説明

通電検査治具用接触子の製造方法及び、これにより製造した通電検査治具用接触子、並びにこれを備えている通電検査治具

【課題】スプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子を、より精度高く、より精密に製造する。
【解決手段】心材の外周にメッキにより金めっき層を形成した後、形成された金めっき層の外周に電鋳によりNi電鋳層を形成し、前記Ni電鋳層の外周にレジスト層を形成した後、レーザーで露光して前記レジスト層に螺旋状の溝条を形成し、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、前記レジスト層に螺旋状の溝条が形成されていた部分のNi電鋳層を除去し、前記レジスト層を除去すると共に、前記Ni電鋳層が除去された螺旋状の溝条部分の金めっき層を除去し、金めっき層を前記Ni電鋳層の内周に残したまま前記心材のみを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通電検査装置に使用される通電検査治具に関し、特に、通電検査治具に配備されていて、通電検査される検体に弾性的に接触する通電検査治具用接触子に関する。
【背景技術】
【0002】
通電検査は従来から種々の技術分野で行われている。通電検査が行われるものとして、例えば、半導体集積回路、フラットパネルディスプレイ(FPD)等の電子デバイス基板、回路配線基板などがある。これらの小型化、高密度化、高性能化が進む中で、通電検査に使用される通電検査治具に配備されていて検体に弾性的に接触させるコンタクトプローブなどの通電検査治具用接触子にも極細化、微細化が要求されている。
【0003】
本願発明者等はこのような極細化、微細化に対応する通電検査治具用接触子としてスプリング構造を一部に備えているNi電鋳パイプを提案している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1のスプリング構造を一部に備えているNi電鋳パイプは、外径が32μm〜500μm、内径が30μm〜450μmと極細、肉薄で、高い弾性特性を発揮できるもので、本願発明者等が提案している電鋳管の製造法(特許文献2)を応用して製造されている。
【0005】
また、極細なスプリング構造に関しては、中空の極細パイプの外周にレジスト層を形成し、このレジスト層に露光ビームをあてて均一な溝幅の螺旋状溝条を前記レジスト層に形成した後、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い前記溝条が形成されていた部分の極細パイプ壁を除去する製造方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−25833号公報
【特許文献2】特開2004−115838号公報
【特許文献3】特開2009−160722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案したスプリング構造を一部に備えているNi電鋳パイプは、極細、肉薄で、高い弾性特性を発揮することができるので、検体の小型化、高密度化、高性能化が進む種々の技術分野での通電検査に広く用いられる可能性が広がっている。
【0008】
通電検査が行われる検体の小型化、高密度化、高性能化が進む中で、スプリング構造を一部に備えているNi電鋳パイプからなる通電検査治具用接触子についても、より精度高く、より精密に製造することが要求されている。
【0009】
そこで、本発明は、電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子を、より精度高く、より精密に製造することができる通電検査治具用接触子の製造方法及び、これにより製造した通電検査治具用接触子、並びにこれを備えている通電検査治具を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、
心材の外周にメッキにより金めっき層を形成した後、形成された金めっき層の外周に電鋳によりNi電鋳層を形成し、
前記Ni電鋳層の外周にレジスト層を形成した後、レーザーで露光して前記レジスト層に螺旋状の溝条を形成し、
前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、前記レジスト層に螺旋状の溝条が形成されていた部分のNi電鋳層を除去し、
前記レジスト層を除去すると共に、前記Ni電鋳層が除去された螺旋状の溝条部分の金めっき層を除去し、
金めっき層を前記Ni電鋳層の内周に残したまま前記心材のみを除去して
電鋳製のスプリング構造を備えている通電検査治具用接触子を製造する方法である。
【0011】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載の方法で製造した電鋳製のスプリング構造を備えている通電検査治具用接触子の一端側を検体への接触端とし、他端側を通電検査治具への接続部とする通電検査治具用接触子である。
