説明

車輪情報取得装置および車両制御装置

【課題】車輪に作用する加速度情報から得られる情報を精度よく取得可能とする。
【解決手段】車輪側装置は、車輪14の加速度を検出する加速度センサ68と、その加速度センサ68による検出情報を含む車輪情報を送信可能なTPMS送信機とを収容したケース62を有し、そのケース62が車輪14を構成するタイヤ30とホイール50との間に形成された内部空間Sに配置される。車体側装置は、TPMS送信機から送信された車輪情報を受信する受信部と、車輪14の回転に伴う遠心力によるケース62の変位量を推定する変位量推定部と、受信された車輪情報に含まれる加速度情報から得られる横力をケース62の変位量に基づいて補正する補正部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に関連する情報を取得するための車輪情報取得装置、およびその情報を用いて車両制御を行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各車輪の空気圧や加速度等の車輪の状態を検出する車輪側装置と、各車輪側装置から送信された車輪情報を取得してその状態を監視したり、その車輪情報を用いた車両制御を行う車体側装置を備えたシステムが知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
このようなシステムでは、車輪側装置に設けられたセンサにより各車輪のタイヤ内の空気圧や車輪に作用する加速度等が検出され、その車輪情報が送信機を介して車体側装置へ無線にて送信される。車体側装置は、車輪側装置から送信された車輪情報を受信し、その車輪情報から得られる空気圧が予め設定された基準圧力よりも低い場合に、運転者に対して所定の警告情報を表示させたりする。また、車体側装置は、車輪情報から得られる遠心力方向の加速度や横方向加速度を用いて車両の制御特性を変更したりする。このように車輪から直接得た情報を用いることにより、車両の制御特性がより的確に変更できるとされている。
【特許文献1】特開2003−237337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このシステムの車輪側装置は一般に、そのケースの内部に空気圧センサや加速度センサ等の各種センサや、それらの検出信号を無線送信する送信機等を収容して構成され、タイヤとホイールとの間に形成された内部空間に配置される。ところが、車両の走行中には車輪の回転による遠心力が発生するため、車速がある程度高くなると、そのケースがホイールによる支持点を中心に回動したり、変形したりする可能性がある。そうなると、ケース内に設置された加速度センサが設定位置から傾き、検出される加速度の方向が設定値からずれてしまう。その結果、高精度な加速度情報が得られず、その加速度を利用した車両制御にも影響を与える可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、車輪に作用する加速度情報から得られる情報を精度よく取得可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車輪情報取得装置は、車両の車輪に関連する情報を取得する。この車輪情報取得装置は、車輪の加速度を検出する加速度センサと、その加速度センサによる検出情報を含む車輪情報を送信可能な送信部と、加速度センサを支持する支持部材とを有し、その支持部材が車輪を構成するタイヤとホイールとの間に形成された内部空間に配置された車輪側装置と、送信部から送信された車輪情報を受信する受信部と、車輪の回転に伴う遠心力による支持部材の変位量を推定する変位量推定部と、受信された車輪情報に含まれる加速度情報から得られる情報を支持部材の変位量に基づいて補正する補正部とを有する車体側装置と、を備える。
【0007】
ここで、「加速度情報から得られる情報」は、その車輪の加速度そのものであってもよいし、その加速度から算出される情報であってもよい。後者については、たとえば車輪の幅方向に作用する横力や、半径方向に作用する遠心力などを含み得る。
【0008】
この態様では、車輪の回転に伴う遠心力によって車輪側装置の支持部材が変形等によって変位すると、支持部材内の加速度センサの設置方向も変化する。その結果、加速度センサにより検出される加速度の方向も設定方向からずれてしまうことになる。しかし、この態様によれば、車輪に加わる遠心力による支持部材の変位量が推定され、その変位量に基づいて加速度情報から得られる情報が補正される。このため、車体側装置においては、その加速度情報から得られる情報を精度よく取得することができる。
