説明

軸継手およびこの軸継手を備えた車両のシャフトドライブ式動力伝達装置

【課題】本発明は、ラバー部材が備えられている軸継手において、生産性を高める技術を提供することを課題とする。
【解決手段】軸継手65は、第1の軸の軸端66にダンパ機構42を介して第2の軸64を被せてなり、ダンパ機構42は、円筒形状のラバー部材71と、このラバー部材71に溶着され内面73に雌スプライン74が形成されている内輪75と、ラバー部材に溶着され外面83に雄スプライン84が形成されている外輪85とからなり、第1の軸端66に雌スプライン74に嵌合する軸側雄スプライン131が設けられ、第2の軸64に雄スプライン84に嵌合する軸側雌スプライン132が設けられており、第1の軸63および第2の軸64にダンパ機構42がスプライン結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラバー部材が備えられている軸継手の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの駆動力をドライブシャフトで後輪に伝達するときに、ドライブシャフトにラバー部材が備えられている軸継手を介在させることがある。ラバー部材のクッション作用により、エンジンの動力をおだやかに後輪へ伝達することができる。
加えて、後輪からエンジンに向かう負荷がラバー部材のクッション作用で低減できるため、エンジンの保護が図れる。このようなはたらきをもった軸継手が各種知られている(例えば、特許文献1(図6)参照。)。
【0003】
特許文献1の図6において、エンジンの動力を車輪に伝達するドライブシャフト40(符号は、同公報のものを流用する。以下同じ。)に、小筒部42の軸端部と、この小筒部42の軸端部に被せた大筒部41との間をつなぐダンパ43(以下、「ラバー部材43」と云う。)と、が備えられている。大筒部41と小筒部42とは同心円状に配置され、大筒部41と小筒部42との間に、複数のラバー部材43が配置されている。ラバー部材43の内周面は、小筒部42に溶着され、ラバー部材43の外周面は、大筒部41に溶着されている。ここで、軸継手とは、小筒部42の軸端部にラバー部材43を介して大筒部41を被せたものである。
【0004】
上記ラバー部材43が備えられているドライブシャフト40を製造する場合には、小筒部42の外周に複数のラバー部材43を並列にセットし、ラバー部材43が付いた形態の小筒部42を加熱装置へ入れ、小筒部42の外周にラバー部材43を溶着させる。次に、加熱装置から小筒部42を取り出し、ラバー部材43付きの小筒部42に大筒部41を挿入する。そして、小筒部42と大筒部41とを再度加熱装置へ入れ、ラバー部材43を大筒部41に溶着させ、ドライブシャフトを製造する。
かかる構造では、小筒部42とラバー部材43とを溶着させた後、別途、ラバー部材43と大筒部41とを溶着させる必要があった。つまり、溶着工程は少なくとも2つが必要となっており、生産性向上の点で改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−230382公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ラバー部材が備えられている軸継手において、生産性を高める技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、第1の軸の軸端にダンパ機構を介して第2の軸を被せてなる軸継手において、ダンパ機構は、円筒形状のラバー部材と、このラバー部材の内周面に溶着され内面に雌スプラインが形成されている内輪と、ラバー部材の外周面に溶着され外面に雄スプラインが形成されている外輪とからなり、第1の軸端に、雌スプラインに嵌合する軸側雄スプラインが設けられ、第2の軸に、雄スプラインに嵌合する軸側雌スプラインが設けられており、第1の軸および第2の軸にダンパ機構がスプライン結合されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、複数個のダンパ機構が、第1の軸の軸方向に配列されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、第1の軸の先端が、第2の軸に回転自在に支持されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明では、第1の軸の先端部は、第2の軸にころ軸受により回転自在に支持されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明では、車両のシャフトドライブ式動力伝達装置は、請求項1〜4のいずれか1項記載の軸継手と、第2の軸に連結されエンジンの出力を伝達するエンジンの出力軸と、第1の軸に連結される最終減速機の入力軸と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、ダンパ機構は、ラバー部材と内輪と外輪とからなり、ラバー部材の内周面に内輪が溶着され、ラバー部材の外周面に外輪が溶着されている。