説明

軸方向に変化する構造を有する導波路

【課題】 付加的な導波路構造変数を与え、分散補償または分散制御導波路の作製に有用な導波路ファイバプリフォーム及びファイバ並びにそのような導波路プリフォーム及びファイバを作製する方法を提供する。
【解決手段】 コアガラス領域及びコアガラス上に配されたクラッドガラス層を含む光導波路ファイバプリフォームにおいて、クラッドガラス層はプリフォームの軸に沿って位置するセグメントに分割され、クラッドガラスの密度は、クラッドガラス密度がセグメントからセグメントにかけて高い値から低い値にあるいは低い値から高い値に変化するように、プリフォーム軸と称される、コア領域に平行な方向に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、本出願人が本出願の優先日として主張する1998年9月15日に出願された、米国仮特許出願第60/100,349号に基づく。
【0002】
本発明は軸方向に変化する構造を有する光導波路プリフォームまたはファイバに向けられる。特に、本発明の新規なプリフォームまたは導波路のクラッド層の屈折率は導波路長に沿って変化する。この変化はクラッド層の多孔度または組成の変化による。本発明は本発明の新規な導波路プリフォーム及びファイバを作製するための方法を含む。
【背景技術】
【0003】
周期構造をもつクラッド層を有する光導波路が論じられてきた。一例として、クラッド層の周期構造は、“オプティックス・レターズ(Optics Letters)”誌,第21巻,第19号(1996年10月1日)の、ナイト(Knight)等による「フォトニック結晶クラッド層をもつ全シリカ単一モード光ファイバ」、及び“オプティックス・レターズ”誌,第22巻,第13号(1997年7月1日)の、バークス(Birks)等による「無限単一モードフォトニック結晶ファイバ」に述べられるような、フォトニック結晶とすることができる。上記二論文では、シリカコア及び多孔シリカクラッドを有する単一モードファイバが述べられている。シリカクラッド層の空孔すなわち気孔は細長く、クラッド層の末端から末端まで伸びている。空孔は周期性をもつ六角形のパターンに配置されて、クラッド層をフォトニック結晶にする。そのように構成された導波路ファイバはいかなる波長においても単一モードファイバとなり得る。
【0004】
多孔質の、すなわち多数の空孔をもつクラッド層を有する導波路ファイバについての別の研究結果が、特許文献1に述べられている。この公開公報では、クラッド層はクラッド層の平均屈折率を低めるはたらきをする細長い空孔をもつ。細長い空孔は周期性のあるパターンには配列されず、よってこの導波路の光導波機構はコア−クラッド境界における反射である。
【0005】
フォトニック結晶クラッド層で得られる、遮断波長範囲の本質的な無限界性、すなわち、あるいは、いかなる遮断波長もおそらく存在しないことが、単一モード導波路構造に有用である。特定の体積の、周期性のない空孔をもつクラッド層による比屈折率差Δも、付加的な構造変数を提供する点で有用である。この体積は、以下に説明されるようにファイバの空気充填率を制御することにより制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許公開公報第0810453号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Knight et al., “All Silica Single Mode Optical Fiber with Photonic Crystal Cladding”, Optics Letters, V.21, No.19, 1 October 96
【非特許文献2】Birks, et al., “Endlessly Single Mode Photonic Crystal Fiber”, Optics Letters, V.22, No.13, 1 July 97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記構造のいずれにも相対屈折率の軸方向変化は与えられていない。そのような軸方向変化は分散を制御しようとする単一モードファイバ構造に有用である。さらに、相対屈折率の軸方向変化はクラッド層によるから、空孔体積、空孔断面積及び空孔パターンのような新しいパラメータ群を、導波路のモードパワー配分を変え、よって主要な導波路ファイバ特性を変えるために利用できる。