説明

車両駆動システムの制御装置

【課題】エンジン自動停止要求が発生したときにエンジンを自動停止させ、エンジン再始動要求が発生したときにエンジンを再始動させる車両駆動システムにおいて、エンジン自動停止中(アイドルストップ中)の消費電力を低減できるようにする。
【解決手段】エンジン自動停止時に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35以外の各油圧制御弁36〜38への通電を停止する通電停止制御を実行すると共に、発進用変速段を確定するクラッチC0を半係合状態に維持するようにクラッチC0用の油圧制御弁35への通電を制御する半係合制御を実行する。この通電停止制御及び半係合制御により、エンジン自動停止中の消費電力を低減してバッテリ電力の消耗を抑制しながら、エンジン再始動時にエンジン10の始動トルクが変速歯車機構15を介して車輪側に伝達されることを抑制して不快なショックの発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の自動停止要求が発生したときに該内燃機関を自動停止させ、内燃機関の再始動要求が発生したときに該内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御機能を備えた車両駆動システムの制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は、変速機構にクラッチやブレーキ等の複数の摩擦係合要素を設けると共に、各摩擦係合要素に作用させる油圧を制御する複数の油圧制御弁(電磁弁)を設け、各油圧制御弁への通電を個別に制御して各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで、各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて、変速機構の変速段(変速比)を切り換えるようにしたものがある。
【0003】
このような自動変速機においては、例えば、特許文献1(特開2002−130460号公報)に記載されているように、エンジン回転速度が所定回転速度よりも低いときに、各油圧制御弁(電磁弁)への通電を禁止することで、エンジン始動前の各油圧制御弁への通電によるバッテリ電力の消耗を防止するようにしたものがある。
【0004】
また、近年、エンジン(内燃機関)を搭載した車両においては、燃費節減、排気エミッション低減等を目的として、アイドルストップ制御システムを採用したものがある。このアイドルストップ制御システムでは、例えば、運転者が車両を停車させて自動停止要求が発生したときにエンジンを自動的に停止させ、その後、運転者が車両を発進させようとする操作を行って再始動要求が発生したときにエンジンを自動的に再始動させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−130460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジン自動停止中(アイドルストップ中)は、エンジンの動力で駆動される発電機(オルタネータ)の発電も停止される。このため、エンジン自動停止中に、変速機構の変速段を発進用の変速段(例えば1速)に切り換えた状態に維持するように各油圧制御弁の通電を制御すると、その分、エンジン自動停止中(つまり発電機の発電停止中)の消費電力が増加するため、バッテリ電力が消耗して、いわゆるバッテリ上がりを引き起こす可能性がある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、内燃機関の自動停止中の消費電力を低減することができる車両駆動システムの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の動力を変速機構を介して車輪側に伝達する車両駆動システムに適用され、変速機構に設けられた複数の摩擦係合要素に作用させる油圧を制御する複数の油圧制御弁と、各油圧制御弁への通電を個別に制御して各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて変速機構の変速段を切り換える変速制御手段と、内燃機関の自動停止要求が発生したときに該内燃機関を自動停止させ、内燃機関の再始動要求が発生したときに該内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御手段と、アイドルストップ制御手段による内燃機関の自動停止中に油圧を発生させるために作動する電動油圧ポンプとを備えた車両駆動システムの制御装置において、変速制御手段によって、内燃機関の自動停止時に、車両発進に使用可能な変速段(以下「発進用変速段」という)を確定する摩擦係合要素用の油圧制御弁以外の各油圧制御弁への通電を停止する通電停止制御を実行すると共に、発進用変速段を確定する摩擦係合要素を半係合状態に維持するように該摩擦係合要素用の油圧制御弁への通電を制御する構成としたものである。
