説明

通信システム

【課題】通信線に現れるリンギング現象を効果的に抑制することができる通信システムを得る。
【解決手段】トランシーバ回路30等の通信回路に接続される通信線10を構成するHライン通信線10H,Lライン通信線10L間にリンギング抑制回路1が設けられる。リンギング抑制回路1において、バイポーラトランジスタT1のエミッタはHライン通信線10Hに接続され、コレクタはLライン通信線10Lに接続され、ベースはコンデンサC1の一方電極及び抵抗R1の一端に接続され、コンデンサC1の他方電極はLライン通信線10Lに接続され、抵抗R1の他端はHライン通信線10Hに接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差動信号を伝送する伝送路に通信回路ノードが、差動信号により通信を行うように構成された通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両の通信システムでは、制御の高度化・複雑化に伴い、多数の電子制御装置(Electronic Control Unit;以下、単に「ECU」と記載する)が搭載されるとともに、それらのECU間でやりとりされるデータ量は増加の一途をたどっている。このため、通信システムの性能向上が必要となっている。
【0003】
この種の通信システムとしては、差動信号を伝送する一対の信号線からなる伝送路として、幹線と、該幹線からそれぞれ分岐する複数の支線とを有し、その支線のそれぞれにECUを接続したバス構成のものが知られている。
【0004】
このような通信システムとして例えばCAN(Controller Area Network)があり、CANを採用した通信システムは例えば特許文献1及び特許文献2で開示されている。
【0005】
図7は従来の通信システムの構成を示す回路図である。同図に示すように、幹線40から分岐される4本の支線41それぞれに自動車の各部を制御するECU101〜104が接続されてなるものである。なお、図7で示す通信システム1はCANプロトコルにて通信を行う。
【0006】
幹線40はHライン幹線40H及びLライン幹線40Lからなり、各支線41はHライン支線41H及びLライン支線41Lから構成され、各Hライン支線41HがHライン幹線40Hに接続され、各Lライン支線41LがLライン幹線40Lに接続される。
【0007】
ノードとしてのECU101〜104は、それぞれ、支線41に接続される。なお、Hライン幹線40H及びHライン支線41HがCAN−H(以下、「Hライン」と記載する場合あり)であり、Lライン幹線40L及びLライン支線41LがCAN−L(以下、「Lライン」と記載する場合あり)である。なお、幹線40の両端には、それぞれ、その幹線40の両端での反射を抑制するための終端回路45が接続される。
【0008】
データを送信する通信回路であるECU101〜104は、Hライン支線41H,Lライン支線41Lに差動信号を送出し、データを受信するECU101〜104は、Hライン支線41H,Lライン支線41L間の電位差を判定する。Hライン幹線40H(Hライン支線41H),Lライン幹線40L(Lライン支線41L)間の電位差である信号レベルにはドミナント(優性)とレセッシブ(劣性)とがある。
【0009】
CANにおいては、上記信号レベル(電位差)が例えば0.9[V]より大きい場合ドミナントと認識され、上記信号レベル(電位差)が例えば0.5[V]より小さい場合レセッシブと認識される。また、一般的に、ドミナントの理論値が“0”とされ、レセッシブの理論値が“1”とされる。このような従来の通信システムでは、データが信号レベルに応じた2値信号でやりとりされる。
【0010】
図8は図7で示した通信システムにおけるリンギング現象を示す波形図である。CANにおける差動信号の上記信号レベルには、図8に示すようにHライン,Lライン間に所定の電位差があるドミナント期間DTと信号線間に電位差がないレセッシブ期間RTとがある。より具体的に、Hラインの電位がハイレベル(例えば3.5[V])でLラインの電位がローレベル(例えば1.5[V])である状態がドミナントであり、Hラインの電位が基準電位であるローレベル(例えば2.5[V])でLラインの電位が基準電位であるハイレベル(例えば2.5[V])である状態がレセッシブである。