独特の導波路ファイバ特性が得られる、クラッド構造の軸方向変化を多種多様なコア屈折率プロファイル構造との組合せが考えられる。フォトニック結晶による光導波及び屈折による光導波の両者を組み入れたクラッド層は、導波路構造において分散を制御するために有用であると考えられる。さらに本発明は、空孔の代わりに周期的または無作為に分布する材料からなることを特徴とする配列をもつクラッド層構造をとり入れ、これにより導波路ファイバ構造にさらに別の融通性が与えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の新規な導波路ファイバプリフォーム及びファイバ並びにそのような導波路プリフォーム及びファイバを作製する方法は、付加的な導波路構造変数を与え、分散補償または分散制御導波路の作製に有用である。
【0010】
本発明の第1の態様は、コアガラス領域及びコアガラス上に配されたクラッドガラス層を含む光導波路ファイバプリフォームである。説明を簡便にするため、クラッドガラス層はプリフォームの軸に沿って位置するセグメントに分割されているとする。クラッドガラスの密度は、クラッドガラス密度がセグメントからセグメントにかけて高い値から低い値にあるいは低い値から高い値に変化するように、プリフォーム軸と称される、コア領域に平行な方向に変化する。すなわち、隣接するセグメントのそれぞれの密度は軸方向の位置の単調関数ではない。
【0011】
プリフォームのクラッド層密度は、クラッド層の多孔度を変えることにより、隣接するセグメント間で高から低に及び低から高に変化するようにつくることができる。特に、プリフォーム軸に沿う隣接セグメントのそれぞれは、クラッド層が空孔を含んでいる状態とクラッド層が空孔を実質的に含まない状態との間で交互する。本発明の新規なプリフォームの一実施形態において、空孔は細長く、ピッチすなわち空孔の同位点間の間隔を有し得る周期配列構造に配置される。多くの様々な範囲にあるピッチを選択することができる。光遠距離通信波長で使用するためには、プリフォームから線引きされたファイバのピッチが約0.4μmから20μmの範囲になるようにプリフォームピッチを選ぶことが有益である。ガラスファイバの一般的な外径は約125μmである。前記範囲の最短値は、遠距離通信信号波長範囲でフォトニック結晶を形成するに有効な、線引きファイバのピッチを与える。しかし本願出願人は、数10μmの範囲の間隔すなわちピッチも軸方向に変化するクラッドを有する導波路の作製に有効に用い得ることを実証している。本明細書では上限を20μmとしているが、出願人等はより長いクラッド層構造のピッチの有用性を予期している。構造の間隔すなわちピッチの上限は事実上クラッド層厚から定まる実用限界である。
【0012】
出願人等は、細長い空孔のピッチだけでなく直径も、プリフォームから線引きされた導波路ファイバの特性決定に重要であることを見いだしている。特定の実施形態において、細長い空孔の配列ピッチに対する空孔径の比は約0.1から0.9の範囲にある。
【0013】
プリフォームのコアガラスは、広汎な屈折率プロファイルを有することができる。ある領域の屈折率プロファイルは、その領域内での半径方向の位置の関数としての、屈折率または比屈折率差Δの値である。屈折率プロファイル、セグメント化プロファイル、Δ、及びαプロファイルの定義は技術上既知であり、本明細書に参照として含まれる、アントス(Antos)等の米国特許第5,553,185号またはスミス(Smith)の米国特許第5,748,824号に見ることができる。すなわちプリフォームのコア領域は、いずれも傾斜が急激に変化する部分が丸められていてもよい階段型または台形型、あるいはαプロファイル型とすることができる。さらにコア領域は2つまたはそれ以上の部分にセグメント化され、それぞれの部分が上述のプロファイルのいずれか1つをとることができる。このコア領域構造がクラッド層変調と相まって導波路ファイバの分散特性及びその他の動作性能を定める。
【0014】
シリカのような母材ガラスの屈折率は、酸化ゲルマニウム、アルミナ、リン、酸化チタン、ホウ素、フッ素等のようなドーパントの添加により変えることができる。エルビウム、イッテルビウム、ネオジム、ツリウム、またはプラセオジムのような希土類ドーパントを、線引きして光増幅器導波路ファイバにすることができるプリフォームを準備するために添加することもできる。
【0015】
