説明

過給式多気筒エンジン

【課題】ターボチャージャが限界回転速度を超えないようにした過給式多気筒エンジンを提供する。
【解決手段】排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャ10を備える過給式多気筒エンジン1であって、排気行程が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める第一、第二の排気マニホールド31、32と、この第一、第二の排気マニホールド31、32によって集められた排気をターボチャージャ10へと導く第一、第二のエゼクタ49、50と、を備え、この第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjは、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えないうちに第一、第二のエゼクタ49、50における排気流が臨界状態を迎えるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャを備える過給式多気筒エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された過給式多気筒エンジンは、着火順序が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める二つの排気マニホールドと、各排気マニホールドによって集められた排気をターボチャージャへと導く二つのエゼクタと、排気の一部をEGRガスとして吸気通路に還流させる二つのEGR通路と、を備える。
【0003】
このエンジンは、各エゼクタからの排気が交互にターボチャージャへと吸引され、排気効率を高めるとともに、排気脈動圧を利用してEGRガスを還流させるようになっている。
【0004】
特許文献2に開示された過給式多気筒エンジンは、過給器として排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャと、EGRガスの流量を調節するEGRガス流量制御弁とを備える。
【0005】
このエンジンは、高負荷時にEGRガス流量制御弁を開弁させる制御が行われ、EGRガスを吸気通路に還流させて、ターボチャージャに導かれる排気流量を減らすことにより、ターボチャージャの回転速度が限界回転速度を超えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211603号公報
【特許文献2】特開2004−308487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された過給式多気筒エンジンにおいて、仮にEGRガス流量制御弁の作動不良を来して高負荷時にEGRガス流量制御弁が十分に開弁しない場合に、ターボチャージャに導かれる排気流量が過剰となり、ターボチャージャの回転速度が限界回転速度を超える可能性がある。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ターボチャージャが限界回転速度を超えないようにした過給式多気筒エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャを備える過給式多気筒エンジンであって、排気行程が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める第一、第二の排気マニホールドと、この第一、第二の排気マニホールドによって集められた排気をターボチャージャへと導く第一、第二のエゼクタと、を備え、この第一、第二のエゼクタの最小流路断面積は、ターボチャージャの回転速度が限界回転速度を超えないうちに第一、第二のエゼクタにおける排気流が臨界状態を迎えるように設定されることを特徴とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、エンジン負荷が高まるのに伴って第一、第二のエゼクタを通過する排気流量が増加し、第一、第二のエゼクタにおける排気流が臨界状態を迎えるため、仮にEGRガス流量制御弁、ターボチャージャの可変ノズル等の作動不良を来した場合にも、ターボチャージャが限界回転速度を超えることを回避し、ターボチャージャが破損することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を示す過給式多気筒エンジンの概略構成図。
【図2】同じく第一、第二の排気マニホールドの側面図。
【図3】同じく第一、第二の排気マニホールドのターボチャージャに接続する部位を示す断面図。
