説明

車体補強用金属管およびこれを用いた車体補強用部材

本発明の車体補強用金属管および車体補強用部材によれば、全長または部分的に曲がり部を有し、またこの曲がり部の外周側が車体に加わる衝撃方向に略合致するように配置することにより、車体衝突時において、荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーを増加させ、特に変形開始時の負荷特性として荷重立ち上がり勾配を増加させるので、車体補強用として優れたな耐衝撃性を有する。さらに、車体の軽量化とともにコスト低減を図り、益々向上する車体耐衝撃性に対する要求レベルにも対応することができるので、乗員の保護技術として広い分野で適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体衝突時に優れた耐衝撃性を発揮することができると共に、車体の軽量化を図ることができる車体補強用金属管およびこれを用いた車体補強用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界においては、車体に対する安全性の要求が高まり、衝突時に乗員を保護するための技術開発が進められている。これにともない、乗員保護の性能を高めるため、自動車ドアを含めた車体各部の構造見直しが行われ、乗員を有効に保護するための補強用部材の採用が検討されている。
【0003】
図1は、例えば、自動車用ドアに補強用部材をドアインパクトバーとして採用した車体構造を示す図である。このドア1は、ドアインナ2の上部に窓枠3が一体に形成されており、ドアインナ2の車外側にドアアウタ(図示せず)を接合して、自動車用ドアを構成している。さらに、ドア1の前方(図面の左側)は、車体4側に上下のヒンジ5a、5bによって取り付けられる。また、ドアの後方(図面の右側)は、ドアインナ2の中段にドアロック6が設けられる。これらの構成によりドアは開閉自在となり、閉時にはドアロック6で保持される。
【0004】
上記ドアインパクトバー(補強用部材)7は、その両端にドアと接合するためのブラケット8を有している。図1に示す補強用部材の構成では、ブラケット8が前記ヒンジ5およびドアロック6と接合している。このため、上のヒンジ5aを取付けた部分とドアロック6を取付けた部分との間にドアインパクトバー7を装着するとともに、下のヒンジ5bを取付けた部分とドアロック6を取付けた部分との間にドアインパクトバー7を装着する構造になっている。
上記図1に示す補強用部材では、その管端部に車体との接合に用いられるブラケットを設け、ブラケットを車体と接合させる構造であるが、その他の構成として、補強用部材の両端にブラケットを設けることなく、補強用部材の端部と車体とを直接に結合する、いわゆるブラケットレス構造のものも採用される。
【0005】
最近になり、自動車の燃費規制やコストダウンの要求から、自動車車体の軽量化への要求が高まっている。このため、安全性を高めるための補強用部材に対しても、軽量化の促進が強く求められている。このような要求に対し、従来の補強用部材では、高強度の鋼管や鋼板を使用することにより、その軽量化を進める方法が提案されている。
例えば、特許第2811226号公報では、自動車の側面衝突時の運転者の安全性を確保するためのドア補強用鋼管であるドアインパクトバー、またはバンパー用芯材等として、引張強さ120kgf/mm(1180MPa)以上、伸び10%以上の強度を有する車体補強用鋼管が提案されている。これらの鋼管特性によれば、使用条件に対する鋼管形状を選定することにより、車体補強用鋼管として軽量化を図ることができると共に、効果的に衝突エネルギーを吸収できるとしている。
【0006】
また、補強用部材として低強度の鋼管や低強度の鋼板から造管したパイプを用い、焼入れ処理により引張り強さを高めた上で、ドア補強用パイプとして用いる方法も提案されている。例えば、特開平4−280924号公報では、直線状の鉄鋼製パイプを直接通電加熱により加熱すると共に、この鉄鋼製パイプが曲がらないように引張力を加え、冷却水を噴射して焼入れする方法が開示されている。
このように、従来の鋼管を用いた車体補強用部材は、ある程度の高強度化や軽量化を図っているものの、真直管を用いることが前提とされていた。しかし、真直管を用いた従来の補強用部材は、軽量化と、衝突特性の向上に限界が見られるようになっている。
【0007】
図2は、衝突特性を説明するために鋼管の3点曲げ(両端支持)における圧子変位と荷重の関係を示す図である。衝突特性を評価する項目として、変形開始時の負荷荷重の特性を表す荷重立ち上がり勾配、荷重の最高値である最高荷重、および変位に対する荷重の積分値で示される吸収エネルギーが挙げられる。
すなわち、車体補強用部材に要求される耐衝撃性には、補強用部材が外部からの衝突で変形する際に、荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーが大きいこと、特に変形開始時の負荷特性として荷重立ち上がり勾配が大きいことが必要とされる。このため、図2(a)は耐衝撃性に優れた鋼管の変形挙動を示しており、図2(b)は(a)に比べ耐衝撃性が劣る鋼管の変形挙動を示している。
【0008】
従来の真直管を用いた補強用部材では、高強度材を採用することによって、ある程度の最高荷重および吸収エネルギーを確保できるとしても、荷重立ち上がり勾配を確保し、変形開始時の負荷荷重の増大を図ることができず、要求される耐衝撃性に限界がある。
従来から、補強用部材に真直管を用いたことの例外として、特開平4−280924号公報には、曲がり管の製造に関する記載がある。具体的には、直線状の鉄鋼製パイプを直接通電加熱により加熱すると共に、この鉄鋼製パイプが所望の曲がり形状となるように型を押し付けながら冷却水を噴射し焼入れする方法を開示する記載もある。
【0009】
しかしながら、特開平4−280924号公報に記載のドアガードビームは、自動車のデザインの関係でドアに丸みを付けたものが多いことに着目するものであり、そのドアの丸みにパイプを湾曲して沿わせようとするものに過ぎない。したがって、上記の記載は自動車のデザイン性を指向するものであり、特開平4−280924号公報に記載のドアガードビームは真直管を用いた補強用部材の範疇のものでしかない。
さらに、特開平4−280924号公報に記載のドアガードビームは、本発明に関し後述するように、湾曲したパイプを用いて変形開始時の負荷荷重を増大させ、ひいては最大荷重を高め、吸収エネルギーを増大させることを意図するものではない。