本発明の新規なプリフォームの別の実施形態においては、プリフォーム軸に沿ってセグメントからセグメントに移る毎に、クラッド密度が2つの値の間で切り換る。この切換りは、前もって選択されたコア構造と相まって、上述したようにファイバの分散制御特性を定める。ここでもやはり、密度はクラッド層の各セグメントの空孔体積を制御することにより制御することができる。別形として、密度は母材クラッド層ガラスに添加されるドーパントガラスの量を制御することにより制御することもできる。ドーパントガラスはクラッドの母材ガラス内の細長いフィラメントとして見える。これらのフィラメントは、上で論じた細長い空孔の配置に類似の周期配列に配置することができる。フィラメントは技術上既知のいくつかのプロセスを用いて形成できることは当然であるが、フィラメントを充填された細長い空孔であるということもできる。フィラメントをもつクラッド層を完全な禁制帯をもつフォトニック結晶の態様で光と相互作用させたければ、フィラメントの大きさ及び間隔は約0.4μmから5μmの範囲のピッチと適合しなければならず、母材ガラスの誘電率は母材ガラスに含まれる柱状ガラスをなすガラスの誘電率の約3倍でなければならない。
【0016】
多孔クラッド層もフィラメント充填クラッド層も、コアの屈折率が構造化クラッド層の平均屈折率と見なされる屈折率より高ければ、コア−クラッド界面での反射により光を導波することができる。
【0017】
上述したプリフォームは、そのプリフォームから光導波路ファイバを線引きする目的で作製される。よって本発明は、本発明の新規なプリフォームから線引きされる光導波路を含む。
【0018】
本発明の別の態様は、新規な導波路がそれから線引きされる新規なプリフォームの作製方法である。第1の方法においては、コアプリフォームが外付け気相成長法及び軸付け気相成長法、並びに内付け(MCVD)法またはプラズマ堆積法を含む、技術上既知のいくつかの方法のいずれかにより作製される。プリフォームのコア部分は空孔がなく中実である。別形として、コアプリフォームを、両端が開き、プリフォーム形成前にはいかなる方法でも変形されていない中空管とすることができる。この中空管は線引き工程中に圧潰して、均質な、または(中空管がドープされていれば)ドープされた中実ガラスコア領域を形成する。中空管を通して伸びる空腔を有する複数本のガラス管が作製される。中空管は中空管に沿う前もって選択された数の位置で縮径され、中心におかれたコアプリフォームのまわりに配置される。縮径中空管のそれぞれは他のどの縮径中空管とも本質的に同じである。中空管は縮径位置である程度または完全に圧潰していてよい。中心におかれたコアプリフォームのまわりに縮径中空管を配置したものが、クラッド層密度の軸方向変化を有するプリフォームである。
【0019】
中空管の断面は円形とすることができ、あるいは3つ以上の側面をもつ多角形とすることができる。中心のコアプリフォームのまわりの中空管は、コア−クラッド界面で望ましい、屈折によるかまたはフォトニック結晶的な、信号と導波路との相互作用のタイプに依存して選ばれる特定の寸法形状をもって、無作為または周期的に配列することができる。フォトニック結晶の特性及び完全禁制帯を有するクラッド層の場合には、中空管の周期的配列のピッチが導波路を伝わる光の信号波長とほぼ同じでなければならない。
【0020】
中空管長に沿って断続的に分布する空孔の代わりに、外囲母材ガラス及び外囲母材ガラスに含まれる柱状ガラスを用いて中空管を作製することができる。中空管の個々のセグメントには、縮径部分形成時にガラス形成粉末またはガラスフィラメントの断片を充填することができ、あるいは縮径が行われる前に中空管にフィラメントを入れることができる。これらのフィラメントまたは粉末充填法のいずれも、充填材が中空管よりかなり低い、例えば20℃をこえる軟化温度を有する充填中空管を提供するプロセスに用いることができる。一方、柱状ガラスの軟化温度に近い軟化温度を有する、より太い中空管内に柱状ガラスと中空管の集成体を収めることにより、柱状ガラスの軟化点が中空管より高い場合が可能となる。そのように構成されたプリフォームから線引きされた導波路がフォトニック結晶としてはたらく場合には、母材ガラスの誘電率は柱状ガラスの誘電率の約3倍以上でなければならない。
【0021】
本方法にしたがって作製されたプリフォームを線引きするためには、プリフォームの各部材を一つにまとめるための何らかの手段が与えられなければならない。本発明の新規なプリフォームの一実施形態において、中空管及びコアプリフォームはより太い中空管内に収められ、前記より太い中空管が中空管及びコアプリフォーム集成体上に圧潰させられる。