【0009】
具体的には、支持部材は、上記内部空間に延出するように、その基端部を支点としてホイールに片持ち状に固定されていてもよい。変位量推定部は、車輪の回転に伴って検出される物理量と支持部材の変位量である傾き角との関係を表す変位量算出テーブルを有し、実際に検出された物理量に対応した傾き角を取得してもよい。そして、補正部が、取得された傾き角を用いて加速度情報から得られる情報の補正を行うようにしてもよい。
ここで、「車輪の回転に伴って検出される物理量」は、車輪側装置の加速度センサにより検出される加速度そのものであってもよい。この加速度は遠心力に比例するため、支持部材の傾き角と一定の関係が成立するからである。あるいは、車輪の回転速度を検出する車輪速センサが設けられている場合には、その車輪速センサにより検出された車輪速であってもよい。車輪速が大きくなると遠心力も大きくなるため、車輪速と支持部材の変位量との間には一定の関係が成立するからである。
【0010】
この態様では、支持部材がホイールに片持ち状に固定されているので、遠心力によりその支持部材が撓んだり、その支持点を中心に回動して傾き易くなる。しかし、この態様によれば、検出された物理量に基づいて変位量算出テーブルが参照されてその支持部材の傾き角が取得され、その傾き角を用いて加速度情報から得られる情報が補正される。その結果、加速度情報から得られる情報が精度よく取得される。
【0011】
本発明の別の態様は、各車輪の車輪情報に基づいて車両の走行状態を制御する車両制御装置である。この車両制御装置は、各車輪に設けられ、その車輪の加速度を検出する加速度センサと、その加速度センサによる検出情報を含む車輪情報を送信可能な送信部と、加速度センサを支持する支持部材とを有し、その支持部材が対応する車輪のタイヤとホイールとの間の空間に配置された車輪側装置と、各送信部から送信された車輪情報を受信する受信部と、受信部にて受信された車輪情報に含まれる加速度情報に基づいて、各車輪に作用する横力を取得する横力取得部と、各車輪の回転に伴う遠心力による各支持部材の変位量を推定する変位量推定部と、推定された支持部材の変位量に基づいて横力を補正する補正部と、補正された横力に基づいて所定の車両制御を行う制御部とを有する車体側装置と、を備える。
【0012】
ここでいう「車両制御」は、各車輪に作用する横力を用いて実行される制御を意味し、たとえば後述する統合制御、ABS制御、車両安定化制御(VSC)等を含み得る。
【0013】
この態様によれば、各車輪に加わる遠心力による支持部材の変位量が推定され、その変位量に基づいて各車輪に作用する横力が補正される。このため、車体側装置においては、各車輪の横力を精度よく取得することができ、その横力を用いて実行される車両制御を適切に実行することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車輪に負荷される加速度情報から得られる情報を精度よく取得することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る車輪状態取得装置を備えた車両を示す概略構成図である。図2は、図1の車両に備えられた車輪の部分断面図である。
図1に示すように、車両10の車体12には、右前輪14a、左前輪14b、右後輪14cおよび左後輪14dの4つの車輪(これらを総称して「車輪14」という)が回転可能に支持されている。車体12には、図示しないが、駆動輪の駆動源となるエンジン、駆動力を所定の変速比で伝達するトランスミッション、各車輪を操舵するステアリング装置、各車輪に制動力を付与するブレーキ装置、およびこれらを制御する電子制御装置(以下「ECU」と表記する)などが搭載されている。
【0017】
各車輪14は、タイヤとホイールを含み、そのタイヤの空気圧調整用のバルブとして機能するTPMSバルブ16を内蔵している。本実施の形態においては、このTPMSバルブ16が「車輪側装置」を構成する。
【0018】
一方、車体12には、各車輪14のTPMSバルブ16から送信された車輪情報を受信する後述する通信機22と、受信された車輪情報に基づいて各車輪14の状態を監視するECU20が設けられている。
【0019】
