説明

避難誘導システム

【課題】 火災発生時に避難誘導装置が被災し際に、反射音が蔓延する隘路においても常に最新の安全な避難口への誘導が可能な避難誘導システムを提供する。
【解決手段】 建物の避難路や地下道に設けられ、所定間隔で離間して設置されたスピーカーを使ってハース効果によって音声誘導する避難誘導システムにおいて、周波数帯域が1000〜2500ヘルツの範囲にある狭帯域ノイズを使って避難ルート案内をするようにした。また、前記避難誘導装置は視覚的に認知させる避難誘導装置部の他に、誘導音声を発するスピーカーと、個々の避難誘導装置を他の避難誘導装置から区別するIDデータとを備え、火災が発生した際に、出火付近の避難誘導装置から安全な避難口付近の避難誘導装置までのルートを自動生成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルやトンネル内で火災が発生した時に、罹災者に避難場所の方向を音声によって示す避難誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型高層ビルが増え、火災発生時における避難誘導の有用性が増している。しかし、火災によって発生した煙が建物内部に充満すると視界が悪くなり、また煙が目に入ると目が開けられず避難誘導装置や誘導灯があっても避難路の識別が難しくなる。この場合には視覚以外の五感のうち聴覚が避難誘導のための残された有効な感覚となる。聴覚を避難誘導に利用した先行文献として特許文献1〜5がある。
【0003】
特許文献1においては、所属するアドレスシリアルコードを有する火災検知器と、各通路及び公共場所に設置された複数の経路指示器と、安全死角の場所に設置された無線緊急呼出器とを使うインテリジェント無線火災地点通報装置において、前記経路指示器が該無線警報信号を受信すると、それに含まれるディジタルエンコードナンバーによりそれがどの火災検知器が発生した信号であるかを識別し、これにより最良の避難経路を判断し、並びに出火地点と避難経路を表示する記載がある。
【0004】
特許文献2においては、火災感知器で火災を感知すると、制御装置では避難口誘導灯を通常のモードから非常時のモードに切り換え、スピーカーから音声誘導を行なうとともに、キセノンランプを点滅させ、避難口誘導灯がこの非常時のモードになるとともに、光点滅誘導装置用リングカウンタを動作させ、光点滅誘導装置を毎秒2〜8mの速さで、避難口方向に光の流れを生じさせるようにしている。また、スピーカー用リングカウンタにより、誘導音声発生時期においてハース効果を生じるようにずらし、誘導音声に避難口に向かう方向感を付与するようにした避難誘導装置について記載されている。
【0005】
特許文献3においては、建物内の通路に設けられた複数のスピーカーと、隣接するスピーカー間でハース効果を生じさせるための遅延時間の情報を、前記複数のスピーカーの配置位置に基づいて分けた複数の系列ごとに記憶したスピーカー間遅延時間記憶手段と、連続する複数の系列の指定によって前記建物の出口への誘導経路の入力を受け付ける誘導経路入力手段と、前記誘導経路として指定された系列における各スピーカー出力を制御する制御遅延時間を、出口から隣接する系列までの遅延時間と前記スピーカー間遅延時間記憶手段に記憶された遅延時間とに基づいて算出する制御遅延時間算出手段と、前記制御遅延時間算出手段にて算出された制御遅延時間に基づいて、前記各スピーカーの出力を制御するスピーカー制御手段とを備えた音声誘導装置について記載されている。
【0006】
特許文献4においては、所定方向に沿って互いに間隔を置いて設けられた複数のスピーカーと、複数の可聴周波数成分を有する誘導信号を上記複数のスピーカーに供給する誘導音源手段と、前記複数のスピーカーのそれぞれと上記誘導音源手段との間に設けられた複数のフィルター手段とを具備したフィルター放送装置において、前記複数のスピーカーから互いに異なる上記可聴周波数成分に対応する誘導音が、この誘導音の周波数が上記所定方向に沿って、或いは所定方向に沿う順番で順次出力されるフィルター放送装置について開示されている。
【0007】
非特許文献1においては、廊下などの避難者を誘導した方向に等間隔に複数のスピーカーを配置し、それぞれのスピーカーと誘導音を発生する音源との間に、個別の遅延回路が設け、各遅延回路の遅延時間は、互いに数ms〜数十ms程度異なっており、対応するスピーカーが避難口に近いものほど前記遅延時間が短くなるように設定されている構成をもち、避難口に近いスピーカーから順に、前記遅延時間に従う時間間隔で誘導音声が出力され、通路内に存在する避難者は、ハース効果により誘導され、この誘導音が最初に聞こえた方向に進むことにより避難口に辿り着くように誘導される非難誘導が記載されている。
【0008】
【特許文献1】実願2001−003834
【特許文献2】特開平05−266368
【特許文献3】特開2006−340159
【特許文献4】特開2005−236737
【非特許文献1】伊藤洋一、「音による非難誘導」、日本音響学会誌57巻10号(2001)、675〜680頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているインテリジェント無線火災地点通報装置は、火災発生時に煙などで視界が悪くなった場合にも分かり易い避難指示方法、例えばハース効果が記載されていない。更に火災発生時にデフォルトの避難ルートを設定するだけで、火災が広がった場合のルート更新が出来ない。
【0010】
特許文献2に記載された避難誘導装置は、有線によって中央管制室から各スピーカーをコントロールしているので、当然のことながら火災などの有事にスピーカーの接続ケーブルが途中において熱などで断線すると機能しなくなり、最悪の場合は停電により機能が完全に停止する虞れもある。また、スピーカーからの音声誘導はあるものの音声自体が方向性を示すものではない。
【0011】
