0を用いて、下記(82)式のように予測時間teのバーを算出する。
【0196】
【数35】
【0197】
この予測時間は、減速しないで自車両が障害物に近づいたときの到達時間を表しており、このとき、障害物の予測位置はYeのチルダ(teのバー)となる。この予測位置Yeのチルダ(teのバー)を回避すべき横移動距離Yeとして、(13)式〜(16)式の解を、例えば図3や図7に示す最短2次元マップにより求めて、(12)式により得られる制御入力により車両を制御すると、横移動距離が不足して車体合成力の限界制限により障害物を回避できない場面が生じる。
【0198】
そこで、この横移動距離にマージンαYを加えた新たな横移動距離(下記(83)式)を考える。
【0199】
【数36】
【0200】
ここで、適切にαYを選び、(83)式により求まる横移動距離Yeのバー(teのバー)を、回避すべき横移動距離Yeとして、Ye及び所望の速度方向に対して、図3または図7の最短2次元マップを用いると、設定した横移動距離Yeに対して縦移動距離を最短にする車体合成力及び回避軌道が得られる。
【0201】
しかし、所望のYeを求めるためにはマージンαYを求める必要がある。そこで、第1の実施の形態の(teのチルダ)’の3次元マップ(図4)を用いること考える。この3次元マップから得られる(teのチルダ)’は、(23)式及び(24)式により、現在の状態における予測回避時間teのチルダに変換することができる。よって、下記(84)式により、現在の状態に対する適切なマージンが求められる。
【0202】
【数37】
【0203】
このマージンαYを(83)式に代入し、図3または図7のような最短2次元マップ、及び(12)式に示す制御入力を用いれば、現時刻のm、vx0、vy0、Zv、Zo、及び設定したF0に対して、予測時間の算出方法に依らず第1の実施の形態と同じ車体合成力及び回避軌道が得られる。
【0204】
以下、図18を参照して第3の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、マージンαYを求めるために用いるマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0205】
ステップ100〜108を経て、ステップ300で、(82)式に従って、x方向についての障害物に対する自車両の相対速度vx0及び相対距離Xeに基づいて、自車両が障害物近傍に到達する予測時間teのバーを算出する。
【0206】
次に、ステップ302で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、Zv、Z0、及び上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0を用いて、(25)式に従ってパラメータvx0’、vy0’及びZv’を演算し、演算されたパラメータに対する出力(teのチルダ)’を3次元マップから得て、(23)式及び(24)式に従って予測回避時間teのチルダに変換する。そして、(84)式によりマージンαYを算出する。
【0207】
次に、ステップ304で、上記ステップ302で算出されたマージンαYを(83)式に適用して、マージンを加味したteのバー後の障害物の位置を予測し、teのバー後の障害物の位置Yeのバー(teのバー)を回避すべき横移動距離Yeとして設定する。
【0208】
以下、第1の実施の形態と同様に、ステップ114で、最短2次元マップを用いて、上記ステップ304で設定した横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる車体合成力を導出し、ステップ116で回避車両運動制御を実行する。
【0209】
なお、第3の実施の形態では、最短2次元マップを用いて最短回避制御を行う際に、必要な横方向のマージンを求める場合について説明したが、例えば図8や図17の最適2次元マップを用いて最適回避制御を行う場合にも適用できる。図19を参照して、第3の実施の形態の最適回避制御の場合について説明する。なお、第1〜第2の実施の形態、及び第3の実施の形態の最短回避制御の場合と同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0210】
ステップ100〜106、及びステップ300を経て、ステップ350で、例えば、図9に示す(teのチルダ)’の3次元マップから得られた(teのチルダ)’を、(58)式(59)式に従って予測回避時間teのチルダに変換し、(84)式によりマージンαYを算出する。
【0211】
次に、ステップ352で、算出されたマージンαYを(83)式に適用して、マージンを加味したteのバー後の障害物の位置を予測して、目標位置として設定し、次に、ステップ204で、最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避軌道を導出する。
【0212】
そして、ステップ206で、上記ステップ204で得られた車体合成力の最大値がタイヤ発生限界値以下か否かを判定して、ステップ116で回避車両運動制御、あるいはステップ208で急制動または衝突被害予測値最小化車両制御を実行する。
【0213】
この場合においても、現時刻のvx0、vy0、Xe、Zv,及びZoに対して、予測時間の算出方法に依らず第2の実施の形態と同じ回避軌道及び車体合成力の大きさと向きが得られる。
【0214】
次に、第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態では、予測回避時間を収束演算により求める場合について説明する。なお、第4の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0215】