【図4】同じくマニホールド排気流量と出入口圧力比の関係を示す特性図。
【図5】同じくターボチャージャの作動特性図。
【図6】本発明の他の実施形態を示す過給式多気筒エンジンの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に概略構成を示すように、多気筒エンジン1は、吸気を各気筒に導く吸気通路20、各気筒からの排気を排出する排気通路30、排気の一部(以下EGRガスという)を吸気通路20を介して各気筒に還流させるEGR装置60、排気エネルギによって吸気を過給するターボチャージャ10等を備える。
【0014】
吸気通路20は、上流側より順に、外気から塵埃等の異物を取り除くエアクリーナ21、ターボチャージャ10を構成するコンプレッサ11、吸気を冷却するインタークーラ22、吸気を各気筒に分配する吸気マニホールド19、各気筒の燃焼室壁に開口する吸気ポート(図示せず)等を備える。
【0015】
排気通路30は、上流側より順に、各気筒の燃焼室壁に開口する排気ポート(図示せず)、各排気ポートからの排気を集める第一、第二の排気マニホールド31、32、ターボチャージャ10を構成するタービン12、触媒を介して排気を浄化するとともに排気音を消音する触媒付きマフラ39等を備える。
【0016】
ディーゼル式のエンジン1は、吸気ポートから吸気を気筒に吸入する吸入行程、気筒に噴射供給される燃料を圧縮着火して燃焼させる燃焼行程、気筒内におけるピストンの下降により出力軸を回転駆動する膨張行程、気筒内の排気を排気ポートから排出する排気行程が順に各気筒毎にて行われる。
【0017】
なお、本発明は、ディーゼル式のエンジン1に限らず、火花点火式のエンジンにも適用できる。
【0018】
エンジン1は、#1〜#6の6気筒を備え、例えば#1、#4、#2、#6、#3、#5気筒の順に120degの間隔を持って排気行程を迎える。
【0019】
第一の排気マニホールド31は、排気行程が互いに連続しない(排気開弁期間が重ならない)#1、#2、#3気筒からの排気を集める。同様に、第二の排気マニホールド32は、排気行程が互いに連続しない#4、#6、#5気筒からの排気を集める。これにより、第一、第二の排気マニホールド31、32には、各気筒から排出される排気流が交互に流入し、エンジン速度域に応じて排気の圧力脈動が生じる。
【0020】
なお、本発明は、6気筒エンジン1に限らず、例えば8気筒、10気筒を有する他の多気筒エンジンにも適用できる。そして、排気通路30は、第一、第二の排気マニホールド31、32に限らず、第三、第四、それ以上の排気マニホールドを備える構成としても良い。これに対応して後述する第一、第二のEGR通路61、62、第一、第二の逆止弁51、52等の設置数も増やされる。
【0021】
図2は、第一、第二の排気マニホールド31、32の側面図である。第一、第二の排気マニホールド31、32は、中央ブロック41と、前後ブロック42、43を組み立てて形成される。
【0022】
前ブロック42は、#1、#2気筒の排気ポートに対する開口(排気入口)と、中央ブロック41に対する開口(排気出口)と、EGR通路61に対する開口(EGRガス取り出し口)とを有する。
【0023】
後ブロック43は、#5、#6気筒の排気ポートに対する開口(排気入口)と、中央ブロック41に対する開口(排気出口)と、EGR通路62に対する開口(EGRガス取り出し口)とを有する。
【0024】
図3は、中央ブロック41のタービン12に接続する部位を示す断面図である。中央ブロック41は、#5、#6気筒の排気ポートに接続する開口として排気入口47、48と、前後ブロック42、43に接続する開口として排気連通口45、46と、これら排気入口47、48と排気連通口45、46からの排気がそれぞれ導かれる主通路部66、67と、ターボチャージャ10のタービン12に対する開口として第一、第二のエゼクタ49、50を有する。
【0025】
排気通路30は、第一、第二の排気マニホールド31、32によって導かれる排気を合流してターボチャージャ10のタービン12へと導く排気ジャンクション33を備える。この排気ジャンクション33において、第一、第二のエゼクタ49、50は、後述するようにそれぞれの流路断面積が上流側から下流側にかけて次第に小さくなるように形成され、互いに並んでタービン12のハウジング入口13に接続される。図3に矢印で示すように、各気筒における排気行程初期の排気ブローダウン流が第一、第二のエゼクタ49、50から交互にハウジング入口13へと流出することによって、第一、第二のエゼクタ49、50からの排気が交互にハウジング入口13へと吸引され、排気効率を高められる。
