説明

転炉の上流加工側でフェロクロム及びフェロニッケルの直接還元炉を用いたステンレス鋼の製造方法

合金化元素のクロム及びニッケルを有するステンレス鋼の製造のための鋼製造費用の本質的な低減を可能にするべく、本発明に従って、必要なフェロクロム及びフェロニッケルの中間的な生産を、2つの別個の直接還元プロセスにおいて、低廉なクロム鉱石及びニッケル鉱石をベースとして、後加工用転炉(6)の上流加工側で2つの並行に配置されたSAF(3、4)中で行うことが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間生成物であるフェロクロム及びフェロニッケルに関して互いに調整された複数の方法段階において、クロム鉱石及びニッケル鉱石をベースとするステンレス鋼製造のための方法に関する。
【0002】
これまでに世界的に確立されているステンレス鋼のプロセスラインのほとんどが、専らEAF−AOD−L(二重法(Duplex−Verfahren))、又はEAF−AOD−L(MRP−L)−VOD(三重法(Triplex−Verfahren))の組み合わせからなるものである。
【0003】
EAFの使用は、スクラップの入手可能性あるいはスクラップ及び銑鉄の入手可能性によって異なる。方法の開発は、目下のところ、合金と組み合わせて、低又は高合金化スクラップの割合を低減させると共に銑鉄あるいは溶融クロムを使用することにある。
【0004】
この際、クロム及びニッケルが合金化元素の大部分を成す。その際、ニッケルは最も高価な成分である。成長し続ける末端消費者市場およびそれ故世界的規模の生産に面して、ニッケルの制限された資源が、増大するニッケル需要およびその結果ニッケル価格の増大の主要因である。
【0005】
鋼材料価格を経済的なものにする新しい技術が求められている。
【0006】
欧州特許第1,641,946B1号明細書中では、高い品質で製造費用を最小限に抑え、かつ、生産工程における廃棄残留物、例えばCr含有の、あるいはCr−及びNi含有のダスト、及びスラグを再循環させるという目的で、合金化された金属溶融物の製造方法が提案されている。該方法は、上吹き及び下吹き(Auf− und Unterbadblasen)を備える様々な転炉における、後で相前後して実行される方法段階からなり、その際、それぞれの方法段階において銑鉄混合機からの溶銑鉄が各転炉に装入される。
【0007】
1.方法段階:20.3%Cr及び2%Niを有する予め合金化された溶融物の製造、及びリサイクル型(Recycling)転炉中の温度1560℃の確立。
【0008】
2.方法段階:KMS−S転炉中における上記の第1の予め合金化された溶融物へのCr−担体及び追加の還元剤、スラグビルダー、及び化石エネルギー担体の投入、及び25.9%Cr及び1.38%Niを有する第3の方法段階のための合金化された前溶融物の製造及び、及び温度1500℃の確立。
【0009】
3.方法段階:K−OBM−S転炉中での最終処理、そして、とりわけ合金鉄の添加下における脱炭処理の実行、そして18.14%Cr及び8.06%Niの所定の化学分析値を有する合金化された鋼溶融物の調節、及び所定の温度1680℃の調節。
【0010】
特殊鋼の生産のための別の技術が、米国特許第5,514,331号明細書に記載されている。この方法の場合、次の模範的な結果を伴う次の方法段階が実行される。
【0011】
− アーク炉中での、52%Crの含有量を有する溶融フェロクロムの製造、
− 塊状の炭素鋼スクラップ(Carbbon Steel Scrap)の添加下において35%のクロム含有量を有する鋼溶融物が生産されるフェロクロム転化炉中への、溶融フェロクロムの装入。
− その鋼溶融物の輸送取鍋中への注入、及び別のアーク炉中で13%ニッケルの量及び少しのクロムと共に溶解された第二の鋼溶融物の仕込み。
− 最終的に18%Cr及び8%Niの含有量を有する最終生成物が生産されるAOD転炉中への、上記の輸送取鍋中に含まれる19%Cr及び6.6%Niの含有量を有する混合溶融物の注入。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第1,641,946B1号明細書
【特許文献2】米国特許第5,514,331号明細書
【0013】
合金元素としてクロム及びニッケルを有するステンレス鋼の製造のためのこれまで知られている方法の流れを用いた従来技術から出発して、本発明の課題は、クロム鉱石及びニッケル鉱石を直接利用することによって、鋼の製造コストを大きく下げることが可能な方法経路を提示することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記設定の課題は、上記の互いに調整された方法工程が以下のプロセスラインで実行される方法の進行により特徴付けられることによって、請求項1の特徴を用いて方法手順的に解決される。