【0012】
請求項3記載の発明は、
請求項2記載の通電検査治具用接触子を備えている通電検査治具である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子を、より精度高く、より精密に製造することができる。この通電検査治具用接触子は内側に金めっき層を備えていることから優れた通電性を発揮することができる。そして、このように精度高く、精密に製造されていて、優れた通電性を発揮できる通電検査治具用接触子を備えている通電検査治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】心材の外周にめっきにより金めっき層を形成した後、形成された金めっき層の外周に電鋳によりNi電鋳層を形成するまでの工程が実施される連続処理装置の配置構成の一例を概説するもので、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図2】本発明の製造方法を概説するブロック図。
【図3】本発明による製造工程を説明する図であって、(a)はレジスト層に螺旋状の溝条が形成された状態を表す側面図及び、X−X、Y−Y、Z−Z部分における心材、金めっき層、Ni電鋳層の積層状態を説明する一部を省略した拡大端面図、(b)はエッチングによりレジスト層に螺旋状の溝条が形成されていた部分のNi電鋳層が除去された状態を表す側面図及び、X−X、Y−Y、Z−Z部分における心材、金めっき層、Ni電鋳層の積層状態を説明する一部を省略した拡大端面図、(c)はレジスト層及びNi電鋳層が除去された螺旋状の溝条部分の金めっき層が除去された状態を表す側面図及び、X−X、Y−Y、Z−Z部分における心材、金めっき層、Ni電鋳層の積層状態を説明する一部を省略した拡大端面図、(d)は心材が除去された状態を表す側面図及び、X−X、Y−Y部分における金めっき層、Ni電鋳層の積層状態を説明する一部を省略した拡大端面図。
【図4】(a)、(b)は本発明の製造方法で製造した通電検査治具用接触子の一例を表す側面図。
【図5】図4(a)図示の通電検査治具用接触子の断面図。
【図6】(a)、(b)は本発明の製造方法で製造した通電検査治具用接触子の他の例を表す側面図。
【図7】本発明の製造方法で製造した通電検査治具用接触子の他の一例を表す断面図。
【図8】(a)、(b)、(c)、(d)は本発明の製造方法で製造した通電検査治具用接触子の検体に接触する側の先端形状を表す一部を省略した側面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の本発明による通電検査治具用接触子は以下のようにして製造することができる。
【0016】
心材の外周にめっきにより金めっき層を形成した後、形成された金めっき層の外周に電鋳によりNi電鋳層を形成する。
【0017】
心材は外径5μm以上の極細な金属線や樹脂線を使用することができる。金属線としてはステンレス線、アルミニウム線などを使用することができる。
【0018】
樹脂線としてはナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂などからなる合成樹脂線を使用することができる、
なお、心材に樹脂線を採用した場合には、金めっき層の形成を無電解めっきで行う必要がある。そこで、生産性を考慮した場合には、心材に金属線を使用し、電解めっきで金めき層を形成することが望ましい。
【0019】
金めっき層は肉厚0.2μm〜1μmの厚さで形成し、その外周に電鋳で形成するNi電鋳層の肉厚は5μm〜35μmにすることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法により製造される通電検査治具用接触子及びこれを備えている通電検査治具は、例えば、LSI等の集積回路の製造における基板検査用のコンタクトプローブ及びこれを備えている通電検査治具として使用される。すなわち、小型化、高密度化、高性能化が進む電子デバイス基板、回路配線基板などの通電検査や、その他の極微細、高密度な検体の通電検査に使用される。そこで、製造される通電検査治具用接触子のサイズには、外径20μm〜500μm、肉厚2.5μm〜50μm程度の極細、肉薄であることが要求される。金めっき層、Ni電鋳層の前述した肉厚は製造される通電検査治具用接触子の前述したサイズに対応し、なおかつ、後述するようにエッチングによってNi電鋳層の所定箇所を溶解・除去し、またその後の処理によって金めっき層の所定箇所を溶解・除去して所望する形状、サイズの螺旋形状の溝条を正確、精密に形成し、これによって、正確、精密なサイズの溝幅(スリット幅)を有するスパイラル構造を形成する観点から定められている。
【0021】