特許文献2〜4、非特許文献1には、ハース効果或いはこれに類似した考えが開示されている。これら先行技術においては、ハース効果の定義を、所定間隔離して設置した複数のスピーカーから発する音声に時間差を持たし、聞く者に恰も音源が移動している錯覚を与えるものとしているが、これはハース効果ではない。ハース効果とは、左右のスピーカーから同じ大きさの音を発する場合に、一方から先に発すると、当該一方から音がでていると感じる効果をいう。つまり、ハース効果とは、人間の音響に対する心理が働き、同じ音量でも、先に耳に届いた方から音がしていると錯覚を起こす現象を指す効果のことである。
【0012】
上記のハース効果或いは音源移動効果は何も障害物がない音波暗室などにおいて実施した場合には、方向性を明確に確認することができる。しかしながら廊下、トンネル或いは地下道など周囲を壁で囲まれた空間では、スピーカーからの音が壁で反射し、効果を確認しにくい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、一定の定められた波長の音(純音)を用いた場合には廊下などにおいて音源移動効果を確認できないが、様々な波長の音が混ざったノイズは音源移動効果を確認できるという知見を得た。即ち、指向性の高い音(純音)は乱反射の影響があると音源移動効果を発揮し難く指向性の低い音(ノイズ)は乱反射が存在しても音源移動効果を発揮しやすいことが分かった。
【0014】
そこで、請求項1に係る発明は、所定間隔離間して設置された複数のスピーカーから避難経路に添って時間差をつけて音声を発することで音源移動効果を発揮するようにした避難誘導システムにおいて、前記スピーカーから発せられる音声を、指向性の低い狭帯域ノイズとした。
【0015】
上記構成とすることで、廊下などのように周囲が音を反射する壁で囲まれた空間でも出火元からの避難口方向に向かって順次音が移動する錯覚を与え、音が誘導する方向に沿って移動することで安全に避難口までたどり着くことができる。
【0016】
また、前記狭帯域としては1000〜2500Hzとすれば、老人でも確実に認識できる周波数帯域となり一般的な認知度が高まる。またノイズとしては、ホワイトノイズ、又はピンクノイズ、又はウォーブルトーン、又はマルチサイン音などが考えられる。これらは、建物内部の構造や避難路の壁材質などにより適宜選択することができる。
【0017】
更に、避難路のコーナー部の避難誘導装置には1つではなく例えば3つのスピーカーを設け、これらのスピーカーに例えば1〜30msの時間差を持たせて順番に避難誘導音を発生させることによりコーナー部での曲がる方向を個別に案内することも考えられる。これにより、避難者は、曲がり角でも確実に避難方向を認識できるようになる。
【0018】
また、この避難誘導システムは、スピーカーを備えた個々の避難誘導装置を他の避難誘導装置から区別するIDデータと、時計機能を持つCPUとを備え、火災が発生した際に、出火付近の避難誘導装置から連鎖的に点呼を取ることにより安全な避難口付近の避難誘導装置までの案内ルートを前記IDデータとCPUによって自動生成し、前記案内ルートの逆のルートで前記出火付近から安全な避難口に向かって、前記個々の避難誘導装置に設けたスピーカーが避難ルート案内することも考えられる。前記避難誘導装置にID識別可能なデータキャリアとメモリーを内蔵し、火災が発生した付近の避難誘導装置に内蔵の火災センサー又は外部の火災センサーからの火災検知信号を当該避難誘導装置に隣接する避難誘導装置が受信し、更にその信号を隣接する避難誘導装置に送信するバケツリレー方式によって点呼を取りながら順次火災情報を伝達し、出口の避難誘導装置に到達するまでのルートを生成すれば、ルートが生成された後にルート情報をコールバックしながら前記ルートデータを前記メモリーに書き込んでゆくことも可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の避難誘導システムは、防災センターからの指示がなくとも、火災センサーからの出火通報データが入力されると、個々の避難誘導装置自身が連携して自ら最適なルートを判断して安全な避難口付近の避難誘導装置までのルートをネットワークとして生成し、音源移動効果を使って安全な避難口に向かって避難誘導することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一機能を有するものは同一の符号とし、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
図1(a)〜(c)はビルの出火場所が1ヶ所の場合における避難ルート生成例を示している。該ビルのフロアには第1避難口1、第2避難口2,第3避難口3、第4避難口4、第5避難口6、第6避難口6の六つの避難口が設けられ、第1避難口1付近には避難誘導装置A、a1、a2が、第2避難口2付近には避難誘導装置B、b1、b2が、第3避難口3付近には避難誘導装置C、c1、c2が、第4避難口4付近には避難誘導装置D、d1、d2が、第5避難口5付近には避難誘導装置E、e1、e2が、第6避難口6付近には避難誘導装置F、f1、f2が、更に建物内部には避難誘導装置z1、z2、z3が備えられている。
【0022】
図1(a)は、往路における第1避難口1付近のみから出火した場合の出火通報データ通報ルートを示している。まず、前記建物内部に設けられた火災センサーによって検知されて防災センターからの操作に基づき、出火通報データの送出を開始する。
【0023】
最初に避難誘導装置Aから前記出火通報データが電波で送信され、第2〜6避難口2〜6に向けて相互認証機能を使ったリレー方式で避難誘導装置B〜Fに通達される。前記電波の周波数としては、例えば特定小電力トランシーバーで使われる400MHz帯が使える。
【0024】
更に、避難誘導装置Aからは探索信号音が送出され、避難誘導装置Aの送出した音を受信する避難誘導装置a1では、前記電波と音の到達時差データが生成される。前記音の周波数としては、データ通信を前提としているのである程度のデータ送信レートが必要なことから5kHzから10kHzの間の周波数を使うことが考えられる。また、音の内容としては、同期信号と発信した避難誘導装置のID番号をパケット通信することが考えられる。
【0025】
図1(a)においては、音データが、例えば第1避難口1から第5避難口5までの経路としては、避難誘導装置Aからa1、a2、z1、z2、z3、e2、e1、Eの順番で、電波と共にリレーされ、各避難誘導装置においてはCPUの機能によって電波と音の到達時差データが生成され、メモリーに保存される。