【0015】
* 後加工用転炉(weiterverarbeitenden Konverter)の上流加工側に並列に配置された2つの直接還元炉、例えばSAF炉において、低廉なクロム鉱石もしくはニッケル鉱石原料混合物を使用して2つの別個の直接還元プロセスでフィロクロムを有する溶鋼及びフェロニッケルを有する溶鋼を生産すること、
* 溶鋼を2つの直接還元炉から輸送取鍋中に湯出しし、その際、最初にフェロクロムを有する溶鋼を、次にフェロニッケルを有する溶鋼を湯出しすること、
* 輸送取鍋中に含まれるフェロクロムを有する溶鋼及びフェロニッケルを有する溶鋼の金属混合物を、後加工用転炉へ装入すること、
* 上記の金属混合物の典型的な精錬、スラグの還元、及び化学的な標的分析(chemischen Zielanalyse)の微調節によって、転炉中において所望の品質でステンレス鋼を製造すること、
* 生産された溶ステンレス鋼を鋳造用取鍋に湯出しし、そしてステンレス鋼を鋳造機中に移すこと。
【0016】
本発明による、プロセスライン中の後加工用転炉の上流の並行な二つでのフェロクロム及びフェロニッケルの生産の切り離しによって(その際、転炉としては、例えばAOD、AOD−LあるいはMRP、MRP−Lを使用することができる)、クロム及びニッケルの両鉱石の直接利用により、鋼製造費用の明らかな低減が達成される。確かに、付随する設備を備える還元炉(サブマージアーク炉)の投資費用は、典型的なEAF−AOD−Lラインよりも約9×(倍)高いが、原材料費用は、ほぼ同じ状況においては、より低廉である。その結果、その投資は直ぐに元が取れる。更に、該プロセスは、転炉中での単独のDRI(鉄の直接還元)及び/またはスクラップ添加の故に、かなりより簡単に行うことができる。
【0017】
プロセスラインの上流加工側で行われる、使用材料のニッケル鉱石及びクロム鉱石を用いた2つの直接還元プロセスは、ほぼ1時間周期(in ca. einstuendigem Takt)で、例えば、約55%Crを有する約1600℃の約340kg/tの溶融フェロクロム、及び約15%Niを有する約1600℃の約540kg/tの溶融フェロニッケルをそれぞれ生産する。2種の金属は、フェロクロム、そして次にフェロニッケルの順に輸送取鍋中へ湯出しされ、該鍋で後加工用転炉へ移される。そこでは、直接還元鉄(DRI)を及び/または炭素スクラップを用いて約160kg/tの量で重量を増やして金属混合物の典型的な精錬が実行される。DRIあるいは炭素スクラップはここでは、炭素、ケイ素、及び一部はクロム及び鉄の酸化反応による高エネルギーの発生を相殺するための溶融物の冷却作用も担う。転炉プロセスは、スラグの還元及び化学的な標的分析の微調節で終わる。
【0018】
本発明の方法の場合、リンはより少量でしか生じないので、該元素はステンレス鋼に関しては問題のないものとみなされ、そしてより高い硫黄含量は、転炉プロセス中で十分な効率で取り除かれる。
【0019】
次に、模範的な図解したプロセスラインの一実施形態に基づいて、本発明の方法を詳しく説明する。
【0020】
図面では、例示的に選び出された個々の構成要素を備えるプロセスライン10が図解により示されており、それを用いて本発明の方法を実行することができる。個々の構成要素間における材料の流れの方向は、それぞれが実線矢印で示されており、流れは該図面において左上から始まり右下へと進行する。
【0021】
フェロクロム生産のためのSAF3、及びフェロニッケル生産のためのSAF4の2つの直接還元炉が、プロセスライン10の始めに設けられる。これら直接還元炉のいずれの隣にも、使用される原料混合物1、2が、様々な大きさの塊状物の形態で描かれている。
【0022】
本発明による一次直接還元を実行するための原材料混合物1、2の平均組成は、次の通りである:
【0023】
* クロム鉱石−原材料混合物1=コークス、24〜37%Cr、約30%Feのクロム鉱石
* ニッケル鉱石−原材料混合物2=コークス、1.2〜1.5%Ni、約15%Feのニッケル鉱石
【0024】
これらの原材料混合物1、2を用いてSAF3、4中で実行される還元プロセスは、例えば1時間周期で次を生産する。
【0025】
SAF3 約55%Crを有する約1600℃の、約340kg/tの溶融フェロクロム、並びに、
SAF4 約15%Niを有する約1600℃とほぼ同じ温度の、約540kg/tの溶融フェロニッケル。
【0026】
装入鍋(Charging Ladle)5中にこれらの溶融物を湯出しした後(その際、輸送取鍋5中には最初にフェロクロムが、次にフェロニッケルが注がれる)、得られた金属混合物は、模範的に、次の典型的な組成を持つ。