次に、外周に金めっき層、Ni電鋳層が形成されている心材の外周にレジスト層(肉厚は2μm〜50μm)を形成する。
【0022】
レジスト層の形成は、例えば、外周に金めっき層、Ni電鋳層が形成されている前記の心材を、フォトレジスト液が収容されているフォトレジスト槽に所定時間浸漬して形成する。
【0023】
こうして前記Ni電鋳層の外周にレジスト層を形成した後、レーザーで露光して前記レジスト層に螺旋状の溝条を形成する。
【0024】
レーザーによる露光は、レジスト層が形成されている心材の中心軸を回転中心として心材を回転させつつ、所定の速度で心材を鉛直方向上向き、あるいは鉛直方向下向きに移動させる。この一方で、心材の長手方向おいてスパイラル構造を形成すべき所定の長手方向の範囲の心材外周にレーザービームを当てる。
【0025】
なお、ポジ型フォトレジストを使用した場合には、レーザーで露光した部分が現像液に溶解してレジスト層に螺旋状の溝条が形成される。一方、ネガ型フォトレジストを使用した場合には、レーザーで露光した部分が現像液に不溶になるので、レーザーに露光しなかった部分が現像液に溶解して、レジスト層に螺旋状の溝条が形成される。これを考慮して、レーザービームを当てる。
【0026】
こうして、レジスト層に螺旋状の溝条を形成することにより、レジスト層に螺旋状の溝条が形成された箇所におけるNi電鋳層の外周を露出させる。
【0027】
次に、Ni電鋳層の外周に残っているレジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、レジスト層に螺旋状の溝条が形成されていた部分のNi電鋳層を除去する。
【0028】
例えば、前述したようにしてNi電鋳層の外周に形成されているレジスト層に螺旋状の溝条が形成されている心材を酸性の電解研磨液中に浸漬して電解研磨する。これによって、Ni電鋳層の外周に残っているレジスト層をマスキング材としてエッチングし、レジスト層に螺旋状の溝条が形成されていた部分のNi電鋳層を除去する。
【0029】
次に、レジスト層を除去すると共に、Ni電鋳層が除去された螺旋状の溝条部分の金めっき層を除去する。
【0030】
金めっき層の除去は、例えば、螺旋状の溝条にNi電鋳層が除去されている心材を所定の溶液中において超音波洗浄処理することによって行う。
【0031】
最後に、金めっき層をNi電鋳層の内側に残したまま心材を除去する。
【0032】
金めっき層をNi電鋳層の内側に残したまま心材を除去するには、心材を一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、心材外周と、金めっき層内周との間に隙間を形成して心材を引き抜く方法を採用することができる。また、溶解液中に心材を浸漬し、化学的、あるいは電気化学的に心材を溶解させて除去することができる。
【0033】
心材にステンレス線や樹脂線を使用した場合には前者の引き抜き方によって除去し、心材にアルミニウム線を使用した場合には後者の化学的、電気化学的な除去方法を採用することができる。この場合、溶解液には、電着物にほとんど影響を与えない水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強アルカリ液を使用することができる。
【0034】
この発明の製造方法によれば、レジスト材としてネガ型、ポジ型のどちらを採用するかにもよるが、基本的に、レーザー露光によって、スパイラル構造部分における溝(スリット)の幅を設定することができる。そこで、極細、肉薄のNi電鋳管においてスパイラル構造部分を形成する領域を任意に設定できることにくわえて、パイラル構造部分における溝(スリット)の幅を任意に設定することが可能になり、精度の高い弾性特性を有する通電検査治具用接触子を提供することができる。
【0035】
この発明の製造方法によれば、前述したように、Ni電鋳層の外周に残っているレジスト層をマスキング材としてエッチングすることにより、レジスト層に螺旋状の溝条が形成されている部分のNi電鋳層を除去する。
【0036】
この際、Ni電鋳層の内側に金めっき層が存在していることから、螺旋状溝条が形成される部分以外のNi電鋳層部分にエッチング液が回りこむことを防止できる。これによって、Ni電鋳層に螺旋状の溝条が形成される部分のみがエッチング液によって浸漬・溶解される。この結果、心材を除去したときに形成されるNi電鋳管のスパイラル構造部分における溝幅をレーザー露光によって形成した精密な溝幅にすることができ、スパイラル構造部分の溝幅(スリット幅)を所望の均一な溝幅にすることができる。
【0037】
スパイラル構造部分における溝(スリット)の幅が所望の均一な溝幅であれば、製造された通電検査治具用接触子の一端側を通電検査治具へ接続させておき、他端側を検体に押し付けて接触させる際の弾性特性が向上する。
【0038】