【0009】
この構成では、内燃機関の自動停止時に、発進用変速段(例えば1速)を確定する摩擦係合要素用の油圧制御弁以外の油圧制御弁への通電を停止する通電停止制御を実行することで、内燃機関の自動停止中の消費電力を低減することができる。
【0010】
また、油圧制御弁への通電停止時に摩擦係合要素が係合状態となるシステムの場合、内燃機関の自動停止時に、全ての油圧制御弁への通電を停止するようにすると、内燃機関の再始動時に、内燃機関の始動トルクが変速機構を介して車輪側に伝達されて、不快なショックが発生する可能性があるが、本発明では、内燃機関の自動停止時に、発進用変速段(例えば1速)を確定する摩擦係合要素を半係合状態に維持するように該摩擦係合要素用の油圧制御弁への通電を制御することで、内燃機関の再始動時に、内燃機関の始動トルクが変速機構を介して車輪側に伝達されることを抑制して、不快なショックが発生することを防止できる。
【0011】
この場合、請求項2のように、内燃機関の再始動時に、通電停止制御を終了して変速機構の変速段を発進用変速段に切り換えた状態にするように各油圧制御弁への通電を制御するようにすると良い。ここで、発進用変速段に切り換えた状態とは、発進用変速段を確定する摩擦係合要素を半係合状態に維持する状態も含むものとする。このようにすれば、内燃機関の再始動後に、車両を速やかに発進させることができる。
【0012】
ところで、変速機構の作動油の粘性が高く(流動性が悪く)なる低油温領域や、作動油の漏れが多くなる高油温領域では、油圧の応答性が低下するため、内燃機関の自動停止時に通電停止制御を実行すると、内燃機関の再始動時に変速機構の変速段を速やかに発進用変速段に切り換えた状態にできない可能性がある。
【0013】
そこで、請求項3のように、変速機構の作動油の温度が所定温度領域外のときに通電停止制御を禁止するようにしても良い。つまり、油温(作動油の温度)が所定温度領域外のときには、油圧の応答性が悪いため、内燃機関の自動停止時に通電停止制御を実行すると、内燃機関の再始動時に変速機構の変速段を速やかに発進用変速段に切り換えた状態にできない可能性があると判断して、通電停止制御を禁止する。これにより、内燃機関の再始動時に変速機構の変速段を速やかに発進用変速段に切り換えた状態にできないといった事態を未然に防止することができる。
【0014】
また、油圧制御弁への通電停止時に摩擦係合要素が係合状態となるシステムの場合、内燃機関の自動停止時に変速機構の回転部材の回転が停止する前に通電停止制御を実行すると、変速機構の回転部材の回転中に、発進用変速段を確定する摩擦係合要素以外の全ての摩擦係合要素が係合状態となって、変速機構が正常動作できないロック状態になる可能性がある。
【0015】
そこで、請求項4のように、内燃機関の自動停止時に変速機構の回転部材の回転が停止したときに通電停止制御を許可するようにすると良い。このようにすれば、変速機構の回転部材の回転中に、発進用変速段を確定する摩擦係合要素以外の全ての摩擦係合要素が係合状態となることを回避することができ、変速機構が正常動作できないロック状態になることを未然に防止することができる。
【0016】
また、請求項5のように、内燃機関の動力を変速機構を介して車輪側に伝達する車両駆動システムに適用され、変速機構に設けられた複数の摩擦係合要素に作用させる油圧を制御する複数の油圧制御弁と、各油圧制御弁への通電を個別に制御して各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて変速機構の変速段を切り換える変速制御手段と、内燃機関の自動停止要求が発生したときに該内燃機関を自動停止させ、内燃機関の再始動要求が発生したときに該内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御手段と、アイドルストップ制御手段による内燃機関の自動停止中に油圧を発生させるために作動する電動油圧ポンプとを備えた車両駆動システムの制御装置において、変速制御手段によって、内燃機関の自動停止時に、変速機構の変速段を車両発進に使用可能な複数の変速段のうちの各油圧制御弁の消費電力の合計が少なくなる変速段に切り換えた状態にするように各油圧制御弁への通電を制御する構成としても良い。
【0017】
この構成では、内燃機関の自動停止時に、変速機構の変速段を車両発進に使用可能な複数の変速段のうちの各油圧制御弁の消費電力の合計が少なくなる変速段(例えば2速)に切り換えた状態にするように各油圧制御弁への通電を制御することで、内燃機関の自動停止中の消費電力を低減することができる。しかも、内燃機関の自動停止中に車両発進に使用可能な変速段に切り換えた状態に維持することができるため、万一、油圧制御弁等の故障によって変速段を切り換え不能になっても、車両を発進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施例1における自動変速機全体の概略構成を示す図である。
