説明

車両

【課題】ブレーキを解除した場合に能動重量部が移動する方向を予測する移動方向予測手段が目標位置に近付く方向への移動を予測したときにはブレーキを解除することによって、能動重量部が中立位置から大きく外れた位置で停止して固定された場合であっても、車体の姿勢が適切な状態に自動的に復帰するようにして、車体傾斜によって乗員に与える不快感や不安感、及び、操縦性の低下が解消され、使い勝手がよく、かつ、安全に使用することができるようにする。
【解決手段】車両制御装置は、能動重量部ブレーキを解除した際の能動重量部の移動方向を予測する移動方向予測手段を備え、能動重量部が目標位置に近付く方向へ移動することを移動方向予測手段が予測した場合に能動重量部ブレーキを解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に関する技術が提案されている。例えば、同軸上に配設された2つの駆動輪を有し、乗員の重心移動による車体の姿勢変化を感知して駆動する車両、球体状の単一の駆動輪に取り付けられた車体の姿勢を制御しながら移動する車両等の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この場合、カウンタウェイトとしての能動重量部を前後に移動させることで、倒立制御を行って、車両を移動させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−129435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、能動重量部を固定することにより、該能動重量部が自由に移動して倒立制御の妨げになるのを防ぐことが必要な場合がある。例えば、能動重量部を移動させるアクチュエータの異常時には、ブレーキを作動して能動重量部を固定する必要がある。しかし、このような制御では、安全性や快適性を十分に保障できない場合がある。
【0006】
具体的には、能動重量部が基準位置(車両の重心が駆動輪接地点を通る鉛直線上にあるような位置)から大きく外れた位置にある場合に、ブレーキ作動によって固定されるときがある。例えば、車両の急加速時には、能動重量部を車両前方に大きく移動させる必要があるが、この時にブレーキが作動すると、車両の加減速に関わらず、能動重量部は常に前方に存在することになるので、安全性や快適性を十分に保障できない。車体のバランスを保つために、車体が常に後方に大きく傾いた状態に維持されるため、乗員に不快感や不安感を与える可能性がある。また、車両の重心可動量、すなわち、車両の加速性能又は減速性能が大きく制限されるため、場合によっては加速又は減速が不可能となる可能性がある。
【0007】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、ブレーキを解除した場合に能動重量部が移動する方向を予測する移動方向予測手段が目標位置に近付く方向への移動を予測したときにはブレーキを解除することによって、能動重量部が中立位置から大きく外れた位置で停止して固定された場合であっても、車体の姿勢が適切な状態に自動的に復帰するようにして、車体傾斜によって乗員に与える不快感や不安感、及び、操縦性の低下が解消され、使い勝手がよく、かつ、安全に使用することができる車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明の車両においては、回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、前記車体に対して移動可能に取り付けられた能動重量部と、該能動重量部を車体に対して固定する能動重量部ブレーキと、前記駆動輪に与える駆動トルク及び前記能動重量部の位置を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、該車両制御装置は、前記能動重量部ブレーキを解除した際の能動重量部の移動方向を予測する移動方向予測手段を備え、前記能動重量部が目標位置に近付く方向へ移動することを前記移動方向予測手段が予測した場合に前記能動重量部ブレーキを解除する。
【0009】
本発明の他の車両においては、さらに、前記移動方向予測手段は、前記能動重量部の移動速度及び前記能動重量部に作用する作用力の推定値によって前記移動方向を予測する。
【0010】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記移動方向予測手段は、前記作用力が所定時間だけ作用した後の移動速度を推定して前記移動方向を予測する。
【0011】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記移動方向予測手段は、車体傾斜角及び車両速度によって前記作用力を推定する。
【0012】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記能動重量部の移動速度が所定の閾(しきい)値より高い場合に前記能動重量部ブレーキを作動する。
【0013】
本発明の更に他の車両においては、さらに、所定の周期で断続的に発信する周期信号を取得する周期信号取得手段を更に備え、前記車両制御装置は、前記周期信号取得手段が前記周期信号を取得できないときに前記能動重量部ブレーキの解除を禁止する。
【0014】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、移動許可手段を備え、乗員が前記移動許可手段を操作して、能動重量部ブレーキの解除を許可した場合に前記能動重量部ブレーキを解除する。
【0015】
本発明の更に他の車両においては、さらに、前記車両制御装置は、前記能動重量部を移動させる能動重量部アクチュエータの推力発生が不可能な場合に前記能動重量部ブレーキの制御を実行する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、車体の姿勢が適切な状態に自動的に復帰するようにして、車体傾斜によって乗員に与える不快感や不安感、及び、操縦性の低下を解消することができる。
