説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】簡単な構成とすることができ、センサの取り付けが容易であるとともに、精度よく車輪に作用する荷重による歪みを計測することができる車輪用転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】車体側に固定される外輪1と、車輪が取り付けられる内軸2と、複列の転動体4,5を備えている。外輪1は、筒状の本体部6と、この本体部6から径方向外方へ伸びて車体側のナックル16と固定させるためのフランジ部7を有している。このフランジ部7の基部7aにアール面部10が形成されている。歪みゲージ11がアール面部10に貼り付けられており、歪み検出方向がアール面部10のアール形状に沿うようにされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などの車両に用いることができる車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の走行時における安全性の要求が高まるなか、事故を未然に防ぐというアクティブセーフティ(予防安全)が注目されている。その具体的な手段として、車両の走行時における運転制御があり、例えばコーナリング時の横滑りを抑制するためにブレーキ力制御やエンジン出力制御などが行われている。このような制御を行う手段として従来知られているものに、走行時に荷重が負荷されると車体に設けたヨーレイトセンサがそれを検出し制御を行う車体安定制御機構がある。この機構は、例えば車体が傾くなどの変化が生じると当該車体の挙動情報を検出して制御することができる。しかしこの場合、車体に大きな荷重が作用し始めてから車体に不安定挙動が発生しその挙動情報が検出されるまでのタイムラグが存在する。そして、この機構は車体が傾いてからその状態を検出するといった事後的な制御を行うものであり、予防安全の観点からは不十分である。
そこで、走行時において車輪(タイヤ)接地点から入力される荷重を、当該車輪が取り付けられる車輪用転がり軸受装置(ハブユニット)において検出する構成が提案されている。このような車輪用転がり軸受装置として従来知られているものに、例えば特許文献1、特許文献2があり、車輪用転がり軸受装置の一部にセンサが設けられている。
【0003】
このような車輪用転がり軸受装置は、車輪を取り付けるための取り付けフランジ部を有する内軸と、車体側の部材である懸架装置が有するナックルに固定するための固定フランジ部を有する外輪と、これらの間に転動自在に設けられている転動体とを備えている。そして、特許文献1に記載されているものは、車輪が取り付けられる取り付けフランジ部に歪みゲージが貼り付けられており、その部分における歪みを計測し、その計測結果に基づいて車輪に作用する荷重を検出している。
また、特許文献2に記載されているものは、車体側に固定される外輪に貫通孔が形成されており、荷重センサ(セラミックセンサ)がこの貫通孔の内壁面で挟まれた状態となって設けられている。そして、貫通孔の内周面側と外周面側との間に作用する荷重を荷重センサによって検出している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−53331号公報(図1参照)
【特許文献2】特開2004―360782号広報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されている車輪用転がり軸受装置は、車輪とともに回転する内軸の取り付けフランジ部に歪みゲージが貼り付けられているため、その歪みゲージからの検出信号を無線装置やスリップリングなどを別途設けて制御手段へ出力させる必要があり、構造が複雑になり、測定精度が悪くなるという問題点を有している。
また、特許文献2に記載されている車輪用転がり軸受装置は、荷重センサを取り付けるために寸法精度の高い貫通孔の形成が必要であり、また、センサを貫通孔内に収容させるために、ジャッキなどを用いて貫通孔の開口部を径方向に強制的に拡げ、当該開口部からセンサを挿入する必要があり、取り付け作業に手間がかかる。つまり、製作工数が多くなるとともに、セラミックセンサを採用しているためコスト低減が困難であるという問題点を有している。
【0006】
