説明

車体フレーム部材及びその製造方法

【課題】ハイドロフォーム成形を用いた管状の車体フレーム部材及びその製造方法において、コストアップを抑えた上で断面周長、板厚及び素材を長手方向位置によって異ならせる。
【解決手段】一方の外周形状と他方の内周形状とがほぼ同一である異なるサイズの鋼管11,12を用いて、前記一方の鋼管12内に他方の鋼管11を挿入して部分的に二重管構造部3aを有するワークWを形成し、該ワークWに前記二重管構造部3aを含んでハイドロフォーム成形を施してリヤフレーム3を製造する。リヤフレーム3は、長手方向の異なる部位に、比較的強度剛性の高い二重管構造部3aと、比較的強度剛性の低い一重管構造部3bとをそれぞれ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体フレーム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般的な乗用車等の車両の車体において、パネル部品と骨格部品とを溶接等により一体に接合してなるモノコック構造とし、その軽量及び高剛性化を図ることが多い。このような車体のフレーム部材の内、比較的複雑な形状を有して延びる管状のものは、既存のハイドロフォーム成形(金型にセットした金属管内に液体を充填し、該液体を加圧し前記金属管を膨出させて前記金型の内部形状に倣った形状とする工法)により製造を行うことがある(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特許第3724621号公報
【特許文献2】特許第3833880号公報
【特許文献3】米国特許第5333775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の一般的なハイドロフォーム成形で前記管状の車体フレーム部材を製造する場合、その長手方向位置によって異なる断面形状を比較的自由に形成することが可能であるが、一般的な鋼管を素材として前記車体フレーム部材を製造する場合、前記長手方向のどの位置でもほぼ同一の(一定の)断面周長及び板厚となり、かつ素材も全長に渡って同一となるため、車体フレーム設計に制約が生じるという課題がある。
また、上記点を補う方法として、テーラードチューブ(部位によって板厚や材質を異ならせた鋼板からなるパイプ)やテーパーチューブ(長手方向位置によって断面周長を変化させたパイプ)等を素材とすることも考えられるが、この場合、素材コストひいてはフレーム製造コストを大幅に増加させるという課題がある。
そこでこの発明は、ハイドロフォーム成形を用いた管状の車体フレーム部材及びその製造方法において、コストアップを抑えた上で断面周長、板厚及び素材を長手方向位置によって異ならせることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、一方の外周形状と他方の内周形状とがほぼ同一である異なるサイズの金属管(例えば実施例の鋼管11,12)を用いて、前記一方の金属管内に他方の金属管を挿入して部分的に二重管構造部(例えば実施例の二重管構造部3a)を有するワーク(例えば実施例のワークW)を形成し、該ワークに前記二重管構造部を含んでハイドロフォーム成形を施すことを特徴とする車体フレーム部材の製造方法である。
【0005】
請求項2に記載した発明は、前記二重管構造部を有するワークを形成し、前記二重管構造部を部分的に拡管した後、前記ワークにハイドロフォーム成形を施すことを特徴とする請求項1に記載の車体フレーム部材の製造方法である。
【0006】
請求項3に記載した発明は、ハイドロフォーム成形により長手方向位置によって異なる断面形状を有する管状の車体フレーム部材(例えば実施例のリヤフレーム3)において、前記長手方向の異なる部位に、比較的強度剛性の高い二重管構造部(例えば実施例の二重管構造部3a)と、比較的強度剛性の低い一重管構造部(例えば実施例の一重管構造部3b)とをそれぞれ有し、前記二重管構造部を含んで前記ハイドロフォーム成形が施されることを特徴とする車体フレーム部材である。
【0007】