【0017】
請求項2及び3の構成によれば、能動重量部の移動方向を正確に予測することができる。
【0018】
請求項4の構成によれば、能動重量部に作用する力の大きさを計測しなくても、能動重量部の移動方向を予測することができる。
【0019】
請求項5又は6の構成によれば、能動重量部が高速で移動することによる乗員の不安感、及び、高速移動から急停止した時の衝撃を低減することができる。
【0020】
請求項7の構成によれば、能動重量部が不意に移動することによる乗員の不安感を防止することができる。
【0021】
請求項8の構成によれば、アクチュエータに異常が発生しても、車体の姿勢を適切な状態に自動的に復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の姿勢変化を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるブレーキ制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態におけるブレーキ制御処理の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の姿勢変化を示す概略図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。なお、図1において、(a)は加速走行、(b)はブレーキ作動、(c)はブレーキ解除、(d)は状態復帰を示す。
【0025】
図1において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の本体部11、駆動輪12、支持部13及び乗員15が搭乗する搭乗部14を有し、前記車両10は、車体を前後に傾斜させることができるようになっている。そして、倒立振り子の姿勢制御と同様に車体の姿勢を制御する。図1に示される例において、車両10は右方向に前進し、左方向に後退することができる。
【0026】
前記駆動輪12は、車体の一部である支持部13に対して回転可能に支持され、駆動アクチュエータとしての駆動モータ52によって駆動される。なお、駆動輪12の軸は図1に示す平面に垂直な方向に存在し、駆動輪12はその軸を中心に回転する。また、前記駆動輪12は、単数であっても複数であってもよいが、複数である場合、同軸上に並列に配設される。本実施の形態においては、駆動輪12が2つであるものとして説明する。この場合、各駆動輪12は個別の駆動モータ52によって独立して駆動される。なお、駆動アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、内燃機関等を使用することもできるが、ここでは、電気モータである駆動モータ52を使用するものとして説明する。
【0027】
また、車体の一部である本体部11は、支持部13によって下方から支持され、駆動輪12の上方に位置する。そして、本体部11には、能動重量部として機能する搭乗部14が、車両10の前後方向に本体部11に対して相対的に並進可能となるように、換言すると、車体回転円の接線方向に相対的に移動可能となるように、取り付けられている。
【0028】
ここで、能動重量部は、ある程度の質量を備え、本体部11に対して並進する、すなわち、前後に移動させることによって、車両10の重心位置を能動的に補正するものである。そして、能動重量部は、必ずしも搭乗部14である必要はなく、例えば、バッテリ等の重量のある周辺機器を並進可能に本体部11に対して取り付けた装置であってもよいし、ウェイト、錘(おもり)、バランサ等の専用の重量部材を並進可能に本体部11に対して取り付けた装置であってもよい。また、搭乗部14、重量のある周辺機器、専用の重量部材等を併用するものであってもよい。
【0029】
本実施の形態においては、説明の都合上、乗員15が搭乗する搭乗部14が能動重量部として機能する例について説明するが、搭乗部14には必ずしも乗員15が搭乗している必要はなく、例えば、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、搭乗部14に乗員15が搭乗していなくてもよいし、乗員15に代えて、貨物が積載されていてもよい。前記搭乗部14は、乗用車、バス等の自動車に使用されるシートと同様のものであり、足置き部、座面部、背もたれ部及びヘッドレストを備え、図示されない移動機構を介して本体部11に取り付けられている。
【0030】
また、前記移動機構は、リニアガイド装置等の低抵抗の直線移動機構、及び、能動重量部アクチュエータとしての能動重量部モータ62を備え、該能動重量部モータ62によって搭乗部14を駆動し、本体部11に対して進行方向に前後させるようになっている。なお、能動重量部アクチュエータとしては、例えば、油圧モータ、リニアモータ等を使用することもできるが、ここでは、回転式の電気モータである能動重量部モータ62を使用するものとして説明する。
【0031】
リニアガイド装置は、例えば、本体部11に取り付けられている案内レールと、搭乗部14に取り付けられ、案内レールに沿ってスライドするキャリッジと、案内レールとキャリッジとの間に介在するボール、コロ等の転動体とを備える。そして、案内レールには、その左右側面部に2本の軌道溝が長手方向に沿って直線状に形成されている。また、キャリッジの断面はコ字状に形成され、その対向する2つの側面部内側には、2本の軌道溝が、案内レールの軌道溝と各々対向するように形成されている。転動体は、軌道溝の間に組み込まれており、案内レールとキャリッジとの相対的直線運動に伴って軌道溝内を転動するようになっている。なお、キャリッジには、軌道溝の両端をつなぐ戻し通路が形成されており、転動体は軌道溝及び戻し通路を循環するようになっている。
【0032】