図20を参照して第4の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、移動する障害物を回避するために、障害物の予測位置に基づく横移動距離に対して縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0216】
ステップ100〜108、及びステップ300を経て、ステップ400で、(82)式により予測時間teのバーを求め、この予測時間teのバー及び(21)式に基づく障害物の予測位置Yeのチルダ(teのバー)を回避すべき横移動距離Yeとして設定する。
【0217】
次に、ステップ114で、最短2次元マップを用いて、上記ステップ400で設定した横移動距離Yeに対して縦移動距離が最短となる車体合成力を導出する。
【0218】
次に、ステップ402で、上記ステップ300で算出した予測時間teのバーと、上記ステップ114で最短2次元マップから得られた回避時間teとが等しくなったか否かを判定する。teのバー=teの場合には、ステップ116へ移行し、teのバー≠teの場合には、ステップ404へ移行する。なお、ここでは、teのバー=teか否かを判定する場合について説明するが、teのバーとteとが等しい場合だけでなく、teのバーとteとの差が所定値(例えば、teの5%等)以下の場合も肯定判定されるようにしてもよい。
【0219】
ステップ404では、teのバーを修正して、修正したteのバーに基づく回避すべき横移動距離Yeを再設定して、ステップ114に戻り、ステップ402でteのバー=teと判定されるまで、ステップ114、ステップ402及び404の処理を繰り返す。
【0220】
ステップ116では、teのバー=teと判定されたときに上記ステップ114で導出された車体合成力に基づいて、回避車両運動制御を実行する。
【0221】
なお、第4の実施の形態では、最短2次元マップを用いて最短回避制御を行う際に、収束演算により予測時間を修正する場合について説明したが、例えば図8や図17の最適2次元マップを用いて最適回避制御を行う場合にも適用できる。図21を参照して、第4の実施の形態の最適回避制御の場合について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態、及び第4の実施の形態の最短回避制御の場合と同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0222】
ステップ100〜106、及びステップ300を経て、ステップ450で、予測時間teのバーに基づいて予測した障害物の位置を、目標位置(Xe,Yeのチルダ(teのバー))として設定する。次に、ステップ204で、例えば図8や図17のような最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び速度方向に到達するための車体合成力の最大値が最小になる回避軌道及び車体合成力を導出する。
【0223】
次に、ステップ402で、上記ステップ300で算出した予測時間teのバーと、上記ステップ204で最適2次元マップから得られた回避時間teとが等しくなったか否かを判定する。teのバー≠teの場合には、ステップ452へ移行し、teのバーを修正して、修正したteのバーに基づく目標位置を再設定して204に戻り、ステップ402でteのバー=teと判定されるまで、ステップ204、ステップ402及び452の処理を繰り返す。そして、ステップ206で、上記ステップ204で得られた車体合成力の最大値がタイヤ発生限界値以下か否かを判定して、ステップ116で回避車両運動制御、あるいはステップ208で急制動または衝突被害予測値最小化車両制御を実行する。
【0224】
次に、第5の実施の形態について説明する。第5の実施の形態では、左右の回避軌道を求めて比較する場合について説明する。なお、第5の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0225】
第1〜第4の実施の形態では、自車両の前後方向に対して障害物の左側に回避する回避軌道を導出する場合について説明したが、障害物の右側に回避する回避軌道を導出する場合にも適用することができる。なぜなら、図22に示すように、障害物の右側を回避する軌道は、x軸に関して線対称な場面に対して、障害物の左側に回避する軌道と対称になるためである。
【0226】
図23を参照して第5の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間を求めるために用いるマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0227】
ステップ100〜108を経て、ステップ500で、障害物の現時刻のy方向の位置Z0に対応して、Zv=0の時に自車両が障害物の横を通過するときの位置を左側回避ではZl、右側回避ではZrとおく。そして、自車両及び障害物の大きさに基づいた横位置のマージンαZと設定して、下記(85)式のようにZl及びZrを設定する。
【0228】
【数38】
【0229】
次に、ステップ110で、左側回避ではZ0をZlに、右側回避ではZ0をZrに代えて、例えば図4の3次元マップを用いて予測回避時間teのチルダを導出する。次に、ステップ502で、上記ステップ110で導出された予測回避時間teのチルダと(85)式のZlまたはZrとを(21)式に適用して、teのチルダ後の自車両の通過位置を左側回避及び右側回避の各々について予測する。その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を左側回避及び右側回避の各々における回避すべき横移動距離Yeとして設定する。ただし、(21)式のZ0にはZlまたはZrを代入する。
【0230】
次に、ステップ504で、上記ステップ106で演算した自車両及び障害物の状態量m、vx0、vy0、上記ステップ108で設定した車体合成力の最大値F0、及び上記ステップ502で設定した左側回避の横移動距離Yeを用いて、最短2次元マップから{ν1’,ν2’,te’}を得て、(18)式及び(19)式に従って{ν1,ν2,te}に変換する。そして、これらのパラメータを(12)式に適用することにより左側回避の車体合成力を得る。また、(16)式に代入することで左側回避の最短の回避距離Xsを得る。