【0010】
また、付記すれば、特開平4−280924号公報に記載のドアガードビームでは、曲げ加工法は直線状のパイプを直接通電加熱したのち、型を押し付けながら冷却水を噴射する方法に限定している。このような方法では、パイプの全長全周に亘って、均一に冷却し焼入れることは困難であり、焼きムラが発生するおそれがある。
このため、特開平4−280924号公報に記載の曲げ加工を伴うドアガードビームは、焼きムラの発生に起因して品質が不安定となり、不均一な変形が要因となり寸法精度、形状精度が得られず、製品として使用できないことがある。
【発明の開示】
【0011】
本発明は、従来の真直管を用いた補強用部材に比べ、部材の軽量化を図りつつ、車体衝突時に変形開始時の負荷荷重を増大させると共に、吸収エネルギー特性を改善することができる、耐衝撃性に優れた車体補強用金属管およびこれを用いた車体補強用部材を提供することを目的としている。
【0012】
本発明者らは、前述の課題を達成するため、車体補強用部材の変形挙動を鋭意調査した。通常、曲げ荷重を受ける補強用部材の一般的な評価は、自由支持または両端支持による3点曲げ状態を前提として行われている。
しかしながら、前述の調査結果から、補強用部材の変形挙動は単純な自由支持による3点曲げ状態で評価できるものでなく、補強用部材の軸方向の拘束を考慮すべきであることに着目した。
【0013】
そして、車体補強用部材として用いる金属管は真直管ではなく、曲がり部を有する金属管を用いることで、軸方向の拘束を活用して、優れた耐衝撃性を発揮できることを見出した。以下の説明において、曲がり部を有する金属管を「曲がり管」と称する。
これに対し、自動車補強用部材のうちドアインパクトバーは、前記図1に示すように、必要に応じて両端にブラケットを設け、ヒンジおよびドアブロック部を介し、ドアフレームに接合している。
【0014】
ドアフレームは、その前後方向に拡張する変形が、車体によって拘束される構造であるため、車体側面衝突時に車体前後方向に拡張する変形はし難い。これに対し、ドアフレームが前後方向に収縮する変形は、車体の拘束を受けない。
同様に、ドアインパクトバーはドアフレームによる拘束を受けるため、前後方向に拡張しようとする変形は、ドアフレームによる拘束を強く受けることになる。このため、車体補強用部材の変形は、単に自由支持による3点曲げ状態に基づく解析では評価できない。したがって、車体補強用部材の変形を実体に即して評価できる方法が必要になる。
【0015】
図3は、車体補強用部材に用いられる金属管の変形を解析する装置構成を模式的に示す図であり、同(a)は自由支持の3点曲げによる装置構成を示し、同(b)は両端支持の3点曲げによる装置構成を示している。
図3(a)に示す試験装置では、基礎に固定された支柱11から、リンク12を介して、受け台13が設けられている。曲げ試験材(金属管)7は、供試される車体補強用部材の管端に余長部14を設けた状態で受け台13に載置され、図示しない荷重計と変位計を有する圧子10を試験材7に押しつけて、変形中の荷重、変位を測定する。
図3(b)に示す試験装置では、さらに車体補強用部材の管端を拘束するストッパ15を有するように構成している。このように構成することによって、両端支持による3点曲げの試験装置となり、この試験装置を用いることによって、金属管の変形挙動を実体に即して評価できる。
【0016】
図4は、前記図3(a)に示す試験装置による、試験材として真直管と曲がり管を用いた3点曲げ試験の結果を示す図である。同(a)は圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の変化を示しており、同(b)は、圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の積分値で示される吸収エネルギーの推移を示している。
試験材は外径31.8mm、肉厚1.8mmおよび長さ1000mmの寸法で、引張強度1500MPaとして、曲がり管の曲がり度ηを0.167%(曲率半径5000mm)とした。ただし、曲がり度ηの規定内容は後述する。
【0017】
図4の結果から、圧子の変位が増加するのにともない、圧子に加わる荷重は増大し、最高荷重に達したのち漸減する。圧子の変位途中から荷重が減少に転ずるのは、供試管が偏平、または座屈することによって、荷重を負担できなくなるためである。供試した真直管、曲がり管とも荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーに有意差が認められなかった。
【0018】
図5は、前記図3(b)に示す試験装置による、試験材として真直管と曲がり管を用いた3点曲げ試験の結果を示す図である。同(a)は圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の変化を示しており、同(b)は、圧子の変位(mm)に対する圧子の受ける荷重の積分値に相当する吸収エネルギーの推移を示している。
試験材は外径31.8mm、肉厚1.8mmおよび長さ1000mmの寸法で、引張強度1500MPaとした。曲げ管の曲がり度ηは4.720%、0.167%および0.042%(曲率半径は1000mm、5000mmおよび10000mm)の3種とした。
【0019】
図5に示す結果によれば、真直管が表す変形挙動は、前記図4の場合と同様であり、試験装置による差は見られなかった。これに対し、曲がり管では試験装置によって、変形挙動が明らかに異なっている。すなわち、前記図3(b)に示す試験装置を用いることによって、変形開始時に圧子に生じる荷重が急激に立ち上がり、著しく荷重立ち上がり勾配が増大し最大値を示したのち減少し、その後は真直管と同じ変形挙動を示している。
【0020】
図6は、曲がり管の変形挙動を説明する図である。同(a)は曲がり管7をセットした状態、同(b)は変形の途中で曲がり管7が真直に近くなる状態、同(c)はさらに変形が進んだ状態、および同(d)は逆方向に曲がりが発生した状態をそれぞれ示している。
図6(a)における曲がり管7の管軸上の弧長さはS1であり、同(b)における曲がり管7の管軸上の弧長さはS2であるが、曲がり管7の両管端がストッパ15によって拘束されているため、S1>S2の関係となる。したがって、図6(a)から(b)に至る変形の間、曲がり管7には軸方向の圧縮応力が作用するため、圧子10が曲がり管7を変形させるのに過大な荷重が必要になる。