請求項4に記載した発明は、前記二重管構造部が湾曲状に設けられ、前記一重管構造部が直線状に設けられることを特徴とする請求項3に記載の車体フレーム部材である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1,2に記載した発明によれば、若干のサイズ違いの相似断面形状を有する複数の金属管を用いて、部分的に二重管構造部を有するワークを形成し、該ワークに前記二重管構造部を含めてハイドロフォーム成形を施すことで、テーラードチューブやテーパーチューブ等の高価な特殊素材を用いることなく、比較的安価な素材を用いて断面周長、板厚及び材質を長手方向位置によって異ならせた車体フレーム部材を製造することが可能となる。これにより、車体フレーム部材における長手方向の異なる部位間での強度剛性差を容易に設定することが可能となり、コストアップを抑えた上でフレーム設計自由度を高めることができる。
【0009】
請求項3,4に記載した発明によれば、ハイドロフォーム成形を施した車体フレーム部材において、比較的安価な素材を用いて断面周長、板厚及び材質を長手方向位置によって異ならせることが可能となり、該車体フレーム部材における長手方向の異なる部位間での強度剛性差を容易に設定することが可能となり、コストアップを抑えた上でフレーム設計自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明を乗用車の車体のリヤフレームに適用した例を図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0011】
図1は、一般的な乗用車におけるパネル部品と骨格部品とを溶接等により一体に接合してなるモノコック構造の車体1の後部を示す。車体1のフロア部左右両側には、前後に延びる左右サイドシル2がそれぞれ配設される。左右サイドシル2の後端部の左右内側には、該後端部から左右内側に変位した後に後方へ延びる左右リヤフレーム3の前端部がそれぞれ接合される。左右サイドシル2の後端部間にはミドルクロスメンバ4が渡設され、左右リヤフレーム3の前後中間部間にはリヤクロスメンバ5が渡設される。左右リヤフレーム3の後端部には、これらの間に渡るリヤバンパービーム6が取り付けられる。なお、左右サイドシル2はその左右内側を構成するサイドシルインナ2aのみ実線で示す。また、図中線CSは車体左右中心面を示す。
【0012】
図2を併せて参照し、左右リヤフレーム3は、中空角形の断面形状を有して延びる管状のもの(閉断面構造を有して延在するもの)で、その前部が内外フレーム部材7,8による二重管構造部3aとされると共に、後部が前記内フレーム部材7のみ後方に延出してなる一重管構造部3bとされる(図3(e)参照)。二重管構造部3aは、一重管構造部3bに対して断面外周長が長く、かつ板厚も厚く、さらには複数の部材で構成されることで比較的高い強度剛性を有している。
【0013】
二重管構造部3a(内フレーム部材7の前部及び外フレーム部材8)は、その前端側ほど左右外側を向くように緩やかに湾曲し、かつ前端側ほど断面形状を拡大させるように緩やかなテーパ状に設けられる。二重管構造部3aの前端(リヤフレーム3の前端、内外フレーム部材7,8の前端)は、サイドシルインナ2aの後端部における左右方向と略直交する左右内面に沿ってカットされ、該前端がサイドシルインナ2aの後端部の内側面に接合される。なお、リヤフレーム3の前端にはサイドシルインナ2aとの溶接用のフランジf1が形成され、アーク溶接のみならずスポット溶接も可能としている。また、前記各クロスメンバ4,5の両端にもサイドシルインナ2a及びリヤフレーム3との溶接用のフランジf2,f3が形成され、アーク溶接及びスポット溶接の両方を可能としている。
【0014】
一方、一重管構造部3b(内フレーム部材7の後部)は、ほぼ一定の断面形状を有して前後方向に沿って延びる直線状とされ、その後端は前後方向と略直交する面に沿ってカットされる。なお、一重管構造部3bの後端(リヤフレーム3の後端)には不図示のリヤパネルとの結合用のフランジf4が形成されるが、該フランジf4に代わり別部品を接合するようにしてもよい。
一重管構造部3bにおける角形の断面形状の角部には、直線状の面取り形状c1が形成され、二重管構造部3aの後部における角形の断面形状の角部には、前記面取り形状c1に連なる面取り形状c2が途中で徐変し終端するように形成される。
【0015】
内フレーム部材7の前部は外フレーム部材8内に挿入され、該外フレーム部材8の内周面に内フレーム部材7の外周面が整合するように形成されることで、内外フレーム部材7,8が一体的に結合される。なお、外フレーム部材8の後端は前後方向と略直交する面に沿ってカットされるが、該後端と内フレーム部材7の外周面との接合の有無は問わない。
リヤフレーム3の前部下側にはリヤサスペンションメンバ取り付け用のブラケットb1が接合され、リヤフレーム3の前後中間部上側かつ左右外側には、リヤホイースハウスとの連結部材b2が外フレーム後端の前後に跨るように接合される。
