説明

車輪用軸受装置

【課題】ハブ輪に加締固定される内輪の耐クリープ性を向上させながら、耐久性の向上を図った車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブ輪1の小径段部1bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部8により一対の内輪5、5’がハブ輪1に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、一対の内輪5、5’の小端面12が、軸心に直交する平面に対して10°以下に設定された傾斜角だけ傾斜して形成され、それぞれの小端面12が突き合わされ、面接触の状態でセットされている。これにより、一対の内輪5、5’の小端面12が所定の傾斜角を介して係合し、一対の内輪5、5’が同時にクリープを起さない限り、小径段部1bと内輪5、5’との嵌合面にクリープが発生することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、ハブ輪に加締固定される内輪の耐クリープ性を向上させながら、耐久性の向上を図った車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式が、従動輪用では内輪回転と外輪回転の両方式が一般的に採用されている。この車輪用軸受装置には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列アンギュラ玉軸受等からなる車輪用軸受を嵌合させた第1世代と称される構造から、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造、また、ハブ輪の外周に一方の内側転走面が直接形成された第3世代構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造とに大別されている。
【0003】
また、車輪は懸架装置に対して、複列の転がり軸受により回転自在に支承されるが、オフロードカーやトラック等、車体重量が嵩む車両には複列円錐ころ軸受から構成された車輪用軸受装置が使用されている。
【0004】
近年、軽量・コンパクト化を図るため、車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪に内輪が嵌合され、ハブ輪の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって内輪が軸方向に固定された、所謂加締タイプの車輪用軸受装置が多用されている。このハブ輪と内輪とはシメシロを介して圧入した関係にあるが、回転方向の固定、つまり、相対回転の防止には従来特段の工夫がなされていない。また、この加締タイプの車輪用軸受装置において、加締加工によるバックラッシュがあり、内輪の軸方向の固定力は従来のナットで内輪を固定するタイプに比べて小さいという欠点がある。特に、自動車の車輪用軸受装置では、自動車の旋回時に大きなモーメント荷重が作用し、ハブ輪と内輪との嵌合面にクリープが発生して軸受すきまが大きくなり、短寿命になることがある。
【0005】
こうした問題を解決したものとして、図4および図5に示すようなクリープ防止手段が知られている。この車輪用軸受装置は、ハブ輪50の小径段部51に内輪52が圧入固定され、この内輪52の端部内周部に凹溝53が形成されている。そして、ハブ輪50の小径段部51の端部を径方向外方に塑性変形させて加締部54が形成されると共に、小径段部51の端部を内輪52の凹溝53に食い込ませてハブ輪50と内輪52とを係合させることにより、ハブ輪50に対して内輪52を軸方向に固定すると共に、ハブ輪50と内輪52との嵌合面にクリープが発生するのを防止している(例えば特許文献1参照)。ここで、クリープとは、嵌合シメシロ不足や嵌合面の加工精度不良等により軸受が周方向に微動し、嵌合面が鏡面化し、場合によっては、かじりを伴い焼付きや溶着する現象をいう。
【特許文献1】特開2001−001710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然しながら、この従来の車輪用軸受装置では、内輪52の端部内周部に凹溝53を形成する分コストアップとなると共に、例えば、第1世代や第2世代構造の車輪用軸受装置では、小径段部51の端部を内輪52の凹溝53に食い込ませることにより、加締部54側の内輪52は強固に固定されるが、反対側の内輪とハブ輪50の小径段部51との嵌合面にクリープが発生するのを防止することは難しい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ハブ輪に加締固定される内輪の耐クリープ性を向上させながら、耐久性の向上を図った車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、前記両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記一対の内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、それぞれの小端面が突き合わされている。
【0009】
このように、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により内輪がハブ輪に対して軸方向に固定された第1世代または第2世代構造の車輪用軸受装置において、一対の内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、それぞれの小端面が突き合わされているので、一対の内輪の小端面が所定の傾斜角を介して係合し、一対の内輪が同時にクリープを起さない限り、小径段部と内輪との嵌合面にクリープが発生することはない。したがって、ハブ輪に加締固定される内輪の耐クリープ性を向上させながら、耐久性の向上を図った車輪用軸受装置を提供するができる。