【0021】
曲がり管7の曲がり度ηが大きいほど、初期変形時の荷重の立ち上がり勾配が大きくなることで、変形開始時の負荷荷重の増大を図ることができる。その結果、吸収エネルギーを増加させることが可能になる。
換言すると、車体補強用部材として曲がり管を採用すれば、変形開始時の荷重を増加させることができ、それにともなって吸収エネルギーも増加でき、耐衝撃性を著しく向上させることができる。
【0022】
さらに、上記曲がり管を用いて車体補強用部材を構成する場合には、曲がり管の両管端の結合部を適正強度にするか、曲がり管の両管端に適正強度のブラッケトを配することが望ましい。すなわち、両管端の軸方向の拘束が不充分な場合には、変形開始時の負荷荷重の増大を図ることができず、吸収エネルギーを増加させることができない場合もある。
【0023】
本発明者らは、上記の知見に加えて、適正な耐座屈強度を確保するには、車体補強用金属管の断面形状を円若しくは楕円、またはこれらに類似する形状にするのが有効であることを明らかにした。さらに、金属管の全長に亘りまたは部分的に曲がり部を形成するには、高周波加熱を用いた逐次加熱、逐次の曲げ加工および逐次の均一冷却の組み合わせが効果的であることを明らかにした。
【0024】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)および(2)の車体補強用金属管、並びに(3)乃至(5)の車体補強用部材を要旨としている。
(1)耐衝撃用として自動車の車体に両端支持の構造で装着される金属管であって、全長に亘り曲がり部を有し、または部分的に曲がり部を有し、
前記金属管の弧長さをS(mm)とし、前記曲がり部の曲げ外周側から曲げ内周側に前記金属管を投影したときの投影長さをL(mm)とし、曲がり度ηを(S−L)/L×100(%)で規定する場合に、曲がり度ηが0.002%以上であり、
前記曲がり部の加工に際し、被加工材である金属管の素管を管軸方向に逐次移動させつつ、前記素管の外周に配置した高周波加熱コイルを用いて、前記金属管を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し、前記加熱部に曲げモーメントを付与して曲がり部を形成した後急冷することを特徴とする車体補強用金属管である。
(2)上記(1)の車体補強用金属管では、さらに、両端支持の3点曲げ試験を行う場合に、真直管との荷重立ち上がり勾配の比が1.25以上に規定することができる。また、断面形状を円若しくは楕円、またはこれらに類似する形状にするのが望ましい。
(3)上記(1)、(2)のいずれかに記載の車体補強用金属管の管端部と車体との結合により前記金属管の曲がり部の外周側が車体に加わる衝撃方向に略合致するように配置されること特徴とする車体補強用部材である。
本発明の車体補強用部材は、衝突時に乗員を保護するために車体各部の構造体に配置される車体補強用金属管から構成され、例えば、ドアインパクトバー、フロントバンパービーム、リアバンパービーム、クロスメンバー、フロントピラーレインフォース、センターピラーレインフォースおよびサイドシル等として適用することができる。
(4)上記(3)の車体補強用部材では、車体補強用金属管の管端部に車体との結合に用いられるブラケットを設けることが望ましい。このとき、ドアインパクトバーとして用いる場合に、前記ブラケットが平型ブラケット、段型ブラケット、またはヒンジ一体型のいずれかとすることができる。
(5)上記(3)、(4)の車体補強用部材では、車体補強用金属管の管端部、または前記ブラケットの耐圧縮強度Fb(kN)が下記(1)式の関係を満足するのが望ましい。ただし、曲がり度ηは上記(1)の規定による。
Fb > 5η0.4 ・・・ (1)
本発明の車体補強用金属管は、単に鋼管に限定されるものではなく、ステンレス管、チタン合金管、アルミニウム合金管、マグネシウム合金管等の各種の管を列挙することができる。
【0025】
上記(1)乃至(5)の構成を採用することにより、本発明の車体補強用金属管および車体補強用部材は、車体衝突時に、従来の真直管を用いた補強用部材に比べ、荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーを増加させ、特に変形開始時の負荷特性として荷重立ち上がり勾配を増加させることによって、車体補強用として優れたな耐衝撃性を有することができる。
これにより、本発明の車体補強用金属管および車体補強用部材は、耐衝撃性を維持しつつ、車体補強用金属管の寸法(外径、肉厚)を減少させ、形状の見直しを行うことによって車体の軽量化とともにコスト低減を図り、益々向上する車体耐衝撃性に対する要求レベルにも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1は、自動車用ドアに補強用部材をドアインパクトバーとして採用した車体構造を示す図である。
図2は、衝突特性を説明するために鋼管の3点曲げ(両端支持)における圧子変位と荷重の関係を示す図である。
図3は、車体補強用部材に用いられる金属管の変形を解析する装置構成を模式的に示す図であり、同(a)は自由支持の3点曲げによる装置構成を示し、同(b)は両端支持の3点曲げによる装置構成を示している。
図4は、前記図3(a)に示す試験装置による、試験材として真直管と曲がり管を用いた3点曲げ試験の結果を示す図である。
図5は、前記図3(b)に示す試験装置による、試験材として真直管と曲がり管を用いた3点曲げ試験の結果を示す図である。
図6は、曲がり管の変形挙動を説明する図であり、同(a)は曲がり管7をセットした状態、同(b)は変形の途中で曲がり管が真直に近くなる状態、同(c)はさらに変形が進んだ状態、および同(d)は逆方向に曲がりが発生した状態を示す。
図7は、本発明の車体補強用金属管が有する曲がり部の形状を規定する曲がり度ηを説明する図である。
図8は、曲がり管の曲がり度ηと荷重立ち上がり勾配との関係を示す図である。
図9は、曲がり管の曲がり度ηを変化させた場合における曲がり管と真直管の最高荷重比の推移を示す図である。
図10は、曲がり管の曲がり度ηを変化させた場合における曲がり管と真直管の吸収エネルギー比の推移を示す図である。
図11は、本発明の車体補強用金属管に適用することができる断面形状を示す図であり、円または楕円の断面形状例を示す。