【0026】
前記出火通報データの電波による具体的な通信内容としては、開始信号、開始時間、出火元情報(避難誘導装置AのIDデータ)、送信元となる避難誘導装置のIDデータ、リレールート情報(例えば、出火元から当該避難誘導装置までのIDデータ列で受信した避難誘導装置がe1の場合にはA・a1・a2・z1・z2・z3・e2など)、終了信号をひとつ以上のパケットとして通信するパケット通信が考えられる。
【0027】
図1(b)は、復路における避難誘導装置Eから避難誘導装置Aへのコールバック信号通報ルートを示している。前記コールバック信号は電波で送信される。この内、電波については、安全な避難口5付近の避難誘導装置Eは、第1避難口1付近にある避難誘導装置Aからのデータを電波で受信した後に、前記リレールート情報を使って、逆の経路で電波によるコールバック信号を相互認証しながら第1避難口1付近の避難誘導装置Aまで通信をリレー送信する。
【0028】
また上記の例においては、避難誘導装置Eは避難誘導装置e1に前記コールバック信号を送信し、次に避難誘導装置e1は避難誘導装置e2にコールバック信号を送信すると同時に、避難誘導装置E←避難誘導装置e1←避難誘導装置e2という避難ルートデータを更新する。
【0029】
次に避難誘導装置e2は避難誘導装置z3に前記コールバック信号を送信し、同様に避難誘導装置z2→避難誘導装置z1→避難誘導装置a2→避難誘導装置a1→避難誘導装置Aの順番にコールバック信号がリレーされ、最終的に、避難誘導装置A→避難誘導装置a1→避難誘導装置a2→避難誘導装置z1→避難誘導装置z2→避難誘導装置z3→避難誘導装置e2→避難誘導装置e1→避難誘導装置Eという避難ルートが確定する。
【0030】
もし、隣接する避難誘導装置間のリレー切換時間を予め設定して固定してしまうと、予期せぬ事態が発生し、火災発生中に避難経路途中の避難誘導装置に不具合が生じた場合には、避難ルート上の避難誘導装置の中で使えなくなる可能性がある。
【0031】
前記の場合は、最初に火災センサーの信号により、避難誘導装置Aから出火通報データが電波で送信され、第2〜6避難口2〜6に向けて相互認証機能を使ったリレー方式で避難誘導装置B〜Fに通達された後は、出火口付近の避難誘導装置A以外の避難誘導装置B〜Fの各々から後述するバックプレッシャ輻輳制御機能によって交通整理をして早いタイミングでアクセスする機器から順番にルートを確立する。
【0032】
上記により安全な避難口付近の避難誘導装置から前記各避難ルートデータに基づいて火元、あるいは火災などで損傷を受けて不具合のある避難誘導装置までの避難ルートを繰り返し避難誘導することが可能となる。更に、ある避難誘導装置から次の避難誘導装置に対して電波を送り、例えば1秒待っても応答信号が帰って来ない場合は前記次の避難誘導装置には不具合があるものと判定し、この判定をした避難誘導装置は自分自身を火元に近い避難誘導装置として自己認定する。
【0033】
更に、前記火元に近い避難誘導装置と自己認定した避難誘導装置から火元認定登録データを前記安全な避難口付近に位置する避難誘導装置にフィードバックすることで新しい避難ルートを更新する。
【0034】
図1(c)には、第2回目の往路における避難誘導装置Eからの避難誘導ルートが図示されている。前記コールバック信号が前記避難誘導ルートの最終ポイントとなる避難誘導装置Aに到達すると、避難誘導装置Aが起点となって電波と音を使った避難誘導を開始する。
【0035】
避難誘導装置Aから避難誘導装置B〜Fに向かってa1、a2、z1、z2、z3、e2、e1、Eの順番に電波と音を使って出火通報データを発信することにより避難誘導案内を実行する。前述の通り、初回の往路における音データのリレー動作により、受信側の避難誘導装置には対応する送信側の避難誘導装置との間の音波到達所用時間データが保存されているので、第2回目の往路通信においては、初回往路の音データ送受信で計測した音波到達所用時間データを使うことにより、受信側の避難誘導装置は、電波を受信してから該音波到達所用時間データ以上の遅延時間を持たせてから音による避難誘導音を発生させ、次々とハース効果或いは音源移動効果を持った避難誘導が出来る。
【0036】
上記避難誘導音を発音するのに際して、装置間の音波到達所用時間データは初回往路通信で計測済みであるから、初回往路における単一周波数の音と同じ音を使う必要はなく、むしろ避難誘導に適した音を選択すべきである。
【0037】
前記避難ルートの通路が狭い隘路であった場合、また前記通路の壁が音を乱反射し易い材質であった場合、通常の音声案内では乱反射の影響でハース効果や音源移動効果が期待できないおそれがある。特に音声で“避難口はこちらです”などという案内音が乱反射して避難口通路に蔓延すると何を言っているのか全く理解できない場合も生じる。
【0038】
そこで、乱反射に弱い指向性の高い音声案内ではなく、指向性の低いノイズを使って避難誘導する。前記ノイズにはホワイトノイズ、ピンクノイズ、ウォーブルトーン、マルチサインなどが使える。
【0039】
更に、可聴帯域外の音は無駄な騒音の原因になり、しかも音を発生させる際に、無駄なエネルギーを使うのでノイズの周波数帯域を可聴帯域に限定することが有効となる。
【0040】
健常者以外でも聞きやすい音を設定する参考として、JISのS0013(高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音)などを考慮すると、実際の周波数帯域としては、例えば指向性の低い1000〜2500ヘルツの範囲にノイズの周波数帯域を設定すれば、聴覚特性の優れた人でなくとも聞こえる範囲なので最も効率の良い周波数帯域と言える。
【0041】
また前記において、火元に一番近い避難誘導装置、例えば避難誘導装置Eにおいては、火元付近ということで前記音声案内とは別のブザー等の効果音を併用することも考えられる。
【0042】