そこで、この発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成とすることができ、センサの取り付けが容易であるとともに、車輪に作用する荷重による歪みを精度よく検出することができる車輪用転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するためのこの発明は、車体側に固定される固定軌道輪と、車輪が取り付けられる回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体とを備え、前記固定軌道輪は、前記転動体の軌道面が形成されている筒状の本体部と、この本体部から径方向外方へ伸びて車体側部材と固定させるためのフランジ部とを有し、このフランジ部の基部にアール面部が形成されている車輪用転がり軸受装置において、歪み検出方向が前記アール面部のアール形状に沿うように、歪みゲージが当該アール面部に取り付けられていることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、固定軌道輪が有する筒状の本体部とフランジ部との間のアール面部に歪みゲージを取り付けることによって歪みを計測するセンサ部とすることができるため、構成が簡単であり、また、歪みゲージの取り付け作業が容易である。また、歪みゲージはアール面部に取り付けるのに好適である。
さらに、筒状の本体部と、この本体部から径方向外方へ伸びるフランジ部との間の隅部は応力集中部となり、この部分であるアール面部は固定軌道輪に荷重が作用すると大きく歪むため、このアール面部に歪みゲージを設けることによって計測精度を向上させることができる。
【0009】
本発明において、前記歪みゲージの取り付け部は機械加工面とされているのが好ましい。固定軌道輪は一般的に鍛造により成形されており、その表面は鍛造面とされているが、アール面部を機械加工面とすることで歪みゲージを当該アール面部に簡単かつ強固に貼り付けることができ、かつ、測定精度を高めることができる。
【0010】
また、前記歪みゲージは前記固定軌道輪の周方向の複数箇所に設けられているのが好ましい。この構成によれば、ある方向からの荷重が車輪用転がり軸受装置に作用した場合、複数の歪みゲージのそれぞれにおける計測値の演算や歪みの正負の方向(引張と圧縮の向き)の判定により、荷重の大きさや荷重が作用した方向を知ることができる。
【0011】
また、前記歪みゲージの取り付け部の周方向位置に対応する前記固定軌道輪の周方向所定位置に、温度補正用歪みゲージが取り付けられているのが好ましい。この構成によれば、固定軌道輪の熱膨張による歪みを温度補正用歪みゲージから検出でき、この検出結果に基づいて、荷重による歪みを計測するための前記歪みゲージの計測値について、温度補正をすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車輪用転がり軸受装置によれば、歪みゲージを採用しており、構成および取り付け作業の簡略化が可能であるため、コスト低減が図れる。また、小さな荷重が作用した場合であってもアール面部では歪みが大きくなるため、計測精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明の実施の一形態に係る車輪用転がり軸受装置(以下、単に軸受装置ともいう)を示す断面図であり、この軸受装置は、外輪1と、この外輪1の径方向内方の内軸2と、この内軸2のインナ側の端部に外嵌している内輪部材3と、複数の玉からなる複列の転動体4,5とを備えたものであり、これらにより複列アンギュラ玉軸受部を構成している。転動体4,5としての各列の玉は保持器8,9によって周方向に所定間隔で保持されている。図1において、右側が車両インナ側であり、左側が車両アウタ側である。また、本発明において、軸受装置の中心線Cに沿った方向をY方向とし、これに直交する水平方向をX方向とし、Y方向とX方向に直交する方向をZ方向としている。つまり、Y方向は車両の左右水平方向となり、X方向は前後水平方向となり、Y方向は上下鉛直方向となる。
【0014】
この軸受装置において、前記外輪1が車体側に固定される固定軌道輪とされており、前記内軸2と前記内輪部材3とが車輪側の回転軌道輪とされており、固定軌道輪と回転軌道輪との間において前記複列の転動体4,5が転動自在に介在しており、固定軌道輪に対して回転軌道輪が車輪(図示せず)とともに回転可能とされている。
内軸2はアウタ側に径方向外方へ延びるフランジ部17を有しており、このフランジ部17に、図示しないが車輪やブレーキディスクがボルト18によって取り付けられる。内輪部材3は内軸2のインナ側において外嵌しており、内輪部材3は内軸2のインナ側端部に螺着させたナット19によって内軸2に固定されている。内軸2の外周面と内輪部材3の外周面とに転動体4,5の内軌道面14,15が形成されている。
外輪1は、転動体4,5の外軌道面12,13が内周面に形成されている円筒状の本体部6と、この本体部6の外周面6aから径方向外方へ伸びるフランジ部7を有している。このフランジ部7は車体側部材である懸架装置が有するナックル16に固定されるものであり、中心線Cに直交方向であるフランジ面7bとナックル16の取り付け面16aとが面接触した状態とされ、フランジ部7とナックル16とが固定ボルト(図示せず)によって固定される。