図12は、本発明の車体補強用金属管に適用することができる断面形状を示す図であり、円または楕円に類似する断面形状例を示す。
図13は、本発明の車体補強用金属管の曲がり部を形成する際に使用する高周波曲げ加工装置の概略構成を示す図である。
図14は、本発明の車体補強用部材が衝突時に乗員を保護するため適用されるバンパービームおよびクロスメンバーの構成を示す図である。
図15は、本発明の車体補強用部材が衝突時に乗員を保護するため適用されるフロントピラーレインフォースおよびセンターピラーレインフォースの構成を示す図である。
図16、本発明の車体補強用部材をブラケットを設けたドアインパクトバーとして用いる場合に適用できるブラケットの構成を説明する図である。
図17は、本発明の車体補強用部材をブラケットレスのドアインパクトバーとして用いる場合の構成を説明する図である。
図18は、前記図3(b)に示す3点曲げ試験装置による、曲がり管の曲がり度ηと管端に発生する最大荷重との関係を示す図である。
図19は、実施例で製作する供試鋼管の目標加工形状を示す図である。
図20は、実施例で採用した冷間曲げ加工方法を説明する図である。
図21は、実施例で採用した全長加熱による全長曲げ加工方法を説明する図である。
図22は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)による硬度分布を測定する位置を示す図である。
図23は、実施例2で採用した残留応力の測定要領を説明する図である。
図24は、実施例で採用した遅れ破壊試験装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明が規定する内容を、車体補強用金属管および車体補強用部材に区分して説明する。
1.車体補強用金属管について
本発明の車体補強用金属管は、耐衝撃用として自動車の車体に両端支持の構造で装着される金属管であって、その全長に亘りまたは部分的に曲がり部を有することを特徴としている。
【0028】
図7は、本発明の車体補強用金属管が有する曲がり部の形状を規定する曲がり度ηを説明する図である。図7(a)は金属管7の全長に亘り一定曲率の曲がり部を有する場合を示し、同(b)、(c)は金属管7の長さ位置に応じて曲率が変化する曲がり部を有する場合を示しており、さらに同(d)は金属管7が部分的に曲がり部を有する場合を示している。
曲がり部における管軸上の弧長さをS(mm)とし、前記曲がり部の曲げ外周側から曲げ内周側に曲がり部を投影したときの投影長さをL(mm)とする場合に、曲がり度ηは下記(2)式で表される。
曲がり度η=(S−L)/L×100(%) ・・・ (2)
【0029】
図8は、曲がり管の曲がり度ηと荷重立ち上がり勾配との関係を示す図である。ここで、荷重立ち上がり勾配とは、前記図2に基づいて説明したように、変形開始時の負荷荷重の特性を示すものである。
図8に示す関係から、荷重立ち上がり勾配は曲がり度ηに大きく依存しており、曲がり管の曲がり度ηが大きくなるほど、著しく増加することが分かる。この特性に基づいて、曲がり管の採用により最高荷重を高め、吸収エネルギーの増大が図れることを説明する。
【0030】
図9は、曲がり管の曲がり度ηを変化させた場合における曲がり管と真直管の最高荷重比の推移を示す図である。ここで示す最高荷重比は、前記図3(b)に示す3点曲げ試験装置による、曲がり管の最高荷重(kN)と真直管の最高荷重(kN)との比で示している。
【0031】
図10は、曲がり管の曲がり度ηを変化させた場合における曲がり管と真直管の吸収エネルギー比の推移を示す図である。ここで示す吸収エネルギー比は、前記図3(b)に示す3点曲げ試験装置を用いて算出した、曲がり管の吸収エネルギー(J)と真直管の吸収エネルギー(J)との比で示している。
図8および図10に示すように、曲がり管の曲がり度ηが大きくなるほど、管端部における拘束による効果が顕著となり、変形開始時の負荷荷重が増大する。これにともなって、吸収エネルギーの増大を図ることができる。具体的には、本発明の車体補強用金属管では、荷重立ち上がり勾配の比とともに、吸収エネルギー比を増加させるために、金属管の曲がり度ηを0.002%以上にするのが望ましい。
【0032】
車体補強用金属管において、効果的に最高荷重、吸収エネルギーを高めるには、後述する断面形状の最適化と同時に、材料特性を適切に選定するのが望ましい。すなわち、材料強度を高めると、最高荷重は増加し、曲げ吸収エネルギーも増加することになる。
そこで、金属管の軽量化も考慮し、工業技術的に安定して確保できる強度として、引張強さ1300MPa以上を選定するのが望ましく、さらに1470MPa級以上を選定するのがより望ましい。また、ドア用車体補強用部材のように大きな塑性変形領域まで使用される場合には、金属管の全伸び量を7%以上とするのが望ましい。
【0033】
(車体補強用金属管の断面形状)
前述の通り、自動車部品等の軽量化をさらに図ることが求められており、そのためには、可能な限り肉厚の薄いものが望ましいが、耐衝撃性を確保するため、所定の曲げ強度と吸収エネルギーを確保するとともに、衝突時に座屈強度が得られるように、曲げ変位に対し偏平変形し難くすることも重要である。
このような観点から、本発明の車体補強用金属管の断面形状は、円若しくは楕円、またはこれらに近似する形状にするのが望ましい。
【0034】
図11および図12は、本発明の車体補強用金属管に適用することができる断面形状を示す図である。図11(a)〜(e)は円または楕円の断面形状例を示す図であり、周方向の座屈に対し安定した形状であり、変形に対して急激な強度低下を生じず、大変形まで使用することができる。
図11(c)は4隅にRを有する矩形形状を、同(d)は小判型形状を示しており、いずれも長径側の2辺に直線部を有することで、曲げ剛性を大きく向上させることができる。
図11(e)は円による断面形状の他の例を示す図であり、車体補強用金属管7を全長に亘りスリット16を有するオープン管で構成している。この場合に、その両端にスリット16を広げて平坦面からなるブラケット部を一体形成することも容易になる。同(e)に示す断面形状の車体補強用金属管を用いれば、管製造に要する溶接工程等が不要となり、コスト低減が図れるとともに、所定の耐衝撃性を確保できる。
【0035】