図2に示すように、各車輪14に含まれるタイヤ30は、いわゆるランフラットタイヤであり、空気圧の低下時にランフラット走行を可能とするものである。タイヤ30は、ビードコア32が埋設された一対のビード部34と、ビード部34からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部36と、両サイドウォール部36間に延在するトレッド部38とを含む。一対のビード部34、一対のサイドウォール部36およびトレッド部38には、たとえば1枚の繊維材からなるカーカス40が埋設されており、トレッド部38には、カーカス40の外側に位置するようにベルト層42が埋設されている。そして、各サイドウォール部36には、インナーライナ44の内側に位置するように補強ゴム46が埋設されている。この補強ゴム46は、高い剛性を有し、ホイール50とタイヤ30とにより画成されるタイヤ30内の空気圧がパンク等により低下した際に、タイヤ30の全体をホイール50に対して支持し、それによってランフラット走行を可能とする。
【0020】
各車輪14には、タイヤ30の空気圧調整用バルブとして機能するTPMSバルブ16が装着されている。TPMSバルブ16は、その検出部61がタイヤ30とホイール50との間に形成された内部空間Sに配置されており、その内部空間Sに突出するとともに後述する各種センサを収容して支持する樹脂製のケース62(「支持部材」に該当する)と、ケース62に一体に設けられた通気部63とを含む。空気圧の調整の際には空気がこの通気部63を介して内部空間Sに導入されるが、通常時においては通気部63の先端部にバルブキャップ58が装着されて通気が確実に遮断されている。TPMSバルブ16は、その通気部63の部分がホイール50のホイールリム52に設けられた取付孔54に弾性ゴムからなるグロメット56、ワッシャおよびボルトを介して取り付けられる。このため、ケース62は、通気部63との接続部を支点に片持ち状に内部空間Sに配置されている。グロメット56は、所定の剛性を有しており、タイヤ30内を気密に保持する。また、バルブキャップ58は、ホイールリム52の外側に突出しており、このバルブキャップ58を取り外して、図示しない弁口に空気供給装置のホースを接続することによりタイヤ30内に空気を供給可能となる。
【0021】
図3は、車輪情報取得装置の制御ブロック図である。
TPMSバルブ16のケース62内には、空気圧センサ67、加速度センサ68、TPMS送信機75(「送信部」を構成する)、制御回路76およびバッテリ66が収容されている。これにより、各TPMSバルブ16は、それぞれ車輪情報としてのタイヤの空気圧や車輪加速度(車輪振動)を取得するとともに取得した車輪情報を定期的に送信可能な手段としても機能する。空気圧センサ67は、たとえば半導体センサであって内部空間S内の空気圧を検出する。加速度センサ68は、車両10のばね下加速度を検出する手段として機能し、対応する車輪14の幅方向および半径方向における加速度を検出する。
【0022】
TPMS送信機75は、空気圧センサ67の検出値や加速度センサ68の検出値を示す信号を所定周期で定期的に無線送信可能なものである。制御回路76は、ICチップ等に実装されており、空気圧センサ67、加速度センサ68およびTPMS送信機75を制御する。バッテリ66は、空気圧センサ67、加速度センサ68、TPMS送信機75および制御回路76に電力を供給する。なお、TPMSバルブ16は、タイヤ内部空間内の温度を検出する温度センサ等をさらに備えるものであってもよい。
【0023】
また、車両10の車体12には、図1にも示されるように、右前輪14aに対応した通信機22a、左前輪14bに対応した通信機22b、右後輪14cに対応した通信機22c、および左後輪14dに対応した通信機22dの4つの通信機(これらを総称して「通信機22」という)が配設されている。本実施の形態において、通信機22が「受信部」を構成する。
【0024】
各通信機22は、対応する車輪14に設けられているTPMS送信機75との間で車輪情報等を示す信号を送受信可能なものである。なお、車体12には、各車輪14に設けられているTPMS送信機75との間で車輪情報等を示す信号を送受信可能な1つの車体側通信機が配置されてもよい。各通信機22は、車体12に搭載されたECU20に接続されている。各通信機22は、対応する車輪14のTPMS送信機75から無線送信された信号を受信し、受け取った情報をECU20に与える。TPMS送信機75からの車輪情報は、ECU20の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持され、ECU20は、各通信機22から受け取った情報を用いて所定の車両制御を実行する。
【0025】