【0011】
ところで、例えばCANをはじめとしたバス構成の通信システムでは、分岐点のインピーダンスの不整合により、分岐点とノード(通信回路)との間で信号成分が反射を繰り返すような現象(いわゆるリンギング現象)が発生する。図8に現れているように、例えばCANにおいて、信号レベルがドミナントからレセッシブに切り替わる際、Hラインの電位がマイナス側に大きく振れてしまうとともにLラインの電位がプラス側に大きく振れ、信号波形が上下に大きく振動する場合がある(図8の期間t60参照)。
【0012】
このようなリンギング現象が発生すると、各ECU間での通信精度が低下するばかりでなく、通信信号にエラーが発生し、場合によっては通信不能に陥る場合がある。
【0013】
より具体的には、図8のPc〜Peで示すように、Hラインの電位とLラインの電位との高低が入れ替わってLラインの電位がHラインの電位よりも高くなったり、図8のPa,Pbで示すように、Hラインの電位がプラス側に振れるとともにLラインの電位がマイナス側に振れたりして、電位差が発生する。
【0014】
このように、Hライン,Lライン間の電位差が本来“0”に保持されるべきレセッシブ期間RTにリンギング現象が生じた場合、本来はレセッシブ期間RTであるにもかかわらず、期間t60における電位差の大きさによってはドミナント期間DTと誤認識されてしまうという問題点があった。
【0015】
上記特許文献1及び上記特許文献2では上述したリンギング現象を抑制する回路について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−200006号公報
【特許文献2】特開2010−206267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
(リンギング抑制回路51)
図9は特許文献1で開示された従来のリンギング抑制回路(その1)の構成を示す回路図である。同図に示すように、通信線50を構成するHライン通信線50H,Lライン通信線50L間にリンギング抑制回路51を設けている。通信線50は図7で示した幹線40及び支線41(主として支線41)に相当する。
【0018】
なお、トランシーバ回路30は送信信号TxDをHライン通信線50H及びLライン通信線50Lの差動信号として出力する送信バッファ31と、Hライン通信線50H及びLライン通信線50Lより得られる差動信号に基づき受信信号RxDを出力する受信バッファ32とから構成される。トランシーバ回路30は一般的にECU等に内蔵される通信回路である。
【0019】
リンギング抑制回路51はNPN型のバイポーラトランジスタT51、抵抗R51及びコンデンサC51から構成される。バイポーラトランジスタT51のエミッタはHライン通信線50Hに接続され、コレクタはLライン通信線50Lに接続され、ベースはコンデンサC51の一方電極及び抵抗R51の一端に接続され、コンデンサC51の他端及び抵抗R51の他端はLライン通信線50Lに接続される。
【0020】
リンギング抑制回路51は、Lライン通信線50Lの電位が、Hライン通信線50Hの電位より高くなったときに、オン動作を行うバイポーラトランジスタT1により、Hライン通信線50H及びLライン通信線50L間を電気的に接続することにより、リンギング防止機能を発揮させている。
【0021】
(リンギング抑制回路52)
図10は特許文献2で開示された従来のリンギング抑制回路(その2)の構成を示す回路図である。同図に示すように、通信線50を構成するHライン通信線50H,Lライン通信線50L間にリンギング抑制回路52を設けている。
【0022】
リンギング抑制回路52はダイオードD51〜D54及び抵抗R52から構成される。互いに直列に接続されるダイオードD51及びD52のうち、ダイオードD52のカソードがHライン通信線50Hに接続され、ダイオードD51のアノード(ノードN51)が抵抗R52の一端に接続され、抵抗R52の他端がLライン通信線50Lに接続される。さらに、直列に接続されるダイオードD53及びD54のうちダイオードD53のアノードがHライン通信線50Hに接続され、ダイオードD54のカソードがノードN51に接続される。