【0231】
同様に、右側回避についても車体合成力及び最短の回避距離Xsを得る。なお、左側回避の場合には、Zv及びZlをそのまま第1の実施形態と同様に適用することができるが、右側回避の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Zr→−Zrに変換(x軸に線対称な場面)して、第1の実施形態と同様に適用して、最短2次元マップより{−ν1’,−ν2’,te’}を得る。そして、−ν1’→ν1’、−ν2’→ν2’の処理を行えば、障害物の右側を回避する{ν1’,ν2’,te’}が得られる。
【0232】
次に、ステップ506で、左側回避の最短の回避距離Xsと右側回避との最短の回避距離Xsとを比較し、左側回避の最短の回避距離Xsの方が小さい場合には、ステップ508へ移行し、左側回避の軌道を選択し、右側回避の最短の回避距離Xsの方が小さい場合には、ステップ510へ移行し、右側回避の軌道を選択する。
【0233】
次に、ステップ512で、選択した回避動作が必要か否かを判定し、その回避動作が必要な場合には、ステップ116へ移行し、回避車両運動制御を実行し、回避動作が必要でない場合、すなわち回避動作を行わなくても障害物と衝突しない場合には、そのまま処理を終了する。なお、公知の技術(特開2007-283910号公報)などを用いて、直進の加減速または横移動のみの回避を選択してもよい。
【0234】
なお、第5の実施の形態では、最短2次元マップを用いた最短回避制御について、左側回避軌道と右側回避軌道とを比較する場合について説明したが、例えば図8や図17の最適2次元マップを用いて最適回避制御を行う場合にも適用できる。図24を参照して、第5の実施の形態の最適回避制御の場合について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態、及び第5の実施の形態の最短回避制御の場合と同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0235】
ステップ100〜106、及びステップ500を経て、ステップ200で、左側回避ではZ0をZlに、右側回避ではZ0をZrに代えて、例えば図9の3次元マップを用いて予測回避時間teのチルダを導出する。次に、ステップ550で、上記ステップ500で導出された予測回避時間teのチルダと(85)式のZlまたはZrとを(21)式に適用して、teのチルダ後の自車両の通過位置を左側回避及び右側回避の各々について予測する。その予測位置Yeのチルダ(teのチルダ)を左側回避及び右側回避の各々における回避すべき横移動距離Yeとして設定する。ただし、(21)式のZ0にはZlまたはZrを代入する。
【0236】
次に、ステップ552で、例えば図8や図17のような最適2次元マップを用いて、設定された左側回避の目標位置及び速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する。同様に、右側回避の目標位置及び速度方向に到達するために車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する。なお、左側回避の場合には、Zv及びZlをそのまま第2の実施形態と同様に適用することができるが、右側回避の場合には、vy0→−vy0、Zv→−Zv、Zr→−Zrに変換(x軸に線対称な場面)して、第2の実施形態と同様に適用して、最適2次元マップより{−ν1’,−ν2’,te’}を得る。そして、−ν1’→ν1’、−ν2’→ν2’の処理を行えば、障害物の右側を回避する{ν1’,ν2’,te’}が得られる。
【0237】
次に、ステップ554で、上記ステップ552で得られた左側回避の場合の車体合成力の最大値と右側回避の場合の車体合成力の最大値とを比較し、左側回避の車体合成力の最大値の方が小さい場合には、ステップ508へ移行し、左側回避の軌道を選択し、右側回避の車体合成力の最大値の方が小さい場合には、ステップ510へ移行し、右側回避の軌道を選択する。
【0238】
以下、ステップ206、及びステップ116またはステップ208で、回避車両運動制御等を実行する。
【0239】
次に、第6の実施の形態について説明する。第6の実施の形態では、障害物の位置や速度の検出値の誤差を考慮する場合について説明する。なお、第6の実施の形態の車両運動制御装置の構成は、第1の実施の形態の車両運動制御装置の構成と同一であるので説明を省略する。
【0240】
まず、障害物の位置の検出値を(Xeのバー,Z0のバー)、精度をex、ey、速度の検出値をZvのバー、精度をevとすると、真値Xe、Zv、Z0と検出値及び精度との間には、下記(86)式のような関係がある。
【0241】
【数39】
【0242】
ここで、予め障害物の行動パターンのデータベースを定めておき、このデータベースを参照して、直前に制御指令を行った時刻の障害物の状態量に基づいて、現時刻の障害物の状態量の範囲を推定する。その範囲が、位置のx成分において[Xea,Xeb]、y成分において[Z0a,Z0b]、速度において[Zva,Zvb]になったとすると、検出値、真値、及び推定範囲には、例えば図25に示すような関係が想定される。同図(a)は、検出値、及び(86)式に従って検出値から定まる真値の範囲のいずれもが推定範囲内の場合である。同図(b)は、検出値は推定範囲内であるが、真値の範囲の一部が推定範囲外となる場合である。同図(c)は、検出値及び真値の範囲のいずれもが推定範囲外の場合である。なお、同図では、Zvb側に関して推定範囲を示したが、Zva側に関しても同様に推定範囲が想定され、また区間[Zva,Zvb]を含むような広い範囲となる場合も想定される。さらに、同図では、障害物の速度Zvについての検出値、真値、及び推定範囲の関係について示しているが、障害物の位置(Xe,Zo)についても同様である。