ECU20は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。そして、ECU20には、図1にも示されるように、警報装置24が接続されている。警報装置24は、ECU20の制御のもと、所定条件下でドライバーに警報を発するものであり、たとえば、車両10のインストルメンツパネルに設けられている警告表示装置等を含む。また、ECU20には、車輪速センサ82を含む各種センサ・スイッチ類が接続されている。
【0026】
ところで、上述の車両10では、制動装置(電子制御式制動装置)を制御するECBECU100(図1参照)が、走行駆動源を制御するECUや操舵装置を制御するECU等と協調しながら、車両10の挙動を安定化させるために車両10の駆動、操舵および制動の統合制御(VDIM:Vehicle Dynamics Integrated Management)を実行する。このような統合制御に際しては、車両運動制御を高精度に実行する観点から、各車輪14のタイヤ30に作用する車輪幅方向における横力や、車輪高さ方向における荷重(上下力)を精度よく得ることが要求される。このため、本実施形態の車両10では、上述のECU20により、各車輪14からの車輪情報に基づいて各車輪14のタイヤ30に作用する横力や荷重が算出される。ECU20は、各車輪14のTPMS送信機75から送られる加速度センサ68の検出値に基づいて各車輪14に作用する横力等を算出する。
【0027】
図4および図5は、車輪のタイヤに作用する横力の算出手順を説明するための説明図である。図4は、車両が旋回走行しているときに各車輪に作用する横力等を表している。図5は、車両走行中に車輪のTPMS送信機に作用する力を表している。
【0028】
図4に示すように、車両10の各車輪14のタイヤ30に作用する横力に関し、左前輪14bに作用する横力をFy1とし、右前輪14aに作用する横力をFy2とし、左後輪14dに作用する横力をFy3とし、右後輪14cに作用する横力をFy4とする(これらを総称して「横力Fy」という)。なお、各横力Fyは、各車輪14に作用する横方向の加速度に各車輪14の質量を乗算することにより得ることができる。この横方向の加速度には、加速度センサ68を介して得られた車輪14の幅方向の加速度が用いられる。このとき、下記式(1)および(2)にて示される運動方程式が成立する。
【0029】
m・α=Fy1+Fy2+Fy3+Fy4・・・(1)
Idγ/dt=l・(Fy1+Fy2)−l・(Fy3+Fy4)・・・(2)
ただし、上記式(1)および(2)において、α=V(dβ/dt+γ):横加速度、m:車両質量、V:車速、β:車体横滑り角(車両の前後方向と車両の進行方向とのなす角度)、γ:ヨーレート、I:ヨー慣性モーメント、l:車両重心Gから前輪の接地点までの前後方向の距離、l:車両重心Gから後輪の接地点までの前後方向の距離の距離である。ここで、車速Vは、車輪速センサ82により実測可能であり、また、距離lおよびlは、車両10に固有の既知の値であり、乗員が乗車した状態での車両質量mやヨー慣性モーメントIも所定の手順を経ることにより、たとえば車両10の走行開始時に求めることができる。したがって、上記式(1)および(2)から、横加速度α、ヨーレートγ等を推定することができる。
【0030】
本実施の形態では、上述のようにして得られた各車輪の横力Fyを、TPMSバルブ16の変位量に基づいて補正する。
すなわち、図5に示すように、車両の走行中に車輪に負荷される遠心力によりTPMSバルブ16のケース62が図示の破線のように変形し、それに伴ってケース62内に設けられた加速度センサ68の傾斜角度も図示のように変化する。このため、この加速度センサ68の検出値から算出される横力Fy’および遠心力Fx’は、本来の設定方向から傾き角θだけずれた方向の加速度に基づいて算出されることになる。
【0031】
そこで、本実施の形態では、このケース62の変形を考慮した正確な横力Fyを算出する。ここでは、このケース62の傾き角θを、その加速度センサ68が検出した加速度から推定する。すなわち、ケース62の変形は車輪14の回転に伴う遠心力によるものであるから、その車輪14の半径方向の加速度とケース62の傾き角θ(変位量)との間には一定の関係がある。本実施の形態では、各車輪14の加速度とそれによるケース62の傾き角θとの関係が実験等により予め取得されており、ECU20が、これらの関係を表す変位量算出テーブルを保持している。したがって、ECU20は、現在の加速度に基づいてその変位量算出テーブルを参照することにより、ケース62の傾き角θを推定する。そして、下記式(3)により横力Fyを得る。
【0032】
Fy=Fx’sinθ+Fy’cosθ・・・(3)
ECU20は、この補正された横力Fyを用いることで、上述した統合制御を適切に実行することができる。