また、リニアガイド装置は、該リニアガイド装置の動きを締結するブレーキ装置としての能動重量部ブレーキ63を備える。該能動重量部ブレーキ63は、電力供給時に開放されるもの、例えば、無励磁作動型の電磁ブレーキであることが望ましい。車両10が停車しているときのように搭乗部14の動作が不要であるときには、能動重量部ブレーキ63によって案内レールにキャリッジを固定することで、本体部11と搭乗部14との相対的位置関係を保持する。そして、動作が必要であるときには、能動重量部ブレーキ63を解除し、本体部11側の基準位置と搭乗部14側の基準位置との距離が所定値となるように制御される。
【0033】
前記搭乗部14の脇(わき)には、目標走行状態取得装置としてのジョイスティック31を備える入力装置30が配設されている。乗員15は、操縦装置であるジョイスティック31を操作することによって、車両10を操縦する、すなわち、車両10の加速、減速、旋回、その場回転、停止、制動等の走行指令を入力するようになっている。なお、乗員15が操作して走行指令を入力することができる装置であれば、ジョイスティック31に代えて他の装置、例えば、ペダル、ハンドル、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を目標走行状態取得装置として使用することもできる。
【0034】
また、前記入力装置30は、移動許可手段としての復帰許可スイッチ32を備える。そして、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可する場合には、復帰許可スイッチ32を操作することによって、許可信号が送信されるようになっている。
【0035】
なお、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック31及び復帰許可スイッチ32に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック31及び復帰許可スイッチ32に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を目標走行状態取得装置として使用することができる。
【0036】
また、車両システムは、図2に示されるように、車両制御装置20を有し、該車両制御装置20は主制御ECU(Electronic Control Unit)21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23を備える。前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、車両10の各部の動作を制御するコンピュータシステムであり、例えば、本体部11に配設されるが、支持部13や搭乗部14に配設されていてもよい。また、前記主制御ECU21、駆動輪制御ECU22及び能動重量部制御ECU23は、それぞれ、別個に構成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。
【0037】
そして、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、駆動輪センサ51及び駆動モータ52とともに、駆動輪12の動作を制御する駆動輪制御システム50の一部として機能する。前記駆動輪センサ51は、レゾルバ、エンコーダ等から成り、駆動輪回転状態計測装置として機能し、駆動輪12の回転状態を示す駆動輪回転角及び/又は回転角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。また、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、該駆動輪制御ECU22は、受信した駆動トルク指令値に相当する入力電圧を駆動モータ52に供給する。そして、該駆動モータ52は、入力電圧に従って駆動輪12に駆動トルクを付与し、これにより、駆動アクチュエータとして機能する。
【0038】
また、主制御ECU21は、能動重量部制御ECU23、能動重量部センサ61、能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63とともに、能動重量部である搭乗部14の動作を制御する能動重量部制御システム60の一部として機能する。前記能動重量部センサ61は、エンコーダ等から成り、能動重量部移動状態計測装置として機能し、搭乗部14の移動状態を示す能動重量部位置及び/又は移動速度を検出し、主制御ECU21に送信する。すると、該主制御ECU21は、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信し、該能動重量部制御ECU23は、受信した能動重量部推力指令値に相当する入力電圧を能動重量部モータ62に供給する。また、主制御ECU21は、作動電圧を能動重量部ブレーキ63に供給する。そして、前記能動重量部モータ62は、入力電圧に従って搭乗部14を並進移動させる推力を搭乗部14に付与し、これにより、能動重量部アクチュエータとして機能する。また、前記能動重量部ブレーキ63は、作動電圧に従って搭乗部14を本体部11に対して移動不能に保持するブレーキ装置として機能する。
【0039】
なお、本実施の形態においては、主制御ECU21から能動重量部ブレーキ63に作動電圧を直接入力しているが、主制御ECU21が能動重量部制御ECU23にブレーキ動作信号を送信し、能動重量部制御ECU23が能動重量部ブレーキ63に作動電圧を与えるようにしてもよい。
【0040】
さらに、主制御ECU21は、駆動輪制御ECU22、能動重量部制御ECU23、車体傾斜センサ41、駆動モータ52、能動重量部モータ62及び能動重量部ブレーキ63とともに、車体の姿勢を制御する車体制御システム40の一部として機能する。前記車体傾斜センサ41は、加速度センサ、ジャイロセンサ等から成り、車体傾斜状態計測装置として機能し、車体の傾斜状態を示す車体傾斜角及び/又は傾斜角速度を検出し、主制御ECU21に送信する。そして、該主制御ECU21は、駆動トルク指令値を駆動輪制御ECU22に送信し、能動重量部推力指令値を能動重量部制御ECU23に送信する。