【0023】
リンギング抑制回路52は、Hライン通信線50H及びLライン通信線50L間の電位差は、±1.4[V]の範囲を超えると、ダイオードD51及びD52あるいはダイオードD53及びD54に電流が流れ始めるため、通信線50から見たインピーダンスは抵抗R52の抵抗値となる。そして、このインピーダンスは通信線50の特性インピーダンスと一致させることにより、インピーダンスマッチングがとられ、リンギング抑制を図っている。
【0024】
(リンギング抑制回路53)
図11は特許文献2で開示されたリンギング抑制回路(その3)の構成を示す回路図である。同図に示すように、通信線50を構成するHライン通信線50H,Lライン通信線50L間にリンギング抑制回路53を設けている。
【0025】
リンギング抑制回路53は(ツェナー)ダイオードD55,D56及び抵抗R53から構成される。互いに対向して接続されるダイオードD55及びD56のうち、ダイオードD55のアノードがHライン通信線50Hに接続され、ダイオードD56のアノードが抵抗R53の一端に接続され、抵抗R53の他端がLライン通信線50Lに接続される。抵抗R53の抵抗値は、通信線50の特性インピーダンスと同じに設定される。
【0026】
リンギング抑制回路53は、Hライン通信線50H及びLライン通信線50L間の電位差が、ダイオードD55及びD56のうち、一方のダイオードについての順方向電圧降下分と、他方のダイオードの定電圧(ツェナー電圧)との合計値を超えると、電流が流れ、通信線50から見たインピーダンスは抵抗R53の抵抗値となる。すなわち、インピーダンスマッチングがとられ、反射が抑制されリンギング防止効果を図ることができる。
【0027】
しかしながら、図9〜図11で示したリンギング抑制回路51〜53ではリンギング現象を効果的に抑制できていないという問題点があった。
【0028】
この発明は上記問題点を解決するためになされたもので、通信線に現れるリンギング現象を効果的に抑制することができる通信システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この発明に係る請求項1記載の通信システムは、基準電位に対しプラス側に電位が振れる信号線であるHラインとマイナス側に電位が振れる信号線であるLラインとの一対の信号線からなる伝送路と、前記伝送路に接続される通信部とを備え、前記通信部は前記一対の信号線間に電位差がある優勢信号と前記一対の信号線間に電位差がない劣勢信号とを用いて前記伝送路を介した通信が可能であり、前記Lライン及び前記Hラインに電気的に接続されて設けられるリンギング抑制回路をさらに備え、前記リンギング抑制回路は、前記Hライン,前記Lライン間に介挿されるトランジスタと、前記Hライン及び前記Lラインのうち一方ラインと前記トランジスタの制御電極間に設けられたコンデンサと、前記Hライン及び前記Lラインのうち他方ラインと前記トランジスタの制御電極間に設けられた抵抗とを備え、前記リンギング抑制回路は、前記優勢信号時に前記抵抗を介して前記他方ラインの電位に向けて前記トランジスタの制御電極の電位を導き、前記優勢信号から前記劣勢信号への切り替え時に、前記一方ラインの電位変化を前記コンデンサを介して前記トランジスタの制御電極の電位変化として瞬時に伝達することにより、前記Lラインが前記Hラインより電位が高くなる場合に前記トランジスタをオン動作させ前記Hライン,前記Lライン間を電気的に接続することを特徴とする。
【0030】
請求項2の発明は、請求項1記載の通信システムであって、前記一方ラインは前記Lラインを含み、前記他方ラインは前記Hラインを含み、前記リンギング抑制回路における前記トランジスタは、エミッタが前記Hラインに接続され、コレクタが前記Lラインに接続されるNPN型のバイポーラトランジスタを含む。
【0031】