また、この発明の製造方法によれば、エッチングの際に、Ni電鋳層の内側に金めっき層が存在していることから、エッチング液が心材にまで到達することを防止できる。エッチング液が心材に接触すると心材が侵食され、心材除去の際に引き抜き法を使用する場合には、心材の中途破断などが生じ、綺麗な心材除去が難しくなる。
【実施例1】
【0039】
心材に直径(5μmから450μm)のSUS線を用いて電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子20を製造する方法の一例を説明する。
【0040】
図1は、心材の外周にめっきにより金めっき層12を形成した後、形成された金めっき層12の外周に電鋳によりNi電鋳層13を形成するまでの工程が実施される連続処理装置の配置構成の一例を概説するもので、図2は、本発明の製造方法の一例を説明するブロック図である。
【0041】
供給ユニット1には心材となるSUS線11が巻回されているリール10が備えられている。
【0042】
収納ユニット5における搬送ローラ14によってSUS線11は供給ユニット1のリール10から繰り出され、洗浄ユニット2、通電・搬送ユニット3を経て、金メッキユニット4へ搬送される。
【0043】
洗浄ユニット2には所定の弱アルカリ液あるいは、弱酸性液が装入されていて、ここで、SUS線11の外周が洗浄される。
【0044】
金メッキユニット4には、所定の電解液、例えば、ノンシアンAu液が入れられており、金メッキユニット4内を搬送されていくSUS線11の外周に、メッキによって所定の肉厚(0.2μm〜1μm)の金めっき層12が形成される。
【0045】
引き続き、不図示の切断ユニットを備えている収納ユニット9における搬送ローラ15によって外周に金めっき層12が形成されたSUS線11は、洗浄ユニット6、通電・搬送ユニット7を経て、ニッケル電鋳ユニット8へ搬送される。
【0046】
洗浄ユニット6には所定の弱アルカリ液あるいは、弱酸性液が収容されていて、ここで、金めっき層12の外周が洗浄される。
【0047】
ニッケル電鋳ユニット8には、所定の電解液、例えば、スルフォン酸ニッケル液が入れられており、ニッケル電鋳ユニット8内を搬送されていくSUS線11の金めっき層12の外周に、電鋳によって所定の肉厚(3μm〜50μm)のNi電鋳層13が形成される。
【0048】
収納ユニット5、9における搬送ローラ14、15の搬送速度は、どの程度の肉厚の金めっき層12、Ni電鋳層13をSUS線11の外周に形成するかに応じて調整する。
【0049】
こうして、外周に金めっき層12、Ni電鋳層13が積層されたSUS線11は収納ユニット9に備えられている切断ユニット(不図示)により所望の長さ、例えば、30mmに切断される。
【0050】
次に、外周に金めっき層12、Ni電鋳層13が形成されたSUS線11を、ポジ型フォトレジスト液が収容されているフォトレジスト槽に所定時間浸漬し、Ni電鋳層13の外周に所定の肉厚(2μm〜30μm)のレジスト層30を形成する。
【0051】
次いで、レジスト層30が形成されているSUS線11の中心軸を回転中心として心材を矢印40、あるいは矢印41方向に回転させつつ、所定の速度でSUS線11を鉛直方向上向き(矢印42)、あるいは鉛直方向下向き(矢印43)に移動させる。同時に、SUS線11の長手方向おいてスパイラル構造部14(図3(d))を形成すべき所定の長手方向の範囲の外周にレーザービームを当てる。
【0052】
その後、現像液に浸漬して、レーザーで露光した部分のレジスト層30を溶解させ、レジスト層30に螺旋状の溝条31を形成する(図3(a))。レジスト層30に螺旋状の溝条31を形成することにより、この螺旋状の溝条31が形成された箇所におけるNi電鋳層13の外周が露出する(図3(a))。
【0053】
次に、Ni電鋳層13の外周に形成されているレジスト層30に螺旋状の溝条31が形成されている状態のSUS線11を酸性の電解研磨液中に浸漬して電解研磨する。これによって、Ni電鋳層13の外周に残っているレジスト層30をマスキング材としてエッチングし、レジスト層30に螺旋状の溝条31が形成されている部分のNi電鋳層13を除去する(図3(b))。こうして、螺旋状の溝条31が形成されていた箇所における金めっき層12の外周が露出する(図3(b))。
【0054】
次に、レジスト層30を除去すると共に、SUS線11を常温よりも高い温度(50度程度)の純水中において超音波洗浄することにより、Ni電鋳層13が除去された螺旋状の溝条31に対応する部分の金めっき層12を除去する((図3(c))。これにより、螺旋状の溝条31が形成されていた箇所におけるSUS線11の外周が露出する(図3(c))。
【0055】