【0041】
なお、各センサは、複数の状態量を取得するものであってもよい。例えば、車体傾斜センサ41として加速度センサとジャイロセンサとを併用し、両者の計測値から車体傾斜角と車体傾斜角速度とを決定してもよい。
【0042】
また、車両制御装置20は、機能の観点から、能動重量部ブレーキ63を解除した際の搭乗部14の移動方向を予測する移動方向予測手段と、所定の周期で断続的に発信する周期信号を取得する周期信号取得手段を備える。
【0043】
前記車両制御装置20によって姿勢制御が行われることで、車両10は、加速走行時には、図1(a)に示されるように、搭乗部14を前方に移動した状態で加速する。そして、加速走行中に能動重量部モータ62に異常が発生すると、すなわち、アクチュエータ異常が発生すると、能動重量部ブレーキ63を作動させる。すると、加速終了後、車体の倒立姿勢を保つために、図1(b)に示されるように、車体を後方に傾ける。続いて、所定の条件が満たされるとブレーキ解除が行われ、能動重量部ブレーキ63を解除して重力による搭乗部14の後方移動を許可する。すると、図1(c)に示されるように、搭乗部14の後方移動と共に、車体の倒立姿勢を保つために車体を起き上がらせる。そして、図1(d)に示されるように、搭乗部14が基準位置に復帰し、車体姿勢が直立状態に復帰すると、この状態、すなわち、復帰状態で、再度能動重量部ブレーキ63を作動させ、搭乗部14を基準位置で固定する。
【0044】
次に、前記構成の車両10の動作について詳細に説明する。まず、車両制御処理の概要について説明する。
【0045】
図3は本発明の第1の実施の形態における車両制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0046】
車両制御処理において、車両制御装置20は、まず、モータ正常判定を行い、モータが正常であるか否かを判定する(ステップS1)。この場合、能動重量部モータ62が推力を発生可能であるか否かを判定する。具体的には、能動重量部制御ECU23がモータ診断手段を備え、能動重量部モータ62が推力を発生不能、すなわち、異常と診断した場合に所定の信号を主制御ECU21に送信する。すると、該主制御ECU21は、その信号を受信した場合に、モータが正常ではないと判定する。
【0047】
そして、モータが正常であると判定すると、車両制御装置20は、ブレーキ解除を行う(ステップS2)。この場合、能動重量部ブレーキ63を解除して、能動重量部としての搭乗部14を移動可能とする。具体的には、主制御ECU21は、能動重量部ブレーキ63に作動電圧を入力する。
【0048】
続いて、車両制御装置20は、通常走行・姿勢制御処理を実行し(ステップS3)、搭乗部14を適切に移動させながら、車体の姿勢を保持しつつ、乗員15からの走行指令を実現して車両制御処理を終了する。なお、該車両制御処理は、所定の時間間隔(例えば、100〔μs〕毎)で繰り返し実行される。
【0049】
一方、モータが正常であるか否かを判定して異常である場合、車両制御装置20は、ブレーキ制御処理を実行する(ステップS4)。ブレーキ制御処理では、車両10の状態に応じて、能動重量部ブレーキ63を作動又は解除する。
【0050】
続いて、車両制御装置20は、非常走行・姿勢制御処理を実行し(ステップS5)、搭乗部14が固定された状態で、車体の姿勢を保持しつつ、乗員15からの走行指令を実現して車両制御処理を終了する。
【0051】
次に、ブレーキ制御処理について説明する。
【0052】
図4は本発明の第1の実施の形態におけるブレーキ制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0053】
本実施の形態においては、状態量やパラメータを次のような記号によって表す。
θW :駆動輪回転角〔rad〕
θ1 :車体傾斜角(鉛直軸基準)〔rad〕
λS :搭乗部位置(能動重量部位置)〔m〕
g:重力加速度〔m/s2
W :駆動輪接地半径〔m〕
S :搭乗部質量(能動重量部質量:搭載物を含む)〔kg〕

【0054】
続いて、主制御ECU21は、解放時移動速度を予測する(ステップS4−2)。この場合、主制御ECU21は、各状態量から、能動重量部ブレーキ63を解除して搭乗部14を解放した時の搭乗部14の移動速度の推定値を下記の式によって取得する。
【0055】
【数1】

【0056】
上記の式によって得られる推定値は、少し先の未来における搭乗部14の移動速度を推定した値である。なお、Tは進み時間(所定値)である。また、FS は搭乗部14に作用する作用力であり、下記の式によって表される。
【0057】
【数2】

【0058】
作用力FS を表す上記の式の各項は以下の作用に相当する。
第1項:車体が傾くことによる重力の作用
第2項:車両10が加減速することによる慣性力の作用
第3項:車体の回転運動による慣性力の作用
第4項:搭乗部14の移動速度に対する粘性摩擦力の作用
なお、上記式の中の車体傾斜角加速度及び駆動輪回転角加速度の値は、車体傾斜角及び駆動輪回転角の計測値を2階時間微分(差分)することで得られる。また、搭乗部移動速度の値は、搭乗部位置の値を1階時間微分(差分)することで得られる。
【0059】
このように、本実施の形態においては、搭乗部14を解放した場合に予測される搭乗部14の移動速度を求める。つまり、現時点で能動重量部ブレーキ63を解除した場合、又は、解除状態を継続した場合における所定時間後の搭乗部移動速度を予測する。具体的には、搭乗部14に作用している力である作用力に基づいて、解放時移動速度を予測する。例えば、搭乗部14が静止している場合、目標位置に向かう方向に作用力が働いているときには、能動重量部ブレーキ63の解除時に搭乗部14が目標位置へ向けて移動すると予測し、能動重量部ブレーキ63を解除して搭乗部14を解放する。このように、搭乗部14に作用する力を考慮することで、確実に搭乗部14を適切な方向に移動させることができる。
【0060】