【0022】
本プリフォームの別の実施形態において、中空管及びコアプリフォームはチャックに挿入することができ、スート層が中空管に堆積されガラス化される。チャックへの挿入または堆積工程の前に中空管及びコアプリフォームを括束することによりチャックへの挿入を容易に行うことができる。括束はプリフォームの各部材を熱で互いに連結することにより達成される。別形として、プリフォームの各部材を互いにガラス融着するためにフリットを用いることができる。別の括束法はチャックへの挿入が完了するまでプリフォーム部材を一つにまとめておくために結索を用いることである。結索は堆積開始前に取り外すことができるか、あるいは第1のガラススート層の堆積時に容易に燃えてなくなる材料でつくることができる。
【0023】
本発明の別の態様は、一般的構成及び特定の実施形態が上で述べられた本発明の新規なプリフォームから導波路ファイバを作製する方法である。本発明の新規なプリフォームから導波路を線引きする方法の一実施形態は、コアプリフォームを囲む変形中空管のそれぞれの一端を封止する工程及び封止端に対向する一端から導波路ファイバを線引きする工程を含む。変形中空管内の空孔は中空管内に封入されているので線引き工程を通して存続する。中空管の間の望ましくない空孔または気孔は、導波路が線引きされる端に対向するプリフォーム端に真空を与えることにより、線引き工程中に圧潰させることができる。
【0024】
本方法の別の実施形態では、線引き工程前の、コアプリフォームを囲む中空管の一端を封止する工程が省略される。中空管の長さに沿って断面積を変える工程も省略することができる。この実施形態においては、線引き工程中に、封止されていない中空管にガス圧が印加される。中空管の内部ガス圧増加により、中空管の空腔は変わらないままでいるかあるいは大きくなる。内部ガス圧が減少すると、中空管内の空腔は線引き時に小さくなるかあるいは完全に閉じる。すなわち、ガス圧を変えることにより導波路ファイバクラッド層の密度の軸方向変化をつくることができる。この実施形態の利点はクラッド密度を中実ガラスから、完成導波路ファイバの所望の形状寸法とともに、クラッド層の開放中空管の数及び中空管の最小壁厚によってのみ制限される最大多孔度を有するガラスまで本質的に連続的に変え得ることである。窒素またはヘリウムのような不活性加圧ガスが好ましい。中空管の間の望ましくない間隙空孔または気孔も同様に印加圧力にさらされる。間隙空孔の大きさに対する中空管内空孔の大きさに依存して、プロセスは:
−全ての空孔が圧潰するかまたは閉じる;
−全ての空孔が開いたまま残される;
−間隙空孔が開いたまま残され、一方中空管内空孔は閉じる;または
−中空管内空孔が開いたまま残され、一方間隙空孔は閉じる;のいずれか1つである。圧力制御により、最終間隙空孔寸法の最終中空管内空孔寸法に対する比の値を本質的に連続的に変化させ得ることは当然である。
【0025】
本方法のまた別の実施形態において、プリフォーム部材はコアプリフォームのまわりに配置されたガラスロッド配列からなるクラッド層を有する、上述したようなコアプリフォームである。ロッド配列は、周期的または無作為な空孔列がロッド間にまたはロッドを介して存在するように形作られる。線引き工程中にこのプリフォームに真空を断続的に与えることにより、ロッド間の空孔を元の空孔断面積に等しいかそれより小さい値から下げてゼロの最小断面積まで断続的に変えることができ、よって軸方向密度変化を有する導波路を作製することができる。開放中空管について上述したように、空孔にガス圧を印加することにより、同じ断続的断面積変化を達成することができる。この場合もやはり、可能なクラッド層密度を、中実ガラス材の密度からプリフォーム部材及びプリフォームから線引きされる導波路の寸法によってのみ制限される多孔度を有する多孔ガラス材の密度まで、本質的に連続的に変化させることができる。この実施形態におけるプリフォーム構成は、中立圧で粘性力が空孔を閉じるはたらきをするように選ばれる。次いで、線引き中に変調加圧をプリフォームに与えることにより空孔寸法を変調することができる。これは、空孔寸法を変調減圧により変調することができるようにプリフォーム構成が選ばれる先の実施形態とは逆である。
【0026】