【0010】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から肩部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、前記両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記ハブ輪の肩部と前記内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、前記肩部と小端面が突き合わされている。
【0011】
このように、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から肩部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により内輪がハブ輪に対して軸方向に固定された第3世代構造の車輪用軸受装置において、ハブ輪の肩部と内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、肩部と小端面が突き合わされているので、ハブ輪の肩部と内輪の小端面が所定の傾斜角を介して係合し、内輪がクリープを起そうとしても肩部との係合により確実にクリープが発生を防止することができる。
【0012】
好ましくは、請求項3に記載の発明のように、前記傾斜角が10°以下に設定されていれば、加締加工時に、軸力の径方向分力が大きくなって内輪の変形が大きくなるのを防止すると共に、内輪がクリープを起そうとした時、内輪が軸方向に押出されて加締部に過大な軸力が発生するのを防止することができ、加締部の強度・耐久性が低下するのを防止することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明のように、前記一対の内輪の小端面の傾斜角、または、前記ハブ輪の肩部と前記内輪の小端面の傾斜角が同一に設定され、面接触の状態でセットされていれば、突き合わせ面にすきまが発生するのを防止し、軸受剛性の低下や軸受すきまの変動を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、前記両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記一対の内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、それぞれの小端面が突き合わされているので、一対の内輪の小端面が所定の傾斜角を介して係合し、一対の内輪が同時にクリープを起さない限り、小径段部と内輪との嵌合面にクリープが発生することはない。したがって、ハブ輪に加締固定される内輪の耐クリープ性を向上させながら、耐久性の向上を図った車輪用軸受装置を提供するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周にそれぞれ外向きに開いたテーパ状の複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周にこの車輪取付フランジから軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向するテーパ状の内側転走面と、この内側転走面の大径側に円錐ころを案内する大鍔部が形成された一対の内輪からなる内方部材と、前記両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の円錐ころとを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、前記一対の内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して10°以下に設定された傾斜角だけ傾斜して形成され、それぞれの小端面が突き合わされ、面接触の状態でセットされている。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2(a)は、図1の内輪単体を示す平面図、(b)は、同上縦断面図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0017】
この車輪用軸受装置は駆動輪側の第2世代構造をなし、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された車輪用軸受2とからなる。ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ3を一体に有し、外周に肩部1aを介して軸方向に延びる円筒状の小径段部1bが形成され、内周にはトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。また、車輪取付フランジ3の周方向等配位置に車輪を固定するハブボルト3aが植設されている。
【0018】
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、車輪取付フランジ3の基部となる肩部1aから小径段部1bに亙って高周波焼入れによって表面硬さが50〜64HRCの範囲に所定の硬化層が形成されている。なお、加締部8は鍛造後の表面硬さ25HRC以下の生のままとされている。
【0019】
車輪用軸受2は、外周にナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ4bを一体に有し、内周にそれぞれ外向きに開いた複列のテーパ状の外側転走面4a、4aが一体に形成された外方部材4と、外周にこれら複列の外側転走面4a、4aに対向するテーパ状の内側転走面5aが形成された一対の内輪5、5’と、両転走面間に保持器6を介して転動自在に収容された複列の円錐ころ7、7とを備えている。内輪5、5’の内側転走面5aの大径側には円錐ころ7を案内するための大鍔部5bが形成されると共に、小径側には円錐ころ7の脱落を防止するための小鍔部5cが形成されている。