図12(a)〜(e)は円または楕円に類似する断面形状例を示す図であり、同(a)に示す釣り鐘型形状は、円形状の異形化であり、圧下方向に対して丸管より小さいRを持つ形状とし耐座屈特性を向上させ、その反対側の断面形状を四角形状にすることにより断面係数を増加させ、最高荷重を向上させることができる。
図12(b)は、長径側の2辺に直線部を有すると同時に、荷重を受ける面と対向する辺に直線を有する蒲鉾型形状であり、耐座屈特性を向上させて曲げ剛性を大きく向上させることができる。
図12(c)、(d)は、プレス成形品7a、7bを溶接した閉断面形状であり、所定の耐衝撃性を確保しつつ、長手方向に形状が異なる金属管、または複雑な断面形状の金属管として適用できる。
図12(e)は、複雑な閉断面形状の他の例を示しており、バンパービームやセンターピラーレインホースのように、取付スペースの制約から断面形状が限定される場合に好適である。
【0036】
(車体補強用金属管の逐次加熱、逐次曲げ加工、逐次冷却)
本発明の車体補強用金属管では、曲がり管の形成方法について各種の曲げ加工方法を採用することができ、例えば、プレス曲げ、引張曲げ、圧縮曲げ、ロール曲げ、押し通し曲げおよび偏心プラグ曲げ等を適用することができる。
引張強さが1000MPaを超えるような高強度の金属管を用いる場合があるが、この場合には上記の曲げ加工法を考慮することが重要である。一般には、引張強さ500〜700MPa程度の金属素管を出発材料として曲げ加工を行った後、熱処理によって強度を上げ、高強度の金属管を得ている。
【0037】
ところで、最近の車体の耐衝撃性に対する高度な要求は、曲がり管に対しても真直管と同等の品質レベルを求められる。このため、出発材料を曲げ加工した後、熱処理によって高強度の金属管を得る場合に、前記特開平4−280924号公報で提案されたように、直線状のパイプをほぼ全長全周に亘って直接通電加熱し焼入れする方法を採用した場合には、不均一な歪みの発生による形状のばらつきを防止することが困難である。
【0038】
前述の通り、金属管の軽量化も考慮すれば、引張強さ1300MPa以上を選定するのが望ましく、さらに1470MPa級以上を選定するのがより望ましい。しかしながら、このような高強度の金属管にはあるレベル以上の残留応力があると遅れ破壊により破損するため、車体補強用部材として適用するためには加工後の残留応力が小さいことが不可欠である。前述のような冷間で曲げ加工を行うと、加工による残留応力が発生し、前記特開平4−280924号公報で提案された方法では不均一な冷却により残留応力が発生する。そこで本発明の車体補強用金属管の曲がり部を形成するに際して、高周波加熱コイルを用いて金属管を局部的に加熱しつつ、加熱部を逐次曲げ加工した後、急冷して焼き入れを行い、所定の高強度を確保しつつ残留応力を低減させることとした。
これにより、熱間状態で曲げ加工を行うため残留応力に起因するスプリングバックが生じ難いこと、熱間加工のため塑性変形し易く曲げ加工に大きな荷重が必要でないこと、さらに成形後すぐに急冷して形状凍結することから形状精度に優れ、逐次加熱された断面を逐次均等に冷却することから、焼きムラが生じ難いため、焼きムラに起因する残留応力による変形や、強度バラツキがほとんど発生しない安定した品質を確保することができる。
【0039】
例えば、鋼管を曲げ加工する場合に、高周波加熱コイルにより被加工材である素管を逐次連続的にA変態点以上で、かつ組織が粗粒化しない温度まで加熱をおこない、加熱された領域を治工具を用いて塑性変形させ、その直後に水もしくはその他の冷却液、または気体を素管の外面または内外面から均等に吹き付けることにより、100℃/sec以上の冷却速度を確保する。
このように曲げ加工された鋼管は均一な冷却が行われることから、形状凍結性がよく均一な硬さの鋼管が得られるとともに、大きな残留応力が発生し難く高強度にもかかわらず耐遅れ破壊性にも優れた特性を発揮することができる。このときの材質設計では、例えばTi(チタン)、B(ボロン)のように焼きが入り易い化学成分を含有させることにより、より高強度で硬度分布の均一性や耐遅れ破壊性に優れた鋼管を得ることができる。
【0040】
本発明の曲げ加工では、低強度の金属素管を出発材料として熱間加工を行った後、焼入によって強度を上げ、高強度の金属管を得るだけでなく、焼入れされた高強度の金属素管を再度熱間曲げ加工を行った後、2回焼入することにより組織の細粒化を図り、より耐衝撃性に優れた金属管を得ることができる。
したがって、本発明ではこの逐次加熱、逐次曲げ加工および逐次冷却を採用することによって、車体補強用金属管に曲がり部を形成する場合であっても、車体の耐衝撃性に対する高度な要求を満足することができる。
【0041】
図13は、本発明の車体補強用金属管の曲がり部を形成する際に使用する高周波曲げ加工装置の概略構成を示す図である。同図では先端クランプ方式による装置の構成例を示している。
具体的には、曲がり部を形成すべき金属管7の外周に、環状の誘導加熱コイル21を配置して、金属管7を局部的に塑性変形可能温度に加熱する。次いで、先端クランプ23によって、この加熱部を管軸方向に相対的に移動させながら曲げモーメントを付与し、所定の曲がり度ηを有する曲がり部を逐次形成した後、冷却装置22から冷却水を噴射して焼き入れを行う。誘導加熱前の金属管7はガイドロール24、25によって保持される。
【0042】
このような方法によって、曲がり部が形成された金属管は、優れた形状凍結性および安定した品質を確保できるので、車体の耐衝撃性に対し要求されるレベルにも対応することができる。また、低強度の金属素管を出発材料として曲げ加工を行った場合でも、均一焼入によって強度を上げ、引張強さ1300MPa以上の金属管、さらに1470MPa級以上に相当する金属管を得ることができる。
【0043】
2.車体補強用部材について
本発明の車体補強用部材は、車体補強用金属管の管端部と車体との結合により前記金属管の曲がり部の外周側が車体に加わる衝撃方向に略合致するように配置されることを特徴としている。
また、本発明の車体補強用部材では、車体補強用金属管の管端部に車体との結合に用いられるブラッケトを設けて、このブラケットの結合により前記金属管の曲がり部の外周側が車体に加わる衝撃方向に略合致するように配置してもよい。すなわち、車体補強用金属管を車体と結合するに際し、ブラケットを設ける構造でもよく、またブラケットレスの構造であってもよい。
【0044】