また、車体傾斜状態、駆動輪回転状態、及び、搭乗部移動状態に基づいて、作用力を推定する。具体的には、作用力として、車体傾斜に伴う重力の作用、駆動輪回転加速度に伴う慣性力の作用、車体傾斜加速度に伴う慣性力の作用、及び、搭乗部14の移動速度に対する粘性摩擦力を考慮する。これにより、専用のセンサを追加することなく、高精度に作用力すなわち解放時移動速度を予測できる。
【0061】
さらに、現時点での搭乗部14の移動速度に基づいて、解放時移動速度を予測する。例えば、目標位置に向かう搭乗部14の移動速度が所定の値よりも高い場合、作用力の方向に関わらず、能動重量部ブレーキ63を解除状態に維持し、慣性による搭乗部14の移動を継続させる。このように、搭乗部14の慣性を活用することで、より効率的に素早く搭乗部14を目標位置に近付けることができる。
【0062】
さらに、車両速度又は駆動輪回転角速度に基づいて、減速時間を決定する。この場合、車両速度が高いほど、車両10が停止するまでの時間が長く、車体傾斜に及ぼす影響が大きい、すなわち、前方傾斜確率が大きいと判断する。
【0063】
なお、本実施の形態においては、作用力として重力、粘性摩擦力、慣性力等を考慮しているが、その一部を省略してもよい。また、乾性摩擦、モータの逆起電力等の他の要素を考慮してもよい。
【0064】
また、本実施の形態においては、非線形の関数によって作用力を決定しているが、線形近似した簡単な関数によって決定してもよい。また、非線形の関数をマップとして具備し、それを用いて決定してもよい。
【0065】
さらに、本実施の形態においては、作用力の大きさや方向を推定手段によって取得しているが、別の手段によって取得してもよい。例えば、能動重量部ブレーキ63に作用する摩擦力の大きさを計測する力センサを備え、その計測値に基づいて作用力の大きさや方向を決定してもよい。
【0066】
続いて、主制御ECU21は、移動方向判定を行い、方向がOKであるか否かを判定する(ステップS4−3)。すなわち、搭乗部14の予測される移動方向が基準位置へ向かう方向であるか否かを判定する。判定条件、すなわち、適切な方向であると判定する条件は、下記の式によって表される。
【0067】
【数3】

【0068】
なお、搭乗部位置(能動重量部位置)λS の値は、基準位置を零とする。該基準位置は、車体が直立状態にあるときの車両10の重心が、鉛直線及び駆動輪12の回転軸に平行で駆動輪12の接地点を通る平面上に位置するような搭乗部14の位置を表す。
【0069】
本実施の形態における移動方向判定では、予測される能動重量部ブレーキ63の解除時における搭乗部14の移動方向が目標位置へ向かう方向であるか否かを判定する。具体的には、搭乗部14の目標位置に相当する値を零とするとき、実際の搭乗部14の位置と推定された解放時移動速度との積が所定の負の値よりも小さい場合に、適切な方向であると判定する。このように、搭乗部14が適切な方向に移動すると予測される場合にのみ能動重量部ブレーキ63を解除することで、推力を与えるアクチュエータを用いることなく搭乗部14を適切な位置まで移動させることが可能となり、アクチュエータ故障時の車体傾斜による乗員15の不安感や不快感を解消できる。
【0070】
また、搭乗部14を移動させる目標となる位置である目標位置を基準位置とする。そして、搭乗部14が基準位置に向けて移動すると判断される場合に、能動重量部ブレーキ63を解除する。このように、搭乗部14を基準位置とすることで、車両10の停止時に搭乗部14を水平な姿勢に保持することが可能となり、乗員15の不安感や不快感を解消するのと共に、重心移動可能量を前後で同程度とすることで、加速性能と減速性能の一方のみを著しく低下させることを防ぎ、ある程度の操縦性を保障できる。
【0071】
このように、本実施の形態においては、搭乗部14を移動させる目標となる位置を点として与えているが、ある程度の範囲として目標位置を与えてもよい。これにより、目標位置付近での細かいブレーキ制御が不要になり、ブレーキ状態の頻繁な切替に伴う振動の発生を防ぐことができる。
【0072】
また、本実施の形態においては、目標位置を所定の基準位置に設定しているが、目標位置を状況に応じて変化させてもよい。例えば、乗員15や搭載物の重心位置を取得する搭載荷重重心位置取得手段を備え、その値に応じて目標位置を修正してもよい。これにより、搭載荷重の状態に関わらず、搭乗部14を必ず水平に保持することができる。
【0073】
さらに、車両10の走行目標に応じて、目標位置を変化させてもよい。例えば、乗員15によって加速目標が入力された場合には、目標位置を車両10の目標進行方向側に移してもよい。これにより、能動重量部モータ62の故障時においても、正常時に近い加減速性能を達成できる。
【0074】
そして、移動方向判定の結果、搭乗部14の予測される移動方向が基準位置へ向かう方向であり、方向がOKであると判定された場合、主制御ECU21は、移動速度判定を行い、速度がOKであるか否かを判定する(ステップS4−4)。なお、方向がOKでないと判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−7)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0075】
移動速度判定では、搭乗部14の移動速度が許容範囲内であるか否かを判定する。そして、実際の搭乗部14の移動速度の絶対値と予測された解放時移動速度の絶対値が共に所定の閾値以下である場合に、許容範囲内であると判定する。搭乗部14の移動速度が高くなると能動重量部ブレーキ63を作動することで、搭乗部14の移動速度を所定の制限値以下に抑え、速く移動することによる乗員15の不安感、及び、その後の停止時における衝撃に対する乗員15の不快感や倒立姿勢制御への悪影響を軽減する。
【0076】