上記においては避難誘導装置Aと避難誘導装置F間の通信を説明したが、他の避難誘導装置B、C、D、Fについても同様の交信が行われる。1対多数の更新ではあるが、実際の交信は1対1で行われているのでひとつのルート案内が終わってから次のルート案内をする必要がある。ここでは、例えば避難誘導装置Aが受信した避難誘導装置B〜FのID番号を使って昇順に送信することが考えられるが、後述するバックプレッシャ輻輳制御機能を使うことにより特に順番を決めなくても通信の重複を避けることができる。
【0043】
また、電波の入出力手段は避難情報のデータ通信用に使う第1の電波周波数と衝突通知信号を送受信する第2の電波周波数を使い、この第2の電波周波数の電波入出力手段にバックプレッシャ輻輳制御機能を持たせることにより、通信中の送信側避難誘導装置以外の衝突信号を検出した送信側避難誘導装置では、未接続の送信にポーズをかけて送信待機状態として、処理中の他の通信が終了し次第再試行することにより接続の衝突による不具合を回避できる。
【0044】
上記において、ふたつの電波を使わずに通常の非接触ICカードのように1つの搬送波周波数で最初に通信を確立してから避難情報のデータを送る方法も考えられる。この場合は、避難ルートが少ない場合には有効であるが、複雑な構造の建物などで使う場合には、輻輳制御による通信確立に時間がかかる可能性があるので使う電波の数を1つにするのか2つにするのかは適宜選択する必要がある。
【0045】
図2(a)は避難誘導装置の正面図である。これは、例えば2mm厚程の金属板上に蓄光材を塗布したものを焼成させたもので、取付穴にネジを挿通して壁や床などに固定することができる。前記蓄光材により、例えば火災が発生して電力線が切断された場合においても蓄光の放出により避難方向を表示することができる。
【0046】
図2(b)は避難誘導装置の裏面構成図である。電波を受信するコンポーネントとして受信アンテナ10、受信RF回路11、復調回路12が備えられ、前記復調回路12の出力が全体の制御をするCPU8に入力される。また音を受信するコンポーネントとしてマイクロホンMがCPU8に接続され、後述する探索信号音を受信して機械−電気変換をした後の電気信号をCPU8に供給する。前記CPU8は時計機能を内蔵し、火災発生時には火災を検知した避難誘導装置あるいは火災センターからの時刻情報を持った電波を受信すると前記時計機能の時刻を同期させ、次の避難誘導装置にも同様の電波をリレーすることにより連鎖的にCPU8の時計機能を同期させてゆく。また前記CPU8にはIDデータを保存するメモリー9とシステムROM13が接続されている。
【0047】
前記避難誘導装置の電波出力系統として、前記CPU8の出力端子に接続された第1変調回路14、第1RF出力回路15、第1出力アンテナ16および第2変調回路17、第2RF出力回路18、第2出力アンテナ19の2系統の出力ルートが形成される。また音を発信するコンポーネントとしては、スピーカーSP、SP−R、SP−LがCPU8に接続されている。
【0048】
スピーカーSP、SP−R、SP−Lは、例えば右から左に音を移動させる場合には最初にスピーカーSP−Rを鳴らし、所定の遅延時間を置いてからスピーカーSPを鳴らし、更に同じ遅延時間を置いてからスピーカーSP−Lを鳴らすことにより、これら3つのスピーカーを使ってハース効果を出し、避難者が音の移動方向を錯覚することで避難方向を知ることが出来る。
【0049】
電源は電池Bから不図示の電気的配線手段によって各部品に供給される。前記電池Bは交換容易なボタン電池でも良いし、一般の乾電池を用いても良いが、後述するように充電手段と併用すれば充電バッテリーを使うことも可能である。
【0050】
上記において、単一搬送波を使う場合には、第1変調回路14、第1RF出力回路15、第1出力アンテナ16のみを使い、第2変調回路17、第2RF出力回路18、第2出力アンテナ19は不要となる。
【0051】
該避難誘導装置は電池駆動なので常時電源を通電しておくと緊急時には電池切れを生じる畏れもあり、平常時は、出力系統は通電せず、受信系統のみを間欠駆動することが好ましい。間欠駆動で検出する起動トリガ信号としては、防災センターからの電波および他の避難誘導装置からの電波がある。また、前記防災センターか他の避難誘導装置からの指令が出たら起動させる方法以外に、センサーSによって煙あるいは火災による温度上昇を検知してセルフスタートする方法、および前記2つの方法の併用が考えられる。
【0052】
また、搭載するスピーカーSPについては、磁石とボイスコイルを使って駆動する通常のスピーカーでも良いが、金属板自体あるいは他の平面自体を圧電素子などで振動させることにより音波を発生させることも考えられる。
【0053】
図3(a)〜(c)は、2個所目のビル火災が発生した場合の避難ルート生成例を示している。
【0054】
図3(a)においては、防災センターの指令又は避難誘導装置Cに内蔵された温度センサーによって第2の出火が検出された場合の出火通報データ伝達ルートを示している。出火元である第3避難口付近にある避難誘導装置Cからは、前記装置間の音波到達所用時間データを測定する探索信号音と共に出火通報データが電波で送信され、第2、4〜6避難口2〜6に向けてリレー方式で避難誘導装置B、D、E、Fに通達されるが、既に避難誘導装置A付近から出火したことはCPUによって全避難ルート上の避難誘導装置のメモリーに登録されているので、避難誘導装置Cから避難誘導装置Aに向けての出火通報データ送信は行われない。
【0055】
上記の第1回目の往路通信においても、最初に避難誘導装置Cから出火通報データが電波と探索信号音で送信され、第2、4〜6避難口に向けて相互認証機能を使ったリレー方式で点呼を取りながら避難誘導装置B、D、E、Fに通達されると共に、各避難誘導装置のCPUは、避難誘導装置Aから出火通報データが電波で送信されたことと、避難誘導装置C以外は、初回往路で計算した前記音波到達所用時間と、前記リレールート情報を受信してCPUによってメモリーに保存する。
【0056】
ここで避難誘導装置Cからの出火通報データは安全な避難口に近い避難誘導装置B、D、E、Fに到達する。
【0057】