【0016】
ここで、図1,2に示す外フレーム部材8及び各クロスメンバ4,5を除く車体構成部品は、例えばJIS G 3445のSTKM11A等の一般構造用鋼管からなり、外フレーム部材8及び各クロスメンバ4,5は、例えばJIS G 3445のSTKM14B等の高張力鋼管からなる。
これは、リヤフレーム3の後部(外フレーム部材8及び各クロスメンバ4,5に補強されない部位)の強度剛性は比較的下げることで、車両後突時(後面衝突時)にリヤフレーム3の後部を変形し易くして衝撃吸収性を高めると共に、リヤフレーム3の前部(外フレーム部材8及び各クロスメンバ4,5に補強された部位)の強度剛性は比較的上げることで、前記車両後突時における変形が客室空間まで至ることを抑制するためであり、かつリヤフレーム3の前部周りにはリヤサスペンションが支持されることから、該前部周りを高剛性化して後輪支持剛性を高めるためである。
【0017】
次に、前記リヤフレーム3の製造方法について図3を参照して説明する。
まず、内外フレーム部材7,8となる直線状の丸形鋼管11,12を用意する(図3(a)参照)。以下、内フレーム部材7に対応するものを第一鋼管11、外フレーム部材8に対応するものを第二鋼管12とする。
第一鋼管11は第二鋼管12よりも長尺であり、かつ第一鋼管11の外径と第二鋼管12の内径とはほぼ同一とされる。すなわち、第一鋼管11の外径は第二鋼管12の外径からその板厚分だけ差し引いたものとされる。また、各鋼管11,12の材質及び板厚は互いに異なるものとされる。具体的には、第一鋼管11の材質は例えば前記STKM11Aであり板厚は比較的薄くされるのに対し、第二鋼管12の材質は例えば前記STKM14Bであり板厚は比較的厚くされる。
【0018】
次いで、第一鋼管11の一側を第二鋼管12内に挿入し、これらの相対位置をかしめ等により固定して一体のワークWとした後(図3(b)参照)、該ワークWにおける各鋼管11,12が重なり合う部分(前記二重管構造部3aに相当)を拡管加工等により拡管させ、テーパ状の末広がり形状を形成する(図3(c)参照)。
次いで、ワークWの必要箇所にパイプベンダー加工等により曲げを施した後(図3(d)参照)、該ワークWを(必要に応じて潰した後に)ハイドロフォーム金型へセットし、該ワークにハイドロフォーム成形を行い、所望の立体形状に形成する(図3(e)参照)。これにより、各鋼管11,12同士が互いに密着して強固に一体化され、その長手方向の一側が二重管構造部3aとされると共に他側が一重管構造部3bとされた前記リヤフレーム3が構成される。
【0019】
このように製造されたリヤフレーム3は、その長手方向の位置によって異なる断面形状を有すると共に、長手方向の一側及び他側で異なる断面サイズ(断面周長)、板厚及び材質を有しているといえる。
すなわち、リヤフレーム3の長手方向の一側を構成する二重管構造部3aは、リヤフレーム3の長手方向の他側を構成する一重管構造部3bに対して断面サイズが大きく(断面周長が長く)、かつ板厚も厚く、さらには材質の面でも外周に高張力鋼の層を有することから、強度剛性が比較的高い。しかも、リヤフレーム3の支持側(サイドシル2に結合される側)である二重管構造部3aがその先端側(サイドシル2側)ほど断面形状を拡大するように拡管することから、車両後突時の荷重に対する強度剛性や後輪支持剛性も高められる。
【0020】
一方、一重管構造部3bは、二重管構造部3aに対して断面サイズが小さく(断面周長が短く)、かつ板厚も薄く、さらには材質も一般構造用鋼の単層からなることから、強度剛性が比較的低く、車両後突時の変形し易さを確保して衝撃吸収性を高めている。
なお、前述したハイドロフォーム成形とは、金型にセットした鋼管11,12内に液体を充填し、該液体を加圧し前記鋼管11,12を膨出させて前記金型の内部形状に倣った形状とする既存の工法である。
【0021】
以上説明したように、上記実施例における車体フレーム部材(リヤフレーム3)の製造方法は、一方の外周形状と他方の内周形状とがほぼ同一である異なるサイズの鋼管11,12を用いて、前記一方の鋼管12内に他方の鋼管11を挿入して部分的に二重管構造部3aを有するワークWを形成し、前記二重管構造部3aを部分的に拡管した後、前記ワークWに前記二重管構造部3aを含んでハイドロフォーム成形を施すものである。
【0022】