【0020】
一対の内輪5、5’は基本的に同一仕様であるが、大径側の端面5d(以下、大端面という)の面取りの大きさだけが異なる。すなわち、ハブ輪1の肩部1aの面取りに対応して、アウター側の内輪5の大端面5dの面取り5eは、インナー側の内輪5’の大端面5dの面取り5fよりも大きく設定されている。
【0021】
外方部材4および内輪5、5’はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、外方部材4は、高炭素クロム鋼に限らず、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼(JIS規格のSC系機械構造用炭素鋼)で形成し、複列の外側転走面4a、4aを高周波焼入れによって58〜64HRCの範囲に表面を硬化処理しても良い。
【0022】
車輪用軸受2は、ハブ輪1の肩部1aにアウター側の内輪5の大端面5dが衝合するように小径段部1bに所定のシメシロを介して圧入されている。そして、小径段部1bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部8によって所定の予圧が付与された状態で固定されている。これにより、従来のように、ナットの締付トルク等を調整して予圧を管理することなく、長期間に亘って安定した予圧を維持できるセルフリテイン構造を提供することができる。
【0023】
外方部材4と内輪5、5’との間に形成される環状空間の開口部にはシール9、9が装着されている。これらシール9、9は、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板10とスリンガ11とからなる、所謂パックシールを構成している。これらシール9、9により、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。なお、ここでは、転動体を円錐ころとした複列円錐ころ軸受を例示したが、これに限らず転動体にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受であっても良い。また、駆動輪側の第2世代構造を例示したが、本発明に係る車輪用軸受装置はこれに限らず、例えば、図示はしないが、従動輪側であっても、また、第1世代構造であっても良い。
【0024】
ここで、一対の内輪5、5’の小径側の端面12、12(以下、小端面という)が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角αだけ傾斜して形成されている。そして、それぞれの小端面12、12が突き合わされ、面接触の状態でセットされた背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。このように一対の内輪5、5’の小端面12、12が所定の傾斜角αを介して係合しているため、一対の内輪5、5’のうちどちらか一方、例えば、アウター側の内輪5がクリープを起そうとした時、他方のインナー側の内輪5’を共回りさせることになるが、ここでは、一対の内輪5、5’が同時にクリープを起さない限り、小径段部1bと内輪5、5’との嵌合面にクリープが発生することはない。したがって、ハブ輪1に加締固定される内輪5、5’の耐クリープ性を向上させながら、耐久性の向上を図った車輪用軸受装置を提供するができる。
【0025】
なお、内輪5、5’の小端面12、12の傾斜角αはそれぞれ10°以下に設定されている。この傾斜角αが10°を超えると、加締加工時に、軸力の径方向分力が大きくなってインナー側の内輪5’の変形が大きくなると共に、例えば、アウター側の内輪5がクリープを起そうとした時、インナー側の内輪5’が軸方向に押出されて加締部8に過大な軸力が発生し、加締部8の強度・耐久性が低下する恐れがある。
【0026】
また、内輪5、5’の小端面12、12の傾斜角αが僅かに異なっていても内輪5、5’のクリープを防止することができるが、本実施形態のように、内輪5、5’の小端面12、12の傾斜角αを同一にすることによって、突き合わせ面にすきまが発生するのを防止し、軸受剛性の低下や軸受すきま(予圧)の変動を防止することができる。
【実施例2】
【0027】
図3は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的にはハブ輪の構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0028】
この車輪用軸受装置は駆動輪側の第3世代構造をなし、外方部材4と、ハブ輪13、およびこのハブ輪13に圧入固定された内輪5’からなる内方部材14と、両部材4、14の転走面間に保持器6を介して転動自在に収容された複列の円錐ころ7、7とを備えている。
【0029】
ハブ輪13は、アウター側の端部に車輪取付フランジ3を一体に有し、外周にアウター側(一方)のテーパ状の内側転走面13aと、この内側転走面13aから肩部15を介して軸方向に延びる円筒状の小径段部13bが形成され、内周にはトルク伝達用のセレーション1cが形成されている。ハブ輪13の内側転走面13aの大径側には円錐ころ7を案内するための大鍔部13cが形成されると共に、小径側には円錐ころ7の脱落を防止するための小鍔部13dが形成されている。
【0030】
ハブ輪13はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、後述するアウター側のシール16のシールランド部となる車輪取付フランジ3のインナー側の基部3bから小径段部13bに亙って高周波焼入れによって表面硬さが50〜64HRCの範囲に所定の硬化層が形成されている。
【0031】
アウター側の内輪5’は、ハブ輪13の肩部15に小端面12が衝合するように小径段部13bに所定のシメシロを介して圧入されている。そして、小径段部13bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部8によって所定の予圧が付与された状態で固定されている。