【0026】
排気ジャンクション33は、第一、第二の排気マニホールド31、32を構成する中央ブロック41に一体形成されるが、これに限らず、第一、第二の排気マニホールド31、32と別体で形成してもよい。
【0027】
エンジン1は、過給器として排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャ10が設けられる。ターボチャージャ10は、タービン12の翼車(図示せず)とコンプレッサ11の翼車(図示せず)が同軸上にて連結されている。排気のエネルギによってタービン12の翼車が高速回転し、コンプレッサ11の翼車がその回転により回転軸方向から吸気を吸引し、圧縮した吸気をその回転半径方向に吐出する。
【0028】
EGR装置60は、排気通路30のタービン12より上流側から排気の一部をEGRガスとして取り出し、吸気通路20のコンプレッサ11より下流側に導き、各気筒に還流させるようになっている。
【0029】
EGR装置60は、第一、第二の排気マニホールド31、32からEGRガスをそれぞれ取り出す第一、第二のEGR通路61、62と、この第一、第二のEGR通路61、62に導かれるEGRガスが逆流することを止める第一、第二の逆止弁51、52と、第一、第二のEGR通路61、62に導かれる排気を合流させるEGRジャンクション63と、このEGRジャンクション63にて合流したEGRガスを吸気通路20に導くEGR合流通路64とを備える。
【0030】
第一、第二のEGR通路61、62には、EGRガスを冷却する第一、第二のEGRクーラ71、72がそれぞれ介装される。
【0031】
第一、第二のEGR通路61、62に導かれるEGRガスは、EGRジャンクション63にて合流し、EGR合流通路64を通って吸気通路20へと導かれる。
【0032】
EGR合流通路64には、このEGR合流通路64を流れるEGRガスの流量を検出するEGRガス流量検出器3と、EGRガスの流量を調節するEGRガス流量制御弁4と、を備え、EGRガス流量検出器3の検出信号に応じてEGRガス流量制御弁4の開度が制御される構成とする。
【0033】
第一、第二のEGR通路61、62には、エンジン速度域に応じて第一、第二の排気マニホールド31、32に生じる排気の圧力脈動が伝播する。
【0034】
EGRジャンクション63は、第一、第二のEGR通路61、62をそれぞれ開閉する第一、第二の逆止弁51、52が介装される。なお、これに限らず、第一、第二の逆止弁51、52がEGRジャンクション63より上流側に設けられる構成としてもよい。
【0035】
第一、第二の逆止弁51、52は、それぞれの前後差圧が所定値を超えて高まる場合には、リードバルブ(図示せず)がその弾性復元力に抗して撓んで開弁し、第一、第二のEGR支流端81、82をそれぞれ開通する。
【0036】
これにより、第一、第二の排気マニホールド31、32に生じる排気脈動圧が第一、第二のEGR通路61、62に伝播し、排気脈動圧のピーク値が吸気通路20の吸気圧力を超える運転状態において、第一、第二の逆止弁51、52が交互に開弁し、第一、第二のEGR通路61、62に導かれるEGRガスが、EGRジャンクション63にて合流し、EGR合流通路64を通って吸気通路20へと導かれる。
【0037】
コントローラ9は、予め設定されたマップに基づきエンジン1の運転状態に応じてEGRガスの流量の目標値を求め、EGRガス流量検出器3を介して検出されるEGRガスの流量が目標値に近づくようにEGRガス流量制御弁4の開度をフィードバック制御する。これにより、エンジンの運転状態に応じて適正量のEGRガスが各気筒に還流することにより、燃焼室内での燃焼温度が下げられ窒素酸化物の発生量が抑えられる。
【0038】
また、EGRガス流量制御弁4の開度に応じてターボチャージャ10の回転速度が調節される。
【0039】
可変容量式のターボチャージャ10は、タービン12の翼車に排気を導く入口に図示しない可変ノズルが設けられ、この可変ノズルが回動することによってノズル面積が変えられる。
【0040】
可変ノズルの開度は、コントローラ9によってエンジン1の運転状態に応じて制御される。これにより、可変ノズルの開度に応じてターボチャージャ10の回転速度が調節され、エンジン1の運転状態に応じた目標過給圧が得られる。
【0041】
可変容量式のターボチャージャ10の容量は、タービン12の可変ノズルを全開にする場合に、またはEGRガス流量制御弁4が開かれてEGRガスを吸気通路20に還流する場合に、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えないように設定される。