最後に、SUS線11を一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、SUS線11の外周と、金めっき層12の内周との間に隙間を形成してSUS線11を引き抜くことにより、金めっき層12をNi電鋳層13の内側に残したままSUS線11を除去し、Ni電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子20となる((図3(d)、図4(a)、図5)。
【0056】
こうして製造された通電検査治具用接触子20は、図3(d)、図4(a)、図5図示のように、内側に金めっき層12を備えていて、一部にスパイラル構造部分14を有する肉薄のNi電鋳管である。この内側に金めっき層12を備えている肉薄のNi電鋳管は、心材となっていたSUS線11の外周に形成されていた金めっき層12、Ni電鋳層13から、金めっき層12をNi電鋳層13の内側に残したままSUS線11が除去されたことによって形成されている。
【0057】
そして、スパイラル構造部分14は、Ni電鋳層13の螺旋状の溝条31に対応する部分がエッチングによって溶解されたことにより、Ni電鋳層13に螺旋状の溝(スリット)31aが形成されたことによって形成されている。
【0058】
図4(a)は、この発明の製造方法によって製造される、電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子20の一例を表す側面図であり、符号14で示すスプリング構造部分が一部に形成されているものである。
【0059】
また、図6図示のように、内側に金めっき層を備えているNi電鋳層からなる管状部分23と、複数のスプリング構造部分24a、24b、25a、25b、25cを備えている通電検査治具用接触子21、22にすることもできる。
【0060】
外径21μmのSUS線11を用いて、上述した工程により、全長L1が1mm、内側に金めっき層12を備えているNi電鋳層13からなる管状部分の長さL2、L4がそれぞれ0.1mm、スプリング構造部分14の長さL3が0.8mm、外径φ1が35μm、内径φ2が21μmの本発明の通電検査治具用接触子20を製造することができた。
【0061】
なお、上記の数値L1、L2、L3、L4、φ1、φ2は、設計条件に合わせた数値に設定することが出来る。
【0062】
このように微小な長さL1の接触子20を製造する場合、内側に金めっき層12が形成されているNi電鋳層13からなる管体を1mm長ごとに切断した後にSUS線11を除去することにより、複数個の接触子20を同時に製造することができる。
【0063】
すなわち、前述したように、全長30mmのSUS線11を心材として使用した場合、一方の端から0.1mmの範囲が管状で、引き続く0.8mmの範囲がスプリング構造部分、引き続く0.2mmの範囲が管状、引き続く0.8mmの範囲がスプリング構造部分となるようにレーザー露光によってスプリング構造部分14を形成する。そして、図3(c)図示の工程の後のSUS線11を除去する前に、レーザーを用いて1mmごとに切断し、その後、SUS線11を除去すれば30個の接触子20を同時に製造することができる。前述したようにSUS線11を一方または両方から引っ張って除去する場合には端部側に必要とされる挟持部を考慮する必要があるが、この場合も全長L1が1mmの接触子20を25〜26個同時に製造することができる。
【0064】
また、図4(b)図示のNi電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子20aを製造することもできる。この場合には、全長30mmのSUS線11の全長にわたってスプリング構造部分14が形成されるようにレーザー露光し、SUS線11を除去する前に、レーザーによって希望する長さに切断し、その後、SUS線11を除去して複数個の接触子20aを同時に製造することができる。
【0065】
図3(d)、図4(a)、図5図示のものは一部にスプリング構造を備えている通電検査治具用接触子、図4(b)図示のものは全体がスプリング構造からなる通電検査治具用接触子ということができる。
【0066】
いずれにしても、本発明の製造方法によれば、レーザー露光によって螺旋形状の溝条31が形成されているレジスト層30をマスクにしたエッチングによりNi電鋳層13の所定箇所を溶解・除去し、その後、Ni電鋳層13が除去された螺旋状の溝条31に対応する部分の金めっき層12を除去してスプリング構造部分14を形成する。そこで、所望する形状、サイズの螺旋形状の溝条31を正確、精密に形成し、これによって、正確、精密なサイズの溝幅(スリット幅)からなる螺旋状の溝(スリット)31aを有するスパイラル構造を形成することができる。
【0067】
本発明の製造法により製造した電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子20、20a(図4)は優れた弾性特性を発揮することができる。これは、前述したように、スパイラル構造部分における溝(スリット)31aの幅が所望の均一な溝幅であることから発揮される特性の一つである。