そして、移動速度判定の結果、搭乗部14の予測される移動速度が許容範囲内であり、速度がOKであると判定された場合、主制御ECU21は、乗員許可判定を行い、許可がOKであるか否かを判定する(ステップS4−5)。なお、速度がOKでないと判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−7)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0077】
乗員許可判定では、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可しているか否かを判定する。主制御ECU21は、復帰許可スイッチ32の操作状態を許可信号受信の有無によって判定し、許可信号を受信した場合には、乗員15は許可していると判定する。これにより、能動重量部ブレーキ63の解除に伴う搭乗部14の不意の動作によって乗員15に不安感を与えることを防ぐと共に、能動重量部モータ62が異常状態にあることを乗員15に認識させることができる。
【0078】
なお、本実施の形態においては、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可しない限り、移動方向予測によるブレーキ制御を実行しないが、特定の条件下では、乗員15の許可状況に関わらずブレーキ制御を実行してもよい。例えば、搭乗部14が目標位置から所定の距離以上離れた位置で固定された場合には、乗員15の許可状況に関わらず、ブレーキ制御を実行してもよい。これにより、搭乗部14を適切な位置に移動させる好機を確実に活かすことができる。
【0079】
そして、乗員許可判定の結果、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可し、許可がOKであると判定された場合、主制御ECU21は、能動重量部ブレーキ63を解除し(ステップS4−6)、ブレーキ制御処理を終了する。なお、許可がOKでないと判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−7)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0080】
ブレーキ制御処理では、3つの条件がすべて適切である場合に限り、能動重量部ブレーキ63を解除する。具体的には、主制御ECU21から能動重量部ブレーキ63に作動電圧を入力する。
【0081】
なお、本実施の形態においては、能動重量部モータ62の異常時に限り、前記ブレーキ制御処理を実行しているが、他の場合で実行してもよい。例えば、バッテリの残量低下により節電を要求された場合にブレーキ制御処理を実行することで、消費電力を低減することができる。
【0082】
このように、本実施の形態においては、能動重量部ブレーキ63を解除した場合に搭乗部14が移動する方向を予測し、その方向が目標位置に近付く方向であるときに能動重量部ブレーキ63を解除する。具体的には、搭乗部14の移動速度と作用力推定値によって移動方向を予測する。この場合、作用力が所定時間だけ作用した後の移動速度を推定して、移動方向を予測する。そして、搭乗部14の停止時において、作用力が目標位置の方向に働くと予測される場合に能動重量部ブレーキ63を解除する。また、搭乗部14の移動時において、目標位置に向かう移動速度が所定の閾値よりも高い場合に能動重量部ブレーキ63を解除する。さらに、車体傾斜角と車両加速度によって作用力を推定する。つまり、重力、摩擦力及び車両10の加減速と車体の傾斜に伴う慣性力の影響を考慮する。
【0083】
また、搭乗部14の移動速度が所定の閾値よりも高い場合には、能動重量部ブレーキ63を作動する。さらに、復帰許可スイッチ32を備え、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可した場合に、能動重量部ブレーキ63を解除する。さらに、搭乗部14を移動させる能動重量部モータ62の推力発生が不可能な場合にブレーキ制御処理を実行する。なお、車体が直立状態にあるときに車両10の重心が駆動輪12の接地点を通る鉛直線上にあるような搭乗部位置を目標位置とする。
【0084】
これにより、能動重量部モータ62の異常に伴い、搭乗部14が中立位置から大きく外れた位置で停止して固定された場合であっても、車体の姿勢が適切な状態に自動的に復帰するようにして、車体傾斜によって乗員15に与えられる不快感や不安感、及び、操縦性の低下を解消することができる。
【0085】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0086】
図5は本発明の第2の実施の形態における車両システムの構成を示すブロック図である。
【0087】
本実施の形態においては、搭乗部14の移動状態の計測値を用いずに、ブレーキ制御処理を実行する。
【0088】
能動重量部モータ62の故障状態によっては、推力の付加と搭乗部位置の取得が同時に不可能となる場合がある。例えば、能動重量部モータ62の電流制御に必要な位相角の取得と搭乗部位置の取得に共通のセンサを用いる場合、そのセンサが故障すると、推力制御と搭乗部位置の取得が同時に不可能になる。このような故障モードに備えて、別のフェイルセーフ手段を用意することが必要であり、安価な車両10の実現が困難になる可能性がある。
【0089】
そこで、本実施の形態においては、能動重量部ブレーキ63の解除継続時間を制限する。具体的には、周期信号取得手段を備え、周期信号出力時に限り、能動重量部ブレーキ63の解除を許可する。また、作用力の方向と異常発生直前の搭乗部位置に基づいて、能動重量部ブレーキ63の状態を制御する。具体的には、作用力の値と異常発生直前の搭乗部位置の値との積が負である場合、能動重量部ブレーキ63を解除する。さらに、基準位置検出手段を備え、搭乗部14が基準位置に到達したとき能動重量部ブレーキ63の解除を禁止する。
【0090】
これにより、搭乗部14の推力付加と移動状態取得の両方が不可能であっても、ブレーキ制御処理の実行が可能となり、より安全で安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0091】