【0042】
これにより、通常運転時は、エンジン1の高回転速度域にて、タービン12の可変ノズルを開くか、またはEGRガス流量制御弁4を開くことにより、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えることがない。そして、高負荷時にEGRガス流量制御弁4を開いてEGRガスを吸気通路20に還流しても、タービン12の可変ノズルを全開位置より閉じて、可変容量式のターボチャージャ10の過給圧が高められることにより、各気筒に供給される吸気中の酸素量が確保される。
【0043】
図3に示す排気ジャンクション33において、第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjは、排気通路30の第一、第二のエゼクタ49、50より上流側の最小流路断面積Siより小さくなる範囲で、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えないように設定される。
【0044】
具体的には、第一、第二の排気マニホールド31、32の排気入口47、48の流路断面積が排気通路30の第一、第二のエゼクタ49、50より上流側の最小流路断面積Siとなる。第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjは、排気入口47、48の流路断面積Siより小さい範囲において、エンジン1が最大出力となる定格運転時に、EGRガス流量制御弁4が全閉して全ての排気がタービン12に導かれ、かつ可変ノズルが全開位置より閉じた場合に、排気通路30の第一、第二のエゼクタ49、50が臨界状態となるように設定される。この臨界状態とは、排気の流速が音速と等しくなって、流量が制限されるチョーク状態である。
【0045】
図4は、横軸のパラメータを第一、第二の排気マニホールド31、32を流れる排気の流量の合計値をマニホールド排気流量Geとし、縦軸のパラメータを第一、第二の排気マニホールド31、32の出入口圧力比Pz/Ptとする特性図である。なお、Pzは、第一、第二のエゼクタ49、50より上流側における第一、第二の排気マニホールド31、32の排気圧力である。Ptは、第一、第二のエゼクタ49、50より下流側のタービン12の入口の排気圧力である。
【0046】
図4に示す本発明の特性Aは、マニホールド排気流量Geが所定値を超えると、出入口圧力比Pz/Ptが急上昇する。これは、マニホールド排気流量Geが所定値を超えると、第一、第二のエゼクタ49、50にてマニホールド排気流量Geが制限される臨界状態となるためである。
【0047】
図4に示す従来の特性Bは、第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjが、排気入口47、48の流路断面積Siより大きく設定されたものであり、マニホールド排気流量Geが増えるのに伴って、臨界状態を迎えることなく、出入口圧力比Pz/Ptが次第に上昇している。
【0048】
図5は、ターボチャージャ10のコンプレッサ12の作動特性図であり、横軸のパラメータはコンプレッサ12を通過する空気流量であるコンプレッサ修正流量G’aとし、縦軸のパラメータはコンプレッサ12の圧力比としてコンプレッサ12の出口圧力P2と入口圧力P1の比P2/P1としている。
【0049】
Dの等高線は、コンプレッサ効率マップであり、等高線の中心に近づく程、コンプレッサ効率が高くなり、等高線の中心領域がコンプレッサ最高効率領域となる。
【0050】
Eは、エンジン最高トルク点を結ぶ作動線(エンジン最大負荷時作動線)であり、コンプレッサ11のサージラインFを超えないように設定される。
【0051】
Hは、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超える作動線である。
【0052】
aは、エンジン低速域作動線である。bは、エンジン中速域作動線である。cは、エンジン高速域作動線である。これらの作動線a〜cにおいて、エンジン負荷が高い程、図中の右上へ作動点が移動する。
【0053】