本発明の新規な導波路の特に有用な実施形態は、全分散が導波路のセグメント毎に制御される導波路である。前もって選ばれたコア屈折率プロファイルをクラッド層セグメント密度の特定の変化パターンと組み合わせることにより、全分散を正と負の値の間で交互させる。正の全分散を有する導波路ファイバにおいては波長が短くなるほど光は長波長の光より速く進む。この結果は、セグメント長とセグメントの全分散との積の導波路ファイバの全長にわたる代数和、すなわち正味の全分散を前もって選ばれた目標値に等しくし得ることである。例えば、導波路のどのセグメントも全分散がゼロではなくとも、導波路ファイバの正味の全分散をゼロに等しくすることができる。
【0027】
本発明の新規なプリフォーム及びこのプリフォームから線引きされた光導波路の上記及びその他の特徴を、図面を用いてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】断面が円形の中空管の図
【図1B】断面が六角形の中空管の図
【図2】縮径されたセグメントを有する中空管の見取り図
【図3】コアプリフォームのまわりに配置されて、より太い支持中空管内に挿入された六角中空管の図
【図4】コア領域及び多孔または複合クラッド層を有するプリフォームまたは導波路の断面図
【図5】コア領域及び、クラッド層中空管の間の間隙空孔による空孔をもつ、多孔クラッド層を有する導波路の断面図
【図6A】中実クラッド層を有するプリフォームまたは導波路の断面を示す図
【図6B】多孔または複合クラッド層を有するプリフォームまたは導波路の断面を示す図
【図6C】中実クラッド層を有するプリフォームまたは導波路のコア屈折率プロファイルの例を示す図
【図6D】多孔または複合クラッド層を有するプリフォームまたは導波路の図6Cに対応するコア屈折率プロファイルを示す図
【図6E】中実クラッド層を有するプリフォームまたは導波路のコア屈折率プロファイルの別の例を示す図
【図6F】多孔または複合クラッド層を有するプリフォームまたは導波路の図6Eに対応するコア屈折率プロファイルを示す図
【図6G】中実クラッド層を有するプリフォームまたは導波路のコア屈折率プロファイルのまた別の例を示す図
【図6H】多孔または複合クラッド層を有するプリフォームまたは導波路の図6Gに対応するコア屈折率プロファイルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の新規な導波路プリフォームまたは導波路ファイバは、導波路コアの屈折率より低い、軸方向に変化する屈折率を有するクラッド層の導波特性を利用する。導波路長の少なくともある部分にかけて禁制帯を有するフォトニック結晶としてはたらく構造にクラッド層をつくることにより導波がなされる導波路ファイバが考えられる。それぞれのタイプのクラッドにおいて、クラッド材の組成または分布を変えることにより、所望のクラッド特性が得られる。
【0030】
一実施形態では、特定の大きさ及び形状の空孔を含めることによりクラッド層が変えられる。類似の実施形態において、母材クラッドガラスとは異なる誘電率を有する材料が空孔の代わりに含められる。いずれの場合においても、導波路内の信号光のモードパワー分布が影響を受け、よって導波路特性が影響を受ける。本発明の新規な導波路プリフォームまたはファイバにおいてはコアもクラッドも変えることができるから、非常に高い融通性が光導波路ファイバ設計者に与えられる。
【0031】
本明細書に開示され、説明される注目すべき実施形態は、細長い空孔またはガラスフィラメントがクラッド層に含められる実施形態である。そのようなクラッド層で考え得る2種の下部構造が、それぞれが中心軸空孔4及び6を有する中空管の断面図である、図1A及び1Bに示されている。空孔を囲む材料は、図1Aでは円形2であり、図1Bでは六角形8である。外形は、クラッド層の下部構造により形成される好ましい空孔パターンに適合するように選ばれる。
【0032】
空孔4及び6は、周囲のガラス材、すなわち母材ガラスの誘電率とは異なる誘電率を有するガラスからなる材料で充填することができる。
【0033】
前記下部構造の内の1つを変える方法の工程が図2に示される。くぼみ12が例示的中空管10に形成されている。くぼみは、中心空孔またはフィラメントに、中空管の中心空孔が変形されていない領域16により隔てられた狭領域14をつくる。このような下部構造をコア領域のまわりに集成することにより、屈折率が軸方向に変化するクラッド層が得られる。さらに、中心空孔またはフィラメント18が周期配列を形成するように下部構造を配置することができる。周期配列は、好ましい波長範囲で用いるために設計されたフォトニック結晶のピッチをもつことができる。現在の所、遠距離通信用途に重要な波長範囲は約600nmから2000nmである。
