説明

転がり軸受

【課題】工作機械のスピンドル用として好適な転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪、外輪、および転動体のうち少なくとも1つを以下の方法で製造する。先ず、炭素(C)を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロム(Cr)を0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素(Si)を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデン(Mo)を0.5質量%以上3.0質量%以下の各範囲で含有し、酸素(O)の含有率が10ppm以下であり、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼を用いて所定形状に成形する。次いで、840〜920℃での浸炭窒化処理、高周波焼入れ処理、−80〜−20℃での深冷処理、200℃以上400℃以下での焼戻し処理をこの順に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、農業機械、建設機械、鉄鋼機械等に使用される転がり軸受、特に、工作機械のスピンドル支持用の転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受においては、軌道輪と転動体との間で転がり運動が行われ、軌道輪及び転動体は繰り返し応力を受ける。そのため、これらの部材を構成する材料には、硬い、負荷に耐える、転がり疲労寿命が長い、滑りに対する耐摩耗性が良好である等の性質が要求される。
そこで、一般的には、これらの部材を構成する材料には、軸受鋼としては日本工業規格のSUJ2、そして肌焼鋼としては日本工業規格のSCR420相当の鋼やSCM420相当の鋼等がよく使用されている。
【0003】
これらの材料は前述のように繰り返し応力を受けるので、転がり疲労寿命等の必要とされる性質を得るために、軸受鋼であれば焼入れ、焼戻しが施され、肌焼鋼であれば浸炭処理又は浸炭窒化処理後に焼入れ、焼戻しが施されて、硬さがHv680以上800以下とされている。
近年、各種の工作機械は、加工効率及び生産性向上を目的として、主軸の回転速度や周辺機器の送り速度等の高速化が進んでおり、ユーザーの工作機械に対する高速化の要求はますます強くなってきている。特に、工作機械の主軸は超高速回転とすることが要求されており、主軸を支持するグリース潤滑の転がり軸受のDm n値(Dm は転動体のピッチ円直径(mm)であり、nは回転速度(min-1)である)で、1×106 を超えるものも最近では珍しくなくなってきている。
【0004】
下記の特許文献1には、工作機械のスピンドル用として十分な耐圧痕性を有する転がり軸受を提供するために、内輪、外輪、転動体の少なくとも何れかを、炭素(C)を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロム(Cr)を0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素(Si)を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデン(Mo)を0.5質量%以上3.0質量%以下の各範囲で含有し、酸素(O)の含有率が10ppm以下であり、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼を用い、浸炭窒化処理、油焼入れ、深冷処理、240℃以上400℃以下での焼戻しをこの順に行うことで、表層部の窒素含有率を0.05質量%以上0.5質量%以下、表層部の残留オーステナイト量を5体積%以下にすることが記載されている。
【特許文献1】特開2005−76679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の転がり軸受には割れが生じ易いという問題点がある。
本発明の課題は、工作機械のスピンドル用として好適な、耐圧痕性が高く、割れも生じにくい転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪、前記外輪、および前記転動体のうち少なくとも1つは、炭素(C)を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロム(Cr)を0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素(Si)を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデン(Mo)を0.5質量%以上3.0質量%以下の各範囲で含有し、酸素(O)の含有率が10ppm以下であり、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼を用いて形成された後に、840〜920℃での浸炭窒化処理、高周波焼入れ処理、−80〜−20℃での深冷処理、200℃以上400℃以下での焼戻し処理をこの順に行うことにより得られ、表層部の炭素含有率が0.6質量%以上2.0質量%以下に、表層部の窒素含有率が0.05質量%以上0.5質量%以下に、表層部の残留オーステナイト量が5体積%以下にされていることを特徴とする転がり軸受を提供する。
本発明の転がり軸受は、特許文献1に記載された方法の浸炭窒化処理後の油焼入れに代えて高周波焼入れを行うことで、特許文献1で問題になっている割れを生じにくくすることがてきる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工作機械のスピンドル用として好適な、耐圧痕性が高く、割れも生じにくい転がり軸受が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構成を示す部分縦断面図である。