図5に示されるように、本実施の形態においては、能動重量部制御システム60は、基準位置検出手段としての基準位置検出センサ64を備える。該基準位置検出センサ64は、搭乗部14が基準位置に到達したことを検出すると、到達信号を主制御ECU21に送信する。
【0092】
本実施の形態においては、基準位置検出センサ64として、光検出型の近接センサを用いる。具体的には、搭乗部14を含む可動部に遮蔽(へい)板を具備し、固定部である本体部11の搭乗部14の基準位置に相当する位置に発光部と受光部とを具備し、発光部からの光が遮蔽板によって遮られることで受光部が受光できない場合に、到達信号を主制御ECU21に送信する。
【0093】
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0094】
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。ここでは、ブレーキ制御処理について説明する。
【0095】
図6は本発明の第2の実施の形態におけるブレーキ制御処理の動作を示すフローチャートである。

【0096】
続いて、主制御ECU21は、作用力を予測する(ステップS4−12)。この場合、主制御ECU21は、各状態量から、搭乗部14に作用する作用力(搭乗部作用力)FS を下記の式によって取得する。
【0097】
【数4】

【0098】
作用力FS を表す上記の式の各項は以下の作用に相当する。
第1項:車体が傾くことによる重力の作用
第2項:車両10が加減速することによる慣性力の作用
第3項:車体の回転運動による慣性力の作用
なお、上記式の中の車体傾斜角加速度及び駆動輪回転角加速度の値は、車体傾斜角及び駆動輪回転角の計測値を2階時間微分(差分)することで得られる。
【0099】
続いて、主制御ECU21は、移動方向判定を行い、方向がOKであるか否かを判定する(ステップS4−13)。すなわち、搭乗部作用力が基準位置へ向かう方向に作用しているか否かを判定する。判定条件、すなわち、適切な方向であると判定する条件は、下記の式によって表される。
【0100】
【数5】

【0101】
本実施の形態における移動方向判定では、搭乗部14に作用する力が搭乗部14を目標位置へ向かう方向に作用しているか否かを判定する。具体的には、搭乗部14の目標位置に相当する値を零とする場合、モータ異常発生直前の搭乗部位置と推定された作用力との積が所定の負の値よりも小さいときに、適切な方向であると判定する。このように、モータ異常検出直前の搭乗部位置について、その正負によって搭乗部14を移動させるべき方向を判断することにより、モータ異常発生後に搭乗部14の位置が不明であっても、搭乗部14を目標位置に向けて移動させることが可能となり、モータ異常発生時の車体姿勢をある程度適切な状態に復帰させることができる。
【0102】
なお、本実施の形態においては、目標位置である基準位置に基準位置検出センサ64を1つ備えるが、基準位置検出センサ64を複数備え、各取付位置を目標位置の候補として、それらを搭載物重心位置や加減速目標に応じて選択できるようにしてもよい。これにより、選択的な目標位置に搭乗部14を誘導することが可能となる。
【0103】
そして、移動方向判定の結果、搭乗部作用が基準位置へ向かう方向に作用し、方向がOKであると判定された場合、主制御ECU21は、周期信号許可判定を行い、時刻がOKであるか否かを判定する(ステップS4−14)。なお、方向がOKでないと判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−18)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0104】
周期信号許可判定では、能動重量部ブレーキ63の解除が許可されている時刻であるか否かを判定する。判定条件、すなわち、能動重量部ブレーキ63を解除する条件は、下記の式によって表される。
【0105】
【数6】

【0106】
なお、tは時刻、TH は解除許可時間(所定値)、TL は解除禁止時間(所定値)である。
【0107】
周期信号許可判定(解除継続時間制限)では、時刻によって、能動重量部ブレーキ63の解除を禁止する。具体的には、能動重量部ブレーキ63の解除の許可と禁止を周期的に繰り返す。つまり、所定の解除許可時間だけ解除を許可した後、所定の解除禁止時間だけ解除を禁止することを繰り返す。このように、能動重量部ブレーキ63の解除を継続する時間を所定の解除許可時間内に制限することで、搭乗部移動状態を取得できない場合でも、搭乗部14の移動速度が過剰に上昇することを確実に防止できる。
【0108】
なお、本実施の形態においては、他の解除許可条件とは無関係に、周期的な能動重量部ブレーキ63の強制作動を実行しているが、他の条件に適応させてもよい。例えば、移動方向判定で能動重量部ブレーキ63の解除を許可された時点からの時間を時刻として、周期信号許可判定を実行してもよい。これにより、搭乗部14をより効率的に素早く目標位置に誘導できる。
【0109】
そして、周期信号許可判定の結果、能動重量部ブレーキ63の解除が許可され、時刻がOKであると判定された場合、主制御ECU21は、乗員許可判定を行い、許可がOKであるか否かを判定する(ステップS4−15)。なお、時刻がOKでないと判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−18)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0110】
乗員許可判定では、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可しているか否かを判定する。主制御ECU21は、復帰許可スイッチ32の操作状態を許可信号受信の有無によって判断し、許可信号を受信した場合には、乗員15は許可していると判定する。これにより、能動重量部ブレーキ63の解除に伴う搭乗部14の不意の動作によって乗員15に不安感を与えることを防ぐと共に、能動重量部モータ62が異常状態にあることを乗員15に認識させることができる。