【図2】図2は自動変速機の機械的構成を模式的に示す図である。
【図3】図3は各変速段毎のクラッチC0〜C2とブレーキB0,B1の係合/解放の組み合わせを示す図である。
【図4】図4は各変速段毎のクラッチC0,C2用の油圧制御弁とブレーキB0,B1用の油圧制御弁の通電状態を示す図である。
【図5】図5は実施例1の通電停止制御及び半係合制御を説明する図である。
【図6】図6は実施例1のアイドルストップ制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図7】図7は実施例2のアイドルストップ制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施例1を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1及び図2に基づいて自動変速機11の概略構成を説明する。
図2に示すように、内燃機関であるエンジン10の出力軸には、トルクコンバータ12の入力軸13が連結され、このトルクコンバータ12の出力軸14に、油圧駆動式の変速歯車機構15(変速機構)が連結されている。トルクコンバータ12の内部には、流体継手を構成するポンプインペラ31とタービンランナ32が対向して設けられ、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間には、オイルの流れを整流するステータ33が設けられている。ポンプインペラ31は、トルクコンバータ12の入力軸13に連結され、タービンランナ32は、トルクコンバータ12の出力軸14に連結されている。
【0021】
また、トルクコンバータ12には、入力軸13側と出力軸14側との間を係合又は切り離しするためのロックアップクラッチ16が設けられている。エンジン10の出力トルクは、トルクコンバータ12を介して変速歯車機構15に伝達され、変速歯車機構15の複数のギヤ(遊星歯車等)で変速されて、車両の駆動輪(前輪又は後輪)に伝達される。
【0022】
変速歯車機構15には、複数の変速段を切り換えるための摩擦係合要素である複数のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1が設けられ、図3に示すように、これら各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を油圧で切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることによって変速比を切り換えるようになっている。
【0023】
尚、図3は4速自動変速機のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1の係合の組み合せを示すもので、○印はその変速段で係合状態(トルク伝達状態)に保持されるクラッチとブレーキを示し、無印は解放状態を示している。また、1速ではOWC(ワンウェイクラッチ)が作動可能な状態になる。例えば、Dレンジのアクセル踏み込み状態(スロットルバルブが開いた状態)では、車速が上がるにつれて、1速、2速、3速、4速へとアップシフトしていく。1速から2速への変速では、C0のみの係合から新たにB1を係合する。2速から3速への変速では、C0及びB1の係合からB1を解放し、新たにC2を係合する。3速から4速への変速では、C0及びC2の係合からC0を解放し、新たにB1を係合する。
【0024】
図1に示すように、変速歯車機構15には、エンジン動力で駆動される油圧ポンプ18が設けられ、作動油(オイル)を貯溜するオイルパン(図示せず)内には、油圧制御回路17が設けられている。この油圧制御回路17は、ライン圧制御回路19、自動変速制御回路20、ロックアップ制御回路21、手動切換弁26等から構成され、オイルパンから油圧ポンプ18で汲み上げられた作動油がライン圧制御回路19を介して自動変速制御回路20とロックアップ制御回路21に供給される。
【0025】
また、後述するエンジン自動停止中(アイドルストップ中)に油圧を発生させるための電動油圧ポンプ22が設けられ、エンジン自動停止中は電動油圧ポンプ22で汲み上げられた作動油がライン圧制御回路19を介して自動変速制御回路20とロックアップ制御回路21に供給される。
【0026】
ライン圧制御回路19には、油圧ポンプ18(又は電動油圧ポンプ22)からの油圧を所定のライン圧に制御するライン圧制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられ、自動変速制御回路20には、変速歯車機構15の各クラッチC0,C2と各ブレーキB0,B1に供給する油圧を制御する複数の変速用の油圧制御弁35〜38が設けられている。また、ロックアップ制御回路21には、ロックアップクラッチ16に供給する油圧を制御するロックアップ制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。