図3(b)は第6避難口付近の避難誘導装置Fから第3避難口までの第1復路のコールバックルートを示している。避難誘導装置F→避難誘導装置f1→避難誘導装置f2という順番でコールバック信号の電波が避難誘導装置間で相互認証されながらリレーされる。避難誘導装置f2の周囲には避難誘導装置a1、避難誘導装置b2、避難誘導装置z1があるが、前記往路で生成したリレールート情報には避難誘導装置z1のみが登録されているので、避難誘導装置z1のみが避難誘導装置f2からのコールバック信号の電波を受け付け、避難誘導装置z2にリレーする。同様にして、避難誘導装置z2→避難誘導装置z3→避難誘導装置c2→避難誘導装置c1→避難誘導装置Cという順番で相互認証されながらコールバック信号の電波のリレーが行われる。
【0058】
上記においても、コールバック信号には、前記出火通報データデータに加えて、往路における出火通報データ通報ルートで受信側が計算した音波到達所用時間データが含まれる。
【0059】
図3(c)は、避難誘導装置Cから避難誘導装置Fへの電波と避難誘導音のフィードバックルートを図示している。避難誘導装置C→避難誘導装置c1→避難誘導装置c2→避難誘導装置z3→避難誘導装置z2→避難誘導装置z1→避難誘導装置f2→避難誘導装置f1→避難誘導装置Fという順番で、IDデータで相互認証すると共に電波と避難誘導音を使って前記リレールート情報に基づいて避難ルートを辿って避難誘導案内をする。
【0060】
ここで、例えば避難誘導装置z2に不具合が生じた場合においては、避難誘導装置z1が避難誘導装置z3からの電波を受信後に所定の時間、例えば0.1秒間待機して、避難誘導装置z2からの信号が検知できない場合には、避難誘導装置z3から発信された電波で受信したフィードバックデータを使って、避難誘導装置z2はスキップして避難ルート生成する。
【0061】
避難誘導装置z2に不具合が生じてスキップされた後のルートは、避難誘導装置C→避難誘導装置c1→避難誘導装置c2→避難誘導装置z3→避難誘導装置z1→避難誘導装置f2→避難誘導装置f1→避難誘導装置Fとなり、次に避難誘導音が流される場合には、避難誘導装置F→避難誘導装置f1→避難誘導装f2→避難誘導装置z1→避難誘導装置z3→避難誘導装置c2→避難誘導装置c1→避難誘導装置Cの順番になる。
【0062】
上記において、各避難誘導装置にはバックプレッシャ輻輳制御機能が備えられ、複数の避難誘導装置が送信ルートにおいて、ある避難誘導装置が次の避難誘導装置に電波を発信した時に、既に他のルートにある避難誘導装置と通信中であった場合には、通信の衝突を避け、接続中の通信が終了するまで待ち、該接続中の通信が終わってから新たに通信を確立して送信ルートの通信を続ける。通常において、電波による通信において接続待ち時間は数十ミリ秒ほどであり、中断によってハース効果或いは音源移動効果に大きな影響がでることは無い。
【0063】
避難誘導装置Cと避難誘導装置B、D、E、Fとの間でデータが相互通信されて相互認証を使ったデータのキャッチボールが行われるが、もしキャッチボールの途中で避難誘導装置Cが火災で破壊された場合には、避難誘導装置c1と避難誘導装置Cとの間の相互認証が取れなくなるので、避難誘導装置c1から避難誘導装置Cとの通信が出来なくなった内容の情報と探索信号音を避難誘導装置B、D、E、Fに向かって送信し、避難誘導装置Cに代わって避難誘導装置c1が避難誘導装置B、D、E、Fとの通信相手となり、前記バックプレッシャ輻輳制御機能を使った電波通信及びハース効果を使った避難誘導音声案内を実行する。
【0064】
上記の仕組みによって、避難誘導装置Cが被災して通信機能が使えなくなっても、安全な出口に近い避難誘導装置Fから火災が発生して危険な場所に近い避難誘導装置c1までの避難ルートを音源移動効果によって案内し続けることが可能となる。また更に火災が広まり、様々な危険地帯が発生したとしても、安全な避難口に近い避難誘導装置が機能する限りは、避難口に向かって音源移動効果で避難誘導が出来ることになる。
【0065】
図4は、本発明の避難誘導システムで用いられる避難誘導装置の機能ブロック図を示している。CPU8はシステムROM13に組み込まれたプログラムにより動作し、必要に応じてIDデータを保存するメモリー9から避難誘導装置7のIDデータを読み出して送出することにより周囲の避難誘導装置に対して相互認証を可能とする。
【0066】
火災が発生すると建物に設置された火災センサーが動作して、防災センターに通報され、該防災センターのオペレーターが火災通報を出すことにより、室内に設けられた不図示の火災通報アンテナから通報電波が出力され、該通報電波は受信アンテナ10によって前記火災通報を受信し、受信RF回路11によって選択された周波数で受信データが復調回路12を経てCPU8によって火災発生が認識される。
【0067】
上記においては火災センサーから防災センターに火災発生情報が通達されたが、CPU8にセンサーSを取り付けてCPU8が直接火災や煙を検知することも考えられる。
【0068】
CPU8がセンサーSからの検出信号で火災を検知すると、CPU8は火災警報信号を生成し、前記防災センターからの受信電波とは異なる周波数で、前記防災センターからの電波とは異なる電波周波数を使う第1変調回路14又は第2変調回路17にデータを送出する。
【0069】
探索信号音や避難誘導案内音声はCPUの制御で音響アンプAMPに接続されたスピーカーSPから出力され、隣接する避難誘導装置からの音声はマイクロホンMによって受信されてCPUの制御で前記アンテナからの電波受信タイミングと前記音声受信タイミングの差を規定又は室温を使って計算した音波速度で除算することにより前記隣接する避難誘導装置との距離を計算する。
【0070】
CPU8から第1変調回路14に前記火災警報信号が送出された場合は、第1RF出力回路15を経てアンテナ16から電波が出力される。
【0071】
CPU8から第2変調回路17に探索信号音やコールバック信号が送出された場合は、第2RF出力回路18を経てアンテナ19から電波が出力される。
【0072】
避難誘導装置7が前記図1(a)における避難誘導装置A〜Fの場合は、上記のように前記不図示の火災通報アンテナからの電波を受信すると共に隣接する避難誘導装置a1、b1、c1、d1、e1、f1と前記火災通報アンテナから受信した周波数とは異なる周波数で通信するが、避難誘導装置A〜F以外の避難誘導装置においても2つの周波数で送受信可能とされていて、また更に周波数ホッピングをすれば様々な障害が発生する火災現場においても安定した電波通信が可能となるので確実にデータをバケツリレーすることが可能となる。