前述の通り、本発明の車体補強用部材は、衝突時に乗員を保護するために、例えば、前記図1に示すドアインパクトバーの他にも、バンパービーム(図14(a))、クロスメンバー補強用部材(図14(b))、フロントピラーレインフォース(図15(a))、センターピラーレインフォース(図15(b))およびサイドシル等として適用することができる。
【0045】
本発明の車体補強用部材は、真直管のように全方位性でないため、ドア等の車体への装着に際しては、曲がり部の特性を最大限に発揮できるように、方向性を持たせる必要がある。例えば、ドアインパクトバーとして用いる場合には、金属管の曲がり部の外周側、すなわち、曲がり方向がドア側面方向と略合致するように配置するのが望ましい。
また、自動車ドアの曲率は車体前後方向には小さく、車体上下方向に大きな曲率で構成されている。そこで、金属管の曲がり度ηが比較的大きい場合に、ドア前後方向に沿って補強用部材を配置すると、空間に無駄が生じることとなる。このような場合には、補強用部材を斜めに配置するようにし、極力、補強用部材をドアの曲面に沿わせて、ドア内部の空間を有効に利用する。
【0046】
図16は、本発明の車体補強用部材をブラケットに設けたドアインパクトバーとして用いる場合に適用できるブラケットの構成を説明する図である。同(a)は平型ブラケットの構成を示しており、ドアアウタ17とドアインナ18との間にブラケット8が入る構造であり、補強用部材7はスポット溶接等でブラケット8に支持される。
同(b)は段型ブラケットの構成を示しており、ドアインナ18に足の付いたブラケット8が溶接される構造である。
同(c)はヒンジ一体型の構成を示しており、ドアインナ18にヒンジ取付ナット5aと一体に形成されたブラケット8が溶接される構造である。
【0047】
図17は、本発明の車体補強用部材をブラケットレスのドアインパクトバーとして用いる場合の構成を説明する図である。同(a)は補強用部材7がドアインナ18にスポット溶接等で支持される構成を示す。同(b)は補強用部材7がドアインナ18にボルトナット19の締結で支持される構成を示す。また、同(c)は補強用部材7の管端がドアインナ18にスタッド溶接で支持される構成を示す。
同(d)は金属管の管端部を一体に形成した車体補強部材の構成を示している。例えば、前記図11(e)に示す全長に亘りスリット16を有する金属管7と組み合わせて、その管端部を一体形成することにより、耐衝撃性を確保しつつ、溶接作業の省略や製造コストの低減を図ることができる。一体形成された管端部を上記(a)または(b)に示すように、ドアインナ18にスポット溶接等、またはボルトナット19の締結で支持するようにすればよい。
【0048】
本発明の車体補強用部材は、車体補強用金属管の両端部に車体との連結に用いられる管端部、またはブラッケトが設けられているため、前記図6に示すように、曲がり管が真直になる際に発生する圧縮荷重を、両端の管端部、またはブラケットが支える。したがって、車体補強用金属管の管端部、またはブラケットが圧縮荷重を保持することが、曲がり管による曲げ荷重特性を向上させるために重要である。
【0049】
図18は、前記図3(b)に示す3点曲げ試験装置による、曲がり管の曲がり度ηと管端に発生する最大荷重との関係を示す図である。同図に示すように、曲がり管の曲がり度ηが大きくなるほど、管端に発生する最大荷重Fsも増加し、下記(1’)式の関係が得られる。
Fs = 5η0.4 ・・・ (1’)
前述の通り、車体補強用金属管の管端部、またはブラケットは、この最大荷重Fsを保持する必要がある。したがって、この管端部、またはブラケットは、圧縮応力で座屈や塑性変形、折れ曲がりを生じさせないために、下記(1)式に示す耐圧縮強度Fb(kN)を満足するのが望ましい。
Fb > 5η0.4 ・・・ (1)
なお、上記(1)式で示す耐圧縮強度Fb(kN)は、管端部、またはブラケットが圧縮応力に対して座屈および塑性変形を生じない強度、または溶接部等での破損を生じさせない強度を意味している。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
本発明の車体補強用金属管の効果を確認するため、出発材料として代表成分組成が0.22%C−1.20%Mn−0.20%Cr−0.02%Ti−0.0015%Bからなる低強度(YP:450MPa、TS:555MPa、EL:23%)の素管を使用し、表1に示す外径、肉厚、長さおよび曲がり度を有し、曲げ加工後の強度が1470MPa級となる供試鋼管を製作した。供試鋼管の主な組織は、マルテンサイトおよびベイナイトであった。
【0051】
鋼管の曲げ加工に際しては、950℃に高周波加熱し、熱間で逐次曲げ加工ののち、水冷により冷却速度300℃/secで逐次急冷を施した。製作した曲がり管の曲がり度ηは0.0017%〜4.720%の範囲で変動させ、いずれも引張強さは1500MPaを超えるものであった。曲がり管と同等の引張強さ1500MPaを超える真直管も準備した。
準備した曲がり管および真直管の供試管を用いて、前記図3(b)に示す3点支持曲げ試験機にてスパンを1000mmとして曲げ試験を行って、荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーを測定した。荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーでの真直管と曲がり管との比を表1に示した。
表1中の形態Aは図7(a)〜(b)に示す全体にわたる曲がり部を有する曲がり管、形態Bは図7(d)に示す部分的に曲がりを有する曲がり管、形態Cは比較例である真直管である。
【0052】
表1に示す通り、曲がり度ηが0.002%以上の条件では真直管との荷重立ち上がり勾配の比が1.25以上となり、いずれの場合も真直管に比べ荷重立ち上がり勾配が顕著に向上し、耐衝撃性に望ましい特性が得られることが分かる。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例2)
本発明の車体補強用金属管を曲げ加工した場合における諸特性、すなわち、引張強度、組織、硬度分布、形状凍結性、へん平度、残留応力および耐遅れ破壊性について詳細な調査を実施した。出発材料として外径が31.8mm、肉厚が2.3mmであり、成分組成が0.22%C−1.20%Mn−0.20%Cr−0.02%Ti−0.0015%Bであり、強度レベルを変動させた素管を準備した。準備した素管に曲げ加工を施し、供試鋼管を作製して、諸特性の調査を行った。素管の強度レベル、曲げ加工条件並びに供試鋼管の強度レベルおよび組織を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