【0015】
図2は外輪1における筒状の本体部6とフランジ部7との間の部分のアウタ側を示す断面図であり、筒状の本体部6の外周面6aから、アール面部10によって径方向外方に(直角に)向きが変えられてフランジ部7の背面7cへと連続している。つまり、フランジ部7の基部(根本部)7aのアウタ側にアール面部10が形成されている。さらに説明すると、筒状の本体部6の外周面6aのうちフランジ部7近傍における面は中心線Cに平行でまっすぐな面(円筒面)とされており、フランジ部7の背面7cのうち本体部6近傍における面は中心線Cに直交する鉛直面とされており、その本体部6の前記円筒面とフランジ部7の前記鉛直面との間が所定の半径(曲率半径)で湾曲形成されたアール面部10とされている。
【0016】
そして、このアール面部10に歪みゲージ11が取り付けられている。つまり、アール面部10が歪みゲージ11の取り付け部とされている。歪みゲージ11は、その歪み検出方向がアール面部10のアール形状(曲がり方向)に沿うように、湾曲されて貼り付けられている。つまり、歪みゲージ11の歪み検出方向がアール形状に沿って湾曲された方向とされており、アール面部10の被貼り付け面における半径と、歪みゲージ11の貼り付け面の曲げ半径とが一致した状態となる。
これにより、歪みゲージ11はアール面部10における歪みを計測することができる。具体的には、歪みゲージ11の取り付け部において、外輪1に作用した荷重により筒状の本体部6(外周面6a)とフランジ部7(背面7c)との成す角度が大きくなる方向へ変形すると歪みゲージ11は引張方向の歪みを検出し、反対に相互の角度が小さくなる方向へ変形すると圧縮方向の歪みを検出することができる。
そして、歪みゲージ11による計測値(歪み)を荷重に変換させる演算を行うことにより、負荷された荷重の値を求めることができる。
【0017】
外輪1は一般的に鍛造品とされているため、外輪1の内周側における外軌道面12,13は切削と研磨がされた機械加工面とされており、さらに、外輪1の外周側における歪みゲージ11の前記取り付け部(アール面部10)においても機械加工面とされている。具体的には図2のアール面部10は研磨面(又は切削面)とされており、歪みゲージを直接鍛造面に貼り付けるのではなく、この研磨面(切削面)に貼り付けることによって、歪みゲージ11のアール面部10における貼着を強固にすることができ、精度よく歪みの検出が可能となる。
【0018】
また、図3は歪みゲージ11の取り付け部の変形例を示す断面図であり、歪みゲージの取り付け部は切削加工などがされて切り欠き面として得た凹曲面10aとされている。外輪1を鍛造する際、筒状の本体部6とフランジ部7との間の部分は所定の半径Rを有するアール面(以下、鍛造アール面23という)となるように成形されるが、この鍛造アール面23において、歪みゲージ11を貼り付けるために当該鍛造アール面23の半径Rよりも小さい半径rである取り付け部をさらに形成している。つまり、鍛造アール面23を機械加工し、取り付け部として凹曲面10aを形成し、この凹曲面10aに歪みゲージ11を貼り付けている。
筒状の本体部6から径方向外方へ伸びるフランジ部7との間の隅部は形状が不連続となるために応力集中部となり、この隅部であるアール面部10(鍛造アール面23)は外輪1に荷重が作用すると他の部分よりも大きく歪む。従って、図2のように、アール面部10に歪みゲージ11を貼り付けることによって計測精度を向上させることができる。さらに、図3のように鍛造アール面23よりも小さい半径rに加工された取り付け部によれば、その取り付け部で歪みがさらに大きくなるため、計測精度をより一層高めることができる。これにより低荷重状態での分解能を高めることができる。
【0019】
図4は外輪1を軸方向アウタ側からインナ側へ向かって見た場合の断面図であり、歪みゲージ11は外輪1の周方向の複数箇所に設けられている。図4の実施形態では周方向に四カ所設けられている。具体的には、前方上部(歪みゲージ11a)、前方下部(歪みゲージ11b)、後方上部(歪みゲージ11c)、及び、後方下部(歪みゲージ11d)に設けられている。
さらに、フランジ部7は、車両の前後方向(X方向)と上下方向(Z方向)とにそれぞれ離れた四カ所に、ナックル16(図1参照)と固定させるためのボルト固定用孔20a,20b,20c,20dが形成されている。そして、中心線Cを中心とした場合の1つの歪みゲージ11の配設位置の位相(角度)は、1つの固定用孔20の位相と一致するように構成されている。つまり、固定用孔20の中心線と軸受装置の中心線Cと歪みゲージ11の歪み検出方向とは同一平面上に配設されている。
【0020】