そして、内輪の内面に形成されている雌スプラインを第1の軸に形成した軸側雄スプラインに結合し、外輪の外面に形成されている雄スプラインに第2の軸に形成した軸側雌スプラインを結合した。
【0013】
従来、第1の軸と第2の軸の間にラバー部材を介在させたダンパ機構が設けられている軸継手を製造する場合に、第1の軸の外周にラバー部材をセットし、第1の軸にラバー部材を溶着させる。次に、ラバー部材の周囲に第2の軸を挿入し、第2の軸にラバー部材を溶着させる。上記構造では、溶着工程は少なくとも2つ必要となる。加えて、長尺物である第1の軸と第2の軸の間に、ラバー部材を溶着させるためには、専用の加熱(溶着)設備が必要となっていた。
【0014】
この点、本発明では、ラバー部材の内周面に内輪が溶着され、ラバー部材の外周面に外輪が溶着されている。そして、内輪と外輪とが溶着されているラバー部材を第1の軸にスプライン結合可能にし、前記ラバー部材を第2の軸にスプライン結合可能にした。
【0015】
上記構成であれば、外輪と内輪とを溶着させる工程を、1つの工程で済ますことが可能になる。その後、内輪および外輪を溶着させた後のラバー部材を、第1の軸および第2の軸部へスプライン結合させるだけで済む。したがって、溶着工程を1つにすることができ、長尺物の軸にラバー部材を加熱溶着する専用設備は不要となる。加えて、従来のように、溶着工程の前後で、重量が嵩み長尺物である第1の軸や第2の軸を出し入れし、搬送するなどの作業がなくなるため、作業時間の短縮が可能となる。この結果、軸継手の製造費用を低減させ、軸継手の生産性を高めることが可能になる。
加えて、第2の軸と第1の軸の間に外輪および内輪とが設けられているので、心ずれが発生する心配はない。
【0016】
請求項2に係る発明では、ダンパ機構は、第1の軸の軸方向に配列されている。ダンパ機構を複数個としたので、個々のダンパ機構ごとに加熱し、ラバー部材へ外輪および内輪を溶着させることが可能になる。ダンパ機構は分割されているので、1つあたりのダンパ機構は小型化され、ラバー部材に内輪と外輪とを溶着させる加熱装置を小型化させることができる。加えて、溶着の際、ダンパ機構のみを加熱すれば良く、軸端部を加熱する必要がないため、加熱に係るエネルギを減らすことができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、第1の軸の先端部は、第2の軸に回転自在に支持されているので、第1の軸と第2の軸との間に心ずれが発生することを防止することができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、第1の軸の先端部は、第2の軸の他端に設けた軸受によって支持されているので、第1の軸と第2の軸との間の心ずれを簡便な手段で防止することができる。
【0019】
請求項5に係る発明では、軸継手は車両のシャフトドライブ式動力伝達装置に内蔵され、第2の軸はエンジン出力軸に連結され、第1の軸は車輪側に設けた終減速機の入力軸に連結されている。
【0020】
第1の軸および第2の軸にダンパ機構がスプライン結合されている。軸継手に備えられているダンパ機構は、第1の軸および第2の軸とは、別個に生産され、第1の軸および第2の軸に取付可能である。上記構成であれば、ダンパ機構の製造の際必要な溶着工程を、1つの工程で済ますことが可能になる。その後、ダンパ機構を第1の軸および第2の軸部へスプライン結合させるだけで済む。したがって、溶着工程を1つにすることができ、長尺物の軸にラバー部材を加熱溶着する専用設備は不要となる。加えて、溶着工程の前後で、第1の軸や第2の軸を出し入れし、搬送するなどの作業がなくなるため、作業時間の短縮が可能となる。この結果、シャフトドライブ式動力伝達装置の製造費用が低減され、シャフトドライブ式動力伝達装置の生産性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る軸継手が備えられている自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】本発明に係る軸継手に備えられているダンパ機構の断面図である。