このアンギュラ玉軸受10は、工作機械のスピンドル支持用として好適な転がり軸受であり、内輪11と、外輪12と、内輪11及び外輪12の間に転動自在に配設された複数の玉13と、内輪11及び外輪12の間に玉13を保持する保持器14と、で構成されている。そして、このアンギュラ玉軸受10の内径は65mm、外径は100mm、幅は18mm、玉13の直径は7.144mm、玉数は28個、接触角は18°、内輪11及び外輪12に形成されている軌道溝の曲率半径は、それぞれ玉13の直径の52%及び56%である。
【0009】
内輪11及び外輪12は、以下のようにして製造されたものである。表1に示す組成の鋼材(A〜E)を所定の形状に成形し、No. 1〜3については、図2に示す熱処理、すなわち、840〜920℃での浸炭窒化処理、周波数10〜20kHz、出力電圧200〜400V、処理時間5秒の条件での高周波焼入れ処理、−80℃での深冷処理、300℃での焼戻し処理をこの順に行った。この熱処理は本発明で行う熱処理に相当する。次に、研削仕上げ加工及び超仕上げ加工を行った。
【0010】
No. 4については、図4に示す熱処理、すなわち、840〜920℃での浸炭窒化処理、加熱温度800〜860℃での焼入れ処理、160℃以上400℃以下での焼戻し処理をこの順に行った。次に、研削仕上げ加工及び超仕上げ加工を行った。
No. 5については、図3に示す熱処理、すなわち、840〜920℃での浸炭窒化処理、加熱温度800〜860℃での油焼入れ処理、−80℃での深冷処理、240℃以上400℃以下での焼戻し処理をこの順に行った。この熱処理は特許文献1の方法で行う熱処理に相当する。次に、研削仕上げ加工及び超仕上げ加工を行った。
【0011】
No. 6については、SUJ2(鋼種E)を用い、通常の焼入れ焼戻しを行った後に、研削仕上げ加工及び超仕上げ加工を行った。
このようにして得られた内輪及び外輪の表層部の炭素含有率(〔C〕)と窒素含有率(〔N〕)と残留オーステナイト量(γR )、表面硬さ(Hv)を表2に示す。
なお、本発明においては、表層部とは、超仕上げ加工後の表面から深さ20μmまでの部分を意味する。また、表層部の炭素含有率および窒素含有率は発光分析装置により測定し、表面硬さはビッカース硬度計により測定し、残留オーステナイト量はX線分析装置により測定した。
【0012】
そして、例えば窒化ケイ素製の玉13と、フッ素樹脂製の保持器14を用いて、アンギュラ玉軸受10を組み立てる。
このようにして得られたNo. 1〜6の各内輪及び外輪の耐圧痕性を、円板状試験片を用いた以下の方法で評価した。
円板状試験片の寸法は、直径60mm、厚さ6mmで、表面粗さを平均粗さ(Ra)で0.01μm以下とした。この試験片の円板面に直径4.76mm(3/16インチ)のSUJ2製の球を様々な荷重で押し付けて、生じた圧痕の最大深さを測定した。そして、面圧が4.2GPaの時の最大深さで耐圧痕性を評価した。具体的には、面圧が4.2GPaの時の最大深さが0.1μm以下の場合に耐圧痕性がとても良い(◎)、0.1〜0.2μmの場合に耐圧痕性があまり良くない(△)、0.2μm以上の場合に耐圧痕性が悪い(×)と評価した。また、面圧が4.2GPaの時に割れが生じたか否かについても調べた。その結果も表2に併せて示す。
また、外輪外径の楕円変形量(直交する2直径の差)を測定した。その結果も表2に併せて示す。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
本発明の実施例に相当するNo. 1〜3では、割れも生じず、耐圧痕性も高かった。比較例に相当するNo. 4〜6のうち、特許文献1の実施例に相当するNo. 5では、耐圧痕性はよかったが割れが生じた。また、No. 4では割れは生じないが、耐圧痕性の点でNo. 1〜3、5より劣っていた。No. 6では割れは生じないが、耐圧痕性が悪かった。また、No. 1〜3では、楕円変形量が少ないため、仕上げ研磨による取り代を少なくすることができることから、浸炭窒化層の部分(硬度が高く、窒素含有率も高い部分)を軌道面として使用することができる。
このように、本発明の転がり軸受によれば、浸炭窒化処理後に高周波焼入れを行うことで、特許文献1で問題となっている割れが生じず、耐圧痕性も高い。よって、本発明の転がり軸受は工作機械のスピンドル用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図2】本発明で行う熱処理方法を示す図である。
【図3】本発明の比較例に相当する熱処理方法(特許文献1の方法)を示す図である。
【図4】本発明の比較例に相当する熱処理方法を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
10 アンギュラ玉軸受
11 内輪
12 外輪
13 玉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、
前記内輪、前記外輪、および前記転動体のうち少なくとも1つは、
炭素(C)を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロム(Cr)を0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素(Si)を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデン(Mo)を0.5質量%以上3.0質量%以下の各範囲で含有し、酸素(O)の含有率が10ppm以下であり、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼を用いて形成された後に、
840〜920℃での浸炭窒化処理、高周波焼入れ処理、−80〜−20℃での深冷処理、200℃以上400℃以下での焼戻し処理をこの順に行うことにより得られ、表層部の炭素含有率が0.6質量%以上2.0質量%以下に、表層部の窒素含有率が0.05質量%以上0.5質量%以下に、表層部の残留オーステナイト量が5体積%以下にされていることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−203526(P2009−203526A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46839(P2008−46839)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】