歪みゲージ11は外輪1において同一円周面上に四カ所配設されているが、中心線Cを通る水平面(X軸)に関して対称(線対称)でかつ中心線Cを通る鉛直面(Z軸)に関して対称となる配置とされている。これら歪みゲージ11からの検出信号を相互比較演算することによって軸受装置に作用する荷重の方向及び値を知ることができる。
これについて説明すると、車両の上下方向、前後方向、及び左右方向(車両内外方向)に荷重が作用した場合における具体的な各歪みゲージ11a,11b,11c,11dの計測値は、次の表1、表2及び表3に示すようになる。なお、各表に示している「+」と「−」は、変化前(負荷前)の値との比較結果であって、歪みゲージ11に「引張が作用した場合」と「圧縮が作用した場合」に対応する。
そして、各方向の荷重が作用した場合のこれら歪みゲージ11a,11b,11c,11dの計測値の正負パターンが異なることにより、軸受装置に作用した荷重の方向(X方向、Y方向、Z方向)の判別を行うことができる。さらに、これら計測値を演算することによって荷重の大きさを知ることができる。
なお、軸受装置に作用させる前記上下方向、前後方向、及び左右方向(車両内外方向)のそれぞれの荷重は、直接的に軸受装置に対して、これら各方向に作用させた荷重である。つまり、内軸2と内輪部材3から外輪1に対して上下方向、前後方向、及び左右方向のそれぞれの方向に荷重を作用させた場合であり、車輪と路面との接地面から車輪を介して軸受装置に荷重を作用させたものではないため、モーメント発生による荷重成分は含まれない。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
また、図1に示しているように、外輪1と、内軸2及び内輪部材3との間にモーメントM1又はモーメントM2が作用した場合について説明する。この場合における各歪みゲージ11a,11b,11c,11dの計測値は、次の表4に示すようになる。なお、図1において、矢印Q,Rは、反時計回りのモーメントM1が作用した場合における外輪1への転動体荷重の方向を示しており、矢印S,Tは、時計回りのモーメントM2が作用した場合における外輪1への転動体荷重の方向を示している。
このように、反時計回りのモーメントM1又は時計回りのモーメントM2がそれぞれ作用した場合の前記歪みゲージ11a,11b,11c,11dの計測値の正負パターンが異なることにより、軸受装置に作用したモーメントの方向の判別を行うことができる。さらに、これら計測値を演算することによって大きさを知ることができる。
【0025】
【表4】

【0026】
図5は外輪1に作用した荷重によって生じる歪みを検出するための前記歪みゲージ11(以下これを第一歪みゲージ11という)がアール面部10に取り付けられた取り付け部(図2の形態)の斜視図であり、この取り付け部において、前記第一歪みゲージ11の他に温度補正用として第二歪みゲージ21が貼り付けられている。第二歪みゲージ21は、第一歪みゲージ11の歪み検出方向(矢印A)に直交する方向を歪み検出方向(矢印B)としている。
第二歪みゲージ21は、その歪み検出方向が外輪1の周方向とされており、第一歪みゲージ11とともに機械加工面とされたアール面部10に貼り付けられている。そして、第二歪みゲージ21による計測値を第一歪みゲージ11による計測値から差し引くことによって、第一歪みゲージ11に生じている熱変形による歪み成分を排除することができる。なお、この構成は、内軸2と内輪部材3から転動体4,5を介して外輪1に作用する荷重が、第一歪みゲージ11の取り付け部において、当該外輪1に周方向の歪みとして与える影響が小さい場合に有効である。つまり、車輪から作用する荷重による外輪1の周方向の変形(歪み)が、その直交方向(第一歪みゲージ11の検出方向)の変形と比べて小さい場合に有効である。
従って、第二歪みゲージ21による計測値は外輪1が温度上昇した際の熱膨張による歪みとすることができ、この第二歪みゲージ21による計測値に基づいて、第一歪みゲージ11の計測値を補正でき、検出精度を高めることができる。
【0027】
また、図示しないが他の実施形態として、温度補正用の第二歪みゲージ21を、第一歪みゲージ11の取り付け部ではなく、この取り付け部から離れた部位であって、第一歪みゲージ11の取り付け部の周方向位置に対応する外輪1の周方向所定位置に取り付けることができる。具体的には、外輪1のインナ側又はアウタ側軸端部の外周面や、フランジ部7の外周面に第二歪みゲージ21を貼り付けている。これは、第一歪みゲージ11の取り付け部において周方向の歪みが大きく生じる場合に有効である。つまり、外輪1の第一歪みゲージ11の取り付け部から離れた部分であって、荷重による周方向の歪みが小さい部分に、第二歪みゲージ21を貼り付けている。そして、第二歪みゲージ21を、第一歪みゲージ11の周方向位置と対応させて、前方上部、前方下部、後方上部、及び、後方下部に設けている。第二歪みゲージ21の歪み検出方向は周方向に対応させている。