【0243】
これらの関係に基づき、上記各実施の形態に適用する場合において、例えば、図1のような自車両の前後方向に対して障害物の左側を回避する場面において、Xe、Zo及びZvの各々の検出値、真値、及び推定範囲の関係が、例えば図25の(a)〜(c)のいずれかに該当する場合には、下記(87)式のような方法により、Xe、Zo及びZvの各々の値を修正することができる。
【0244】
【数40】
【0245】
なお、障害物の右側を回避する場合は、vy0→−vy0、Z0のバー→−Z0のバー、Zvのバー→−Zvのバー、Z0a→−Z0a、Z0b→−Z0bに変換して、(87)式のような方法により修正した後、上記実施の形態と同様に、{−ν1’,−ν2’,te’}を求めて、−ν1’→ν1’、−ν2’→ν2’の処理を行えばよい。
【0246】
図26を参照して第6の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンについて説明する。ここでは、予測回避時間を求めるために用いるマップとして図4の3次元マップを用い、障害物の予測位置に基づいた横移動距離に対する縦移動距離が最短になる車体合成力を求めるためのマップとして図3の最短2次元マップを用いる場合について説明する。なお、第1の実施の形態の車両運動制御装置の制御装置20で実行される車両運動制御ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0247】
ステップ100〜106を経て、ステップ600で、上記ステップ106で変換された障害物の状態量(Xeのバー,Z0のバー,Zvのバー)から、(87)式のような方法により各々の値を修正する。
【0248】
以下、第1の実施の形態と同様に処理する。なお、ステップ110では、修正した値を用いて3次元マップより(teのチルダ)’を得、ステップ114では、修正した値を用いて最短2次元マップより車体合成力を導出する。
【0249】
なお、上記では、最短回避制御の場合について説明したが、最適回避制御についても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0250】
10 車速センサ
12 操舵角センサ
14 スロットル開度センサ
16 前方カメラ
18 レーザレーダ
20 制御装置
22 操舵角制御装置
24 制動力制御装置
26 駆動力制御装置
28 マップ記憶装置
30 表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出するための最短2次元マップ、並びに
・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0、及び車体合成加速度の最大値F0/mを用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分に対して車体前後方向の移動距離が最短となる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Zv、前記成分Z0、及び前記最大値F0/mのうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、
前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、設定された前記成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項2】
前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求める請求項1記載の車両運動制御装置。
【請求項3】
前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更した請求項1または請求項2記載の車両運動制御装置。
【請求項4】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力及び回避時間を導出するための最短2次元マップを記憶した記憶手段と、
前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記成分Yeを再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項5】
前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離とを比較し、前記最短距離が小さい側の回避軌道を選択する請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項6】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出するための最適2次元マップ、並びに
・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記自車両と前記障害物との距離の車体前後方向の成分Xe、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、及び前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0を用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Xe、前記成分Zv、及び前記成分Z0のうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、
前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項7】