【図4】本発明に係るダンパ機構の加工工程を説明する図である。
【図5】本発明に係るダンパ機構が備えられている軸継手の分解斜視図である。
【図6】本発明に係るドライブシャフトに備えられている軸継手の断面図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】図6の別実施例図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図中および実施例において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、各々、自動二輪車に乗車する運転者から見た方向を示す。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0023】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1において、自動二輪車10は、車体の先端部にヘッドパイプ11が設けられ、このヘッドパイプ11から後方に車体フレーム12が延設され、この車体フレーム12にエンジン13が懸架されている小型車両である。
【0024】
ヘッドパイプ11から下方にフロントフォーク14が延設され、このフロントフォークの下端部に前輪15が取り付けられ、フロントフォーク14の上端部に前輪15を操向する操向ハンドル16が取り付けられている。
車体フレーム12は、エンジン13の後方で下方に延びているピボット部17を有し、このピボット部17に設けたピボット軸18を軸として揺動可能にスイングアーム21が設けられ、このスイングアームの先端部22に後輪23が取り付けられている。スイングアームの中間部24に、リンク機構25が設けられ、このリンク機構25と車体フレーム12の間にリヤクッションユニット26が設けられている。
【0025】
車体フレーム12の前部および側部に、車体を覆うカウル28が設けられている。また、操向ハンドル16の後方に燃料タンク29が設けられ、この燃料タンク29の後方に乗員シート31が設けられている。
【0026】
かかる自動二輪車10において、動力伝達装置33として、シャフトドライブ式が採用されている。すなわち、自動二輪車10に、ドライブシャフト34が備えられ、このドライブシャフト34によってエンジン13の駆動力を後輪23へ伝達する。
【0027】
以下、スイングアームの構造および動力伝達装置の詳細について説明する。
図2において、スイングアーム21は、ピボット部17に設けたピボット軸18に揺動可能に支持されている。スイングアーム21は、ピボット軸18で支持される筒状の前部38と、この前部38から後方に延びる筒状のメインアーム39と、このメインアーム39を前記筒状の前部38に支持するサブアーム41とを一体に備えている。メインアーム39にドライブシャフト34が収納されている。ドライブシャフト34に、エンジンのトルク変動による衝撃などを緩和するダンパ機構42が内蔵されている。
【0028】
エンジンの出力軸45に、第1自在継手46が連結され、この第1自在継手46に、ドライブシャフト34が連結され、このドライブシャフトの軸端47に、第2自在継手49が連結されている。第2自在継手49にカップ状部51が備えられており、このカップ状部51の後端部から車両の後方へ延設軸が延びており、この延設軸が終減速機52の入力軸53となっている。
入力軸53は、前軸受55および後軸受56によって支持されている。
【0029】
入力軸53にドライブ歯車57が取り付けられ、後輪車軸59にドライブ歯車57と噛み合うドリブン歯車58が取り付けられている。つまり、終減速機52は、ドライブ歯車57とドリブン歯車58とからなる。ドライブ歯車57とドリブン歯車58は、ともにかさ歯車であり、前記一対のかさ歯車によって回転軸方向を90°変更することができる。後輪車軸59はスイングアームの先端部22に設けた後輪軸受61により回転自在に支持されている。
【0030】
ドライブシャフト34は、車両の後方から前方に、第1の(中空)軸63とこの第1の軸63に被せた第2の(中空)軸64と、第1の軸63と第2の軸64の間に介在させたダンパ機構42とからなる。
【0031】