【0073】
また、避難路にコーナー部がある場合には、スピーカーSP−R、SP−Lを追加して音響アンプAMPに接続し、前記避難路のコーナー部の正面から見て右側にスピーカーSP−Rを、コーナー部にスピーカーSPを、左側にスピーカーSP−Lを配置する。
【0074】
ここで、(スピーカーSP−R)→(スピーカーSP)→(スピーカーSP−L)という順番で、それぞれに例えば10msの遅延をかけて避難誘導音を発生させることにより、コーナー部においても確実に避難方向を知らせることができるようになる。避難方向を認知させる手段としては、他にも例えばLEDなどを使って点滅を利用して方向を指示する方法もあるが、火災で煙が発生した場合においては煙で視界が悪化する可能性もあり、この場合においては光よりも音による方向指示が有効となる。
【0075】
図5は、本発明の避難誘導システムで用いられる充電機能を持つ避難誘導装置のブロック図を示している。避難誘導装置7aには、前記の避難誘導装置7の機能以外に充電用の搬送波を受信する第2受信アンテナ20、第2受信RF回路21、搬送波を直流に変換する整流回路22、充電バッテリー23が備えられている。
【0076】
避難誘導装置7aが図1における避難誘導装置A〜Fの場合には、前記防災センターからの電波に含まれる搬送波を第2受信アンテナ20で受信する。前記防災センターからの電波は、使用する周波数にも依存するが、電波法を遵守する必要性からあまり大きな出力は出せない場合は、隣接する避難誘導装置間の距離は使用する電波が届く範囲に設置しなくてはならない。
【0077】
前記整流回路によって充電された充電バッテリー23の電圧レベルがCPU8によって検出され、第1既定値以上になってから既定時間以上経過すると、CPU8の指令によりスイッチ24が閉じられ、充電バッテリー23から第2変調回路17に直流が供給されて無変調の第2搬送波が生成され、第2RF出力回路18を介して第2出力アンテナ19から搬送波のみの無変調電波が出力される。
【0078】
上記の搬送波のみの無変調電波は隣接する避難誘導装置7aの第2受信アンテナ20によって受信され、充電バッテリー23を充電する。
【0079】
前記充電バッテリー23の放電は、電圧値が第2既定値に達したことをCPU8が検出するまで継続され、CPU8が充電バッテリー23の電圧値が前記第2既定値に達したことを確認するとCPU8の指令によりスイッチ24が閉じられ、第2受信アンテナ20で受信した電波によって充電バッテリー23の充電が再開される。
【0080】
各避難誘導装置が上記の如く充電バッテリー23の充放電を繰り返すことにより隣接する避難誘導装置の充電バッテリー23は少なくとも第2既定値の電圧を維持出来るので、火災発生時において電源電圧が低くなって避難誘導装置が動作しないという不具合は防げる。
【0081】
また、充電バッテリー23の電圧値を監視するバッテリーチェッカ機能を持たせ、例えば充電バッテリー23の電圧が設定値よりも低くなった場合にはLEDが点滅する、あるいはCPU8から警告信号を送出し、前記警告信号をバケツリレーにより防災センターに通じるアンテナに送出することにより防災センターで集中管理することもできる。
【0082】
上記実施例においては受信アンテナと送信アンテナを別体としたが、時分割によりアンテナを共有化することも考えられる。また、センサーSからの電波をトリガとするプロセスは前記図4と同様なので説明を省略する。
【0083】
図6は、本発明の避難誘導システムにおける避難誘導装置Aと避難誘導装置E間の通信例を示している。横軸には避難誘導装置A、a1、a2、z1、z2、z3、e2、e1、Eの順番に並んでいる。縦軸は上から下に向かって情報伝達ルートを時系列的に矢印で示している。
【0084】
第1往路に沿って、最初に避難誘導装置Aによって出火が検知されると、出火通報データが、避難誘導装置A→a1→a2→z1→z2→z3→e2→e1→Eの順でバケツリレーされる。各避難誘導装置は相互認証を行いながら受信と送信により前記出火通報データが伝達されると共に距離測定用の探索信号音が発射される。例えば、避難誘導装置z1から送出されるデータにおけるルートデータは、A・a1・a2となり、避難誘導装置e1からリレーされるルートデータはA・a1・a2・z1・z2・z3・e2となる。避難誘導装置Eが第1の避難ルートデータA・a1・a2・z1・z2・z3・e2・e1を受信すると、火元が避難誘導装置A付近で、避難ルートで避難誘導装置Eに最も近い避難誘導装置が避難誘導装置e1であるとCPU8によって認識される。
【0085】
次に第1復路に沿って、避難誘導装置Eは避難ルートと逆方向に、避難誘導装置Aに向かって電波を使ってコールバック信号を送出する。
【0086】
前記コールバック信号の電波には、第1の避難ルートデータA・a1・a2・z1・z2・z3・e2・e1が含まれるので、該避難ルート上の各避難誘導装置は、電波がどの避難誘導装置から発信され、どの避難誘導装置にリレーすれば良いのかが確認出来る。
【0087】
前記電波が前記避難ルートデータの終端となる非難誘導装置Aによって受信されると、第2往路に沿って避難誘導装置Aから避難誘導装置Eに向かって避難誘導音と制御電波を発信し、前記避難ルートに沿って各避難誘導装置が所定時間差を置いて次々と探索信号音を発信する。避難誘導装置A付近で出火した場合には、前記避難ルートデータに基づき、出火元に一番近い避難誘導装置Aから避難誘導装置B〜Fに向かってバックプレッシャ輻輳制御機能を使いながら電波と音で避難誘導案内が実行される。
【0088】
前記避難誘導案内が終わると、避難誘導装置Eからは再びコールバック信号が電波と音で発信され、第3復路に沿ってE→e1→e2→z3→z2→z1→a2→a1→Aの順番で電波を使って避難ルートデータがリレーされる。
【0089】