【0027】
各油圧制御弁は、例えば、リニアソレノイドバルブ等の電磁バルブにより構成され、所定のデューティにて電圧を印加して流れる電流により発生する吸引力にて油圧を制御している。このため、油圧制御弁の電流と油圧は、密接な関係となり、電流値を制御することにより油圧を制御している。
【0028】
また、ライン圧制御回路19と自動変速制御回路20との間には、シフトレバー25の操作に連動して切り換えられる手動切換弁26が設けられている。シフトレバー25がニュートラルレンジ(Nレンジ)又はパーキングレンジ(Pレンジ)に操作されているときには、自動変速制御回路20の油圧制御弁35〜38への通電が停止(オフ)された状態になっていても、手動切換弁26によって変速歯車機構15に供給する油圧が変速歯車機構15をニュートラル状態とするように切り換えられる。
【0029】
一方、エンジン10には、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ27が設けられ、変速歯車機構15には、変速歯車機構15の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ12の出力軸回転速度)を検出する入力軸回転速度センサ28と、変速歯車機構15の出力軸回転速度Noを検出する出力軸回転速度センサ29が設けられている。
【0030】
これら各種センサの出力信号は、電子制御回路(以下「ECU」と表記する)30に入力される。このECU30は、エンジン10と自動変速機11を総合的に制御する1個又は複数個のマイクロコンピュータを主体として構成され、エンジン制御プログラムを(図示せず)を実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御すると共に、変速制御プログラム(図示せず)を実行することで、予め設定した変速パターンに従って変速歯車機構15の変速が行われるように、シフトレバー25の操作位置や運転条件(スロットル開度、車速等)に応じて自動変速制御回路20の各油圧制御弁35〜38への通電を制御して、変速歯車機構15の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に作用させる油圧を制御することによって、図3に示すように、各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることで、変速歯車機構15の変速比を切り換える。尚、ECU30は、エンジンを制御するエンジンECUと、自動変速機11を制御するAT−ECUとを別々に備えた構成としても良い。
【0031】
図4は各変速段毎のクラッチC0,C2用の油圧制御弁35,36とブレーキB0,B1用の油圧制御弁37,38の通電状態の組み合せを示すもので、「max」はその変速段で最大通電状態(通電電流=最大値)となる油圧制御弁を示し、「min」はその変速段で通電停止状態(通電電流=0)となる油圧制御弁を示している。図3及び図4に示すように、油圧制御弁を最大通電状態(通電電流=最大値)に制御したときに、その油圧制御弁に対応するクラッチ又はブレーキが解放状態となり、油圧制御弁を通電停止状態(通電電流=0)に制御したときに、その油圧制御弁に対応するクラッチ又はブレーキが係合状態となる。例えば、Dレンジの1速では、1速を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35を通電停止状態に制御してクラッチC0を係合状態に維持し、クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0,B1用の油圧制御弁37,38を全て最大通電状態(通電電流=最大値)に制御してクラッチC2及びブレーキB0,B1を全て解放状態に維持する。
【0032】
また、ECU30は、後述する図6のアイドルストップ制御ルーチンを実行することで、エンジン運転中にエンジン自動停止要求が発生したときに、エンジン10の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン10を自動的に停止させるエンジン自動停止制御(アイドルストップ制御)を実行する。エンジン自動停止制御を実行する運転領域は、車両停止中のみとしても良いし、車両走行中に車両停止に至る可能性のある低速での減速領域まで拡大するようにしても良い。
【0033】
このエンジン自動停止制御(アイドルストップ制御)によるエンジン自動停止中(アイドルストップ中)に、運転者が車両を発進又は加速させようとする操作(例えば、ブレーキ解除操作、アクセル踏み込み操作等)を行ってエンジン再始動要求が発生したときに、エンジン10を自動的に再始動させる。その他、バッテリ充電制御システムやエアコン等の車載機器の制御システムから再始動要求が発生してエンジン10を再始動させる場合もある。