2点鎖線で示すエンジン高速域作動線c’は、第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjが、排気入口47、48の流路断面積Si以上に大きく設定された従来例であり、第一、第二のエゼクタ49、50にて排気流が臨界状態を迎えないため、高負荷時に限界特性Hを超える。この高負荷時に、EGRガス流量制御弁4が開弁することにより、作動点が矢印eで示すように移動し、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えることが回避される。また、この高負荷時に、可変ノズルが全開することにより、作動点が矢印fで示すように移動し、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えることが回避される。
【0054】
しかし、上記の従来例において、EGRガス流量制御弁4またはターボチャージャ10の可変ノズルの作動不良を来した場合に、作動点が限界特性Hを超え、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超える可能性がある。
【0055】
本発明のエンジン高速域作動線cは、第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjが、排気入口47、48の流路断面積Siより小さく設定されることにより、2点鎖線で示す従来の特性c’から図中の左側に移行し、エンジン負荷が高まるのに伴って第一、第二のエゼクタ49、50にて排気流が臨界状態を迎えるため、作動点が限界特性Hを超えることが回避される。
【0056】
これにより、エンジン1が最大出力となる定格運転時において、仮にEGRガス流量制御弁4が全閉し、全ての排気がタービン12に導かれ、かつ可変ノズルが全開位置より小さい運転状態になっても、排気通路30の第一、第二のエゼクタ49、50にて排気流が臨界状態となるため、ターボチャージャ10が限界回転速度を超えることが回避され、EGRガス流量制御弁4、可変ノズルの作動不良に対応したフェールセーフ機能が果たされる。
【0057】
また、定格運転時において、排気通路30の第一、第二のエゼクタ49、50にて排気流が臨界状態となるため、排気通路30の排気が気筒に戻される内部EGR率が高まることによっても、ターボチャージャ10が限界回転速度を超えることが回避される。
【0058】
以下、本実施形態の要旨と作用、効果を説明する。
【0059】
本実施形態では、排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャ10を備える過給式多気筒エンジン1であって、着火順序が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める第一、第二の排気マニホールド31、32と、この第一、第二の排気マニホールド31、32によって集められた排気をターボチャージャ10へと導く第一、第二のエゼクタ49、50と、を備え、第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjは、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えないうちに第一、第二のエゼクタ49、50における排気流が臨界状態を迎えるように設定される構成とする。
【0060】
上記構成に基づき、各気筒における排気行程初期の排気ブローダウン流が第一、第二のエゼクタ49、50から交互にターボチャージャ10へと流出することによって、第一、第二のエゼクタ49、50からの排気が交互にハウジング入口13へと吸引され、排気効率を高められる。
【0061】
エンジン負荷が高まるのに伴って第一、第二のエゼクタ49、50を通過する排気流量が増加し、第一、第二のエゼクタ49、50における排気流が臨界状態を迎えるため、仮にEGRガス流量制御弁、ターボチャージャ10の可変ノズル等の作動不良を来した場合にも、ターボチャージャ10が限界回転速度を超えることを回避し、ターボチャージャ10が破損することを防止できる。
【0062】
本実施形態では、第一、第二のエゼクタ49、50の最小流路断面積Sjは、排気通路30の第一、第二のエゼクタ49、50より上流側の第一、第二の排気マニホールド31、32における最小流路断面積Siより小さくなる範囲に設定される構成とする。
【0063】
上記構成に基づき、第一、第二の排気マニホールド31、32を通過する排気流量が増加するのに伴って、第一、第二のエゼクタ49、50における排気流が臨界状態を迎える構成とすることが可能となる。
【0064】