請求項3の発明は、請求項1記載の通信システムであって、前記一方ラインは前記Hラインを含み、前記他方ラインは前記Lラインを含み、前記リンギング抑制回路のける前記トランジスタは、ドレインが前記Lラインに接続されるP型の第1のMOSトランジスタを含み、前記第1のMOSトランジスタのソースにアノードが接続され、カソードが前記Hライン接続されるダイオードをさらに備える。
【0032】
請求項4の発明は、請求項1記載の通信システムであって、前記一方ラインは前記Lラインを含み、前記他方ラインは前記Hラインを含み、前記リンギング抑制回路における前記トランジスタは、ドレインが前記Hラインに接続されるN型の第1のMOSトランジスタを含み、前記第1のMOSトランジスタのソースにカソードが接続され、アノードが前記Lラインに接続されるダイオードをさらに備える。
【発明の効果】
【0033】
請求項1〜請求項4記載の本願発明におけるリンギング抑制回路は、上記のように抵抗及びコンデンサを設けることにより、LラインがHラインより電位が高くなる異常時においても、オン状態のトランジスタを介してLライン,Hライン間を電気的に接続することにより、伝送路におけるリンギング現象を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態1である通信システムにおけるリンギング抑制回路の構成を示す回路図である。
【図2】実施の形態1のリンギング抑制回路を設けた場合のレセッシブ切り替え時のシミュレーション結果を示す波形図である。
【図3】この発明の実施の形態2である通信システムにおけるリンギング抑制回路の構成を示す回路図である。
【図4】実施の形態2のリンギング抑制回路を設けた場合のレセッシブ切り替え時のシミュレーション結果を示す波形図である。
【図5】この発明の実施の形態3である通信システムにおけるリンギング抑制回路の構成を示す回路図である。
【図6】実施の形態3のリンギング抑制回路を設けた場合のレセッシブ切り替え時のシミュレーション結果)を示す波形図である。
【図7】従来の通信システムの構成を示す回路図である。
【図8】リンギング現象を示す波形図である。
【図9】従来のリンギング抑制回路(その1)の構成を示す回路図である。
【図10】従来のリンギング抑制回路(その2)の構成を示す回路図である。
【図11】従来のリンギング抑制回路(その3)の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<実施の形態1>
図1はこの発明の実施の形態1である通信システムにおけるリンギング抑制回路の構成を示す回路図である。同図に示すように、通信線10を構成するHライン通信線10H,Lライン通信線10L間にリンギング抑制回路1を設けている。通信線10は図7で示した幹線40及び支線41(主として支線41)に相当する。
【0036】
なお、トランシーバ回路30は送信信号TxDをHライン通信線10H及びLライン通信線10Lの差動信号として出力する送信バッファ31と、Hライン通信線10H及びLライン通信線10Lより得られる差動信号に基づき受信信号RxDを出力する受信バッファ32とから構成される。トランシーバ回路30は一般的にECU等に内蔵される通信回路である。
【0037】
リンギング抑制回路1はNPN型のバイポーラトランジスタT1、抵抗R1及びコンデンサC1から構成される。バイポーラトランジスタT1のエミッタはHライン通信線10Hに(直接)接続され、コレクタはLライン通信線10Lに(直接)接続され、ベースはコンデンサC1の一方電極及び抵抗R1の一端に接続され、コンデンサC1の他方電極はLライン通信線10Lに接続され、抵抗R1の他端はHライン通信線10Hに接続される。すなわち、抵抗R1及びコンデンサC1はHライン通信線10H及びLライン通信線10L間に直列に設けられる。
【0038】
リンギング抑制回路1は、Lライン通信線10Lの電位が、Hライン通信線10Hの電位より高くなったときに、速やかにオン動作を行うバイポーラトランジスタT1を介してHライン通信線10H及びLライン通信線10L間を電気的に接続することにより、リンギング防止機能を発揮させている。