(1)曲げ加工条件および供試鋼管の強度レベル等
表2に示すように、曲げ加工条件は逐次加熱による逐次曲げ、冷間曲げ、および全長加熱による全長曲げの3種類とし、特性調査に供する供試鋼管を作製した。供試鋼管7の目標加工形状は図19に示す通りとし、全長を1000mmとし、目標隙間(曲がり量)Hを20mm(曲がり度η:0.107%)とした。詳細な曲げ加工条件を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
まず、試験No.10〜12の逐次加熱による逐次曲げでは、素管の送り速度を15mm/secとし、980℃に高周波加熱した部位を逐次曲げ加工ののち冷却した、冷却方法は水冷による冷却温度20℃まで急冷と、自然冷却による除冷とを用いた。
図20は、実施例2で採用した冷間曲げ加工方法を説明する図である。同図に示すように、試験No.13、14では素管は常温のままで、両管端をチャック27で保持しながら、曲げ治具26に押し付けて管軸方向に引張曲げを行った。
図21は、実施例2で採用した全長加熱による全長曲げ加工方法を説明する図である。同図に示すように、試験No.15〜17では素管の両端に直接通電の接続端子28を接触させ素管全長に亘り加熱し、その後曲げ治具29によりプレス曲げを実施した後、急冷する場合は曲げ治具26と反対側に設けた冷却ノズル29から冷却水を鋼管7外面に噴射させ、除冷する場合は自然冷却とした。
【0059】
曲げ加工後の供試鋼管の引張試験結果および顕微鏡による組織観察結果を前記表2に示すが、引張試験はJIS
Z 2201の11号試験片を用いて、JIS Z 2241に規定する方法で実施し、顕微鏡による組織観察はナイタルエッチした管周方向断面を500倍で観察した。
前記表2に示す結果によれば、試験No.10、11の本発明例では、マルテンサイトおよびベイナイトを主体とする組織が得られ、1470MPa級の強度を確保することができたが、試験No.12の比較例では、逐次加熱による逐次曲げの後自然冷却による除冷としたため、フェライトおよびパーライトからなる組織が主体となり、素管の強度レベルを超えることができなかった。
【0060】
(2)供試鋼管による硬度分布、形状凍結性、へん平度および残留応力の測定
表4にビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)による硬度分布の測定結果を示す。測定時の試験荷重を1kgとし、図22に示すように、測定位置を管周方向の45度ピッチの8方向で、1方向で5箇所測定し、供試鋼管当たり40箇所とした。このときのHv硬度差が30未満の場合に、硬度均一性は良好と評価した。
【0061】
【表4】

【0062】
表5に形状凍結性の測定結果を示す。前記図19に示す目標加工形状の供試鋼管を定盤上に配置し、中央部の隙間Hをノギスで測定して、最大隙間と最小隙間の変動量を測定した。隙間差が1.5mm以下の場合に、形状凍結性は良好と評価した。
【0063】
【表5】

【0064】
表6にへん平度の測定結果を示す。供試鋼管の外径を円周4方向で測定し、最大値と最小値の比を比較した。最大外径径と最小外径径の比が99.0%以上の場合に、へん平度は良好と評価した。
【0065】
【表6】

【0066】
図23は、実施例2で採用した残留応力の測定要領を説明する図である。供試鋼管7の周方向の90°ピッチの外面4箇所に歪みゲージ30を貼付したのち、歪みゲージ30貼付領域を10mm×10mm角に切り出し、歪み差を計測して残留応力を測定した。表7に最大残留応力値を示す。
【0067】
【表7】

【0068】
(3)耐遅れ破壊性の評価
図24は、実施例2で採用した遅れ破壊試験装置の構成を説明する図である。供試鋼管7は0.5%酢酸+人工海水液に浸漬され、両端をスパン距離800mmで固定治具31に保持され、中央部に設けた引張治具32によって曲げ負荷応力400MPaの状態で1000Hr保持された後、目視により供試鋼管7に生じる亀裂の有無を確認した。
表8に耐遅れ破壊性の評価結果を示すが、上記の遅れ破壊試験後、目視により亀裂が確認できない場合を良好と評価した。
【0069】
【表8】

【0070】
(4)総合評価
試験No.10、11の本発明例では、逐次加熱による逐次曲げ後の急冷により、出発材料を低強度素管とした場合でも強度レベルは1470MPa級の引張強度を十分に満足することができた。さらに、本発明例では形状凍結性に優れるとともに、全長全断面位置における硬度均一性およびへん平度が良好であり、残留応力も軽減できることから耐遅れ破壊性は著しく良好な結果が得られた。
【0071】
これに対し、試験No.12の比較例では、逐次加熱による逐次曲げを採用したことから、硬度均一性、形状凍結性、および遅れ破壊特性は良好な評価であったが、冷却が除冷であったため十分な強度レベルを得ることができなかった。
試験No.13の比較例は、低強度の素管を冷間曲げ加工したために、若干の加工硬化による強度上昇しか認められず、冷間加工によりスプリングバックが発生し、形状凍結性およびへん平度は不良であった。
【0072】
試験No.14の比較例は、高強度の素管を冷間曲げ加工したことから、若干の加工硬化にも拘わらず高強度を確保できたが、形状凍結性は不良であり、さらに大きな残留応力が発生し耐遅れ破壊性も不良であった。
試験No.15〜17の比較例は、全長加熱による全長曲げ加工であるため曲げ形状にバラツキが大きく、形状凍結性は不良であった。試験No.15、17の比較例はいずれも高強度が得られたが、素管全体を一度に冷却する方法であるため、焼入が不均一であり硬度均一性は不良であった。また、硬度のバラツキに起因して残留応力も大きくなり、遅れ破壊特性は不良であった。試験No.16の比較例は、冷却が除冷であったため十分な強度が得られなかった。
【0073】
(実施例3)