【0034】
ところで、エンジン自動停止中(アイドルストップ中)は、エンジン10の動力で駆動される発電機(オルタネータ)の発電も停止される。このため、エンジン自動停止中に、変速歯車機構15の変速段を発進用の変速段(例えば1速)に切り換えた状態に維持するように各油圧制御弁35〜38の通電を制御する(つまり、1速を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35を通電停止状態に制御すると共に、クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0,B1用の油圧制御弁37,38を全て最大通電状態に制御する)と、その分、エンジン自動停止中(つまり発電機の発電停止中)の消費電力が増加するため、バッテリ電力が消耗して、いわゆるバッテリ上がりを引き起こす可能性がある。
【0035】
そこで、ECU30は、エンジン自動停止時に、車両発進に使用可能な変速段(以下「発進用変速段」という)を確定する摩擦係合要素用の油圧制御弁以外の各油圧制御弁への通電を停止する通電停止制御を実行すると共に、発進用変速段を確定する摩擦係合要素を半係合状態に維持するように該摩擦係合要素用の油圧制御弁への通電を制御する半係合制御を実行する。
【0036】
具体的には、図5に示すように、エンジン自動停止時に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35以外の各油圧制御弁36〜38(クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0,B1用の油圧制御弁37,38)を全て通電停止状態にすることで通電停止制御を実行すると共に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0を半係合状態(滑りを発生させながら動力伝達する状態、又は作動油の充填完了状態で伝達トルク=0の状態)に維持するようにクラッチC0用の油圧制御弁35への通電電流を中間値(最大値よりも小さい電流値)に制御することで半係合制御を実行する。この際、エンジン動力で駆動される油圧ポンプ18は停止しているため、制御圧の元圧となる油圧を発生させるために電動油圧ポンプ22を作動させる。
【0037】
以下、ECU30が実行する図6のアイドルストップ制御ルーチンの処理内容を説明する。
図6に示すアイドルストップ制御ルーチンは、ECU30の電源オン中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう変速制御手段及びアイドルストップ制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、エンジン自動停止要求が発生したか否かを判定し、エンジン自動停止要求が発生していなければ、ステップ102以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0038】
その後、エンジン自動停止要求が発生したときに、ステップ101からステップ102に進み、エンジン10の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン10を自動的に停止させると共に、電動油圧ポンプ22を駆動して制御圧の元圧となる油圧を発生させる。
【0039】
この後、ステップ103に進み、油温(作動油の温度)が所定温度領域内であるか否かを判定する。ここで、所定温度領域は、油圧の応答性が確保できる温度領域であり、例えば、80から110℃までの領域に設定されている。尚、油温は、油温センサで実際に油温を検出するようにしても良いし、或は、冷却水温や吸気温等から油温を推定するようにしても良い。
【0040】
このステップ103で、油温が所定温度領域外であると判定された場合には、油圧の応答性が悪いため、エンジン自動停止時に通電停止制御を実行すると、エンジン再始動時に変速歯車機構15の変速段を速やかに発進用変速段(例えば1速)に切り換えた状態にできない可能性があると判断して、通電停止制御を禁止する。この場合、ステップ104,105の処理を飛ばして、ステップ106に進む。
【0041】
一方、上記ステップ103で、油温が所定温度領域内であると判定された場合には、油圧の応答性が確保できると判断して、通電停止制御を許可する。この場合、まず、ステップ104で、変速歯車機構15の回転部材の回転が停止したか否かを、例えば、入力軸回転速度センサ28で検出した変速歯車機構15の入力軸回転速度Ntと、出力軸回転速度センサ29で検出した変速歯車機構15の出力軸回転速度Noが両方とも0になったか否かによって判定する。