【0027】
【表1】

【0028】
上記の金属混合物は、今度は輸送取鍋5を用いて後加工用転炉6中に装入され、示される実施例においては、これはAOD−Lであり、そこでは所与の化学的な目的の化学分析値を有するステンレス鋼を生産するために必要な最後のプロセス段階が実行される。次いで、プロセスライン10の終わりには、AOD−L6の次に取鍋処理ステーション(LTS)7を間に置いて配置された、連続鋳造装置(CCM)8が設けられる。
【符号の説明】
【0029】
1 クロム鉱石−原材料混合物
2 ニッケル鉱石−原材料混合物
3 フェロクロム−直接還元炉(SAF)
4 フェロニッケル−直接還元炉(SAF)
5 輸送取鍋(装入鍋(Charging Ladle))
6 AOD−L転炉
7 鋳造用取鍋(LTS)
8 鋳造装置(CCM)
10 プロセスライン
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間生成物であるフェロクロム及びフェロニッケルに関して互いに調整された複数の方法段階における、クロム鉱石及びニッケル鉱石をベースとするステンレス鋼製造のための方法であって、
プロセスライン(10)において行われる次の方法進行:
* 後加工用転炉(6)の上流加工側に並行に配置された2つの直接還元炉(3、4)、例えばSAF炉において、低廉なクロム鉱石原材料混合物(1)とニッケル鉱石原材料混合物(2)を使用して、2つの別個の直接還元プロセスでフェロクロムを有する溶鋼及びフェロニッケルを有する溶鋼を生産すること、
* 2つの直接還元炉(3、4)から輸送取鍋(5)に溶鋼を湯出しし、その際最初にフェロクロムを有する溶鋼を、次にフェロニッケルを有する溶鋼を湯出しすること、
* 輸送取鍋(5)中に含まれるフェロクロムを有する溶鋼及びフェロニッケルを有する溶鋼からなる金属混合物を後加工用転炉(6)に装入すること、
* 上記金属混合物の典型的な精錬、スラグの還元、及び化学的な標的分析の微調節によって、上記転炉(6)中で所望の品質でステンレス鋼を製造すること、
* 生産された溶融ステンレス鋼を鋳造用取鍋(7)に湯出しし、そして該ステンレス鋼を鋳造装置(8)に移すこと、
によって特徴付けられる、上記方法。
【請求項2】
前記直接還元炉(3、4)中へ仕込まれる前記原材料混合物(1、2)が、次の平均組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
* クロム鉱石原材料混合物1=コークス、24〜37%Cr、約30%Feのクロム鉱石
* ニッケル鉱石原材料混合物2=コークス、1.2〜1.5%Ni、約15%Feのニッケル鉱石
【請求項3】
前記直接還元炉(3、4)中において前記原材料混合物(1、2)を用いて実行される還元プロセスが、約1時間周期で例えば次を生産することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
約55%Crを有する約1600℃の、約340kg/tの溶融フェロクロム、並びに、
約15%Niを有する約1600℃とほぼ同じ温度の、約540kg/tの溶融フェロニッケル。
【請求項4】
前記2つの直接還元炉(3、4)から前記輸送用取鍋(5)中で一緒にされた金属混合物が次の典型的な組成を有することを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【表1】

【請求項5】
後加工用転炉(6)として、AOD、AOD−LあるいはMRP、MRP−Lが使用されることを特徴とする、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
転炉(6)における金属混合物の典型的な精錬が、直接還元鉄(DRI)を及び/または炭素スクラップを使って約160kg/tの量で重量を増して行われ、それと同時に、炭素、珪素、及び一部はクロムと鉄の酸化反応による高エネルギーの発生を相殺するための溶融物の冷却が行われることを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2011−500965(P2011−500965A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530334(P2010−530334)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008928
【国際公開番号】WO2009/053044
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(390035426)エス・エム・エス・ジーマーク・アクチエンゲゼルシャフト (320)
【Fターム(参考)】