【0034】
本発明にしたがう導波路プリフォームが図3に示される。本例において、下部構造は断面が本質的に同じ六角形の中空管20及び22である。中空管22と22との間の濃淡の差は複数種の下部構造により、次いでクラッド層に集成される二次構造を形成できることを示す。別形として、下部構造の組成が異なり、個々の下部構造より大きな合成面積を有する合成パターンを形成するように集成できることを濃淡で示すことができる。そのような集成体は例えば、二次構造が押し出されて集成され、次いで線引きされて所望の断面積にされるプロセスで作製することができる。押出及び線引きプロセスは、1998年7月30日に出願された、米国仮特許出願第60/094,609号に開示され、説明されている。
【実施例】
【0035】
図3を参照すれば、導波路プリフォーム及びファイバを以下のようにして作製することができる。中心軸に沿う空腔を有する六角形下部構造20及び22がコアプリフォーム30を囲むクラッド層に集成される。コアプリフォーム30を囲む六角中空管の全集成体は、中空管28内に入れられることにより安置される。図の細部に、下部構造の空腔が点26で示される。
【0036】
本例において、中空管20及び22の表面にはくぼみがない。中空管の図3の面における端は、空腔を示す例示的な点26により未封止として示されている。
【0037】
中空管28はプリフォームを導波路ファイバに線引きする前または線引き中に集成体上に圧潰させることができる。適切なクラッド多孔度制御を確実に行うため、線引き工程中に大気圧をこえる範囲の圧力が中空管28に印加される。大気圧に始まり前もって定められた大気圧をこえる圧力に終わる第1の圧力範囲にわたり、線引き工程中に存在する粘性力の作用により下部構造の空腔は閉じるであろう。第1の圧力範囲の最高圧力より若干高い圧力に始まり上昇し続ける第2の圧力範囲にわたり、線引き完了後にも空腔はクラッド層内に存在するであろう。空腔の大きさは印加圧力の大きさにより制御される。下部構造の空腔に印加される圧力は、線引き工程中の第1の圧力範囲における値から第2の圧力範囲における値まで変えられる。すなわち、空腔径はゼロから、第2の範囲から選ばれる圧力に対応する前もって選ばれた径まで変わる。印加圧力の変調により、対応するクラッド層密度すなわち屈折率の軸方向変調がつくられる。すなわち、クラッド層の密度及び平均屈折率が導波路ファイバの軸方向に沿って変わる。
【0038】
実施例1
光導波路プリフォームを、本実施例では下部構造の端が封止されていることを除き、上記例で説明したようにして作製する。さらに、中空管には図2に示したようにくぼみがつけられている。下部構造中空管のくぼみのそれぞれは、中空管28内の他の中空管のくぼみのそれぞれに合わせられる。このくぼみ合わせは上述したような括束またはその他の手段により維持される。
【0039】
下部構造中空管の封止端に対向するプリフォーム端から光導波路ファイバを線引きする。線引き中には、下部構造中空管が封止されているプリフォーム端側でプリフォーム中空管28に真空を与えることができる。よって、変形された、すなわちくぼみがつけられた、封止されている中空管は、プリフォームの下部構造と本質的に同じパターンに配置された、細長い空孔を形成する。中空管のくぼみ部分は圧潰して、実質的に均質なクラッド断面を形成する。細長い空孔は、実質的に均質な断面を有する、上記の圧潰したクラッド区画で一つずつ軸方向に隔てられる。細長い空孔は下部構造の管壁により断面内で一つずつ隔てられる。線引き中にプリフォームにはたらく粘性力とともに、真空が下部構造中空管の間の不要な間隙空孔を閉じるはたらきをする。
【0040】
本比較実施例のプリフォーム及び導波路の一実施形態において、プリフォームのコア部分は所望の組成及び封止されていない末端を有する中空管の集成体とすることができる。線引き中に、粘性力が印加真空とともに封止されていないコア中空管の空腔を閉じて中実ガラスコアをつくるように作用する。
【0041】
図4は、本実施例にしたがって線引きされた導波路ファイバの断面写真からとられた図である。コア領域32は中実ガラスであり、クラッド領域の断面はクラッド層の平均屈折率を低下させるはたらきをする例示的空孔34を含む。
【0042】