【0042】
このステップ104で、変速歯車機構15の回転部材の回転がまだ停止していないと判定された場合には、ステップ106に進み、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定し、エンジン再始動要求が発生していなければ、ステップ103に戻る。
【0043】
その後、ステップ104で、変速歯車機構15の回転部材の回転が停止したと判定されたときに、ステップ105に進み、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35以外の各油圧制御弁36〜38(クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0,B1用の油圧制御弁37,38)を全て通電停止状態にすることで通電停止制御を実行すると共に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0を半係合状態(滑りを発生させながら動力伝達する状態、又は作動油の充填完了状態で伝達トルク=0の状態)に維持するようにクラッチC0用の油圧制御弁35への通電電流を中間値(最大値よりも小さい電流値)に制御することで半係合制御を実行する。
【0044】
この後、ステップ106に進み、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定し、エンジン再始動要求が発生したときに、ステップ107に進み、エンジン10を自動的に再始動させた後、ステップ108に進み、エンジン再始動時に、通電停止制御を終了して、変速歯車機構15の変速段を発進用変速段(例えば1速)に切り換えた状態にするように各油圧制御弁35〜38への通電を制御する。ここで、発進用変速段(例えば1速)に切り換えた状態とは、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0を半係合状態に維持する状態も含むものとする。
【0045】
この後、ステップ109に進み、エンジン10が完爆したか否かを、例えば、エンジン回転速度が所定の完爆判定値を越えたか否かによって判定し、エンジン10が完爆したと判定されたときに、ステップ110に進み、電動油圧ポンプ22を停止する。
【0046】
以上説明した本実施例1では、エンジン自動停止時に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35以外の各油圧制御弁36〜38への通電を停止する通電停止制御を実行するようにしたので、エンジン自動停止中の消費電力を低減することができ、これにより、エンジン自動停止中のバッテリ電力の消耗を抑制して、バッテリ上がりを防止することができる。しかも、エンジン自動停止時に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0を半係合状態に維持するようにクラッチC0用の油圧制御弁35への通電を制御するようにしたので、エンジン再始動時に、エンジン10の始動トルクが変速歯車機構15を介して車輪側に伝達されることを抑制して、不快なショックが発生することを防止できる。
【0047】
また、本実施例1では、エンジン再始動時に、通電停止制御を終了して変速歯車機構15の変速段を発進用変速段(例えば1速)に切り換えた状態にするように各油圧制御弁35〜38への通電を制御するようにしたので、エンジン再始動後に、車両を速やかに発進させることができる。
【0048】
更に、本実施例1では、油温が所定温度領域外のときには、油圧の応答性が悪いため、エンジン自動停止時に通電停止制御を実行すると、エンジン再始動時に変速歯車機構15の変速段を速やかに発進用変速段(例えば1速)に切り換えた状態にできない可能性があると判断して、通電停止制御を禁止するようにしたので、エンジン再始動時に変速歯車機構15の変速段を速やかに発進用変速段(例えば1速)に切り換えた状態にできないといった事態を未然に防止することができる。
【0049】
また、エンジン自動停止時に変速歯車機構15の回転部材の回転が停止する前に通電停止制御を実行すると、変速歯車機構15の回転部材の回転中に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0以外の全ての摩擦係合要素(クラッチC2及びブレーキB0,B1)が係合状態となって、変速歯車機構15が正常動作できないロック状態になる可能性があるが、本実施例1では、エンジン自動停止時に変速歯車機構15の回転部材の回転が停止したときに通電停止制御を許可するようにしたので、変速歯車機構15の回転部材の回転中に、発進用変速段(例えば1速)を確定するクラッチC0以外の全ての摩擦係合要素(クラッチC2及びブレーキB0,B1)が係合状態となることを回避することができ、変速歯車機構15が正常動作できないロック状態になることを未然に防止することができる。