以上の第二歪みゲージ21を有する構成によれば、この車輪用転がり軸受装置では、回転する車輪によって転動体4,5が転動し、外輪1の外軌道面12,13部分において発熱し、外輪1が熱膨張して歪みを生じさせるが、このような構成によれば、第一歪みゲージ11における温度ドリフトの影響を抑制することができ、第一歪みゲージ11による検出精度を高めることができる。
また、第二歪みゲージ21の計測値を単独で測定管理することによって、この軸受装置の軸受部の焼き付きなどの異常診断を事前に行うこともできる。
【0028】
以上のように構成された実施形態によれば、外輪1の筒状の本体部6とフランジ部7との間のアール面部10に歪みゲージ11を貼り付けることによってセンサ部とすることができ、その構成を簡単にできる。そして、歪みゲージ11を採用することにより、安価にセンサ部を構成でき、製造コストの低減が可能となる。また、歪みゲージ11は外輪1の外周側に貼り付ける作業で取り付けが可能であるため、その作業が容易である。
また、車輪が直接取り付けられる(車輪から最も近い)転がり軸受装置が備えている外輪1に歪みゲージ11が設けられているため、車輪から入力される荷重によって当該外輪1に生ずる歪みを迅速に計測することができる。つまり、車輪に荷重が作用してからその影響を歪みゲージ11が検知するまでの時間が短いため、制御速度を向上させることができ、より高度な運転制御が可能となる。これを具体的に説明すると、従来のように例えばコーナリング時に作用した荷重によって車体側に生じた異常挙動(車体の傾き)を検出するのではなく、車体が傾く前に車輪から大きな荷重が作用してこの軸受装置に歪みが生じると、その状態を検出することができるため、車体が異常挙動を示す前に制御が可能となる。
また、車両の各車輪が取り付けられる軸受装置のそれぞれにおいて、このセンサ部を備えさせることにより、四輪独立制御式の車体安定制御機構とすることができる。
【0029】
さらに、外輪1が有する筒状の本体部6とフランジ部7との間の隅部に形成されたアール面部10は応力集中部となり、この部分は外輪1に荷重が作用すると大きく歪むため、このアール面部10に歪みゲージ11を設けることによって計測精度を向上させることができる。これにより、小さな荷重が作用した場合であってもこの部分では他より歪みが大きくなるため、計測精度を高めることが可能となる。
また、各歪みゲージ11の計測値を比較演算することにより、各方向の荷重成分値を求めることができる。
そして、これら歪みゲージ11によって得られた計測結果により、車体側に搭載された制御手段(ECU)が車体の挙動制御を行うためのベースとなる信号が得られ、これにより安全な制御が可能となる。
【0030】
また、本発明の車輪用転がり軸受装置は、図示する形態に限らずこの発明の範囲内において他の形態のものであっても良く、図1において従動輪用として説明したが、駆動輪用のものであってもよい。また、歪みゲージ11をフランジ部7の前部において上下、後部において上下にそれぞれ配設したが、これ以外にも図示しないが、フランジ部7において、軸受装置の中心線Cに直交する水平線上の前後の二カ所と、中心線に直交する鉛直線上の上下の二カ所の合計四カ所に、歪みゲージ11を配設したものであってもよい。
【0031】
図6は、車輪用転がり軸受装置(以下、単に軸受装置ともいう)の比較例を示す断面図であり、図1に示しているものと比べると、センサ部において異なる形態を備えており、その他(複列アンギュラ玉軸受部)の構成は同様である。複列アンギュラ玉軸受部について簡単に説明すると、車体側に固定される固定軌道輪と、車輪が取り付けられる回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体54,55とを備えている。回転軌道輪は内軸52と内輪部材53とされており、固定軌道輪は外輪51とされている。外輪51は筒状の本体部56と、この本体部56から径方向外方へ伸びて車体側部材であるナックル66と固定させるためのフランジ部57とを有している。このフランジ部57と車体側のナックル66とは固定ボルト75によって連結されている。以上の構成は図1に示しているものと同様である。
【0032】
そして、図6の車輪用転がり軸受装置が有しているセンサ部は、前記固定ボルト75に歪みゲージ61が貼り付けられて構成されており、この歪みゲージ61は固定ボルト75に生じる軸方向の歪みを計測している。つまり、車輪から軸受装置に荷重が作用することによってその荷重が外輪51に伝わり、外輪51は車体側のナックル66とフランジ部57において固定ボルト75によって固定されているため、フランジ部57がナックル66に対して変形(変位)し、固定ボルト75に軸力が作用することによって軸方向の歪みが生じる。
【0033】