【0033】
次に、本実施の形態の車輪状態取得処理の流れについて説明する。
図6は、車輪状態取得処理の概要を表すフローチャートである。同図の処理は、車両10の走行中にECU20によって所定時間ごとに実行される。
【0034】
ECU20は、まず、加速度センサ68を介して各車輪14の横方向の加速度と半径方向の加速度とを取得する(S10)。そして、半径方向の加速度を用いて変位量算出テーブルを参照し、ケース62の傾き角θを推定する(S12)。続いて、ECU20は、取得された横方向の加速度および半径方向の加速度に各車輪14の質量を乗算して横力Fy’および遠心力Fx’を算出する(S14)。ECU20は、このとき算出された横力Fy’および遠心力Fx’とS12にて推定された傾き角θとを上記式(3)に代入することにより、補正後の横力Fyを得る(S16)。ECU20は、必要に応じてこの横力Fyを用いて所定の車両制御処理を実行する(S18)。なお、この車両制御については上述した統合制御のほか、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こるタイヤのロックを抑制するABS制御、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制する車両安定化制御(VSC)等種々の制御が含まれ得る。なお、これらの車両制御自体は一般的であるため、その詳細な説明については省略する。
【0035】
以上に説明したように、本実施の形態のTPMSバルブ16のように、特にケース62がホイール50に片持ち状に固定されていると、車両走行時の遠心力によりそのケース62が撓み変形したり、グロメット56の位置などその支持点を中心に回動して傾き易くなる。そこで、本実施の形態においては、加速度センサ68により検出された加速度に基づいてケース62の傾き角θが取得され、その傾き角θに基づいて横力Fyが補正される。このため、横力Fyが精度良く取得される。その結果、その横力Fyを用いて実行される車両制御もより適切に実行される。
【0036】
また、本実施の形態では、各車輪14に設置された加速度センサ68により検出されたばね下加速度を用いて横力Fyの取得、横加速度αやヨーレートγの推定を行うようにした。このため、たとえば車体12側で検出したばね上加速度を用いる場合のように、車両のロールやピッチによるばね上変動の影響を受けることがなく、横力等を高精度に取得できる。
【0037】
なお、本実施の形態において、ECU20が変位量推定部、横力取得部、補正部および制御部に該当する。
【0038】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0039】
たとえば、上記実施の形態では、遠心力によるケース62の傾き角θを取得して車輪に加わる横力を補正した例を示したが、その傾き角θを用いて各車輪14に作用する加速度そのもの、あるいは遠心力その他の情報を補正するようにしてもよい。たとえば、上記実施の形態においては、加速度センサ68により検出された加速度情報に基づいて横力Fy’および遠心力Fx’を算出し、その後に傾き角θを用いて補正された横力Fyを得た。変形例においては、加速度センサ68を介して得られた加速度値を傾き角θを用いて補正することにより補正された横方向の加速度を取得し、これに各車輪14の質量を乗算して補正された横力Fyを得るようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施の形態では、遠心力によるケース62の変位量として、加速度センサ68が検出した加速度に対応した傾き角θを取得する例を示した。変形例においては、このケース62の傾き角θを、各車輪14の車輪速センサ82が検出した回転速度(車輪速)から推定してもよい。すなわち、ケース62の変形は車輪14の回転に伴う遠心力によるものであるから、その車輪14の回転速度とケース62の傾き角θ(変位量)との間には一定の関係がある。この変形例では、各車輪14の車輪速とそれによるケース62の傾き角θとの関係が実験等により予め取得されており、ECU20が、これらの関係を表す変位量算出テーブルを保持する。ECU20は、現在の車輪速に基づいてその変位量算出テーブルを参照することにより、ケース62の傾き角θを推定する。そして、上記式(3)により横力Fyを得ることができる。
あるいは、ケース62の所定箇所に圧電素子などその伸縮を検出できる変形量検出センサを設け、その変形量検出センサの出力値に基づいてケース62の傾き角を取得するようにしてもよい。その場合も、その変形量検出センサの出力値とケース62の傾き角との対応関係を実験等により予め取得してテーブル化しておくとよい。