前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求める請求項6記載の車両運動制御装置。
【請求項8】
前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更した請求項6または請求項7記載の車両運動制御装置。
【請求項9】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避時間を導出するための最適2次元マップを記憶した記憶手段と、
前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記目標位置を再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記目標位置に対して車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項10】
前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値とを比較し、前記車体合成力の最大値が小さい側の回避軌道を選択する請求項6〜請求項9のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項11】
前記導出手段は、前記検出手段により検出された前記障害物の状態量を、該状態量及び精度で表される真値の範囲、並びに予め記憶された前記障害物の行動パターンにより定まる前記状態量の取りうる範囲との関係に基づいて修正する請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項12】
前記検出手段は、前記自車両に対する前記障害物の相対距離及び相対速度を検出する請求項1〜請求項11のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項13】
前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、操舵角、制動力、及び駆動力の少なくとも一つを制御する制御手段を更に含む請求項1〜請求項12のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項14】
前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、ドライバに車両運動状態を報知する報知手段を更に含む請求項1〜請求項13のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項15】
コンピュータを、請求項1〜請求項14のいずれか1項記載の車両運動制御装置を構成する各手段として機能させるための車両運動制御プログラム。
【請求項1】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出するための最短2次元マップ、並びに
・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0、及び車体合成加速度の最大値F0/mを用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分に対して車体前後方向の移動距離が最短となる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Zv、前記成分Z0、及び前記最大値F0/mのうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、
前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、設定された前記成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項2】
前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求める請求項1記載の車両運動制御装置。
【請求項3】
前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更した請求項1または請求項2記載の車両運動制御装置。
【請求項4】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置に基づく距離の車体横方向の成分Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力及び回避時間を導出するための最短2次元マップを記憶した記憶手段と、
前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分を前記成分Yeとして設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記成分Ye、及び前記最短2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記成分Yeを再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記Yeに対して車体前後方向の移動距離が最短となる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項5】
前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の前記車体前後方向の移動距離の最短距離とを比較し、前記最短距離が小さい側の回避軌道を選択する請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項6】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
・前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出するための最適2次元マップ、並びに