信号波長がフォトニック結晶の禁制帯にあるため信号がコア領域に閉じ込められるフォトニック結晶を形成するような寸法または配置に空孔34をつくり得ることは当然である。
【0043】
実施例2
別のプロセスは、下部構造が中実であり、上述の実施例1と同様に太い中空管内に配置されるプロセスである。しかしこの場合には、下部構造は変形されていない。線引き中に真空が中空管28に断続的に与えられ、よって、間隙空孔、すなわち下部構造間の空孔が交互に、圧潰するか(真空が与えられる)あるいは細長い空孔のままクラッド層内に残る(真空が切られる)。このようなプロセスの結果が、導波路ファイバのクラッド層の断面写真からとられた図である、図5に示される。クラッド層に存在する細長い空孔36が中実の母材クラッドガラス38の間に散在している。軸方向には、実質的に均質な空孔のないクラッドガラスからなる無孔部分でクラッドの多孔部分が一つずつ隔てられている。
【0044】
クラッド層への空孔導入効果が、図6を構成する4対の図で示される。図6Aには導波路ファイバの無孔部分の断面が示されている。コアまたはコアプリフォーム40は中実クラッドガラス層42で囲まれている。図6Bでは、コアまたはコアプリフォーム44は多孔クラッド層42で囲まれている。図6A及び6B,図6C及び6D,図6E及び6F並びに図6G及び6Hのコアは互いに一致し、それぞれの対は同じプリフォームから線引きすることができる。それぞれの対の第1の構成要素、すなわち図6A,6C,6E及び6Gは中実クラッド層を有し、一方前記対の第2の構成要素のそれぞれ、すなわち図6B,6D,6F及び6Hは多孔クラッド層を有する。
【0045】
多孔クラッド層の細長い空孔の効果は、屈折率プロファイルを示す3対の図に示される。例えば図6Cの階段型屈折率プロファイルのコア48は、クラッド層屈折率49に対して異なる屈折率を有する。図6Cは図6Aの中実コア及びクラッド構造に対応する。比較して、図6Dに示されるように、コア屈折率50と多孔クラッド層の平均屈折率51との間の屈折率差はより大きい。図6Cの屈折率プロファイルを特徴とする導波路部分における信号のモードパワー分布は、図6Dの屈折率プロファイルを有する導波路領域を伝搬する信号のモードパワー分布に比較して広くなるであろう。全分散、全分散傾き、遮断波長、ゼロ分散波長のようなその他の特性も、本発明の新規な導波路に沿う相異なる軸方向部分で相異なることは当然である。1つの適切に構成されて線引きされるプリフォームから、導波路ファイバ特性に上記の軸方向変化を有する導波路ファイバがつくられる。
【0046】
図6C及び6Dと同様に、図6E及び6Fはコアが3つのセグメントを有する場合についての相対屈折率を示す。コア52はクラッド層53に対するある与えられた屈折率プロファイルを有する。クラッド層に空孔を導入することにより、コア屈折率54とクラッド層屈折率55との間に、より大きな屈折率差が得られる。この場合にもやはり、比屈折率差が導波路を伝搬する信号のモードパワー分布を変える。
【0047】
図6G及び6Hにおいては、クラッド屈折率の軸方向変化により、クラッド層57に対して、3つの明瞭な環状領域60,62及び64を有する第1のコアプロファイル56が生じる。対照的に、多孔質すなわち多数の空孔をもつクラッド層59の屈折率に対するコアプロファイル58には、明瞭な環状領域が66及び68の2つしかない。
【0048】
本発明の新規な導波路プリフォーム及びこのプリフォームから線引きされた導波路ファイバの分散補償能力は図6(C〜H)から容易にわかる。さらに、モードパワー分布制御により、カットオフ波長、ゼロ分散波長、並びに導波路分散の大きさ及び符号のような主要な導波路ファイバパラメータを制御でき、よって本発明の新規な導波路の使用における高い融通性が与えられる。
【0049】
本発明の特定の実施形態を本明細書に開示し、説明したが、それにも関わらず本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0050】
20,22,28 中空管
34,36 空孔
40,44 コア領域