【0111】
そして、乗員許可判定の結果、乗員15が能動重量部ブレーキ63の解除を許可し、許可がOKであると判定された場合、主制御ECU21は、基準位置到達判定を行い、未到達であるか否かを判定する(ステップS4−16)。なお、許可がOKでないと判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−18)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0112】
基準位置到達判定では、搭乗部14が既に基準位置に到達しているか否かを判定する。この場合、主制御ECU21は、搭乗部14が基準位置に到達しているか否かを到達信号受信の有無によって判断し、到達信号を受信した場合には、搭乗部14が基準位置に到達していると判定する。これにより、搭乗部移動状態の計測値を取得不可能であっても、搭乗部14を適切な位置で固定できる。
【0113】
なお、本実施の形態においては、搭乗部14を移動させる目標となる位置を点として与えているが、ある程度の範囲として目標位置を与えてもよい。例えば、搭乗部14の基準位置から所定の距離だけ前後離れた2点に基準位置検出センサ64をそれぞれ取り付け、一方の基準位置検出センサ64から到達信号を受信した時点で、搭乗部14が許容範囲内に存在すると判断して、以降のブレーキ解除を禁止してもよい。
【0114】
そして、基準位置到達判定の結果、搭乗部14が未だに基準位置に到達しておらず、未到達であると判定された場合、主制御ECU21は、能動重量部ブレーキ63を解除し(ステップS4−17)、ブレーキ制御処理を終了する。なお、到達していると判定された場合には、能動重量部ブレーキ63を作動し(ステップS4−18)、ブレーキ制御処理を終了する。
【0115】
ブレーキ制御処理では、4つの条件がすべて適切である場合に限り、能動重量部ブレーキ63を解除する。具体的には、主制御ECU21から能動重量部ブレーキ63に作動電圧を入力する。
【0116】
このように、本実施の形態においては、搭乗部14の移動状態の計測値を用いずに、ブレーキ制御処理を実行する。具体的には、作用力の値と異常発生直前の搭乗部位置の値との積が負である場合、能動重量部ブレーキ63を解除する。また、所定の解除時間だけ、能動重量部ブレーキ63の解除を許可する。さらに、搭乗部14が基準位置に到達したとき能動重量部ブレーキ63の解除を禁止する。
【0117】
これにより、搭乗部14の推力付加と移動状態取得の両方が不可能であっても、ブレーキ制御処理の実行が可能となり、より安全で安価な倒立型の車両10を提供することができる。
【0118】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、倒立振り子の姿勢制御を利用した車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0120】
10 車両
12 駆動輪
14 搭乗部
15 乗員
20 車両制御装置
32 復帰許可スイッチ
62 能動重量部モータ
63 能動重量部ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に車体に取り付けられた駆動輪と、
前記車体に対して移動可能に取り付けられた能動重量部と、
該能動重量部を車体に対して固定する能動重量部ブレーキと、
前記駆動輪に与える駆動トルク及び前記能動重量部の位置を制御して前記車体の姿勢を制御する車両制御装置とを有し、
該車両制御装置は、前記能動重量部ブレーキを解除した際の能動重量部の移動方向を予測する移動方向予測手段を備え、前記能動重量部が目標位置に近付く方向へ移動することを前記移動方向予測手段が予測した場合に前記能動重量部ブレーキを解除することを特徴とする車両。
【請求項2】
前記移動方向予測手段は、前記能動重量部の移動速度及び前記能動重量部に作用する作用力の推定値によって前記移動方向を予測する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記移動方向予測手段は、前記作用力が所定時間だけ作用した後の移動速度を推定して前記移動方向を予測する請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記移動方向予測手段は、車体傾斜角及び車両速度によって前記作用力を推定する請求項2又は3に記載の車両。
【請求項5】
前記車両制御装置は、前記能動重量部の移動速度が所定の閾値より高い場合に前記能動重量部ブレーキを作動する請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
所定の周期で断続的に発信する周期信号を取得する周期信号取得手段を更に備え、
前記車両制御装置は、前記周期信号取得手段が前記周期信号を取得できないときに前記能動重量部ブレーキの解除を禁止する請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
前記車両制御装置は、移動許可手段を備え、乗員が前記移動許可手段を操作して、能動重量部ブレーキの解除を許可した場合に前記能動重量部ブレーキを解除する請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両。
【請求項8】
前記車両制御装置は、前記能動重量部を移動させる能動重量部アクチュエータの推力発生が不可能な場合に前記能動重量部ブレーキの制御を実行する請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−239675(P2010−239675A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82024(P2009−82024)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】