・前記速度方向を車体前後方向として、前記障害物が車体横方向に等速運動すると仮定して、前記自車両の速度の車体前後方向の成分vx0、前記自車両の速度の車体横方向の成分vy0、前記自車両と前記障害物との距離の車体前後方向の成分Xe、前記障害物の速度の車体横方向の成分Zv、及び前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置の車体横方向の成分Z0を用いた各々異なる3つのパラメータと、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる回避を行う場合の予測回避時間teの、前記成分vx0、前記成分vy0、前記成分Xe、前記成分Zv、及び前記成分Z0のうち前記3つのパラメータに応じた2つが特定値であるとの仮定の下での値te’との関係を定めた3次元マップ、を記憶した記憶手段と、
前記検出手段で検出された状態量に基づいて前記3つのパラメータを演算し、演算された3つのパラメータ及び前記3次元マップを用いて前記予測回避時間teを導出し、導出された予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項7】
前記導出手段は、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、前記予測回避時間te後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を、算出した前記予測時間後の前記障害物の位置にマージンを加えた位置として求めると共に、前記マージンを、前記3次元マップを用いて導出される予測回避時間teと前記予測時間とに基づいて求める請求項6記載の車両運動制御装置。
【請求項8】
前記3つのパラメータを、前記3次元マップの特異点が前記3次元マップの特異点が該3次元マップの上下軸方向に対して重なるか、あるいは該3次元マップの縦軸又は横軸と平行になるように変更した請求項6または請求項7記載の車両運動制御装置。
【請求項9】
障害物を回避直後の目標位置及び該目標位置における自車両の速度方向を設定する設定手段と、
自車両の位置及び速度、前記障害物の位置及び速度を含む状態量を検出する検出手段と、
前記速度方向を車体前後方向とした場合に、設定された目標位置及び前記速度方向になるための車体合成力の最大値が最小になる車体合成力及び回避時間を導出するための最適2次元マップを記憶した記憶手段と、
前記速度方向を車体前後方向として、前記自車両と前記障害物との相対距離及び相対速度に基づいて、前記自車両が前記障害物に接近した場合に前記障害物近傍へ到着する予測時間を算出し、算出された予測時間後の前記自車両の現在時刻の位置に対する前記障害物の位置を前記目標位置として設定し、前記検出手段で検出された状態量、設定した前記目標位置、及び前記最適2次元マップを用いて、前記回避時間を求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となるまで、前記予測時間を変更して前記目標位置を再設定しながら前記回避時間を繰り返し求め、前記予測時間と前記回避時間との差が所定値以内となったときの前記目標位置に対して車体合成力の最大値が最小になる車体合成力を導出する導出手段と、
を含む車両運動制御装置。
【請求項10】
前記導出手段は、前記障害物の左側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値と、前記障害物の右側を回避する回避軌道の車体合成力の最大値とを比較し、前記車体合成力の最大値が小さい側の回避軌道を選択する請求項6〜請求項9のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項11】
前記導出手段は、前記検出手段により検出された前記障害物の状態量を、該状態量及び精度で表される真値の範囲、並びに予め記憶された前記障害物の行動パターンにより定まる前記状態量の取りうる範囲との関係に基づいて修正する請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項12】
前記検出手段は、前記自車両に対する前記障害物の相対距離及び相対速度を検出する請求項1〜請求項11のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項13】
前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、操舵角、制動力、及び駆動力の少なくとも一つを制御する制御手段を更に含む請求項1〜請求項12のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項14】
前記導出手段で導出された前記車体合成力に基づいて、ドライバに車両運動状態を報知する報知手段を更に含む請求項1〜請求項13のいずれか1項記載の車両運動制御装置。
【請求項15】
コンピュータを、請求項1〜請求項14のいずれか1項記載の車両運動制御装置を構成する各手段として機能させるための車両運動制御プログラム。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図2】
【図5】
【図6】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【公開番号】特開2011−225159(P2011−225159A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98672(P2010−98672)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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