固定ボルト75は、図4に示しているものと同様に四カ所設けられており、歪みゲージ61もそれぞれの固定ボルト75に取り付けられている。
固定ボルト75に生じる軸力は、例えば車両が旋回した際に生じる旋回荷重の変化に応じて変化するため(荷重に等価であるため)、各固定ボルト75において出力される計測値により、軸受装置に負荷される荷重を検出することができる。また、この検出は、図4の場合と同様に、各歪みゲージ61の計測値の正負パターンの相違により、上下方向荷重、軸方向荷重などの成分の判別が可能となり、各歪みゲージ61の計測値を比較演算することにより、各方向の荷重成分値を求めることができる。なお、この軸受装置において、歪みゲージ61の取り付けはすべての固定ボルト75に対して行わなくてもよく、これらのうちの複数本(例えば2本)であってもよい。
【0034】
固定ボルト75への歪みゲージ61の取り付けは、固定ボルト75の外周面の一部に歪みゲージ61を貼り付けてもよいが、図示しないが、固定ボルト75の外周面の一部を加工して平面部を形成し、その平面部に貼り付けてもよい。または、固定ボルト75に歪みゲージ61が埋め込まれたものであってもよい。つまり、固定ボルト75の一部を中空としてその内周面に歪みゲージ61を貼り付けたものとしてもよい。
【0035】
さらに、この軸受装置においても図1のものと同様に、走行中に負荷される荷重を足回り(車輪に直接取り付けられている軸受装置)において直接的に検出できるため、従来のように制御時に問題となるタイムラグを低減させることができる。また、センサ部の構成が簡単であり、かつ歪みゲージ61を採用していることにより製品のコスト低減を図ることができる。
また、このセンサ部の構成によれば、外輪51を固定ボルト75によってナックル66に取り付ける際に、この歪みゲージ61を使用して固定ボルト75による締め付けトルクを管理することができる。そして、固定ボルト75に引張方向の軸力があらかじめ付与されることにより、歪みゲージ61は、軸力として圧縮方向の歪みが生じた場合もそれを計測することができる。また、歪みゲージ61の計測値を単独で測定管理することによって、この軸受装置の軸受部の焼き付きなどの異常診断を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の一形態に係る車輪用転がり軸受装置を示す断面図である。
【図2】歪みセンサの取り付け部を示す断面図である。
【図3】歪みセンサの取り付け部の変形例を示す断面図である。
【図4】外輪のフランジ部を示す正面図である。
【図5】温度補正用歪みゲージを説明するための斜視図である。
【図6】他の車輪用転がり軸受装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 外輪
2 内軸
3 内輪部材
4 転動体
5 転動体
6 本体部
7 フランジ部
7a 基部
10 アール面部
11a、11b、11c、11d 歪みゲージ
21 温度補正用歪みゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される固定軌道輪と、車輪が取り付けられる回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に設けられている複列の転動体とを備え、前記固定軌道輪は、前記転動体の軌道面が形成されている筒状の本体部と、この本体部から径方向外方へ伸びて車体側部材と固定させるためのフランジ部とを有し、このフランジ部の基部にアール面部が形成されている車輪用転がり軸受装置において、歪み検出方向が前記アール面部のアール形状に沿うように、歪みゲージが当該アール面部に取り付けられていることを特徴とする車輪用転がり軸受装置。
【請求項2】
前記歪みゲージの取り付け部は機械加工面とされている請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置。
【請求項3】
前記歪みゲージは前記固定軌道輪の周方向の複数箇所に設けられている請求項1又は2に記載の車輪用転がり軸受装置。
【請求項4】
前記歪みゲージの取り付け部の周方向位置に対応する前記固定軌道輪の周方向所定位置に、温度補正用歪みゲージが取り付けられている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車輪用転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−198814(P2007−198814A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15794(P2006−15794)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】