本実施形態では、第一、第二のエゼクタ49、50からターボチャージャ10に流入する排気の流れを絞る可変ノズルと、排気通路30から排気の一部をEGRガスとして取り出して吸気通路20に導くEGR通路61、62と、EGR通路61、62を流れるEGRガスの流量を調節するEGRガス流量制御弁4と、を備え、ターボチャージャ10の容量は、可変ノズルを全開にする場合、またはEGRガス流量制御弁4が開かれてEGRガスを吸気通路20に還流させる場合に、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えないように設定される構成とした。
【0065】
上記構成に基づき、可変ノズルが正常に作動する通常運転時に、エンジン1の高回転速度域にて、タービン12の可変ノズルを開くか、またはEGRガス流量制御弁4を開くことにより、ターボチャージャ10の回転速度が限界回転速度を超えることがない。そして、高負荷時にEGRガス流量制御弁4を開いてEGRガスを吸気通路20に還流しても、タービン12の可変ノズルを全開位置より閉じて、可変容量式のターボチャージャ10の過給圧が高められることにより、各気筒に供給される吸気中の酸素量が確保される。
【0066】
本実施形態では、着火順序が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める第一、第二の排気マニホールド31、32と、この第一、第二の排気マニホールド31、32からそれぞれEGRガスを取り出す第一、第二のEGR通路61、62と、この第一、第二のEGR通路61、62に導かれるEGRガスが逆流することを止める第一、第二の逆止弁51、52と、第一、第二のEGR通路61、62に導かれる排気を合流させるEGRジャンクション63と、このEGRジャンクション63にて合流したEGRガスを吸気通路20に導くEGR合流通路64とを備える構成とした。
【0067】
上記構成に基づき、第一、第二の排気マニホールド31、32に生じる排気脈動圧が第一、第二のEGR通路61、62に伝播し、排気脈動圧のピーク値が吸気通路20の吸気圧力を超える高負荷運転状態において、第一、第二の逆止弁51、52が交互に開弁し、第一、第二のEGR通路61、62に導かれるEGRガスが、EGRジャンクション63にて合流し、EGR合流通路64を通って吸気通路20へと導かれる。
【0068】
そして、EGR合流通路64にEGRガスの流量を検出するEGRガス流量検出器3と、EGRガスの流量を調節するEGRガス流量制御弁4と、を介装する構成とすることにより、排気脈動圧が弱められたEGRガスがEGRガス流量検出器3に導かれ、EGRガス流量検出器3が排気脈動圧の影響を受けることを抑えられ、EGRガスの流量の検出が安定して行われるため、EGRガス流量制御弁4を介してEGRガスの流量を精度良くフィードバック制御することができる。
【0069】
図6は、本発明の他の実施形態を示す過給式多気筒エンジン1の概略構成図である。以下、これについて説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には、同一符号を付す。
【0070】
吸気通路20は、着火順序が互いに連続しない(吸気開弁期間が重ならない)#1、#2、#3気筒への吸気を導く第一の吸気マニホールド91と、着火順序が互いに連続しない#4、#6、#5気筒への吸気を導く第二の吸気マニホールド92とを備える。
【0071】
第一の排気マニホールド31が連通する#1、#2、#3気筒の一つが排気行程を迎えるときに、第一の吸気マニホールド91が連通する#1、#2、#3気筒の一つが吸気行程を迎える。同様に、第二の排気マニホールド32が連通する#4、#6、#5気筒の一つが排気行程を迎えるときに、第二の吸気マニホールド92が連通する#4、#6、#5気筒の一つが吸気行程を迎える。
【0072】
EGR装置60は、第一、第二の排気マニホールド31、32と第一、第二の吸気マニホールド91、92とをそれぞれ連通する。
【0073】
第一、第二のEGR通路101、102には、EGRガスを冷却する第一、第二のEGRクーラ71、72と、EGRガスが逆流することを止める第一、第二の逆止弁51、52と、EGRガスの流量を調節する第一、第二のEGRガス流量制御弁93、94とがそれぞれ介装される。
【0074】
第一、第二のEGR通路101、102は、第一、第二のベンチュリ103、104を介して第一、第二の吸気マニホールド91、92にそれぞれ接続される。吸気は、第一、第二のベンチュリ103、104を通って第一、第二の吸気マニホールド91、92に導かれる過程にて、第一、第二のEGR通路101、102に導かれるEGRガスが第二のベンチュリ103、104に吸い込まれる。
【0075】