【0050】
尚、上記実施例1では、エンジン自動停止時に、1速を確定するクラッチC0用の油圧制御弁35以外の各油圧制御弁36〜38への通電を停止すると共に、1速を確定するクラッチC0を半係合状態に維持するようにクラッチC0用の油圧制御弁35への通電電流を中間値に制御するようにしたが、これに限定されず、例えば、L速を確定するクラッチC2及びブレーキB1用の油圧制御弁36,38以外の各油圧制御弁35,37への通電を停止すると共に、L速を確定するクラッチC2及びブレーキB1を半係合状態に維持するようにクラッチC2及びブレーキB1用の油圧制御弁36,38への通電電流を中間値に制御するようにしても良い。或は、2速を確定するクラッチC2及びブレーキB0用の油圧制御弁36,37以外の各油圧制御弁35,38への通電を停止すると共に、2速を確定するクラッチC2及びブレーキB0を半係合状態に維持するようにクラッチC2及びブレーキB0用の油圧制御弁36,37への通電電流を中間値に制御するようにしても良い。
【実施例2】
【0051】
次に、図7を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0052】
本実施例2では、ECU30により後述する図7のアイドルストップ制御ルーチンを実行することで、エンジン自動停止時に、変速歯車機構15の変速段を車両発進に使用可能な複数の変速段(例えばL速と1速と2速)のうちの各油圧制御弁35〜38の消費電力の合計が少なくなる変速段(例えばL速又は2速)に切り換えた状態にするように各油圧制御弁35〜38への通電を制御するようにしている。
【0053】
図4に示すように、変速歯車機構15の変速段を1速に切り換えた状態にする場合には、3つの油圧制御弁(クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0,B1用の油圧制御弁37,38)を最大通電状態に制御する必要があるが、変速歯車機構15の変速段をL速に切り換えた状態にする場合には、2つの油圧制御弁(クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB1用の油圧制御弁38)を最大通電状態に制御するだけで良く、また、変速歯車機構15の変速段を2速に切り換えた状態にする場合には、2つの油圧制御弁(クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0用の油圧制御弁37)を最大通電状態に制御するだけで良い。従って、変速歯車機構15の変速段を1速に切り換えた状態にする場合よりも、変速歯車機構15の変速段をL速又は2速に切り換えた状態にする場合の方が、各油圧制御弁35〜38の消費電力の合計が少なくなる。
【0054】
図7に示すアイドルストップ制御ルーチンでは、まず、ステップ201で、エンジン自動停止要求が発生したか否かを判定し、エンジン自動停止要求が発生したときに、ステップ202に進み、エンジン10の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン10を自動的に停止させると共に、電動油圧ポンプ22を駆動して制御圧の元圧となる油圧を発生させる。
【0055】
この後、ステップ203に進み、変速歯車機構15の変速段を車両発進に使用可能な複数の変速段(例えばL速と1速と2速)のうちの各油圧制御弁35〜38の消費電力の合計が少なくなる変速段(例えばL速又は2速)に切り換えた状態にするように各油圧制御弁35〜38への通電を制御する。
【0056】
具体的には、変速歯車機構15の変速段をL速に切り換えた状態にする場合には、クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB1用の油圧制御弁38を両方とも最大通電状態に制御すると共に、クラッチC0用の油圧制御弁35及びブレーキB0用の油圧制御弁37を両方とも通電停止状態に制御する。また、変速歯車機構15の変速段を2速に切り換えた状態にする場合には、クラッチC2用の油圧制御弁36及びブレーキB0用の油圧制御弁37を両方とも最大通電状態に制御すると共に、クラッチC0用の油圧制御弁35及びブレーキB1用の油圧制御弁38を両方とも通電停止状態に制御する。
【0057】
この後、ステップ204に進み、エンジン再始動要求が発生したか否かを判定し、エンジン再始動要求が発生したときに、ステップ205に進み、エンジン10を自動的に再始動させる。
【0058】
この後、ステップ206に進み、エンジン10が完爆したか否かを、例えば、エンジン回転速度が所定の完爆判定値を越えたか否かによって判定し、エンジン10が完爆したと判定されたときに、ステップ207に進み、電動油圧ポンプ22を停止する。
【0059】