【0041】
また、上記実施の形態では述べなかったが、たとえば車体12側にも加速度センサを設置したような場合には、その車体12側の加速度センサの出力値と車輪14側の加速度センサ68の出力値の補正後の値とを比較して、いずれかのセンサの故障判定を行うようにしてもよい。
【0042】
さらに、上記実施の形態では、加速度センサ68がケース62内に収容・支持された例を示したが、支持部材はケースに限られず、加速度センサ68を支持可能な部材であれば採用することができる。
また、上記実施の形態では、車輪14を構成するタイヤとしてランフラットタイヤが採用された例を示したが、一般的な中空タイヤが採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態に係る車輪状態取得装置を備えた車両を示す概略構成図である。
【図2】図1の車両に備えられた車輪の部分断面図である。
【図3】車輪情報取得装置の制御ブロック図である。
【図4】車輪のタイヤに作用する横力の算出手順を説明するための説明図である。
【図5】車輪のタイヤに作用する横力の算出手順を説明するための説明図である。
【図6】車輪状態取得処理の概要を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
10 車両、 12 車体、 14 車輪、 16 TPMSバルブ、 20 ECU、 22 通信機、 24 警報装置、 30 タイヤ、 50 ホイール、 61 検出部、 62 ケース、 67 空気圧センサ、 68 加速度センサ、 75 TPMS送信機、 76 制御回路、 82 車輪速センサ、 100 ECBECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に関連する情報を取得するための車輪情報取得装置であって、
前記車輪の加速度を検出する加速度センサと、その加速度センサによる検出情報を含む車輪情報を送信可能な送信部と、前記加速度センサを支持する支持部材とを有し、その支持部材が前記車輪を構成するタイヤとホイールとの間に形成された内部空間に配置された車輪側装置と、
前記送信部から送信された車輪情報を受信する受信部と、前記車輪の回転に伴う遠心力による前記支持部材の変位量を推定する変位量推定部と、受信された車輪情報に含まれる加速度情報から得られる情報を前記支持部材の変位量に基づいて補正する補正部とを有する車体側装置と、
を備えたことを特徴とする車輪情報取得装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記内部空間に延出するように、その基端部を支点として前記ホイールに片持ち状に固定され、
前記変位量推定部は、前記車輪の回転に伴って検出される物理量と前記支持部材の変位量である傾き角との関係を表す変位量算出テーブルを有し、実際に検出された前記物理量に対応した傾き角を取得し、
前記補正部は、取得された傾き角を用いて前記加速度情報から得られる情報の補正を行うこと、
を特徴とする請求項1に記載の車輪情報取得装置。
【請求項3】
各車輪の車輪情報に基づいて車両の走行状態を制御する車両制御装置であって、
各車輪に設けられ、その車輪の加速度を検出する加速度センサと、その加速度センサによる検出情報を含む車輪情報を送信可能な送信部と、前記加速度センサを支持する支持部材とを有し、その支持部材が前記車輪を構成するタイヤとホイールとの間に形成された内部空間に配置された車輪側装置と、
各送信部から送信された車輪情報を受信する受信部と、前記受信部にて受信された車輪情報に含まれる加速度情報に基づいて、各車輪に作用する横力を取得する横力取得部と、各車輪の回転に伴う遠心力による各支持部材の変位量を推定する変位量推定部と、推定された支持部材の変位量に基づいて前記横力を補正する補正部と、補正された横力に基づいて所定の車両制御を行う制御部とを有する車体側装置と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−149967(P2008−149967A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341771(P2006−341771)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TPMS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】