この構成によれば、若干のサイズ違いの相似断面形状を有する複数の鋼管11,12を用いて、部分的に二重管構造部3aを有するワークWを形成し、該ワークWに前記二重管構造部3aを含めてハイドロフォーム成形を施すことで、テーラードチューブやテーパーチューブ等の高価な特殊素材を用いることなく、比較的安価な素材を用いて断面周長、板厚及び材質を長手方向位置によって異ならせたリヤフレーム3を製造することが可能となる。これにより、リヤフレーム3における長手方向の異なる部位間での強度剛性差を容易に設定することが可能となり、コストアップを抑えた上でフレーム設計自由度を高めることができる。
【0023】
また、上記実施例における車体フレーム部材(リヤフレーム3)は、ハイドロフォーム成形により長手方向位置によって異なる断面形状を有する管状のものにおいて、長手方向の異なる部位に、比較的強度剛性の高い湾曲状の二重管構造部3aと、比較的強度剛性の低い直線状の一重管構造部3bとをそれぞれ有し、前記二重管構造部3aを含んで前記ハイドロフォーム成形が施されるものである。
【0024】
この構成によれば、ハイドロフォーム成形を施したリヤフレーム3において、比較的安価な素材を用いて断面周長、板厚及び材質を長手方向位置によって異ならせることが可能となり、前述の製造方法と同様、リヤフレーム3における長手方向の異なる部位間での強度剛性差を容易に設定することが可能となり、コストアップを抑えた上でフレーム設計自由度を高めることができる。
【0025】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば、リヤフレーム3の素材は丸形鋼管に限らず角形等の断面形状を有する金属管であってもよい。すなわち、一方の外周形状と他方の内周形状とがほぼ同一である異なるサイズの金属管を用いればよい。また、前記素材は鋼管に限らず、アルミ管やステンレス管等を適宜用いてもよい。さらに、各金属管の断面周長、板厚及び材質等が適宜同一であってもよい。
また、一重管構造部3b及び二重管構造部3aの位置や数等は適宜変更可能であり、同じく拡管部分の位置や数等も適宜変更可能である。さらに、一重管構造部3bは、一般構造用鋼管の他、ハイテン材等の高強度材を用いてもよい。
そして、上記実施例における構成はこの発明の一例であり、乗用車のリヤフレーム3への適用に限らず、かつ乗用車以外の車両(バス、トラック、自動二輪及び三輪車、原動機付自転車、自転車、四輪バギー車等)にも適用できることはもちろん、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施例における車体後部の主要構成部品の上面図である。
【図2】上記車体後部の主要構成部品の分解斜視図である。
【図3】上記車体のリヤフレームを側面から見て、その製造工程を(a)〜(e)の順に示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 車体
3 リヤフレーム(車体フレーム部材)
3a 二重管構造部
3b 一重管構造部
11,12 鋼管(金属管)
W ワーク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の外周形状と他方の内周形状とがほぼ同一である異なるサイズの金属管を用いて、前記一方の金属管内に他方の金属管を挿入して部分的に二重管構造部を有するワークを形成し、該ワークに前記二重管構造部を含んでハイドロフォーム成形を施すことを特徴とする車体フレーム部材の製造方法。
【請求項2】
前記二重管構造部を有するワークを形成し、前記二重管構造部を部分的に拡管した後、前記ワークにハイドロフォーム成形を施すことを特徴とする請求項1に記載の車体フレーム部材の製造方法。
【請求項3】
ハイドロフォーム成形により長手方向位置によって異なる断面形状を有する管状の車体フレーム部材において、前記長手方向の異なる部位に、比較的強度剛性の高い二重管構造部と、比較的強度剛性の低い一重管構造部とをそれぞれ有し、前記二重管構造部を含んで前記ハイドロフォーム成形が施されることを特徴とする車体フレーム部材。
【請求項4】
前記二重管構造部が湾曲状に設けられ、前記一重管構造部が直線状に設けられることを特徴とする請求項3に記載の車体フレーム部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−154563(P2009−154563A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331696(P2007−331696)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】