以上説明した本実施例2では、エンジン自動停止時に、変速歯車機構15の変速段を車両発進に使用可能な複数の変速段(例えばL速と1速と2速)のうちの各油圧制御弁35〜38の消費電力の合計が少なくなる変速段(例えばL速又は2速)に切り換えた状態にするように各油圧制御弁35〜38への通電を制御するようにしたので、エンジン自動停止中の消費電力を低減することができる。しかも、エンジン自動停止中に車両発進に使用可能な変速段(例えばL速又は2速)に切り換えた状態に維持することができるため、万一、油圧制御弁等の故障によって変速段を切り換え不能になっても、車両を発進させることができる。
【符号の説明】
【0060】
10…エンジン(内燃機関)、11…自動変速機、12…トルクコンバータ、15…変速歯車機構(変速機構)、16…スロットルバルブ、17…油圧制御回路、18…油圧ポンプ、20…自動変速制御回路、22…電動油圧ポンプ、27…エンジン回転速度センサ、28…入力軸回転速度センサ、29…出力軸回転速度センサ、30…ECU(変速制御手段,アイドルストップ制御手段)、35〜38…油圧制御弁、C0〜C2…クラッチ(摩擦係合要素)、B0,B1…ブレーキ(摩擦係合要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の動力を変速機構を介して車輪側に伝達する車両駆動システムに適用され、前記変速機構に設けられた複数の摩擦係合要素に作用させる油圧を制御する複数の油圧制御弁と、各油圧制御弁への通電を個別に制御して各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて前記変速機構の変速段を切り換える変速制御手段と、前記内燃機関の自動停止要求が発生したときに該内燃機関を自動停止させ、前記内燃機関の再始動要求が発生したときに該内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御手段と、前記アイドルストップ制御手段による内燃機関の自動停止中に油圧を発生させるために作動する電動油圧ポンプとを備えた車両駆動システムの制御装置において、
前記変速制御手段は、前記内燃機関の自動停止時に、車両発進に使用可能な変速段(以下「発進用変速段」という)を確定する摩擦係合要素用の油圧制御弁以外の各油圧制御弁への通電を停止する通電停止制御を実行すると共に、前記発進用変速段を確定する摩擦係合要素を半係合状態に維持するように該摩擦係合要素用の油圧制御弁への通電を制御することを特徴とする車両駆動システムの制御装置。
【請求項2】
前記変速制御手段は、前記内燃機関の再始動時に、前記通電停止制御を終了して前記変速機構の変速段を前記発進用変速段に切り換えた状態にするように各油圧制御弁への通電を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両駆動システムの制御装置。
【請求項3】
前記変速制御手段は、前記変速機構の作動油の温度が所定温度領域外のときに前記通電停止制御を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両駆動システムの制御装置。
【請求項4】
前記変速制御手段は、前記内燃機関の自動停止時に前記変速機構の回転部材の回転が停止したときに前記通電停止制御を許可することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両駆動システムの制御装置。
【請求項5】
内燃機関の動力を変速機構を介して車輪側に伝達する車両駆動システムに適用され、前記変速機構に設けられた複数の摩擦係合要素に作用させる油圧を制御する複数の油圧制御弁と、各油圧制御弁への通電を個別に制御して各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて前記変速機構の変速段を切り換える変速制御手段と、前記内燃機関の自動停止要求が発生したときに該内燃機関を自動停止させ、前記内燃機関の再始動要求が発生したときに該内燃機関を再始動させるアイドルストップ制御手段と、前記アイドルストップ制御手段による内燃機関の自動停止中に油圧を発生させるために作動する電動油圧ポンプとを備えた車両駆動システムの制御装置において、
前記変速制御手段は、前記内燃機関の自動停止時に、前記変速機構の変速段を車両発進に使用可能な複数の変速段のうちの各油圧制御弁の消費電力の合計が少なくなる変速段に切り換えた状態にするように各油圧制御弁への通電を制御することを特徴とする車両駆動システムの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−236992(P2011−236992A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109765(P2010−109765)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】