【0039】
図2は図1で示した実施の形態1のリンギング抑制回路1を設けた場合のレセッシブ切り替え時のシミュレーション結果を示す波形図である。
【0040】
図2では、一例として、コンデンサC1を500pF、抵抗R1を10kΩ、ドミナント時のHラインの電位を約3.7V、ドミナント時のLラインの電位を約1.5V、レッセシブ時の基準電位を約2.6Vに設定して行っている。
【0041】
図2において、Hライン通信線10H及びLライン通信線10L間の差分値、すなわち、リンギング現象を含む通信線10上の実際の差分値を示している。
【0042】
ドミナント期間DTにおいては、抵抗R1によってHライン通信線10Hの電位に向けてバイポーラトランジスタT1のベース電圧を導いている。ただし、抵抗R1を流れる電流による電圧降下が生じている分、ドミナント時のHラインの電位より低下している。
【0043】
そして、ドミナント期間DTからレセッシブ期間RTへの切り替え時におけるLライン通信線10Lの電圧上昇に伴うコンデンサC1によるチャージポンプ動作により、バイポーラトランジスタT1のベース電圧を速やかに3.3V程度まで立ち上げることにより、バイポーラトランジスタT1は速やかにオン可能状態となる。
【0044】
すなわち、コンデンサC1はドミナント期間DTからレセッシブ期間RTへの切り替え時に、Lライン通信線10Lの電位変化をバイポーラトランジスタT1のベースの電位変化として瞬時に伝達することにより、Lライン通信線10LがHライン通信線10Hより電位が高くなる場合にバイポーラトランジスタT1をオン動作可能にしている。
【0045】
したがって、実施の形態1のリンギング抑制回路1は、図2(b) に示すように、リンギング現象を効果的に抑えることができる。
【0046】
このように、実施の形態1のリンギング抑制回路1において、コンデンサC1は、優勢(ドミナント)信号から劣勢(レッセシブ)信号への切り替え時にLライン通信線10Lの電位変化(電位上昇)をバイポーラトランジスタT1のべース電圧の電位変化として瞬時に伝達することにより、バイポーラトランジスタT1が速やかにオン可能状態に設定することができる。
【0047】
その結果、Lライン通信線10LがHライン通信線10Hより電位が高くなる異常時においても、オン状態のバイポーラトランジスタT1を介してLライン,Hライン間を電気的に接続することにより、通信線10におけるリンギング現象を効果的に抑制することができる効果を奏する。
【0048】
したがって、通信線10(図7で示した支線41,幹線40に相当)の配線長をより長くしたり、接続されるトランシーバ回路30(ECU等に含まれる)の数を増加させたりすることができる。
【0049】
<実施の形態2>
図3はこの発明の実施の形態2である通信システムにおけるリンギング抑制回路の構成を示す回路図である。同図に示すように、通信線10を構成するHライン通信線10H,Lライン通信線10L間にリンギング抑制回路2を設けている。通信線10は図7で示した幹線40及び支線41(主として支線41)に相当する。トランシーバ回路30は実施の形態1と同様であるため、同一符号を付して説明を適宜省略する。
【0050】
リンギング抑制回路2はPMOSトランジスタQ11、抵抗R11、コンデンサC11及び(ツェナー)ダイオードD11から構成される。PMOSトランジスタQ11のソースはダイオードD11のアノードに接続され、ドレインはLライン通信線10Lに(直接)接続され、ゲートはコンデンサC11の一方電極及び抵抗R11の一端に接続される。ダイオードD11のカソード及びコンデンサC11の他方電極はHライン通信線10Hに接続され、抵抗R11の他端はLライン通信線10Lに接続される。すなわち、抵抗R11及びコンデンサC11はHライン通信線10H及びLライン通信線10L間に直列に設けられる。
【0051】
PMOSトランジスタQ11は閾値電圧の絶対値が2V以下(例えば、−0.9V,−1.2V)のものが望ましく、ダイオードD11はツェナー電圧が2.5V〜3V(例えば、3V)のものが望ましい。
【0052】