すなわち、車両(自動二輪車10)のシャフトドライブ式動力伝達装置33には、エンジン13の出力を伝達するエンジンの出力軸45に、第1自在継手46を介して連結した第2の軸64と、この第2の軸64に連結したダンパ機構42と、このダンパ機構42に連結した第1の軸63と、この第1の軸63に連結した終減速機52の入力軸53と、この入力軸53に取り付けたドライブ歯車57と、このドライブ歯車57に取り付けた後輪車軸59と、が備えられている。軸継手65は、第1の軸の軸端66にダンパ機構42を介して第2の軸64を被せてなる。
【0032】
次に、ドライブシャフトに設けられているダンパ機構42の構造につき説明する。
図3において、ダンパ機構42は、円筒形状のラバー部材71と、このラバー部材の内周面72に溶着され内面73に雌スプライン74が形成されている内輪75と、ラバー部材の外周面82に溶着され外面83に雄スプライン84が形成されている外輪85とからなる。ラバー部材の内周面72に、内輪75が溶着され、ラバー部材の外周面82に、外輪85が溶着されている。このような構成をもつダンパ機構42の製造方法について次図で説明する。
【0033】
図4(a)において、内輪75の外周面76にラバー部材71の内周面72を嵌合し、このラバー部材71の外周面82に外輪85の内周面86を嵌合する。
図4(b)において、ラバー部材714の内周面72に内輪75が嵌合され、ラバー部材71の外周面82に外輪85が嵌合された状態で溶着前のダンパ機構42が示されている。
【0034】
図4(c)において、ダンパ機構42を加熱(溶着)装置88に入れ、例えば、電熱線89、89によって、装置内を所定温度に昇温させ、所定時間で内輪75および外輪85にラバー部材71を溶着させる。以上で、ラバー部材71に内輪75と外輪85とが相互に固着されているダンパ機構42を製造することができる。
【0035】
以下、ドライブシャフト34の構成について説明する。
図5において、ドライブシャフト34は、第1の軸63とこの第1の軸63の周囲に嵌合する複数のダンパ機構42(ダンパ部材42)と、これらの複数のダンパ部材42の周囲に嵌合する第2の軸64とを主要構成とする。
第1の軸の軸端66に軽量穴としての中空部91が形成され、この中空部91に端軸92が取り付けられ、この端軸92に第1軸受93が嵌合され、第1の軸63であって軸側雄スプライン131の後方に摺動面94が形成され、この摺動面94に第2軸受95が嵌合される。
【0036】
ドライブシャフト34の組立方法について以下に説明する。
ダンパ機構42を複数個準備し、これらのダンパ機構42に備えられている内輪の内面73に形成した雌スプライン74を、第1の軸の軸端66に形成した軸側雄スプライン131に結合し、次に、ダンパ機構42に備えられている外輪の外面83に形成した雄スプライン84を、第2の軸64に形成した軸側雌スプライン132に結合した。
【0037】
図6において、ドライブシャフト34は、第1の軸63と、この第1の軸63に挿入し嵌合されている8つのダンパ機構42と、これらのダンパ機構42に嵌合されている中空軸としての第2の軸64と、第1の軸63に取り付けた端軸92と、を主要な要素とし、第2の軸64の内周面68に形成した軸側雌スプライン132に、第1自在継手46の後端部外周面101に形成した雄スプライン112を嵌合したものである。
【0038】
第1自在継手46の後部内周面102に第1軸受93を嵌め、この第1軸受93に端軸92を嵌めた。端軸92は、あらかじめ、第1の軸63の先端部に開けた中空部91に取り付けられている。
第1の軸63の外周面67であって、第2の軸64の後端部に相当する部位に、摺動面94を設け、この摺動面94に第2軸受95を嵌め、この第2軸受95を第2の軸64の後部内周面69に嵌めた。第1軸受93の前部および後部に、第1軸受93の前後移動を規制する規制ピン104、105が設けられている。同様に、第2軸受95の前部および後部に、第2軸受95の前後移動を規制する規制ピン106、107、108が設けられ
ている。
【0039】
なお、第1軸受93および第2軸受95は、いずれも玉軸受としたが、ジャーナル軸受に変更することは差し支えない。玉軸受は、ボール軸受、ニードル軸受、円錐ころ軸受、スラスト軸受などいずれの軸受を利用しても良いものとする。
【0040】
図7において、第1の軸の軸端66(第1の軸端66)に、雌スプライン74と嵌合する軸側雄スプライン131が設けられ、第2の軸64に、ダンパ機構42に設けた雄スプライン84と嵌合する軸側雌スプライン132が設けられている。すなわち、第1の軸63および第2の軸64にダンパ機構42がスプライン結合されている。
ダンパ機構42は、円筒形状のラバー部材71と、このラバー部材の内周面72に溶着され内面73に雌スプライン74が形成されている内輪75と、ラバー部材の外周面82に溶着され外面83に雄スプライン84が形成されている外輪85とからなる。