【0068】
前述した本発明の製造法により製造した内側に金めっき層を備えているNi電鋳層13の肉厚が10μm、外径φ1が80μm、スプリング構造部分14の長さL3が2mm、巻き数:25回の本発明による通電検査治具用接触子のバネ荷重は2gf/0.2mmであった。また、内側に金めっき層を備えているNi電鋳層13の肉厚が10μm、外径φ1が50μm、スプリング構造部分14の長さL3が2mm、巻き数:40回の本発明による通電検査治具用接触子のバネ荷重は4gf/0.2mmであった。
【0069】
本発明の製造法により製造した電鋳製のスプリング構造を備えている極細、肉薄の通電検査治具用接触子20、20a(図4)は、一端側を検体への接触端とし、他端側を通電検査治具への接続部として使用される。
【0070】
この場合、図4(a)において符号17で示した一端側を検体への接触端とし、符号16で示した他端側を通電検査治具への接続部として使用することが可能である。
【0071】
また、図7図示のように、内部に導電性のピン26を挿入し、通電検査治具用接触子20の先端17側にあたるピン26の先端27を検体への接触端とすることによって、通電検査治具用接触子20の一端側を検体への接触端にすることもできる。
【0072】
図7図示の形態の場合には、図中、符号18で示す部分において、カシメ、溶接、接着剤などの手段によりピン26を固定することができる。
【0073】
また、図7図示の形態の場合、内部に挿入されている導電性のピン26は、導電性のよい金属線、例えば、白金・ロジウムまたはそれらの合金からなる極細線、またはNiメッキの上にAuメッキしたタングステンやBeCu(ベリリウム銅)製の極細線にすることができる。
【0074】
通電検査治具用接触子20の符号17で示す一端側を検体への接触端にする場合、あるいは通電検査治具用接触子20の一端側にあたるピン26の先端27を検体への接触端にする場合のいずれであっても、接触端の形状はテーパー形状(図8(a))、Rのある湾曲形状(図8(b))、平坦なフラット状(図8(c))、王冠(クラウン)状(図8(d))など、種々の形状にすることができる。
【0075】
通電検査治具用接触子20、20a(図4、図7)は、LSI等の集積回路の製造における基板検査用のコンタクトプローブとして使用することができる。また、この通電検査治具用接触子20、20a(図4、図7)を備えている通電検査治具は、電子デバイス基板、回路配線基板などの通電検査だけでなく、その他、極微細、高密度な検体の通電検査に使用される。
【0076】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【符号の説明】
【0077】
11 SUS線(心材)
12 金めっき層
13 Ni電鋳層
14 スパイラル構造部
30 レジスト層
31 螺旋状の溝条
31a 螺旋状の溝(スリット)
20、20a、21、22 通電検査治具用接触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材の外周にメッキにより金めっき層を形成した後、形成された金めっき層の外周に電鋳によりNi電鋳層を形成し、
前記Ni電鋳層の外周にレジスト層を形成した後、レーザーで露光して前記レジスト層に螺旋状の溝条を形成し、
前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行い、前記レジスト層に螺旋状の溝条が形成されていた部分のNi電鋳層を除去し、
前記レジスト層を除去すると共に、前記Ni電鋳層が除去された螺旋状の溝条部分の金めっき層を除去し、
金めっき層を前記Ni電鋳層の内周に残したまま前記心材のみを除去して
電鋳製のスプリング構造を備えている通電検査治具用接触子を製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法で製造した電鋳製のスプリング構造を備えている通電検査治具用接触子の一端側を検体への接触端とし、他端側を通電検査治具への接続部とする通電検査治具用接触子。
【請求項3】
請求項2記載の通電検査治具用接触子を備えている通電検査治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−164028(P2011−164028A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29354(P2010−29354)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【特許番号】特許第4572303号(P4572303)
【特許公報発行日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(505008903)株式会社ルス・コム (9)
【Fターム(参考)】