リンギング抑制回路2は、Hライン通信線10Hが、Lライン通信線10Lの電位より低くなったときに、速やかにオン動作を行うPMOSトランジスタQ11及びダイオードD11を介してLライン通信線10LからHライン通信線10Hにかけて電流が流れるように、Hライン通信線10H及びLライン通信線10L間を電気的に接続することにより、リンギング防止機能を発揮させている。
【0053】
なお、ダイオードD11は基本的にはHライン通信線10HからLライン通信線10Lへの電流の流れを阻止するために設けられている。ドミナント期間DT時において、PMOSトランジスタQ11に含まれる寄生ダイオードを介してHライン通信線10HからLライン通信線10Lに電流が流れてしまう現象をダイオードD11によって確実に阻止することができる。
【0054】
ただし、ダイオードD11の定電圧(ツェナー電圧)を3.0V程度に設定すると、Hライン通信線10Hの電圧がLライン通信線10Lの電圧を3Vを超えて上回る異常時において、Hライン通信線10HからLライン通信線10Lに電流を流すことができる。
【0055】
図4は図3で示した実施の形態2のリンギング抑制回路2を設けた場合のレセッシブ切り替え時のシミュレーション結果を示す波形図である。
【0056】
図4では、一例として、コンデンサC11を500pF、抵抗R11を1kΩ、ドミナント時のHラインの電位を約3.7V、ドミナント時のLラインの電位を約1.5V、レッセシブ時の基準電位を約2.6Vに設定して行っている。
【0057】
図4において、Hライン通信線10H及びLライン通信線10L間の差分値、すなわち、リンギング現象を含む通信線10上の実際の差分値を示している。
【0058】
ドミナント期間DT及びレセッシブ期間RTが切り替えられる際、図4の(a) に示すようにリンギング抑制回路2が無い構成にリンギングが発生する状況下におけるリンギング抑制回路2を有する通信システムによるシミュレーション結果が図4の(b) である。
【0059】
ドミナント期間DTにおいては、抵抗R11によってLライン通信線10Lの電位に向けてPMOSトランジスタQ11のゲート電圧を導いている。
【0060】
そして、ドミナント期間DTからレセッシブ期間RTへの切り替え時におけるHライン通信線10Hの電圧下降に伴うコンデンサC11のチャージポンプ動作により、PMOSトランジスタQ11のゲート電圧を速やかに0.7V程度まで立ち下がることにより、PMOSトランジスタQ11は速やかにオン状態となる。
【0061】
すなわち、コンデンサC11はドミナント期間DTからレセッシブ期間RTへの切り替え時に、Hライン通信線10Hの電位変化をPMOSトランジスタQ11のゲート電圧の変化として瞬時に伝達することにより、Lライン通信線10LがHライン通信線10Hより電位が高くなる場合にPMOSトランジスタQ11をオン動作させている。
【0062】
したがって、実施の形態2のリンギング抑制回路2は、図4(b) に示すように、リンギング現象を効果的に抑えることができる。
【0063】
このように、実施の形態2のリンギング抑制回路2において、コンデンサC11は、優勢(ドミナント)信号から劣勢(レッセシブ)信号への切り替え時にHライン通信線10Hの電位変化(電位下降)をPMOSトランジスタQ11のゲート電圧の電位変化として瞬時に伝達することによりPMOSトランジスタQ11が速やかにオン状態にすることができる。
【0064】
その結果、Hライン通信線10HがLライン通信線10Lより電位が低くなる異常時においても、オン状態のPMOSトランジスタQ11及びダイオードD11を介してLライン,Hライン間を電気的に接続することにより、通信線10におけるリンギング現象を効果的に抑制することができる。
【0065】
したがって、通信線10(図7で示した支線41,幹線40に相当)の配線長をより長くしたり、接続されるトランシーバ回路30(ECU等に含まれる)の数を増加させたりすることができる。
【0066】
<実施の形態3>