【0041】
以上に述べた軸継手の作用を次に述べる。
図6を併せて参照して、複数個のダンパ機構42を準備し、これらのダンパ機構42を第1の軸端66と第2の軸64の間に嵌合させた。
【0042】
従来、第1の軸と第2の軸の間にラバー部材を介在させたダンパ機構が設けられている軸継手を製造する場合に、第1の軸の外周にラバー部材をセットし、第1の軸にラバー部材を溶着させる。次に、ラバー部材の周囲に第2の軸を挿入し、第2の軸にラバー部材を溶着させる。かかる構造では、溶着工程は少なくとも2つ必要となる。加えて、長尺物である第1の軸と第2の軸の間に、ラバー部材を溶着させるためには、専用の設備が必要となっていた。
【0043】
この点、本発明では、ラバー部材の内周面72に内輪75が溶着され、ラバー部材の外周面82に外輪85が溶着されている。そして、内輪75と外輪85とが溶着されているラバー部材71を第1の軸63にスプライン結合可能にし、ラバー部材71を第2の軸64にスプライン結合可能にした。
【0044】
上記構成であれば、外輪85と内輪75とを溶着させる工程を、1つの工程で済ますことが可能になる。その後、内輪75および外輪85を溶着させた後のラバー部材71を、第1の軸63および第2の軸64へスプライン結合させるだけで軸継手を製造することが可能になる。したがって、溶着工程を1つにすることができ、長尺物の軸を加熱するための専用設備が不要となる。
【0045】
加えて、従来のように、溶着工程の前後で、重量が嵩み長尺物である第1の軸や第2の軸を取り回す作業がなくなるため、作業性が高まり、作業時間の短縮が可能となる。この結果、軸継手の製造費用を低減させ、軸継手の製造性を高めることが可能になる。
【0046】
さらに、第2の軸64と第1の軸63の間に外輪85および内輪75とが設けられているので、心ずれが発生する心配はない。心ずれとは、第2の軸64の軸心と第1の軸63の軸心間の半径方向の位置偏差である。
【0047】
第1の軸端66は、第1自在軸継手65を介して第2の軸64に回転自在に支持されているので、第1の軸63と第2の軸64との間に心ずれが発生することを防止することができる。具体的には、第2の軸の他端111に第1自在軸継手65が嵌合され、この第1自在軸継手65に設けたころ軸受としての第1軸受93によって第1の軸の先端部110を支持するようにしたので、第1の軸63と第2の軸64との間の心ずれを簡便な手段で防止することができる。
【0048】
さらに、ダンパ機構42は、第1の軸の軸J方向に配列されている。ダンパ機構42を複数個としたので、個々のダンパ機構42ごとに加熱し、ラバー部材71へ外輪85および内輪75を溶着させることが可能になる。ダンパ機構42は分割されているので、1つあたりのダンパ機構42は小型化され、ラバー部材71に内輪75と外輪85とを溶着させる加熱装置(図4の符号88)を小型化させることができる。
【0049】
図2に戻って、軸継手65は車両のシャフトドライブ式動力伝達装置33に内蔵され、第2の軸64はエンジンの出力軸45に連結され、第1の軸63は車輪側に設けた終減速機の入力軸53に連結されている。
【0050】
第1の軸63および第2の軸64にダンパ機構42がスプライン結合されている。軸継手65に備えられているダンパ機構42は、第1の軸63および第2の軸64とは、別個に生産され、第1の軸63および第2の軸64に取付可能である。上記構成であれば、ダンパ機構42の製造の際必要な溶着工程を、1つの工程で済ますことが可能になる。その後、ダンパ機構42を第1の軸63および第2の軸部64へスプライン結合させるだけで済む。したがって、溶着工程を1つにすることができ、長尺物の軸にラバー部材71を加熱溶着する専用設備は不要となる。加えて、溶着工程の前後で、第1の軸63や第2の軸64を出し入れし、搬送するなどの作業がなくなるため、作業時間の短縮が可能となる。この結果、シャフトドライブ式動力伝達装置33の製造費用が低減され、シャフトドライブ式動力伝達装置33の生産性を高めることが可能になる。