【0032】
外方部材4と内方部材14との間に形成される環状空間の開口部にはシール16、9が装着されている。アウターが輪側のシール16は、外方部材4に内嵌される芯金17と、この芯金17に加硫接着により接合され、車輪取付フランジ3のインナー側の基部3bに摺接するサイドリップを備えたシール部材18とからなり、一体型のシールで構成されている。これらシール16、9により、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0033】
ここで、内輪5’の小端面12が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角αだけ傾斜して形成されている。一方、内輪5’の小端面12に衝合するハブ輪13の肩部15も同じ傾斜角αだけ傾斜して形成されている。そして、この肩部15と内輪5’の小端面12が突き合わされ、面接触の状態でセットされた背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受を構成している。このように、本実施形態では、ハブ輪13の肩部15と内輪5’の小端面12が所定の傾斜角αを介して係合しているため、内輪5’がクリープを起そうとしても肩部15との係合により確実にクリープが防止される。
【0034】
なお、ハブ輪13の肩部15と内輪5’の小端面12の傾斜角αが僅かに異なっていても内輪5’のクリープを防止することができるが、本実施形態のように、傾斜角αを同一にすることによって、突き合わせ面にすきまが発生するのを防止し、軸受剛性の低下や軸受すきまの変動を防止することができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る車輪用軸受装置は、ハブ輪とこのハブ輪に嵌合された内輪を備え、内輪が揺動加締により固定された第1乃至第3世代構造の車輪用軸受装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】(a)は、図1の内輪単体を示す平面図である。 (b)は、同上、縦断面図である。
【図3】本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】従来の車輪用軸受装置の内輪の一部破断斜視図である。
【図5】同上、車輪用軸受装置の部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1、13・・・・・・ハブ輪
1a、15・・・・・肩部
1b、13b・・・・小径段部
1c・・・・・・・・セレーション
2・・・・・・・・・車輪用軸受
3・・・・・・・・・車輪取付フランジ
3a・・・・・・・・ハブボルト
3b・・・・・・・・車輪取付フランジのインナー側の基部
4・・・・・・・・・外方部材
4a・・・・・・・・外側転走面
4b・・・・・・・・車体取付フランジ
5、5’・・・・・・内輪
5a・・・・・・・・内側転走面
5b・・・・・・・・大鍔部
5c・・・・・・・・小鍔部
5d・・・・・・・・大端面
5e、5f・・・・・大端面の面取り
6・・・・・・・・・保持器
7・・・・・・・・・円錐ころ
8・・・・・・・・・加締部
9、16・・・・・・シール
10・・・・・・・・シール板
11・・・・・・・・スリンガ
12・・・・・・・・内輪の小端面
14・・・・・・・・内方部材
17・・・・・・・・芯金
18・・・・・・・・シール部材
50・・・・・・・・ハブ輪
51・・・・・・・・小径段部
52・・・・・・・・内輪
53・・・・・・・・凹溝
54・・・・・・・・加締部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪からなる内方部材と、
前記両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、
前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、
前記一対の内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、それぞれの小端面が突き合わされていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から肩部を介して軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、
前記両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備え、
前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部により前記内輪が前記ハブ輪に対して軸方向に固定された車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪の肩部と前記内輪の小端面が、軸心に直交する平面に対して所定の傾斜角だけ傾斜して形成され、前記肩部と小端面が突き合わされていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記傾斜角が10°以下に設定されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記一対の内輪の小端面の傾斜角、または、前記ハブ輪の肩部と前記内輪の小端面の傾斜角が同一に設定され、面接触の状態でセットされている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−204064(P2009−204064A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46134(P2008−46134)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】