本発明の車体補強用金属管を用いた場合における薄肉化の効果を確認するため、出発材料として代表成分組成が0.22%C−1.20%Mn−0.20%Cr−0.02%Ti−0.0015%Bからなる低強度(YP:450MPa、TS:555MPa、EL:23%)の素管を用いて、実施例1と同じ条件で、高周波加熱し、熱間で逐次曲げ加工ののち、逐次急冷を施し、表9に示す外径、肉厚、長さおよび曲がり度を有する1470MPa級の供試鋼管を製作した。製作した供試鋼管の曲がり度ηは0.262%であり、引張強さは1500MPa超えであり、主な組織はマルテンサイトおよびベイナイトであった。
【0074】
比較例として、表9に示す外径、肉厚、長さ寸法で、引張強さは1500MPa超えの真直管を準備し、本発明例とともに、前記図3(b)に示す3点支持曲げ試験機にてスパンを1000mmとして曲げ試験を行って、荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーを測定した。荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーでの真直管(比較例)と曲がり管(本発明例)との比を表9に示した。
表9の結果から、本発明例の曲がり管を用いることによって、真直管に比べ、薄肉化に拘わらず、荷重立ち上がり勾配の増加が図れ、優れた耐衝撃性が確保できることが分かる。
【0075】
【表9】

【産業上の利用の可能性】
【0076】
本発明の車体補強用金属管および車体補強用部材は、全長または部分的に曲がり部を有し、またこの曲がり部の外周側が車体に加わる衝撃方向に略合致するように配置することにより、車体衝突時において、従来の真直管を用いた補強用部材に比べ、荷重立ち上がり勾配、最高荷重および吸収エネルギーを増加させ、特に変形開始時の負荷特性として荷重立ち上がり勾配を増加させることによって、車体補強用として優れたな耐衝撃性を有する。さらに、車体の軽量化とともにコスト低減を図り、益々向上する車体耐衝撃性に対する要求レベルにも対応することができるので、乗員の保護技術として広い分野で適用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝撃用として自動車の車体に両端支持の構造で装着される金属管であって、全長に亘り曲がり部を有し、
前記金属管の弧長さをS(mm)とし、前記曲がり部の曲げ外周側から曲げ内周側に前記金属管を投影したときの投影長さをL(mm)とし、曲がり度ηを(S−L)/L×100(%)で規定する場合に、曲がり度ηが0.002%以上であり、
前記曲がり部の加工に際し、被加工材である金属管の素管を管軸方向に逐次移動させつつ、前記素管の外周に配置した高周波加熱コイルを用いて、前記金属管を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し、前記加熱部に曲げモーメントを付与して曲がり部を形成した後急冷することを特徴とする車体補強用金属管。
【請求項2】
耐衝撃用として自動車の車体に両端支持の構造で装着される金属管であって、部分的に曲がり部を有し、
前記金属管の弧長さをS(mm)とし、前記曲がり部の曲げ外周側から曲げ内周側に前記金属管を投影したときの投影長さをL(mm)とし、曲がり度ηを(S−L)/L×100(%)で規定する場合に、曲がり度ηが0.002%以上であり、
前記曲がり部の加工に際し、被加工材である金属管の素管を管軸方向に逐次移動させつつ、前記素管の外周に配置した高周波加熱コイルを用いて、前記金属管を局部的に塑性変形が可能な温度域でかつ焼入が可能な温度域に加熱し、前記加熱部に曲げモーメントを付与して曲がり部を形成した後急冷することを特徴とする車体補強用金属管。
【請求項3】
さらに、両端支持の3点曲げ試験を行う場合に、真直管との荷重立ち上がり勾配の比が1.25以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の車体補強用金属管。
【請求項4】
前記金属管の断面形状が円若しくは楕円、またはこれらに類似する形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車体補強用金属管。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の車体補強用金属管の管端部と車体との結合により前記金属管の曲がり部の外周側が車体に加わる衝撃方向に略合致するように配置されること特徴とする車体補強用部材。
【請求項6】
前記補強用部材がドアインパクトバー、フロントバンパービーム、リアバンパービーム、クロスメンバー、フロントピラーレインフォース、センターピラーレインフォースおよびサイドシルに適用されることを特徴とする請求項5に記載の車体補強用部材。
【請求項7】
前記車体補強用金属管の管端部の耐圧縮強度Fb(kN)が下記(1)式の関係を満足することを特徴とする請求項5または6に記載の車体補強用部材。
Fb > 5η0.4 ・・・ (1)
ただし、η=(S−L)/L×100(%)
S:曲がり部における管軸上の弧長さ(mm)
L:曲げ外周側から曲げ内周側に曲がり部を投影したときの投影長さ(mm)
【請求項8】
前記車体補強用金属管の管端部に車体との結合に用いられるブラケットが設けられていることを特徴とする請求項5に記載の車体補強用部材。
【請求項9】
ドアインパクトバーとして用いる場合に、前記ブラケットが平型ブラケット、段型ブラケット、またはヒンジ一体型のいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の車体補強用部材。
【請求項10】
前記ブラケットの耐圧縮強度Fb(kN)が下記(1)式の関係を満足することを特徴とする請求項8または9に記載の車体補強用部材。
Fb > 5η0.4 ・・・ (1)
ただし、η=(S−L)/L×100(%)
S:曲がり部における管軸上の弧長さ(mm)
L:曲げ外周側から曲げ内周側に曲がり部を投影したときの投影長さ(mm)

【国際公開番号】WO2005/058624
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516345(P2005−516345)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018835
【国際出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(306019122)株式会社エイチワン (10)
【出願人】(000229612)住友鋼管株式会社 (26)
【Fターム(参考)】