以上のように、本実施形態では、着火順序が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める第一、第二の排気マニホールド31、32と、吸気行程が互いに連続しない気筒への吸気を導く第一、第二の吸気マニホールド91、92と、第一の排気マニホールド31からEGRガスを取り出して第一の吸気マニホールド91に導く第一のEGR通路101と、第二の排気マニホールド32からEGRガスを取り出して第二の吸気マニホールド92に導く第二のEGR通路102とを備える構成とした。
【0076】
上記構成に基づき、EGR装置60は、第一、第二の排気マニホールド31、32に生じる排気脈動圧と、第一、第二の吸気マニホールド91、92に吸気脈動圧を利用して、第一、第二のEGR通路101、102によって導かれるEGRガスの流量が十分に確保される。
【0077】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【符号の説明】
【0078】
1 エンジン
3 EGRガス流量検出器
4 EGRガス流量制御弁
10 ターボチャージャ
20 吸気通路
30 排気通路
31 第一の排気マニホールド
32 第二の排気マニホールド
51 第一の逆止弁
52 第二の逆止弁
60 EGR装置
61 第一のEGR通路
62 第二のEGR通路
63 EGRジャンクション
64 EGR合流通路
81 第一のEGR支流端
82 第二のEGR支流端
91 第一の吸気マニホールド
92 第二の吸気マニホールド
101 第一のEGR通路
102 第二のEGR通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気のエネルギによって吸気を過給するターボチャージャを備える過給式多気筒エンジンであって、
排気行程が互いに連続しない気筒群からの排気をそれぞれ集める第一、第二の排気マニホールドと、
前記第一、第二の排気マニホールドによって集められた排気を前記ターボチャージャへと導く第一、第二のエゼクタと、を備え、
前記第一、第二のエゼクタの最小流路断面積は、前記ターボチャージャの回転速度が限界回転速度を超えないうちに前記第一、第二のエゼクタにおける排気流が臨界状態を迎えるように設定されることを特徴とする過給式多気筒エンジン。
【請求項2】
前記第一、第二のエゼクタの最小流路断面積は、前記第一、第二のエゼクタより上流側の第一、第二の排気マニホールドにおける最小流路断面積より小さくなる範囲に設定されることを特徴とする請求項1に記載の過給式多気筒エンジン。
【請求項3】
前記第一、第二のエゼクタからターボチャージャに流入する排気の流れを絞る可変ノズルと、
排気通路から排気の一部をEGRガスとして取り出して吸気通路に導くEGR通路と、
前記EGR通路を流れるEGRガスの流量を調節するEGRガス流量制御弁と、を備え、
前記ターボチャージャの容量は、前記可変ノズルを全開にする場合に、または前記EGRガス流量制御弁が開かれてEGRガスを前記吸気通路に還流させる場合に、前記ターボチャージャの回転速度が限界回転速度を超えないように設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の過給式多気筒エンジン。
【請求項4】
前記第一、第二の排気マニホールドからそれぞれEGRガスを取り出す第一、第二のEGR通路と、
前記第一、第二のEGR通路に導かれるEGRガスが逆流することを止める第一、第二の逆止弁と、
前記第一、第二のEGR通路に導かれる排気を合流させるEGRジャンクションと、
前記EGRジャンクションにて合流したEGRガスを前記吸気通路に導くEGR合流通路とを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の過給式多気筒エンジン。
【請求項5】
吸気行程が互いに連続しない気筒への吸気を導く第一、第二の吸気マニホールドと、
前記第一の排気マニホールドからEGRガスを取り出して前記第一の吸気マニホールドに導く第一のEGR通路と、
前記第二の排気マニホールドからEGRガスを取り出して前記第二の吸気マニホールドに導く第二のEGR通路とを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の過給式多気筒エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127270(P2012−127270A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279541(P2010−279541)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】