ここで例えば、2回目のコールバック信号を送った時に、避難誘導装置Aが被災して不具合が発生したとすると、前記探索信号音は避難誘導装置a1までしか到達しない。ここで規定の時間、例えば0.5秒待っても避難誘導装置Aからコールバック信号が受信できない場合には、避難誘導装置a1は、避難誘導装置Aに不具合が発生したものとみなす。そこで避難誘導装置a1は自らのIDを火元情報として、探索信号音を前記第1の避難ルートデータA・a1・a2・z1・z2・z3・e2・e1・Eの逆ルートで送信することにより、避難誘導装置Eにおいて避難誘導装置Aを除去した第2の避難ルートデータa2・z1・z2・z3・e2・e1・Eが生成される。
【0090】
次に第3復路によって避難誘導装置Eからの探索信号音が出火元に最も近い避難誘導装置a1に到達すると、避難誘導装置a1は、第4往路に沿って避難誘導装置a1→a2→z1→z2→z3→e2→e1→Eの順に相互認証しながら出火元情報(この場合は避難誘導装置a1)と送信元IDデータを電波で返信すると共に探索信号音を発信し、避難誘導装置間の相互認証および前記装置間の距離測定を行いながら避難誘導装置Eまで繰り返す。
【0091】
上記のように、出火場所に最も近い非難誘導装置からの出火通報データと探索信号音の送出の後は、安全な位置にある避難誘導装置から避難ルートの方向にコールバック信号を送り、前記避難ルートで出火場所に最も近くて被災していない避難誘導装置までコールバック信号がたどり着くと、該出火場所に最も近くて被災していない避難誘導装置から避難誘導音と電波が避難ルートに沿って順番にバケツリレーされ、前記誘導音はハース効果或いは音源移動効果を持って避難方向の案内を実行する。
【0092】
また、火災以外の原因で避難ルート途中にある避難誘導装置に不具合が発生した場合においても不具合を発生した避難誘導装置の次の避難誘導装置からの電波をキャッチ出来れば該不具合装置をスキップするようにCPU8のプログラムを設定しておけば、前記スキップ動作により前記コールバック信号を確実にバケツリレー方式で中継できるので安全に非難誘導をすることができる。
【0093】
更に火災場所付近で火災を検知した避難誘導装置からは、案内音だけではなく、サイレンなどの警報音を併用すれば、ハース効果によって避難口へ誘導すると共に、火災場所を危険な場所として通知することも出来る。
【0094】
上記の実施例において、本発明の避難誘導システムは、監視室のシステムと複数の避難誘導装置とを無線LAN接続することにより、例えば無線を使った入退管理システムなどと連携利用すれば火災などの非常時でなくとも稼働するシステムと併用運用することが出来る。この場合、平常時は入退管理システムなどを稼働させ、非常時にのみ当該避難誘導システムを動作させることができるので設備の有効活用が出来る。更に、避難誘導装置に内蔵/外付けするセンサーとして前記の火災や煙を検知するセンサー以外に、焦電型赤外線センサーなどの人体温度を検知するセンサーを付ければ、避難誘導システムを夜間の不審者侵入検知システムとしても兼用することも考えられる。
【0095】
図7(a)は、ホワイトノイズの周波数特性を示している。本発明においては、前記ホワイトノイズ全体の中から、図7(b)に示す部分ノイズを抽出して避難誘導音として使っている。
【0096】
図8は、ホワイトノイズ発生回路の例を示している。ホワイトノイズの発生源にはツェナーダイオードHZ5を使い、アノード側にはマイナス電源が接続され、抵抗R1にはプラス電源が接続されている。
【0097】
初段のオペアンプOP1は微分回路であり、抵抗R2とコンデンサーC1で構成される抵抗−コンデンサー直列回路のインピーダンスをZcとすると、(1+R3/Zc)の電圧増幅率を持つ。ここで、Zcは、印加交流電圧をe(t)とし、最大電圧振幅をEとすると、
e(t)=Esin(2πft)
となり、Ec=ZcE/(R+Zc1/2 とすると、Zcは下記のようになる。
Zc=R0(Ec/E0)/{1−(Ec/E0)1/2
【0098】
前記において、高い周波数成分は、コンデンサーに電荷が充填される前に次のサイクルで電圧の極性が逆転するので、コンデンサーには常に電流が流れることになり、回路的にはコンデンサーが無い場合と同じなので、電圧増幅率Gは、G=1+R3/R2になる。
【0099】
また周波数が低い場合には、コンデンサーに電荷が溜まると出力電圧が下がるので、電圧増幅率は周波数が高い場合よりも低くなり、カットオフ周波数fは下記のようになる。
=1/2πC1・R2
【0100】
次段のオペアンプOP2も非反転増幅回路であり、電圧増幅率は(1+R6/R5)となる。この出力は抵抗R7を通過して、帯域通過フィルター25によって所定の帯域周波数のみの信号が通過する。
【0101】
ホワイトノイズに−3dB/オクターブの低域通過フィルターをかけるとピンクノイズが生成されるので、ホワイトノイズの替わりにピンクノイズを使うのであれば、帯域通過フィルター25の前段にて−3dB/オクターブの低域通過フィルターを入れれば良い。
【0102】
図9は、帯域通過フィルターの回路例が示されている。入力は図8の帯域通過フィルター25の入力信号26のホワイトノイズであり、出力は該帯域通過フィルター25の出力信号となる帯域制限されたホワイトノイズの一部である。
【0103】
コンデンサーC10と抵抗R10で構成されたハイパスフィルターによるカットオフ周波数は、fL=1/2π*C10*R10なので、例えば抵抗R10を33kΩ、コンデンサーC10を5pFとすれば、fLは965Hzとなる。
【0104】
また、コンデンサーC11と抵抗R11で構成されたローパスフィルターによるカットオフ周波数は、fH=1/2π*C11*R11なので、例えば抵抗R11を33kΩ、コンデンサーC11を2pFとすれば、fHは2413Hzとなる。
【0105】
上記の時定数設定により、オペアンプOP3を使って1kHz付近から2.5kHz付近までの帯域を通過させる帯域通過フィルターが形成される。
【0106】
図10(a)〜(c)には、探索信号音によるデータ通信のフォーマット例が図示されている。該フォーマットは、例えばNEC(商標登録)様式の赤外線フォーマットなどが使える。図10(a)に図示されるフォーマットにおいては、リーダコード28、カスタムコード30、データコード31、該データコードの反転コード32、ストップビット33で構成され、前記5kHzから10kHzの間の周波数を持つ搬送波を変調することにより音を使って通信できる。
【0107】