なお、本実施例において、第2の軸から第1の軸へ動力を伝達するようにしたが、第1の軸の後方に第2の軸を設け、第1の軸から第2の軸へ動力を伝達するように構成することは差し支えない。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図8において、軸継手65Bは、第1の軸の軸端66Bに複数個のダンパ機構42Bを介して第2の軸64Bを被せてなり、複数のダンパ機構42Bは、円筒形状のラバー部材71Bと、このラバー部材71Bの内周面に溶着され内面73Bに雌スプライン74Bが形成されている内輪75Bと、ラバー部材の外周面82Bに溶着され外面83Bに雄スプライン84Bが形成されている外輪85Bとからなり、第1の軸端66Bに雌スプライン74Bに嵌合する軸側雄スプライン131Bが設けられ、第2の軸64Bに雄スプライン84Bに嵌合する軸側雌スプライン132Bが設けられており、第1の軸63Bおよび第2の軸64Bにダンパ機構42Bがスプライン結合されている。
【0052】
第1の軸の外周面67Bに、前後の内クリップ溝121、122が形成され、これらの内クリップ溝121、122に、ダンパ機構42の軸方向の移動を規制する前後の内クリップ123、124が取り付けられている。第2の軸の内周面68Bに、前後の外クリップ溝125、126が形成され、これらの前後の外クリップ溝125、126に、ダンパ機構42の軸方向の移動を規制する外前クリップ127および外後クリップ128が取り付けられている。なお、外前クリップ127は、第1自在継手46とともに第2の軸64に取り付けられている。
【0053】
図6と大きく異なる点は、第1の軸の軸端66に設けられている第1端軸92およびこの第1端軸92を支持する軸受を省略し、ダンパ機構42の後方に配置され第2の軸64に設け第1の軸63を支持する軸受を省略した点にあり、その他、大きく変わるところはない。このように、軸受の少なくとも1つを省略することは差し支えない。
【0054】
尚、本発明は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、三輪車、四輪車にも適用可能であり、一般の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ラバー部材を溶着したダンパ機構が備えられているシャフトドライブ式自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0056】
33…シャフトドライブ式動力伝達装置、42…ダンパ機構、45…エンジンの出力軸、53…終減速機の入力軸、63…第1の軸、64…第2の軸、65…軸継手、66…第1の軸の軸端、71…ラバー部材、72…ラバー部材の内周面、73…内面、74…雌スプライン、75…内輪、82…ラバー部材の外周面、83…外面、84…雄スプライン、85…外輪、93…ころ軸受(第1軸受)、110…第1の軸の先端部、131…軸側雄スプライン、132…軸側雌スプライン、J…第1の軸の軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸の軸端にダンパ機構を介して第2の軸を被せてなる軸継手において、
前記ダンパ機構は、円筒形状のラバー部材と、このラバー部材の内周面に溶着され内面に雌スプラインが形成されている内輪と、前記ラバー部材の外周面に溶着され外面に雄スプラインが形成されている外輪とからなり、
前記第1の軸端に前記雌スプラインに嵌合する軸側雄スプラインが設けられ、前記第2の軸に前記雄スプラインに嵌合する軸側雌スプラインが設けられており、
前記第1の軸および前記第2の軸に前記ダンパ機構がスプライン結合されていることを特徴とする軸継手。
【請求項2】
複数個の前記ダンパ機構が、前記第1の軸の軸方向に配列されていることを特徴とする請求項1記載の軸継手。
【請求項3】
前記第1の軸の先端部が、前記第2の軸に回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の軸継手。
【請求項4】
前記第1の軸の先端部は、前記第2の軸にころ軸受により回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の軸継手。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の軸継手と、前記第2の軸に連結されエンジンの出力を伝達するエンジンの出力軸と、前記第1の軸に連結される終減速機の入力軸と、からなることを特徴とする車両のシャフトドライブ式動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−2032(P2011−2032A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145498(P2009−145498)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】