42,46 クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無作為に配列された空孔を含む多孔クラッド層で囲まれた空孔のない中実のコア領域を含む光ファイバであって、前記空孔のあるクラッド層が、前記中実のコア領域から間隔をあけていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記空孔のあるクラッド層が、細長く、前記空孔のあるクラッド層内で中実のクラッドガラスマトリクスに沿って分散した空孔を含むことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記コアガラス領域が、ステップ型、丸められたステップ型、台形型およびαプロファイルからなる群より選択される屈折率プロファイルを有することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアガラスが、酸化ゲルマニウム、アルミナ、リン、酸化チタン、ホウ素およびフッ素からなる群より選択されるドーパントでドープされたシリカガラスを含むことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアガラスが、アルミナ、リン、酸化チタンおよびフッ素からなる群より選択されるドーパントでドープされたシリカガラスを含むことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記コアガラスが、酸化ゲルマニウムでドープされたシリカガラスを含むことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記コアガラスの前記屈折率プロファイルが、ステップインデックス屈折率プロファイルを含むことを特徴とする請求項6記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記クラッド層の空孔が、細長く、前記プリフォームの軸に沿って長さを有することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記コアガラス領域が、エルビウム、イッテルビウム、ネオジム、ツリウムおよびプラセオジウムからなる群より選択される物質でドープされたシリカを含むことを特徴とする請求項1記載の光ファイバ。
【請求項10】
多孔ガラスクラッド層で囲まれた空孔のない中実のコアガラス領域を含む光ファイバであって、前記中実のコアガラス領域が、エルビウム、イッテルビウム、ネオジム、ツリウムまたはプラセオジウムでドープされたシリカガラスを含むことを特徴とする光ファイバ。
【請求項11】
前記多孔クラッド層が、無作為に配列された空孔を含むことを特徴とする請求項10記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記多孔クラッド層が、前記中実のコアガラス領域から間隔をあけていることを特徴とする請求項10記載の光ファイバ。
【請求項13】
多孔クラッド層で囲まれた空孔のない中実のコア領域を含む光ファイバを作製するための光導波路プリフォームであって、前記多孔クラッド層が、前記中実のコア領域から間隔をあけて無作為に配列された空孔を含むことを特徴とする光導波路プリフォーム。
【請求項14】
前記多孔クラッド層が、細長く、前記多孔クラッド層内で中実のクラッドガラスマトリクスに沿って分散した空孔を含むことを特徴とする請求項13記載の光導波路プリフォーム。
【請求項15】
前記コアガラスが、アルミナ、リン、酸化チタンおよびフッ素からなる群より選択されるドーパントでドープされたシリカガラスを含むことを特徴とする請求項13記載の光導波路プリフォーム。
【請求項16】
前記コアガラスが、酸化ゲルマニウムでドープされたシリカガラスを含むことを特徴とする請求項13記載の光導波路プリフォーム。
【請求項17】
前記コアガラスの屈折率プロファイルが、ステップインデックス屈折率プロファイルを含むことを特徴とする請求項13記載の光導波路プリフォーム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【公開番号】特開2010−140045(P2010−140045A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15147(P2010−15147)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【分割の表示】特願2000−570621(P2000−570621)の分割
【原出願日】平成11年8月10日(1999.8.10)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】