図5はこの発明の実施の形態3である通信システムにおけるリンギング抑制回路の構成を示す回路図である。同図に示すように、通信線10を構成するHライン通信線10H,Lライン通信線10L間にリンギング抑制回路3を設けている。通信線10は図7で示した幹線40及び支線41に相当する。トランシーバ回路30は実施の形態1と同様であるため、同一符号を付して説明を適宜省略する。
【0067】
リンギング抑制回路3はNMOSトランジスタQ12、抵抗R12、コンデンサC12及び(ツェナー)ダイオードD12から構成される。NMOSトランジスタQ12のソースはダイオードD12のカソードに接続され、ドレインはHライン通信線10Hに接続され、ゲートはコンデンサC12の一方電極及び抵抗R12の一端に接続される。ダイオードD12のアノード及びコンデンサC12の他方電極はLライン通信線10Lに接続され、抵抗R12の他端はHライン通信線10Hに接続される。すなわち、抵抗R12及びコンデンサC12はHライン通信線10H及びLライン通信線10L間に直列に設けられる。
【0068】
NMOSトランジスタQ12は閾値電圧の絶対値が2V以下(例えば、0.9V,1.2V)のものが望ましく、ダイオードD12はツェナー電圧が2.5V〜3V(例えば、3V)のものが望ましい。
【0069】
リンギング抑制回路3は、Lライン通信線10LがHライン通信線10Hの電位より高くなったときに、速やかにオン動作を行うNMOSトランジスタQ12及びダイオードD12を介して、Hライン通信線10H及びLライン通信線10L間を電気的に接続することにより、リンギング防止機能を発揮させている。
【0070】
なお、ダイオードD12は基本的にはHライン通信線10HからLライン通信線10Lへの電流の流れを阻止するために設けられている。ドミナント期間DT時において、NMOSトランジスタQ12に含まれる寄生ダイオードを介してHライン通信線10HからLライン通信線10Lに電流が流れてしまう現象をダイオードD11によって確実に阻止することができる。
【0071】
ただし、ダイオードD12の定電圧(ツェナー電圧)を3.0V程度に設定すると、Hライン通信線10Hの電圧がLライン通信線10Lの電圧を3Vを超えて上回る異常時において、Hライン通信線10HからLライン通信線10Lに電流を流すことができる。
【0072】
図6は図5で示した実施の形態3のリンギング抑制回路3を設けた場合のレセッシブ切り替え時のシミュレーション結果を示す波形図である。
【0073】
図6では、一例として、コンデンサC12を500pF、抵抗R12を1kΩ、ドミナント時のHラインの電位が約3.7V、ドミナント時のLラインの電位が約1.5V、レッセシブ時の基準電位を約2.6Vに設定して行っている。
【0074】
また、図6において、Hライン通信線10H及びLライン通信線10L間の差分値、すなわち、リンギング現象を含む通信線10上の実際の差分値を示している。
【0075】
ドミナント期間DT及びレセッシブ期間RTが切り替えられる際、図6の(a) に示すようにリンギング抑制回路3が無い構成にリンギングが発生する状況下におけるリンギング抑制回路3を有する通信システムによるシミュレーション結果が図6の(b) である。
【0076】
ドミナント期間DTにおいては、抵抗R12によってHライン通信線10Hの電圧に向けてNMOSトランジスタQ12のゲート電圧を導いている。
【0077】
そして、ドミナント期間DTからレセッシブ期間RTへの切り替え時におけるLライン通信線10Lの電位上昇に伴うコンデンサC12のチャージポンプ動作により、NMOSトランジスタQ12のゲート電圧を速やかに4.5V程度まで立ち上げることにより、NMOSトランジスタQ12は速やかにオン状態になる。
【0078】
すなわち、コンデンサC12はドミナント期間DTからレセッシブ期間RTへの切り替え時に、Lライン通信線10Lの電位変化をNMOSトランジスタQ12のゲート電圧の変化として瞬時に伝達することにより、Lライン通信線10LがHライン通信線10Hより電位が高くなる場合にNMOSトランジスタQ12をオン動作させている。
【0079】
したがって、実施の形態3のリンギング抑制回路3は、図6(b) に示すように、リンギング現象を効果的に抑えることができる。
【0080】