リーダコード28には、9msの時間幅を持つIDパルス29が出力された後、4.5msのブランクが続き、後続のパルス群とは全く異なる構成で、区別を明確にしている。
【0108】
カスタムコード30は、例えば高層ビルで複数階に設置する場合などに近隣のシステムと区別する目的で設定する。前記NEC(商標登録)様式の赤外線フォーマットでは16ビットを使っているので準用しても良い。
【0109】
データコード31、およびその反転コード32は、所属するシステムグループ内で区別するための番号で、例えば高層ビルで複数階に設置する場合などでは同一フロアでの番号を割り振ることになる。
【0110】
カスタムコード30とデータコード31、反転コード32においては、データが1の場合は図10(b)、データが0の場合は図10(c)の波形とすることで1と0の区別を付けている。
【0111】
データが1の場合は、図10(b)に示す様に、パルス幅t1を持つ基準パルス34の後にオフ状態が期間t2続いた後にパルス35が立ち上がって来る。ここで、例えばパルス幅t1は0.56ms、オフ期間t2は2.25msとすることが考えられる。
【0112】
データが0の場合は、図10(c)に示す様に、パルス幅t1を持つ基準パルス34の後にオフ状態が期間t3続いた後にパルス36が立ち上がって来る。ここで、パルス幅t1は前記と同様に0.56msとし、オフ期間t3を1.125msとすることでデータが0の場合のオフ期間t2の2.25の倍の長さとして1と0の区別を容易とする。
【産業上の利用可能性】
【0113】
集中管理の避難誘導システムを設置していないビルなどにおいても、本発明の避難誘導システムを後付けで設置することにより、火災が発生して避難誘導する際に、避難路が隘路であって反射音が定在する環境下においても、十分なハース効果を持った避難誘導音で実効的に避難誘導ができるようになり、しかも点呼方式で適宜に自動ルートを生成するので信頼性の高い避難誘導システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】(a)第1避難口付近のみから出火した場合の出火通報データ通報ルート(b)避難誘導装置Eから避難誘導装置Aへのコールバック信号通報ルート(c)避難誘導装置Eからの避難誘導音声ルート
【図2】(a)避難誘導装置の正面図(b)避難誘導装置の裏面構成図
【図3】(a)2箇所目のビル火災が発生した場合の避難ルート生成例(b)第6避難口から2番目の出火地点へのコールバックルート(c)第6避難口から2番目の出火地点への避難誘導ルート案内
【図4】避難誘導システムの機能ブロック図
【図5】充電機能を持つ避難誘導システムのブロック図
【図6】避難誘導装置Aと避難誘導装置E間の通信例
【図7】(a)ホワイトノイズの周波数分布図(b)ホワイトノイズから抽出した部分ノイズの周波数分布図
【図8】ホワイトノイズ発生回路の例
【図9】帯域通過フィルターの回路例
【図10】(a)探索信号音のフォーマット(b)データが1の場合の信号フォーマット(c)データが0の場合の信号フォーマット
【符号の説明】
【0115】
1…第1避難口、 2…第2避難口、 3…第3避難口、 4…第4避難口、 5…第5避難口、 6…第6避難口、 7…避難誘導装置、 7a…充電機能を備えた避難誘導装置、 8…CPU、 9…IDデータを保存するメモリー、 10…第1受信アンテナ、 11…受信RF回路、 12…復調回路、 13…システムROM、 14…第1変調回路、 15…第1RF出力回路、 16…第1出力アンテナ、 17…第2変調回路、 18…第2RF出力回路、 19…第2出力アンテナ、 20…第2受信アンテナ、 21…第2受信RF回路、 22…整流回路、 23…充電バッテリー、24…スイッチ、 25…帯域通過フィルター、 26…入力信号、 27…出力信号、 28…リーダコード、 29…IDパルス、 30…カスタムコード、 31…データーコード、 32…反転データーコード、 33…ストップパルス、 34…基準パルス、 35…出力信号、 36…出力信号、AMP…音響アンプ、 B…電池、 M…マイクロホン、 S…センサー、 SP、SP−R、SP−L…スピーカー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔離間して設置された複数のスピーカーから避難経路に添って時間差をつけて音声を発することで音源が移動する錯覚を利用した避難誘導システムにおいて、前記スピーカーから発せられる音声は、指向性の低い狭帯域ノイズとすることを特徴とする避難誘導システム。
【請求項2】
請求項1に記載の避難誘導システムにおいて、前記狭帯域ノイズはホワイトノイズ、ピンクノイズ、ウォーブルトーン又はマルチサイン音から1000〜2500Hzの周波数帯域を切り取ったものであることを特徴とする避難誘導システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の避難誘導システムにおいて、前記スピーカーはそれぞれの避難誘導装置内に組み込まれ、各避難誘導装置は自己を他の避難誘導装置から区別するIDデータと、時計機能を持つCPUとを備え、火災が発生した際に、出火付近の避難誘導装置から連鎖的に点呼を取ることにより安全な避難口付近の避難誘導装置までの案内ルートを前記IDデータとCPUによって自動生成し、前記案内ルートの逆のルートで前記出火付近から安全な避難口に向かって、前記個々の避難誘導装置に設けたスピーカーが避難ルート案内することを特徴とする避難誘導システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−134660(P2009−134660A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311883(P2007−311883)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(502340734)
【出願人】(506164361)
【出願人】(398061359)
【出願人】(504362857)
【出願人】(507011286)
【出願人】(507396817)
【Fターム(参考)】