このように、実施の形態3のリンギング抑制回路3において、コンデンサC12は優勢(ドミナント)信号から劣勢(レッセシブ)信号への切り替え時にLライン通信線10L電位変化(電位上昇)をNMOSトランジスタQ12のゲート電圧の電位変化として瞬時に伝達することによりNMOSトランジスタQ12が速やかにオン状態にすることができる。
【0081】
その結果、LラインがHラインより電位が高くなる異常時においても、オン状態のNMOSトランジスタQ12及びダイオードD12を介してLライン,Hライン間を電気的に接続することにより、通信線10におけるリンギング現象を効果的に抑制することができる。
【0082】
したがって、通信線10(図7で示した支線41,幹線40)の配線長をより長くしたり、接続されるトランシーバ回路30(ECU等に含まれる)の数を増加させたりすることができる。
【符号の説明】
【0083】
1〜3 リンギング抑制回路
10 通信線
10H Hライン通信線
10L Lライン通信線
30 トランシーバ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準電位に対しプラス側に電位が振れる信号線であるHラインとマイナス側に電位が振れる信号線であるLラインとの一対の信号線からなる伝送路と、
前記伝送路に接続される通信部とを備え、前記通信部は前記一対の信号線間に電位差がある優勢信号と前記一対の信号線間に電位差がない劣勢信号とを用いて前記伝送路を介した通信が可能であり、
前記Lライン及び前記Hラインに電気的に接続されて設けられるリンギング抑制回路をさらに備え、
前記リンギング抑制回路は、
前記Hライン,前記Lライン間に介挿されるトランジスタと、
前記Hライン及び前記Lラインのうち一方ラインと前記トランジスタの制御電極間に設けられたコンデンサと、
前記Hライン及び前記Lラインのうち他方ラインと前記トランジスタの制御電極間に設けられた抵抗とを備え、
前記リンギング抑制回路は、
前記優勢信号時に前記抵抗を介して前記他方ラインの電位に向けて前記トランジスタの制御電極の電位を導き、前記優勢信号から前記劣勢信号への切り替え時に、前記一方ラインの電位変化を前記コンデンサを介して前記トランジスタの制御電極の電位変化として瞬時に伝達することにより、前記Lラインが前記Hラインより電位が高くなる場合に前記トランジスタをオン動作させ前記Hライン,前記Lライン間を電気的に接続することを特徴とする、
通信システム。
【請求項2】
請求項1記載の通信システムであって、
前記一方ラインは前記Lラインを含み、
前記他方ラインは前記Hラインを含み、
前記リンギング抑制回路における前記トランジスタは、エミッタが前記Hラインに接続され、コレクタが前記Lラインに接続されるNPN型のバイポーラトランジスタを含む、
通信システム。
【請求項3】
請求項1記載の通信システムであって、
前記一方ラインは前記Hラインを含み、
前記他方ラインは前記Lラインを含み、
前記リンギング抑制回路のける前記トランジスタは、ドレインが前記Lラインに接続されるP型の第1のMOSトランジスタを含み、
前記第1のMOSトランジスタのソースにアノードが接続され、カソードが前記Hライン接続されるダイオードをさらに備える、
通信システム。
【請求項4】
請求項1記載の通信システムであって、
前記一方ラインは前記Lラインを含み、
前記他方ラインは前記Hラインを含み、
前記リンギング抑制回路における前記トランジスタは、ドレインが前記Hラインに接続されるN型の第1のMOSトランジスタを含み、
前記第1のMOSトランジスタのソースにカソードが接続され、アノードが前記Lラインに接続されるダイオードをさらに備える、
通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−42381(P2013−42381A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178278(P2011−178278)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】